水道民営化、混合診療解禁、国家戦略特区、そしてTPP、内田聖子氏らがアベノミクス推進派が叫ぶ「規制=悪」論に警鐘 2014.7.26

記事公開日:2014.8.3取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

特集 TPP問題

 90年代初頭のバブル崩壊後、日本の経済論壇で、飛躍的に登場回数を増やした言葉に「規制緩和」がある。

 これは、市場でビジネスを展開したり、これから展開しようとする民間事業者にかけられる「縛り」を減らしたり取り払ったりすれば、事業者はもっと自由にビジネスが展開ができ、ひいては日本全体が豊かになる、との考え方だ。この「規制緩和」には、水道、教育、医療、農業といった公的セクターの、民間事業者への開放要求も含まれる。

 2014年7月26日、大阪市西区の靱(うつぼ)テニスセンター会議室で、安倍政権の下でトーンを強めている規制緩和論に警鐘を鳴らすシンポジウム、「これが最新情報!TPPと国家戦略特区でどうなる大阪圏!?」が開かれた。

 内田聖子氏(アジア太平洋資料センター PARC事務局長)らスピーカーの面々は、「企業の過度な金儲けに歯止めをかける『規制』があるからこそ、庶民の暮らしは守られる」「規制緩和を味方につけて勝ち上がるのは、あくまでも少数派。圧倒的多数の日本人は、今よりも経済格差を痛感するはめになる」などと主張。規制緩和の大推進策であり、「岩盤規制の破壊」を掲げる安倍政権の「アベノミクスの3本目の矢」は、海外投資家を喜ばせ、日本国民を苦しめるものである、と断じた。

 さらには、環太平洋経済連携協定(TPP)や国家戦略特区法、そして、大阪市で進められている水道事業の民営化は、すべて「規制緩和」のキーワードでつながっているとの指摘もあり、登壇者たちは「国民は、アベノミクスとこれらは同根であると見なし、自分たちの将来の暮らしを守るために、これら全部に強く反対していかねばならない」と訴えた。

■Ustream録画(再配信映像) ・1/2(1時間57分)

3分~ 内田氏/17分~ 奈須氏/26分~ 塩見氏/38分~ 杉島氏/47分~ 武田氏/57分~ 中村氏/1時間3分~ シンポジウム

■後半 2/2(1時間52分)

1分~ 内田氏/24分~ 奈須氏/46分~ シンポジウム後半/1時間13分~ 質疑応答
  • 開会・説明 中村哲治氏(元衆議院議員)
  • 基調講演
    内田聖子氏(アジア太平洋資料センター〔PARC〕事務局長)TPP/奈須りえ氏(市民生活アナリスト、まちづくりエンパワメント代表)国家戦略特区/塩見俊次氏(医師、奈良県医師会長)TPP(国民皆保険制度、混合診療)/杉島幸生氏(弁護士、自由法曹団)秘密保護法/武田かおり氏(AMネット)大阪市水道民営化/中村哲治氏 集団的自衛権
  • シンポジウム 〔コーディネーター 中村哲治氏〕
  • 講演続き 内田聖子氏/奈須りえ氏
  • シンポジウム後半/質疑応答
  • 日時 2014年7月26日(土)
  • 場所 靱テニスセンター会議室(大阪市西区)
  • 主催 まちづくりエンパワメント(縁ぱわ)(詳細、Facebook)

「規制」とは企業の行き過ぎた儲け主義に歯止めをかけるもの

 はじめに内田氏は、日本人は、民間企業を見る折に性善説的観点に立ちすぎる、と指摘。国家権力の暴走に歯止めをかけるのに、立憲主義が必要であるように、民間企業を、行き過ぎた金儲けに走らせないための歯止めとして、いわゆる「規制」が必要になると強調し、「その規制さえ取り払えば、国民全体が豊かになるといった言説は真っ赤な嘘だ」と力を込めた。

