2023年10月12日に盛山正仁文科大臣が統一教会の解散命令請求を行うことを発表し、翌13日に東京地裁に請求した。
盛山大臣と文化庁は12日の会見で、被害総額は約204億円に上ると発表し、解散命令請求の理由について詳しく説明した。
そして、この会見を受けて行われた立憲民主党のヒアリングで、統一教会の被害者たちは、統一教会の財産保全を行うための、特別措置法などの整備について繰り返し訴えた。1~2年はかかるとされる解散命令の確定までに、教団の財産が韓国の本部や他団体に流出し、被害の補償の原資がなくなる恐れが極めて高いためである。
しかし、この特措法について記者会見でIWJ記者が質問した際、盛山大臣の回答は、ほぼゼロ回答に等しいものだった。
被害者は、「財産保全が立法化されないなら、立法の不作為」であり、「被害者としては、国家賠償請求したいぐらいの不作為」であるとまで厳しく訴えている。
協力して早期成立することが求められている政府と与野党は、いったいどう回答するのか?
▲記者発表する盛山正仁文科大臣(2023年10月12日、IWJ撮影)
解散命令請求を東京地裁が受理!
2023年10月12日、文部科学省で行われた記者会見で、盛山正仁文科大臣が、世界平和統一家庭連合(旧統一教会、以下「統一教会」)の解散命令を東京地裁に請求すると発表。翌13日午前、大臣は解散命令を地裁に請求し、地裁は受理した。
・第1弾! 旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に対する解散命令請求、13日に東京地裁へ】(日本経済新聞、11日)グローバルに活動する「コングロマリット」団体である統一教会にどこまで迫れるのか? 立憲民主党は、教団の財産隠しを防ぐための「特別措置法案」を臨時国会に単独提出すると表明、与野党の協力を得られるのか?
会員版:(日刊IWJガイド、2023年10月12日)
非会員版:(日刊IWJガイド、2023年10月12日)
▲文化庁が東京地裁に統一教会の解散命令請求をした際、提出した資料は約5000点、段ボール20箱分に上るという。(文化庁提供)
被害規模は約1550人、204億円と発表!
12日の記者会見で盛山大臣は、同日の宗教法人審議会で、「統一教会が宗教法人法の解散命令請求に相当するとの意見が全会一致で出された」ことから、請求を決定したと発表した。
盛山大臣によれば、解散命令の事由(理由)は宗教法人法に厳格に定められているため、文化庁は2022年11月以降、統一教会に7回の報告徴収・質問権を行使し、全国霊感商法対策弁護士会(全国弁連)や、被害者170名から情報収集を行った。
その結果、「統一教会が遅くとも昭和55(1980)年頃から長期間、信者ら多数に対し、自由な意思決定に制限を加え、正常な判断が妨げられる状態で、献金や物品の購入をさせ、多数の者に多額の損害を被らせ、親族を含めて生活の平穏を害する行為を行った」と判断したという。
被害規模は、統一教会への損害賠償請求を認容した民事判決では被害者169人、認容金額計約22億円だが、和解や示談を含む全体では約1550人、解決金等の総額約204億円に上り、一人当たり約1310万円である。
しかも被害はその金額にとどまらず、献金のために、保険金や退職金など将来の貯えを費消したり、家族に無断で貯金を使うなど、「家族を含めた経済状態を悪化」させ、将来の生活に悪影響を及ぼし、献金しなければならないという不安から家族関係が悪化するなど、「本人や親族に与えた精神的損害も甚大」とした。
また、宗教法人が「公益法人」である理由は、「宗教活動によって、精神的安定等を与えて、社会に貢献すると期待されている」ことにある。ところが、統一教会の行為は「財産的利得」を目的として、「献金獲得や物品販売に当たり、多くの方々を不安や困惑に陥れ、親族を含む多くの方々に財産的、精神的犠牲を余儀なくさせて、生活の平穏を奪い取るもの」だった。従って、宗教法人の目的を著しく逸脱するとした。
文化庁は、こうした統一教会の行為が、宗教法人法の解散命令事由に該当すると認めた。
また、これら献金・勧誘行為等は、「旧統一教会の業務、活動」として行ったもので、(信者個々人ではなく)統一教会の(組織的)行為と評価できるとしたものである。
盛山文科大臣は財産保全の特措法整備についてのIWJ記者の質問に、ほぼゼロ回答!
