田代「アメリカがイラン産原油を買う買わないの話で終わればいいのだけど、『他の国も見習え』と言い出したとなれば…」
岩上「さもなくば『制裁するぞ』、ですからね」
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記事目次
田代「これは大変なことになりますよ。日本が輸入している原油のうち、イラン産は5.5%(※1)。これを代替するのはえらいことです。足元を見られることになりますから。つまり、その部分は相手の言い値で買わなくてはならなくなる」
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岩上「長期の契約とスポット契約とでは、全然違うわけですよね? スポットで買うと、かなり高くなるという…」
田代「そうです。何十年という長期で買うから、かなりディスカウントして売ってくれるのであって、それは普通の商売も同じでしょう。だから、株価も当然急落するわけです。このたびレートが1月以来の安値だったわけですが、日本株の足を引っ張っているのは、実はトランプ大統領だったという(※2)」
岩上「僕がこの問題にこだわるのは、もっと先のことにも関わってくるからです。というのは、アメリカは、世界のヘゲモン(覇権国)としての座からもう降りる、他の国の面倒は見ない、という方向へシフトしているんじゃないかと思えるんですね。東アジアからも、ヨーロッパからも。
ロシアに対しても、今度首脳会談をやると(※3)。クリミアの件であれだけプーチンを悪魔化し、欧米で制裁を加えておいて、ですよ? ウクライナをわざわざ分断して政権をぶっ潰し、挙げ句の果てには内乱まで起こさせて、ロシアがロシア人の多い東部とクリミアを編入するよう仕向けたのはアメリカのヌーランドです(※4)。
そこまでの工作をしておいて、『ウクライナの領土だったクリミア半島をロシアが取った、許せない。これは戦後初の侵略だ』とか大袈裟に言いたてて、ロシア軍港のある同地から『ロシアは出ていけ』と。これはそもそも、ソ連という国家の中の、一部の線引きの話だったのに。
でも、そこに住んでいる人々のほとんどはロシア語話者。実態としてはロシア人です。そりゃロシアは『うん』とは言いませんよ。なのに、アメリカ主導で制裁を加えてG8から外した。それを、トランプ大統領は今さら、『おい、プーチン呼べ』とか『もう一回ロシアを招いてG8にしようぜ』とか、『プーチンとは気が合うんだ』なんて。

▲プーチン大統領(Wikimedia Commonsより) https://bit.ly/2IiB8jp
オバマ政権から着々とやってきた陰険な工作。ウクライナ、もうぐちゃぐちゃですよ? 内戦してたんですよ? それを、トランプがあっという間にぶっ壊しちゃった。たったひとつのツイートで、『あそこはロシアだから、ロシア人がロシア語喋ってんだろう。だからロシア領でいいじゃんか』って」
田代「もう、プーチンのお使いになっちゃったわけですね、アメリカ大統領が」
岩上「こうやって全部パアにして、ロシアと仲良くすることにしたみたいなんですけど、そういう無茶ぶりをやりながらも、一貫してイスラエルにだけは忠誠を誓ってるといいますか、イスラエルとだけはパートナーでやっていくと。で、『イスラエルの敵は全部敵だ』ということです。
イランと戦うというのは相当のリスクになるわけですけれども、イスラエルは『イランが核を持つ大国になる事だけは絶対許さない』と。(イスラエル自身は)核保有国ですからね、『アメリカが動いてくれないんだったら、単独でもイランを叩き潰す』と言い続けてきた。トランプは、イスラエルがイランと軍事衝突やるようなら、核合意なんてそんな生ぬるい、やれることは何でもやってやるぜ、というわけです。
そこで、イラン産原油の禁輸がきっかけで本当にイランとイスラエルが軍事衝突する事態になれば、ホルムズ海峡が閉鎖されるようなことも起こるわけですよね?(※5)原油が高騰し続けたら、一体どうなってしまうのか。
前のオイルショックを思い出します。今の20代とか30代は、オイルショックを全然知らないと言いますが、我々はその直撃世代ですから、よーくわかってます。大変なことになりますよ、大きなインフレになるでしょう。『自動車業界や運輸業界の業績は下方ラッシュ』。当然ですよね。
