都が五輪関連施設の臨時医療施設への転用検討との産経のスクープは誤報!? IWJ取材に都福祉保健局もオリパラ準備局も「記事で初めて知った。各部署の誰も知らない」と回答! 産経取材の「関係者」は誰!? 産経はゼロ回答! 説明責任果たせ! 2021.12.10

記事公開日:2021.12.10 テキスト
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(文・IWJ編集部 文責・岩上安身)

 2021年夏、パラリンピック直前の東京では、4万人近い新型コロナ感染者が自宅放置の状態にあり、臨時医療施設の設置は急を要していた。

 そうした中、8月22日付け産経新聞は、「関係者への取材で分かった」として、東京都で、オリパラ関連施設の臨時医療施設への転用案が浮上したと報道した。そして、転用はパラリンピック終了後の9月6日以降になるというのである。

 ところが、IWJが東京都の広報課に確認すると、「聞いていない」と回答した。施設を管理するオリパラ準備局も、公式な検討の事実を完全に否定。医療提供体制を担当する福祉保健局も「記事で初めて知った」「どこの部署も知らない」と答えたのである。

 もし記事が事実で、産経の「スクープ」であれば、病床増加へ向けた「朗報」である。しかし同時に、都が感染者対策をパラリンピックより後回しにしたことをも意味する。一方、記事が「誤報」で、施設転用の検討が全くされていないなら、臨時病院開設を検討もしていないということになり、これはこれで重大問題だ。

 こうした疑問を解明するため、IWJが産経新聞に「記事中の『関係者』とは、どのような部署のどのような立場の人物か?」と問い合わせると、産経新聞は「取材や編集に関することにはお答えしておりません」と回答を拒否した。

 報道機関であれば、自社報道に「誤報」疑いが生じた場合、説明責任を果たすべきなのに、産経はそれを拒んだのである。

 2021年夏は、新型コロナに感染しながら自宅放置され、適切な医療を受けられないまま亡くなっていった人々が相次いだ。彼らの無念の思いを忘れてはならないし、「生きたい…」という意思を切り捨てる国政と都政を変えなければならない。私たち国民・都民自身が、「自助だけでは足りない! 公助を充実させろ!」と求めなければならないのである。

※本記事は「note」でも御覧いただけます。単品購入も可能です。
https://note.com/iwjnote/n/n9f5c958a401e

パラリンピック直前の東京は、4万人近い新型コロナ感染者が自宅放置! 臨時医療施設の設置が急を要していた!

 東京都は、パラリンピック開会式前日の2021年8月23日の新型コロナウイルス新規感染者を2447人と発表した。

 前の週の同じ月曜日から515人減ったが、7日間平均は4659.3人で、前の週の4275.0人より増えた。

 新規感染者数は、検査件数そのものを抑制していた当時の状況では、増えた、減ったと一喜一憂してはいられない。

 問題は重症者である。

 重症者は272人で、前日より1人増えた。命の危機に瀕している人たちが、都内だけでこんなにいたのだ。

 また、もうひとつ重要なのは、自宅放置されている人の数だ。

 東京都の発表によると、8月22日時点で自宅療養者は2万4704人、入院・療養等調整中は1万4726人である。4万人近い感染者が自宅放置されていたことになる。

 一人暮らしであれば、生活をしてゆくこと自体、大変なことになる。自由に外出して買物をしたり、食事をしたりすれば、人にうつしてしまうが、部屋にこもりっぱなしで誰の援助も得られなければ、心身ともに行き詰ってしまう。

 発熱などの症状がある場合、なおさら困難だ。急変しても、自分自身で119番に連絡する前に、意識を失って、孤独死してしまうケースも続出していた。

 逆に家族と同居の場合だと、家庭内感染してしまう。自宅放置状態は、一刻も早く解消し、陽性と判明したら、ただちに入院なり入所なりできる臨時医療施設や隔離施設を、即、つくり、自宅放置ゼロをめざすべきだった。

▲東京都作成の「自宅療養者向けハンドブック ~感染を広げないために~」(東京都ホームページ)

産経新聞が、東京都でオリパラ関連施設の臨時医療施設への転用案浮上と報道!

 そのような中、8月22日付け産経新聞が「東京都が新型コロナウイルスの感染急拡大に伴う医療提供体制の逼迫に対し、臨時医療施設の設置に向け検討を始めたことが21日、関係者への取材で分かった。東京五輪・パラリンピックの競技会場など関連施設の転用案が浮上している」と報じた。

 この記事は「都は検討を急ぐが、24日に開幕するパラリンピックは9月5日まで行われるため、競技会場や関連施設の転用は早くても同月6日以降となる」と続いている。

しかしIWJが東京都の広報課に確認すると「聞いていない」! オリパラ準備局も公式な検討の事実を完全に否定!

 ところが、IWJがこの産経の報道について、東京都に直接確認したところ、都のオリパラ担当部署からは、検討の事実は聞いていないとの回答がもたらされた。

 これはどういうことなのだろうか? 産経の誤報なのか、東京都の広報課も知らないほどのスペシャルなスクープなのだろうか?

