「イスラエルはガザで、パレスチナ人がこの地で4000年も前から諸文明の歴史をつむいで生きてきた歴史的な痕跡を消し去り、76年前の民族浄化を完遂しようとしている!」~5.24 岡真理氏講演会「人間、それでもなお ~ガザのホロコーストと私たち」―登壇:岡真理 早稲田大学文学学術院教授 2024.5.24

記事公開日:2024.6.2取材地: 動画
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特集 中東
※24/6/4 テキスト追加

 2024年5月24日、岡山市の岡山県青年館で、早稲田大学文学学術院の岡真理教授の講演会が行われた。

 「人間、それでもなお ~ガザのホロコーストと私たち」と題された約2時間に及ぶ講演で、岡教授は、最初に「今、ガザで何が起きているのか」について、以下のように詳しく解説した。

 「昨日5月23日現在、10月7日に始まった(イスラエル軍による)攻撃から230日目でした。

 死者は、把握されているだけで、3万5709人。負傷者は、もう8万人に迫ろうとしています(7万9990人)。そして、行方不明者は、1万1000人。

 この行方不明者というのは、ガザ北部で、『避難しろ』という名の追放で、『この道を通れば安全だから』と(イスラエルが)いう人道回廊が、攻撃される。その途中に検問所が設けられていて、『女子供はこちら側、男性はこちら側』と分けられて、男性達はそのままどこかに連れ去られて、イスラエルの刑務所に入れられている。

 占領地の住民を、そうやって占領国に拉致するというのは、国際法違反です。

 そもそも、ガザを占領し、封鎖し続けるということ自体が、国際法違反なわけです。

 そういう形で連れ去られた者達も(行方不明者に)含まれていますが、1万人以上は、爆撃されて瓦礫となったその下に、いまだ、遺体が掘り起こされることなく、瓦礫の下敷きになっている人達ということになります。

 ですから、死者はもう悠に4万5000人を超えている。

 ご存知の通り、ガザ北部は、壊滅的飢餓に瀕しています。道端の雑草も食べて、ロバや馬の餌、飼料を食べて、それで体を悪くするけれども、病院もことごとく破壊されていて、ほとんどまともに機能している病院はありません。

 中部の、ひとつだけ機能している病院も、今、燃料がなくなって、稼働停止せざるを得ない状況に追い込まれています。病気になっても、もう治してくれる人もいない。

 そして、餌もなくなったら、痩せさらばえたロバや馬を食べ、道端を歩いている野良犬や野良猫まで食する。そうした犬や猫も、自分達は飢えていますから、道に転がっている遺体を食べて、飢えを凌いでいた、そういう野良犬や野良猫まで食べるという状況に置かれている。

 そして南部も、ラファの検問所をイスラエル軍が制圧して、そこから食料を入れさせない。

 ガザの人口230万人のうち、200万人近くが家を追放され、『ここに行けば安全だ』と(イスラエルに)言われた所も攻撃され、何度も、追放、避難しては追放を繰り返して、170万人がラファの街の郊外で、テント生活をしている。

 でも、数日前に読んだ記事では、そこに着くなり、A型肝炎にかかってしまう。

 これは日本でも報道されましたが、トイレも850人にひとつしかない。地面に穴を掘って板で隣と仕切っただけの、そういうトイレです。

 女性達はそこを利用するのに、何時間も待ちます。だから、なるべくトイレに行かないように、水を飲むのを控えている。そもそも、安全な水なんていうものもないわけです。

 汚染された水を飲み、不衛生な環境のトイレを使うことで、A型肝炎が蔓延している状況。そうした中、十分な栄養もなく、治療を受けることができない。

 そして、冬の間(の問題)は寒さでした。今は夏になり、テントの中は、もう『オーブン状態』だそうです。そうした暑さで亡くなっていく。

 ですから、ここにあがっている、3万5709人プラス行方不明者1万人超の、この死者というのは、爆撃などで亡くなった人達で、飢えや、渇きや、病気、こんな状況でなければ、病院で治療し、亡くならなかったであろう人達、そうやって亡くなった人達は(死者のカウントの中に)入っていないんです」。

 岡教授は、「ガザの状況があまりにもひどいので、かすみがちですが、ヨルダン川西岸地区でも、10月7日以来、506人が亡くなっています」と述べ、このペースは、4年4ヶ月でガザとヨルダン川西岸地区をあわせて3000人が殺された第2次インティファーダを、はるかに上回っている、と指摘した。

 さらに岡教授は、「ガザでは、14歳以下が、人口の4割を占めている」と指摘し、イスラエルによる攻撃開始からわずか1ヶ月で、死者は1万人に達したが、「そのうちの4000人は14歳以下の子供ということになる」と述べた。

