「TPPは国益ではなく、多国籍企業益である」 TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会・醍醐聰東大名誉教授インタビュー 2013.4.30

記事公開日:2013.4.30地域: テキスト 動画 独自
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

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特集 TPP問題
※サポート会員ページに全文文字起こしを掲載しました(2013年10月15日)

 「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」は現在、全国で875名の教員が署名している。同会の呼びかけ人であり、事務局を務めている醍醐聰東京大学名誉教授に、4月30日、岩上安身が話を聞いた。26日、醍醐氏ら大学教員の会は記者会見を開き、屈辱的な不平等条件を合意させられた「日米事前協議」について、国会議員と連携し、議員の質問権を行使して、政府に情報公開要請を行っていくことを発表した。

 インタビューで醍醐氏は、この日米事前協議の合意内容で日米の発表が食い違うことや、屈辱的な合意内容そのものについて、詳細に解説。甘利TPP担当相が「聖域、特定せず」と発言し、安倍政権が「守る」と言ってきた「聖域」をぼかすようにしていることについて、「すでに逃げの作戦に入っているのではないか」と分析した。

 また、薬価の高騰や、日本の食糧自給率低下による発展途上国の飢餓の拡大などを例に挙げ、「TPPは『グローバル』な視点からも、国民益はなく、企業の利益しかない」と断じた。最後に醍醐氏は、日本政府の影響試算に、関連産業や地域経済への影響が考慮されていないことを指摘。大学教員の会で独自計算したところ、全体で6兆9000億円ほどのマイナスになることを明らかにした。

<会員向け動画 特別公開中>

■ハイライト

■全編動画

 「このところ大手メディアは、TPPに関する出来事を、まったくといっていいほど報じていない。先日も醍醐先生らによる重要な会見があったのに、取材に訪れたのは日本農業新聞、しんぶん赤旗、そしてIWJぐらいだったのでは」。岩上がこう水を向けると、醍醐氏は「私は5年ほど前から関わっている、NHKをウォッチする市民団体の活動を通じて、大手メディアが世間の空気を操っている、つまりは世論をミスリードしていることを実感している」と述べた。

 そして、岩上が「先日合意された日米事前協議で、安倍総理は交渉参加会見で『守るべき国益は守る』と言い切った。でも実際は、米国に押し切られてしまっている」と懸念を示すと、醍醐氏は「甘利明TPP担当相は『聖域、特定せず』と発言しており、すでに聖域(=自民党が関税をかけて死守すると国民に公約した米、麦、豚肉、牛肉、乳製品の5品目)の存在をぼかし始めている。聖域の死守はもはや無理と、逃げに入っているように映る」と応じた。

 その上で醍醐氏は「日本政府は、TPP交渉参加に向け、事態は順調に進んでいるかのようにアピールしているが、窮地に立たされているのが実情だ」との認識を示し、こう呼び掛けた。「この現実を、自民党の慎重派や5品目を除外すべしと提言している農水委員会は、どのように受け止め、政府側にどう声を上げていくのか。われわれ国民は、この点を十分注視していかねばならない。それが、自民党にプレッシャーをかけることにつながる」。

 この3月に行われた、JA全中(全国農業協同組合中央会)など農林漁業中心の8団体による、TPP参加交渉参加反対の集会で、自民党の石破茂幹事長は、野田・民主党政権の末路に照らして、『公約が守れなかったらどうなるか、われわれは、わかっている』と発言している。この一件について醍醐氏が、「あの時、石破さんが、先の聖域5項目を挙げている。日比谷野外音楽堂で、あれだけの大人数(約4000人)を前にした発言だ。簡単には撤回できない」とコメントすると、岩上は「JA全中は、昨年の選挙で自民党を応援した以上、今の自民党に対し、問い詰めるべきところはしつこく問い詰める義務がある」と言葉を継いだ。

 岩上は、醍醐氏らが政府に提出した質問書へと話を振った。これを受けて醍醐氏は、「日米事前協議合意に関し、米国通商代表部(USTR)と日本政府が、それぞれ発表した文書に食い違いがある。悩むのは、その指摘に対する政府の対応で、『(発表の前に)すり合わせをしていない』とか『(発表の内容に食い違いが生じても)われわれは関知しない』と回答してくる」と説明した。4月12日、日米両政府がそれぞれ発表した、TPP交渉参加の事前協議に関する合意文書で、日本政府が公表している合意公開資料では、米国が日本に要求する非課税措置の項目の中の「知的財産権」「政府調達」「急送便」「競争政策」が記されていないなど、USTR発表文書との間にかなりの隔たりがあるという。

 岩上が「文書の食い違いについて、さらに言えば、たとえば自動車では、米国は、関税については段階的に下げていくと表明しているものの、仮に撤廃されたとしても、自分たちの都合でいつでも課税を復活できる、スナップバック条項の存在が、穴を埋めるように記載されている。さらには、日本への台数の割り当てを意味する記述(米国車を2倍以上にする)もある。しかし、日本側の文書には、そういった記述は一切見当たらない。保険分野もしかりだ」と具体例を指摘すると、醍醐氏は「保険分野については、かんぽ生命(日本郵政グループの生保会社)の、がん保険などの新商品を事実上凍結する、と日本側が一方的に通告してきた旨の記述が、USTR文書に書かれている。要するに日本政府は、最初から米国勢に配慮して白旗を挙げているのだ」と批判を口にした。

 その上で醍醐氏は、「両国政府が発表した文書を見比べる限り、日本は米国に完全に屈服している。私は、日本政府の文書に書かれていない4項目(知的財産権、政府調達、急送便、競争政策)で、日本にとっての脅威が始まるとみている」と警鐘を鳴らした。さらに、「ことに着目すべきは競争政策で、米国企業にしてみれば『これでは競争条件が公平でない』と理由をつけ、日本に対し、何かとクレームを入れることが可能になる。おそらく、日本郵政グループの経営のあり方にまで、口を挟んでくるだろう」とも語った。

 インタビューで岩上は、進出先の収容により損失を被った外資系企業が、相手国政府を訴えることができる、ISD条項にも触れた。「米国企業は、自国内と同じビジネス環境を日本に要求しているのであり、それを阻害するものなら、たとえ日本の文化であっても例外としない」。米国勢が、日本語でのコミュニケーションに対して、通訳や翻訳が必要なのでコスト要因となる、との理由で、ISD条項を使って訴えてくる可能性があるというのだ。

 岩上が「日本の公用語が、英語になっても不思議ではない。それは、日本が米国の植民地になることを意味する」と指摘すると、醍醐氏は次のように話した。「日本の財界は、TPPのマイナス面を十分知っているはずだ。ではなぜ、それでもTPPを推進するのか。彼らの期待は別の部分に、つまり米国の規制撤廃要求の効果にあるからだ。日本がTTPに加盟することで、国内に農業放棄地が増えることをにらみ、住友化学などが土地取得を狙っているという話も耳にする。日本の経済人が、そういうところまで見据えていることは、まず間違いない」。

<ここから特別公開中>

―― 以下、全文文字起こし ――

岩上「皆さん、こんにちは。是非、今日は多くの方に見て頂きたいと思っております。そして、見て下さった方は、必ず周りのネットを見ない人にお薦め頂きたいと思っております。本日は、非常に重要なTPPに関してのお話をして頂きます。ご紹介いたします。東京大学名誉教授の醍醐聡先生です。先生、よろしくお願い致します。

 醍醐聰先生は会計学がご専門ということですが、経済学万般を追業されております。それと同時に『TPP交渉参加から即時撤退を求める大学教員の会』(※1)という会を立ち上げられた、その呼びかけ人のお一人でいらっしゃいます。最初は、6~7人でお始めになられて、今は呼びかけ人の先生が17人になられたと聞いております。

(※1)TPP参加とは「アメリカの属国」になるということ ~「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」主催 記者会見 2013.4.10
「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」主催 記者会見

「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」

 醍醐先生は初期のメンバーであり、かつ、この会の事務局もされております。そして『TPPから日本は交渉参加即時撤退するべきだ』という、主張に賛同する様々な分野の大学教員、大学の名誉教授、あるいは元教員の方々が、875名、署名をされています。『一度、締め切った』ということですが、その締め切った後も『私も名を連ねたい』、『私も賛同したい』というアカデミシャンの方々が、続々と名乗りと上げているということです。これは、大変、私たちにとっても心強いことだと思います。

IWJは、このTPPの問題について、2010年に菅政権が出してきて以来『これは大変なことではないか』ということで、問題意識を持ち報じ続けてきました。その間、TPPについて報道しているメディアは、日本農業新聞や、しんぶん赤旗ぐらいしかありませんでした。大手マスコミはTPPについては黙殺してきました。

 この『TPP交渉参加から即時撤退を求める大学教員の会』の記者会見は、大変重要な質問を政府に投げかける重要な会見でした。そして、大手メディア各社は取材に来ていましたが、全く報じていません。先生のブログには『日本農業新聞と赤旗だけが報じていた』と書いてありました。『後は、ほんの小さな業界紙が載せている』と書かれていましたが、IWJも報じております」

醍醐「失礼しました。私の中では別枠になっていましたから」

岩上「そうですか。先生は、IWJがTPPの問題を継続して報道していることを、ご存知ではなかったということでしょうか?」

醍醐「途中から知りました。ただ、このように、ネットにTPPの報道を載せていただいて、TPPの情報が普及した点については、本当に感謝しております」

岩上「とんでもありません。IWJでは、今まで配信したものをまとめて、TPP特集ページを作っています。(※2)その数は200本以上になります。しかし、その整理もまだ全ては終わっていません。毎日のように、TPPに関しての新しいニュースが出ますから、その数もまだ増え続けています。

(※2)【特集ページ:IWJが追ったTPP問題】

 しかし『数さえあれば良い』というものではなく、やはりTPPについてきちんとした分析をし、きちんとした問題意識を持って論理的に推進派を論破する必要があると思います。そして『こんな危険なものは止めるべきだ』と説き伏せていかなければいけないと思います。

 ですから、そういう意味で、今回の先生方の公開質問状について、私は大変注目しました。この公開質問状には、大変鋭い視点で何項目にもわたり質問されています。その辺を中核として、本日はお話を聞かせていただきたいと思っています。

 その前に、先生はこのTPPにどのようなきっかけで、問題意識を持たれるようになったのか。そして、どういう経緯で、これだけの大学教員の方が署名するような会を立ち上げられたのかという点について、お話願いたいと思います」

醍醐「私がTPPに関わるようになった経緯は、二通りあります。一つ目は、先程、インタビューが始まる前に、岩上さんとお話していた『NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ』(※3)に、私は5年前から参加しております」

(※3)「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」

岩上「なるほど。『監視・激励する視聴者コミュニティ』」

醍醐「そうです。『監視はするけど、激励はしたくない』という会員も結構いらっしゃって、なかなか面白いのですが」

岩上「会員は何人ぐらいいらっしゃるのでしょうか?」

醍醐「会員はそれほど多くありません。150人ぐらいです」

岩上「先生は、どういうポジションでいらっしゃるのですか?」

醍醐「湯山哲守さんと二人で共同代表をしています。余り目立ちませんが、この間、結構たくさんNHKに申し入れをしました。そして、この『TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会』を立ち上げる前に、NHKの番組をウォッチしている中で、TPP報道について『おかしい』ということを、この市民グループの中で少し取り上げたこともありました。今回、こうしてTPPの問題が本格化してきましたので、また後で話題になると思います。

 要するに、TPPに限らず、最近の大手メディアというのは、一種の空気を作る役割、本当に必要な判断材料というものを、取材に基づいてきちんと伝えるのではなく、ムードメーカーになってしまっています。そういう、非常に世論をミスリードする、旗振り役になってしまっています。日本農業新聞は、それを『国民思考停止装置』と断罪していますが、私はこれは決して言い過ぎではないと思っています。そして、そういうメディアウォッチの観点から、TPPについて考えるに至りました。

 もう一つは、最近、私の専攻に少し近い『製薬資本の経営分析』というようなことを、この間にしてきました」

岩上「製薬資本ですか?」

醍醐「はい」

岩上「なるほど」

醍醐「そうですね。知っている人は知っているますが、利益率は本当に高いんです。他方で、薬価は先進国との相対薬価です。例えば『日本を1としたら、アメリカはいくら』と言うと、非常に高いということを、お医者さんたちが作られている研究グループに入れていただきまして、分析をしていました。

 その中で、今回のTPPで、特に多国籍製薬資本が『権益を拡大しようとしている』ということがわかりました。それで、これは私としても『もう少し本腰を入れたい。入れないといけない』と思い、それが私がTPP問題について関わるようになったきっかけです」

岩上「なるほど。この二つの観点が出発点となり、TPP問題に関心を持たれるようになられたのですね。先生がおっしゃられたようにメディアの問題は当然あると思います。

 このメディアの問題に関連するのですが。実は、私は『坂の上の雲の歴史認識というのは間違っている』という、ご本をお書きになられた、歴史学者でもあり、奈良女子大学名誉教授でもある、中塚明先生のご自宅のまでお話を伺いにお邪魔しました。(※4)

 そして、中塚先生と醍醐先生は、共同でその問題について、ご本(※5)も書かれていらっしゃいます。また、この問題ではNHKに有識者として申し入れもされていらっしゃいます」

(※4)(再掲)旧日本軍による朝鮮侵略の真実 岩上安身による奈良女子大学名誉教授・中塚明氏インタビュー 2013.2.16(IWJ)

(※5)NHKドラマ「坂の上の雲」の歴史認識を問う 日清戦争の虚構と真実
中塚 明 安川寿之輔 醍醐 聰=著 2010年6月6日発行 本体価格1500円 出版社 高文研
2009年、2010年、2011年足かけ3年に渡るNHKの壮大なプロジェクト、スペシャルドラマ「坂の上の雲」。昨年末放映された第1部の主題は「日清戦争」。しかし、NHKは「朝鮮半島の支配をめぐる日本と清国の争い」という本質から目を逸らし、「大陸からの脅威」に立ち向かう「祖国防衛戦争」のイメージを強調した。
韓国併合100年という節目の年に、NHKは日清戦争の何を描き、何を描かなかったのか。
近代日本の最初の本格的対外戦争である“日清戦争”の全体像を、3人の専門家が分かりやすく伝え、当ドラマの虚構をあばく!(高文研より)

醍醐「『ご一緒に』と言われると、歴史学の大家の中塚先生と私のようなものが並ぶ、というのは、本来ならば恐れ多いのですが。ただ、私はどちらかと言えば『NHKウォッチをしている市民グループの代表として入らせていただいた』という形です。ですから『坂の上の雲』そのものの歴史は、中塚先生が舌鋒鋭く論じられていらっしゃいます」

岩上「なるほど。しかし、これには非常に重要な内容が含まれておりました。中塚先生のインタビューは、一部はオープンで見ることが出来ますし、会員の方は全てをご覧になっていただけます。また、オンデマンドで非会員の方もご覧いただけますので、是非、ご覧になっていただきたいと思います。

 特に今、朝鮮半島との関係が非常にきな臭くなってきています。現役の総理が迷彩服やヘルメットを被り、自衛隊の戦車に乗って手を振る、というパフォーマンスを繰り返し、隣国の感情を逆なでするようなことが起きている中、大変、中塚先生のご指摘は重要だったと思います。

ですから、思いがけないところで、醍醐先生と接点があるので嬉しく思いました。

NHKの問題、あるいはメディアの問題というものは多岐に渡っています。毎日『メディアのここがおかしい』と言い続けてきたのですが、このところ疲れていました。『だからもう、そんなに期待しない方が良いんじゃないの?』という一言で済ませたくなる時もあります」

醍醐「そういう方が多いですね。岩上さんと一緒に長くお仕事をされていた、日隅(一雄)弁護士とも、私どもは一緒に活動をさせていただいたことがあります。ですから『今さら期待してどうするの?』という気持ちはわかります。特に、独立系のフリーのジャーナリストの方々というのは、やはりそういう思いが非常に強い、と感じています。

