収束を見ないシリア内戦によって急増し続ける難民を受け入れ続けてきたドイツで、難民問題をめぐり国が二分している。難民問題は、ドイツ国内の排外主義にまで結びつき始めている。メルケル首相の難民受け入れ政策は、間違っていたのだろうか?
ドイツ・ベルリン在住のフリージャーナリスト・梶村太一郎氏は2016年10月26日、岩上安身のインタビューにこたえ、ドイツが難民を受け入れる理由を、次のように述べた。
「『政治的被迫害者は庇護権を享受する』――。亡命権が憲法に記載されている国はドイツ以外にありません」
ナチスが台頭してきたとき、ナチスに反対する人々は弾圧から逃げるために他の国々へ亡命した。戦後、首相として西ドイツを率いたウィリー・ブラント
もそうした亡命者の一人。
亡命した人々がいて、そうした人々が戦後、ドイツに戻り、尽力したからこそ、ナチスが荒廃させてしまった国を復興させる事ができた。ドイツが亡命権を憲法に刻んでいるのには、そういう深い背景があるのだ。
すごいですねドイツ、と他人事のように感心しているだけでは済まされない。梶村氏はインタビューで、次のように述べた。
「日本にもいるでしょ、国内難民。福島の避難者ですよ。難民問題は、日本の社会が戦後自覚していない問題です」
- インタビュイー 梶村太一郎氏(フリージャーナリスト、ベルリン在住)
- タイトル 岩上安身による梶村太一郎氏(ドイツ・ベルリン在住フリージャーナリスト)インタビュー ―ドイツを中心とする欧州情勢と難民問題について
- 日時 2016年10月29日(土)15:30〜
- 場所 IWJ事務所(東京都港区)
岩上が梶村氏に前回インタビューを行なったのは、2014年9月14日だった。そのときは、ベルリンで直接、お話をうかがった。
来日中だった梶村氏は今回のインタビューの中で、ドイツで間近に目にしている欧州の難民問題の経緯と背景を解説。さらに、日本国内ではあまり注目されていない排外主義台頭の要因となった難民による襲撃事件やドイツ国内の実情についても、その背景を含めて詳細に解説した。
▲梶村太一郎氏
シリアからヨーロッパへ逃れる際に命を落とし、海岸に打ち上げられた3歳の少年アイランちゃんの遺体の写真が、世界中に衝撃を与え、多くの人の人道的・道徳的感情を呼び起こした。
▲水死したシリア難民のアイラン・クルディちゃん(写真:Nilufer Demir)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、シリアにおいて人道的援助を必要としている人々は1200万人以上とされ、およそ760万人がシリア国内にとどまり難民生活をしており、およそ410万人がトルコ、レバノンなどの隣接した国々に、およそ100万人がヨーロッパへの亡命を希望しているという。
シリアは、ここ25年間にUNHCRが支援してきた中で「最大の難民発生国」とされている。
ドイツのメルケル首相は2015年9月4日、ハンガリーで足止めされていたシリアやアフガニスタンなどからの難民を入国させる方針を発表、直後の週末に約2万2000人の難民がドイツに入国した。
その後、2015年11月13日にフランスで同時多発テロが発生、さらにドイツ国内では難民の関係する襲撃事件が相次ぎ、「反難民」を掲げる右派(排外主義)政党・ドイツのための選択肢(AfD)が台頭してきた。
今年9月に行われたメクレンブルク・フォアポンメルン州の州議会選挙では、AfDがメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)の得票を上回り、第2党に躍進した。なお、州議会の第1党は国政においてCDUと連立を組む中道左派政党・社会民主党(SDP)である。
ドイツの現状、そして日本のこれから、を、梶村氏が語った。