 14歳以下の子供が、イスラエル国防軍が全力をあげて戦っていると称しているハマスの戦闘員のはずがありません。「ハマスとの戦争」という虚偽の大義名分を掲げて、ひとつの民族を、女・子供・老人もすべて含めて、あらゆる方法で抹殺しつつあるのが、イスラエルの「ハマスとの戦争」の「正体」なのです。

 そして、岡教授は、イスラエルによるガザへの攻撃を「まぎれもなく、典型的なジェノサイド」だとする専門家らの指摘や、「人類の危機」だとする、国連のグテーレス事務総長の言葉を紹介した。

 また、岡教授は、米国の独立メディア『インターセプト』が今年4月15日に報じた、「『ニューヨーク・タイムズ』の内部から、ガザに関する記事に『ジェノサイド』『民族浄化』『占領地』という言葉を使ってはいけないという、記者への規制のメモがリークされた」というスクープ記事を紹介し、その意味を、次のように解説した。

 「ガザは、占領地なんです。イスラエルは、占領国なんです。そして、占領国には、国際法上、自衛の権利なんて、ないんです。

 占領下の人々には、占領国に対して抵抗する権利が、国際法的にあるんです。武装闘争も、国際法的には、正当な抵抗権とみなされています。

 抵抗だから何をやってもいいというわけではなく、そこにはルールがあって、民間人を拉致してガザに連れ帰ったのは、戦争犯罪にあたります。

 しかし、戦闘服を着た戦闘員が、占領軍であるガザ地区周辺のイスラエル軍の基地を襲撃して交戦するのは、明らかに国際法・国際ルールに則った抵抗権の行使なんです。

 ですから、『ハマスのテロに対するイスラエルの自衛の戦争だ』という形で、問題の構図が設定されていますが、そもそもガザは占領地なので、イスラエルには自衛権はないことになります。

 つまり、『ガザを占領地と言ってはいけない』ということは、『イスラエルには自衛の権利はない』という論理自体を封じることになるわけです」。

 さらに岡教授は、「イスラエルは76年前、民族浄化によって建国された」と指摘し、「76年前の民族浄化でガザ地区に押し込められた難民達が、人口の7割を占める、そのガザ地区で、76年前の民族浄化を今、完遂しようとしている」と述べ、「歴史を踏まえてみるならば、明らかである」と断じた。

 岡教授は「『ジェノサイド』や『民族浄化』という言葉を使ってはいけない、ということは、『まぎれもない民族浄化だ』という専門家の指摘を否定すること」だと訴えた。

 その上で岡教授は、米国の大手メディアは「ことごとく、プロ・イスラエル、プロ・シオニストの傘下に入っている」と指摘する一方、「そうではない日本のメディアも、同じような報じ方だ。ガザの様相や本質が、出来事に見合った強度・密度で、歴史的な文脈で、報じられていない」と批判した。

 岡教授はこのあと、歴史的パレスチナがイスラエルに占領された歴史的背景、「迫害され続けたユダヤ人」として語られる歴史の嘘について、詳しくひもといた。

 さらに岡教授は、イスラエル建国をめぐる国際社会の不正義と、イスラエル建国時の民族浄化(ナクバ)、現在のガザ地区でのジェノサイドにまで続くイスラエルの暴力の歴史と、世界でまったく問題にされてこなかった、重層的な「構造的暴力」について、詳しく解説した。

 岡教授は、「報道から、シオニスト・イスラエルによる民族浄化、入植者植民地主義、占領、封鎖、アパルトヘイトといった歴史的文脈が消し去られることによって、今、イスラエルがガザで行使している暴力が、植民地主義の、アパルトヘイトの暴力である、ということ、今起きているジェノサイドが、今始まったものじゃなく、76年前に始まって完遂することができなかった、パレスチナの民族浄化の総仕上げである、ということが、見えなくなる」と指摘し、次のように語った。

 「その結果、パレスチナの暴力が、占領や、植民地主義や、アパルトヘイトという暴力に対する、抵抗の暴力なんだということが、見えなくなる。

 それによって、テロ組織のハマース対イスラエルの自衛の戦争などという、国際法の法理を無視したイスラエルの言説が流通することになる」。

 「今、ガザで起きていることは、単なる大量虐殺にとどまるものではありません。文化のジェノサイドです」。

 こう述べた岡教授は、ガザでイスラエルの全大学が破壊され、世界のトップの研究者ら、学者や大学教授が90人以上殺された事実を指摘した上で、パレスチナ系米国人作家スーザン・アブラハワ氏が、『デモクラシー・ナウ』でガザをレポートした時の言葉を、次のように引用した。

 「ガザは、私たちが通常使う語彙を超えています。強制収容所という言葉では足りません。

 ここは、無防備な捕虜に対して、絶え間ない恐怖の限界を試す、不気味な実験場です。(中略)