 それから、これは色々な独立系の方々とお付き合いをして感じたことなのですが。『フリージャーナリスト』という言葉を使うと、嫌な顔をされますよね。岩上さんはどうかわかりませんが」

岩上「そうですか?」

醍醐「『フリーというのは何からのフリーかと言えば、組織ジャーナリストも皆フリーじゃないといけないじゃないか』、『そういう意味では、全ての人をフリージャーナリストと言わなければおかしい』、『どうして我々だけがフリージャーナリストと言われるんだ』というお話を一度聞いたことがあります」

岩上「それは誰が言ったのでしょうか?」

醍醐「いえ、それは……」

岩上「そうですか」

醍醐「しかし『それはもっともだな』と思いました。まさに『そのフリーが組織ジャーナリストにはない』と。その時、私が思ったことは、結局『組織の中では何もできない』という言う人が多いということです。確かに、退職をしてから色々活動されることは、これはこれで何もしないよりずっと良いことです。ただ、できれば、やはりNHKならNHKという大きな組織であっても、そこにいる時に活動して欲しいと思います。

 やはり、最後に『帆を立てる』ということが、日本にはないのだと思います。やはり、いくら『組織の力で』と言っても、結局、その組織を動かす帆を立てる人がいなければ、組織というのは動きようがありません。誰かがものを言える環境を作ってくれるわけではありませんから。

 そういう点が、まだ日本で自覚的に動かれているジャーナリストの方々の中でも、私は『まだ弱いな』という気がしています。そして、そういうことを率直に言っていますので、そういう方には嫌がられているのかもしれません。しかし、今まで単刀直入に言ってきたつもりです」

岩上「ありがとうございます。このメディア論は、また別の企画を考えて、是非、お話を伺いたいと思います。

 それでは、TPPの話に移りたいと思います。まず、これは『TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会』のブログからプリントアウトをしてきたものですが。(※6)『日本の国益を守るためにはTPP交渉参加を撤回するしかない-「日米事前協議」の結果は日本側全面屈服以外の何物でもなかった-』と。

(※6)日本の国益を守るためにはTPP交渉参加を撤回するしかない-「日米事前協議」の結果は日本側全面屈服以外の何物でもなかった- 2013年4月27日 (土)

 そして、ここでいくつかの指摘をされていらっしゃいます。一番目に、アメリカとの事前協議について、これはTPPの全体交渉とは別に、参加国同士、二ヶ国間で事前協議を行なうということですね。そこですり合わせをしておくということです。そして、TPPを主導しているのは圧倒的にアメリカです。これは間違いがありません。

 それから、二番目に、USTR通商代表部と二ケ国の事前協議を行なってきたことについて。安倍総理が『TPPに参加交渉をする』と表明したのが、3月15日でした。そして『守るべき国益は守る』また『それは可能だ』と言い続けてきました。それから、昨年の衆議院選の時には、TPPについて『もし聖域なき関税撤廃を求められるのであれば、我々は加わらない』と、強い口調でおっしゃっていました。しかし、現実には、この二ヶ国間で圧倒的に押し切られてしまい、なにも主張ができていません。この2項目を含む、6項目について、是非、一つ一つ分析してお話していただけたらと思います」

醍醐「一昨日のNHKスペシャル『TPP交渉 どう攻める どう守る』というテーマで、討論番組がありました。番組の冒頭で、茂木さん(※7)が出てきて『これまで日本が入る前は、横綱アメリカと平幕の交渉だった。そこへ大関の日本が入って、良い相撲が取れるようになった』というようなことを言っていました。しかし、それを聞いて笑ってしまいました」

(※7)甘利明氏の間違いだと思われる。
番組タイトル:NHKスペシャル シリーズ日本新生「TPP交渉 どう攻める どう守る」
【出演】経済再生担当大臣(TPP担当)…甘利明, 【出演】東京大学教授…中川淳司, 【出演】日本大学教授…水野和夫, 【出演】作家…真山仁, 【出演】滋賀大学准教授…柴山桂太, 優木まおみ, 【キャスター】三宅民夫, 守本奈実 (NHKより)

岩上「笑っちゃいますね」

醍醐「日本がこういう惨敗の状態なのに、しかもこれは平幕以下です。これで『大関』だと、自分の口から言っているのですから『幸せな人だな』と思いました

 他にも色々あるのですが。まず、一番最近では、これは4月27日付の日本農業新聞ですが、甘利TPP担当相は、参議院の予算委員会の中で、聖域の具体的な内容を社民党の吉田忠智氏から『聖域とは具体的にどういうものなのか』という質問を受ました。この新聞の見出しには『「聖域」特定せず 脱退の判断基準曖昧に』とあります。要するに『聖域は、交渉を通じて広範な判断のもとに修練させていくものだ』と言っています。しかし、農林水産委員会では、具体的に『5品目』(※8)と言ったはずです」

(※8)参院農林水産委員会は18日、日本のTPP交渉参加をめぐり、政府がコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、甘味資源作物の重要5品目を関税撤廃の例外となる「聖域」として確保するように求める決議を自民、公明、民主などの賛成多数で採択した。政府に対してはTPP交渉の十分な情報開示も要請。衆院農水委も19日、同様の決議を採択する見通しだ。
(TPP:コメなど5品目「聖域」決議採択―参院農水委 毎日新聞 2013年04月19日 東京朝刊より)

岩上「米、麦、サトウキビ。それから、後はなんでしたっけ?」

醍醐「牛肉・豚肉、乳製品と言っていました。それが、早くもここで曖昧になってしまっています」

岩上「この甘味資源作物というのは、サトウキビのことですね」

醍醐「そうですね。そうなると『この聖域が守られたか、守られないのか』ということが特定できないわけです。『これだったら守れた、守れない』ということが、もうすでに言えない状態になっています。

 あるいは、それを曖昧にする作戦がすでに始まっています。もう逃げの態勢に入っています。そういうことを、まず最新の状況から知るべきだと思います」

岩上「なるほど。『安倍政権はすでに逃げの態勢に入っている』。この交渉参加時、あるいはそれ以前から、具体的なセンシティブ品目……日本にとって、聖域として守らなくてはならない、関税をかけて保護をしなければいけない、という品目として、とりわけ、米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などを具体的にあげていました。ところが『これはそろそろ曖昧にしてしまおう』としていると。

 実は、後でこれらの関税がなくなり、この5項目のうち、1~2項目しか守れなかったとしても『まあ、しょうがないんじゃないか』という、すでに逃げ腰になっているということですね」

醍醐「そうです。その逃げ切りの態勢を作りかけています。しかし他方で、国会の農林水産委員会は、これは衆参共に、今言った5品目を重要品目と位置づけて『除外か、再協議の対象にするように』ということを決議しています。

 ですから、この自民党の農林水産委員会や、TPP慎重派と言われる人たちには『政府や、甘利さんが、こういうふうに言ったら、この先どうするんだ』というボールが投げられています」

岩上「自民党は政府側に対して、同じ党の人間が閣僚になっているとはいえ、党として国民や農民に約束をしてきました。ですから『こういうことを守れ』と本来は言わなくてはいけない立場にあります。しかし、その言う姿勢があるのかないのか、ということですね」

醍醐「さらに言えば、林農林水産大臣は、安倍首相が交渉参加を表明した、3月15日の直前の国会の中で、自民党が選挙で公約した項目について『関税項目と非関税項目はセットでなければ参加することは難しい』ということを発言しました。これは、先程の吉田忠智さんの後に、紙智子さんが質問をして確認しました。

  というのも、野党の時代に林農林水産大臣が同じ事を言っています。ですから『今も変わりませんね』と確認したところ『その通りです』という発言をしました。ですから、これは『公約違反』という問題ですから、これはもう撤退するべきだと思います。私が『脱退するべきだ』と言っているのは、もうその条件が現実としてあるからです」

岩上「条件が整っているということですね」

醍醐「悪い意味ではあるのですが、そういうことです。ですから、一見『7月から交渉参加入りができそうになった』と言って、政府は『交渉は順調だ』と言っていますが、内実は非常に窮地に立たされています。ですから、そういう意識を持たないといけないと思います。

 この状態が『窮地』だということを、本当に自民党の中の慎重派議員や、林農林水産大臣、あるいは農林水産委員会の議員が、そう受け止めているかどうかということを、私たちがむしろ問い詰めて行かないといけない、と思っています」

岩上「なるほど。これは各選挙区や地方の方々もご覧になっていると思います。是非とも地方の、とりわけ地方は農業に依存する部分が大きいですから、地元の議員に問い詰めていただきたいと思います。問い合わせていただきたいと思います。

 私も、実は一ケ月ぐらい前に、自民党の中のTPP慎重派、もしくは反対派の急先鋒に立つある議員の方々が内輪の勉強会を開き、その勉強会の参加者からお話を聞きました。その参加者は、大変危機感を持っていて『自民党内はもう総崩れだ』、『反対派はあれだけ言っていたけれども、耳を貸す気が執行部にはない』と。『安倍さん以下、閣僚、そして、党のトップは聞く耳を持たない』、『なし崩しで、公約違反であろうと突っ走る、というような空気ができている』と言っていました。これはオープンにしていない会合でしたので、お名前をお出しできませんが、そういうお話を聞きました。

 しかし、JAが主催した大会では、石破さんをはじめ各党の代表が集まった席で、石破さんが『公約が守られなかったらどうなるのか、我々が一番よく分かっていると』と言っています。『前政権の末路を見ればわかることだ』と。これは、民主党政権のことを揶揄しているのですが。民主党は公約を守れなかった。つまり消費税や、いくつかの点で民主党政権は公約を守ることができませんでした。そのために支持率が急落しました。

 ですから、このTPPに入るということは、まず約束していた重要品目も守れないということになりかねない。そうなった場合、安倍政権の終わりということも、覚悟しているということなのか、どうなのか。それぐらいのところに、今、自民党が差し掛かっているということですよね?」

醍醐「おっしゃる通りです。今の石破さんのご発言は、日比谷野外音楽堂の集会での発言ですよね。私もあの時、舞台の袖のところにいました」

岩上「醍醐先生も参加されていらっしゃったのですか?」

醍醐「はい。腕章を巻いた報道陣の中に混じって、カメラで撮影をしていました。あの時、石破さんは、この5項目をあげていました。その上で『公約が守れなかったらどうなるのか、我々はよく知っている。政権の経緯はよく知っている』と言いました。あの時、4千人以上の人の前で発言したのですから、簡単には取り消せないはずです。

 まさに、石破幹事長自身がこういう発言をしているのに、先程の林農林水産大臣が、5項目ということを曖昧にしようとしているということを、彼自身がどうするのだと。これを放っておくと知らん顔されますから、そこのところを、私たちがきちんとしつこく問い詰めていかないといけないと思っています」

岩上「そうですね。特に、JAは衆議院議員選で自民党を応援した、ということがあります。その判断というのは、全国農業協同組合中央会や、あるいはその他、農業者政治連盟(※9)の方々のご判断があったとは思いますが、その判断、正しかったのか。

(※9)【農業者政治連盟】
各都道府県に設置されている、農協(JAグループ)の政治団体。上部組織は全国農業者農政運動組織連盟(全国農政連)。農政連。(デジタル大辞泉の解説より)

 自民党は非常においしいことを言って、裏付けのない空手形を切り、そして、言葉は悪いのですが、騙して、腹の中では政府と共に『とにかく日本が不利な条件であろうと、TPPに参加することが決まっている、その既定路線を突っ走るだけだ』、『農民に対しては、選挙前だけ甘い話をしておけば良い』ということだったのではないか、という可能性すらあるわけです。

ですから『自民党支持』という判断を下した農業者政治連盟は、厳しく自民党と政府を突き上げなくてはいけませんよね」

醍醐「岩上さんが、JAに対して厳しい持論をお持ちだということは、私もよく存じております」

岩上「JAには期待をしていたのですが、JAのやり方には、どこか根本的なところで、なにか腰砕けなところがあるという、疑問があるんです。日本農業新聞の姿勢はすごく頑張っていらっしゃるな、と感じるのですが。JAや、全国農業協同組合中央会、JAの各都道府県の組織であるとか、JAの現場で働いている人たち、あるいは、農協という組織そのものを批判しているわけではないんです。

 また、そこに加盟している農家の方々を批判しているわけではないのですが。全国農業協同組合中央会の判断は正しいのか……とりわけ、政治に対する姿勢、政治的な判断のありようというものは正しかったのかと。そこを少し真剣に考えてもらいたいと思うんです」

醍醐「今回、終わってどういうことになるのか、ということですが。ただ、現在進行形の段階で、私から言えば、色々この間、JAとも接触がありました。

 例えば、宮崎日日新聞は、私たちの賛同者800何名の名簿を、全て意見広告として載せてくれました。私も二部頂きました。そして、それが新聞に掲載される2週間くらい前『本当は、この名簿に記載されている、お一人お一人に承諾を得るべきなのだろうが、そういうわけにもいかないので、醍醐先生にご了解をいただけるだろうか』という質問が私のところに来ました。私は『もうすでに公にしていますし、日本農業新聞や全国農業新聞等、そしてその他のいくつかのところも、全員の名簿を載せています。ですから、その目的が営利であるとか、そういう他の目的に利用されるということでないのであれば、私としては了解します』と返事をしたら、本当に掲載されました。ですから今、宮崎はと鹿児島は大変です。そして、私が見ているところでは、今回、JAの方は大変大真面目です。

 もう一つ、私が素晴らしいなと思うのは、自分たちがしていることは、農業の問題だけではない『農業以外の非関税障壁、非関税分野の問題にとっても、日本は大変なことになる。そこで連携していこう』という姿勢です。それが言葉だけではなく、様々なところで取り組まれているということは、これは素晴らしいと思っています」

岩上「私たちも話を聞きたいと思っています。そして、JAの全国農業協同組合中央会のトップの方に、取材の申し込みをずっとしています。しかし、日本農業新聞とか、色々なお付き合いのある人たちにもお口添えしていただいているのに、一度も取材に応じていただけないんです。

 例えば、公開の大会等は、私たちも中継をすることができるのですが、それ以外の、政治家を呼んだ大会等に、記者クラブは入ることができても、私たちの中継は『駄目だ』と断られました。記者クラブメディアにこれだけ黙殺され、これだけ歪められた報道をされ、これだけミスリードをされ、いじめられてきたのに、そこにまだ操を立てて、広報がIWJの取材を拒んでいます。こういう、体質の異常さを、日々当たっていて感じるわけです。『メディアがどのような報道をしているか、ということぐらい理解しろ』と、言いたくなります。そういう鈍感さと言いますか、これは言葉を重ねて批判したいと思っています。

 しかし、それはそれとして、今回の本題に入りたいと思います。『TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会』があげている、この質問項目の6項目を、少し噛み砕いて教えていただきたいのですが」(※10)

(※10)日本の国益を守るためにはTPP交渉参加を撤回するしかない-「日米事前協議」の結果は日本側全面屈服以外の何物でもなかった- 2013年4月27日 (土)
(TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会より)

醍醐「これは質問項目ではなく、声明ですね」

岩上「ごめんなさい、声明ですね。少し説明させていただきます。

『4月12日に日本のTPP交渉参加承諾を得るための米国との事前協議が終了し、その結果が両国政府によって発表されました。』そしてそれは『日米協議の合意の概要』、『佐々江駐米日本大使と米国通商代表(USTR)マランティス代行との相互書簡』。ただし、これは両方、違うことを言っているのですが。そして『設置が決まった日米2国間自動車貿易並行交渉への付託事項』それから、米国USTR発表の『マランティス代表代行の声明』、『事前協議合意内容概要報告』、『日米2国間非関税措置問題並行交渉での対象事項説明書』。

 こういうものが、向こう側の政府の説明等にある。あるけれども、これを見るとおかしなことだらけだと。これをきちんと説明してくれということで、これ以下、6点の質問を突きつけているわけです。これをご説明いただきたいと思います」

