中国とロシアを軸とする国家連合「上海協力機構(SCO)」が勢力を急拡大し、地政学上の大変化の兆しを見せています。
2022年9月のSCO首脳会議で、加盟国や「対話パートナー国」等が一挙に増大。特に、産油国のサウジアラビア、カタール、UAEをはじめ、中東、アフリカのイスラム圏一帯の国々がこぞって加盟へと向けて動いた。それも、従来の親米国・反米国を問わずである。
もともと親米国だったサウジやUAEなどは、ロシアによるウクライナへの侵攻以降米国の対露制裁方針に従わず、産油国ながらロシアの石油を買っている。しかも彼らは親米、かつスンニ派が多数を占めており、反米でシーア派国のイランと反目すると見られてきたにもかかわらず、イランがすでに正式加盟しているSCOへの参加に積極的なのだ。「呉越同舟」するほどのメリットがSCOにあるらしい。
首脳会議でロシアのプーチン大統領は「SCOは世界最大の地域組織になった」と宣言した。
中国の習近平主席は、米国が他国に介入して各国の政体を転覆してきた「カラー革命」の阻止を訴えた。さらに、加盟国間の現地通貨決済の増大をぶちあげた。これは、基軸通貨ドルを「主役」の座から引きずりおろすということだ。
また、プーチン大統領は、欧州がロシア産肥料輸入の制裁をEUにのみ限定して解除した欺瞞を糾弾し、アジア、アフリカ、南米への食品輸出増大を明言。エネルギー問題でも、ロシアの天然ガスをモンゴル経由で中国へ送る「シベリアの力2」計画は、米独が止めた「ノルドストリーム2」の代替になると胸を張って請け負った。
SCO参加国は、米国の強引な覇権維持のため、自分達が支払わなくてはならない犠牲について不満を抱き、金融、食糧、エネルギー等様々な面で、米国への過剰な依存から脱出を着々とはかりつつある。この地政学上の大きな変化を、日本のマスメディアはほとんど報じていない。
詳しくは、ぜひ、記事本文を御覧いただきたい!
▲上海協力機構(SCO)は、インド、パキスタンが正式加盟し、現在の加盟8か国となった2015年時点において、既に、ユーラシア大陸の大きな部分を占める存在となった。加盟国(濃緑)、オブザーバー国(緑)、対話パートナー国(黄)。(Wikipedia、MBilal106、2015年7月11日)
従来の親米国・反米国を問わず、中東、アフリカのイスラム圏一帯が、雪崩をうってSCOに加盟か!?
上海協力機構(SCO)首脳会議が、2022年9月15日・16日、議長国であるウズベキスタンの首都サマルカンドで開催され、共同声明「サマルカンド宣言」を発表した。
『日本経済新聞』は、SCO首脳会議について、正式加盟国や「対話パートナー国」「オブザーバー国」の拡大に焦点を当てて報じた。
・「米一極世界」に対抗する「多極的世界秩序」の強化
・「オブザーバー国」であるイラン、ベラルーシの正式加盟へ(2023年は正式加盟国メンバーとして参加する)
・エジプト、サウジアラビア、カタールが「対話パートナー国」に参加
・アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、ミャンマー、バーレーン、モルディブに、「対話パートナー国の資格」を与える手続きを開始
・トルコも加盟を希望
SCOに、中近東の産油国であるサウジアラビア、カタール、UAEが準加盟しようとしていることは注目に値する。親米国であったはずのサウジやUAEなどは、米国による対露制裁に対して従わず、産油国でありながらロシアの石油を買い、ロシアの経済を下支えしている。その延長線上に、このSCOへの非加盟がある、と考えられる。
それだけではない。これらの中東産油国は、親米的、かつスンニ派が多数を占める国々であり、シーア派で、米国とイスラエルとは鋭く対立してきたイランとは、対立してきたとみられてきた。
しかしそのイランが正式加盟するSCOに、あとを追いかけるようにして、加盟に前向きの姿勢を見せているのだ。
ということは、これまでスンニ派とシーア派で厳しく対立していたとみられていたイランとサウジアラビアも、北アフリカのイスラム大国であるエジプトも含めて、中東、アフリカのイスラム圏一帯が、「親米」から「親中露」へ、そして「スンニ対シーアの対立」を超えて、「対立・緊張の緩和」へと大きな変化を伴って、イスラム諸国が雪崩をうってSCOへの加盟に向かっている、ということなのだ。
さらには、あろうことかNATO加盟国であるトルコも、加盟希望を表明している。
こうした地政学の勢力図を塗り直すかもしれない動きを、日本のマスメディアはほとんど報じず、その意味を解説も加えない。
参加国同士の2カ国間会談で、外交・貿易など幅広い分野の交流を促進!
