2022年10月14日(金)午後5時30分から、東京・千代田区は原告弁護団・法律事務所において、「311子ども甲状腺がん裁判 個別の因果関係立証に関する勉強会」が行われた。
福島原発事故当時に、6歳から16歳だった福島県内の男女7人が、東京電力に損害賠償を求めている裁判が、「311子ども甲状腺がん裁判」である。
被告側の東京電力は、原告らは小児甲状腺がんを発症するような被曝はしていない、福島県民健康調査で発見された小児甲状腺がんは、被曝を原因とするものではない、などと主張している。
これに対して、原告弁護団は、こう反論している。
「11月9日の第3回口頭弁論において、原告らが、放射線被曝に起因して甲状腺がんに罹患したということを、『原因確率』という定量的な数値で主張していくことになります。この『原因確率』というのは、多くの公害裁判で因果関係の判断基準になる数値があるんですけれども、それと比べてはるかに高い確率で(甲状腺がんが発症していると)主張することを予定しています」。
因果関係の立証には、疫学的手法が用いられる。観察対象を「個人」に絞り、小児甲状腺がん患者のがん細胞をとり出して、その細胞を詳細に分析したとしても、それが福島原発事故で放出された放射性物質によって小児甲状腺がんになったものか、または他の原因によって小児甲状腺がんになったものなのか、判断はつかない。
しかし、「個人」ではなく、観察対象を広げて「グループ」で見た場合、福島県内で被曝したグループ(暴露群)と、そうではない人たちのグループ(非暴露群)において、両グループの疾病の頻度を比較することができる。
暴露群には、事故で放出された放射性物質に起因するがん患者と、放射性物質に起因しないがん患者が混在している。一方、非暴露群のグループには、事故で放出された放射性物質に起因するがん患者は存在せず、放射性物質に起因しないがん患者のみが存在している。暴露群から、非暴露群における放射性物質に起因しないがん患者を差し引くことによって、放射性物質によって暴露した増加分を把握することができるようになる。
この増加分が、どれくらいの割合を占めているかを示す指標が、「原因確率(暴露群寄与危険度割合)である。多くの公害事件では、この「原因確率」によって、因果関係が争われてきた。
イタイイタイ病訴訟において名古屋高等裁判所金沢支部は、「臨床医学や病理学の側面からの検討のみによっては因果関係の解明が十分達せられない場合においても、疫学を活用していわゆる疫学的因果関係が証明された場合には原因物質が証明されたものとして、法的因果関係も存在するものと解するのが相当である(名古屋高金沢支判昭和47年8月9日判時674号25頁)」と、疫学について、公害の集団的被害にかかわる個別的な因果関係の、科学的に証明する手段であることを、明確にしている。
過去の事例では、喘息などの大気汚染公害で50~67%以上の原因確率、ヒ素中毒では原因確率50%以上、原爆症認定では10%以上の原因確率が認められれば、政府は因果関係を認めてきた。
通常では稀な「(年間)100万人に1人か2人」という小児甲状腺がんが数十倍の規模で多発しているため、これら過去の事例よりも、はるかに高い原因確率を提出できるだろうと、原告側弁護団は述べた。
次回の第三回口頭弁論は、11月9日(水)午前11時から、東京地裁で予定されている。