2010年3月19日、共同通信が、日本政府が普天間基地移設問題について県外・国外への移設を諦めたのではないかと報じた。この報道を受けて、急遽、翌20日(土)、元外務省国際情報局長・孫崎享氏のインタビューが行われた。
一時、米国は海兵隊を沖縄からグァムへ移転させることも選択肢にあげたにも関わらず、なぜ県外への移設すら実現できないのか? 日米安保条約締結以降の在日米軍や日米同盟の在り方の変化、日本側の問題等の背景も含めて、孫崎氏に多面的にお話をうかがった。
孫崎氏は、海兵隊が極東で使われる場面として、台湾海峡の問題と朝鮮半島の問題の、2つをあげる。
孫崎氏「台湾海峡の問題は、私は、武力的な紛争の可能性はかなり減ってきたと思います(中略)。
(元々の想定は)台湾の人々が、これからの運命は、やっぱり西側諸国との連帯だと。アメリカとの関係をより強くし、日本との関係をより強くすると。そして我々は独立するんだと。こういうような形で独立宣言をする、その時に中国がこれを許さないとして軍事的に介入すると、この(武力紛争に至る)シナリオだったわけですよね。
ところが、中国の経済が非常に飛躍的に増大してきた。台湾の貿易パートナーは中国になってきた。これから益々、中国の経済が大きくなるということで、台湾は『基本的に誰と手を組むか』というときに、一番手を組む相手は中国本土ですから、もう政治的な摩擦をして、中国との経済関係が悪くなるというチョイスは採らなくなるということですから。
そうすると、台湾海峡の紛争のシナリオ(が現実化する可能性)というのが、非常に減ってきたわけですね。
次に、朝鮮半島はどうかということを見ると。朝鮮半島も確かにミサイルの開発であるとか核の開発がありますけれど。
じゃあ陸上の、海兵隊が想定する陸上の紛争はどうなのかというと。相対的に経済力が北朝鮮がずっと弱くなってきた。ということは、陸上兵力であるとか、そういうもので北朝鮮の優位性はもう保てない。陸上でもって攻撃をかけるというシナリオもなくなってくる。
唯一は、最後に脅しは核であるとか、そういうものでやって持ち堪えるわけですから」。
岩上「飛び道具でしか、北朝鮮は、軍事的な圧力とか戦略というのは考えられない。かつての朝鮮戦争のように、朝鮮半島を主な舞台とした陸戦、そうしたシナリオというのはどう考えても、もう無理、難しい(中略)。
海兵隊を何が何でも維持するニーズ、必要性が非常に減ってしまったということですよね」
孫崎氏「朝鮮半島についてもう少し申し上げますと。去年の暮れだと思いますけど、アメリカの在韓米軍が、『国際的に使う任務』、朝鮮半島だけではなくて『国際的に』ということを言い始めた。ということは、在韓米軍ですら朝鮮半島だけでなくていいという考え方が出てきたわけですよね。
そういうような状況ですから、仰るように、(極東では)海兵隊の重要性はなくなってきたと」。
岩上「多くの人が日米安保のための軍隊だと思っているんですね。つまり、日本を守るために、アメリカがわざわざ来て、今は休んでいて、戦争中ではなく極東の有事に備えている軍隊だと思っている。
ところが、そうではなくて。日米同盟の、つまりアメリカの国際戦略を完遂するため日本が協力をしなきゃいけないという同盟関係のために、あの普天間の基地はある。
そして、行き先・目的というものは、実は北朝鮮や台湾海峡に備えてはいるけれど、それもなくはないけれど、今現在、主たる緊急の目的と言いますか、当面の目的は中東、それからアフガニスタン。ここへ出撃する根拠地、そして出撃しただけでなく、帰ってきて休養をとる、休む場所なんですね」。
孫崎氏「ここがね、日米関係の一番変化したとこなんですね。
多くの人は、日米の軍事関係の一番の中心は1960年に締結された安保条約だと思っているわけですよね。で、この安保条約では、何をするかっていうのは非常にはっきり書いてあるわけです。
ひとつは日本を守ること。米軍は日本を守るということ。
それからもうひとつは、極東の安全保障に貢献するということ。
ですから、1960年にできた安保条約にもとづけば、今、仰ったように、沖縄にいる、あるいは沖縄だけでなく日本にいる米軍というのは『基本的には極東』(で活動する)ということを、多くの人は思っているんですね。