『WTI原油先物』(※6)というものがあって、『6月30日時点で、1バレル74ドル以上に達している』ということなんですが、『2018年3月にドバイ原油が60ドルを超えたとき、2人以上の世帯の家計負担が年間で1万7000円増えるという試算が出た』んだそうです。『現在のWTI原油先物の水準だと、家計負担が2万円以上』になるだろうと。これは日刊ゲンダイの記事で言われていること(※7)ですが、これがドンパチ始まったらどこまで行くか、誰も予想つきません。

▲イラン産原油の禁輸で家計負担が急増!? https://bit.ly/2HGiq69
日銀は、『2%の物価上昇率が達成できなかったのは原油が安かったことも原因』なんて言い訳をしていますが、ということは原油高になったら2%に達するというわけですよね。『俺達の予想当たってたじゃないか』とか、バカなことを言い出すんじゃないかと思いましてね、それでこういう大きな地政学的な話を、自然利子率がどうのという話の合間に挟んだわけです。これについて、いかがお考えでしょう?」
田代「世界経済が本当に成長過程が続いて、需要が高まることで原油価格が上昇するのであれば、日銀はもちろんそのように言うでしょうね。でも、今懸念されているのはそういうことじゃありませんよね」
岩上「全然違います。窮迫ですよ」
田代「戦争でホルムズ海峡が火の海になれば、タンカーが通れなくなる。要するに、日本に油が届かないという事態になるわけです。そうなると当然、ロシアとかアメリカといった、中東以外の地域の原油価格が暴騰しますよね」
岩上「暴騰ですよ。日本に安く売ってくれるわけがないんです」
田代「だから原油先物、WTIはニューヨークの指数ですけれど、それがこう跳ね上がってしまったわけです。ちなみに、WTI指数が使えるかどうかは、実はちょっと問題があるんですがね。ドバイ原油の方がいいです。
簡単に言えば、『ドバイ』という名前が付いてますけど、『ドバイ原油』は東京での指数なんです。ドバイで出荷される原油に関する先物を、東京でやっているわけです。日本は今、アメリカからはそんなに輸入していないから、こちらが主力のはず。それが60ドルを超えた時に、1万7000円も増えるということですから、現在から考えたら、おそらくもっと負担は大きくなるはずでしょう。
そうなれば当然、景気の足を引っ張るのは明らかで、おっしゃる通り1970年代の2度の石油危機の時のように…。特に第一次石油危機。あれはもう、本当に、日本の物価水準が一変してしまった」
岩上「そうですよね。物価は上がるが賃金は追い付かないという、スタグフレーション(※8)の状態に陥ることが、一番恐ろしいと思うんですけれども。
70年代のあの時ですら、『足腰が折れた』と言われていても、日本はまだ高度経済成長を続けました。人口動態も含め、あの時は成長要因があったわけですが、今はこう、すっかり老化してしまって。そんな縮小に向かっているような状態の中、原油が原因で輸入物価が上がり、次いで物価全体が上昇してかつ賃金上げようがなくなると…。
それどころか、企業は苦しいからといって、むしろいっそうの低賃金を強いるとか、ますますブラック化していくようなことになろうものなら、庶民は本当に地獄じゃないかなって思うんですが」
田代「本当にそうですね」
岩上「それでも日銀は、『2%達成。万々歳だ。ほおら、僕らの言った通りになっただろう?』と、こういう風に言うんでしょうかね?」
田代「さすがにそれは言わないだろうと思いますよ。その時にはもう、別の問題のモードに入っていて、一体この状況をどうするかという話になるでしょうから。今度は『いかにしてその物価上昇を止めるか』と。
こんなにいろんな問題が世界中のあちこちにある。だからアメリカもヨーロッパ中央銀行も、今のうちに取りあえず金利を少しでも上げておいて、引き下げ余地を残しておきたいわけです。でも、日本は引き下げ余地のないまま、その危機に直面しなければならなくなる。この方がよっぽど怖いですよね」
岩上「怖いですねー。マイナス金利までやってて、それでいてこれをどうにかすることもできず。そこへ実質金利なんて観点から考えようというのは、要するに『ちょっと解釈を変えよう』ってぐらいの話でしょう?」
