2013年4月27日(土)18時30分、千葉県流山市の流山市生涯学習センターにおいて、元原子炉技術者の後藤政志氏による「原発を作ったから言えること~福島原発事故を踏まえて」と題した講演会が開かれた。
後藤氏は、東芝で原子炉格納容器の設計に従事した経歴を持ち、民主党政権下で設置された「ストレステスト意見聴取会」の委員などを務めたことでも知られている。
(IWJテキストスタッフ・久保元)
2013年4月27日(土)18時30分、千葉県流山市の流山市生涯学習センターにおいて、元原子炉技術者の後藤政志氏による「原発を作ったから言えること~福島原発事故を踏まえて」と題した講演会が開かれた。
後藤氏は、東芝で原子炉格納容器の設計に従事した経歴を持ち、民主党政権下で設置された「ストレステスト意見聴取会」の委員などを務めたことでも知られている。
■Ustream録画(18:29~ 2時間3分)
講演の冒頭、後藤氏は、講演のタイトルにある「原発を作ったから言えること」について、自身のこれまでの経歴を語った。もともとは、船舶や海洋構造物の設計に携わる技術者だったが、失業をきっかけに東芝に入り、原子力に関わることになったことを述べた。これについて、後藤氏は「原子力については一定の危険性を認識していたので、抵抗はあった。ただ、技術者としてどこまでが安全で、どこからが危険なのか興味があり、きちんと知りたいと思った」と当時を振り返った。
続いて、後藤氏は、東京電力・福島第一原発1号機から5号機に用いられた「マークⅠ」と呼ばれるタイプの沸騰水型軽水炉の構造や、その運用方法などを解説した。その上で、東京電力管内の原発において、原子炉内の核燃料集合体の中に挿入された制御棒の脱落事故や誤挿入事故が、1978年から2005年までの間に10数件も起きていることを紹介した。これらの事故について、「人間が意図していないのに制御棒が脱落し、勝手に核分裂反応が起きるようなトラブルを起こし、それを20年以上も隠してきた東京電力には愕然とした。原発を運転する資格はない」と厳しく批判した。
その後、福島第一原発で発生した、世界最悪レベルの過酷事故の原因について、自身の見解を述べた。まず、原発の運転に使用する電源は、自己完結型でまかなっているのではなく、他の場所にある火力発電所などで作られた電力による「外部電源」を、送電線を介して原発内に引き込んでいることを説明した。その上で、福島第一原発の事例では、地震で鉄塔が倒れるなどして、外部電源の供給ができなくなった(外部電源喪失)ことから、それを教訓とするべく、政府や原子力規制委員会が「外部電源に万全の対策を講じる」「耐震性の確認をする」との見解を示していることについて、「外部電源は数十km、数百kmの長さの送電線を経て送られてくる。どこかで線が切れても不思議はない」と述べ、安全対策の効果に疑問を呈した。また、外部電源が有効に機能しなかったときのために、福島第一原発内に複数台設置されていた非常用ディーゼル発電機の中に、原発を大津波が襲う前にもかかわらず、起動しなかった装置が存在する可能性を指摘した。
そして、仮に制御棒が正常に挿入され、核分裂反応が収まっていたとしても、定格運転時の6~7%に相当する多量の熱がしばらく出続けるため、冷却水を循環させて燃料集合体を冷やし続けないと炉心溶融事故が起こることや、福島第一原発の事故現場においては、冷却水の循環が「ネズミ」や人的ミスなどによって停止してしまう事例が多発していることなどを列挙した上で、「火力発電であれば、運転中の事故で爆発被害などが出ても範囲は限られるし、長期間(被害が)継続することはない。危ない状態がずっと続くのが原子力の特徴である」と述べた。