 最初に問いあわせた東京都広報課の都留氏は、IWJ記者の「産経の報道は事実ですか?」との質問に対して、「こちら(広報課)でそういったリリースを出していないので、事実関係は分かりかねます。(産経の記事に書かれているような事実は)聞いていません。所管部局に問い合わせてください」と回答した。

 医療提供体制に関しては福祉保健局、オリンピック・パラリンピックの施設についてはオリンピック・パラリンピック準備局、どちらかに聞いてほしいとのことだった。

 福祉保健局は、時間が遅いためか電話がつながらなかったが、オリンピック・パラリンピック準備局・大会施設部の志村将憲調整課長にはつながり、質問に回答いただくことができた。

 志村課長は、IWJ記者の問い合わせに、こう回答した。

 「産経新聞の記事に、東京アクアティクスセンターや武蔵野の森総合スポーツプラザなどが例に上がっているが、オリンピック・パラリンピック準備局で回答したものではまったくない。検討自体もうちの局ではしていない。どこか検討しているところがあるのかもしれないが、私も記事を見て確認したぐらいで(把握していない)」。

 さらに、志村課長はこう続けた。

 「大会施設部は、新規恒久施設といって、会場の中の一部分しか所管していないが、全体を所管するオリンピック・パラリンピック準備局の広報に聞いても、検討もしていないし、分からないということでした」と、都庁内のオリンピック・パラリンピック準備局側での公式な検討の事実を完全に否定した。

 また、志村課長は、記事で、オリパラの競技会場は、東京アクアティクスセンターや武蔵野の森総合スポーツプラザなど「都内の広範囲に点在する」と記述してはいるものの、「(検討の対象が)オリパラ準備局が作った施設なのか、もともと東京都が持っていたスポーツ施設か、仮設で作った競技会場か、民間から借りた競技会場なのか、どこの施設を(対象とする)というのは、実は(記事中の)どこにも具体的に書いていない」と指摘した。

 なお、IWJ記者が、医療施設への転用検討の可能性を改めて質問したところ、志村課長は、「自分は所管ではないが、一般論でいえば、大会用の装飾やプレハブ施設、仮設観客席などを、大会終了後に組織委員会が撤去するので、そこまでは、組織委が全面的に使用する。そことの調整は当然出てくるので、当然、何事もなく使える話には、あまりならないのかなと個人的には思う」と回答した。

▲東京アクアティクスセンター(Wikipedia、© Arne Müseler、Arne Müseler / www.arne-mueseler.com)

▲武蔵野の森総合スポーツプラザ(Wikipedia、Ccgxk、https://commons.wikimedia.org/wiki/User:Ccgxk?uselang=ja

もし産経の「スクープ」なら、病床増加の「朗報」だが、都は感染者対策をパラリンピックより後回しにしたことに! 一方「誤報」で、施設転用の検討が皆無ならこれも重大問題!

 都のオリパラ担当部署は検討の事実を完全否定したわけだが、もしコロナ感染症対策関連の部署やその他の部署等で独自に検討がされ、産経が報じたのだとすれば、これは産経の「スクープ」だ。医療逼迫を解消するために、都がオリパラ施設を活用して病床等を積極的に増やそうとしていたわけで、「朗報」に違いない。

 しかし産経の報道が事実なら、医療体制が逼迫していた当時、パラリンピックと関係なく、ただちに臨時医療施設の開設に動くべきだったのに、都は感染者対策を後回しにしてパラリンピックの開催を優先し、終わってから臨時医療施設の設置の検討を進めようとしていたようにもうかがえる。それでは遅すぎる! 今救える命が救えなくなってしまう。

 他方、そもそも産経の記事が「誤報」で、都のオリパラ準備局側の言う通り、オリパラ施設の、コロナ患者受け入れ施設への転用など、まったく検討もされていないのであれば、これはこれで重大な問題だ。都はオリパラの施設転用を含め、また、それだけにこだわらず、1日も早く臨時病院の開設の検討を始めるべきだった。

都の福祉保健局も「記事で初めて知った」「どこの部署も知らない」、さらに「病院機能を持つ臨時医療施設の話は何もない」と回答!

 IWJ記者は引き続き翌8月24日も、東京都に取材を続けた。

 東京都で医療提供体制を所管する部署である福祉保健局の広報課長N氏(匿名希望)は、IWJ記者の取材に「私のほうも、この記事で初めて知った」と答えた。

 N氏は「あちこち、心当たりの部署に確認しているのですが、どこも知らないという答えでした」と述べた。

 IWJ記者が「知事も知らないということですか?」と聞くと、「さすがにそこまでは確認できませんが…」と答え、「オリンピック・パラリンピック準備局ならわかるかもしれません」とのこと。

 IWJ記者が「オリパラ準備局には昨夜問い合わせ、やはり同じように、『記事で初めて知った。確認したがわからない』とお答えいただきました」と伝えると、「それでは申し訳ありませんが、これ以上はお答えしようがないですね」とのことだった。

 なお、IWJ記者が「五輪関連施設に限らず、臨時医療施設の検討の話というのは出ていないのでしょうか?」と質問すると、N氏は「病院機能を持つ臨時医療施設ということでは、まだ何も話は出ていません。いわゆる酸素ステーションや入院待機ステーションについては、何ヵ所か設置を進めていますが」と答えた。

IWJが産経新聞に「記事中の『関係者』とは?」と問い合わせると「お答えしておりません」! 産経は説明責任を果たすべき!

