新規感染者数が落ち着いてきた東京都は医療体制と感染状況の評価がレベル1! しかし、欧米では感染が再拡大! 同じ状況が今後、日本を襲う? ブースター接種は必要か? 医療ガバナンス研究所・上昌広医師にうかがいました! 2021.12.11

記事公開日:2021.12.11 テキスト
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(文・六反田千恵 文責・岩上安身)

 2021年11月25日、東京都は、感染状況の評価を4段階の最低ランクに引き下げた。しかしオミクロン株の影響も含め、日本がこのままコロナ感染を収束できるとは限らない。欧米では感染が再拡大しており、バイデン米大統領の首席医療顧問、ファウチ博士は、3度目のブースター接種が必須と主張している。

 WHOのテドロス事務局長は、「デルタ株」へのワクチンの感染予防効果は約40%で、「ワクチンを過信すべきではない」と指摘した。感染拡大が続く韓国でも、「ワクチン不信論」が広がっている。

 IWJが、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師に、欧米等の感染再拡大の原因をうかがうと、上医師は「冬の流行期と、ワクチンの予防効果低下が原因」と分析した。

 さらに、ワクチンが感染や症状を進行させるという「抗体依存性感染増強(ADE)」の影響が、感染再拡大に関してあるのかうかがうと、上医師は言下に否定した。

 その一方で上医師は、「ブースター接種が必須」というファウチ博士の主張に同意し、国民の50%にブースター接種をし、本来感染拡大する冬に感染拡大がほとんどみられないというイスラエルの例などをあげた。そして、定期的にワクチンを打つことで、コロナもインフルエンザのようになっていく可能性を示唆した。

 一方、世界第2位の感染大国インドでは、一時期は1日の新規感染数が40万人を超えていたが、現在は1万人弱に激減している。

 インドでは、首都ニューデリーで9月から10月にかけて行なった調査で、新型コロナの抗体保有率が97%になった。そのうち、41%が自然感染で獲得されており、その免疫力はワクチンによって獲得される抗体と異なるのか注目が集まっている。

 また、インドで使用されている不活化ワクチンが、先進諸国で主に使われるmRNAワクチンと異なる効果か持つのかなど、議論の対象になってくる可能性がある。

▲医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師(IWJ撮影)

東京都が新型コロナの感染状況の評価を、最低ランクに引き下げ!

 東京都は、2021年11月25日に新型コロナウイルスの感染状況を評価するモニタリング会議を開き、感染状況の評価を4段階で最も低い「感染者数が一定程度に収まっている(と思われる)」に引き下げた。

 これで、医療提供体制と感染状況の評価は両方とも4段階の最低レベルに収まったことになる。新規感染者数の7日間移動平均は14人、検査の陽性率も0.3%で落ち着いている。

 8月の感染拡大時には4000人を超えていた入院患者数も11月24日時点で72人、重症者は8人、自宅などで療養している人の数も160人となった。

 2020年の最初の緊急事態宣言解除後の6月以降、感染者数の増減の波を繰り返しながらも、感染減少の「谷」が少しずつ増えて高止まりしていましたが、初めて「谷」の水準が下がり、昨年の6月レベルにまで減ったことを意味する。

 日本全体でも11月24日時点の感染者数は113人と、昨年の6月の50人前後に近づいている。

▲小池百合子東京都知事(IWJ撮影)

しかし欧米で感染再拡大! バイデン米大統領の首席医療顧問のファウチ博士は、3度目のブースター接種が必須と主張!

 しかし、残念ながら国外に目を向け、世界の状況を見渡してみると、日本がこのままコロナ感染を収束させることができるとは限らない、と言わざるを得ない。

 日本政府も、冬の感染拡大に備えて12歳以下の子どもへのワクチン接種や、3度目となるワクチンのブースター接種を進めるとしている。

 昨日25日の日刊IWJガイドでお知らせしたように、日本よりも3ヶ月から半年程度先行してワクチン接種を進めた欧米諸国では、再々度の感染拡大に見舞われている。

 欧米を中心としてワクチン接種が進んでいるにもかかわらず、感染が拡大している状況について、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長で、バイデン米大統領の首席医療顧問を務めるアンソニー・ファウチ博士が、デルタ株の感染力の強さ、ワクチン2回接種でも半年程度で免疫力が低下することを要因として挙げ、3度目のブースター接種が必須だと主張していることを、11月22日の日刊ガイドでもお伝えした。

▲アンソニー・ファウチ博士(Wikipedia、The White House from Washington, DC)

WHOは「デルタ株」へのワクチンの感染予防効果は約40%で「ワクチンを過信すべきではない」と指摘! 韓国では「ワクチン不信論」広がる!

