「消費税は、弱者のわずかな富を強者に移転する税制」 ――有識者が「社会保障の充実なき増税」に待ったをかけるべく決起 2013.9.17

記事公開日:2013.9.17取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・久保元直樹/佐々木隼也)

特集 消費税増税
※全文文字起こしを会員ページに掲載しました(2013年10月17日)

 安倍総理は10月1日に会見を開き、消費税を現行の5%から8%に引き上げることを、正式に発表した。総理は会見で、「最後の最後まで考え抜き、熟慮した」「ほかに道はない」と強調したが、果たして本当に、「熟慮」した結果の決断なのか、「ほかに道はない」のかどうかは、甚だ疑問である。

 一方で総理は、復興法人税の前倒しでの撤廃と、法人税の引下げについては、「検討」していくという。庶民を増税で圧迫し、財界は法人税引下げで潤わせる。総理が掲げる「経済の再生」と、真っ向から矛盾する結果を生むのではないだろうか。

 9月17日、植草一秀氏(政治経済学者)、斎藤貴男氏(ジャーナリスト)、醍醐聰(東大名誉教授)、鶴田廣己氏(関西大学教授)の4人の財政の専門家が、政府の拙速な増税への動きに対し、異議を申し立てる緊急アピールを発表。昼過ぎから参議院議員会館で記者会見を行った。専門家らは、そもそも「消費税」自体が、一部の大企業だけの利益につながる愚策であると指摘する。

■ハイライト

  • 会見名 社会保障の充実なき消費税増税に反対する緊急アピール発表の記者会見
  • 会見者 植草一秀氏(政治経済学者)、斎藤貴男氏(ジャーナリスト)、醍醐聰氏(東京大学名誉教授)、鶴田廣巳氏(関西大学教授/日本租税理論学会理事長)

消費税増税を煽ってきた主要メディアは会見を「黙殺」

 この日取材に訪れた報道関係者は、東京新聞、読売新聞など約10名のみ。また、明けて9月18日現在、この緊急アピールに関する報道は一切行われていない。会見のすべてを報じたのは、IWJだけである。NHKや民放テレビはもとより、大手新聞が一斉に「黙殺」した格好となり、この消費税増税の問題の根深さが改めて浮き彫りとなっている。

鶴田氏「消費税増税はデフレ不況を深刻化させる可能性が高い」

 会見で鶴田氏は、消費税増税について、「被災者・零細業者・中低所得者への配慮がない増税である」と批判し、「年収300万円の世帯で年間12.1万円増(2016年)、年収500万円の世帯で年間16.8万円増(同)になる」との、大手シンクタンクによる試算を紹介した。また、経済界が描く「企業業績回復⇒投資拡大⇒雇用所属増加⇒消費拡大」というシナリオや、「雇用維持型から労働移動支援型への政策転換」「民間人材ビジネスの活用」「限定正社員制度設置」など、雇用・労働規制の一層の緩和について、「労働や所得の不安定化を招く結果になる」と指摘した。

 そして、「消費税増税はデフレ不況を深刻化させる可能性が高い」と指摘し、「物価の継続的下落⇒企業売上収益減少⇒企業行動の慎重化・設備雇用調整⇒雇用・賃金下落、非正規雇用増⇒需要減⇒物価下落」という「泥沼スパイラル」に陥るとして警鐘を鳴らした。

植草氏「行き過ぎた『弱肉強食』構造になっている」

 植草氏は、自身が消費税増税に反対する理由として

(1)消費税増税の前にやるべきことがある。「シロアリ退治」も済んでいない (2)持続可能な社会保障制度確立の道筋が全く示されていない。社会保障支出の削減だけが先行決定している (3)日本財政が危機的状況(借金1000兆円)との財務省の説明は、同等の資産があることを明らかにしていないという点で、増税を煽るための虚偽の説明である (4)財政構造改革の手順が間違い。政府支出無駄を削り、社会保障制度を強化すべきである (5)消費税制度には、根源的かつ致命的欠陥が存在する。消費税増税分を価格転嫁できない零細事業者は、消費者が負担するはずの消費税相当分を被ることになる―

