チェルノブイリ原発事故後、低線量被曝の影響を調査し続けてきたイタリア人フォトジャーナリストのピエルパオロ・ミッティカ氏が、『原発事故20年―チェルノブイリの現在』(2011年10月、柏書房)を日本で出版した。
ミッティカ氏は、2011年11月15日に岩上安身のインタビューに応じ、ベラルーシやウクライナで多くの子どもたちが被曝による健康被害を受けていることを指摘。さらに、IAEAなどの原子力推進機関によって、そうした健康被害が隠蔽され続けていることを強く訴えた。
今後、福島で同じ悲劇をくり返さないためには、チェルノブイリの前例を学ぶべきだとミッティカ氏は述べ、主要メディアでは報道されない真実を、独立系メディアが伝え続けることの重要性も強調した。
ベルルスコーニ政権の17年間、情報は統制されていた
ミッティカ氏は、歯科医師とフォトグラファーという二足のわらじを履きながら、チェルノブイリ原発事故後の健康被害というテーマを20年間にわたって追い続けてきた。
その成果を『原発事故20年―チェルノブイリの現在』という本にまとめ、2006年にスペイン、2007年にイギリス、そして2011年に日本で出版した。
ミッティカ氏は、長年このテーマを追及し続けてこられたのは、自身が「専業のフォトグラファーではなかったからだ」と述べる。つまり、真実に基づいた正しい情報を伝えるためには、政治的、経済的、イデオロギー的に独立している必要があり、主要メディアに属していると組織の方針に従わなければならず、真実の報道をすることができないのだという。
とくに、イタリアで長年続いたベルルスコーニ政権下では、情報コントロールが強く、彼自身の調査結果も主要メディアでは発表できなかった。そのため彼は、インターネットを利用して、自らのホームページやFacebookなどで地道に真実を伝え続けてきた。
IAEAとWHOの協定により真実が隠されている
著書『原発事故20年―チェルノブイリの現在』のなかで、岩上が特に重要だと指摘したのが「偽りの協定」という章だ。この章には、1954年にIAEAとWHOが結んだ「WHA1240」という協定について触れられている。ミッティカ氏によると、この協定が存在するために、健康被害などの真実が隠蔽されているという。
原子力を推進する機関のIAEAは、世界の保健衛生を調査研究するWHOと協定を結んだことで、IAEAに不利益となる健康被害などの研究結果については、発表をストップさせることができるのだ。
その顕著な例としてミッティカ氏は、1996年にチェルノブイリ原発事故から10年の節目に開かれたシンポジウムを挙げた。このシンポジウムでは、さまざまな研究者が低線量被曝の被害を示すデータを発表したが、IAEAが発表にストップをかけたために、議事録が公表されなかったのだという。
その5年後に、IAEAが「チェルノブイリフォーラム」を開き、独自に調査した研究結果を発表。その内容は、「チェルノブイリ原発事故による死者数は58人だった」とか、「土壌汚染はまったくないので住んでも大丈夫」などといった安全神話を振りまくものだったが、IAEAは主要メディアを使い、これらのデータを大々的に発表させたため、この数値が国際的に認知されてしまった。
WHOの医師たちからも、WHA1240協定に反対する声があがっている。なかでも有名なのは、ミシェル・フェルネックス医師。彼はWHOの医師だったが、「この協定があるために自由に研究発表ができない」としてWHOを辞め、WHOの本部前にブースを設置し、現在でも反対活動を行っている。
誠実な科学者たちが子どもたちの健康影響を追及するも懲役刑に
研究者の中からも、IAEA側の発表に反論する人物がいる。それが、『原発事故20年―チェルノブイリの現在』にも登場する、バンダ・ジェフスキー氏やワスリー・ネステレンコ氏らだ。
ミッティカ氏によると、バンダ・ジェフスキー氏は、低線量被曝が人体にどのような影響を及ぼすのかを発表した人物で、体内のどの臓器にセシウムが蓄積しやすいのかなどを独自に研究し、外部被曝以上に、内部被曝が危険であることを訴えた最初の科学者だという。