醍醐「これは、日本側の発表文書とアメリカ側の発表文書を比較したものです」

岩上「佐々江駐米大使と、マランティス代行の相互書簡は『内容が合っている』と言いながら、それぞれの国が出しているものが違いますよね」

醍醐「これは複雑な状況になっていますまず、一応、政府としての発表文書をここにあげました。これが、日本側が発表した『日米協議の合意の概要』というA4の一枚の文書です。(※11)それに対して、アメリカの方は『日本との協議事項報告』(※12)というものです。これは結構長い文書です。ですから、日本の文書が本当に簡単すぎる内容になっている、ということだと思います」

 それから、違う種類の文書として『往復書簡』(※13)というものがあります。それから『非関税障壁報告』があります。非関税分野の話が、この間に附属文書としてあるわけです。それぞれが非常にねじれています。

(※11)「日米協議の合意の概要」(PDFファイル)(首相官邸より)

(※12)「USTR 2013.4.12 TPPへ向けて:日本との協議事項報告 <仮訳>」(山田正彦のウィークリーブログより)

(※13)「駐米日本大使発書簡/米国通商代表代行発返簡」(PDFファイル) (仮訳)2013年4月12日(内閣官房より)

 まず、個別の文書の中身に入る前に、私が非常に問題だと思い、記者会見でも発言した『それぞれの文書に食い違いがある』ということは、朝日新聞、東京新聞、日本農業新聞も報道しました。この部分に関しては、大手メディアもそれなりに報道しました。

 ところが、それを指摘された内閣官房の担当官は、その食い違いが出たことに対して『日本政府として発表をする前に、相互にすり合わせや確認をしなかったのか?』と聞かれ『していない』と発言しています。そして『食い違いが起こっていることについてはどうするのですか?』と聞かれ『我々は関知しない』と言っています。内田聖子さんが、後でこの件について質問したところ『たくさんあるから、適当に主なものをピックアップしたんだ』と言ったと」

岩上「すごいことを言っていますね」

醍醐「例えば、テーブルに載せる項目の非関税分野の取り組みについて、日本は5項目、アメリカは9項目となっています。日本の文書にはなく、アメリカの文書にはある4項目の中には『政府調達』、『知的財産権』、『速達便』、『競争政策』という、極めて重要な項目を日本は落としています。『等』とは書いてありますが入れていません。これは非常に大きな問題だと思います」(※14)

(※14)TPPで日本はどこまで「奪われる」のか?―「日米事前協議」の今後を「USTR貿易障壁報告書」から読み解く 2013年4月21日日曜日(Acts for Democracyより)

岩上「私たちも、実は内閣府の担当官に直接取材をした時に『日米両国がどこをつまもうと、国内向けに発表している文章だから、自国政府の都合で国内向けに何を書こうと勝手だ。自由だ』というふうに開き直っていました。そして『このことは問題ではないし、USTR文書の仮訳を作る気もない』と言っていました。

 この『USTRの仮訳を作らない』という問題に関して、日本側が『Custom』という言葉について『関税』あるいは『税関』、どちらにも意味が取れるようなことが以前ありました。そして、IWJが『これは関税交渉はもうないという意味ではないか』ということをブログに書いて炎上しました。そのことを、森ゆうこ議員が『USTRの仮訳も作ってないじゃないか』と国会で質問したところ『議員が言うならばお届けします』ということになり、そして、安倍総理まで『国民に広く知らせるようにして、もうすでに明らかになったものに関しては、仮訳も公表します』と発言しました。

 ところが、今日のこの時点において、森さん個人にUSTRの仮訳を届けただけで、いまだに外務省はホームページに公表していません。そして『USTRの仮訳を作るべきだ』と言ったことに対して、内閣府の担当官は『仮訳を作る必要性もないし、作る気もない』と、開き直っています。国民に対して『正確な情報を広く共有しようという気はまったくない』ということをはっきり言っています」

醍醐「私たちは、そうやって都合の良いところだけをつまみ食いしているのは、日本だけではなく、アメリカでもそういうことが起こっていることを十分承知しています。

 例えば逆に、日本の文書には書かれていて、アメリカに書かれていない重要なセンシティブ項目がそれぞれ存在する、ということは日本側の文書には書かれていますが、アメリカ側の文書には書かれていません。これは恐らく、アメリカ側としては余り触れたくないところだったのだろう、と想像しています。

 しかしながら、今の日米の力関係から言って、アメリカがこれに関して言及していないということになれば……しかも、議会に三ケ月かける、通知する文章の中にも、それについて触れられていないとなると、議会はそういうものとして受け取るわけです。

 その上で『日本をTPPに参加させるかどうかを判断する』ということになってきますと、今後の交渉でも、日本が重要なセンシティブ項目と言っているものについて、本当にアメリカが同じレベルの意識になって考えているのか、と言えば、極めて雲行きが怪しいわけです。その点については、そういう曖昧なことでは困るわけです」

岩上「そうですね。アメリカはあくまで『例外なき関税撤廃というのを前提にする』という建前で国内に説明していると。先日、山田正彦前農林水産大臣、首藤信彦前議員、舟山康江現参議院議員らを中心とする訪米団がアメリカに行き、その帰国報告会の記者会見(※15)には私も出席して質問いたしました」

(※15)TPP慎重派訪米団が帰国会見 米国議員は「TPPと安全保障はリンクしない」と認識! ~TPPを考える国民会議「米国におけるTPPに関する実情調査団」帰国会見 2013.4.26 (IWJ)

醍醐「昨日、拝見させて頂きました」

岩上「そこで、はっきりと言っていたのは『20余りの事務所に立ち寄ったが、アメリカ側の議員たちは、ほとんどそれを認識していない』、『どこへ行っても、基本的には例外なき関税撤廃が前提だ。そして、日本側は一枚岩になって喜んで、国内の意見はまとめたからTPPに入らせてくれと言ってきている』、『USTRの説明とまったく食い違うじゃないか』と怒られる方もいたと。

 さらに、USTRに直接押しかけて『これはどういうことだ』と聞いたら『この例外なき関税撤廃というのを認めるということは、最後までイエスとは言わず、段階的な撤廃、もしくは、セーフガード、そういう手で多少緩和はする。しかし、原則的には、ここで日本があげている米、麦、乳製品、豚肉、牛肉も例外なく関税撤廃だ。そういう方向に向かって議論をする』と、はっきりそう言ったと」

醍醐「その通りです」

岩上「これは衝撃的ですよね」

醍醐「26日の、私たちの『TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会大学教員の会』の記者会見(※16)でも言いましたが。先程の『重要品目を特定しない』という形で、もう逃げの態勢に入りかけています。

(※16)「屈辱的な合意内容を、政府は隠蔽しようとしている」 TPP参加の撤回を求める大学教員の会が、国会議員に質問要請 ~TPP日米事前協議の米国追随的合意を告発し、参加撤回を求める記者会見 2013.4.26 (IWJ)

 もう一つは、これを仮に、アメリカが重要品目というセンシティブ項目の存在を認めて、なんらかの対応をしたとしても、それは期間の長短でしかないということです。5年、10年という形で日本に譲り、例えば『5年より少し長めにしてあげましょうか』という、時間軸の話です。ですから、もう初めからすでにそういう態勢に入っていると、私は思っています。

 ですから、JAや日本の農業関係者たちにしてみれば『重要品目を守ると言ったけれども、それは時間が問題だったのか』ということになります。ですから、これはもう、あきらかに裏切られていることと同じことです。『政府はすでにそういう裏切りを始めている』と、みないといけないと思います。

 ですから、本当に裏切られてしまう前にストップを掛ける。それには『もうここでTPP交渉から抜けるしかない』ということを、もっと声を大きくして言わないといけないと思っています」

岩上「そうですね。おっしゃる通りです。例えば、段階的な縮小ということでは、アメリカ側が自動車に関して『日本車の輸入に関しては自分たちの関税は守る』と言っています。『少なくとも5年、最長で10年以上』と言っています。

 問題は、そのさらに後の10年後に関税が撤廃されたとしても、アメリカにはスナップバック条項があります。これは、不都合があればアメリカの都合によって関税を元へ戻せるという条項です。

 しかし、例えばもし、段階的に時間をかけて関税をなくした後、安い米が輸入され、日本側の米が壊滅的な打撃を受けた時に、日本はスナップバックを適用できるのか、関税を元に戻せるのかという、このスナップバック条項の議論が全く出てきません」

醍醐「スナップバック条項については、岩上さんの年来のご主張なので、私は触れませんが。ただ、私もここに一応入れております。

 日本は、自動車については延長されたとはいえ『最長』となってしまいました。それでも『関税の撤廃のめどは立てた』という形で、それが唯一といえば唯一の、今、日本政府が言っている勝ち取ったものです。それを政府は『メリット』と言っています。しかし、そのメリットも、今おっしゃった『関税を一旦は撤廃した。しかし、改めてもう一度、課税を復活させることができる』というのが、スナップバック条項です」

岩上「『TPPに入るメリットはあるのか』という話になると、私はいつも『ない』と言っているのですが。それでも『メリットはある』と言い張る人は『自動車等の輸出産業が潤うんだ』と言います。しかし、その潤う輸出産業についてよく見ると、日本側の合意文書には記載がありません。

 しかし、アメリカ側の文書にはこんなにたくさん書いてあります。『簡単な手続きで日本に輸出できるようになる』。そして、これがひどいのですが『米国車の台数を2倍以上にする』と。これは、自由市場ではなく、数の割り当てです。これでは、どこが計画経済で、どこが自由市場経済なんだと言いたくなります。

 これは結局『民間人が米国車を購入しない場合、日本政府、あるいは自治体が公用車として購入しない限りは、これだけの米国車の購入は無理だ』という話になると思います。これは昔から言われています。そして結局、スナップバックでいつでも関税を元に戻せますから、全く意味がありません」

醍醐「おっしゃる通りです。先程『日本は農産品のスナップバック条項を、アメリカに対して求めているのか』というお話がありました。しかし、私は日本は求める意志がないと思っています。ただ、例えば『農業のような第一次産業で、10年が経ち、日本がひどい目に遭い、もう一度自給率を上げないといけないという形で、スナップバック条項を適用できるような状態に、その間、農業を保つことができるのか』という問題があります。しかし、これはまず無理だと思います。その時には、スナップバック条項を適用する・しない以前に、担い手が耕作を手放し、離散してしまっていると思います。

 そういう意味でも、工業製品と第一次産業の農業製品を、同じ競争に晒すということは、いかにこれが条理に合わないかということが、このスナップバック条項の適用ができるか・できないか、という意志の問題においても表れていると思います」

岩上「そうですね。ですから、求めるのは当然だと思いますし、逆に言いますと、アメリカのスナップ条項は認めるべきではないと思います。しかし、仮に認めたとしても、現実的には農業にはふさわしくない、そして有効とは言えないと思います。保険分野についても、日本に関して記載がありません。つまり、それだけ『不都合だった』ということですよね」

醍醐「先程、甘利さんが『日本は大関だ』と言っていたと言いました。しかし、ここを読んでいただいたらわかると思うのですが、要するに『郵政の民間の保険会社、日本郵政と平等な競争条件が確保され、日本郵政の保険が非公営のもとで運営されるまで、新規、または修正されたがん保険、および単独の医療保険の許可をしないということを、日本政府が一方的に通告してきた』ということが書かれてしまっています。

 こういうことを書くということは、アメリカが日本に恥をかかせているようなものです。こういうふうに、交渉する前から自分で白旗をあげていますから、交渉力もなにもないと思います。それなのにどうして『日本は大関』なんですか。はじめから相撲も取っていません」

岩上「そうですね。この同じタイミングで『TPPとは関係がないんだ』と言いながら、麻生副総理・金融担当大臣が、日本郵政のかんぽ生命が『がん保険の新商品を出したい』という要請をしていたのですが『金融庁としては当面認めないことになった』と言っていました。このがん保険は、現在、アフラックが市場を独占しています。そして、これは日米保険協議で『日本の業者は参入させない。アフラックだけにいい思いをさせる』ということが、以前決まり、それを引き継いでいるわけです。

 その時の質問で『これはTPPと関係あるのですか?』と聞かれた時に、麻生副総理・金融担当大臣は『全く関係ない』ととぼけていました。しかし実は、事前協議の結果というよりも、協議もせずに日本側が白旗をあげて、自ら『出しません』と言ったということですよね」

醍醐「ですから、こちらの日本の文書にはその記載がありません」

岩上「すっとぼけですよね」

醍醐「自動車についても『後ろ倒しされました』ということは、一応書いてあります。しかし『輸入を2倍にする』、『輸入手続きを簡素な状態にする』ということについて、一切日本は触れていません。ですから、そういう情報開示の時点で、非常にミスリーディングなことをしています。それなのに『自分は大関だ』と言っているわけですから、困ったものだと思います」

岩上「マンガみたいな話ですね。他にも色々ありますが、こういうことを見ていくと、この問題には大変大きな問題があるということがわかります。

 まず、皆さんの『国会議員への質問要請項目』の5項目について読み上げさせていただきます。まず1番目『「事前協議」と呼ばれる交渉の全体像について』説明せよ。それから、2番目が『公開文書の不一致について』これを明らかにせよ。そして、3番目に『非関税措置に関して』説明せよ。それから、4番目『日本に課せられた不利な交渉プロセスについて』明らかにせよ。それから、5番目『米国以外との事前交渉内容の情報開示に関して』説明せよとあります。まず、先生に、これを順番にご説明していただきたいと思います」

醍醐「この5項目については、4月12日に日米の合意文書が発表された直後に、アジア太平洋資料センターの事務局長の内田聖子さんが、ご自分のブログで書いて色々発信されました。(※17)私たちは、それを非常に参考にさせていただいています。

(※17)嘘とごまかしの政府発表―TPP日米事前協議内容を検証する(Act for Democracyより)

 私たちがここで書いた、5つの項目の1番目には『一体、事前協議はいつから始めたのか?』そして『日本とアメリカの言っていることが違うじゃないか。アメリカは、2010年2月から始まったと言っている。ところが、日本は、4月12日に日米合意の結果を公表するまでの間、事前協議を現実に進めているということについて、公式には何も言ってこなかったのではないか?』と書いたのですが、今は、ここにはもう少し説明が必要だったと思っています。

 そもそも、私もこの2、3日の国会の会議録を『TPP』&『事前協議』で検索をしてみて、色々なことを知りました。というのは、そもそも日本政府は『事前協議』という言葉を非常に曖昧に使っています。

 これは、余り良い例ではないかもしれませんが。ある国会議員の発言では、結婚のことを例え話に使っています。『交際しませんか?交際しましょうとオファーしたという意味なんですか?』、『交際をし、婚約をして、いよいよ結婚しましょうかという段階になっているのですか?』という言い方をしています。

 しかし、政府は非常に曖昧に『情報収集するために加盟国に担当官を派遣している』という言い方をよくします。そして政府は『情報収集して交渉に参加するかどうかは、国民の皆さんに情報をお伝えして判断します』と言ってきました。

 ところが、情報収集をして、どんな情報が集まったのかということについては、国民、あるいは、国会にすらまともに何も報告をしていません。そして、いきなり3月15日に参加表明をする、ということになったわけです。

 この間、国会で何を言ってきたかというと、民主党の時代も自民党の時代も同じです。『聖域は守れるのか』と聞けば『まず、全ての品目をテーブルに載せるというのが決められた輪郭です。それは事実です』と。しかし、最後まで『それが聖域がない無条件全面撤廃と言えるのかどうかは交渉次第だ』という、判で押したような言い方をしてきました。それ以上のことは、個々の具体的な項目では何も言っていません。

 そして、その状態でいきなり『交渉参加』と発表しました。この情報開示のあり方について、私は国民に対して非常に重大な背信行為だったという点をもっと追及するべきだ、というふうに思っています。それが、1番目に書かれています」

岩上「『交渉過程で、実際になにが行われていたのかもう少し開示せよ』ということですね。例えば、野田政権の間に、カナダ、メキシコが加わるということになり『カナダ、メキシコは一切それ以前に集まった国々の決めたルールに口を挟むことも、異論を挟むことも、新たな提案をすることもできない、という条件を飲んで入った』という、事実が最近明らかになりました。つまり、昨年の時点で、日本政府はその情報を持っていたということになります。そして、最近までそれを隠していました」