ところがこれが、イラク戦争をアメリカが始めたと。ほぼ同時期から、世界に展開するものに変化させようというものが非常に強くなって。2005年に『日米同盟 未来のための変革と再編』という文書に署名して、世界戦略を行うために(新しい)日米関係を作ろうと言ってるわけです」。
ここで孫崎氏は、リチャード・J・サミュエルズ著『日本防衛の大戦略』を取り出す。
孫崎氏「この中に彼(サミュエルズ氏)が書いているのは、日米同盟というもの、それから在日米軍というもの、これは世界のために使うようになったんだと(中略)。
そういうように変質した、これが日本の多くの人にまだ理解されていない点で、一番重要なポイントだと思いますね」。
岩上「日米同盟がそんなものであるということは誰も知らないわけですよ。新聞とかもわからず、あるいは外務省の発表でも『日米同盟』、『日米同盟』、という言葉が使われるけれど。
『日米同盟を深化させる』と言いながら、その実態は、日米安保と同じ意味なんではないかと感じさせながら、実は日米同盟とは日本の周囲の危機に対応する同盟関係ではなく。
むしろ世界の、日本の死活的な利害と関係ない地域にアメリカがのこのこ出て行って、戦争を仕掛けて、その国の政体をひっくり返していく、そういうかなり攻撃的な目的で米軍が主導する、その根拠地となる、その手助けをする、あるいは休養をとる際とか、そういうためにあるということですよね」。
孫崎氏「はい。
世界のために、日本が貢献しなきゃならないという、これ自体はそんなに大きな問題ではないかもしれないですよね。日本は世界に、中東に石油を依存してますし、いろんな形で関係を密接にしなければならない。そういう中で、なんらかの貢献をしなければならない。これはいいんですね。
問題は、何のために軍事力を使うかということなんですね。
ここに、米国の戦略というのが、1991年くらいから、冷戦が終わってから大きく変化したんですね。これまでは日米安保条約もそうですけれども、何のために、軍事力をどういう時に使っていくのかというと、これは非常に厳しく考えたんですね。限定される。
他の国が攻めてくる、あるいはもう攻める直前だと。こういう時に限って、攻撃をすると。
かつ、他の国の主権というのをできるだけ尊重しましょうと。これが国連憲章の中心であって、この国連憲章的な考え方の上に、日米安保条約というのはできていたんですね。
ところが、今の米国の戦略というのは何なのかというと、『サダム・フセインというのは悪い人かもしれない』『イランのイスラム指導体制というのは悪いかもしれない』『台湾というのは、将来また悪いことするかもしれない』、こういうように、2年先、3年先、5年先、あるいは10年先に何かがあるかもしれない。そういう事態を防ぐために、今のうちから軍事行動しましょう、ということなんですね。
そうすると、その想定自体が間違う場合がかなりある。ということが、イラクで起こり、今アフガニスタンで起こっていると。
世界の安全保障に貢献すると(いうことは)、それは大きな問題は孕んでいないですれど。じゃあ、どういう手段で、どういう形で世界の平和に貢献するかというと、今の考え方は、かなり危険な要素を孕んでいるということだと思います」。
岩上「世界の平和に貢献するどころか、世界の中でわざわざ喧嘩を売りに行くと言いますか。戦争を仕掛けに行くと言わんばかりの話で。
でもこの背景にはアメリカの国益があり、アメリカの一部の国益、もしくはアメリカの外部の勢力の国益だったりするかもしれない」。
しかし、在日米軍の存在意義が変化しているにも関わらず、なぜ普天間基地の移設先は日本国外や沖縄県外にならないのか?
ここで岩上は、むしろ日本側の外務官僚、防衛省側が、国外・県外案を真剣に検討したのか疑問符がつくのではないかと、孫崎氏にたずねた。
孫崎氏「ここ(外務省、防衛省)の人達がね、本当に県外ということがやっぱり今、日米の目指すべきひとつのゴールであるはずだと、だから(日米)両者でもって、どこかで落ち着き先を探そうということをどれだけ真剣にやったのか?
