2022年10月6日、午後4時30分より、東京都新宿区の東京都庁にて、一般社団法人 日本イコモス国内委員会の主催により、「日本イコモス提言『近代日本の公共空間を代表する文化的資産である神宮外苑の保全・継承について』」の記者会見が開催された。
イコモス(ICOMOS)とは、国際記念物遺跡会議(ICOMOS/ International Council on Monuments and Sites)のことで、文化遺産保護に関わる国際的な非政府組織(NGO)である。
会見には、日本イコモス国内委員会 委員長の岡田保良氏(工学博士)、同委員の石川幹子氏(農学博士)と益田兼房氏(工学博士)の3名が登壇した。
そして、神宮外苑再開発にまつわるこれまでの経緯を踏まえながら、あらためて、岸田総理、小池都知事、および事業者らに宛てて、神宮外苑の保全・継承に向けた「7つの提言(※)」を発表し、10月20日までの回答を要求した。
※近代日本の公共空間を代表する文化的資産である神宮外苑の保全継承についての提言(PDF)(2022.10.3日本イコモスHP)
岡田保良氏は、冒頭のあいさつの中で、都民の関心の多くが、『多くの樹木が伐採される』という側面に注がれている現状を認めつつも、「根本的に、神宮外苑の景観を、どのような法的枠組みで、将来にわたって継承していけばいいのかを紹介したい」と述べた。
益田兼房氏は、神宮外苑地区のイチョウ並木を「名勝」に指定することで再開発による「伐採」を回避することを提案し、以下のように説明した。
「『近代の庭園・公園等に関する調査研究報告書』というものがございます。これはかなり大部なものですが、その中で、全国の近代の庭園・公園的なものを調査した結果、『名勝』的な価値があるという非常に重要なものとしてリストアップされたなかに、『このイチョウ並木と神宮内苑の森というものが2つセットで保存されるべきである』と書かれています。(中略)
明治神宮とこの外苑というのは、当然、天皇が亡くなられたあと、大正のロマンチシズムの時代の中で、たくさんのお金持ちの方々、そして全国の国民の方が、大量の勤労奉仕と樹木を寄付されるという中で、これは作られた一種の、当時の国民的モニュメントのようなものなのですが、(中略)価値があるということはすでに文化庁のほうで言っておられます。
ですので、あとは神宮のほうでですね、ぜひこれについてご判断いただき、指定・保護のための措置をしていただければ、大変有難いのではないかということがございます」
8月16日、神宮外苑地区の再開発について、環境影響評価審議会が開催された。そこで事業者側は、2022年4月から実施した詳細調査を踏まえ、当初伐採予定だった樹木971本を556本に減らした(4割減)ことなどを発表した。
この発表の内容については、環境影響審議委員から「根拠の不明瞭さ」が指摘され、8月18日に出された答申書では、「審議会としても今後の事業者の環境保全措置に継続的に関与することで、寄与していく」という極めて異例の措置がとられた。
これについて、日本イコモスは、現地調査・検証作業を行い、結果として、以下のことが明らかになった。
(1)4割減された556本の毎木(まいぼく)データ(※)は審議会資料には存在せず、添付資料として提示されたデータも最新のものではなく、当初伐採予定数の971本のデータも存在しなかった。
※ある区画の全ての樹木について、樹種名や樹高、幹周などの各種データを測定する毎木調査により得られたデータのこと。
(2)提出された図面に含まれる「絵画館前芝生広場」エリアの伐採本数が含まれていない(ゆえに伐採本数が減少した)。
(3)事業者側が行ったという「2022年4月から実施した詳細調査」のデータも存在しなかった。
日本イコモスは、上記の3つが、東京都環境影響評価条例(※)第7条に示される「事業者の責務の誠実な履行」を大きく逸脱するものであると指摘している。
「事業者の責務の誠実な履行」について、石川幹子氏は、質疑応答の中で、次のように述べた。
「公共事業で、いい加減な数字でスタートすることになりますよね? そうすると。それは、『やってはいけないこと』なので、ようするにルール自体がきちんと守られていないということです」
記者会見の詳細はぜひ、全編動画をご視聴ください。