勃興する中国経済のインパクト AIIB不参加で日本は世界で孤立する!? ――現代の「シルクロード」に日本はどう対応すべきか?~岩上安身によるインタビュー 第524回 ゲスト 横浜市立大学名誉教授・矢吹晋氏 2015.4.10

記事公開日:2015.4.11取材地: テキスト動画独自
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(IWJ・佐々木隼也、平山茂樹)

 「まさに、日本の没落のはじまりです」――。横浜市立大学名誉教授で、中国の内部事情に詳しい矢吹晋氏は、2015年4月10日(金)に岩上安身のインタビューに応じ、このように語った。

 日本が「世界第2位の経済大国」と言われたのは、もはや昔のこと。バブル崩壊以降、長引く不況で日本経済は縮小し続け、GDP(国内総生産)は2013年の時点で、米国、中国、インドに次ぐ世界第4位へと後退した。

 日本経済がかつての活力を取り戻すためには、経済成長の著しい中国の成長力を取り込む他に方法はない。しかし日本政府は、中国が主導し、全世界53カ国が参加を表明しているAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加見送りを決めた。矢吹氏は今回の日本政府の決定に、「没落のはじまり」を見て取るのである。

 日米同盟を最重視するという安倍政権は、中国の成長力を取り込むどころか、日本、米国ハワイ、オーストラリア、インドを結ぶ「セキュリティ・ダイヤモンド」構想を発表するなどして、中国包囲網の形成を図ろうと躍起である。しかし、今回のAIIBを巡る一連の動きにより露呈したのは、包囲されていたのは中国ではなく、日本だったという歴然とした事実なのである。

 中国が描く構想は、AIIBだけにとどまらない。中国から東南アジア、中央アジア、中東、ロシア、EU、さらにはアフリカまでを包括する「シルクロード経済圏」を構築しようというのである。それはかつて、商人がユーラシア大陸を横断して交易を行った「シルクロード」を再現しようというものだ。鉄道やパイプラインなどのインフラを整備し、44億人もの人口を結びつけようという、広大な構想である。

 奈良時代の日本は、「シルクロード」の終点に位置していた。その証拠に、奈良の正倉院には、中国製やペルシア製の宝物が、数多く眠っている。では、現在の日本は、再び立ち現れようとしている新たな「シルクロード」に対し、どのような姿勢で臨めばよいだろうか。

 AIIBと「シルクロード経済圏」の話題を中心に、勃興する中国経済のインパクトと、世界経済の大転換について、矢吹氏に岩上安身が聞いた。

■イントロ

  • 矢吹晋氏(横浜市立大学名誉教授)
  • 日時 2015年4月10日(金)18:00〜
  • 場所 IWJ事務所(東京・六本木)

勃興する中国経済 「世界経済は、中国を中心に回っている」

岩上安身(以下、岩上)「日本ではAIIB(アジアインフラ投資銀行)の衝撃についてはやり過ごそうとしていますね。AIIBとは、日米が主導してきたADB(アジア開発銀行)では賄いきれないアジアのインフラ整備のための資金ニーズに、代替・補完的に応えることを目的として、中国が設立を主導しているものです。

 AIIBの参加国を見ると、EUやアジアなど多くの国の名前があります。日米の同盟国である、イギリスや韓国の名前もありますね。さらにインド、オーストラリアも。参加国・参加予定国は、現在のところ、53カ国以上になりました。そして、イスラエルまでも参加の意向を表明しています。G7で参加しないのは、日米のみという状況になってしまいました」

矢吹晋氏(以下、矢吹・敬称略)「ADBが出来た時は、高度経済成長期という背景がありました。その後、日本はバブルが弾けて、20年間にわたる不況で、経済規模は縮小していきました。その中で、中国が勃興してきたのです。90年代以降、中国・ロシアは、グローバリズムに組み込まれ、そこから安い原材料・労働力が供給され始めました。

 そういう日本の経済縮小の状況下で、ADBが途上国のニーズに応えられなくなってきたというのが、一番のポイントです。途上国は以前から、ADBに対して融資条件を緩和してくれと言っていました。そういう時に、中国のAIIBの動きが出てきたので、各国がワッと飛びついたのです。

 世界経済は、すでに中国を中心に回っています。その中で、このAIIBに乗らないと、世界経済の発展から取り残される、と世界中が判断したというわけです。特に、雪崩を打って参加国が増えたきっかけは、イギリスの参加表明です。イギリスは、非常に老獪(ろうかい)だと言えるでしょう」

岩上「リーマン・ショックを境に、沈みゆく日本を含む西欧と、上昇する中国との交錯が始まったのではないでしょうか。今、日中は、歴史認識の問題で関係が悪化しています。軍事でも経済でも歴史問題でも、中国に負けるかもという不安感が、根拠のない議論を呼んでいるように見えます。そこで、今回は、具体的なデータに基いて、お話をうかがいたいと思います」

