イラク北部では6月に入り、ISIS(イラク・シリア・イスラム国)と呼ばれるスンニ派の武装組織が急速に台頭し、北部の都市を支配下に置いた後、南部の首都バグダットに迫っていると伝えられている。またISISの動きを受け、これまで敵対関係にあった米国とイランとが、イラク情勢に関して協議を行うという異例の事態も起こっている。
6月18日、中東の国際関係を専門とする内藤正典・同志社大学大学院教授に岩上安身がインタビュー。内藤教授は、ISISの起源と実態、錯綜する中東情勢をさらに複雑化させる米国とロシアの存在について語った。また、集団的自衛権を行使し、日本が中東に自衛隊を派遣した場合、現地からはどういう反応が予想されるのについても言及し、行使容認派による中東での機雷除去活動という想定が、現実性の乏しいものであることを指摘した。
ISISのイラク北部「制圧」
ISISがメディアの注目を急速に集めたのは、この6月のこと。この間、モスルおよびティクリートを陥落させ、イラク北部一帯を制圧したISISが、首都バグダッドを目指し侵攻中であるというイメージが作り上げられた。
内藤教授によれば、「制圧した」という表現は、実態としては「イラク国軍が武器を捨てて逃げてしまった」結果に過ぎないという。また、イラク北部にはクルド人自治区があり、「ペシュメルガ」と呼ばれる独自の軍事組織を保有しているが、ISISはこのペシュメルガと武力衝突したわけでもない。つまり、ISISの南下は「現地の住民と死闘を繰り広げて勝ってきたという形ではまったくない」のだという。
ISISと同じスンニ派の人々が、ISISの動きをどのよう見ているのか、という岩上安身の質問に対し内藤教授は、「ISISに支配されたいとは考えていない」一方で、ISISが現在のシーア派政権に対抗するならば、それを静観する心づもりなのではないかと推測した。
ISISの行動の背景には、イラク戦争後に勢力を強めたシーア派が、フセイン時代に力を握っていたスンニ派を権益から排除してきた経緯がある。
だからといって、ISISがシーア派やクルド人たちを徹底的に武力で潰そうとしているかというと、それは疑問だと内藤教授は語る。
「スンニ派の間で不満が高まっているという事を分からせるまでが、ISISの目的ではないでしょうか。全面的にシーア派勢力やクルド人と戦うということは考えられません、数が違いますから」。
中東情勢、米国、ロシア
報道やインターネットを通じISISの残虐性が盛んに伝えられるが、実態はどうなのか。内藤教授は「ある組織がイスラム過激派だと言われる時には、慎重に裏をとらなければならない」と話す。
「かつて、タリバンもテロ組織とされましたが、実際はタリバン以前が非常に強権的であり、アフガニスタンの現地住民に統治を認められたのがタリバンでした。その判断自体は一定の合理性があったのです。
しかしアルカイダをかくまったとされ、タリバンはテロリストのレッテルを貼られた。米国側の反イスラム的な前提の立て方に、我々は踊らされてしまっているのです」。
その米国と、これまで敵対関係にあったイランとの接近が、イランの核開発をも巡り注目されている。内藤教授によれば、米国にとっては、イランの核開発をコントロールする機会が増すならば、イランとの接近は問題のないものだという。
一方、イランにとっても「米国に一目置かれる」という願望と、「誇り高いイラン人」としてのプライドが満たされれば、こちらも米国との歩み寄りは歓迎されるべきものだという。
さらにイラクの西、シリアには、化学兵器の使用を巡り西側からの非難が浴びせられるが、この地域を地政学的に重要視するロシアとイランとの協力関係もあり、アサド政権はいまだ延命を続けている。
そんな中、シリア国民にとっての最大の恐怖は、アサド政権が空軍を使い、釘やコンクリートなどをドラム缶に詰め込んで大量の火薬で爆発させる、「樽爆弾」の投下だという。
「空軍力を持っている限り、アサド政権はいつでも住民を殺害できます。ヘリを撃ち落とすための戦力が、反政府側にはないためです。加えて、ロシアやイランは空軍で協力をしている。このアンバランスが続く限り、市民の犠牲がなくなることがない。私は米国の介入には全く賛成できないが、あの時、空軍力だけでも押さえておくべきだったと思っています」。
日本が集団的自衛権で中東へ自衛隊を派遣したら
安倍政権は集団的自衛権が行使される事例の一つとして、ペルシャ湾での「機雷除去」を挙げている。内藤教授は、この想定は現実的なものではないと指摘する。
「イランが機雷を撒いてホルムズ海峡を封鎖することはありえません。そんなことをすれば、ペルシャ湾からの石油が全面的に止まることになり、そうすれば世界から総攻撃され、イランは国が持ちません」。
内藤教授は、日本が「ウェポンフリー」であることが、中東地域において高く評価されていると指摘。資源の確保を目的とする場合でも、平和維持活動に参加する場合でも、武力を背景としない方法で行うのが最善であると述べた。
「中東地域では日本が『ウェポンフリー』というのは広く知られています。この地域での資源開発をするなら、この『ウェポンフリーの日本』を売り込むべきです。今さら再武装のようなことして出て行っても、この地域では日本の貢献などというものをまったく評価しないでしょう」
また、米国の同盟国であり、NATO加盟国でもあるトルコが、米国の軍事作戦に参加しない事例を引き、たとえ同盟国が戦争を行う場合でも、国境の外への軍隊派遣には、抑制の態度を保つことも可能であると述べた。
「トルコは、湾岸戦争、アフガン侵攻、イラク戦争、いずれも参加を拒否している。同盟国だからといって米国の命令に付き従わないといけない、ということではありません」。
目から鱗の中東解説。日々流れるニュースを立ち止まって考えさせてくれるIWJに感謝。
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自衛隊がノコノコ出て行く道理は無い 日本の進むべき道を示す
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【中東情勢、少しずつでも考えませんか】同志社大学教授、内藤先生のお話はいつも明確でわかりやすい。岩上さんとのやりとりの中から色んなことが見えてきます。