続く質疑応答では、「悪質な行為を繰り返した宗教団体と、自民党の有力政治家が長期間関わりを持った理由は?」との質問があった。これに対して盛山大臣は、「個々の議員に聞いていただくしかない」と突っぱね、「解散命令請求を行うのは、統一教会に報告聴取等をすべきとの声が高くなったから」と、質問とは異なる回答でお茶を濁した。
また、「内閣支持率が云々され、衆院解散も噂される中での解散請求は、政治的判断があったのではないか?」との質問に、大臣は「解散の有無は自分は判断できる立場ではない」「情報収集分析で客観的事実が明らかになったため解散命令請求を行う。政治的日程で判断したのではない」と回答した。
さらに「統一教会の財産の流出が懸念されるが、秋の臨時国会で、財産保全の特措法や宗教法人法改正等にどう対応するのか?」との質問に、大臣は「地裁への請求を決めたばかりなので、その先をどうするかは何も決まっていない」と回答。「請求を認めてもらうやり取りが出てくるが、今後の動きを見ながら判断していくとしか今は言えない」と、法整備に関してほぼゼロ回答にとどまった。
特にこの財産保全の特措法について、翌10月13日、解散命令の東京地裁への請求後に行われた盛山大臣の記者会見で、IWJ記者が「統一教会の資産隠し」防ぎについて、次のように質問した。
IWJ記者「重ねて、旧統一教会の財産保全について質問します。立憲民主党は、臨時国会に、この財産保全のための『特別措置法案』を単独で提出するとし、与党側との協議も視野に入れるとしていますが、大臣はこの法案の内容について、どのように見ていらっしゃいますか?」
盛山大臣「まず、『議員立法』として、ということでございますので、それは立法府の側で行われる作業でございます。我々行政府の方で内閣が提出する各法とは別のものということになります。
そして、また、報道でですね、立憲さんがそのような動きをされているということは、報道では承知しております。
ただ、内容については、一切我々、うかがっておりません。これは繰り返しになりますけれども、『議員立法』というのは、国会の中で議員が行うものでございますから、先方がひょっとしたら我々政府側に何か言ってくるかもしれませんけれども、基本的には、国会の中で各党が、立憲さんは単独で出されるのか、あるいは他の政党も一致をされて出されるのかを含めまして、そういう協議がこれからあるんじゃないかと思いますけれども、それ以上のことを我々が今コメントできる立場ではないということでございます」。
ほぼゼロ回答という盛山大臣の姿勢には、あくまで変わりがなかった。何が何でも、被害者救済のために、教団の財産を差し押さえ、与野党を越えて、有権者全体に尽くそうという情熱に乏しい回答だったと言わざるをえない。
・「統一教会の財産隠しを防ぐための、立憲民主党の提案する財産保全『特別措置法案』をどのように見るか?」IWJ記者の質問に「立憲単独か、他の政党も一致をされて出すのかを含め、そういう協議がこれからあるのではないかと思うが、今コメントできる立場ではない」~10.13盛山正仁 文部科学大臣 記者会見
会員版:(日刊IWJガイド、2023.10.14号)
非会員版:(日刊IWJガイド、2023.10.14号)
12日の大臣会見後に引き続き行われた文化庁担当者のブリーフィングでは、大臣会見の補足説明が行われた。
特に、統一教会による、解散命令事由の「法令違反」は「刑法」で、「民法は含まない」とする主張に対して、詳しく反論した。
統一教会が根拠とする、オウム真理教を「刑法違反」とした東京高裁決定では、宗教法人が「犯罪的、反道徳的・反社会的存在に化す」事態の防止のために解散命令制度が設けられたとしており、オウム真理教の場合は殺人予備罪等のため「刑法違反」とされたが、それが「民法」を含まない理由にはならないとした。
また、そもそも宗教法人の法人格が、「民法」を根拠に、公益に資するとして付与される以上、民事法上の規律や秩序に反した宗教団体を解散命令の対象から外すこと自体が、法人格付与の趣旨・目的に反するとした。
「(自殺した)長男が僕の背中についている」と語る被害者!