矢吹「最も正確で確実な数字として、外貨準備高があります。債務国か債権国かは、これで決まります。昨年末の数字ですと、日本は1兆2600億ドルです。しかし、中国の外貨準備高は、今や3兆9000億ドルにものぼります。台湾・香港を合わせると、4兆4664億ドルもの額になります。

 政治的には、台湾のひまわり革命や、香港の雨傘革命などといったトラブルはありますが、経済的には、中国・香港・台湾は完全に一体化しています。これが、中国と日本の影響力の差だと言えるでしょう。ちなみに米国の外貨準備高は、4300億ドルです。まあ、米国はもともと借金国ですし、ドルを刷れば良いのですが」

岩上「対外純資産をみると、日本は325兆円の蓄えがあり、中国、ドイツと続きます。米国はぶっちぎりで、452兆円のマイナスですね」

矢吹「この米国の借金を支えているのが、日本と中国です。特に日本は、1兆2000億ドルもの米国債を買っています。しかし、中国も、1兆2000億ドルの米国債を買っています。昔は日本が米国を買い支えていましたが、今は日中です。中国の貯蓄率は、この間ぐんぐん上がり、金持ち国になりました。中国は働きアリですが、米国はキリギリスです。借金ばかりして、浪費するだけ。米国の純貯蓄率は、0%に近くなりました」

岩上「中国は米国にどんどん投資し、中国製品を買わせています」

矢吹「日中、中韓貿易では、中国は赤字です。なぜなら、部品を買っているからです。中国は日韓ASEANを部品工場にして、米国に製品を売っています。貿易額は、日米を1とすると、中米は2。このことからも、米国にとって、日本と中国のどちらが大事か、ということが分かります」

世界経済のリーダーは、米国から中国へ

岩上「ローレンス・サマーズ元米財務長官は、『AIIBで米国は世界経済のリーダーとしての地位を失った』と述べるなど、衝撃的な警告をしました」

矢吹「私もその通りだと思います。ADBとは、IMFが処理しきれないものを、アジアで代わりに処理する、というものでした。日本人は、今のところ、『AIIB対ADB』という構図でしか語っていませんが、ADBが駄目ということは、IMFも世銀も駄目だということなんです。

 これは、量の多寡の問題ではなく、これまでの米国、世銀やADBのシステムが通用しなくなったということを意味します。米国は、ニクソン・ショックでドルと金の兌換を停止したことで、影響力が弱まり、借金国へと転落していきました。そもそも破産は見えていたのですが、今回、AIIBの衝撃により、それが全面的に表に出た格好です。

 AIIBは、まだ、制度を作ったという段階です。世界の人口の7割、GNPは世界の3割を占めますが、これは、途上国が多いということを意味します。それはつまり、これから伸びる、ということです。今のベースマネーでADBとAIIBを比較しても意味がないのです」

岩上「2013年の日本のGDPは、米国、中国、インドに次いで、4位に転落しました。これは、安倍政権の円安のせいですね」

矢吹「2014年は、中国が米国を購買力平価で抜きました。中国の成長率は、低くなったといっても7%です」

岩上「エコノミストの資料では、2018年に中国が世界一の経済大国になると予測しています」

矢吹「この予測は、中国の成長率が10%の時のものですね。今は7%なので、成長は緩やかなものになると思いますが、中国が米国を抜くことは間違いありません。

 まだ為替レートでは米国に及びませんが、世界は、この購買力平価で中国が抜いた、という点を見ています。米国は頼りない、逆に中国に近づかないとまずい、という流れになっているのです。各国から見たら、ヘゲモニーは関係なく、誰が金を貸してくれるか、ということが重要でしょう。

 この世界中が選択を迫られている重要な時に、日本は、尖閣諸島の領有権問題という一銭の金にもならないことで、中国と喧嘩して駄目にしました。米国はもちろん大事にしなければなりませんが、中国との関係も大事にしなければなりません。それが、日本の生きる道です。イギリスもイスラエルもそうしたのですから」

AIIB不参加は、日本の没落のはじまり

岩上「中国が日本を排除した、と思われがちですが、中国は日本に、AIIB副総裁のポストも用意して、破格の待遇で迎えようとしました。しかし、それを日本が断ったのです。中国にしてみれば、面子を潰されたということになります。これは、後々禍根を残すのではないでしょうか」

矢吹「まさに、日本の没落のはじまりです。例えば、米国でドクター(博士号)の資格を取った数は、中国人が4217人で断トツです。次いで、インド人が2247人、韓国人が717人、台湾人、タイ人と続き、日本人はなんと237人で6位なのです。

 輸出で見ると、日本はずっと米国がお得意様でした。しかし、2008年あたりで中国が抜きました。輸入は、2001年にはもう抜いていました。実は、日本は米国依存から中国頼みに転換していたのです。こういう時に、『中国封じ込め』などと言う安倍総理は、現実を全然分かっていないと言えるでしょう。