 日本国内での貧困問題の広がりや、格差の拡大傾向にも触れた内田氏は、「TPPなどの自由貿易協定は、規制緩和あるいは規制撤廃という形で、相手国に市場の開放を強く迫るものである」とし、TPPの狙いについて、「関税の撤廃などを通じて、海外の資本が簡単に参入できる、競争原理の色合いが極めて濃い市場の中に、日本のあらゆるビジネスを放り込むこと」と説明した。

 そして、日米間のTPP交渉が妥結すれば、日本の市場は、米国系の多国籍企業群の思惑通りに「弱肉強食型」へと作り変えられてしまう、と警告を発した。

生きる上で不可欠なものに「規制緩和」が及んではならない

 内田氏はさらに、「事業には、収益性のみで良し悪しを決めてはいけないものがある」とし、「農業や魚業はその代表格。義務教育や水道といった公共サービスも同様だ」と語った。

 内田氏は「これらはどれも、人間が人間らしく生きていく上で、必要不可欠なものであり、競争市場の中で民間企業に担わせるには無理がある」と述べ、たとえ利益は上がらなくても、一定の水準以上で事業を続けていく必要性を強調。「アベノミクス推進派は『岩盤規制を壊す』などと叫んでいるが、規制自体が悪であると言わんばかりの、彼らの主張にだまされてはいけない」と呼びかけた。

 内田氏は、岩盤規制の存在が指摘されている、医療、教育、雇用といった分野で徹底的な規制緩和が実施されれば、そこで思う存分「腕力」を振るうことができると計算した民間企業は、低所得者や、職能が高くない労働者らを冷たくあしらいつつ、「利潤追求に血道を上げるようになる」と指摘。少なくとも、誰もが平等に受益できることが大切な「ユニバーサル・サービス」には、規制緩和(=民営化)の矛先が向けられてはならない、と訴えた。

TPP妥結は無理、との判断は早計

 TPP交渉の進展ぶりについて、内田氏は「うまくいっていない」と言明。「今年2月のシンガポール会合は不毛に終わり、4月のオバマ米大統領の来日も合意の要因にはならず、5月のべトナム会合では、参加諸国にやる気のなさが目立った」と報告した。

 その上で、内田氏は「米国では11月に(交渉停滞要因の)中間選挙を控えている」と指摘。「今は、昨年同様に『年内妥結』の可能性にメディアの関心が集中している」とし、「このまま永遠に、TPP交渉がまとまらなければ、それはセカンドベストのシナリオの実現を意味する」と述べつつも、現実はそんなに甘くないだろう、と付言し、次のように語った。

 「TPP交渉をテコにして、世界の市場を自分たちに好都合な色に塗り変えたい米国経済界からは、米国の政治家らに対して『交渉妥結』を求めるプレッシャーがかかり続けており、ひるがえって日本でも、安倍政権が妥結に向けて、より意欲的になる公算が大きい」。  そして、「昨年末の特定秘密保護法の成立や、憲法解釈で9条の改正を断行しようとする最近の動きは、多くの日本人に安倍政権を『危険な政権』と解釈する視点を与えた」とした内田氏は、安倍首相は今、日本の財界が日本のTPP参加を歓迎している点に、改めて着目しているに違いない、と話す。

 内田氏は「先の滋賀県知事選挙では与党が負けており、来年の統一地方選でも自民党は厳しい戦いを強いられそうだ。そんな今、安倍政権は、財界ウケを狙って、米国の要求に譲歩を重ねてでも、TPP交渉の『妥結』を取りつけようとしているはずだ」という見立てを示した。

市民より投資家が大切なのか

 続いてマイクに向かった奈須りえ氏(まちづくりエンパワメント代表)は2012年12月に成立した「国家戦略特区法」を話題にした。「アベノミクスの第3の矢の具体策である戦略特区は、地域限定で規制緩和を先行させるもので、『これこそが、アベノミクスの本丸』の呼び声が高い」。