『JETRO』は、イランのイブラーヒーム・ライーシー大統領がサマルカンドを訪問したことについて、「イラン大統領のウズベキスタン公式訪問は20年ぶり」だと報じた。
イランとウズベキスタンの共同宣言によると、「イラン南東部にあるチャーバハール港の活用、貨物の入港・通過条件の整備などでの協力」も盛り込まれた。両国の間の取り決めは、「査証(ビザ)発給円滑化、観光、石油・ガス・石油化学、科学技術、輸送などの分野」にまたがっている。
SCO首脳会談では、参加国同士の2カ国間会談が数多く開かれ、外交・貿易など幅広い分野にわたる実利的な内容が含まれている。
「サマルカンド宣言」121項目の幅広さ! 米国抜きでユーラシアの諸問題を解決する機構へ!
「サマルカンド宣言」の、「おおよその翻訳」をインド外務省が公開している。ロシア語で書かれた原文の、「おおよその翻訳」によると、サマルカンド宣言は121項目から構成されている。
概要:項目1~14
対テロリズム:項目15~23、28~29
デジタル・リテラシーの促進:項目24~27
国際的な対テロ、麻薬・薬品問題:項目28~38
イラン核計画、核兵器不拡散、安全保障、生物兵器、化学兵器:項目39~46
アフガニスタン問題:項目47
司法、法医学、汚職:項目48~57
加盟国、対話パートナー、オブザーバー国:項目58~62
世界経済、貿易、経済協力、インフラ、供給網:項目63~85
エネルギー問題、環境:項目86~89、113~117
農業、文化、衛生、災害:項目90~98
教育、科学技術研究、文化、観光:項目99~107
メディア、スポーツ:項目108~112
総括:113~121(次回議長国はインド)
以上より、経済、安全保障から司法、エネルギー問題、環境問題、衛生、災害、文化、教育研究、産業振興など、非常に幅広い分野にまたがっていることがわかる。アメリカ抜きで、ユーラシアの諸問題を話し合いによって解決していく機構が、まだ未熟ながらも成立しつつあることをうかがわせる。
最も多い内容は経済協力だが、対テロ、麻薬問題、核兵器、生物兵器、化学兵器といった、治安維持と安全保障に関連する項目が多いことも目につく。
アフガニスタン情勢は、共同宣言の中で「SCO地域の安全と安定を維持・強化する上で最も重要な要素の1つ」とされ、SCO諸国は「テロ、戦争、麻薬のない、独立、中立、統一、民主的、平和な国家としてのアフガニスタンの確立」を支持する、と表明されている。
経済関連では、中国が進める「一帯一路」イニシアティブへの支持が再確認され、ユーラシア経済連合の建設と一帯一路を結びつける努力など、プロジェクトを共同で実施すると宣言された。
項目77では、「SCO開発銀行とSCO開発基金の設立」に関する協議を継続し、「関心をもつSCO加盟国による、相互決済における自国通貨のシェア拡大に関するロードマップの採用」にも言及している。
プーチン大統領が「SCOは世界最大の地域組織になった」と宣言!「国内通貨での決済量を増やす」とも明言!
ロシア大統領府によると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、演説を行い、「SCO加盟国は世界のGDPの約25%を占めている」と、述べた。
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