 2014年の日米首脳会談で、オバマ大統領は尖閣諸島の領有権について、『私が生まれる前から決まっていた日米安保を繰り返し言っただけ』と言いました。しかし日本のマスコミは、『オバマが尖閣を守ると踏み込んだ発言をした』などと煽ったのです。これは、官邸が邦訳を捏造し、それに誘導されたものです」

岩上「イギリスが(2015年)3月にAIIBへの参加を表明した際、オズボーン英財務相は、『世界で最も急速な成長を遂げているアジア・太平洋地域との連携強化は、英国企業にとって事業や投資の絶好の機会となる』と強調しました」

矢吹「日本は、『独裁政権や環境に悪影響を与える事業への貸し付けに加担する恐れがある』などとして、AIIBへの参加を見送りました。しかし、これにはカラクリがあって、独裁政権だ、環境アセスが、というのは、ADBが融資を渋る理由にしていることです。これに対するアジア中の不満があったのです」

岩上「ADBは、現在の第9代・中尾武彦総裁まで、9人すべてが財務省(旧大蔵省)出身です。まさに、財務省の既得権益だったと言えるのではないでしょうか」

矢吹「自分たちがADBの執行部だったから、アジアの不満を無視してきたのです。その横暴が、アジアの不満を鬱積させました。本当は、それを反省しなければなりません。

 しかし、そういう反省がないから、『中国がADBに挑戦してきた』という見方しかできないのです。その意味で、財務省の責任は大きい、と言えます。各国の大使館は、50カ国以上が参加することを分かっていました。しかし、官邸の官僚が、それを握りつぶしたとしか考えられません。

 中央の財務省、外務省、経産省の責任が大きいと言えます。彼らは、米国の顔色ばかり見ているのです。そして、マスコミもそれに迎合しています。その一方、中国外交学院の江瑞平副院長は、『日本がAIIBを放棄したのは、米国と歩調を合わせることが一つ、自国の利益が一つだ』と報告しました。

 AIIBについて、世銀のキム総裁は、『貧しい国々の経済発展のための新しい力となりえる』と歓迎しました。これは、『できた以上は対立しても意味がない』という判断です。今、世銀も国連も韓国人がトップです。これは、一応米国がアジアを重視し、声を聞こうとしているというアピールです」

安倍総理の荒唐無稽な中国包囲論、「セキュリティ・ダイヤモンド構想」

岩上「安倍総理は2012年12月27日に、『セキュリティ・ダイヤモンド』構想という論文を、英文のみで発表しました。南シナ海が『北京の湖』になろうとしている』と中国の脅威を煽り、日本、米国ハワイ、オーストラリア、インドを結んで、中国を南シナ海から排除すべきだ、と世界に主張しています。しかし、日本国内では邦訳もさせず、絶対に読ませようとしませんでした(※)。

 一方で中国は、中国を起点に中央アジアからヨーロッパに至る陸路の『シルクロード経済圏(ベルト)』と、中国沿岸部からアラビア半島までを結ぶ海上交通路『21世紀の海のシルクロード』、両者をまとめて『一帯一路』を掲げました。

 習近平国家主席は、APEC閣僚会議が開かれた2014年11月8日、中国が400億ドルの『シルクロード基金』を創設すると表明。同基金により、周辺地域の鉄道やパイプライン、通信網などのインフラ整備を援助すると呼びかけました」

(※)IWJでは、この「セキュリティ・ダイヤモンド構想」論文を独自に翻訳。詳細な解説を加えて、メルマガ「岩上安身のIWJ特報!」でお伝えしました。

ぜひご一読ください。

矢吹「経済圏としての『一帯一路』は、人口44億円、GNP21兆ドル、国家地域26に及びます」

岩上「かつて明の時代、鄭和の艦隊がアフリカに到達しましたね」

矢吹「鄭和はイスラム教徒だったんです。当時の世界は、イスラム教が席巻していました。

 中国の外交の凄いところは、アラブ諸国に対しては、必ず自国内のイスラム教徒を派遣する、ということです。それだけで、コミュニケーションが円滑になります。非常にしたたかですね。共通の宗教があるということは、非常に重要なのです。習近平が『海のシルクロード』構想をどこでぶち上げたか。それは、構想の中核になるであろう、インドネシアです。これも鄭和と重なりますね」

「シルクロード経済圏」構想をぶち上げた習近平国家主席の世界戦略

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  1. 清沢満之 より:

    2015/08/19 【全編字幕付き!】「積極的平和」の生みの親・ガルトゥング博士に岩上安身が単独インタビュー!「安倍総理は言葉を乱用している」 〜博士の提言する日本の平和的安保政策とは(動画)
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/258667

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