 特区法では、医療や雇用、農業など計6分野で「規制の特例」が認められている。その特区法を軸にしつつ、アベノミクスの方針が詳しく説明されている「日本再興戦略(ジャパンイズバック)」を精読したという奈須氏は、「その中で、圧倒的に多く登場する言葉は『投資』だった」とし、「海外から投資を呼び込むための目玉的施策が、特区なのだ」と訴えた。

 「安倍政権は、戦略特区が海外投資家たちから評価を集めたら、規制緩和の波を全国に広げようとしている」とも語った奈須氏は、「安倍政権は、特区実施で国民の暮らしにどんな影響が及ぶかを検証していない」と指摘。特区とTPPの関係については、「日本政府は、たとえTPP交渉が妥結に至らなくても、国家戦略特区法でもって(当初は地域限定ながらも)規制緩和を押し進めていく考えだ」と口調を強めた。

 そして、規制改革論者が言う「既得権益者」とは、規制が敷かれることで市場安定性のメリットを享受している「一般市民たち」のことだ、と指摘する奈須氏は、「市民よりも、投資家の利益が大事にされる日本になってはいけない」と力を込めた。

大阪市水道の「民営化」は本当に必要か

 2013年に麻生太郎副総理が、米シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)での講演で「日本の水道事業をすべて民営化する」と発言したことを捕まえて、「(麻生氏は)世界の水道事業が、すでに民営化されているかのような口ぶりだったが、実際は今なお、大半の国の水道事業は公営形式だ」と指摘するのは、次のスピーカーの武田かおり氏(AMネット)である。大阪市の水道事業が1998年以降、収益の推移が右肩下がりを続ける中でも、黒字を確保してきた点を強調した武田氏は、「大阪市の水道料金は、全国でもっとも安い」と訴えた。

 そんな大阪市の水道事業が、2015年度中に「民営化」される。武田氏は、市が挙げる民営化のメリットが、1. 管路耐震工事のスピードアップ、2. 水道料金の見直し──の2点であることを紹介しつつ、前者については「民営化しなくても可能ではないのか」、後者については「今よりも水道料金を引き下げて、それで経営が維持できるのか」とコメントした。

 料金値下げに関して、大阪市は「民営化されれば、現在1ヵ月950円の水道基本料金から100円の値下げが実現する」とアピールしているが、これは応分のコスト削減余地があればこそ、の話である。武田氏によれば、大阪市水道事業の職員数は、1975年頃は3000人ほどだったが、今はその半分程度で、部署によっては民間会社への実務の委託が進んでいる。大阪市の水道事業の職員数は、すでに十分な適正水準にあるというのが、武田氏の認識だ。

 また、人口減を背景とした収益環境の悪化や、関連施設の老朽化に伴うコスト増についても、武田氏は「これは大阪固有の問題ではなく、民営化すれば解消されるものでもない」と指摘した。

水道事業に、期待するような「競争」は生じない

(…会員ページにつづく)

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“水道民営化、混合診療解禁、国家戦略特区、そしてTPP、内田聖子氏らがアベノミクス推進派が叫ぶ「規制=悪」論に警鐘” への 4 件のフィードバック

  1. K.H. より:

    聖路加の日野原さんの講演を聞きました。聖路加病院が将来、大学になり、その大学の医学部の大学院になるという話をしていました。アメリカ式だとも言っていました。TPPだなと思いました。

  2. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見より) より:

    TPPや国家戦略特区法、水道事業の民営化は、すべて「規制緩和」のキーワードで繋がっている。耳障りのいい言葉に騙されてはいけない。

  3. @ecolinlinさん(ツイッターのご意見より) より:

    国民そっちのけで戦略特区に限らず、海外投資家の反応を得ようとあれこれやってる感じ。

  4. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    水道民営化、混合診療解禁、国家戦略特区、そしてTPP、内田聖子氏らがアベノミクス推進派が叫ぶ「規制=悪」論に警鐘 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/157427 … @iwakamiyasumi かつて規制の撤廃を高らかに挙げた小泉・竹中が何をして、その結果どうなったか改めて考えるべき
    https://twitter.com/55kurosuke/status/515824440404230144

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