岩上安身は8月25日午後5時半から、京都精華大学国際文化学部講師・白井聡氏にオンライン形式でインタビューを行った。
白井氏は、著書『永続敗戦論 戦後日本の核心』(太田出版、2013年)『国体論 菊と星条旗』(集英社、2018年)などで、「対米従属」という戦後レジームの核心を明らかにしてきた。今年2021年3月には、『主権者のいない国』(講談社)を、8月にはジャーナリストの金平茂紀氏、新外交イニシアティブの猿田佐世弁護士との対談集『白金猿II』(かもがわ出版)を上梓されたばかりである。
冒頭から、菅政権のコロナ対策の失敗をめぐって、丁々発止のやりとりが続いた。
白井氏は「デルタ株によって、危機のレベルが一段変わりました。案の定、医療崩壊し、救急搬送してもらえない、コロナ病床がない、そういう状況がいつまで続くのか、コロナとの戦いも『永続敗戦』になってきました」と怒りをあらわにし、以下のように畳みかけた。
「初めてのウイルスなので初期対応に混乱や間違いがあるのは仕方ないとしても、1年半以上経って、各国の情報もあり、何をすべきか相当わかってきたのにこのざま。許し難いですね。
日本が金もない知恵もないような国であればいたしかたないが、世界でも有数の優れた医療資源があり、世界的に見れば金持ち国であり、にもかかわらず、このざまはなんだと。
しかも、日本の優秀な検査機器が海外で使われていて、感謝もされているのに、日本ではそれも使っていないんですね。
安倍総理が去年指摘した『目詰まり』があちこちで起こっていて、コロナに対するノウハウや資源が全く使われていない。猛烈に腹が立ちます」
岩上は、デルタ株の脅威とワクチンの不確実さに触れ、以下のように嘆いた。
「結局、検査件数を増やし、『自宅放置』をゼロにしていくしかないが、総理会見で繰り返し質問しても、ちっとも検査を増やさない。日本の検査件数は100万人あたり世界143位ですよ。全部『当社比』でしか回答しないんです。去年の2倍にしたといったことしか答えない。これが総理の名前で出す回答なんですよ」と嘆いた。
白井氏「ほとんど、私バカですと言っているようなもの。初歩的な論理的思考で考えれば、コロナの対処は『検査と隔離』しかない。なのに検査しない、隔離しない。自宅療養という名の自宅放置、愚策中の愚策です」
岩上「東京は1人暮らし世帯が過半数。昨日も急変して亡くなった方がいます。みんな、『ああ苦しい』と思った時にはもう連絡もできない。見守りのない1人暮らしだとどうしようもない。無茶苦茶です。
デルタ株は感染力も毒性も違う。そして若い人でも、20代、10代でも重篤化している」
白井「まったくフェーズが変わってきていますね。飛沫感染ではなく空気感染というのが世界の常識なのに、厚労省は、いまだに『3密回避』と言っている。甘すぎる。今までの基準を変えたり、といったことが面倒なんでしょうね」
岩上「なのにパラリンピックは強行ですよ、しかも子ども達を集めて連れて行く。今は、関係者の間でもどんどん感染者が出ている中で」
白井「パラの選手は基礎疾患のある人も多いですよね。介助の人たちも濃厚接触を避けられない。三重国体中止、F1日本グランプリ中止。それを見れば、日本政府は今は大規模イベントは危険ですと言っているようなものじゃないですか。
パラを強行する理由はなんなのか、このイベントをやることで、国家の対面を保つ。そのためにはパラ選手の命や健康はどうでもいい、そういうことなんです」
岩上「NHKは、オリンピックの目的は『国威発揚』といったんですよ」
白井「それ、五輪憲章にまったくそぐわない(笑)」
岩上「もう五輪マフィアみたいなもの」
白井「僕も子ども2人いますけれど、子ども達を参加させるといっても教育庁がどう決める、校長が決めるとか。どうでもいいんです、そんなことは。要は親がどうするか。子供をきちんと守るかということに尽きます。子どもを守りたかったら、親は行かせなきゃいいんです」
岩上「もう、保護者の方も今いまちょっと、うちの子は体調が悪い、『熱があるんです』とみんなで言ってしまえば、実質的に止めることは可能です」
白井「こんなものは生き物としての基本的な本能ですよね、危険があればそれを避ける。それができないのは生き物として終わっている」
岩上「こういうごまかしを政府が、国のトップがやる。戦争も、3.11も、コロナも!」
ここから本題「日本が陥った『永続敗戦』、敗戦を否認し続ける従属国家・日本はもう一度コテンパンに負けないとダメなのか?」に入った。
岩上は、白井氏が主張する「日本は敗北が持つ意味を曖昧化してきた」という主張の広がりについて問い、白井氏は『永続敗戦論』を書いたきっかけが「3.11、とりわけ福島原発事故」であったと述べ、その不安な思いの中で、「あの戦争の時の日本」と同じだという「既視感」にとらわれたと答えた。
丸山眞男は、第2次世界大戦に日本を突っ込んだ戦争指導者たちがまったく責任を感じていないことに怒り、それを「無責任の体系」だと指摘した。
白井氏は、「無責任の体系」は戦後もそのまま生き延びて日本の政治、そして社会の形を作っている。それは「実は負けたと思ってない」からだと主張する。白井氏は「敗戦の否認」が、戦後日本という国家の骨格を作ってきたのであり、3.11でもコロナでもまったく同じことの繰り返しだと指摘した。
続いて、米中の覇権交代にともなって、日本を含む周辺国が晒されている危機、その現実を認めず「対米従属」のまま、自らの国土を米中戦争の戦場に捧げようとしている安倍・菅政権の暴走、そして「対米従属」が当事国にもたらす危機が明確な形で現れたアフガニスタンにおけるタリバンの復権、その背景で起こっている中国の台頭などについて、議論が弾んだ。
最後に、菅総理が全面支援した小此木八郎候補が大敗した横浜市長選挙と、今秋に迫る衆議院選について話が及んだ。
白井氏「横浜市長選も背後に米国資本のカジノと中国資本のカジノという話がありますからね」
岩上「ハマのドンは『スガはもう終わりだ』といっている。背後にある安倍政権も含めて、このままでは日本はボロボロになるということを言っていると思う。そういう意味では一部、燭光が指してきたようにも思います」
白井氏「今度の総選挙で叩き落とさないと、もう」
岩上「日米安保基軸は立民も同じです。それと違うことはできないと思っていたと思うが、アフガニスタンを見てどう思うかと。日米同盟どころじゃない、自分の足でちゃんと立ってから、水平的な関係で同盟を結ぶべきです」
白井氏「そういう人材を日本の社会が送り出せるか、そして日本の社会に支持されるか。議会を改革するとか、そういう次元で考えてても無理かなと思います。社会と人間の質の問題だから。コツコツと底上げをしていくしかないと思います。
安倍・菅政権のコロナ対策ひどいですよ。国民の生命や健康を守るなんてことはこれっぽっちも考えていない、そういう政府ですから」
岩上「ぜひ、また続きを!」
白井氏「政局も大きく動くでしょうし、そのときにまた!」
崖っぷちの日本をめぐって2時間の濃密なインタビューであった。ぜひ、IWJの会員となって、全編をじっくりと御覧ください。
岩上安身が2015年と2019年におこなった白井聡氏へのインタビューはIWJサイトに掲載されてます。どうぞ以下のURLから御覧ください。