[スタッフの寸評紹介]安斎さや香のチェリー・ボム!~私が見てきたシリアと内戦の背景(IWJウィークリー8号より) 2013.6.26

記事公開日:2013.6.26 テキスト動画
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(IWJ・安斎さや香)

特集 中東

<IWJの視点>安斎さや香のチェリー・ボム! ~6月21日(木)

 「中東」と聞くと、危険なイメージを抱く人が多い。そんな土地を、私は女一人で旅したことがある。

 6年前の3月、私はヨルダン、イスラエル、シリア、レバノンの地を歩いていた。イスラエルがレバノンを空爆して、半年が経った頃のことだ。

 当時、旅行者なら必ずと言っていいほど持ち歩く『地球の歩き方』のヨルダン・シリア・レバノン版は絶版となっており、ガイドブックが手に入らなかった。仕方なく、地図帳の中東のページを拡大コピーして持っていく始末。

 トランジットのドバイの空港で、もう一つのガイドブックの大手、『ロンリープラネット』を立ち読みして、目ぼしいゲストハウスの住所を控えて現地へ向かった。

 渡航した4カ国の中で、シリアは特に印象に残っている。反米意識は根深い、と言われていた。

 たまたまホテルで同室になったアメリカ人は、「自分はカナダ人だと名乗っている。見識のある人は問題ないが、アメリカ人だと言うと、石を投げられたりする」と語っていた。

 しかし、日本人である私は、全くそのような敵意のまなざしを向けられることはなかった。むしろ、出会う人々は非常に親切で、「旅人には3日間まで無償で宿と食事を与えなさい」というコーランの教えに基いて、親切・丁寧に対応されることが多かった。

 シリアは、荒んだ国ではなく、敬虔なムスリムの国なのだということがよく分かった。女性と会話するチャンスが少なかったのは少し残念ではあったが、人々が優しく、治安も非常に良く、旅のしやすい国だった。

 そんなシリアで、印象深かったのは、ゴラン高原のシリア側に位置する小さな町、クネイトラだ。ここは、1960年代後半から70年代前半にかけての中東戦争において、シリア領であったゴラン高原にイスラエルが侵攻し、戦争末期に爆撃・破壊され、廃墟と化した町である。

 現在は、国連の監視下におかれているが、シリア側は、イスラエルによる残虐行為の証拠を、後世に残し、伝えることを目的として、この町をそのまま保存している。

 建物は無残に壊され、至るところに無数の砲撃痕があり、穴だらけの形相を呈していた。鳥の鳴く声がこだまする静けさの中で、戦闘の激しさが無言でひしひしと伝わってきた。まさに死の町である。冷ややかであればあるほど、戦争の無惨さが伝わり、底知れない恐怖を覚えた。

 戦争はすべてを破壊する。建物だけではなく、人々の生命も、人々の温かい営みも、暮らしも、すべて。

 私が足を運んだ首都ダマスカスのにぎわいは忘れられないが、あの美しい古都も、ホムス、ハマーなどの町も内戦の脅威に晒されているという。特に、ホムスは激戦区となっていることを耳にする。とても信じられない。少なくとも私が接してきたシリアの一般の人々は、簡単に喧嘩をしたり、暴力を振るうような人々では決してないし、あんなに安全だった場所が、今となっては入国すらできなくなってしまうなんて、想像もできない。

 2011年から続く内戦は、沈静化の兆しを見せることなく、悪化の一途をたどっている。

 国連人権高等弁務官事務所は今月13日、シリア内戦における戦死者数が少なくとも9万2901人にのぼると発表。今年の3月は、内戦開始から最も犠牲者が多く、6005人が殺害されたと報告された。先月のCNNの報道によると、国内避難民に至っては400万人以上、周辺国が抱える難民の数は150万人を大幅に上回っているという。

 こうした中、米国はシリアへの直接介入を表明し、反体制派につくことを明らかにした。その理由はアサド政権側が化学兵器を使用したからであるという。しかし、シリア内戦での戦争犯罪などの人権侵害を調べる国連調査委員会は、化学兵器の使用について、政権側・反体制側のどちらが使用したかは結論づけていない。米国の介入は、勇み足となる可能性もある。

 イラク戦争のように反米主義的な政権を力づくで打倒し、自身のコントロール下に置こうとするブッシュJrの「新しい戦争」のスタイルを、オバマも結局は、踏襲したのだ、という冷ややかな見方がある。その一方、最近発覚した、米国のNSA(国家安全保障局)が全世界の個人情報をのぞき見ていたという一大スキャンダルから、人々の目をそらさせるための介入表明ではないか、と疑う声も出ている。

 いずれにしても、米軍の軍事介入は、内戦の早期収束を謳いながら、内戦を悪化させることに間違いなくつながっていく。550万人もの避難民と、今も戦争の脅威に晒されている一般市民を尻目に、武器を送り込み、さらには兵も送ろうという遠い外国の介入。無益な戦闘を止めない、政権側と反体制派およびその他の武装勢力。誰も一般の民衆のことなど考えてはいないのだ。

 日本も、無垢ではありえない。

 安倍総理は反政府勢力に対して、人道的な支援を実施すると表明。軍事支援ではないものの、内戦の一方の当事者に肩入れをする決断だ。言うまでもなく、米国の介入の決断に、つき従ってのことである。今後、米国の介入の姿勢次第では、追従のレベルが深まっていくことが懸念される。人道支援にとどまらず、自衛隊の派遣を求められる可能性もある。

 21日の臼杵陽・日本女子大学教授インタビューでは、欧米諸国がシリア内戦において反体制派を支援する中、イランはロシアと手を結び、中国もロシアと協調する動きを見せ、内戦はさらに長期化するのではないかと懸念を示した。日本にとっても、対岸の火事とは言えない事態なのである。

■イントロ

 間近に控える参院選で、昨年の衆院選と同様、自民党が圧勝することになれば、憲法改正、自衛隊の海外派兵など、米軍と一体化して、他国の戦争に介入してゆく可能性が格段に高まる。国民の人権が制約され、軍事国家体制へ一段と近づくことは避けがたくなるだろう。それを許さない市民の行動が、どこまで力を発揮していけるのか。今後のカギは、私たち普通の市民一人一人が何を考え、どう発言し、どう行動するかにかかっているのではないだろうか。

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