田代「というか、それならそういう議論を最初からなさればいいわけでね。今頃になって何か言うなんて、ほら、話が苦しくなると急に難しい話をする人がいるじゃないですか。そんな感じで、何か煙に巻いたのかなと」
岩上「本当に、僕らからしたら、煙に巻かれたという感じです」
(※1)日本が輸入している原油のうち、イラン産は5.5%。これを代替するのは大変:
石油天然ガス・金属鉱物資源機構の調べでは、2017年の日本の原油輸入量全体に占めるイラン産の比率は、サウジアラビア(40.2%)、アラブ首長国連邦(24.2%)、カタール(7.3%)、クウェート(7.1%)、ロシア(5.8%)に続く、第6位の5.5%。
かつては10%以上のシェアを有し、上位3カ国に入っていたイラン産原油だったが、「テロとの戦い」を標榜するアメリカによる対イラン制裁に従い、2008年ごろから徐々に輸入量を減らしてきたのである。
2018年6月26日の、トランプ米大統領によるイラン産原油の輸入禁止要求に際しても、日本はそうした過去の「実績」を盾に制裁の「適用除外」を受けられる道を探るとともに、JXTGホールディングスなどの石油元売り会社は、イラン以外の国・地域からの代替調達に向けて、慌てて対応に乗り出した。10月には、11月5日の禁輸措置発動に備えてイラン産の取引を中止。サウジアラビア産などに切り替えるなどの対応を迫られた。
なお、予告されていた禁輸措置発動日直前の11月2日、トランプ政権は、イラン産禁輸に伴う原油高・ガソリン高などを受けた自国民・企業の反発を懸念し、8カ国に禁輸の一時的適用除外を認める方針を表明。日本もそこに含まれており、イラン産原油輸入が一部再開できる見通しとなったが、アメリカはイランからの輸入ゼロへ向けて各国へ引き続き圧力をかけていく方針を表明しており、先行きは不透明なままである。
参照:
・毎日新聞「イラン原油禁輸 違反企業に制裁…米方針で「潮目」変化」2018年6月27日【URL】https://bit.ly/2KtAxer
・時事ドットコムニュース「【図解・経済】日本の国別原油輸入比率(2018年11月)」2018年11月3日【URL】https://bit.ly/2t1LGMA
・税関HP「日本の原粗油輸入相手国上位10カ国の推移」【URL】https://bit.ly/2Trp7wj
(※2)このたびレートが1月以来の安値。日本株の足を引っ張っているのは実はトランプ大統領:
2018年6月26日のトランプ米大統領によるイラン産原油の輸入禁止要求を受けて、翌27日の市場では日経平均が反落。「今月1日以来の安値」となる「前日比70円安の2万2271円」の終値をつけた。
中国・欧州に対する「米国の強硬な通商路線が収まらないうちは買い方も動くに動けないといった状況」の中、「トランプ爆弾がいつ落ちてくるか分からない状況では健全な実需も生まれにく」く、「薄商いのなかで方向性を欠く展開」となったのだという。
参照:株探「【市況】<マ-ケット日報> 2018年6月27日」2018年6月27日【URL】https://bit.ly/2WBrKgX
(※3)トランプ「今度ロシアと首脳会談をやる」:
2018年6月8日~9日の主要7カ国首脳会議(シャルルボワ・サミット)で、2014年のクリミア併合を理由にG8から追放していたロシアを呼び戻せとおもむろに主張し始め、各国を驚愕させたトランプ米大統領だったが、6月20日には、翌月に予定されている訪欧(北大西洋条約機構(NATO)首脳会議への出席および英国訪問)にあわせて、プーチン大統領との会談を計画していることが明らかになる。
早くもその1週間後(2018年6月28日)、7月16日に米露首脳がフィンランドの首都ヘルシンキで会談することが両国政府によって発表された。両首脳は国際会議の合間などそれまでに2回顔合わせをしており、電話会談も8回行っていたが、初の正式会談として注目を集めたこの首脳会談、両首脳は米ロ関係および多岐にわたる国家安全保障問題について協議し、世界の様々な課題について協力していくことで合意した。
トランプ大統領は、2016年の米大統領選におけるロシアの介入疑惑について、関与を強く否定するロシアの主張に同意する素振りを示した。こうしたトランプ大統領の、プーチン氏に対する過度に友好的な態度は、欧州諸国の間でアメリカに対する警戒心を増幅させることとなった。
