2013年6月15日(土)13時、神奈川県横浜市の青葉区民活動支援センターにおいて、政治経済学者の植草一秀氏による講演会「アベノミクスとTPPの真実」が開かれた。食・農・環境に関する情報を発信している「食政策センター・ビジョン21」が会員向け勉強会の講師として招いた。講演で、植草氏は、アベノミクスを「メッキが剥がれた。本体は『アベノリスク』だ」と斬り捨てた。さらに、経済政策、株価、選挙、メディア、原発、TPP、消費税、改憲など、さまざまな懸案事項について、資料を豊富に提示しつつ、持論を語った。
(IWJテキストスタッフ・久保元)
2013年6月15日(土)13時、神奈川県横浜市の青葉区民活動支援センターにおいて、政治経済学者の植草一秀氏による講演会「アベノミクスとTPPの真実」が開かれた。食・農・環境に関する情報を発信している「食政策センター・ビジョン21」が会員向け勉強会の講師として招いた。講演で、植草氏は、アベノミクスを「メッキが剥がれた。本体は『アベノリスク』だ」と斬り捨てた。さらに、経済政策、株価、選挙、メディア、原発、TPP、消費税、改憲など、さまざまな懸案事項について、資料を豊富に提示しつつ、持論を語った。
■ハイライト
植草氏は、第二次安倍政権誕生のきっかけとなった昨年暮れの衆議院選挙について、「原発、消費税、TPPについて争点化し、国民が判断を下すという政策選択選挙、政権選択選挙であるべきだったのに、争点がぼかされてしまった」と述べた。これについて、「『国民の関心は、景気・雇用』という報道が多かったが、これにはからくりがある」と語り、「景気・雇用は、消費税問題と表裏一体なので、世論調査では『景気・雇用・消費税』を一体として設問にするべき。設問を『景気・雇用』『消費税』と別々にばらしてアンケートを取ると、どうしても回答は『景気・雇用』に集まり、消費税の問題は関心が低いというようにされてしまう」と解説した。
その上で、「世論調査は、質問の設定の仕方でいかようにも結果をコントロールできる。はじめから答えを決めておいて、そこに回答が集中するように各設問を設定できる」と述べ、世論調査が恣意的に世論を誘導している現状を批判した。
植草氏は、「多くの市民は原発をなくすことに賛成だし、TPPについても中身をよく知れば、日本は入るべきでないという考えに至る。消費税についても、政府の色々なムダを斬らないで税率を上げていくのはおかしい」と批判した上で、「それらは政府の約束だったのに、全部横に置かれて、自民圧勝になってしまった。その流れを汲んで7月の参院選も、主要争点を横に置いたまま進もうとする策略が見えている」と述べた。
さらに、原発再稼働、TPP交渉参加、消費税増税、辺野古移転問題などの懸案事項が本格的に動くのは、いずれも参議院選挙終了後であることについて、植草氏は、「地雷装備完了」と皮肉り、「これから炸裂する地雷についてはあまり触れずに、夏の選挙は円安・株高のアベノミクス万歳、アベノミクス礼賛という流れで乗り切ってしまおうというのが狙いだ」と警鐘を鳴らした。また、憲法96条改正の動きについても、「変えられてしまってからでは後の祭り」と警戒感を示した。
植草氏は、「参議院選挙終了後は、解散がない限り、丸々3年間は選挙が行われないことになる。衆参両院で政権側が圧倒的多数を占めると、やりたい放題になる。日本の国を根本的に書き換えることができてしまう」と危惧の念を示し、「それを阻止する最低限の条件は、権力の暴走を食い止めるための勢力を、なんとしてでも、参議院で少なくとも3分の1以上確保しなければならない」と述べた。
また、資料において、「みんな」「維新」を「偽装第三極」「対米従属勢力」と評した上で、「参院選では、『自・公・み・維』の方針に反対する勢力、いわば『市民派勢力』が、『小異』を乗り越え、団結して選挙戦を闘わないと、選挙区では議席が全く獲得できないという事態が懸念される」と憂慮の念を示し、野党勢力が議席を獲得する戦略の重要性を力説した。
植草氏は、安倍政権に関する3つの問題点を示した。
1つ目は、衆議院選挙で、全有権者のわずか16%という少ない得票にもかかわらず、79%もの議席を獲得し圧勝するという、国民の判断と国会の議席数が大きく食い違っている状況の中で、国を左右する原発、普天間、消費税、TPPなどの重要政策が決められていくという問題。
