政治資金問題から見える「維新の正体」その4(超破格の講演料支出で赤字・公選法違反)~ブログ「上脇博之 ある憲法研究者の情報発信の場」より 2019.7.5

記事公開日:2019.7.5 テキスト
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(文・上脇博之)

特集 「ゆ」党再編の要!? 維新の「正体」
※2019年3月14日10:28投稿の本ブログは、上脇博之氏の許可をいただき掲載しています。

(1)先の投稿(「その3」)で、「日本維新の会」本部とその政党支部・政治団体は、一応政界を引退した橋下徹・元大阪市市長(元大阪府知事)の講演に超破格の講演料(1回につき216万円)を支払っているため、2016年・2017年の2年間でその講演料の合計額は、少なくとも2592万円になることを紹介した(私が入手できていない政治資金収支報告書もあるので、実際には、もっと高額になる可能性がある)。

(2)その破格の講演料が支払われているのは、会費(参加費)を徴収する「政治資金パーティー」の場合と会費を徴収しない場合(大会等)だった。ここでは、前者に限定して説明しておこう。

「政治資金パーティー」については、通常、収入と支出を伴うので、政治資金規正法により、その収入と支出(収支)を政治資金収支報告書に記載することが義務づけられている(第12条など)。
寄付の場合は、その受領した政党・政治団体が全額自由にできるが、政治資金パーティーの場合は、パーティー主催団体(政党・政治団体)は、その収入全額を全く自由にできるわけではなく、その会費(パーティー券代)を支払ったものに対し、一定のもの(例えば料理など)を提供することになるので、その限りで寄付とは性格を異にする。とはいえ、その提供に要した経費額(支出)を会費(パーティー券代)収入額(収入)から差し引くた黒字分収入と、政治活動に支出できる政治資金として確保できることになる。

政治資金規正法は、「政治資金パーティー」につき、
「対価を徴収して行われる催物で、当該催物の対価に係る収入の金額から当該催物に要する経費の金額を差し引いた残額を当該催物を開催した者又はその者以外の者の政治活動(選挙運動を含む。これらの者が政治団体である場合には、その活動)に関し支出することとされているもの」をいう
と定義し、
「政治資金パーティーは、政治団体によつて開催されるようにしなければならない」と定めている(第8条の2)。

政治活動のための資金の収支を報告しなければならないと義務付けられているのは、政党を含む政治団体だけなので、政治活動に支出するための資金を集めるために開催される政治資金パーティーは、「政治団体」(政党を含む)だけしか開催できないようにしているのである。
言い換えれば、
政治活動以外のために支出する資金(黒字)を集めるパーティーや黒字にならないパーティーは、政治団体以外の団体や個人も開催できるのである。

単なる一般のパーティーだと思って会費(パーティー代)を支払ったところ、その支払いの一部が政治活動に使われてしまうと、「事前に分かっていたら、会費(パーティー代)を支払わなかった(参加しなかった)。騙された。」と憤る者が現れてしまいかねない。
政治資金規正法は、「政治団体」(政党を含む)に対し政治資金の収支の報告書の作成と提出を義務付けている(第12条等)が、その前提として、「政治団体」に対し「政治団体としての届出」を義務づけ(第6条第)、その「届出がされた後でなければ、政治活動(選挙運動を含む。)のために、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附を受け、又は支出をすることができない。 」と定め(第8条)、
かつ、
「政治資金パーティーを開催する者は、当該政治資金パーティーの対価の支払を受けようとするときは、あらかじめ、当該対価の支払をする者に対し、当該対価の支払が政治資金パーティーの対価の支払である旨を書面により告知しなければならない。」と定めているのだ(第22条の8第2講)。

つまり、「政治資金パーティー」は、そもそも政治活動のために使える資金を集めるための催しものなので、赤字は想定されておらず、名称や名目は問われず、例えば「勉強会」という名称・目的であっても、また、催し物が例えば「音楽会」の形式であっても、政治資金規正法第8条の2の定義に該当すれば、いずれも「政治資金パーティ」なのだ。
政治資金パーティー会費(パーティー代)支払者は、パーティー主催団体の政治活動を支援するために実質的には黒字分の政治資金を提供しているので、パーティーが政治資金パーティーであることを理解したうえで、国民が参加できるよう、政治資金パーティー主催者に、前述の告知を義務付けているのである。

政治資金パーティー主催者は、会費(パーティー代)支払者にパーティーに満足してもらえる内容を提供する一方、経費を差し引いた政治資金(黒字)を十分確保できるように、政治資金パーティーを企画し、それを実行するのである。

となると、当然、パーティーに要する経費は(少なすぎると参加者に満足してもらえないが、それでも)可能な限り少なくなるようにし、パーティー収入からパーティー経費を差し引いた残金(黒字)ができるだけ多額になるように企画するのである。

(3)このブログの連載「その3」で紹介した「日本維新の会」の支部・政治団体が企画した政治資金パーティーでは、講演料は1つにつき超破格の216万円だった。
講演者の橋下徹・元市長は、大阪府知事・大阪市長を経験し、ほとんどタレントのような存在であり知名度も高いし、講演内容も充実しており(例えば演歌歌手の公演に匹敵する)から、216万円という講演料は決して高すぎることはなく、かつ、集客力もあるから会費(パーティー代)収入は十分確保できると判断したから、その「日本維新の会」の支部・政治団体は、その企画を立案して実行したということなのかもしれない。

では、日本維新の会の支部・政治団体は、実際その目的を達成できたのだろうか?