 一方で、ワクチンの効果に対する評価にも少し変化が見られる。2020年11月9日、国立感染症研究所は、ファイザー社製、モデル社製の開発中のmRNAワクチンの第3相臨床試験で、90%を超える有効性が示されたと発表していた。

 しかし、世界保健機関(WHO)は2021年11月24日、「デルタ株」に対するワクチンの感染予防効果は約40%であると指摘し、「人々がワクチンの効果を過信すべきではない」と警告した。

 WHOのテドロス事務局長は、感染力の強いデルタ株の蔓延により、以前は約60%だったワクチンの感染予防効果が約40%に低下していると発表した。

 「データによると、デルタ型が登場する前は、ワクチンによって感染が約60%減少していました。しかし、デルタ株の登場によって感染予防率は約40%にまで低下しました。

 ワクチンを接種していれば、重症化や死亡のリスクは格段に低くなりますが、それでも感染したり、他の人に感染させたりするリスクはあります。

 ワクチンを接種していても、自分が感染しないように、また誰かを感染させて死なせないように、予防措置を取り続けることが大切です」

 テドロス事務局長は「ワクチンは命を救うものだが、完全に感染を防ぐものではない」と警告した。

▲テドロス・アダノムWHO事務局長(Wikipedia、ITU Pictures from Geneva, Switzerland)

 感染拡大の続く韓国でも、『朝鮮日報』が25日、国内で「ワクチンは効果がないのではないか」という不信論まで広がっていると報じた。

 韓国のワクチン完全接種率は79.1%、18歳以上成人で91.1%に達しています。しかし、「感染力が約3倍高いデルタ変異株が入って来た」ため、「いくらワクチンを大勢の人々が接種しても、デルタ変異株の感染拡大速度に追いつくには力がおよばない状況」となり、韓国政府が目指した集団免疫の獲得が難しくなっていると『朝鮮日報』は分析している。

 9月、韓国疾病管理庁の鄭銀敬(チョン・ウンギョン)庁長が、「デルタ変異株は感染力が強く、感染遮断効果を下げる面があり、集団免疫獲得は難しいと判断している」と述べたということだ。

IWJが欧米等の感染再拡大の原因をうかがうと、上昌広医師は「冬の流行期と、ワクチンの予防効果低下が原因」!

 欧米や韓国など、日本よりもワクチン接種が先行し、進んだ国々で、再び感染が拡大している状況について、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師にお話をうかがった。

IWJ記者「ワクチン接種が進んだ国々で感染が拡大している原因はなんでしょうか?」

上医師「それは、冬の流行期だからです。日本でも冬、春、夏と流行する時期がありますよね。もうひとつは、先にワクチンを打った国で、ワクチンの予防効果が落ちているんです。ファイザー社は3ヶ月でおおむね50%まで、モデルナ社は5ヶ月で36%までワクチンの効果が下がるとしています」

ワクチンが感染や症状を進行させるという「抗体依存性感染増強(ADE)」の影響を上医師は否定!

 上医師には、「抗体依存性感染増強(ADE)」の影響の可能性について、お聞きした。ADEとは何か、厚生労働省がHPにて以下のように説明している。

 「抗体依存性感染増強(ADE)とは、ウイルスの感染やワクチンの接種によって体内にできた抗体が、ウイルスの感染や症状をむしろ促進してしまうという現象です。

 これまで新型コロナワクチンを接種した方で、ADEが起こり重症化してしまったという報告は、臨床試験でも実用化後でも、現時点において確認されていません。

 稀ではありますが、ワクチン接種によりウイルスに感染した時の症状が増強してしまう現象(ワクチン関連疾患増強)が起きることがあります。

 これには、免疫に関与する細胞のうち、Th2とよばれる細胞が優位にはたらくことや、ウイルスへの結合能を有するものの中和活性の低い抗体が、ウイルスの細胞内侵入を助長したり、複合体を形成して気道の炎症を引き起こしたりする等の機序が考えられています」

 IWJ記者「『抗体依存性感染増強』、いわゆるADE(※)の影響があるのではないかという声がありますが、それについてはどうでしょうか?」

上医師「それを言っているのはどなたでしょうか。私はそれはないと思います。学術的にエビデンスがないと思いますよ。

 福島県相馬市の新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンターが、9月に高齢者の抗体値が落ちてきているという報告をしています。これが日本では一番しっかりしたデータです」

 上医師に教えていただいた、新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンターの抗体値調査では、ワクチンを打つことによって算出される「抗S抗体(抗スパイクタンパク抗体)」と「中和活性」の値を調べている。

 報告書では「2回目接種後の経過日数が短ければ抗S抗体は高いものの、日が経つにつれ下がる傾向」があり、「(抗S抗体も)中和活性も年齢が上がるごとに下がる傾向」があるとされている。

