【福島県知事選】「故郷の福島のために」――命をかけて福島県政に取り組む決意を明かす~ 岩上安身によるインタビュー 第461回 ゲスト 元岩手県・宮古市長 熊坂義裕氏 2014.10.4

記事公開日:2014.10.5取材地: テキスト動画独自
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(IWJ・高橋香菜子、安斎さや香)

 福島原発事故から3年半が経過した今、国に、東京電力に、行政にも翻弄され続けてきた福島の人々は、誰を県のトップとするのか――。

 10月9日に告示、26日に投開票を迎える福島県知事選で立候補を表明している、福島市出身、元岩手県・宮古市長を務めた熊坂義裕氏に10月4日、岩上安身がインタビューを行った。医師として、宮古市長としてのこれまでの経験や政策、また、これからの福島県政を担う覚悟を聞いた。

 震災後、被災者への支援活動に従事してきた熊坂氏は、今回、福島県知事選への立候補を決めた理由について「県人として我慢できなかった」と明かし、現在もなお続いている福島の被災者、避難者の厳しい状況に、「一人ひとりの判断に県が寄り添って尊重する必要がある」と訴える。

 原発に依存しない経済社会を目指し、再生可能エネルギーで新しい産業を振興する「卒原発圏」をつくりたいと話す熊坂氏は、子どもたちが誇りに思える未来につなげていく、と自身の考えを述べた。

 「言うべきことは言っていく」という熊坂氏に、「国の圧力が怖いということはないか」と岩上安身が問うと、次のような決意を語った。

 「津波で九死に一生を得て、正しいことをして審判を得たいということで立候補を決意した。故郷の福島のために。命をかけないとできません」

■ハイライト



  • 熊坂義裕氏(元岩手県宮古市長、福島県知事選立候補予定者)
  • 日時 2014年10月4日(土)
  • 場所 福島県会津若松市

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※以下、@IWJ_ch1での実況ツイートをリライトして再掲します

自らの意志で立候補を決意、医師であり市長の経験を持つ福島市出身の熊坂氏

岩上安身(以下、岩上)「IWJは熊坂さんの立候補について、記者会見などを中継させていただいています。インタビューは初めてですので、今日はよろしくお願いします。ネット選挙が解禁するということで、これまで候補者へのインタビューなどを行ってきました。

 告示後もネット上でかなり話をうかがうことが可能と、手探りでわかってきました。今日は告示前なのでかなり思い切ったことを言っていただき、私も言っていただけるように質問させていただきます。

 熊坂さんは岩手県の宮古市長を3期勤め、市政を専門とし、しかも『岩手県の人じゃないか』と思っている方が多いと思うんですが、実際にはお医者さんで、大学の教員をされ、何よりも実は福島の人である」

熊坂義裕氏「はい、そうです」

岩上「『勝手連』的な人たちが、宮古市長で優秀な方を引っ張ってきての出馬、とは違うんですね」

熊坂氏「まったく違い、自分の意思で今回の福島選に立候補しています。福島市で生まれ、福島県立福島高校卒業し、仙台・東北大学工学部に行きました」

岩上「先生は何年生まれですか?」

熊坂氏「昭和27年1月です。学生運動が非常に盛んなときで、試験が受けられず、悩んで医学部を再受験しました。妻の故郷が宮古市だった関係で、宮古病院で勤務した後に開業し、45歳で市長となりました。

 市長を辞めた後、各大学で講師を務めていたときに、東日本大震災が発生。宮古も大変で、診療中でものすごい揺れた。震災後は医療を中心に、1~2ヶ月寝ないで(支援を)やった。避難所では薬がないのが課題で、たとえばインスリンがないと命の危険にも」

一日約4万件にものぼる被災者からの電話

岩上「(名刺を見ながら)臨床医で、アカデミシャンで、行政の長としての経験があり、ボランティアとして『よりそいホットライン』までされている」

熊坂氏「『よりそいホットライン』は23年10月から始めました」

岩上「震災が機なんですね」

熊坂氏「行政は縦割りですから、一つの電話で匿名で24時間受けようと。24年3月から国の補助金を得て全国展開。一日だいたい4万件の電話があり、去年は約1400万件。自殺者数が年間3万人だったのが、電話を始めた24年から約3000人減っている。