 という5つの点を指摘した。さらに、「消費税による税収は当初の水準から3倍になっているのに、今回の政策は、これをさらに2倍するもの。一方、法人税は3分の1にしたのに、さらに半分にしようとするもの」と指摘し、「行き過ぎた『弱肉強食』構造になっている」と批判した。

斎藤氏「消費税は、弱者のわずかな富を強者に移転する税制である」

 斎藤氏は、「消費税」という名称について、「ネーミング自体がミスリード。多くの人々は『最終消費財にのみ課税される』とか『最終消費者のみが払う』と思い込んでいる。しかし、実際には、すべての流通・サービス段階に掛かってくる」と述べた上で、「消費税の問題の本質は、『弱いほうへ負担を押し付ける仕組み』だということ。所得税は利益に応じて掛かる仕組みだが、消費税は利益や儲けに関係なく、売上に応じて掛かるので、赤字でも取られてしまう」と指摘した。

 さらに、製造業などの輸出事業者が適用を受けている「輸出還付金制度」について、「消費税相当分を下請けに転嫁して下請けを泣かせていれば、大手事業者は、払ってもいない消費税相当分を『不労所得』として儲けている可能性がある」と指摘した。その上で、「消費税は、弱者のわずかな富を強者に移転する税制である」と述べたほか、「弱い者が、市場原理によって負けて退場していくのでさえなく、不利な税制が加わり、弱い者に対してさらに負担を強いていくのが消費税税制である」と厳しく批判した。

 また、消費税増税によって零細事業者の自殺が増加する可能性についても言及し、「未来にツケを残すなという主張もあるが、今の世代の中でも不公平がはっきりと存在する。このままでは未来の世代にすら繋がらない」と憂慮の念を示した。

醍醐氏「社会保障は充実ではなく悪化している」

 醍醐氏は、「社会保障の充実なき消費税増税に反対」する理由として、消費税が導入された1989年以降、年金支給開始が60歳から65歳に引き上げられたり、医療保険の窓口負担が1割から3割に引き上げられたりした点を列挙し、「社会保障は充実ではなく悪化している」と批判した。その上で、「消費税の『宿罪』は、税負担の逆進性や、税転嫁の逆進性、不確定性にある」と指摘した。

メディアの報道姿勢

――新聞協会が軽減税率を求めていることについて、IWJが質問

 質疑応答では、IWJからの「大手メディアは増税論を張ってきたのに、一方で軽減税率に新聞を入れるべきだと言っているが、どう思うか」の問いに対し、植草氏は「争点を隠して得た政権は、国民の信託を受けていない。『ねじれを解消する』とか『アベノミクスの争点を問う選挙だ』などと言って、主要争点を脇にそらしたメディアの責任は極めて重い」と指摘した。

 斎藤氏は、「軽減税率適用の陳情によって、汚職や天下りがはびこる」との懸念を示した上で、「メディアは、天下りや汚職の温床になる恐れが他業界より深刻である。新聞の論調が権力の対応によって左右される懸念もある」と指摘した。醍醐氏は、「消費税率が上がって困るのは他業界も同じ。消費税率が上がる弊害をきちんと伝えてこなかったメディアとしての責任を棚に上げ、『新聞は知識を提供するのだから軽減税率を適用してほしい』というのは、明らかにおかしい」と厳しく批判した。

◆質疑応答概略

記者「今回のアピールの内容を今後どのように広めていくのか」

醍醐氏「消費税増税の流れが決まってしまったかのように言われているが、正式な発表までにまだまだ曲折があるだろう。世論調査でも、『予定通り(消費税増税を)やるべき』というのは2割程度しかなく、世論とギャップがある。4月とされる増税施行までに何が起こるかわからない。例えば、(福島第一原発の)汚染水問題の動向によって、政権基盤に影響を与える可能性もある」

植草氏「主権者(国民)が望む政策と、政府の実際の政策とが、かけ離れてきている。原発・TPP・消費税・沖縄など様々な問題の取り組みについて、政策フォーラムなどを通じて大同団結ができないものかと考えている」

