【IWJブログ】検証 クリミア独立・ロシア編入住民投票~選挙結果は「捏造」だったのか?ウクライナ憲法違反か? 2014.3.28

記事公開日:2014.3.28 テキスト
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(文:ゆさこうこ、文責:岩上安身)

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 3月16日、クリミア自治共和国およびセヴァストーポリ特別市で、ロシアへの編入を問う住民投票が行われ、96.77%がロシアへの編入への賛成を示した。投票率は80%を超えた。

 投票で問われたのは、ロシアに編入されるか、あるいは自治権を定めた1992年のクリミア独自の憲法に戻るかという二択だった。

 クリミア自治共和国の人口構成は、2001年のウクライナ国勢調査データでは、ロシア系住民は58%、ウクライナ人は24%、クリミア・タタール人は12%である。住民投票前は、ロシア系住民以外がロシア編入に賛成するかは不明であるとされており、クリミア・タタール人は投票をボイコットするのではないかとも報じられていた。しかし、結果としては、ロシア系住民に限らず、大半の住民がロシアへの編入に同意を示したことになる。

住民投票の結果は正当か?

 開票が行われるなか、クリミアの首都シンフェロポリの中心では、喜ぶ人々がレーニン像のまわりに集まって、歌や踊りで祝ったという。花火が打ち上げられ、「我々はロシア人であり、そのことを誇りに思う」と書いた横断幕が掲げられた。

  • 2014年3月16日付 NPR記事「クリミア人たちはウクライナを離脱しロシアに編入する投票をした」(現在、当該ページ削除)

 昨年12月のキエフのデモでは、レーニン像が引き倒され、その台座にウクライナの旗やEUの旗が掲げられた。レーニンはソ連共産党の象徴、つまりロシア支配を表していたものだった。今回シンフェロポリでは、レーニン像を囲んで人々は喜びを表したとすれば、これを、ウクライナの中心部とクリミアの人々の抱いていた感情の違いを明らかに示した象徴的な出来事と考えることができるだろう。

 ウクライナ政府は、この住民投票を憲法違反であるとして、認めていない。アレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行は、住民投票に先だって、あらかじめ、住民投票の結果は「ロシアの捏造だ」とさえ述べている。

 住民投票の結果が「捏造」だったのかどうかは、監視機関が機能していたかどうかが鍵となるだろう。クリミア議会は10日に全欧安保協力機構(OSCE)に監視団の派遣を要請したが、OSCE側がクリミア自治共和国が国家ではないという理由から監視団派遣を拒否した。

  • 2014年3月11日付 読売新聞記事「クリミア議会、OSCEに住民投票の監視団要請」(現在、当該ページ削除)
  • 2014年3月12日付 読売新聞記事「OSCE、選挙監視団送らず…クリミア住民投票」(現在、当該ページ削除)

 だが、フランス、ドイツ、イタリアなど23ヶ国から135人の国際監視団が入ったほか、1240人のクリミア国内の監視人とともにEUメンバー、国際法専門家、人権活動家などが監視を行った。かれらの監視のもとで、住民投票は非常に透明性の高い状況で行われたという。ロシア・トゥデイ紙などに投票所の写真が載せられているが、投票は穏やかに行われているように見える。

 住民投票の結果が「捏造」だったとは必ずしも言い切ることのできない状況で、投開票は行われたと考えられる。そうなると、問われるのは、住民投票そのものが、ウクライナ政府の主張するように「憲法違反」なのかどうかということになるだろう。

クリミア・セヴァストーポリ独立宣言の意味

<ここから特別公開中>

 住民投票に先立つ3月11日、クリミア自治共和国の最高議会とセヴァストーポリ特別市は、「クリミア・セヴァストーポリ独立宣言」を採択している。この独立宣言は、2010年7月に国際司法裁判所が、コソボの独立について、国家の一部地域の独立が国際規範に違反していないと判定したことに触れながら、次のように書かれている。

「1.2014年3月16日に行われる住民投票でロシアの一部になるという決定がなされたならば、クリミア自治共和国とセヴァストーポリ市は独立を宣言し、共和制の主権国家となる。
2.クリミア共和国は、民主主義的で非宗教的で他民族の国家となり、その領土内で、平和を維持し、国家間・党派間の同意を得る義務を持つ。
3.住民投票の結果によって、クリミア共和国は、独立主権国家として、ロシア連邦に対して、国家間条約にもとづいてクリミア共和国をロシア連邦の新しい一部として受け入れるよう提案を行う」

※ 独立宣言の原文はクリミア最高議会サイトに掲載(http://bit.ly/1kJ9WKn)。本稿ではWikipediaに掲載されている英語版から翻訳を行った(http://bit.ly/1p4grqC

 3月16日の住民投票によってロシア編入に対する住民の同意がとられたので、クリミアはこの独立宣言に従って、ロシア編入への道を進めることになったのである。独立宣言は、ロシア編入のための周到な準備だった。

 この独立宣言にはロシアも同意しており、ロシア外務省は、独立宣言は「手続き上、国連憲章や他の国際的文書にかんがみて、国際的で合法的な正当性を持っている」と声明で述べている。