 その下へ、DV、セクシャルマイノリティ、自殺防止、母子家庭問題などで活躍されてきた方が運営委員で入り、大きな組織です」

岩上「財源は?」

熊坂氏「国です。市長と、社会保障国民会議などの国の審議会の委員を経験し、今の霞ヶ関の動きや安倍総理もよく存じ上げています」

岩上「安倍総理のお友達ということですか」

熊坂氏「そうではなく、話をしたことがあり、石破さん、麻生さん、菅さんなどの国の中枢の方も私をよく知っていると思います」

岩上「タカ派の大臣や政治家など、意外なお名前が」

「ならぬものはならぬもの」の精神で国と対峙

熊坂氏「宮古市長時代の政権は自民党で、政権と喧嘩しては物事は進まない。

 もちろん言うべきことは言う。今回の知事選立候補にあたって、国、東電とかには『ならぬものはならぬもの』という精神で堂々と対峙して言います。国と県と市町村が対等と言いながらも、補助金や地方交付税があり、税金の6割は国で、地方は4割。

 一方で仕事の6割は地方、国は4割。そういうシステムの中、進めていく。首長は決断が大事で、最大の使命。一方でバランス感覚をもって調整する。

 宮古市長時代に、有権者の1/5が連署すれば、議会の同意なしに住民投票ができるという自治基本条例をつくり、平成14年には人口10万人以下の429市中、行政改革で1位でした」

福島県知事選に立候補した経緯と福島の現実

岩上「地方政治という住民に近いところでの政治を志され、住民参加の高い、つまり草の根民主主義を実現する改革を行ってますが、その志はいつ胚胎したんでしょう?」

熊坂氏「宮古で、『この町を何とかしたい』といういろんな人に押される形で、決断しました」

岩上「現実の中で考えるようになったということ?」

熊坂氏「はい。やるために(政治家に)なるわけですから。今回の知事選も、今の福島の状況に県人として我慢できなかった」

岩上「震災以前は、福島で打って出ることは考えていなかったんですか」

熊坂氏「まったく」 岩上「被災三県の中で、目が福島に向いていったのはなぜですか」

熊坂氏「『よりそいホットライン』でも被災三県中、福島が一番厳しい。原発事故から逃げてきただけでなく、未来展望がまったく開けない。

 戻れるのか、放射線の健康被害も不明で、家族の分離もある。直接死は1607人ですが、何よりも、宮城、岩手で今はほとんどない震災関連死が、福島だけはどんどん増え、1750人を突破。

 震災関連自殺も、福島だけがずば抜けて多く、震災の年10人、翌年13人、2013年24人、今年は8月までで10人で50人を突破」

岩上「原発の有無と放射性物質の飛散が、福島と他の二県を隔てる」

なぜ、福島が厳しい状況に追い込まれたのか

熊坂氏「周囲と、なんで福島はこんな厳しい状況に追い込まれたという話をすると、決断していない県政に大いに問題がある。たとえば中間貯蔵施設。もっと早くに地権者や住人と膝詰め談判して、トップが頭を下げてお願いすれば、協力してくださったと思う。

 また、市町村に任せ、町ごとにバラバラになると、国と東電はコントロールしやすい。被害者が補償を求める際なども、やってない町があると、統一がとれず、分断されたようになって、いろんな問題が起きてくる。

 ここに県が入り、市町村と被害者と一体で国や東電と対峙すれば、全然違う。それと情報。13日に県に来たSPEEDIのデータが出ていないため、浪江町の町人は、(線量の)高い津島へ行って被曝している。なぜ公開されなかったのか。

 もし部長のレベルで止まったのだとしたら、私が市長なら、『市民の健康に害を及ぼした』となるし、上にあがっていて出さなかったのなら、トップの責任。情報公開について非常に不信感がある。

 甲状腺ガンが出た時も、事前に秘密会がもたれて『違うことにしよう』と、口裏を合わせたという事実が。また、今の復興は機械一辺倒。線量が下がったら戻る。すでに6~7割の方が『戻らない』と言う中、『戻れ』と言っても生活はどうするのか。

 (線量が)下がったことで、東電などの補償金は出さないとなれば、どうしたらよいか。戻らない1番の理由は、もう一度爆発する可能性、2番目は放射能に対する不安」

岩上「戻らないんではなくて、『戻れない』んですよね」

「一人ひとりの判断に県が寄り添って尊重する」

熊坂氏「不安がある中、まったく国、東電の方針が示されていないので、一人ひとりの判断に県が寄り添って尊重する。線量が高くても戻りたいと言う場合には、健康診断などで心配面を言っていく必要がある」

