2023年6月7日午後5時半より、東京都千代田区の東京弁護士会館において、「NHK文書開示等請求訴訟」第7回口頭弁論後の原告団による記者会見・報告集会が開催された。
この訴訟は、NHK運営の透明性を確保し、視聴者への説明責任をまっとうさせようという情報公開請求であり、NHKを行政のくびきから解放し、独立したジャーナリズムに育てるための市民運動に携わる人々114名を原告とし、NHKとその現職の経営委員会委員長である森下俊三氏を被告とする。
原告の主たる請求は、「第1316回経営委員会(2018年10月23日開催)議事録」の全面開示と、議事録の正確性の検証に不可欠となる録音テープの開示である。原告側は、その開示義務は、形式的には、被告NHKにあるが、実質的にその義務の履行が妨げられている責任は被告森下氏にあると考えている。
この「第1316回経営委員会」において、どのような議題が話しあわれたのか?
問題は、2018年4月、NHKの『クローズアップ現代+』が、「日本郵政のかんぽ生命不正販売」を取り上げたことに端を発する。
この番組が、日本郵政の不興を買い、制作の現場だけでなく、NHK執行部に対しても、日本郵政グループ・上級副社長であった鈴木康雄氏(元総務次官)らからの攻撃があり、その際、本来であれば、防波堤となるべきNHK経営委員会は、日本郵政の側に立ち、制作現場とNHK会長を攻撃した。経営委員会が行った「会長厳重注意」はその攻撃の一端であった。
「第1316回経営委員会」では、経営委員会から当時のNHK会長・上田良一氏に対し、口頭での厳重注意が言い渡された。その表面上の理由は「ガバナンスの不徹底」、そして、「視聴者目線に立っていない」というものだった。
しかし、経営委員会が外部勢力(日本郵政)と一体となり、NHKの番組制作現場に圧力をかけたのは明らかであるため、その部分については、放送法が命じる「議事録」の作成も、その公表もなかった、というのが原告側の主張である。
この日の口頭弁論では、被告・森下俊三氏、証人として、中原恒夫氏(経営委員会事務局長)、そして、原告として、長井暁氏(元NHKチーフプロデューサー)への尋問が行われた。
閉廷後に行われた、原告団による記者会見・報告集会の冒頭、弁護団の佐藤真理(まさみち)弁護士が、口頭弁論の概略について、以下のように説明した。
佐藤弁護士「今日は、彼(森下俊三氏)は、経営委員長はですね、およそ、あの態度では、まあ、経営委員というのは放送法の31条で『(委員は)公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する』ということなんですよね。
あれが、『公共の福祉に関し、公正な判断ができる』人ですかと。『広い経験と知識を有する』人ですかと。そういうことですね。それは、『そうではない』ということを明らかにできたのではないかなとは思います」。(後略)
佐藤弁護士が、森下氏について、NHK経営委員長としての資質に欠くと言ったのは、この日の証人尋問での、澤藤統一郎弁護士の質問に対する森下氏の発言を指している。
原告弁護団の澤藤大河弁護士は、その森下氏の発言を、次のように説明した。
澤藤(大河)弁護士「彼らの言うガバナンスというのは、末端まで会長がすべてをコントロールできるようにする。これが彼らの言うガバナンスなんです。ジャーナリズムの対極にあると言わなくてはならないでしょう。
最後、『視聴者目線というけれども、視聴者は一体誰なんだ』ということを(澤藤統一郎弁護士が)聞きました。
『郵政3社は入っているが、被害者は入っていない』。もう何か、驚くべきことを言いましたね。
最後、彼はたぶん、何を聞かれているのかもよくわからなかったような言い方でしたけれども、『郵政3社は入っている』。
『じゃあ、この詐欺的な商法にあって、かんぽで大きな被害を受けた被害者の方、これは視聴者に入っているのか?』。
『入っていません』と答えたんです。
まあ、たぶん、本当に彼の視野には入っていないんだというふうに思います」。
会見・報告集会の詳細については、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。