斎藤氏「やれることは何でもやる。これが、ジャーナリストを名乗る者の責務である。消費税増税をめぐる論調は嘘だらけである。なぜ、消費税率の時だけスウェーデンの『25%』を持ち出すのか。馬鹿げている。国全体が福祉国家を目指すというのなら筋は通るが、我が国はそうではない。自営業者に対する論調にも問題がある。例えば(税補足率を評した)「クロヨン(9・6・4)論」は、確定申告している自営業者はみんな脱税しているかのような大嘘のキャンペーンである。よく『グローバルスタンダード化』と言われるが、サラリーマン税制のほうが余程グローバルスタンダードではない」

醍醐氏「二重課税の問題をどうクリアするかという課題は残るものの、消費税増税への代案として、『内部留保税』の創設を提言したい。資本金1億円以上の企業に対して1%課税するもので、内部留保217兆円(2012年9月期)に対し、税収2.2兆円を確保可能となる」

IWJ佐々木「大手メディアは増税論を張ってきたのに、一方で軽減税率に新聞を入れるべきだと言っているが、どう思うか」

植草氏「争点を隠して得た政権は、国民の信託を受けていない。『ねじれを解消する』とか『アベノミクスの争点を問う選挙だ』などと言って、主要争点をわきにそらしたメディアの責任は極めて重い。権力に対する批評精神をもった中日新聞、東京新聞、北海道新聞、IWJなどのメディアを国民が育てていくべきである」

斎藤氏「軽減税率の運用は非常に難しい。『うちの商品は生活必需品だから』などと陳情ラッシュになり、汚職や天下りがはびこる。活字離れが進んでいる中、メディアが新聞代や雑誌代の値上がりを恐れるのは当然だが、天下りや汚職の温床になる恐れは、他業界より深刻である。新聞の論調が権力の対応によって左右される懸念もある」

醍醐氏「消費税率が上がって困るのは他業界も同じ。消費税率が上がる弊害をきちんと伝えてこなかったメディアとしての責任を棚に上げ、新聞は知識を提供するのだから軽減税率を適用してほしいというのは、明らかにおかしい」

記者会見 全文文字起こし

醍醐聡氏「それでは、記者会見を始めさせていただきたいと思います。今日は、非常に急なご案内だったわけですが、近々、安倍首相が消費税の増税について、表明するというふうな報道が流れておりますこともありまして、私たち4名がこれについて、異議を申し立てるという趣旨の緊急の記者会見を開かせていただいて、国民の皆様向けのアピールを今日は発表させていただきたいということで、ご案内をさせていただきました。

 最初に私どもを紹介させていただきます。私が、順不同になっておりますが、東京大学名誉教授の醍醐と申します。よろしくお願いします。それから、そのお隣が関西大学の鶴田廣巳さんです。それから、そのお隣がジャーナリストの斎藤貴男さんです。それから、そのお隣が植草一秀さんです。この4人で、今日は記者会見をやらせていただきます。

 最初に、お配りしているベースになります、わたくしどもの緊急の国民の皆様向けのアピールというのを、鶴田さんに説明をしていただくと。そのあと、それをベースに各4人がそれぞれ順番に補足説明というかたちで、それぞれの考え方を説明をさせていただきたい。

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「「消費税は、弱者のわずかな富を強者に移転する税制」 ――有識者が「社会保障の充実なき増税」に待ったをかけるべく決起」への1件のフィードバック

  1. kusan より:

    岩上さん 頑張ってください。この国のマスゴミはお粗末限りなし。
    民主党が政権とったときも、マスゴミの煽りが風になって、吹いた気がある。しかしそれはすぐ、小沢の献金問題、鳩山の税金問題、いいように国民は誑かされた。一番みじめだったのは、いままでマスゴミに利用されて、政権にありついた元祖民主党の面々が、マスゴミにいいようにやられて、マスゴミをコントロールする力量がなかった。自分の都合でマスゴミを利用して、小沢たたきなどやっている内に、自らを知らずして、墓穴を掘り政権もなし。何とみじめな野党であろう。

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