4月3日、在日米国大使館はホームページで、感染拡大を受けて、日本滞在中の米国人に即時帰国を呼びかけるとともに、感染について「日本政府が広く検査しないと決定したため」「有病率を正確に評価することは困難」であるとの見解を示した。
- Health Alert – U.S. Embassy Tokyo (April 3, 2020)(在日米国大使館HP、2020年4月3日)
- 米大使館、日本の感染「正確な把握困難」 帰国呼びかけ (朝日新聞、2020年4月4日)
(IWJ編集部)
特集 #新型コロナウイルス
※この記事は2020年4月5日発行の日刊ガイドNo.2761号に加筆・編集しています。
4月3日、在日米国大使館はホームページで、感染拡大を受けて、日本滞在中の米国人に即時帰国を呼びかけるとともに、感染について「日本政府が広く検査しないと決定したため」「有病率を正確に評価することは困難」であるとの見解を示した。
記事目次
この米国大使館の見解は、「健康アラート(警報)」と題して、英文のページだけに掲載された。
同ページでは、「日本では過去72時間で650人以上が陽性反応を示し、1日あたり約200名増加。4月2日は過去最大に増加した」として、米国に帰国を検討している米国市民は「即時の帰国を手配する必要がある」と促した。
その背景として、欧米の例と比較すると「日本で報告されたCOVID-19(新型コロナウイルス)の数は低いまま」であり、「広く検査しないという日本政府の決定」は「COVID-19有病率を正確に評価することを困難する」としている。
そのため、「症例が急増した場合、既往症のある米国市民は、COVID-19の大流行以前に、日本で慣れ親しんだ医療を受けられない可能性がある」と警告。
さらに、日本から米国への航空便が3日にはコロナ以前の11%に減少し、日本の入国規制によってさらに減少する可能性があると伝えている。
この「警報」の中で、特に問題なのは、日本政府がコロナ感染を「広く検査しない」と「決定」したとしている点だ。
これまでも、日本の検査数が少ないことは国内外から大きな批判を浴びており、安倍総理も記者会見で「確かに少ない」と回答。批判に対して、厚生労働省は「検査能力を増やす」と言い続けてきた。検査数を抑えると「決定」したことは、少なくとも「表向き」にはないはずだ。
にもかかわらず、米国大使館の「警報」は、日本政府の「表向き」の宣伝とは、完全に正反対の「事実」を語っている。たしかに「検査能力」と「検査数」は違う。「検査数」はほとんど増えている。日本政府の誰が、いつ、検査数を抑えると「決定」し、米国に伝えたのだろうか? それが事実であるなら、その「決定」はなぜ、日本国内では報道されないのだろうか? 事実に反するなら、日本政府は米国大使館に抗議し、訂正を求めないのだろうか?
この重大な疑問を抱いて、厚生労働省、外務省、内閣府、米国大使館に電話取材を試みましたが、いずれも土曜のため応答はなかった。この取材は、週明けに続ける予定だ。
しかし、米国政府が日本の検査数の過少を明確に批判したことは事実だ。これに対して日本政府は、米国政府に対し、そして国民に対してどうこたえるのだろうか。
日本で「国民全員に対するPCR検査は不要だ」と主張してきた「有識者」の面々も、その言説の責任を問われる。
元大阪市長で弁護士の橋下徹氏は、テレビ番組や自身のツイッターを通して「全員PCR検査は必要ない」と繰り返し主張してきた。
橋下氏は2月29日に出演した関西テレビ「胸いっぱいサミット!」において、「PCRも重症化するような人を見つける為に必要で、一般の人がPCRをどんどんやる必要はないんですよ」と持論を展開。「はっきり言って10歳から40歳くらいの元気な人は、普通の風邪のような感じで家で寝とけって政府がバシっと言えばいいんですよ」と切り捨てた。
また、橋下氏は自身のツイッターでも同様の持論を展開。3月17日には、WHOのテドロス事務局長が「すべての国に訴えたい。検査、検査、検査だ。疑わしい例すべてに対してだ」と述べたことに対して、「WHOはほんとダメだな」とした上で以下のようにツイートした。
「無症状者・軽傷者(原文ママ)を入院させず、彼ら彼女らの濃厚接触者調査を止める法制度を整備し、無症状者・軽傷者(原文ママ)が病院に来ても自宅に帰せる応諾義務免除制度や自宅隔離の制度を整え、陽性者に対する何らかの治療法・治療薬が確立してから、検査!検査!検査!だ」。
