IWJ代表の岩上安身です。
10年にわたって、日本銀行総裁の重責を担ってきた、黒田東彦氏が本日8日に退任します。7日午後3時半から、黒田総裁は1時間近くにわたって退任会見を開きました。
一言で言えば、黒田総裁は「大規模な金融緩和は様々な効果を上げてきており、これまでの政策運営は適切なものであった」と自画自賛、自己満足、自己弁明の総括をしました。しかし、日本経済は本当に良くなったと実感している国民はどれほどいるのでしょうか。
白川前日銀総裁は3月、「長期金融緩和で、資源の誤配分による生産性の伸びへの悪影響が深刻」と厳しい批判を出しています。実質賃金は10年ずっと停滞、「アベクロダノミクス」の10年の成果は、トリプル安で「働けど働けど暮らしが楽にならない」日本として結実したということなのでしょうか。
黒田総裁は、第2次安倍政権が発足した直後、2013年3月に初めて日銀総裁に就任しました。同年4月に再任、2期10年以上、安倍・菅・岸田政権と3つの政権にまたがって務め、「アベノミクス」の中心となってきました。
黒田総裁は2013年に就任すると、2年をめどに、2%の物価安定を目指す「異次元金融緩和」を打ち出し、「黒田バズーカ」と呼ばれましたが、とうとう目標達成しないまま退任を迎えることになりました。
- 総裁:黒田東彦(くろだはるひこ)(日本銀行)
7日の黒田総裁の会見の場面を、いくつか抜粋でご紹介します。
会見冒頭、幹事社である読売新聞記者から、「大規模金融緩和の成果と課題に対する自身の評価」について問われ、黒田総裁は「大規模な金融緩和は様々な効果を上げてきており、これまでの政策運営は適切なものであった」と、答えています。
「まず、第1の点につきましては、10年前の我が国経済を振り返りますと、1998年から2012年までの約15年の長きにわたるデフレに直面しておりました。
こうした状況を踏まえ、日本銀行は2013年に量的質的金融緩和を導入しました。大規模な金融緩和は政府の様々な政策とも相まって、経済物価の押し上げ効果をしっかりと発揮しており、我が国は物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなっております。
また、経済の改善は労働需給のタイト化をもたらし、女性や高齢者を中心に400万人を超える雇用の増加が見られたほか、若年層の雇用環境も改善しました。
また、ベアが復活し、雇用者報酬も増加しました。
この間、経済は様々なショックに直面し、特に2020年春以降は感染症の影響への対応が大きな課題となりましたが、日本銀行は機動的な政策運営により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めてまいりました。
政策には常に効果と副作用があり、量的質的金融緩和も例外ではありません。この点、日本銀行は2016年の総括的検証や2021年の点検などを踏まえて、様々な工夫を凝らし、その時々の経済物価金融情勢に応じて副作用に対応・対処しつつ、効果的かつ持続的な金融緩和を継続してきたと考えております。
長きにわたるデフレの経験から、賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方や慣行、いわゆる『ノルム(IWJ注・経験から培われた規範や考え方)』が根強く残っていたことが影響し、2%の物価安定の目標の持続的安定的な実現までは至らなかった点は残念であります。
ただ、ここに来て、女性や高齢者の労働参加率は相応に高くなり、追加的な労働供給が徐々に難しくなる中で、労働需給の面では賃金が上がりやすい状況になりつつあります。
また、賃金や物価が上がらないという『ノルム』に関しても、物価上昇を賃金に反映させる動きが広がりを見せております。今年の春の労使交渉について現時点の企業の回答状況を見ますと、ベアが2%を上回るなど、30年ぶりの高水準となっております。
物価安定の目標の持続的・安定的な実現に向けて、着実に歩みを進めたということは言えると思います。
このように大規模な金融緩和は様々な効果を上げてきており、これまでの政策運営は適切なものであったというふうに考えております」
朝日新聞記者は「10年に及んだ金融緩和の教訓」について質問しました。黒田総裁は、大規模金融緩和といった「非伝統的金融政策」の評価は、欧米の経済学者が一定の効果はあったと認めているが、理論的な評価はこれからだと述べました。
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