注水による冷却作業を続けている福島第一原発の状況については、1~4号機建屋の下に合計7万8000トンもの冷却水があり、放射能に著しく汚染されていることから、その取り扱いに苦慮していることを紹介した。特に、汚染水貯蔵タンクが急ごしらえの仮設物であるため耐用年数が5年程度と短く、パッキン類の劣化によって、まもなく造り替えが必要となることや、東京電力が汚染水の移送先として造った巨大な「貯水槽」が、地面に掘った巨大な穴に防水シートを3枚重ねた程度で造られた簡易構造で、すでに水漏れが発生していること、さらに、冷却水を循環させるホースが、草木による損傷や凍結などによって冷却水が正常に流れなくなるトラブルに見舞われていることなどを挙げた。その上で、これらの問題が起きることを事前に専門家から指摘されていたにもかかわらず、東京電力側が事なかれ主義で作業を進めていったことを指摘し、「安全に対するイロハのイすらできていない。努力はそれなりに認めるが、工学的・技術的に見たら、ふざけた話だ」と厳しく指摘した。
福島第一原発事故の原因として、政府や東電が「津波原因説」を唱えていることについては、正常に作動すべき「SR弁」(セーフティリリース弁=安全逃がし弁)や「アイソレーション・コンデンサ」(隔離時復水器=全電源喪失時でも使える復水器)が作動しなかった点など、津波到達前にすでに原発内部が地震によって壊れていた可能性を示す材料がいくつも存在するにもかかわらず、その点を考慮しないまま、津波対策主体の新基準を作ろうとしていることに対し、「余りにムチャクチャだ。これでは、また同じような事故を繰り返すのは目に見えている」と批判した。
そして、「福島第一原発事故は甚大ではあったが、格納容器に充満したガスを外部に逃すことができたため、格納容器爆発という最悪の事態には至らなかった」ことを説明した。その上で、「もし、1基でも格納容器が大爆発を起こしていたら、猛烈な放射線量によって、原発から総員退去するしかなく、桁違いの被害、それこそ、東日本壊滅も考えねばならない事態となっただろう」と述べた。一方で、格納容器の役割について、「事故があったときには、放射性物質を閉じ込める最後の砦である」と述べた上で、ベント(格納容器内の放射性ガスを環境へ放出すること)の実施にあたって、「仮に、放射性物質の量を1000分の1に減らすことができるベントフィルターが付いていたとしても、放出する放射性物質の量が膨大であれば、1000分の1になったところで膨大であることに変わりはなく、本来は許されることではない。ベントは、放射性物質を閉じ込めるという本来の役割を果たせないという点で、『格納容器の自殺』である」とした。
福島第一原発事故後の、原発再稼働に際しての安全対策についても、「耐震性向上など抜本的な対策がなされぬまま、『防潮堤を造れば大丈夫』『電源車を用意すれば大丈夫』というような『外のものに頼って原発の安全を保つ、という発想自体に無理がある』とし、「対策をしたから安全というのではなく、対策が有効であることが証明されて初めて意味を持つ」と苦言を呈した。
具体的には、中部電力・浜岡原発について、東海地震発生時の大津波に対処するとの理由で、高さ18メートルの防潮堤の工事が進められてきたものの、新たに出された「最大波高22メートル」というシミュレーション結果によって、さらなる嵩(かさ)上げ工事が行われることについて、「シミュレーションはあくまで仮定に過ぎない。津波が22メートルを絶対に超えないという保証は誰がするのか」と述べた。そして、津波が防潮堤を超えてきた際に、建屋などに海水が浸入するのを防ぐ「防潮扉」「水密扉」について、「扉が開いていれば、誰がどうやって閉めるのか。津波到達時間がわずか7~8分という予測もされている」と述べた。
原発につきまとう「安全とは何か」という課題については、「確実ではないことは、安全とは言えないし、『多分、大丈夫』や『危険な兆候がない』というのは『安全が証明されていない状態』、すなわちグレーゾーンである」と述べた。グレーゾーンの具体例として、「活断層であるかどうか分からないのなら、危険であるとみなし、運転を停止すべきなのに、分からないまま(安全であるとみなして)運転しているのが大飯原発3、4号機である」と述べ、さらに、「航空機でも何でも、事故原因が分からないときは、運転を止めて原因を究明するのが当たり前である。グレーゾーンでも平気で運転する感覚が、原発の安全問題の根本にある。これは放射能汚染についても同様。汚染状況が不確定なときは、住民の安全側に立って、汚染されていると考えるべきである」とした。そして、「原子力安全技術は、砂上の楼閣」「論理的に起こりうることは、いつか確実に起きる」と警鐘を鳴らした。