 イスラエルがガザで躍起になって推し進めていることのひとつは、パレスチナ人がこの地で生きてきた痕跡を消し去ることです」。

 岡教授は、引用したこのアブラハワ氏の言葉について、「単にパレスチナ人を大量に殺すだけじゃなく、この地でパレスチナ人が4000年も前から、諸文明の歴史をつむいで生きてきたという、その歴史的な痕跡を消し去るということ」だと述べ、次のように強調した。

 「ガザでは70%の家屋が破壊されました。家は、単に壁と屋根がある、雨露を物理的にしのぐだけのものではなく、家には何代にもわたって暮らしてきた、一族の歴史や記憶がある。そこが破壊される。

 そして、社会的なレベルでは、古代のモスクや古代の教会など、博物館や文化センター、図書館といった、まさに知識、パレスチナ人がこの地で生きてきたという記憶を伝えるものが、狙い撃ちされて破壊されている。

 パレスチナ人がこの地で生きてきた記録や、パレスチナ人がこの土地に根差しているんだということを証拠立てる痕跡を持っている場所が、ことごとく意図的に、抹消されているのです」。

 詳しくは、ぜひ全編動画を御覧ください。

■全編動画【前半】

■全編動画【後半】

  • 日時 2024年5月24日(金)18:30~
  • 場所 岡山県青年館 大ホール(岡山県岡山市)
  • 主催 一般社団法人 日本ジャンナ女性センター(詳細
  • 協賛市民団体 赤磐エコメッセ、岡山スイカの会、3人の有志の会

 岡教授による講演「人間、それでもなお ~ガザのホロコーストと私たち」は、次の内容で行われた。

1. はじめに

・ガザでは今、何が起きているのか
・Textbook Case of Genocide
・ガザの悪夢は人道危機ではなく、ヒューマニティ(人類)そのものの危機(グテーレス国連事務総長)

2. 人類の危機を日本のメディアはどのように報じているか

・ジャーナリズムとは何か
・ニューヨークタイムズにおける報道規制
・隠蔽されるジェノサイドの実態、捨象される歴史的文脈

3. ガザとはどのようなところか

・攻撃で破壊される前のガザ・シティ
・ガザ・シティの歴史
・大オマリー・モスク
・現在のガザ地区(Domicide)

4. ファトヒ・ガビン(1946年12月~2024年2月)の生涯

・1948年 1歳半で難民に
・ジャバリヤ難民キャンプで成長
・1967年 20歳でガザはイスラエルの軍事占領下に
・1984年 逮捕・投獄
・1987年 第一次インティファーダ
・1992年7月 来日
・1993年 オスロ合意
・2000年 第二次インティファーダ
・2005年 ガザ入植地撤退
・2006年 ハマース、パレスチナ立法評議会選挙で勝利
・2007年 ガザ内戦、ハマースの勝利
・2007年 封鎖開始
・2008年12月~09年1月 第一次ガザ攻撃
・2012年11月 第2次ガザ攻撃
・2014年7~8月 第3次ガザ攻撃(51日間戦争)
・2018年 帰還大行進(~2019年12月)
・2020年~ コロナ禍
・2021年5月 第4次ガザ攻撃
・2023年10月7日~ ジェノサイド攻撃

5. 歴史的文脈の捨象は、何を隠蔽しているのか

・民族浄化による建国(現在進行形のナクバ)
・入植者による植民地主義(満州と同じ)
・56年に及ぶ占領(人間の生ではない生を生きる)
・17年間にわたる封鎖(生きながらの死)
・ユダヤ人至上主義のアパルトヘイト

6. 文化のジェノサイド

・全大学の破壊、学者・知識人の殺害
・大オマリーモスクほか200以上の史跡の破壊
・博物館、図書館、文化センターの破壊

 このほか、「7 .私たちの応答責任」の中で、岡山在住パレスチナ出身のご夫婦からのお話しがあったほか、以下の質疑応答が行われた。

質疑応答

・10.7の攻撃によるイスラエルの被害は全てハマースによるものなのか?
・ハマースはテロリスト組織なのか?
・ICCがイスラエルネタニヤフとハマース幹部に逮捕状を出した件と今後の予想。
・イスラエルに住んでいるユダヤ系市民はガザの事をどう考えているのか?
・「シオニスト左派」と「反シオニスト」の違いは何?
・オスロ合意の問題点は?2国家解決案とは?
・「ファタハが政府」であり、「ハマースはイスラエルやアメリカに育てられたテロリスト」という主張は本当か?
・パレスチナ総代表部大使はパレスチナの民意を代表しているといえるのか?
・12月にパレスチナで行われた世論調査で、ハマースに政権をとらせたいというアンケート結果が出ていた件。
・イスラエルの政権交代はあり得るのか?
・どのような解決が望ましいのか?(P・コーヘンのイスラエル国家廃止論、虹の国)

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