醍醐「しかも『政権交代をした』といっても、民主党から自民党に引き継いでいるわけですから、それを自民党が知らないはずはありません。そして、メキシコとカナダが『蒸し返しません』というような誓約書を出していたということは、これはメキシコとカナダにとっては屈辱的だったと思います。しかし、そこまでして参加をしていた。そして、日本はそういうことについて、すでに文書まで手に入れていたにも関わらず、一切なにも言っていません」

岩上「ひどい話ですよね」

醍醐「これは重大な背信だと思います」

岩上「つまり、日本は、メキシコ、カナダよりも遅れて交渉に参加するわけですから、同じような条件として『一切口出しができない』ということを突きつけられる可能性が極めて高いと思います。しかし、そのことは都合が悪いので表沙汰にしなかったということですね」

醍醐「それから、一昨日のNHKのスペシャル(NHKスペシャル シリーズ日本新生「TPP交渉 どう攻める どう守る」)で、甘利大臣が『感触として、まだほとんど決まっていないという、私はそういう感触を持っている。これから参加して、色々な交渉でやっていけることが少なくないと思っている』というふうなことを言っていました。しかし、もし本当にそうであれば『どこまで交渉のプロセスが進んでいる』ということを、言わなければいけないはずです。『感触として』という言い方で、まだまだ交渉の余地があるような言い方をして、国民をそういう方向に誘導しているわけです。しかし、これも後から考えてみれば、この時点で彼がああいう発言をしたということは、これは重大な問題だと思います」

岩上「そうですね。『まだまだ交渉の余地がある』と言いますが『じゃあ、カナダやメキシコと日本は違うのか。カナダやメキシコは平幕が故に「一切の口出しができない」ということを制約させられたのか。日本は大関だから、いくらでも主導権を持っているアメリカに対して強いことが言えるんだ』ということなのかと。もしそうであるならば、この二ヶ国間の事前協議は非常に大きな試金石だったわけです。

 しかし、その試金石で日本側の要求というのはほとんど受入れられていませんし、むしろ自分の方から交渉もせずに投げ出し、アメリカ側の意向に沿っています。アメリカ側の意向を忖度して、交渉もせずに全面屈伏しています。ですから、なにを『交渉できる』と言っているのか理解に苦しみます。100%嘘を付いているとは思いたくないのですが、でも他に考えようがありません」

醍醐「おっしゃる通りです。ですから、口先で言うのであれば事実を示さないといけないと思います。しかし、今回の日米合意の発表文書を見る限りは、もう完敗しています」

岩上「そうですね」

醍醐「完全屈伏。屈辱的な内容です」

岩上「この2番目の『公開文書の不一致について』について今少し話しましたが、他になにか付け加えることはありますか?」

醍醐「これは先程の通りです」

岩上「そうすると、次に重要なのは『非関税措置』ということですね。『非関税措置』に関して、今までの話は関税のことが中心でした。

 ところが、実はTPPは、この入口の関税の問題だけではなく、国内の制度をアメリカの資本にとって都合の良いように改造させられるという内容を含んでいます。そういうことについて、疑問を持っていらっしゃるということなのですが。とりわけ『この概要の中に含まれなかった部分が重要なのではないか』ということですね。

 『3.非関税措置に関して 日本政府の「概要」では、日米協議にて議論した非関税障壁は5項目(保険、透明性/貿易円滑化、投資、規格・基準、衛生植物検疫措置等)とされている。しかし「合意文書」および米国発表では、9項目(上記5項目プラス急送便、知的財産権、政府調達、競争政策)が列記されている。また米国リリースでは、各項目についての内容説明がなされているが、日本政府「概要」にはそれがない。これについて以下の点を質していただきたい』ということなのですが。先生はどの点にとりわけ強い懸念をお持ちでいらっしゃるのでしょうか?」

醍醐「一つは、アメリカがあげて、日本であげていないこの4項目の中に、例えば『知的財産権』、『政府調達』、『競争政策』というものがあります。この辺りがむしろ、1番日本にとっては脅威になる項目です」

岩上「なるほど。例えば、先程の郵政の話ですと、もうすでに日本は白旗をあげてしまっています。例えば、知的財産権について具体的な内容が入らなくても、競争政策の面から『公平な競争条件になっていない』という言い方で、アメリカはこれにクレームを付けることができます。

 知財の方で言わなくても、日本にあるあらゆるルール…… 例えば、これはどうするのだろうと思うものに『ゆうちょの限度額』があります。これに限度額を設けているということ事態、よく民間企業から見て不利な状況に置かれていて『郵政を優遇している』というふうな言い方よくされます。

 ところが『1,000万円という限度を設けている』というと、これは逆の関係ですよね。『じゃあ、こちらの方はその預入の限度額はどうするのですか?』と。これは、郵政にそれだけの不利な条件があるということです。ですから『これはどうするんですか?』という話も起こりうるわけです。

 その時に、アメリカが『確かにそうですね。その点については、日本の郵政の方が不利な条件になっているから限度額をなくして、対等な競争にしましょう』というふうな話になるのか、ということです。そして『そこに多額の資産を預け入れる、預け変える人たちが出るかもしれない、それで良いんですか?』ということですよね」

醍醐「それから、そもそもここで『公営でやっていること事態、競争条件がイコールではない』という言い方をされると、日本郵政の経営形態のあり方という、極めて、これは日本の国内の金融政策にとって根幹に触れる問題を、アメリカ、他の外国政府、そして外国資本から手を突っ込まれてくる、可能性があります」

岩上「内政干渉ですね」

醍醐「そうです。まさにこれは主権の問題です。そういう問題がすぐに起こります。それが、知財で来るのか、競争政策で来るのか。政府調達というのは、一種の内国民待遇(※18)ですから、それで来るかもしれません。こういうことが『日本の主権を脅かす』という点において、極めて深刻な問題について政府はわざと触れていないと思います」

(※18)【内国民待遇】相手国の国民や産品を自国の国民や産品と同等に取り扱うこと。自国民待遇。

(大辞林 第三版の解説より)

岩上「本当はここをきちんと議論しなくてはいけない。例えば『公平、公正な』の意味は、機会の平等なのか、それとも結果の平等なのか、ということですよね。これは、至るところで議論される時に必ず用いられる、一つの基軸だと思います。

 機会の平等、そして、そこからの自由の競争。そして、その後の優勝劣敗は受け入れるのならば、ここに書かれた『米国車の台数を2倍以上にする』という、日本側が受け入れる数値目標を立てることは、全く機会の平等ではありませんよね」

醍醐「その通りです」

岩上「こんな不平等な話はないと思います。それから、言い忘れていましたが、アメリカは、日本車の輸入に関しては関税をかけています。そして、それを簡単には引き下げない、ということを言っています。

 しかし現在、日本では米国からの輸入車に対して関税はもうかけていません。ですから、もうこの時点で、平等でも公正でもありません。それなのに、アメリカは結果の平等を日本に求めています。

 例えば、ゆうちょ銀行について『公営サービスというのはある限り、アメリカの資本が競争のスタート点に立てない』と文句を言っています。しかし、先生がおっしゃられたように、預け入れの限度額をなくして、ゆうちょ銀行に多くの人の預金が流れ、アメリカの金融機関には預金が流れず、保険も売れなかった、というようなことが起きた時に、それをアメリカは受け入れるんですか?ということですよね」

醍醐「その通りです。それから『よく機会の平等か、結果の平等か』という言い方をして、新自由主義的な人たち、競争原理を重視する人たちが『機会の平等が保たれていれば、結果については問わない』という言い方をよくします。

 しかし、ある機会を変更すれば、結果はそれにともなって変わるわけです。そして、その変わった結果について、やはり、誰かが責任や結果を負わなければいけません。その時に、例えば、外国資本が日本に来て『結果が思わしくないから、すぐに撤退する』ということになれば、その結果だけが放り出されてしまうことになります。

 ですから、私から言わせれば『機会の平等か、結果の平等か』という、そういう2項的に、本来割り切れるのかということ。そして、結果について責任を取らない人にどこまで機会の自由を与えるのが良いのか、ということ。これは決して一律ではないにしても、そういう問いかけをしないと議論が十分ではないと思います」

岩上「そうですね。おっしゃる通りです。それから、この中に『公共調達』というものがあります。この『公共調達』というものは、政府だけではなく、都道府県、あるいは地方自治体に至るまで、アメリカの業者が公共事業等の入札にスムーズに応じることができるような環境を整えなくてはいけない、ということになっていくわけです。

 例えば、ミネソタの建設会社やバージニアの資材調達会社が、日本の田舎町の小さな公共事業の入札に対してスムーズに入れるようにならなければ駄目だと。そうすると、英語のホームページや、英語の資料、英語のできる職員も用意しなければならない。しかし、アメリカの田舎の公共調達が全て日本語で書かれるようになるのか、と言えばそうはならないと思います」

醍醐「その通りです」

岩上「これは、フェアではありませんよね」

醍醐「フィリピンでは公用語が英語になりました。日常生活は別にしても、日本でもそうなる可能性があると思います。例えば、公共調達の場合『日本語で書かれているから、色々な入札条件を全て読むことができない。今の時代に、英語が公用語でないのはおかしい』という話になれば、これはまさに日本文化・言語が塗り替えられていく可能性があります。『その辺まで覚悟をして、本当に議論をしているのか』ということが重要だと思います。

 もう一つ重要なことは、政府調達となった場合、TPPというのは形の上では国と国の関係です。しかし、地方自治体の公共調達となると、国は『直接の当事者ではない』と、今のところの解釈では言っています。例えば、アメリカの企業が政府調達(公共調達?)について異議を唱えた場合『個々の地方公共団体をISDで訴えるのではなく、日本政府を訴える』と言っています。

 そうなると、今度、日本政府が国内で『地方分権』と言い、そして『アメリカ企業からこういうクレームがついたから、なんとかこれを変えてもらわないと困る』と地方公共団体に伝えた時に、権限が地方公共団体にある場合『日本政府はその地方公共団体にどこまで介入するのか』という問題が出て来ます。そして、日本政府が地方公共団体に本格的に介入すれば、地方分権ではなくなってしまいます。ですから、こういう国内法の体系が崩れてしまう、乱されてしまう、という問題が起こりうるということまで考えていないのではないか、と私は思います」

岩上「そうですね。先程のフィリピンの公用語が英語になったという話がありましたが、これはもうはっきり言えば植民地化だと思います。TPPの中には『間接収用』という概念もありますから。『直接的な収用』というのは国営化とか、そういうことです。外国資本が入り操業していたものを、ある独裁的な政権が成立すると国有化してしまうということです。しかし、『間接収用』というのは、そういう強権発動がなくても、部分的に、あるいは間接的に非効率な色々なコストを負わされる。

 特殊なその国の制度や法律、そして規制といったもの、それから文化、伝統、慣習まで、アメリカ企業がアメリカ国内でスムーズに仕事ができて、得られるべき、期待できる利益と同じものが得られなければ、その余分にかかったコストを、間接的に収用することができるというものが『間接収用』です。これは、ある種、アメリカに国営化されたことと同じことです。そして、この間接収用をたてにアメリカからISDで訴えられる。

 ということは、日本語のできないアメリカのビジネスマンが日本に来て、通訳や翻訳が必要となった場合『これは間接収容だ』という理屈で、そのつど訴えられるということになれば、これは大変なことだと思います。

 ですから、公共調達のホームページや、官庁の文書を、次々に英語に書き換えなければいけない、ということになるかもしれません。『USTR英語の文書は英語で読めれば良いんだ。日本語の仮訳は作らなくても良い』という態度ですから、外務省や内閣府ではもうすでにそうなのかもしれません。そして、それを国民や国会議員に提示することすらしなくて良い、という状態になっています。

 そうすると、一握りの熟達した英語の使い手以外は、その文書の内容を把握せず、ことが進められていってしまうことになる可能性があります。つまり、日本の公用語が英語になってしまう可能性があります。これは植民地と同じことですよね。日本の右翼はなぜ怒らないのか、と本当に思うのですが」

醍醐「ですから、私は『TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会』のメッセージで何度も言っているのですが『このままいくと、アメリカの属国、あるいは多国籍資本の属国になるのではないか。国家の上に、世界企業の権力が上に立つような秩序ができるのではないか』と。そして、それに対して非常に強い危惧を持つ方のメッセージが多く寄せられています。これは、現実的な指摘として無視できないと思います」

岩上「SF的な感じがしますが、これが現実ですよね。そして、これはさらに、先生方が指摘されている非関税障壁の中の重要な部分……先生が、先程『製薬会社の問題に関して、私はかねてより継続的な関心を持ってきた』とおっしゃられていましたが、その部分がかなり影響してくるのではないかと思います。これは知的財産権の問題になります。この医薬品の問題について、少しお話し願いたいと思います」

醍醐「今、日本は医療費の抑制のために色々なことをしています。その一つの決め手として、ジェネリック医薬品(後発医薬品)を普及させようとしています。日本は、ジェネリック医薬品の普及率が非常に低い国です。ですから、それを普及させようとして、そのために、今、先発薬(先発医薬品)の特許期間が切れるまでの間、二年ごとの薬価改定を段階的に引き下げていくという、仕組みをとっています。

 もう一つは、薬価を最初に売り出す時、あるいは製造認可をする時に、どれくらいの市場規模があるのかというのはわかりません。製薬会社が『一億ぐらいの市場規模が見込まれる』と言えば、そのコスト額で割ります。ですから『市場規模を小さめに見込めば、それだけ単価は高くなる』という仕組みです。

 そして、中医協(中央社会保険医療協議会)、中央薬事審議会の委員から、このところずっと批判が出ていることは『2~3年経ってみたら、当初、申請があった市場規模の2~5倍なんてざらにあるじゃないか』と。ですから、それだけ薬価が高く設定されているということです」

岩上「高く、たくさん売っている状態になっているわけですね」

醍醐「そうです。ですから『5年、10年後というかたちでチェックして、市場規模が狂った場合には単価を下げる』ということを決めています。ところが、この二つの薬価の見直しについて、昨年の冬の総選挙の時に自民党は『薬価の定期的な見直しと、市場規模の再算定方式をして薬価を引き下げることは、新薬の意欲を削いでしまうから止めよう』という公約を掲げました。

 そして、今回、自民党がそういう公約を掲げたことと同じことを、アメリカが言ってくるのではないかと、私は考えています。オーストラリアは以前そういうことをされました」

岩上「オーストラリアではどういうことが起こったんですか?」

醍醐「オーストラリアというのは、元々、先発薬(先発医薬品)と、ジェネリック医薬品の住みわけをしていました。日本と同じように、値段の高い先発薬(先発医薬品)からジェネリック医薬品のような安いものに置き換わっていくという形で、F1(ブランド薬)、F2(ジェネリック薬)と分類していました。大体、大手製薬資本というのは、先発薬(先発医薬品)ですから、ジェネリック医薬品ではない方を扱っています。そして、そのジェネリック医薬品への引き下げの仕組みが、オーストラリアでは壊されようとしていたのですが、結局、最後は守りました」

岩上「守ったんですか?」

醍醐「最後は守りました。そして、今、世界で一番ジェネリック医薬品の普及で危機に立たされているのは途上国です。国境なき医師団(※19)が、途上国でHIVの治療をしている時に使用している医薬品は、8割ぐらいがジェネリックです。これは値段が安いために使用することが可能になっています。

(※19)【国境なき医師団】
ブリュッセルに国際事務局本部を置き、世界19カ国に支部を持つ国際医療ボランティア団体。1968年のビアフラ飢餓救済活動に参加した医師らを中心に、71年に結成された。フランスほか欧州を中心に、15カ国の医師や看護師約6000人が登録している。92年に日本にも事務局が設置された。戦災地、難民キャンプ、自然災害被災地等での救助にあたるほか、イラン・イラク戦争ではイラクの毒ガス使用の調査もした。平均して毎年、60~80カ国に2000~3000人を派遣している。年間3億ユーロ前後の予算の約80%は市民からの寄付、残りは欧州連合(EU)及び国連難民高等弁務官事務所からの資金提供で賄う。類似団体として、80年に結成され、パリに本部を置く世界の医師団(MDM、約2500人)がある。(知恵蔵2013の解説より)