今までの流れというのはむしろ、新聞とかで見ると、日本の官僚の方は如何に鳩山政権を前の合意(辺野古への移設)のところに持っていくかということに全力をあげて(きたと感じた)」。
岩上「官僚が、内閣の言うことを聞いてない。ここに、いくつかの問題があると思うんですね。
そもそも日本というのは民主主義国家であって。選挙によって選ばれた内閣が行政府を統治して、言うことを聞かせていく国だったんじゃないかと思っていたんだけれども。
建前はそうでも、実は官僚主導であって。意に沿わないと、面従腹背で内閣の方針になんとか従わず、違う方向に持っていこうとする。
その時に、例えばマスコミ、記者クラブメディアなどを動員して、(政権の)ネガティブキャンペーンを張り続けたりとかですね。そういうことも多々見られました。虚偽の報道なんかも随分流されていたことも、見ていてわかりました(中略)。
社民党(当時)の阿部知子政審会長(政策審議会長)が、実態はどうだったかを私のインタビューで答えて、防衛省と外務省は本気でいろんな候補(移設先候補地)を検討したり交渉したり、なんとか移すための努力をした形跡はまったく見られない、こういう風に言い切って怒っておりました。こんな風に、官僚を動かすことはできないんだと。
これは、今の民主党を中心とした連立政権だからそうなのか、自民党時代も(中略)官僚が自分達の考えで政策を決めていたのか。このあたり、ちょっとわからないですけどね。
これはどうなんですか。民主党のリーダーシップの欠如の問題なのか、それとも、そもそも日本の国の仕組みというのがそういう仕組みなんだということなのか、どっちなんでしょうか?」。
孫崎氏「私は、自民党時代にね、こんなに総理の意向と違うことを官僚が動いていたということはないと思うんですよね。これはある意味、非常に異常だと思います(中略)。
ただし孫崎氏は、官僚が民主党政権に従わないことについては、そもそも民主党政権が官僚の使い方を間違っているのではないかと指摘する。
他方、長年続いてきた自民党政権下においては、「米国に逆らっていはいけないという過剰な認識」があったのではないかと推測した。
さらに、米国からの直接的な工作があったか否かについて、孫崎氏は、「全体像はわからない」と答える。
しかし、米国の要人、例えばCIA元長官の自叙伝を読むと、実際にあったイタリアでのオペレーションについて記述されており、「お金と人は絶対に自分達(米国)に戻らない」、つまり追跡してもCIAが関わったという痕跡を残さずに工作することが述べられているという。
これは日本に対する工作があったとしても、日本人を通してオペレーションが行われ、米国が仕掛けたということはなかなか見えないことを意味する。
孫崎氏は、そういった「情報」分野の活動について、「ここが、冷戦の一番大きな戦いの場だったと思います」と見る。
孫崎氏「(米ソ冷戦時代は)軍事的な行動を起こすと、どんどんエスカレーションしていって、最後には核のところまで行く可能性があるわけです。
自分の範囲を守るために軍事行動をするというのはあるんですけれど、自分の勢力を拡大するために軍事行動をするのは非常に避けてきたと思うんですね。
例えば、ソ連から見ますと、キューバ革命。これはアメリカの隣のところを軍事的に制圧したんではなくて、キューバ人を通して、共産主義に理解がある政権を作ると(中略)」。
孫崎氏には、かつて自らが情報局長を務めた経験から、「情報機関」の役割や日本における情報分野の実態についても、ご解説いただいた。
冷戦後、米国が軍縮を行わず、世界最強の軍隊を維持することを決定したことから、日本を取り巻く環境とそれぞれの役割は大きく変化してきた。
ソ連崩壊後に、米国の一番の脅威が「日本の経済力」となったことも孫崎氏は指摘する。
米国は、自らが安全保障をやって、日本が経済に専念することを嫌った。そして、米国の世界戦略に日本を組み込む、「日本の積極的な活用」が始まった。
しかし、当の日本人の大部分はそれを知らされないまま、今、実際にその経済力は、米国の思惑通り地に落ちようとしている。


