岩上「健康上のリスクがあると」

熊坂氏「そうです。一方、自主的な避難者には、それを県が尊重する。今、母親と子どもが山形などに避難して、肩身が狭いということがある」

岩上「私も大熊町の仮設住宅に、ライフストーリーを聴くという『百人百話』の取材で行った際に、本当につらそうで。

 雪かきの経験がない中、慣れないことをして。故郷を出る人、残る人、それぞれ認めないと成りたたない」

熊坂氏「よい番組だと思います。県が寄り添った上で、望みを訊いていくということを言わなければならない」

岩上「今、県から出て行くのを冷遇し、嫌なら戻ってこいと、県に閉じ込めるというか、それをやんわりとした手段で住民に強いている」

熊坂氏「強いています。だから分断につながり、未来に展望がないということにも。

 風評被害も、根も葉もないところへ起きているのではなく、実際は放射線量が高いとか一定の根拠がある。医学的問題もあるので、震災前と後の値を情報公開して、その上で判断してもらう。子どもの甲状腺ガンと疑いが、8月の段階で103人判明。

 大学病院で甲状腺外来も担当した経験から言えるが、非常に多い。ただ、疫学的に多いかは、比較するデータがないのでわからない」

岩上「双葉町長だった井戸川さんが現役時代に依頼した、熊本の共同での疫学調査で、有意な差が出たと発表された」

熊坂氏「もっと大規模でやることが必要。まだ出ていない情報もあるかもしれないから、原発事故対策を総見直しして、情報公開もやる。信頼を勝ち得ないとダメですから」 岩上「基本政策が大事になってきます」

福島県知事選は「全世界が注目する選挙」

熊坂氏「8月29日に政策発表会で、今回の知事選は全世界が注目する選挙だと思い、英語通訳付きの生中継を行いました」

岩上「立候補している内堀現副知事が引き継ぐ佐藤県政とは、さきほど言われた、国や東電の都合のいいように分断されている中、リーダーシップを発揮せず、情報公開もせず、国と東電へ寄り添って、バラバラの県民に対峙してきたと、まとめられるのでは?」

熊坂氏「立候補して以来、県内くまなく歩く中、今の復興のあり方でよいという人に会ったことは一度もない。県民の腹の中にはマグマがたまっている」

岩上「環境回復の強化とは何ですか」 熊坂氏「除染を徹底してやる」

岩上「問題は除染後の土ですね」

熊坂氏「除染しても仮置き場がないのでできないと。仮にみんなの合意があればできる。フレコンパックもあるが、劣化する。環境省が言っているように7万ヶ所を2000台のトラックで、3年でやるなんてあり得ない。3年後釣り上げたら、全部こぼれてやり直し。

 今の数倍のコスト、年限がかかる。全部が遅れている。中間貯蔵施設ができていれば、そこに持っていけばよかった」

岩上「中間貯蔵施設が一つのキーになるが、『とても飲み込めない』と言っている人たちの説得には、どういうことが可能か」

熊坂氏「根気よくお願いをして、膝詰め談判を。実際は、もっと線量が高かった早い段階ならご理解をいただけたと思う。3年間放っておかれたという感情的なものも。改めて県が全面的に中に入り、市町村と足並みを揃えて、県は、常に市町村の味方でなければ」

岩上「ポジション・サイドをチェンジするということですね。そこで財源の問題が出てきますが、それを国や東電に求めることができるかが現実的な課題ですが」

原発事故の原因がわからないままの再稼働は「ありえない」

熊坂氏「今の福島の現実を正しく認識している国民の方は少ないと思うんです。

 『福島の復興なしに日本の復興はない』という中、もう一度福島に目を向けていただく。ここに予算を使わなくてはいけないという、ご理解を得る努力をしなければいけない」

岩上「国と対峙して」

熊坂氏「対峙して。再稼働は絶対にNO。原発事故の原因はわかっていないのに、再稼働はありえない」

岩上「他県でも許してはならないと」

熊坂「はい。東海原発、柏崎刈羽原発、女川原発も福島の問題となる。事故が起きないという保障は誰もできない。

 何よりも経済産業省が、廃炉も含めたら原発コストが一番高いと認めた。推進する論理がまったくなく、核のゴミという負の財産を子どもたちに残す」

岩上「国策としてやろうとしているのが、原発の再稼働と輸出」

熊坂氏「輸出もダメです。京都府、函館市など反対している自治体がいっぱいあるので、全国知事会なりで決議して国へあげていく。自治体は住民の命の責任を担っている」

岩上「輸出は他国にもっていくんだから、いいんじゃないかという声もありますが」

熊坂氏「ダメです。そこで事故が起きたら、日本の倫理観が問われる」

岩上「原子力技術が錆びつかないよう、国内で続けて輸出産業としてやるという流れが。国内で原発に反対する人は輸出も反対でイコールになる」 熊坂氏「そうです」

「常に命という観点から考える。だから原発にはNO」

岩上「さきほど、お名前が出たタカ派の方々は、原発維持は核兵器保有のポテンシャルであると。日本は今、集団的自衛権行使、国防費の拡大など、軍事国家化の道を進むなかの話です」