 しかし、ノバルティス社というスイスに本社がある製薬会社が、自分たちの先発薬を普及させるために、ジェネリック薬をいわば不当に扱おうとしています」

岩上「ノバルティスファーマという製薬会社のことですね」

醍醐「そして、その製薬会社がインドでISD条項をたてに訴えを起こしています。(※20)それに対して、国境なき医師団は『ジェネリックの普及が脅威にさらされる。安価で質の高いジェネリック薬(後発医薬品)は医療援助活動に不可欠だ』(※21)と書いています」

(※20)インド:“途上国の薬局”の役割を損なうおそれ――ノバルティス社訴訟
(国境なき医師団より)

(※21)環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が薬の流通を脅かす(PDFファイル)
(国境なき医師団より)

岩上「MSFというのは国境なき医師団のことですね」

醍醐「『MSFが使用するHIV治療薬の約80%がジェネリック薬である』。『結核やマラリアなどの感染症の治療にもジェネリック薬を使ってきた』、『安価で良質なジェネリック薬を援助活動に使ってきた』と言っています。

 そして『世界貿易機関(WHO)が1995年に設立され、包括的な相互協定である「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」が締結されてから、途上国は公衆衛生の保護とTRIPS協定に対応する特許法の整備の板挟みになってきた』と。つまり、途上国では、公衆衛生上なるべく安価な薬を普及させて、マラリヤなどの伝染病や、感染病を防ぎたいと。

 ところが『知的財産権の保護』という観点から見ると『先発薬、値段の高い薬価を不当に差別してはいけない』ということになり、そこで矛盾が起こるわけです」

岩上「せめぎあいになっているわけですね」

醍醐「そこで国境なき医師団は『特許の拡大解釈、異議申立ての制限、知的財産権の拡張、データ独占権の設定等を撤回するべきだ』、『オバマ政権は、2007年の新通商政策で当時のブッシュ政権と議会が合意した「公衆衛生の保護」から遠ざかってはならない』と言っています。ですから、こちらを重視するのであれば、知的財産権の保護をむやみに拡張してはいけない、ということをここで言っているわけです」

岩上「ブッシュ政権の末期ですら『公衆衛生は必要だ』ということが、議会で合意されました。しかし、オバマ政権になり、むしろ逆に知的財産権の強化に傾き、そして公衆衛生の方が圧迫されているという傾向にあると思います」

醍醐「そうですね。日本の場合は、厚生省が目標までたてて(※22)『医療費の引き下げのためにジェネリック薬の普及』と言っています。しかし、もし仮に、インドで起きたことと同じようなことが起きると……」

岩上「『インドで起きたこと』を、少し説明していただけたらありがたいのですが」

醍醐「インドで起こったことというのは、ノバルティス社がインドに対してISD条項で訴訟を起こしました」(※23)

(※22)厚生労働省では「平成24年度までに、後発医薬品の数量シェアを30%以上にする」という目標を掲げ、後発医薬品の使用促進のための施策に積極的に取り組んでいます。(厚生労働省より)

(※23)特許制度を利用したジェネリック薬の排除にストップ!(2013年4月1日現在)(国境なき医師団より)

岩上「ISD条項というのは、元々、有利に立つ先進国が途上国と結ぶものですよね。しかし、途上国では法制度が未整備なものもあります。そこにつけこんで、入ってきた外資や先進国の資本の優位性を確保していく手段として使われていますよね」

醍醐「ノバルティス社はスイスに本社があります。そして今、EUはインドとFTA協定を結んでいます。このFTAには『海外投資に関する条項』というものがあります。それをたてにして『欧州企業の利益や投資が、インドの安価なジェネリック薬の普及政策により損害をこうむる恐れがある』と判断した場合、インド政府を提訴することが可能になっています。

 現に、インドでは、2006年に『ノバルティス社の抗癌剤の特許申請が模倣薬だ』と判断されて申請を却下されています。これは抗がん剤のメシル酸イマチニブ(商品名:グリベック)です」

岩上「インドで新たに抗がん剤が開発された、と聞きましたがなんという薬でしょうか?その薬が認められなかったということですか?」

醍醐「ノバルティス社はグリベックの特許申請をインドでしたのですが…… 今のアメリカの基準では、成分を少し変えれば、効能が変わらなくても新薬とみなされます。しかし、インドでは『成分を少し変えただけでは新薬とはみなせない、これは模倣薬だ』ということで、特許申請を却下しました」

岩上「先程のインドの抗がん剤は、このグリベックの模倣薬ということですか?」

醍醐「インドの抗がん剤ではなく、ノバルティス社の抗がん剤です。ノバルティスが、インドで『これを発売したい』という形で申請をしたものです。おっしゃられている、その模倣薬がなにかは私にはわかりません。そして、先程、言ったように、ノバルティス社は『自分たちの利益や投資が損害をこうむった』という形で、インドで訴訟を起こしました。

 それから、ノバルティス社は、同じ抗がん剤のグリベックを、2001年に韓国で発売・販売を開始する時に、特許権を盾にして、一ケ月に300万ウォン以上の価格を要求しました。

 しかし、韓国の白血病患者は、これに猛然と反発し、薬価の引き下げや保険の適用拡大を要求し、1年以上戦いました。その結果、国内で反対運動は起こったのですが、韓国政府の福祉部は、ノバルティス社のほぼ要求通り、特許権の対価として270万ウォンという形で、一割下げたところで決着をつけました。このノバルティス社の抗癌剤は、分子標的薬としてすごく効用が強いと、日本でもNHKが放送していました。(※24)しかしこれは、今でもものすごく高価な薬です」

(※24)問われる“夢の医療” ~追いつめられる患者と財政~ 2011年1月25日(火)放送(NHK クローズアップ現代より)

岩上「高価なんですね」

醍醐「ですから飲み続けられなくて、途中で投与を断念して命を落としてしまった、という人がいるということを、クローズアップ現代で放送していました」

岩上「一錠約3,130円で、一日4回服用する。高額な医療に関しては『高額医療費制度』という補助があるのですが、それを利用しても患者負担が月4万4,000円になり、年間では50万円になる。これを、白血病で服用して方が、あまりにも家計に負担になるので、奥さんに内緒で、これの服用を止めてしまい、お亡くなりになってしまった、という放送だったと思います。

 これは、今、日本にとって非常に重要なことだと思います。なぜなら、原発の問題が起きましたから。そうして、今、放射能は様々な形で拡散しています。『因果関係はどうか』ということは、最終的にはわからないかもしれませんが、白血病やがん患者が増える可能性があります。福島原発の事故で放出された放射能で病気になった、ということを説明するもなにも、当人たちは闘病しなければいけません。

 しかし、その時に、こういう特効薬があれば助かると思います。ところが、その薬が高価で手に入らないために命を落としたり、若くして死ななくてはならない、などという悲劇が、今後増えていく可能性もあるわけです」

醍醐「結局、分子標的薬というのは、すごく効用があるんです。これ自体が『夢のがん治療薬』と言われています。ただ、それが『すごく高い』ということで、なかなか飲み続けられない。ですから結局、金の切れ目が命の切れ目になってしまっています。

 今の日本では『薬価制度』が、まだ非常に遅れているのですが『少しでも薬価を下げていこう』という仕組みがあります。例えば『二年ごとに薬価の見直しをする』。それから『市場規模が想定したよりも大きければ、その分もっと単価は下げる事ができるのではないか』という形で『再算定制度』というものがあります」

岩上「再算定制度」

醍醐「しかし、TPPに参加しますと、こういう制度に対して『特許権侵害だ』、『投資と利益の保護に際して損害をこうむった』と言われることは、私はほぼ間違いないと思います。『日本のそういう制度が非関税障壁になっている』と言われてしまう可能性は非常に高いと思います。ということは、薬価制度そのものが揺さぶられてしまうことになります。そして、日本の医療財政は今でも非常に厳しいのに、もっと厳しくなる、という波及影響が出てくると思います」

岩上「同じ財政規模で、薬の単価が高くなり、安い薬が増えなければ、これは結局、同じ財政規模でも、扱える薬の数が減るわけですよね。そうすると、保険適用を減らすしかなくなります。これまでは、保険でカバーできた薬や治療が自費になり、保険適用できる範囲が縮小していくということですよね」

醍醐「おっしゃる通りです」

岩上「そのようなことになれば、特に、生活習慣病や慢性疾患などを持っているような多くの方々が、大変苦しむことになりますね」

醍醐「そうです。ですから、今の話をもう少し掘り下げれば、国民皆保険の話に関係してきます。このように薬価が高止まりし、医療財政が厳しくなってきますと、もうすでに政府は言っていますが『医療の効率化』ということになります。

 これはどういうことかと言いますと、例えば『軽い風邪のようなものならば、保険の適用外にしましょう』ということが、もう現に言われています。これは、一見もっともに聞こえます。『風邪を引いたぐらいで、いちいち保険をかけなくたっていいじゃないか』と。

 ところが、特に高齢者の方はそうなのですが。『風邪』と言っても、本当に文字通りの風邪だけなのか、ということがあります。『風邪は一つの症状の現われであって、なにかもっとその奥に病気があるのではないか』ということは、当然、起こります。高齢者は風邪をこじらせるだけでも、命に関わる問題が起こる場合があります」

岩上「もっと重篤な病を併発する可能性もありますよね」

醍醐「そうです。風邪を引いて、最初に大きい病院に行くと、最近では総合内科という窓口に回されます。そこで、保険が適用されなければ、本来ならば、その後に行って診てもらうところがあっても、そこで断念してしまうということにもなりかねません」

岩上「入り口で終わってしまう」

醍醐「終わってしまうということが」

岩上「もしかしたら、その風邪の症状は、きちんと精密検査を受けたら重い病気の可能性があるかもしれない、しかし、その受診機会を失うということですね」

醍醐「『受診抑制』です。そうすると、よく自民党は選挙公約で『国民皆保険を守る』と言っていますが、先程の重要品目と同じで『どのような形ならば守ったことになるのか』ということが必ず問題になると思います。

 今、アメリカは『公的医療保険制度を止めて、私的保険制度に戻せということは言うつもりはない』ということを言っていますが、そんなことは当たり前だと思います。公的医療保険制度、国民皆保険制度は形の上では存在していますが、今でも、保険料が払えなくて滞納し、そして、健康保険証を持っていない人、健康保険証を取り上げられている人がいます。その結果、病院に通うのを控えている人がいま」

岩上「これは、先生のブログの中に詳しく数字が表れていたのですが。今、生活保護者が増えていると。これはやはり、失業や貧困というものが増えている、あるいは高齢化ということもあると思います。その生活保護者の中には、国民健康保険も持ってない人たちがかなりの程度いらっしゃるということが、明らかになったと」

醍醐「24%から25%です。つまり、生活保護の開始決定を受けた人の厚労省の統計資料があるのですが、生活保護の開始を受けた人の中で、なんらかの保険に直前に入っていた人と、入ってなかった人という、年代ごとの統計資料があります。そして、特に私が驚いたのは、40代、50代という、まさに働き盛りの人の中で、生活保護を受給し始めた四分の一、約25%の人が、どこの医療保険にも入っていません

 そうなってくると、国民健康保険制度や、国民皆保険制度があっても、受診が実際には経済的理由等でできない、あるいはできる人が狭まってくれば、これはもう国民皆保険制度が侵食されていることと同じことです。

 ですから、そういう侵食させるようなことが起こりうるようなTPPであれば、国民皆保険制度を守るにあたり、これは拒むべき仕組みだと思います。そういうふうに捉えないと、形だけの国民皆保険が残り『こうやって守っている』という言い方をされる可能性がおおいにあると思います。ですから、そこは今からしっかり議論しておかないといけないと思います」

岩上「気がつくと、非常に縮小したものになっている可能性があるということですね。アメリカのメディケア(※25)といわれるような、一応、貧しい人や、高齢者の人のための公的保険制度がある、と言われても、大変小さなものですから、全ての病気はカバーできません。そして、そのような程度のものになりかねないわけですよね。

(※25)【メディケア】
アメリカ・カナダの六五歳以上の高齢者や身体障害者などに対する政府の医療保険制度。入院に関する保険と医薬品に関する保険とがある。(大辞林 第三版の解説より)

 皆保険は、全国民がカバーされるから意味を持つわけでが、それがカバーされなくなると、健康な時は良いのですが、突然の病気、あるいは事故ということもあります。そして、そこで人生が転落してしまう、ということも起きかねないわけですよね」

醍醐「ですから『国益という言葉はそもそもなんなんだ』、『TPPに参加することで、守るとか、攻めるとかいうことは、何を守ろうとしているのか』そして『誰のための利益なんだ』ということを問わないといけないと思います。

 『どうしてそういうことを問わないといけないのか』と言いますと、実は『国民皆保険制度という形で受診機会を狭める』ということは、実はもう今の日本政府自体がそうしたいと思っているから起こっているのだと思います。そして、この日本政府の考えと、TPPで海外から要求されてくるであろうということが、合致しています。ですから、これについては『一体、国益ってなんなんだ』と」

岩上「国民のためではありませんよね」

醍醐「そうです。『守る』と言っていますが、実は、国益を守らないということが、自民党の政権公約と合致しています」

岩上「これまでは、企業が社会保障制度の半分を負担をしていました。しかし、この企業負担を止めたいという、財界の本音がありました。ですから、正社員ならば健康保険に入るのですが、健康保険を止めてしまう企業や、あるいは健康保険に入っているのに、企業負担をするような正社員の数を絞り込み、そして多くの場合、国民健康保険だけの非正規を雇う方向に向かうと。こういう企業負担を避ける方向、そして、そういう要求を企業側がして、その企業側の要求を政府が取り込んでいっている、という傾向とも合致しますよね」

醍醐「ですから、自民党政府が『TPPに参加して国益を守る』ということ事態が、その事実と自己矛盾になってしまっています」

岩上「少なくとも、国民益ではないということですね」

醍醐「その通りです」

岩上「資本益であると」

醍醐「そうです。ですから、TPPの推進派の人たちが言っている『メリット』というのは、全て企業のメリットです。これは、例えば、後で出てきますが『アジアの成長を取り込む』と言っていますが、これは、ベトナムやマレーシアのことです。これらの国で『攻めていく』と言いっています。

 しかし『どういう戦略があるのか』と言えば、今、ベトナムでは、自国の家族経営的な零細企業を守るために出店規制を設けています。それなのに、TPPにベトナムが参加していることを利用して『その規制をなくすことができるのではないか』ということで、日本のコンビニチェーン資本がそれを待ち望んでいます。これは、一昨日のNHKのニュースにも出ていましたが、ファミリーマートなどもそうです。

 ということは、この場合の『TPPに参加する国益はなんだ』と言えば、国民益でもなんでもありません。これは、そういうベトナムなどに進出し、販路を拡大したい資本のメリットでしかないということです。

 しかし、そこまでして、日本の企業が販路を広げることを、日本の国民がどれだけ本当に望んでいるのでしょうか。『ベトナムが、日本のかつての大店法(大規模小売店舗法)(※26)でなったのと同じ状態になることを、本当に日本国民は望んでいるんですか』という、そういう問いかけをしないといけないと思っています。そういうことでメリットが出たら幸せなのか、という問題だ思います」

(※26)【大規模小売店舗法】
正称は〈大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律〉。大店法とも略称する。1956年に制定された百貨店法に代わって73年に制定され,翌74年から施行された。この法律が制定されるに至った背景としては,スーパーマーケットなど百貨店以外の大規模小売業が急成長し,これらが中小小売業に重大な影響を与えるようになってきたばかりではなく,百貨店との間に法規制上の不公平という問題が生じてきたこと,社会の発展と消費者の購買行動の変化にともない,小売事業の調整基準にも変化が求められるようになってきたことなどがあげられる。(世界大百科事典 第2版の解説より)

