「日本が抱える財政赤字の、本当の危険度を知りたい」──。
2012年2月8日、東京都内にある初沢スタジオで、植草一秀氏(エコノミスト)に岩上安身がインタビューを行った。植草氏が上梓した『日本の再生』(青志社)を興味深く読んだという岩上は、「今の日本に、本当に『消費増税』が必要なのか」と問いかけた。
これに対して植草氏は「日本の財政赤字は、叫ばれているほど危機的水準ではない」と断言。「かつての橋本政権時代、私は消費税率引き上げに強く反対したが、聞き入れられなかった」と悔しさをにじませると、「デフレ経済が解消されない中での、消費増税という愚行が、またぞろ行われようとしている」と、現状への懸念を表明した。
「通説は鵜呑みにせず、すべてを疑ってみることが大切」。植草氏は開口一番、こう切り出した。
そこには、「GDP(国内総生産)の2倍に迫る日本の財政赤字は、もはや危機的水準。このままでは日本は、破たんしたギリシャの二の舞を演じることになる」という通説も含まれる、という。植草氏は「日本で今後、確実に少子高齢化(=税収が減って社会保障の支出が増える)が進む以上、中長期的に財政を健全化させねばならない」としつつ、「ただし、今すぐ財政再建のアクセルを踏み込む必要はない」と明言した。
橋本政権「逆噴射執政」の悲劇
このところ喧しい、財政破たんを懸念する議論は、「(とにかく財政赤字を毛嫌いする)財務省の策略」と指摘した植草氏は、「日本が抱える財政赤字の、約1000兆円という額の大きさに目を奪われてはならない」と力説した。
「消費増税を行う際は、景気との兼ね合いを慎重に見極めることが何よりも重要」とし、1997年の、橋本龍太郎政権時代の消費増税(3→5パーセントの税率引き上げ)を悪い見本に挙げた。「あの増税で景気は冷え込み、財政は却って悪くなってしまった」。消費増税で増えた約4兆円を、デフレ悪化による所得税と法人税の減少が飲み込んだ、という。「52兆円あった1996年度の税収が、1999年度には47兆円にまで減っている」。
「あの時、『橋本大増税』に一番強く反対したのは私だった。不良債権問題が深刻だったため、消費増税は危険と判断したのだ。しかし、思いは届かなかった」。そして、当時の政府は、消費増税の失敗を認めようとしなかった。
「政府は御用学者を召集し、犯人をアジアの通貨危機に求める研究会を開いた。だが、増税が裏目に出た原因は、あくまでも橋本政権の判断ミス。1997年4月の消費増税後の、消費の失速が在庫の急増などの逆風を産業界に吹かせ、それで景気が冷え込んだと見るのが正しい」。
894兆円の債務で問題部分は半分以下
「植草さんが今なお、『日本の財政赤字は、さほど深刻ではない』と主張する、その根拠を教えてほしい」。
岩上がこう要望すると、植草氏は日本の財政赤字の中身に関するレクチャーを始めた。「894兆円(2012年度末予想)の長期債務のうち、201兆円は地方の債務だ。地方債の発行では当該事業の収益性が厳しく見られるため、地方債のデフォルト不安は低い。一方で、建設国債が251兆円あるが、これは住宅ローンになぞらえて理解するのがコツ」。
植草氏は、住宅ローンは確かに借金ではあるが、当人が「家」を得ることを見落としてはならない、と説く。建設国債の場合も、でき上がった道路などの社会インフラは、国民にプラスの効果をもたらす。「建設国債を巡る多くの議論は、借金の部分しか見ていない」との趣旨である。
「本当に問題視しなければならないのは、経常経費を借金で賄っている391兆円の赤字国債の部分だが、これもGDP比で約8割だから、諸外国と比較しても、さほど大きなものではない」。そう言って植草氏は、日本ならではのプラス材料があることを強調した。「中央政府だけで647兆円の資産があり、そのうち約400兆円が金融資産だ。これに地方の分を加えれば、もっと増える」とし、「この金融資産を生かせば、日本が財政赤字に押しつぶされることはない」と主張した。
さらに、植草氏は「日本がギリシャなどと異なるのは、『経常黒字国』であることも大きい」と力説した。家計・企業部門の大幅な貯蓄超過は、国債の、ほぼ完全なる国内消化の実現を意味する、との指摘である。「経常収支の黒字の縮小が目立ってくれば、財政再建を急がねばならないが、そうではない現時点において、破たんの危機を煽る必要はない」。
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