参照:
・ブルームバーグ「トランプ大統領とプーチン大統領が7月に会談準備」2018年6月21日【URL】https://bit.ly/2D5Kw7n
・ロイター「米ロ首脳会談、7月16日にヘルシンキで開催 初の正式会談」2018年6月29日【URL】https://bit.ly/2RxwsZs
・AFP「トランプ氏、選挙介入でプーチン氏追及せず 米ロ首脳会談」2018年7月17日【URL】https://bit.ly/2RwixTu
(※4)ヌーランドのウクライナ分断工作:
ウクライナでは、親ロシア派のヤヌコーヴィッチ大統領(2010年就任)が、2013年11月、EUへの加盟を断念しロシアとの関係強化に踏み切ったことで反政府活動が先鋭化、野党や市民が首都キエフの広場に集結し政府打倒を叫んでいたが、ソチ・オリンピック開催中の2014年2月、デモ隊と治安部隊の武力衝突から内乱状態となる。
政権は倒れヤヌコーヴィッチはロシアに逃亡、親EU暫定政権が発足したが、ロシア系住民の多いクリミアはロシア軍を後ろ盾に住民投票によってクリミア共和国独立を宣言し、ただちにロシア領への編入を決める(米国とEU諸国はこれを承認せず、対ロシア経済制裁を発動)。
東部のドネツク・ルガンスク両州でも同様に親ロシア派がそれぞれ共和国を樹立、独立を認めないウクライナ軍との全面戦争に突入する。同年5月の大統領選挙で親EUのポロシェンコ氏が選出され、以後、ウクライナ軍と親ロシア武装勢力との戦闘は泥沼化の様相を呈していく。
2015年2月、ベラルーシのミンスクで、ポロシェンコ大統領、プーチン大統領に仲介役のメルケル独首相、オランド仏大統領を加えた四者による停戦合意がなされたが、その後も戦闘はやまず、諸外国の思惑もからんで、ウクライナ情勢は先行き不透明なままである。
EU諸国にならった民主化をめざすウクライナへの、強権国家ロシアの不当な介入、という図式のもとに報じられることの多いこの一連の経緯は、米国の周到な工作によって引き起こされたものであることが明らかになっている。
その中心的役割を演じたのが、オバマ政権で国務省次官補の職にあったビクトリア・ヌーランド氏である。
駐在ウクライナ米国大使ジェフリー・パイアット氏との2014年1月28日の電話での会話(そこでは、2月の政変以前の段階で、ウクライナ新政権の人選を両者が協議している)が、YouTube上にリークされており、ヌーランド氏こそがウクライナ政変の首謀者であることは、今や公然の秘密であるといってよい。
これに先立つ2013年12月13日、ヌーランド氏は「1991年のウクライナ独立後、米国は50億ドル以上を投資してきた」と発言している。この「50億ドル」の使途として、反ロシア勢力(ネオナチ集団であるスヴォボダ党を含む)への武器供与が推測されるほか、ウクライナ人86人が2013年9月にポーランドでの4週間の軍事訓練に参加していたこと、米国の資金供与によって同年に開設されたインターネットTVが大量の反政府情報を流していたことが指摘されている。
参考:
・コトバンク「ウクライナ問題」(百科事典マイペディアの解説)【URL】https://bit.ly/2Sw7Qoe
・ちきゅう座「ウクライナ・ゲート」:米国関与の真相〈塩原俊彦:高知大学准教授〉【URL】https://bit.ly/2BjpB0t
(※5)ホルムズ海峡封鎖の危険性:
ホルムズ海峡は、南北をイランとアラビア半島に囲まれた、ペルシア湾とオマーン湾をむすぶ狭い海峡。ペルシア湾岸諸国で産出される石油の輸送路として重要な地点であり、世界の海上輸送原油の3割以上にあたる毎日1700万バレルの石油が通過する。ここでの有事は原油価格の上昇および世界経済の不安定化に直結する。
日本への原油も、総輸入量の約8割、タンカーにして年間3400隻がここを通過するといい、湾岸諸国からの原油輸入に大きく依存する日本経済にとって「頸動脈」とも言うべき要所である。
ホルムズ海峡の一部はオマーンの領海だが、イスラム革命を機に欧米諸国と激しく対立するようになったイランは、ここにイスラム革命防衛隊海軍を配備。オマーンに拠点を置くアメリカ海軍に対抗して軍事演習を行うほか、近年は「テロとの戦い」や「核疑惑」を理由に制裁を加えてくる欧米諸国に、同海峡の封鎖を示唆することで対峙してきた。