熊坂氏「被爆国である日本が、そういう話をすること自体が倫理的に許せない」

岩上「福島出身の田母神さんはそういうことを堂々と言い、県知事選出馬も取り沙汰されていた」

熊坂氏「私は医師なので、常に命という観点から考える。だから原発にはNO」

避難者、帰還者の多様な生活再建のありかた

岩上「避難者および帰還者の生活再建の支援について、今の県政と違うポイントは」

熊坂氏「一人ひとりに寄り添うこと。たとえば、会津だと風評被害というように全部の自治体の問題が違う」

岩上「県外に出て、住民票を移したくない場合は」

熊坂氏「二重の住民登録を特例で認めるべき。非常事態ですから」

岩上「その人には何の瑕疵もない」

熊坂氏「何の罪もない」

岩上「支援打ち切りや帰還を強いていく方向性を、県も国も進めている」

熊坂氏「ストップをかけないと。震災関連死のほか、うつ病、離婚も増えている」

岩上「国も、子ども被災者支援法で、自主避難を認めるという画期的な法律を全会一致で決めたが、官僚が一年間サボタージュして骨抜きに」

熊坂氏「許しがたい。また、私は再生可能エネルギーでやっていきたいという考えが」

岩上「雇用推進のためにも」 熊坂氏「そうです。これをやり、原発災害対策を見直さないと、夢を描けない」

岩上「被災者の賠償訴訟について、これまで県は市町村側か、国・事業者側か、側面支援だけで介入しなかった。これを変えると」

熊坂氏「県が積極的に入って、住人のみなさんや市町村と話し合って、ADRの……」

岩上「浪江町がやったそうですが、『ADR』とは」

熊坂氏「住民へ補償をしていく」

岩上「集団的に申し立てると」

熊坂氏「浪江町がやったことは正しいと思う。それを支援していく。飯舘村もかなりの数の人が同じように起こしている」

命をかけて立候補を決意、「故郷の福島のために」

岩上「国にとっては手強い県知事が誕生するかもしれないですね」

熊坂氏「そうしないと未来はない。この状況が悔しいんです」

岩上「佐藤雄平知事の前の佐藤(栄佐久)知事、何度もインタビューさせていただいて、とても真面目な方。プルサーマルに反対した後に、買収金額がゼロなのに贈収賄だという信じられない判決が。ご本人は冤罪だと。国の圧力が怖いということはないんですか」

熊坂氏「津波で九死に一生を得て、正しいことをして審判を得たいということで立候補を決意した。故郷の福島のために」

岩上「命をかけるということですか」

熊坂氏「命をかけないとできません」

未来につながる、子どもたちが誇りに思う「卒原発圏を」

岩上「『卒原発』という言葉を使っている理由がおありだと」

熊坂氏「卒業だと未来につながる。原発に依存しない『経済社会』を目指す。再生可能エネルギーでやっていくとなると、だいたい四半世紀。福島にその技術などが集まってくることで、新しい産業振興ができ、それを子どもたちが誇りに思う。卒原発圏をつくりたい」

岩上「内堀候補に大政党の支援が入って、圧倒的に有利と言われている。その政策などにご批判は」

熊坂氏「政策が非常に抽象的。原発の再稼働への言及がなく、今の復興のあり方はよいのかという、争点はこの2点。県民不在で、自らの意思が感じられない」

岩上「卒原発への思いを語っていただきました。また機会があれば話をうかがわせていただければと思います。今日はお忙しいところ、ありがとうございました」

熊坂氏「ありがとうございました」

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  1. 高津 公男 より:

    素晴らしい市長がいるもんですね。ここ、愛媛、今治市には、しまなみ大橋がある。ライフラインとも呼ばれている。島民の方々で糖尿病の方もいると聞く。橋の通行料がバカ高いにもかかわらず、三日に一度通院するらしい。これは糖尿病患者さんにとって、大変な出費でもあり、労力と思っています。テレビでは、サイクリングをしている方々がよく映る。が、この様な深刻な問題は一切放映されない。この光と影をオープンにするべきですね。より開かれた市になって貰いたいものです。人権途上国なんですから。この国ぐるみ・・・!

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