「ブースター接種は必須!」「イスラエルは国民の50%に追加接種して冬でも感染がほとんどない!」

IWJ記者「日本では今感染がかなり収まっています。日本でもブースター接種が必要でしょうか?」

上医師「日本は先進諸国の中ではワクチン接種がすごく遅れたため、現役世代がまだワクチンを打って2、3ヶ月くらいしか経っていないでしょう。夏に感染が拡大して免疫を獲得した人も多いし、8、9月でワクチン接種した人が増えました。だから、怪我の功名というか、今は収まっているわけです。

 ただし、高齢の方は5月ごろから接種していますから、すでに半年以上経っている人も多いですよね。それに、高齢の方はワクチンの効果が減衰するのが早いんです。日本は高齢者が30%を占めているのですから(冬の感染拡大期に向けて)、もう今すぐに、最優先でブースター接種をはじめないといけません。そして高齢の皆さんに、ワクチンを打ち切ることが大事です」

IWJ記者「ファウチ博士が、ワクチンを打っているのに感染が拡大しているのは、デルタ株の感染力が強いということと、ワクチン効果の低下だとして、ブースター接種が必須だと主張していますが」

上医師「その通りだと思います。ファウチ氏はイスラエルの状況を参照していると思います。イスラエルは国民の50%に追加接種(ブースター接種)をしています。(そのためこの冬の感染が拡大する冬の時期なのに)感染がほとんどないんです。

 英国はまだ(ブースター接種は)20%程度ですが、他のヨーロッパ諸国と比べると感染拡大のペースが緩いんです」

 イスラエルでは9月に爆発的な感染拡大があり、1日あたり9000人を超える新規感染者が続いたが、現在は300人から400人程度に抑えられている。

▲イスラエルの首都・エルサレムの旧市街(Wikipedia、Gugganij)

いずれはコロナもインフルエンザのように毎年ワクチンを打って人類と共存!?

IWJ記者「ファウチ博士は、ブースター接種を進めることで、コロナの自然消滅がもたらされ、来年の春か夏頃にコロナの感染が終わる(エンデミック状態になる)のではないかとも言っています」

上医師「それはまだわからないことです。イスラエルは4回目の接種も既に検討しています。このウイルスは、夏と冬に拡大しますから、年に2回ワクチンを打つことで抑制できるのではないでしょうか。春にも流行しますが比較的小さい規模ですから。つまり、コロナもインフルエンザのようになっていくわけです」

 ワクチンを打てば、一時的に抗体価が上がり、中和活性が高まるものの、3ヶ月もすれば抗体価も中和活性も低減してしまう。韓国疾病管理庁の鄭庁長は、ワクチンを打って集団免疫を獲得する困難を指摘した。

 定期的なワクチン接種によって、新型コロナウイルスと共存していく日々が続くのだろうか。弱毒化し、インフルエンザのように、人類と共存する可能なレベルにまで変異していけばいいのだが…。

インドの感染減少の理由は抗体保有率97%だから!? 日本や欧米のmRNAワクチンとインドや中国の不活化ワクチンで効果に差がある!?

 世界第2位の感染大国であるインドは、4月から5月にかけて1日の新規感染者数が40万人を超える感染爆発を経験したが、今は欧米諸国とは対照的に、1日の新規感染者数は1万人弱にまで下がっている。

 『産経新聞』は、インドで感染が減少している要因として、首都ニューデリーで9月から10月にかけて行った調査で、新型コロナの抗体保有率が97%になったことを報じている。インド政府は感染が深刻な状況を脱し、夏の感染爆発のような事態にはもうならないとして、ワクチン輸出を再開、外国人観光客の受け入れも再開したという。

 インドにおいては、2021年の9月ごろからワクチン接種スピードが上がっているが、ワクチン完全接種者は30%で、少なくとも1回摂取した人の割合は56%だ。11月時点でブースター接種はまだ始まっていない。しかし、上記のニューデリー市民の抗体保有率はが97%と高い数値を示している。これは、少なくとも41%は実際の感染によって獲得された抗体だと思われる。

 インドではワクチンは国産化されており、インド国民に接種されているのは、mRNAワクチンではなく不活化ワクチンである。

 先進諸国で主として接種しているmRNAワクチンである。それに対し、インドや中国が主に使っている不活化ワクチンでは、効果の出方に差があるのだろうか。あるいは自然に感染したことで獲得される免疫力は、ワクチンと違うのだろうか。

 今後、ワクチンの種類や自然感染との違いも議論の対象になってくる可能性がある。

▲インドの首都・デリー連邦直轄地のニューデリー行政区(Wikipedia、Lokantha)

・これは日刊IWJガイド2021.11.26号~No.3361号に掲載された記事を加筆・修正したものです。

※本記事は「note」でも御覧いただけます。 https://note.com/iwjnote/n/n7062270e547f

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