岩上「『日本企業がまず儲かるんだ』、『大企業が儲かり、そして、その従業員に分前が行き、正社員が雇用され、手厚い福祉を受けられ、そして、下請け企業にもおこぼれが回り、国内が豊かになっていく』ということが『トリクルダウン』と言われました。

 しかし、トリクルダウンが起きるには、大企業が集積した資本が分配されていく仕組みがないと起こりません。正規の雇用を増やすとか、どれだけ人を雇うことができるのか、ということを競い合っているような時代ならば、それは意味があるのかもしれません。

 しかし今、財界が望んでいることは、ここまで非正規が増えたのに、正社員も簡単にクビを切ることができるようにしようとしています。ホワイトカラー・エグゼンプションの問題は、以前の安倍内閣の時に持ち上がり、見送りになりました。しかし、その焼き直しをしようとしています。

 『雇用はもっと流動化した方が良い』ということは『クビを切りやすくしよう』ということですよね。クビを切り、賃金を下げ、そして企業側が保険を負担しないようになれば、結局のところは保険財政も苦しくなり、そして、国民が自己負担しなければいけなくなります。しかし、賃金も減り、病気になってもお金がなく、医療費も高くとなれば、大変危険な状態になっていく可能性があります。

 そういう状態になれば、国内での消費も不活溌になりますし、セーフティネットも貧弱になり、怖いからこそ防衛をする、貯金をする、しかし、消費には回さない、という悪循環に陥る。

 今おっしゃった『ベトナムに攻め入ろう』ということは、かつての経済侵略みたいな話ですよね。しかし、経済侵略だとしても、それがその国に富をもたらすとか、あるいは日本国内にも富をもたらすとか、それが下々まで分配されていく、あるいは、そういうことをイメージして『なんと言っても、企業が成長していかなくてはいけない』というのであれば良いのですが。

 しかし、今、企業の内部留保は空前の額が集まっていますが、全くトリクルダウンは起きていません。そして、そのトリクルダウンが起こるための仕組、安定した雇用や保険といったものが取り崩されようとしています」

醍醐「おっしゃる通りです。『人・物・金の移動が自由になる』ということが、TPPのメリットであるように経済学者がよく言っています。しかしそうすると、今でも、二国間のFTAで、海外から日本の介護士になる試験を受ける人たちが来日していますよね。

 もちろん、そういう形で、本当にホスピタリティに対して意欲を持った若い人たちが日本に来日し、その方たちに良い介護をしてもらう、というメリットを全く否定するわけではありません。しかし、日本語の試験では、なかなか合格が難しいということで、政府はその試験のハードルを下げようとしています。

 テレビに映る、一生懸命に勉強をして試験に通った人には『良かったね』と言ってあげたいと思います。情緒的な面ではそういう気持ちがあります。しかし考えてみれば、介護の現場で何かの緊急な場面で『そばにいる人に、日本語が通じなかった場合はどうなるのですか?』という現実の問題があります。

 それから、今、日本の労働分配率が下がっています。この労働分配率の下がっている要因は、3つあると言われています。一つは、正社員の賃金自身が下がっているということ。二つ目は、日本国内での非正規化、人の構成変化、それから非正規雇用者の賃金の低下。そして三つ目は、海外からの労働の移動です。

 ところが、今『非正規化』が、労働分配率を下げる大きな要因と言われています。これから、海外から日本に次々に人が入ってくることになると、これは先程のトリクルダウンどころか、労働分配率の押し下げ効果が加速していく可能性が十分あります」

岩上「そうですね。これは、経団連(日本経済団体連合会)、あるいは経済同友会が、以前から『移民や、海外の低賃金労働者を大量に受け入れろ』ということを主張して来ました。そして、今はもうそういう主張を隠さなくなりました。

 そして、日本の少子高齢化はもう明らかだと言っています。しかし実は、少子化が進んでいる理由は、若者たちが貧しくなり、結婚もできなくなり、子供も育てる余裕がないからなんです。ですから、そこに国内の富が回るようにしなければいけないのに、家計を手厚くするどころか、家計からできるだけ金を奪うということをしています。それなのに、日本人の再生産を行わず、縮小して薄弱になっていく部分を輸血で補おうとしています。こういう浅はかなことをすれば、将来的には日本という国家の衰滅ということになっていくのではないか、と思わざるをえないのですが。

 日本がいつまでも高賃金で外国人労働者を受け入れられるわけでもありませんし、そういうことを考えれば、自前で国内にお金を回さなければいけないと思うのですが、そういうことができなくなっていく状況に向かっている。

 それから、ここでもう一度、先程の輸出産業について教えて頂きたいのですが。例えば、ベトナムに行って何かを輸出する、あるいは、ファミリーマートが現地に行って販路を開拓するという、国外に打って出る企業や、輸出をする企業が日本を引っ張ってきた、日本はそれで貿易立国として成り立ってきたんだということが、いまだに繰り返されています。しかし、これには、実は根本的な間違いであるということですよね。この辺について少しご解説いただけますでしょうか?」

醍醐「この資料は(画面に)出ますか?」(※27)

(※27)(図表3)G20 各国の経常収支の内訳
対名目 GDP 比率の 2005~2009 年の期間平均。計算の基になる 2009 年計数は IMF による推計値。(資料)IMF, “World Economic Outlook”、CEIC (日本銀行より)

岩上「この資料を今から……(出ないとのことで)出ないそうです。では、このまま手で」

醍醐「よくTPP推進派の人たちは『バスに乗り遅れるな』と言います。これは、それこそマスコミがそのムードメーカーでもあるのですが。『日本は、戦後貿易立国として成り立ってきた』と。『だから、ここでそういう世界の貿易市場から取り残されると、日本の成長にとって大きなマイナスになる』という指摘が随分多いと思います」

岩上「そうですね」

醍醐「一種の強迫観念ですよね。それならば、日本の貿易収支がどの程度のウェイトでGDPを占めているのか、ということをきちんと確かめないといけません。

 そこで私は、IMFの国際通貨基金の資料で調べてみたのですが。これは『G20各国の経常収支の内訳』というものなのですが。この黒い部分が『所得収支』です。国内の需要です。それが中心ですね。そして白い部分が『貿易収支』です」

岩上「ここのラインを境に、下の方が赤字で、そしてこちら側が黒字であると。例えば、ここの非常に白と黒の差が激しいのかサウジアラビアですね。この白い貿易収支がとても高いのですが」

醍醐「それは石油です」

岩上「つまり石油をこれだけ輸出しているから、貿易が黒字である。しかし、内需はそれほど大きくはない。米国は貿易が赤字で、実は、内需の収支・所得収支もそれほど大きくはない」

醍醐「そうです。ですから、今、オバマ大統領が『輸出拡大』ということを言っています」

岩上「これが、内需そのものならば、アメリカの市場は大きく豊かで、そのアメリカにものを売って日本は成立してきたと言えますが。要するに、戦争直後の復興時代から経済成長、そして冷戦時代を通じて、日本の圧倒的な貿易相手国はアメリカでしたから、アメリカの市場の肥沃だというイメージはあるのですが。実はこれほど貧弱だったということですね」

醍醐「これは収支の差し引きの正味ですから、ネッティング(※28)をしています。ですから、ネッティングをしたらこうなる、ということです。ネッティングをする前に、グロスをすれば、もっと大きくなります」

(※28)【ネッティング】
差額決済。輸出入などで発生する債権と債務を特定の期日に相殺し,差額分のみを決済すること。複数の企業がまとめて相殺する場合や,銀行などがリスクを回避するために行う。(大辞林 第三版の解説より)

岩上「なるほど。そして、日本はどうかというと、実はマイナスではありません。そして、黒字幅が非常に大きい。つまり、先生が言った内需のネットの部分がこんなにある。そして逆に、この貿易サービス収支、つまり輸出でどれだけ稼いでいるかというと、そんなにたいした額ではないということですね」

醍醐「その通りです」

岩上「これだけの国が並んでいて、これだけ黒字の所得収支を持っている国はない、ということは、日本は実は内需大国なのではないかということですね」

醍醐「おっしゃる通りです」

岩上「これには、皆さん驚かれると思います。これまでの日本経済のあり方を、通俗的なビジネスの本で理解している人、あるいは、一般の新聞やテレビなどを読んですっかり騙されるような人たちにはわからない話だと思います」

醍醐「おっしゃる通りです。ですから『日本は貿易立国だからTPPに参加することは、バスに乗り遅れないために必要だ』という、そういう強迫観念のようなものがあります。しかし、そういうことは、きちんとしたデータや事実に基づいて、一つ一つきちんと検証していかなければいけないと思います。本来ならば、メディアや、私たち研究者が、きちんとその検証をしなければならないと、というふうに思っています」

岩上「これは重要なことですよね。つまり、日本は内需がしっかりしているのだから、そこに向かって投資や消費を行い、きちんと国民の生活を立て直していく、ということをすれば、かなり経済が回っていく国であるということですよね」

醍醐「要するに、日本は内需大国ですから、その内需をいかに復活させるか、ということが、成長戦略の第一だと思います」

岩上「なるほど。『成長、成長』と、言いますが、その『成長』というのは、外に打って出るよりも、むしろこの『内需』……潜在的な内需の力を引き出すような、買い控えているものを買わせるとか、そういうような事が重要ということでしょうか?消費者の心理を変えていく、ということが重要だということでしょうか?」

醍醐「日銀(日本銀行)の国民所得統計で言えば、家計に350兆円ぐらいあるということです。それから、企業の内部留保が170兆ぐらいあります。これを『どう動かすか』ということです。細かい話は別にして、潜在的な、そういう成長のための原資はあるわけです。それが、今、ほとんど塩漬けと言いますか、抱え込まれているわけです。それをどうやって、もっと社会に循環させるかということです。

 この間、朝日新聞を読みましたら『業績のいいところは賃金に回せ』と書いてありました。これは、もっともな話だと思います。しかし『業績の悪いところや、中小零細企業はどうなるのですか?ということになると、もっと170兆円の内部留保を、社会全体に循環させる社会的な再分配の機構に乗っけていかないといけないのではないかと。だから「内部留保税」というものを成立するべきではないのか』ということを、私は朝日新聞の『視点』のところで提案しました」

岩上「なるほど。『内部留保税』というのは新しいですね。これは、どういうことが狙いで、どういう仕組みなのでしょうか?」

醍醐「今のところは、恒久的な財源にするつもりはないのですが。とりあえず、例えば、170兆円の内部留保というものは、資本金一億円以上の会社のみですから、零細企業入っていません。例えば、仮に年間1%としても、これで1,7兆円入ってきます。それを、例えば、3年、5年間と、とにかく時限的にする。

 私の構想では、それを個々の企業の中だけで循環させるのではなく、1番今、雇用の増加が見込まれるのは、人手不足が顕著な、医療、介護分野です。そういうところでの待遇改善と、人員の増強や採用のために、まずは優先的に当てる。それを考えるべきではないのかと思っています。

 なぜならば、待遇さえ良ければ、皆そこで働く意欲が出てきます。皆が離れていくのは、余りにも待遇が悪すぎるからです。そういうふうに、雇用増加を確実に上げるところに当てていく。それから今、社会保険に入れない、短期雇用の人がたくさんいます。そういう人たちの所得制限をもっと下げて、そして社会保険に加入する人を増やしていくことです。

 そうして、雇用者が増えれば所得税が増えます。働く人が増えれば、社会保険料もそれだけ増えますから、社会保険財政も改善が見込めるようになるそういう好循環を作ることができます。ですから、新しく『消費税だ』とか、そういう増税をしなくても、今活用できる財源、眠っていて活用されていない財源を、いかに稼働させるかという、その仕組を考えるということが非常に大事だと思います」

岩上「そうですね。私は雇用に関して『医療と介護のところに回せ』というのは、ものすごく賛成なのですが。この時に考えられていることは、やはり『老人』のことだと思います。しかし、もう一方で重要なことは『子育て支援』だと思います。

 もっと、保育にエネルギーや、人員を注ぐと、子育てが終了し、子供の扱いが上手な中年女性に仕事が回ります。そして他方で、働き盛りで、キャリアを積み上げている過程にいる女性が子供を生みながら、キャリアを中断せずに仕事をし続けることができるようになります。

 やはり『子供の数が増える』ということは、これは一番の消費だと思います。必ず、その親、そして、その祖父母も眠っているタンス預金からお金出して、孫や子供のためにお金を使いますし、その時の需要というのは、新しい技術を持っている、新しい商品を買えるわけです。

 当然、私たちのような年を取った世代ですと、新しいパソコンとか、スマホ(スマートフォン)に慣れることは簡単ではありませんが、そうしたものにすぐ慣れる、そうした若い層が次々増えてくるというのは、日本の未来にとっても非常に重要なことだと思います。

 それから『幸福感』ということについても、これはとても重要なことではないかと思います。

ところが、ここにお金を回さずに『少子高齢化はもう決定済みだ』というふうに言っています。児童向けの財源というのは、日本はものすごく低いので、この税源を分厚くするということを、90年代の終わりから、私は言い続けているのですが、なかなか聞き入れてもらえません。テレビでも死ぬほど言ってきたのですが。とにかく、そこには全くお金を使おうとしない、というのが、日本の国のありようなのかなという気がします」

醍醐「それから、農業に関して、私たちはよく『TPPは農業だけじゃない』と言いますが、しかし、そうは言っても『農業はどうなるんだ』ということがエアポケットになりかねません。ですから、やはり農業自体を見ないといけません。今、言われている農業論というものが、本当にきちんと議論がされているのか、ということを少しお話したいと思います」

岩上「このデータは(画面に)出ますか?」(※29)

(※29)「今、世界の食料になにが起きているのか」(PDFファイル) 平成19年10月 農林水産省

醍醐「この資料は『世界の穀物の需給状況』という、余り普段は使われていないデータなのですが。この資料の4ページです。(※30)これは、農林水産省が作った資料なのですが、この赤の線が需要量です。そしてこの青い線が生産量です。需要量というのは、人口が増えたり減ったりしていますが、特に中国の人口増加で、右上がりになっていると言われております。

(※30)「今、世界の食料になにが起きているのか」 平成19年10月 農林水産省
P.4 [穀物需要量が増加する一方、生産量は変動を繰り返しつつ、これに対応]
穀物の需給の推移

 それに対して、生産量というのはこう動きますね。その動く理由として、鳥インフルエンザ、狂牛病、口蹄疫などの、世界的な公益的な病気などが起った時に、輸入・輸出がストップするということがあります」

岩上「家畜に対する感染症、パンデミックの蔓延ということですね」

醍醐「ですから、それで収穫高がかなり上下するんです。第一次産業の、それはある意味では宿命だと思います。それから、この緑の線が今の穀物の在庫量です。そうすると、ここで何が言いたいかと言いますと、穀物を輸出に依存しているということは、それだけ安定的な供給にとって非常に不安材料が残るということです。

 それから、よく『食料安保』(食料安全保障)(※31)という言い方をされます。しかし、こういう第一次産業というのは、自国で賄うということが大切だと思います。他の第二次、第三次産業のように『足らなければ輸入を増やせば良い』というわけにはいかない、という問題が起こるということです。ですから、これは注意して見ておかなければいけないと思います。

 その良い例が、これは日本農業新聞が22日に出したデータなのですが『教訓 大豆ショック』という記事が出ています。(※31)1973年の当時はニクソン大統領です。アメリカの大豆が凶作で、1973年に大豆輸出を禁じました」

(※31)【食料安全保障】
国民に必要な食料の安定供給を確保し,その生命と健康を守ること。(大辞林 第三版の解説より)

(※32)教訓大豆ショック 食料安保逆行のTPP (2013/4/22)
(日本農業新聞より)