盛山大臣による解散命令請求決定の発表を受けて、同じ10月12日、衆議院本館で、立憲民主党の統一教会国対ヒアリングが行われ、被害者3名と、全国統一教会被害対策弁護団の木村壮弁護士、文科省、法務省、消費者庁、警察庁の担当者、および立憲民主党の議員が出席した。
被害者の橋田達夫さんは高知在住で、本人は信者ではないが、元妻が約1億円の献金被害を受け、息子さんは自殺。実名で被害を証言して以降、「殺すぞ」等の脅迫を受けているという。
解散命令請求決定を受けての思いを、橋田さんは語った。「やっとここまで来た」「つらい思いをしながら、誹謗中傷も受けた」「長男が僕の背中についている」「統一教会は絶対に残してはいけないと僕自身が身をもって感じてきた。今まで訴えてきたが、声が届かなかった」「今回チャンスをいただいた。だから、絶対前へと思いながら進んできた」等。
▲橋田達夫さん(2023年10月12日、IWJ撮影)
統一教会の財産隠しを防ぐための財産保全の立法化がなされないなら、立法の不作為! 国家賠償請求したいぐらいの不作為だ!
山本サエコさん(仮名)は元信者で宗教2世。両親は合同結婚式で結婚し、祝福を受けた「祝福2世」である。宗教2世ネットワーク副代表を務める。
▲山本サエコさん(仮名、中央右)と中野容子さん(仮名、中央左)(2023年10月12日、IWJ撮影)
山本さんは、様々な観点から訴えた。「解散命令請求が出たからといって解決ではない。『不当寄付勧誘防止法』は『被害者救済法』という名前で出たため、『よかったじゃん』のような空気感になった。解散命令が確定するまで落ち着けない。メディアも関係者も『解決した』雰囲気で報じず、継続的に向き合ってほしい」「命令が確定しても、信仰の自由は続き、宗教団体の活動は続く。教義にもとづき、不法行為を継続しないか、監視を続ける必要がある」「統一教会問題は組織の問題で、信者への差別や偏見はやめてほしい」「被害者がしたいのは宗教迫害や宗教ヘイトではない。信教の自由の限界、私達宗教2世のように信仰したくない人の消極的な信教の自由も、一緒に守っていく社会を築きたい」等。
特に山本さんが強調したのは、「統一教会の財産保全」である。「教義にある誠の愛が重要なら、高額献金で無年金、無貯金になり、老後破産した信者をぼろ雑巾のように捨てたりしない。それほどお金に執着する、宗教法人法が想定しなかった悪質な団体だ」として、次のように訴えた。
「特措法でも何でもいいので、財産保全について被害者の実効的救済を図れるようにしてほしい」「ここで財産保全が立法化されないなら、それは立法の不作為だ。被害者からすれば、国家賠償請求をしたいと考えるぐらいの不作為だと思う」「解散請求の申し立てを皮切りに、さらに財産流出がされるだろう。なぜなら教祖が韓国にいるからだ」「不当寄付勧誘防止法をあのスピード感で作られたのなら、立法の方々が本気になれば、法律は作れると思う。与野党関係なく力を合わせて財産保全の策を考えてほしい」。
また、「宗教2世への支援体制は不十分」とした上で、「解散命令請求がされれば、現役信者の親から宗教2世への当たりが一層きつくなる可能性がある」と危惧し、対応を訴えた。
解散請求により、泣き寝入り状態だった被害者が一気に返還請求する可能性!
