2021年10月31日の衆院選では、たとえ与党の自公で過半数どまりになろうとも、日本維新の会の勢力拡大等により、改憲勢力が3分の2議席を確保する可能性がある。もしそうなれば、改憲の発議と、改憲案の是非を問う国民投票が実施される危険性は非常に高い。
衆院選の約4か月前、6月11日の参議院本会議で、すでに国民投票法改正(改悪)案が、賛成多数により可決、成立している。国民投票が行われる場合、この改悪案に従って行われることになる。
同法には、強力な改憲プロパガンダとなるCMに対する規制がない。しかも、膨大な広告費の投入は、CMそのものの影響力だけでなく、大新聞・テレビ等の記事・番組の論調を改憲寄りに傾かせ、全メディアを「改憲広告メディア」に「堕落」させる危険性がある。大新聞とテレビのキー局は必ずコングロマリットとなっておりテレビが「買収」されて、大新聞が反対のことを書くわけがない。マスコミがまるまる「改憲広告費」に公然と「買収」されうるのである。
立憲民主党は、今後3年間にCM規制の議論を進めるとの附則をつけて法案に賛成した。しかし与党は附則が「改憲発議を妨げるものではない」と、開き直るように断言。法案成立によって、いつでもCM規制なしの改憲発議が可能となったことは明白だ。
なぜこうした事態に陥ったのか? 4月15日の第204回国会初の衆議院憲法審査会での、各党議員の発言に注目したい。
その中で、国民民主党の山尾志桜里議員(当時)は、一般の選挙と、「国の最高法規」憲法の改悪につながる国民投票を並列化し、国民投票法の採決を促した。
さらに山尾議員は「緊急事態条項が危険なのではない」とまで発言。許しがたいデタラメ発言である。自民党案の緊急事態条項には、何の規制も、解除の規定もない。無制約の国家緊急権は、民主主義を殺す。ナチスの前例を見れば明らかな過ちである。危険でない緊急事態条項などあるはずはない。法律家である山尾氏が国家緊急権の恐ろしさを知らないはずがない。
強引に改憲に導こうとする山尾議員の「正体」が、むき出しになった瞬間であった。
山尾氏は6月17日に次期衆院選立候補を見送る意向を示し、10月23日の衆議院解散で政界を去った。しかし、国民投票法成立過程での山尾氏の発言は、成立を強引に推し進める力の一端を担い、衆院選後の改憲論議でも、決して無視できない意味を持っている。
2020年3月13日に岩上安身がインタビューした時点では、山尾議員は「憲法に緊急事態条項は不要」と主張していた。それが1年後には180度転換したのである。岩上がインタビューした立憲民主党の小西洋之議員からは「国民民主党は、憲法調査会長が山尾志桜里さんになってからメチャクチャ」と強い批判が聞かれた。
さらにその後、山尾議員は、櫻井よしこ氏の改憲集会で登壇し、「緊急事態条項の必要性」を訴えていたのである!
元検事で、政治家以前に法律家である巧みな弁舌により、国民投票法採決と改憲を促す山尾議員は、「変節」したのか!? それとも、隠していた緊急事態条項導入派の「正体」を露わにしたのか!?
しかし今、喫緊の問題は、山尾氏個人の思想的な変節の理由を知ることではない。衆院選で改憲勢力が3分の2議席以上を取った場合に、山尾氏が言い放った、「緊急事態条項は危険ではない」といった驚くべき主張が、改憲発議の理屈とされる危険性も十分ある点こそ問題なのである。
また、維新は明らかに改憲派の「ゆ」党であることは間違いないとしても、国民民主党も、全員が改憲派に宗旨変えしたのか、その点がはっきりしない点である。同等のHPを見ても今回の総選挙に際して、自民の改憲4項目に賛成なのか、反対なのかまったくあきらかでない。
有権者の中で国民民主の候補や、政党名を書こうとしている人は、国民民主の候補者に緊急事態条項に賛成なのか、改憲発議に賛成なのか、問いただしてみる必要がある。護憲政党の候補者に投票しているつもりで、改憲派の候補者や政党に投票したら目もあてられない。我々も確認する。有権者の皆様もぜひ、確認の上、回答や情報が得られたらおしらせいただきたい。