※ ロシア外務省のサイトより 2014年3月11日付
「『クリミア自治共和国とセヴァストーポリ市の独立宣言』採択についてのロシア外務省の声明」

アメリカとロシアの対立

 クリミアで住民投票が行われた16日午後、アメリカのオバマ大統領とロシアのプーチン大統領は電話会談を行った。オバマ大統領は「ウクライナ憲法に違反している『住民投票』は、ロシアの軍事介入の脅威のもとで行われたものであり、アメリカや国際社会は決してそれを認めない」と強調した。

※ ホワイトハウスのサイトより 2014年3月16日付
「プーチン大統領との大統領の電話」

 さらに翌17日月曜日、オバマ大統領は声明を出し、「クリミアの住民投票は明らかにウクライナ憲法と国際法に違反しており、国際社会によって認められることはない」と述べた。さらに、ロシアに対して制裁を課すことを強調しながら、「これ以上挑発すると、ロシアは孤立し世界から存在感を失うことになるということを、ロシアに明言し続けていく」と釘を刺した。

 「国際社会はともに、ウクライナの主権と領土保全に対する侵害に立ち向かうために立ち上がる。ロシアのウクライナへの軍事介入の継続は、ロシアの外交的孤立を深め、まさにロシア経済にとってより大きな損失を生み出すだけだろう」。

※ ホワイトハウスのサイトより 2014年3月17日付
「ウクライナにかんする大統領声明」

 一方、ロシアのプーチン大統領は、17日に「クリミア共和国を承認する大統領令」に署名した。「2014年3月16日に行われた国民全体の住民投票においてクリミアの人々の意志が宣言された。これによって、ロシア連邦は、クリミア共和国を主権国家および独立国家として認める。その都市セヴァストーポリは、特別な地位を持つ」。

※ ロシア大統領のサイトより 2014年3月17日付
「クリミア共和国を承認する大統領令」

着々と進められるクリミア編入

 ロシアでは、クリミア編入を承認する手続きが着々と進められていった。18日火曜日には、ロシアのプーチン大統領は、クリミアのアショノフ首相、クリミア議会のコンスタンチノフ議長、セヴァストーポリ市のチャーリー市長とともに、編入条約に署名した。この条約は、ロシア議会に提出され、20日に下院、21日に上院の承認を得て、ロシア国内におけるクリミア編入手続きは完了した。

 18日、プーチン大統領は上下両院の議員に向けて演説を行った。

 プーチン大統領は、「クリミアは、人々の心のなかで、ロシアにとってつねに不可欠な一部だった。この強い確信は、真実と正義にもとづいており、20世紀にあいだ私たちの国に起こった劇的な変化にもかかわらず、あらゆる状況下において、世代から世代へと長い歳月に渡って受け継がれてきたものである」と述べ、ロシア革命からソ連崩壊に至るまでの状況を織り交ぜながら、クリミア編入の正当性を強調した。また、少数民族であるクリミア・タタール人についても触れ、「クリミアに住む全ての少数民族を尊重する」と配慮を示した。

 さらに、「ウクライナの人々がなぜ変化を求めたのか理解する」とし、長年の政治腐敗や経済的困難に対して人々が立ち上がったことを認めながらも、今回のクーデターを引き起こしたのは「国粋主義者、ネオ・ナチ、ロシア嫌い、反ユダヤ主義者」だったと非難した。

 プーチン大統領は、クリミア編入を次のように正当化した。「クリミアの住民が、歴史上はじめて、自らの将来にかんする自由な意志を平和的に表現できるための状況を作り出さなければならない」。そして、「ロシアの軍隊はクリミアには入っていない」と言い、「私たちが何を侵害しているのだろうか?」ととぼける余裕すらみせて、アメリカやヨーロッパ諸国からの非難を退けた。

※ ロシア大統領のサイトより
2014年3月18日「ロシア大統領による演説」

 ロシアは、クリミアのロシア編入に際して、理論的な正当化を行い、少なくとも形式的には法に則った編入手続きを行った。それに対して、アメリカやヨーロッパ諸国は理論的な反論を十分に示すことはなく、6月にソチで行われる予定だったG8サミットのボイコットや経済的制裁などの外交カードで対応しようとしているようにみえる。欧米、とりわけ米国は、コソボの独立を承認しながら、クリミアの住民の民意は認めないという論拠について早急に示す必要がある。

 いずれにしても、ウクライナ政変の第2幕は閉幕した。第3幕がどうなるか。モルドヴァにおけるロシア人集住地・沿ドニエストル地方で、モルドヴァからの分離とロシア編入を求めるロシア系住民の声が高まっている。クリミアの動きが次々に飛び火していくか、それとも落ち着きを見せるか。目を離すことができない。

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「【IWJブログ】検証 クリミア独立・ロシア編入住民投票~選挙結果は「捏造」だったのか?ウクライナ憲法違反か?」への1件のフィードバック

  1. すみれ より:

    今回のロシアのクリミアの併合について、佐藤優氏の意見をぜひ、聞きたい。

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