中野容子さん(仮名)は60代で、本人は信者でなく、母親が約1億円の献金被害を受け、返金訴訟中である。母親が署名した「献金は自由意思で、返金請求はしない」との「念書」が教団側から出されて、高裁で敗訴。最高裁に上告中である。
中野さんは「自分が被害に気付いた時、母は既に認知症の初期だった」として、次のように語った。
「母が自分に被害を打ち明けて8年以上たったが、その間、到底信じられないような驚きの連続だった。母はまず、自分の定期預金を担保に借金をして献金した。教会が言うには、献金というより、教会に貸したもので、母はそれを棒引きにしたという。自分が借金して貸したお金をなぜ棒引きにするのか」「その後、重病で入院していた父の全金融資産を出金して献金。それから自分名義のお金も全部献金した」「母の実父から相続した果樹園を3度にわたり売却し、献金した。あまりに異常で、呆然とし、怒りは後からやってきた」「裁判での異様としか言いようのない、教会側の弁護、虚偽主張の連続。私はあのような異常な言語が使われているということを経験したことがない」。
中野さんも「財産保全の特措法を早急に作っていただきたい」と強く訴えた。
「自分は両親の1億円以上の被害の損害賠償裁判を継続しているが、同様に悪質なやり方での献金被害者がまだ多数いるはずだ。既に献金請求を行っている被害者だけでなく、今回の解散請求により、今まで泣き寝入り状態だった被害者が、一気に返還請求する可能性がある。教団の財産が、韓国の本部や他の団体に移転させられて残っていなかったら、賠償金を返還できず、被害者救済ができなくなる」「賠償金の返還は被害回復の第一歩で、基礎となるものだ。それだけでは被害回復は終わらず、賠償金では到底取り戻せない被害もある。だが、被害者が今後、心身両面で生活を再建するには、経済的損害が是非とも回復されなければならない」「解散請求のあと、与野党協力して、1日も早く、財産保全の法律を成立させるようお願いしたい」。
その上で中野さんは「母の念書や同時に提出したという陳述書は、悪質な献金と一連の行為であったと認識している。解散請求が出れば、行政が統一教会に下した評価が明白になり、最高裁で『念書は無効である』という正しい判決が出るのではないか。これは私の強い願いであり、念書等があるために被害回復を諦めている被害者の救済にもつながると考える」と語った。
被害者が強く求める特措法等の成立に、政府と与野党は答えられるのか!? 特に統一教会との関わりが深く、選挙も手伝ってもらった自民党議員や、統一教会の一部門である、右翼の勝共連合と組んできた右派議員に、そんな過去の清算は期待できるのか!?
被害者が、教団の財産保全のための特措法などの成立を、与野党が協力して早急に進めることを、強く訴えているのは明らかである。政府と与野党はどう答えるのか。
裁判所が解散命令を出せば、裁判所が選んだ清算人が、教団の財産を調査・処分する清算手続きに入るが、解散命令までは少なくとも1年から2年はかかるとみられている。現行法下では、その間に、教団側は、不動産を売却したり、財産を韓国に送ったりと移動させてしまう可能性がある。
盛山文科大臣は、財産保全の特措法等について、前述のように「何も決まっていない」「何も聞いていない」と、ほぼゼロ回答だった。
立憲民主党は特措法案を臨時国会に単独提出すると表明しているが、他の与野党はなぜ協力を惜しむのだろうか。
▲ヒアリング会場に置かれた、統一教会が信者に販売した、「真の父母様」とされる文鮮明や韓鶴子の「御言葉」を記した『天聖経』や壺。被害者から立憲民主党が入手したという。(2023年10月12日、IWJ撮影)
・「統一教会の財産隠しを防ぐための、立憲民主党の提案する財産保全『特別措置法案』をどのように見るか?」IWJ記者の質問に「立憲単独か、他の政党も一致をされて出すのかを含め、そういう協議がこれからあるのではないかと思うが、今コメントできる立場ではない」~10.13盛山正仁 文部科学大臣 記者会見
会員版:(日刊IWJガイド、2023.10.14号)
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