岩上「オイルショックだけなく、大豆ショックも起きていたんですね」

醍醐「そうです。『当時のニクソン米大統領が現地時間午後8時半から、恒例のラジオ・テレビ演説を行った。

 「60日間を期限にしてほぼ全ての物価を凍結し、飼料穀類など主要農産物輸出を規制する」と。そして、規制をすると今度は物価が上がります。こういうことが起こりました。これは有名な話です」

岩上「そして『「友好国の日本のことを配慮してくれるはずだ」ラジオ・テレビ演説の後も漂っていた日本側の淡い期待は、次々に裏切られた。6月13日までに契約を結んだものでも、船積み前であれば50%だけ輸出を認め、残りは強制的にキャンセルされた。日本国内では豆腐や食用油脂業界などが大騒ぎになった。豆腐価格が急騰し、国民生活にも影響が及んだ。』とこの記事には書かれています。

 私も、73年当時の状況を覚えています。あの時はオイルショックで、トイレットペーパーがなくなり、そして次から次へとあらゆる物価が上がりました。そして、その時代の不安な世相を代表する本が、五島勉さんが書いた『ノストラダムスの大予言』という本で、ベストセラーになりました。

 あの本は、増し刷りするたびに価格が上がっていきました。クラス中の子供が読んでいたのですが、買った時期により、200~300円と値段が上がっていった、ということを非常に良く覚えています。しかし、そのドルショック、オイルショックで色々なものの値段が上がったという影に、こういうことが起こっていたということですね」

醍醐「そうですね」

岩上「影に隠れていたんですね」

醍醐「私も今回こういうことがあって、この当時にこういうことが起きていたということを知りました。つまり、オイルショック、石油の場合は、これは天然資源ですから、日本としてはいかんともしがたいわけです。ですから、オイルショックが起こると経済が撹乱します。しかし、自分のところで石油を自給できるか、と言えばできない。

 しかし、今、日本の農業・農産品というものは自給ができているわけです。日本は50%の自給率を目指しています。それなのに、TPPに参加し輸入が増えたら、自給率が13%になると言っています」

岩上「現行40%程度で、それが13%になると、もうほとんど壊滅状態になってしまいます」

醍醐「そうです。そういう問題をわかっているのに、農林水産省は『今でも、自給率50%という目標は変えないのですか?』と、国会で聞かれた時に『これはこれでやっていく』と言っています」

岩上「めちゃくちゃですね」

醍醐「ですから、そこで根本的な矛盾が起きています。

 それからもう一つ、この資料の一番最後の方を写していただけますか?これですね。P.15の『飽食と飢餓が併存する現在の世界の食料需給』には『世界で約16億人が太りすぎ、約4億万人が肥満。アメリカでは成人の30%にあたる6,000万人が肥満である』と。そして『日本では、約1,900万トンの食料廃棄物が発生』していると書いてあります。

 実は、日本の食料廃棄物は大変多く、これは『世界の食糧援助量約600万トンの約3倍』であると書いてあります。こういうふうに、一方では飽食で食べ残して捨てる、ということが起こっています。

 他方では、途上国では飢餓が起きています。『世界の約8.5億人が栄養不足。このうち約96%が途上国の人々であり、約3.5億人以上が子供』だと。そして、これはよく国境なき医師団が言っていることなのですが『世界で毎日約2万4,000人が亡くなっている。5秒毎に子供一人が世界で亡くなっている』と。こういう現実があるということです」

岩上「餓死ですからね」

醍醐「こういうことが起きている時に、日本が自給率を13%に下げ、金の力に任せて食料を大量に輸入すれば、それだけ世界の穀物が大国に偏在してしまう、ということになるわけです。そして、その分こちらの飢餓というものが促進されてしまう、ということになりかねません。

 ですから、私はTPPを見ていると『国益』はもちろんなのですが『国民益』ということも、もう少し広い視野で……グローバルと言いますと、企業のグローバル活動ばかりが注目されますが、こういう世界市民的なレベルでのグローバルでものごとを見て『TPPで日本が自給率を下げる、ということがどういう意味を持つのか』ということについて、私たちは思いを馳せることが余りあまりにも少ないのではないかと思います。ですから、そのことについて考える、一つの良い機会にしなければいけないのではないか、と思っています」

岩上「おっしゃる通りだと思います。今日お話で重要なところは、大体お話をうかがえたという気がしますが。補足的に、先程のノバルティス社に関しての記事なのですが」

醍醐「毎日新聞ですね」

岩上「これは、毎日新聞の記事です。(※33)このノバルティス社というのは、日本国内でも治験をして、薬の開発をしています。しかし、大問題が発生しているということなのですが、これはどういうことなのでしょうか?」

(※33)「降圧剤臨床試験:慈恵医大も調査へ 京都府医大論文問題で」
 毎日新聞 2013年04月24日 02時30分

醍醐「結局、ノバルティス社の製薬の製品の副作用調査や効能の調査する時に、大学に委託するわけです。この記事に出ていますが、京都府立医科大学の人たちが書いた、これはノバルティスの製品の安全性や性能……」

岩上「『バルサルタン』という薬の臨床試験をめぐる京都府立医大の論文のことですね」

醍醐「その臨床試験の結果を論文として発表しました。しかし、それについて、検証に疑問点があるということで、論文が回収されました」

岩上「撤回されたわけですね。どうしてなのでしょうか?」

醍醐「その論文の中身を疑問視する声が上がったことと、この研究グループの、臨床試験のグループの中に、ノバルティス社の社員が大阪市立大学の研究員という名目で加わっていた、ということが明らかになったからです」

岩上「これは利益相反ですよね」

醍醐「よく、臨床試験と製薬メーカーとの間の利益相反や癒着ということが盛んに言われていわれますが、そういうことが起こっているわけです」

岩上「これはスキャンダルですね」

醍醐「私は、製薬資本というものは、本当に薬の安全、そして価格もそうですが、そういうものについて、もっとも強い倫理が求められている企業だと思います。その企業がこういうことをしている、ということを、よく注意して国民はもっと知らなければいけないと思います」

岩上「そうですよね。結局、製薬会社の利益を代弁するようなことばかりを、政府や政治家が政策として推し進めようとしています。そういうことが、政治家の言動にも出ています。

 例えば、麻生副総理が『好き勝手に飲み食いした奴が糖尿病になる。それに俺が医療費を払うと思うと、むかっ腹がたってしょうがない』ということを突然放言しました。それに『そうだ、そうだ』と言う、人間が現れ、それが大きく報道され、そういう声が蔓延していくことにより『相互に助け合いをする、というこの保険の仕組みや社会保障の仕組み自体がもう破綻している』と声が大きくなり、そして『これは、俺たちが損をする』という、疑心暗鬼や間違った認識によって『社会制度や保険制度そのものを支えよう』という意欲が失われて行くのではないか。あの麻生さんの発言などを聞いていると『そのための種まきみたいなことをしているのではないか』という気がして仕方がないんです」

醍醐「そうですね。国内資本もそうですし、外国資本もそうですが。ですから、その意味では、TPPの『国益と』いうのは、実は国益を超えた多国籍益・企業益ですから、彼らにとって『国益』などというものは初めからあるはずがありません。そういう『国益』すらない人たちの利益の追求のために、このTPPという仕組みが使われようとしているということを、よく知らないといけないと思います。そういう観点から見ますと『国益を守る』という面もあるのですが、もっと深く考えますと、この話はもっと深く広いのではないかと思います。

 もう一つは『ISDは日本ばかりが侵略・進出される』と言われています。しかし、東京大学の経済学部で私の同僚だった伊藤元重さんは、TPP推進派でその旗振り役なのですが。彼が最近、ダイヤモンド・オンラインに書いたのを見ますと『日本が海外やアジアに出て行く時に、日本の投資を保護するための強力な武器にもなりうる』(※34)と言っています。

(※34)第6回 2013年4月30日 伊藤元重 [東京大学大学院経済学研究科教授、総合研究開発機構(NIRA)理事長]
「日本がTPPに参加すると、本当に“米国の思うまま”にされてしまうのか?」(ダイヤモンド・オンラインよ)

 そして『日本企業が海外に出て行く時に、ISDが日本企業の投資の保護になるとはどういうことだ』と具体的に言えば、先程のベトナムのように出店規制をしている国がTPPに入り、そして、そこに日本が入っていき、その出店規制を取り去って、日本のファミリーマートなどの企業の販路を拡大し、出店が広げる、それが『ISDによって、日本の投資を保護できる』という意味です。しかし、果たして、日本国民はベトナムに対してそういうことをして、日本企業が進出することを本当に望んでいるのだとうか、ということをもっと問わないといけないと思います

 やはり、大学の研究者が、そういうふうな企業のそういう利害を後押しするような、そういう旗振り役をやっている、ということを、私は非常に同じ研究者として非常に憤りを感じますし、研究者として魂を売っているのではないのか、という気がいたします」

岩上「なるほど。これは二つの側面から批判ができると思います。一つ目は、先生が今おっしられた、そんなことがベトナム国民のためになるのか。そして、そういうことを日本人は本当に望んでいるのか。これはどちらかというと、モラル的な批判になると思います。

 二つ目は、例えば『日本がTPPに入り、アジアに販路を拡大し、そしてアジアの成長を取り込む』と言っていますが、これはたかだかベトナムの市場の一部で、自分たちの権益を確保したいという話です。しかし、例えば、ファミリーマートがアジアに出て行くと言っても、撤退することもあるかもしれません。

 そらから、韓国にファミリーマートは出店をしています。それを見れば、別にISDがなくても出店はできます。そういうことから考えても、ISD条項などというものを結んで、日本に降り掛かってくる不利益と、ISDがなくてもベトナムにファミリーマートが進出し、そこで得られる利益や売り上げはどの程度のものなのかと。それが、日本という国全体を支えられるようなものなのかと言えば、そうはならないと思います。その規模や数字的なレベルで考えても、全く吊り合わないという気がするのですが」

醍醐「おっしゃる通りです。それはまた、海外進出企業がどこまで日本に還元するのか、という話でもあります。現に、国内にいる企業では内部留保が積み上がっています。しかし他方で、労働経済白書を見ても、企業の増益期間の一人当たりの経常利益は2009年の第一四半期から2倍以上に増えています。ところが、従業員に対する賃金は、ほとんど1%の横ばいです。これは格差が開いているということです。

 よく経済学者の中には『企業が業績を上げ、パイを大きくすることが国民経済全体を底上げするんだ。経済構成全体を底上げする』ということを言う人がいますが、現実にはそれが完全に打ち破られてしまっています。それを、今回のTPPで同じ話を蒸し返そうとしているわけです。ですから、おっしゃられた通り、経済の理屈の上でも成り立っていません」

岩上「そうですよね。それから、先程の伊藤元重さんを、TPPの旗振り役として論破されていましたが、後、二人ほどTPPの旗振り役の方がいて、先程のNHKの番組(NHKスペシャル シリーズ日本新生「TPP交渉 どう攻める どう守る」)の中に登場されていたそうですね」

醍醐「中川淳司さんです。国際経済法の専門の方です」

岩上「中川さんは、その番組の中で何をおっしゃったのでしょうか?」

醍醐「一昨日の討論番組の中で(NHKスペシャル シリーズ日本新生「TPP交渉 どう攻める どう守る」)で、女優の優木さんという方が、これから子供を持つであろう女性として『食品の安全問題が脅かされるのではないか』という強い不安を持っていると。『本当にに大丈夫なんですか?アメリカの方が食品の安全規準が緩いのでは』という発言をされたら、中川淳司さんが『食品の安全は守らなければなりませんし、守ります。WTOが科学的根拠に基づいているから心配いりません』と言っていました。これを聞いていて、私は原子力の安全神話と本当に瓜二つだなと思いました」

岩上「『貿易機関の安全神話』みたいなものでしょうか」

醍醐「そうですね」

岩上「IAEAを信仰しているということは、ICRPを信仰していることと同じであり、この場合は、WTOの信仰なんですね」

醍醐「そうなんです。ですから、私は東京大学だからとは言いませんが、国際経済法の専門ということで名前が出ている方が『食品の安全は大丈夫なのですか?』と聞かれ、そういう答え方をしているということは、東大の知性と言いますか、倫理だけではなく、学問的な意味においても……」

岩上「知的レベルが」

醍醐「知的レベルがここまで落ちているのか、ということを、本当にテレビの前で見せつけられ、本当に私自身恥ずかしい思いをしました。しかし、今はそういうものなのかもしれません」

岩上「他に幾人かの先生を論破してもらいたいと思ったのですが、中川先生のお名前があがりました。しかし、こういうことをお聞きしても、お粗末な話ばかりのような気がします。

 それから、もう一つ論じたりないことがあります。それは車のことです。先生はブログでお書きになっていらっしゃいますが。実は、日本車のアメリカでの現地生産は、60%を超えている、そしてその生産台数は63%だと。(※35)ということは、関税撤廃が行われたとしても、たいしてプラスにならないということですよね」

(※35)TPP交渉参加:政府のまやかしと国民分断報道を乗り越えて 2013年3月10日(醍醐聰のブログより)

醍醐「これは2011年のものですが、関税のかからない、自動車産業の海外現地生産台数が、総生産台数の60%を占めています。そして、アメリカが日本に課している四輪自動車の関税は2.5%ですから、その効果は微々たるものです。そして、例えば、10年後にその関税を撤廃すれば年率0.25%にしか過ぎません。

 ですから、そういう意味においても、海外生産が60%を超えている、特に自動車産業の中で、自動車産業も『アメリカが関税を撤廃したからどんなメリットになるんだ』ということはわかっていると思います。

 それでも、日本の経済界は『全体で足並みを揃えましょう』ということを、なぜやるのかと言いますと、経済界全体として、海外企業が日本に要求してくる規制の撤廃、この規制の撤廃の国内波及効果を考えているからだと思います。製薬会社がまさにそうです。

 自分たちがやろうとして、なかなか国内では聞き入れてもらえないところを、TPPという形で、特にアメリカという大国の圧力や力を借りて、この規制を撤廃することは、単にアメリカや多国籍企業の利益だけではなく、ある意味で日本の国内の資本の利益とも合致しているからです」

岩上「なるほど。製薬会社はもしかして、アメリカやアメリカの製薬企業の威を借りて、自分たちの薬価をもっと高く、もっと儲けようということができるかもしれないということですね。自動車産業に関しては『メリットがある』と言われながら、メリットはほとんど見いだせないということですね。

 それから、自動車に関しては『軽自動車の規格を止めろ』という圧力がかかっています。これは、スズキ自動車などにとっては死活問題だろうと思います。それに、日本の地方に行きますと軽自動車がたくさん走っています。なぜならば、軽自動車は日本の狭い道にもマッチしていて、リーズナブルで燃費も良いからだと思います。それなのに『軽自動車を止めろ』という圧力を、どうしてかけられなければならないのかと思うのですが」

醍醐「その点については、スズキ自動車の鈴木会長が『余計なお世話だ。これは内政干渉だ』と言っています。私は『経済人であっても』という言い方は失礼かもしれませんが、しかし、本当に自分の会社のことを考えている経営人であれば、そう言うのが当然だと思います」

岩上「そうですよね」

醍醐「ですから、企業なら企業の論理があって良いと思います。しかし、それすらありません」

岩上「こういう鈴木会長のような『内政干渉だ。冗談じゃない』というようなことを、はっきり発言する企業人がもっと現れなきゃいけないと思います」

醍醐「おっしゃる通りです。ですから、そういうことを言わずに屈服していく、というところまで来ると、それはもう売国と言っても言葉として過ぎていないと思います」

岩上「そうですね。経団連の旗振り役は、経団連(日本経済団体連合会)の会長でもある、住友化学の米倉さんです。住友化学は、モンサントとパートナーシップを結んでいて、モンサントの代理人のような会社です。モンサントの利益を、国内で実現するための先兵役になっている、トロイの木馬みたいな会社です。

 その会社が『自社の利益だ。住友化学が儲けたいんだ』と言っていのであればともかく、経団連(日本経済団体連合会)として財界を率いて『TPPをやれ』ということを言うわけですから、これは度が過ぎているとしか思えないのですが」

