2021年2月16日、ワクチン接種に関する河野太郎新型コロナワクチン接種推進担当大臣の記者会見が合同庁舎8号館講堂で行われ、IWJは生中継するとともに、IWJの記者が質問を行った。
IWJ記者「JX通信社の2月上旬の全国の基礎自治体への調査によると、実際に新型コロナのワクチン接種を担当する医師や看護師など医療従事者の調整が、『まったく決まっていない』自治体は46%に上ります。
たとえば札幌市では、年内に全市民約200万人分を完了できるか不透明と報じられています。熊本総合病院では国から超低温冷凍庫や注射器が届いたにもかかわらず、『ワクチンがいつ、何回分届くのか全く情報がない。初めてのことで「分からないことが分からない」状態』という困惑の声があがっています。
明日17日以降、接種を開始するとされますが、この状況では大幅な遅れが見込まれます。とりわけ、五輪開催前までに、多くの国民に接種できる保証はありません。
ワクチンの接種が先進国で最も遅れている日本で、五輪により、国外から多数の人々を受け入れ、国内の人々も五輪観戦のために大きく動き、『密』になって観戦することは、緊急事態宣言によって、現在の第3波を鎮静化させることができても、五輪後、第4波を招く懸念があります。
ワクチン接種のロジスティックスは、五輪を開催するならば非常に重要になるはずです。河野大臣は、その責務をどう遂行されるおつもりでしょうか? 五輪開催強行の是非と関連させてお答えください」
河野太郎新型コロナワクチン接種推進担当大臣「どこの自治体も、やったことのない、大規模なワクチン接種ですから、万全だという回答ができなくて当たり前と思わなければならないと思います。
特に、担当の方々には、今日にいたるまで、まだ接種スケジュール、開始日をお伝えをできていないわけですから、それは準備が整わんという反応になるのは、これは当然のことで、それはもうひとえに私の責任でございます。
ただ、まあ、これまで日本人、いろんな困難を乗り越えてきたわけですから、最終的に、国民の皆さんのために、自治体の皆さんと心をあわせて、頑張ってやってまいりたいというふうに思っております。
オリンピックについては、橋本大臣にお尋ねをいただきたいと思います」
政府が東京五輪を強行すると言う以上、その前提となるワクチンの実施は河野大臣の責務のはずだが、無回答である。そこでIWJ記者は、少し異なった聞き方で再び質問した。
IWJ記者「菅総理が昨年、『2021年前半までに全国民に提供できるワクチンを確保する』と発言され、1月に坂井官房副長官も『6月までに』と発言されましたが、河野大臣は1月22日にこれを訂正して『一般国民向けの接種時期は未定』とされました。
JX通信社の基礎自治体調査では、接種終了時期の見通しは、最多の31%が「9月頃」、次の23%が『年内には終わらない』で、東京五輪が予定される7月より前に終わるとした自治体はわずか2%です。
確保・供給が確定できず、現場も五輪前は無理と言う中で、大臣は、五輪前に全国民への接種が終了するメドは、どの程度とお考えですか? また、その根拠を教えてください。
もし、五輪開催前に国民にワクチンが打てないまま、海外からたくさんの人を入れ、全国から観戦のために人が動き回れば、GoToトラベルと同様の事態となり、感染が拡大して『第4波』を招くことは明らかです。
河野大臣は、この問題をどうされるおつもりでしょうか?」
河野大臣「政府の基本的な対処方針は、令和3年前半までに、国民に必要な数量の確保をめざすということで、これは私を含め、変わったことはございません。確保をめざすと申し上げているわけで、接種の時期について申し上げたことはないのではないかと思います。
オリンピックについては担当大臣にお尋ねください」
河野大臣は1月22日の会見で、前日の坂井学官房副長官による「6月までに対象となる全ての国民に必要な数量の確保を見込んでいる」との発言を削除すると発表。「政府内に情報の齟齬がある」として、「一般国民向けの接種時期は未定」もしくは「まだ供給スケジュールは決まっていない」という主旨の発言をしたことを、日経や朝日など各メディアが報じた。
- 「6月までに確保」を削除 河野氏、ワクチン接種で(日本経済新聞、2021年1月22日)
- ワクチンめぐり政府内で齟齬?河野太郎氏VS坂井副長官(朝日新聞、2021年1月22日)
上記朝日新聞によれば、これを受けて坂井官房副長官が「齟齬は生じていない」「具体的な確保の見込みが何月何日になるかまではまだ決まっていない」「確保と供給は違う」などと指摘。最終的に河野大臣が「坂井氏と『6月に確保することを目指す』ということで齟齬はないと確認した」と語っていることから、政府内で急いで帳尻をあわせた経緯がうかがえる。
しかし結局「確保を目指す」で帳尻をあわせたことによって、現実には6月までのワクチン接種はもとより確保の可能性さえ極めて不確定であることを切実に示す結果となった。
事実、IWJの質問に呼応するように、東京新聞の記者が最後に行った接種スケジュールの質問に、河野大臣は次のように回答した。
東京新聞記者「(医療従事者への)先行接種や高齢者が終わった後の一般の方の接種なんですけど、先ほどもおっしゃったように、令和3年前半までに国民に必要な数量を確保ということですが、希望する方全員が接種し終わる時期というのを、いつごろと、今見込んでらっしゃるのか、また目標などがあれば教えてください」
河野大臣「現時点では、まだ定かではありません。ワクチンの供給スケジュール、それから、アストラゼネカ、モデルナのワクチンの承認のスケジュールというのもあると思いますので、まだ現時点でなかなかそこまで先を見通すのはしておりません」
東京新聞記者「実施期間は概ね1年間ということですけれど、この期間では終わるということでよろしいでしょうか?」
河野大臣「少なくともそこで終わらないといかんとは思います」
東京五輪前に、希望する国民全員に接種を行うことはすでに前提にないようである。
6月頃のワクチン確保をめざし、それから概ね1年間かけて国民に接種する、ということは仮に五輪の開催を強行されたとしても、まったく間にあわない。