2つ目は、安倍政権の掲げる成長戦略の問題。「10年後に所得を150万円増やす」と安倍総理が発言したことについて、「経済規模を単に人数(人口)で割っているだけ。全員に150万円増やすということではない。ある人が全部持っていってしまうかもしれない。言葉のトリック、まやかしである」と斬り捨てた。
また、「安倍政権の話には、経済全体の成長、パイを大きくすることしか出てこないが、私たち市民、生活者、消費者、主権者という立場でいうと、成長より分配、パイをどう分かち合うかということのほうが大事」とし、「安倍政権には、分配の視点がない。安倍政権の経済政策の視点は、大資本がいかに利益を増やすか、ここに焦点が置かれている」と非難した。
具体的には、「解雇の自由を拡大し、農業分野には株式会社がどんどん参入できるようにするほか、税制では消費税を増税する一方、法人税はさらに減税するなど、資本の利益を追求するという傾向が非常に強い」と指摘し、「労働者、生活者、主権者の個々の幸福がないがしろにされているのが非常に大きな問題」と批判した。
3つ目は、これからの政治のあり方についての問題。「第一極とか第三極とか言われているが、大差ない。いわば(自民党の)別働隊のようなもの」と述べ、「(別働隊を)どこで見分けるのか。既得権益の側に立つ政治勢力なのか、市民・主権者・消費者・労働者・個人の側に立つ政治勢力なのか、ここを見極める必要がある」と述べた。
植草氏は、アベノミクスについて、「これまできれいに見えていたが、メッキが剥がれてきた。剥がれた後に出てくる本体は『アベノリスク』だ」と皮肉を込めて語った。また、国民がアベノミクスを支持してきた要因として、マスコミによる情報操作、いわゆる「メディアコントロール」を挙げ、「日本の情報空間が特定のメディアに占有され、コントロールされている。情報空間そのものが歪んでいる」と述べた。
マスコミの情報を鵜呑みにしやすい国民性については、「多種多様な情報があるのではなく、どのテレビ局からも同じ情報が流されるので、信じてしまいやすい」としつつ、「情報が本物かニセモノを見極める力をメディアリテラシーというが、日本には備わっていない。ある大きな力が世の中を誘導しようとすると、いとも簡単に誘導されてしまう。それが昨年の衆議院選挙だった。これと同じことが参議院選挙でも起きると、取り返しがつかなくなる」と述べた。
植草氏は、アベノミクスの狙いとして、「円安誘導で株価上昇を演出したいのではないか」とし、「金融緩和をどんどんやれば、日本の金利が下がって円安につながり、円安になれば株が上がる、株が上がると人気が上がる、と考えたのではないか」と述べた。さらに、「アベノミクスで評価を受けている点はただ一つ、株価が上がったこと。それ以外は何もない。株価が上がると、マスコミもはやし立てるし、政権にとって都合の良い話だ」と斬り捨てた。
為替相場については、「一般的に、円ドルレートの変動の要因は、アメリカの金利に左右される。アメリカの金利が下がるときはドル安、アメリカの金利が上がる時はドル高になる」とし、「アベノミクスは金融緩和をやったら日本の金利が下がる、金利が下がったら円安になる、円安になったら株価が上がる、金利が下がったら景気が良くなる。これが続いたらインフレ率が上がる、これがアベノミクスのストーリーだった」と述べた。
その上で、「金融緩和をやれば金利が下がるというのがアベノミクスの出発点。確かに半年間はそれがうまくいったが、実際に金融緩和をやったらどうなったかというと、金利が上がってしまった。アベノミクスの良いところはすでに終わってしまった」とし、「4月4日以降、何が起きたか。実は日本の金利が上がったら円高になりやすい。103円まで行ったのが94円まで円高になってしまった。今までは円安で株高だった。それが、日本の金利が上がり始めたものだから、円高で株安に流れが変わってしまった」と述べ、さらに、「日銀はかなり追い込まれている。安倍さんとしては7月21日(の参議院選挙)まで何とかうまく(円安株高を)もたせたいと思っているだろう」と述べた。
為替を考える指標として、植草氏は「ビッグマック指数」について解説した。
(…会員ページにつづく)
アップありがとうございます。
解りやすい説明で、納得できました。多くの人に見ていただきたいと思いました。
スキャンダル(冤罪?)以降テレビでお見かけしなくなったのですが、今後ともご活躍ください。