確かに黒字になっている政治資金パーティーもある(例えば、2016年と2017年の「馬場伸幸後援会」)。
一方、「井上英孝君を育てる会」は、2016年は橋下徹氏に講演を依頼し、破格の講演料を支払いながらも黒字になっているようだ(https://www.openpolitics.or.jp/pdf/270105/2016.pdf)が、しかし、2017年には橋下徹講演はないようだ(http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00307487/29ab0501.pdf)。
破格の講演料では企画できなかったのだろう。
もちろん、何かの事情で、2017年は、その企画ができなかったのかもしれないので、他の場合を見よう。

(4)なんと、政治資金パーティーを開催し、216万円の講演料を支払って、なんと赤字になっている、それも2年連続赤字なっている政治団体があった!

それは、「日本維新の会」の足立康史議員の資金管理団体「あだち康史後援会」(主たる事務所は大阪府茨木市内)である。「後援会」なのに代表は足立議員本人なのだ(自民党国会議員でも時々見かける)。

2016年には、2回の「政治資金パーティー」を開催しており、そのうちの一つが86万円の赤字であり、その赤字のパーティーで講演料216万円が「(株)TNマネジメント」に支払われているのだが、「橋下徹講演料」と明記されていた。

2016年4月13日東京都内のホテル 収入額380万円、経費193万円。187万円の黒字。
2016年6月11日大阪府吹田市内のホテル 収入額460万円、経費546万円で、そのうち「橋下徹講演料216万円」。86万円の赤字。
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00260063/291225h28aa0278.pdf
破格の講演料を支払っている後者は赤字になっている。

「あだち康史後援会」は2017年にも同じく2回の政治資金パーティーを開催し、そのうちの1回は、同じように「橋下徹講演料216万円」が「(株)TNマネジメント」に支払われ、100万円を超える赤字になっている。

2017年4月20日東京都内のホテル 収入額347万円、経費237万円。110万円の黒字。
2017年8月7日大阪府吹田市市内のホテル 収入額446万円、経費549万円で、そのうち「橋下徹講演料216万円」。103万円の赤字。
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00307434/29aa0278.pdf
破格の講演料を支払ってい後者はまたもや赤字( 2年連続の赤字)で、赤字額は増えている。

これでは、政治資金(黒字)を集める「政治資金パーティー」の目的を達せしてはいないことになる。

2015年まで政治資金パーティーを企画・開催していないようだから、2016年は慎重に企画すべきだった。「あだち康史後援会」の2015年の会費支払者は一人もおらず、会費収入は0円であり政治資金パーティーを開催しておらず(http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00228584/291122h27aa0278.pdf)、2016年は会費支払者が現れているが、それでも56名で、会費収入は16・9万円しかない。それなのに2016年に政治資金パーティーを初めて(!?)開催するのに、講演料(216万円)と会場費(243・6万円)で計459・6万円も支出すると予定し、都市部では1人分の会費(パーティー代)は2万円なのに、その半分の1万円程度(足立事務所の「日刊ゲンダイ」への回答から計算)で企画しているのは、初めから赤字を覚悟しているとしか思えない。

ちなみに、2016年に東京で開催した政治資金パーティーでは、(5万円以上の)講演料の支出はなく、会場費も150万円程度で、前述のとおり黒字である。

(5)問題はそれだけではない。
足立議員の選挙区内の者がこのパーティーに参加しているだろうから、その参加者は、超破格の講演料を支払うに相応しい講演を聴くことができたのだから、実際支払った会費(パーティー代)の金額よりも利益を得たことになるので、「あだち康史後援会」は、選挙区内の者に寄付をしたことになり、公職選挙法(公選法)が禁止している寄付したことになるとの疑いが生じる。
というのは、
公選法は、「寄附」とは、「金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付、その供与又は交付の約束」であり、「党費、会費その他債務の履行としてなされるもの以外のもの」をいうと定義し(第179条第2項)、
そして、
「政党その他の団体又はその支部で、特定の公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)の政治上の主義若しくは施策を支持し、又は特定の公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)を推薦し、若しくは支持することがその政治活動のうち主たるものであるもの」=「後援団体」は、「当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない。」と定めているからだ(第199条の5第1項)。