 この産経の報道にある「関係者」が、五輪関連の部署であるのか、コロナ感染症対策関連の部署であるのか、あるいはまったく別の部署であるのか、記事から詳細はわからない。

 そこで、こうしたさまざまな疑問について確認するため、IWJは8月23日夜、産経新聞の編集局に、記事と都のオリパラ部署の回答が異なるが、記事の根拠を教えてほしいと問い合わせた。しかし編集局では、「日中に代表電話に問いあわせてほしい、広報部署が正式に回答するだろう」と答えるのみにとどまった。

 そこで8月24日午前、産経新聞広報部に、22日の記事の詳細と事実関係について問い合わせたところ、「質問を書面にして、FAXで送ってください。少し時間がかかるかもしれませんが、こちらで調べて回答いたします」とのことだった。

 そこでIWJは、産経新聞社にここまでの取材経過を記した上で、以下の質問を送付した。

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【質問】

 記事には「関係者への取材で分かった」とありますが、コロナ対応を所管する部署でも五輪関連施設を所管する部署でもない「関係者」とは、どのような部署のどのような立場の人物なのでしょうか?

 記事は「いわゆる『野戦病院』へ転用が可能か慎重に見極める」「都は検討を急ぐが」と、「都」を主語にして、検討の具体的中身にまで踏み込んだ記述をしていらっしゃいますので、都庁内部の関係者ということで間違いないでしょうか?

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 24日夕方、産経新聞から届いた回答は、以下のようなものだった。

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 24日にいただいた質問書への回答は以下の通りです。

産経新聞広報部

 「原則として取材や編集に関することにはお答えしておりません」
 以上です。よろしくお願いいたします。

産経新聞社広報部

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 東京都の五輪の専門部署もコロナ対策の専門部署も知らない情報を、産経新聞に語った「関係者」とは、いったいどのような人物なのだろうか。

 産経は、報道機関を名乗るなら、自社の報道に後追い取材で確認を取れず、「誤報」疑いが生じたら、説明責任を果たすべきである! これでは読者に対してあまりに不誠実だ。マスコミは「第4の権力」と呼ばれて久しいが、権力を持つ機関が、そこで働く個々の人間が「無責任」なのが、日本の問題なのだ。産経の報道内容とその姿勢、説明責任を果たさない姿勢は、明らかに日本の「無責任の体系」の一部をなしているといえる。

▲産経新聞東京本社(Wikipedia、Umako、https://commons.wikimedia.org/wiki/User:Umako?uselang=ja

自宅放置され死んでいった人々! その無念の思いを切り捨てる国政と都政を変えなければならない!!

 他方、五輪関連施設に限らず、「病院機能を持つ臨時医療施設の話は何もない」という都の関係各所の回答には失笑させられた。

 東京都では8月23日も、自宅療養や入院・療養等調整中という名で自宅放置され、適切な医療を受けられないまま2人が亡くなったことが明らかになった。

 8月23日付け共同通信は、基礎疾患のあった70代女性について「今月11日に陽性と判明した後、入院調整で受け入れ先が1週間以上見つからないまま19日に亡くなった」と、また、「50代男性も軽症との判断を受け自宅療養中、容体が急変し亡くなった」と報じた。

 黙って、叫び声もあげられないまま死んでいく者の無念の思いは、一切切り捨てるというのが、菅政権であり、小池都政である、ということを私たちは忘れるわけにはいかない。何度でも繰り返すが、自宅放置は、医療でも公衆衛生政策でもなく、人の命の切り捨てである。

 そして、コロナの感染がいつ我が身に起こるか誰にもわからない、という点で、我々は皆、ロシアンルーレットの銃を頭に突きつけられているようなものだ。

 運悪く、コロナウイルスの弾丸に貫かれて感染した場合、自宅放置されるのは私やあなたかもしれない。コロナウイルスの挙動や属性や感染力に我々が影響を与えることはできない。

 我々ができることは感染をしないようにすること、そして万が一感染したら、自宅で一人きりで放置させず、あるいは感染させてしまう家族とは離れて、安全な、隔離施設へ入れるようにしてもらうことだ。

 そのためには、国政と都政を、今までと変えなければならない! 私たち自身と私たちの大切な家族や仲間や恋人を守るのは、私たち自身が「自助だけでは足りない! 公助を充実させろ」と求めることだし、衆院の総選挙にてその主張をはっきりと刻むことだったのだ。足りない「公助」を有権者として納税者として主権者として求めることこそ、「自助」なのであると思う。

※これは日刊IWJガイド2021.8.24号~No.3267号と2021.8.25号~No.3268号に掲載された記事を加筆・修正したものです。

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