梶田隆章氏「国が何かをするときに、『科学にもとづいてどうあるべきか』ということについて意見を述べるということが、私達の使命だと思っている」~3.19「日本学術会議法人化への懸念」―講演:日本学術会議第25期会長・2015年ノーベル物理学賞受賞 梶田隆章氏 2025.3.19

記事公開日:2025.3.30取材地: 動画

(取材、文・浜本信貴)

※25/3/30リード追加

 2025年3月19日午後5時より、東京都千代田区の衆議院第2議員会館にて、立憲フォーラムの主催による「日本学術会議法人化への懸念」と題した院内集会が開催された。日本学術会議第25期会長であり、2015年のノーベル物理学賞受賞者の梶田隆章氏が、オンラインで講演した。

 立憲フォーラム会長の、立憲民主党・近藤昭一衆議院議員は、冒頭の挨拶の中で、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への停戦を破っての攻撃再開や、米国のトランプ大統領の「ガザを米国が所有し、パレスチナ人を追放して、リゾート地にする」という政策など、世界情勢に触れた上で、以下の通り述べた。

近藤議員「世界中で、あらゆるところ、いろんなところで、おかしな状況が起こっている。日本の国内にも、様々な課題があるということであります。

 そして、そういう中で、日本学術会議の法人化の問題ということもあるわけであります。

 今日は、梶田隆章先生にお話をいただく、私が申し上げるのもおこがましいわけでありますけれども、やはり、学問というものは、人そのものでありますが、そして、人・学問というのは自由であり、独立していなければならないはずであります。

 しかし、そうではないと。圧力が加えられ、規制が加えられ、そういう中で、本当に、一人一人が自由に、そして、独立して、人類のために、平和のために、発展のために考える。こういうことが行動制限されるようなことがあってはならないと思っています。

 どうぞ、今日はオンラインでのお話になりますが、梶田先生のお話も聞き、また力をあわせてですね、本当に平和で、一人一人が大切にされる、尊厳が大切にされる社会のために、ともに頑張ってまいりたいと思います」

 続いて、梶田氏の講演「日本学術会議法人化への懸念」が行われた。

 2025年3月7日、日本政府は、現行の日本学術会議法を廃止し、2026年10月に新たな法人としての「日本学術会議」を設立するための「日本学術会議法案」を閣議決定し、国会へ上程した。

 この法案について、内閣府の「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会」は、「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会報告書」の中で、「拡大・深化する学術会議の使命・目的に応えるため、より良い機能・役割の発揮に向けて、学術会議を法人化し独立性・自律性を高める」ことが目的であるとしている。

 梶田氏は、この法案に対する問題意識として、まず「本当に日本の学術を発展させるものなのか」と問い、「最終報告書のタイトル『世界最高のナショナルアカデミーを目指して』と、その内容とがまったくあわない。内容は、いかに学術会議をコントロールするかが書かれている報告書である」と述べた。

 また、梶田氏は、法案では現行法に規定されている「学術会議の使命」などの重要な文言が削除されており、法案の手続的正当性、法人化の理由の欠如や、学術会議の自律的な規律・運営を妨げる詳細な法定化、そして、財源や罰則規定など、様々な問題点を指摘した。

 質疑応答では、参加者の一般女性が、次のような質問を、梶田氏に投げかけた。

一般女性「一般市民なんですけど、ナショナルアカデミーというか、学者さん(側)の問題については、今回よく話していただいたんですけど、一般市民にどう関わってくるのか?

 やっぱり、今回の署名(※)も集まらないのは、一般市民が何かピントこないというか、わかっていない方が多いと思うんですよね。

 そうすると、例えば、環境問題の基準の問題とか、食の基準の問題とか、そういうのが学者さんに決められていて、生活者が(それに)脅かされていくのではないか? そういう懸念があるのではないかなと、私は思うんですけど、そういうところの心配はないのでしょうか?」

 この質問に対して、梶田氏は次のように答えた。

梶田氏「確かに、学術会議の問題というのは、一般市民の方になかなか届きにくい。したがって、多くの市民の方に、この問題がいかに重要な問題かというのを理解していただくのは、本当に難しいと、私もそう思っています。

 先ほど、もし私の聞き間違いでなければ、たとえば、科学者が何かしらの法律を制定するにあたって、何かしらの、何と言うか、『よろしくないこと』を入れてしまうんじゃないかというような、そのような懸念がある、とおっしゃったのかどうか、ちょっとわからないのですが…。

 私達の使命としましては、科学にもとづいて、国が何かをするときに、『こういうふうにしたらいいのではないでしょうか』というような形で、意見を述べることだと思っております。

 あくまで、『科学にもとづいてどうあるべきか』ということについて、意見を述べるということが、私達の使命だと思っております。

 そのようなことをご理解いただいて、学術会議の重要性というのを、皆さんに知っていただければというふうに思っている次第です」

 質問をした女性は、国が、科学の名のもとに、国民に対して何かしらの法律を制定するとき、また、その法律にもとづいて何かしらの施策を行なうとき、日本学術会議は、それが国民の生命および安全に益するものか、または害するものであるかを、科学的知見を総動員して判断し、害するものである場合はそれを止めるよう、政府に進言する「門番」たり得ているのか、を問いかけたのだと思われる。

 現に、「科学的な知見の収集と専門家による安全性の適切な評価」にもとづいて実施された(とされる)新型コロナワクチン接種による死亡認定数(2025年3月18日公表分)は、2021年2月以降、約4年間で994件を記録しており、1977年2月以降の48年間で実施された、新型コロナワクチンを除く、すべてのワクチン接種による死亡認定件数である159件の約6倍の数字となっている。

 また、内閣府が主導する「ムーンショット計画」では、2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現するなど、国民の健康と安全への影響の度合いと範囲、そして倫理的な正当性について、国民自身が簡単には判断できない重要な施策が予定されている。

 国が「科学」の名のもとに行う政策について、日本学術会議のような諮問機関・監視組織の必要性は今後ますます増していくと思われる。

 ゆえに、このたびの日本学術会議法案が、現行の日本学術会議に、ひいては、我々国民に何をもたらすのかについては、しっかりと目を光らせておかねばならない。

 会見の詳細については、全編動画を、ぜひ御覧いただきたい。

■全編動画

  • 日時 2025年3月19日(水)17:00~
  • 場所 衆議院第二議員会館 多目的会議室(東京都千代田区)
  • 主催 立憲フォーラム

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