2017年10月まで維新に所属していた伊藤俊輔衆院議員の政党支部は、「日刊ゲンダイ」の取材に対し、「『寄付』と受け止められる恐れがあるので、赤字にならないよう留意した」(伊藤事務所)と回答したという(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/249160/2)。
前述したように公選法の「寄付の禁止」規定を踏まえた当然の回答である。

もちろん、少額の赤字であれば、参加者一人一人の受ける利益は極々少額であるから、あえて違法(公選法違反)と批判する必要はないかもしれないが、そもそも政治資金パーティーが黒字になることを想定している上に、公選法が選挙区内の者への寄付を禁止している以上、予想外の場合でも高額な赤字だけは出さないよう慎重にも慎重に企画すべきであるから、高額な赤字は公選法が禁止する寄付になるのは、当然の解釈である、

(6)では、足立事務所は、「日刊ゲンダイ」の取材に対し、どう説明・弁明したのだろうか?

「両年ともパーティー当日はまれに見る悪天候に見舞われ、公共交通機関のストップなどで来場者が極端に少なくなり、加えて不参加者には返金をしたので結果的に赤字となったが、天候不順は全くの不可抗力であり、当方には供応の意図は全くなかった」

これを読むと、足立事務所は、政治資金パーティーで赤字になると公選法の禁止する寄付(供応)になるとの立場に立ったうえで、「故意に違法行為をやったわけではない」旨、回答していることがわかるが、不可解な点もある。
第一に、不参加者には返金をしたのが真実であれば、いったん会費(パーティー代)を受け取っている以上、それを政治資金収支報告書に記載し、かつ、返金も記載する必要があるが、それらの記載はない。
例えば、自民党の稲田朋美議員の資金管理団体は、パーティーを中止したときに、返金したことを政治資金収支報告書に記載している。

稲田朋美「政治資金パーティー」発起人は“死者”だった 2017.07.21 11:0
https://www.news-postseven.com/archives/20170721_595300.html?PAGE=1#container

この記事によると、政治資金パーティーを中止して返金されることへ。
その返金は、「ともみ組」(資金管理団体・国会議員関係政治団体)2017年政治資金収支報告書
http://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/seijishikin/contents/SS20181130/1039800149.pdf
114枚目から144枚目に記載されている(1534万円が返金)。

したがって、足立事務所の「返金した」という回答が真実なら政治資金規正法違反(不記載罪)になってしまう。
(違法な寄付が政治団体の口座に入金されたとき、それを返金した場合には、そもそも受け取る意思がないので、気づいた時点ですぐに返金すれば、その入金と返金は政治資金収支報告書に記載する必要はないかもしれないが、上記は、これとは本質的に異なる。)

また、その記載がない以上、返金していなかったら黒字になっていたことは証明されないのである。
興味を抱いたのは、足立事務所が入金者をすべて把握しているだけではなく、パーティー参加者もすべて把握していることである。そうでなければ、不参加者が特定できず、返金できないからだ。

(7)前掲の「日刊ゲンダイ」記事は、さらに、足立事務所の回答について以下のように報じている。

「気象庁のサイトによると、16年のパーティー当日、府内で雨は1ミリも降っていなかった。事務所に再確認すると担当者はこう回答した。
『17年は台風が直撃。記憶の限りでは16年も雨風が強かったと思いますけど。いずれにせよ、予想より来客が少なかったということです』」

2016年の赤字は、実際には天候不順がなかった以上、不可抗力だったわけではないので、選挙区内の者に対する公選法違反の寄付になる。

なお、足立議員は、「政治資金規正法8条の2に基づく政治資金パーティーが結果的に赤字となっても適法であることは総務省にも確認済みです。」とツイッターで反論しているが、総務省がそのように説明するとは思えないが、本当にそう説明したのであれば、とんでもないことである。

その立場に立てば、例えば、安価な会費(パーティー代)の政治資金パーティーで人気のある演歌歌手の実質的なコンサートを開催し超高価な講演料を支払い赤字になっても、合法になってしまい、公選法の「寄付の禁止」規定は死文化してしまいかねないからだ。

(7)最後に、もう1点。
「あだち康史後援会」は、「活動区域の区分」が「「同一の都道府県の杭区内」であるとして、大阪府選挙管理員会に届け出をしているが、2016年からは東京でも高額収入の政治資金集めのパーティーを開催しているので、政治団体の届け出先を総務大臣に変更すべきなのに変更しないまま大阪府外の東京都内で高額な政治資金パーティーを開催したのは違法ではないかとの疑念が生じる(政治資金規正法第6条第1項)。

なお、
会費(参加費)を徴収しない催し物の場合については、別の機会に解説する。

(つづく)

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