醍醐「今でも、国内で農業を放棄する耕作放棄地が多い状態です。そして、TPPで耕作放棄地が増えた時に、住友化学やトヨタといったそういう会社が『農地を取得しよう』ということで、今、関心を示して動いているようですね」

岩上「法人化をする為にですか?」

醍醐「もちろんそうです。その為の土地取得です」

岩上「土地取得」

醍醐「そういうことを考えている企業が、結構、多いということがわかっています」

岩上「それは結局、農家を潰して土地を手放させて、奪い取るという話ですよね」

醍醐「ですから、私は日本の経済人は農業に対して、そういう将来を見越しているのではないかと思っています」

岩上「しかし、これは日本の企業が農地を手に入る、というだけでは済まないと思います。例えば、TPPの中に書かれている『待遇の最小基準』を見ますと『アメリカ企業等に内国民待遇というものを付与する』と書かれています。『内国民待遇』(※36)というのは、他方で義務は国内の法人、個人と同等の義務を課せられているわけではなく、一部では治外法権的なところもあります。

 それにもかかわらず『土地の取得は自由にできる』となると、日本の重要な水源や、重要な土地……土地というのは多くの場合、耕作地や農地です。しかし、そういう広大な土地を所有していた農家が、農業を続けていくのを諦めさせられ、外資に買い取られていく、ということが起こる可能性があります

(※36)【内国民待遇】
自国の領域内で,自国民に与える待遇と同様の待遇を他国の国民にも与えることを内国民待遇といい,このような待遇を規定する条約の規定を内国民待遇条項という。これは,特定の事項についての内外人の差別待遇を排除しようとするもので,19世紀の自由貿易主義を反映して,一般に通商航海条約で採用されるに至った。一般国際法では国家がその領域内にある外国人の法的地位を原則として自由に決定できることから,内国民待遇条項が条約の中に規定される意義および必要があるのである。(世界大百科事典 第2版の解説より)

 そうなると、公用語が日本語でなくなる可能性や、文化、慣習や伝統といったものがアメリカ風に改めさせられる可能性が出ています。その上、土地まで自由に取得できるということになれば、これは国として成り立たなくなります。これは、北米で先住民が追いやられ、土地を奪われていったプロセスの現代版ではないか、とすら思えるのですが」

醍醐「マスコミの一部では『平成の土地の囲い込みではないのか』と言っています。先程、住友化学やその他の企業が『放棄された農地に関心を持っている』と言いましたが、まさにそういうことですね」

岩上「『土地の囲い込み』というのは、かつてイギリスなどで起こったことですよね。農民たちが公有地として使っていた土地を、私的財産権というものが出てきた時に、土地を登記する過程において、その土地を囲い込んでいくという運動が起こっていきました」

醍醐「あれは、封建的な経済外的強制権力での囲い込みでしたが。しかし、今回の場合は『土地を放棄されたのでしょう?私たちが、正当な対価を払い取得することの何がいけないのか?むしろ、土地が荒れてしまうよりは、私たちが有効活用します』という発想だと思います」

岩上「現実になっていくと、本当に恐ろしいですね」

醍醐「ですから『美しい田園風景が壊れる』と、少し情緒的でユートピア的な話がされていますが、しかし、そういうこともあながち根拠のない話でもない、と私は最近感じています」

岩上「わかりました。ありがとうございました。大変広範囲に渡り、色々とお話をうかがいました。他になにか補足することはありますでしょうか?」

醍醐「『影響試算』について、お話してもよろしいでしょうか?」

岩上「是非、お願いします。すみません。『影響試算』については、打ち合わせの段階でお話を聞いたので、つい聞いた気になっていました。実は、政府は『このTPPに入ると、これだけお得です』という試算をこれまで出してきました。しかしそれは『10年で何兆円』と言っていますが、結局、一年辺り1兆円にもならず、何千億円という話です。そして、最近、試算をし直し、GDPが3兆円強のプラスになる発表しています。

 しかし、醍醐先生や『TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会』の皆さんが、それを試算し直したところ、まだ細かい話はこれからなのだそうですが、実はGDPが大幅なマイナスになると」

醍醐「GDPではなく、生産額がマイナスになります」

岩上「生産額ですか。生産額が大幅なマイナスになると。このお話を是非お願いします」

醍醐「政府の統一試算では、GDPで3.2兆円の押し上げ効果があると言っています」(※37)

(※37)「関税撤廃した場合の経済効果についての政府統一試算」 平成25年3月15日 内閣官房 (内閣官房より)

岩上「これは10年ですよね。10年間ですよね」

醍醐「このプラスは主に自動車です。自動車の5年間を想定したわけです」

岩上「アメリカの関税撤廃を」

醍醐「スケジュールでそうなっていましたよね。しかし、逆に輸入が増えています。なぜならば『自動車の輸入を2倍にする』と言っているわけですから。他方で、輸出は、関税の撤廃が後ろ倒しされるわけです」

岩上「5年と言っていたものが、この間の事前協議によって、少なくとも10年以上ということになっていますから、そこまで後ろ倒しになったあげく、もしかすれば延長する可能性もあるし、10年後に撤廃になっても『それはアメリカにとって不都合だ』ということで、先程のスナップバックにより、元に戻る可能性もあるということですよね」

醍醐「『自動車の輸入が2倍になる』というわけです。ですから、そういう意味では、自動車に関しては、輸出・輸入の収支が、政府が3月15日に出した試算と比べると大幅に狂っています。

 本来ならば、日米協議の結果が公表された時点で、再試算をしなければいけません。ですから、本当は、この数字をこのまま使うということは許されないことです。そういうことが一つあります。

 もう一つは、当初の政府試算では『3.2兆円のプラスの効果だ』と言っています、しかし、その仮定の置き方の中に……いろいろ細かいことはあるのですが……一つ、非常に非現実的な仮定がありますす。それは『産業構造の変化に応じ雇用が流動することが仮定されており、雇用数全体については関税撤廃前と(不変)変わらない』という過程を置いています。

 例えば、農業が関連産業も含めて壊滅的な打撃を受けます。そうすると、大量に失業者が出ます。例えば、北海道だけで雇用への影響として、今回『11.2万人が雇用を失う』と言っています。農家数で言うと『2.3万戸が減る』と言っています。

 ところが、この仮定から言うと『農業という産業構造がスクラップされても、どこかでビルド、吸収する場があるはずだから、だから差し引きしたら変わらない』という仮定を設けています」

岩上「なるほど。それは非現実的ですね」

醍醐「そんなことがありえるのですか?ということです」

岩上「NAFTA(北米自由貿易協定)がTPPの先行モデルになっています。メキシコは、NAFTA(北米自由貿易協定)に入ってから、農家の4割が離農しました。250万人が離農しました。そういうことが、日本に起きる可能性があるわけですよね。

 そして、その多くがアメリカに不法移民として渡り、劣悪な低賃金労働や、奴隷労働に就いていると言われています。そんなような受け皿が日本にあるのか、ということですよね。もし仮にあったとしても、非人道的で人権も認められない、最低賃金も守らないような奴隷労働の環境に向かう可能がないとは言い切れません。

 そして、こういう非現実的な仮定で『3.2兆円のGDPの押し上げ』というのは、あり得ないことだと思います」

醍醐「全然、3月15日の時点に置いてもこういうことはあり得ない話です。ですから、まずこの『試算』ということについて、大きなクエスチョンマークがつくわけです。

 それから、今回、農業で『約2兆9700億円の生産額が減る』と言っています。(※38)実は、農林水産省が、平成22年に試算をした時には、関連産業への影響や、農業の持つ国土に及ぼす影響とかいう……これについては、私の記憶が曖昧なのですが……少なくとも関連産業に及ぼす影響というものを出していました。そして、あの時に、確か『7兆円ぐらい生産額が減る』と言っていました。しかし、今回は『農業生産額の減少のみ』ということで、関連産業の計算をしていません。

(※38)「(別紙)農林水産物への影響試算の 計算方法について」(内閣府より)

 ところが、一昨日のNHKのニュースで、北海道の十勝地方のことを放送していました。『牛が打撃を受けるということは、バター、チーズといったそういう関連産業、それから、それら酪農製品を輸送する流通部門にまで全部波及していく』と」

岩上「そうですよね」

醍醐「北海道の場合でみますと、この農業産出額自体の今回の試算影響額で言いますと、4,931億円の減なんです。これは大きいと思います。ところが、関連産業は3,532億円の減。さらに、地域経済への影響は7,383億円の減となっています」

岩上「7,383億円。これは街での色々なサービス業なども、農家で成り立っているわけですから、街が成り立たなくなりますよね」

醍醐「ですから、今回、私たちも経済統計学の専門家の方や、若手の地方財政論の人たちとチームを作りまして、今、試算をしているところなのですが。まず、関連産業までは是非やりたいと思っています。できることならば、地域経済への影響も試算していこうと思っています。ですから、そういうことを含めて試算をすると大幅に増えるだろう、というふうに見ています。

 今はまだ、正確な数字が出ていないので、後できちんと発表したいと思っています。しかし、大体この北海道のパターンと非常に似ている数字が出ますというのは、先程も言ったように、農林水産省の場合は、この農産物そのものの産出額の減、これが『2兆9,700億円の減』と言っています。

 私たちはその関連産業、つまり農林水産品が減ると、その原材料である、川上や川下の加工製品……例えば、鹿児島であれば、さつまいもが減ると芋焼酎が減りますよと。その逆は逆です。ですから、生産が減ると、雇用者の所得が減り消費が減る。消費が減ると、今度は生産に跳ね返ってくるわけです。

 実は、政府はその試算をしていません。こういう経済的な影響というものは、片道通行ではありませんから、跳ね返ってきます。消費が減れば、それでまた生産に振りかかってくる可能性があります。

 ですから、そこまで一応トータルに試算をしてみました。そうすると、大体、農林水産省が言っている『2兆9,700億円の直接的なマイナス効果』に対して、間接効果、関連産業への効果や、雇用、所得への効果も入れますと、大雑把に言って『6兆9,800億円ぐらいの減になる』というのが、今の私たちの試算結果に現れています」

岩上「これは農業が駄目になった時に関連産業を含めて『6兆9,800億円』という数字になるということですね」

醍醐「そうです」

岩上「そうすると、TPPの他分野における影響というものは、もっと広くなる可能性があるということですよね。しかし、それは政府の試算には含まれていないということですね」

醍醐「その『政府の試算がどういう意味を持つか』という時に『農業だけの問題か』ということになるわけです。しかし、第一次産業、第二次産業、第三次産業と分類分けをした、産業連関表を作り、試算することができます

 ですから、第一次産業が一番大きいのですが、第二次産業、第三次産業……細かい数字をここで公表するのは控えさせて頂きますが……1兆円以上。四捨五入すれば、2兆円ぐらいのマイナス影響、それが二次産業、三次産業に出るという試算が出ています。『二次産業、三次産業とはなにか』と言えば、これはもう農業だけはなく、商業、工業、サービス業という全部の分野にまたがります。

 それから、私たちがさらにもう一歩進めたいな、と言っているのは、こういう産業の生産額が減るということは、雇用者所得が減るということだと。農業所得はもちろんですが、関連産業の所得も減ります。そうすると、地方自治体ごとに見れば、地方税収が減ってしまう。そして、そういう形で『地方経済に及ぼす影響が出てくる』ということを、これから少し試算をしていきたいと思っています」

岩上「これは本当に大変なことですね。プラスではなく、むしろグロスで見てもマイナスになるということですね」

醍醐「あのプラス・マイナスは、次元が違うと言われています。3.2と3の計算ではなく、農業の生産額の減少の3兆円は貿易収支の中に織り込まれて、それでもプラス3.2と言っています

 しかし今回、例えば、7兆円ぐらいになった時に、それでも政府の統一試算のGDPベースの話でプラスを維持ができるのか、ということがあります。さらに、先程の自動車の影響、輸出は減るが、輸入は増えると、これを比率した時にどうなるのでしょうか?ということだと思います。

 これを試算せずに『プラスの効果が出るからゴーサインだ』という話がどこまで持つのか、ということを、本来ならば責任を持ってきちんと試算をしなければならないはずのですが、政府に言ってもなかなかしないのであれば、私たちの方から独自に試算を出して、プレッシャーをかけていく必要があると思っています。そして、それを是非やりたいと思っています」

岩上「是非、学者の皆さんにはチームを組んで頑張っていただきたいと思います。そして、その試算が出来上がるのを見守りたいと思います。今の政府の試算は、農業ベースで考えていて先程の自動車のことは組み込まれていないわけですよね」

醍醐「いえ、先程の一番最後に言った大きい数字には、第一次、第二次、第三次まで全てトータルに含まれています」

岩上「ぜんぶトータルして、まだもうちょっと精緻にやらなきゃいけないので、これが最終数字じゃないかもしれないけれども」

醍醐「それが、農業所得と地方所得の税収にどれだけの影響が出るのかということがあります。それともう一つ、試算をしているものは、今、制度として所得補償制度があります。そうすると、戸別所得補償方式(※39)、今の制度として、それがある・なしに関わらず『TPPを採用したことによって、農業が打撃を受けるその影響を政府の責任で補償する』と言うのであれば、どれだけの、追加的な財政負担が必要になるか、ということを試算しているところです」

(※39)【戸別所得補償制度】
米などの農産物の価格が生産コストを下回った場合に、国がその差額分を生産農家に補償する制度。農家の経営を支援することで、自給率向上などを図る狙いがある。平成22年度(2010)に米を対象とするモデル事業を実施。平成23年度(2011)から本格的に導入された。農業者戸別所得補償制度。(デジタル大辞泉の解説より)

岩上「なるほど。そうすると、もっとマイナスが大きくなる可能性もありますか?」

醍醐「もちろんあります。生産額の減少を農業では『粗収益』と言っていますが、そこのところに跳ね返ってきます。まず、それが減れば、当然、所得も減ります。しかし、その減った分を政府が放っておくのではなく、政府が『補償します』となった時に、どの程度の補償が必要となり、新たに財政負担が生まれるのか、ということになると思います。

 これは、GDPとは少し次元が違いますので、これを合算していくらになるとか、マイナスになる、プラスになるという話はできないのですが。つまり、今まで政府の試算は、財政ベースの試算が全くなく、生産額ベースの試算しかしていません。これはこれでわかるのですが。しかし、世の中の皆さんには『財政ベースでどれだけ程度減るのか、どれだけ負担が増えるのか』ということを言っていく必要があると思っています」

岩上「分かりました。これは大変説得力を持つのではないかと思います。TPPから、早期に脱退するべきだ、こんなものに入るべきではない、という世論が盛り上がる、一つの大きな説得材料になるかもしれません。その先生の試算がまとまるのはいつ頃になりそうですか?」

醍醐「5月中には、きちんとした形で発表したいと思っています。その時にはメンバー全員で、それから産業連関表を試算してくれたメンバーも『発表をする時には、私も説明します』と言ってくれていますから」

岩上「そうですか。わかりました。本当に心強い限りです。この800人を超える方々が署名をしたという『TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会』の声明は、ネットで見ることができます。これは、リンクを貼って皆さんに見てもらっても構わないでしょうか?」

醍醐「はい。もう公表していることですから」

岩上「そうですか。では、できるだけ拡散したいと思います。ここには、この短いメッセージが書かれているだけなのですが、実は、それぞれの先生が、それぞれ角度から、それぞれの研究をされていらっしゃいます。

 できれば、この800人の先生全員にメール等をお送りして、もし何かお持ちの研究やご自身の意見や、知見、見識というものがおありであれば、是非、寄稿していただきたいと思います。緊急寄稿していただきたい、ということをお願いしようと思っています。

 もちろん、それは広く公開したいと思います。そして、多く議論に資するようにしたいというふうに思っております。先生、その点についても、またご相談させていただければと思います。よろしくお願い致します。本日は、長時間どうもありがとうございました」

醍醐「いえ、こちらこそ、長くなりました」

岩上「ありがとうございました。醍醐先生でした。皆さん、どうもご視聴ありがとうございました」

【文字起こし・@sekilalazowie, 校正・Jade】

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