政府が閣議決定し、3月13日に国会で成立した「新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案」の狙いは後手後手対応を事後的に糊塗するものだった。
今回の特措法改正は3月4日、安倍総理の要請による野党党首会談で一気に具体化した。立憲民主党の枝野幸男代表や国民民主党の玉木雄一郎代表、共産党の志位和夫委員長らは、旧民主党政権時代に成立した現行法で対応可能と主張したが、安倍総理は「原因となる病原体が特定されていることなどから、現行法に適用することは困難」と反論。与野党で見解のギャップが埋まらないながらも審議自体には応じることでは一致し、早期成立となった。
野党に「抱き付いた」安倍総理の策略は見事に的中。非常事態宣言への懸念などから共産党やれいわ新選組は反対、山尾しおり衆院議員(後に立憲民主党を離党)をはじめ共同会派からも反対や欠席をする議員が相次いで野党の分断に成功する一方、自らは翌14日の総理会見で改正法成立をアピール、「やっている感」演出をする晴れ舞台に登場することができた。
内閣支持率は前月比で8.7%(3月16日の共同通信)もアップしたのは、野党を踏み台にした政治的パフォーマンス(安倍総理ワンマンショー)の大成功を物語るものなのだ。
本来なら野党は、新感染症ごとに法改正をする悪しき前例を作ることにもなる特措法改正に対して不要論で結束し、より緊急性の高い検査法関連法案の「抱合わせ成立」や新たな専門家集団が加わった「日本版CDC」(岩田健太郎・神戸大学教授らが提案。後述)創設や、非常事態宣言濫用を防ぐ「国会事前承認」(山尾氏らが主張)を政府に突き付ける必要があった。
しかし実際には、こうした要求事項を受け入れさせる成果を野党は上げられないまま、総理に見せ場を提供して利用されるだけに終わった。
その「A級戦犯」は、野党陣営の司令官役を果たすべき枝野幸男・立憲民主党代表に違いない。抱き付いてきた安倍首相にパンチを繰り出して成果を勝ち取るのではなく、「こうした問題で駆け引き、取り引きをするつもりはありません」「この法律のことは党首会談で話をしたので、後は現場に任せています」(3月5日の記者会見)とあっさり政治休戦を受け入れた。
「国難なのに協力しないのはケシカラン」といった批判を恐れて、野党一丸となって安倍政権の非科学的な対応を是正させる絶好の機会を逃したといえるのだ。
特措法改正案は成立する一方で、野党が提出の検査法関連法案(「新型コロナウイルス感染症検査の円滑かつ迅速な実施の促進に関する法律案」)は店晒し状態が続き、科学的根拠に基づいた対応策実施や非常事態宣言濫用防止に欠かせない「日本版CDC」創設についても具体化していない。特措法改正を利用した総理独演会(政治ショー)が華々しく発信された中で、積み残された緊急課題に目を向ける必要がある。

▲党首会談についての会見を行う安倍総理(首相官邸HPより、2020年3月4日)