橋下氏は、無症状(感染者)、軽症者、重症者を最初から峻別していますが、表に出ている症状では、コロナ陽性か陰性かは判別できない。対応に区別をつけるといっても、その区別をつけるために検査が必要なのだ。根本から、論理が間違っていると言わざるをえない。
さらに、「安倍応援団」とも揶揄される経済評論家・上念司氏も「全員PCR検査」不要論を展開していた。
上念氏は、自身が出演したDHCテレビのネット番組『真相深入り!虎ノ門ニュース』や、自身のYouTubeチャンネルで以下のように発言していた。
「PCR検査をやりまくったイタリアや韓国は医療崩壊。PCRは偽陽性が高いので全員にやる物でない。大量の偽陽性者を隔離したら重傷者のケア出来なくなる」。
さらに上念氏は、「有識者」として各局の番組に出演し、PCR検査の拡大を訴えていた大谷義夫医師(池袋大谷クリニック院長)、上昌広医師(医療ガバナンス研究所理事長)、岡田晴恵教授(白鴎大学)を「デマトリオ」呼ばわりし、以下のようにツイートした。
「テレビが煽ったパニックで実際にトイレットペーパーが不足するとか実害蒙りました。政府がテレビの煽りに負けて大規模なPCR検査実施してたら、医療崩壊して多くの人が死んでたことでしょう。安倍政権はよく頑張った。国民の命を守りましたね。ただ、経済でも人死にますから、そっちにも対策を!!」
一方、岩上安身は早くからPCR検査の拡大を訴えてきた。
「国は、行政検査の縛りを外し、民間の力を最大限借りて、国民が全員、速やかにこのコロナ検査を受けられるようにすべきだ。一度陰性が出ても、そのあと陽性になる人が続出している。感染の機会は日常のいたるところに転がっているのだから、国民が複数回受検できるようにするのは当然だ」。
「恐れていたことが起きた。ここまで感染が広がる前に、兆候が見えた早期の段階で検査が行われないことが最大の問題。今日の会見でも検査の質問が出たが、安倍総理の回答は「専門家に聞いた」といいつつ、曖昧な回答に終始。結局、検査を拡大する、と言いきることはなかった。過少検査が続くのだろう」。
岩上安身は、PCR検査の拡大を訴えてきた上昌広医師にインタビューを行っている。こちらも合わせてご覧いただきたい。
また、米国大使館が米国市民に帰国を促した現在、思い出されるのは、2011年3月の東日本大震災が起こった際に、米国務省が米政府関係者の国外退避のためにチャーター機を用意したことをはじめ、日本在住の外国人に、日本脱出の動きが早々に起こったことだ。
今回の米国大使館による帰国の呼びかけは、これらに匹敵する動きであり、それだけ緊急を要すると判断されている。
日本政府が検査数を増やすか増やさないかは、言うまでもなく、今後の感染拡大を阻止できるかどうかを左右する、非常に重要な問題だ。米国に指摘された日本政府はどう対処するのだろうか。
新型コロナウイルスの感染が都市部で拡大する中、厚生労働省の新型コロナクラスター対策班に所属する北海道大学の西浦博教授が「早急に欧米に近い外出制限をしなければ、爆発的な感染者の急増(オーバーシュート)を防げない」との試算をまとめた。
東京では4日、新たに118人が新型コロナウイルスに感染したことが確認された。感染経路が不明な患者が急増しており、4日に感染が確認された118人の中では、7割近くの81人が「感染経路不明」にあたる。1人の感染者から濃厚接触者を追跡して、クラスターを封じ込めるという、点と線を追うやり方では、もはや限界に来ているようだ。
西浦教授は感染者数の予測を数理モデルで解析する専門家だ。試算では、感染経路が不明の患者が急増している現状のまま何も対策を講じなければ、東京都の感染者は1日1000人を超え、さらに拡大する恐れがあると警鐘を鳴らした。
西浦教授によると、3月上旬はイベントの自粛要請や休校要請によって人の往来が2割減少したという。しかし試算によると、2割程度の人の往来の減少では感染拡大は防げず、8割程度減少させなければ収束に向かわないとしている。そのためには、欧米各国のような、すべての人々の外出制限が必要となりそうだ。
西浦教授をはじめとする厚生労働省の新型コロナクラスター対策班に所属する専門家が独自にツイッターを開設。感染の動向やデータの分析結果などを現場から分かりやすく解説・情報提供していく予定だといいう。
なお、本日のこの日刊IWJガイドの記事の「■<新記事紹介>IWJ調査レポート!」でご紹介している、英国のインペリアル・カレッジ報告書は、英国のコロナ対応政策を、徹底した外出制限による社会隔離政策へと劇的に方向転換させた要因となったものだ。ぜひ、あわせてご参照いただきたい。西浦教授の試算の持つ重要性が、より一層ご理解いただけると思う。