2018年5月にアメリカが一方的に「イラン核合意」から離脱し、6月26日に11月までにイラン産原油の輸入を停止するよう各国に求めた際も、イランはホルムズ海峡封鎖を示唆。8月にはイラン革命防衛隊が同海峡一帯で大規模な軍事演習を行い、緊張が一気に高まった。海峡封鎖が実施されることになれば、「中東情勢や世界のエネルギー価格に破滅的な影響を与える恐れがある」として、各方面から懸念の声が上がっている。
参照:
・Wikipedia「ホルムズ海峡」【URL】https://bit.ly/2G7Ysld
・コトバンク「ホルムズ海峡」【URL】https://bit.ly/1Ylsm53
・ロイター「アングル:イランはホルムズ海峡封鎖で石油輸送を寸断できるか」2018年7月12日【URL】https://bit.ly/2DRlhHj
・ニューズウィーク日本版「イランがホルムズ海峡を封鎖したらどうなるか──原油高騰と戦争だ」2018年8月10日【URL】https://bit.ly/2OXHQgZ
(※6)WTI原油先物:
WTI(West Texas Intermediate)とは、アメリカ・テキサス州西部およびニューメキシコ州南東部で産出される原油のこと。生産量は少ないものの、硫黄分の少ない高品質な原油であり、ガソリンや灯油などを多く取り出せるのが特徴という。
原油の取引には、現物を売買する「現物取引」に加えて、先物を売買する「先物取引」(未来の決済日に現時点で決めた価格で現物を受渡しすることを約束する取引。価格の変動を利用したスペキュレーション取引(決済日前に買値よりも高い値段で売り、その差額で利益を上げようとする取引)も盛んである)があり、WTIの原油先物は米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループのニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で取引されている。
ここで形成される価格は、北米における原油の需給を反映していることはもちろん、取引量もファンドの参加者も多いため、アメリカの景気を示す指標として、また、原油価格の国際的指標として、常に世界の注目を集めている。なお、WTIがこうして北米の「マーカー原油」であるように、アジアではドバイで産出される原油=ドバイ原油が「マーカー原油」となっている。
参照:
・株初心者のための株式投資と相場分析方法「先物取引とは」【URL】https://bit.ly/2S6Q6Ay
・知るポルト「2 先物取引 2-3 先物取引によるスペキュレーション」【URL】https://bit.ly/2GmFHty
・株初心者のための株式投資と相場分析方法「WTIとは(原油先物)」【URL】https://bit.ly/2WEP914
・金融情報サイトiFinace「マーケット用語集 項目:WTI」【URL】https://bit.ly/2WIGSce
・金融情報サイトiFinace「マーケット用語集 項目:ドバイ原油」【URL】https://bit.ly/2TqtzeC
(※7)日刊ゲンダイの記事:
このセクションで岩上安身が紹介しているのは、『日刊ゲンダイ』2018年6月29日ネット公開記事「家計負担は2万円とも イラン産原油禁輸トランプ強要の波紋」(【URL】https://bit.ly/2RyuWpI)で報告されている、関係者たちの懸念である。
記事は、2018年6月26日のトランプ米大統領によるイラン産原油の輸入禁止要求が「日本経済に暗い影を落とし始めている」と切り出したのち、次のようなエコノミストのコメントを紹介する。
「〔日本の原油輸入量の5.5%を占めるイラン産原油が〕輸入停止となったら、5%分をどこからか調達しなければなりません。原油は長期契約が主流ですが、急きょ必要になった場合は割高のスポット(現物)取引になりかねません。日本には余計なコストアップ要因となり、さらなる原油高の懸念が出てきます。(第一生命経済研究所主席エコノミストの西濱徹氏)」
実際、早くも「原油高騰を見越し、27日の日経平均は下落。プラスチックなどの原料高が避けられない100円ショップのセリアや、イラン南部の製油所新設に絡む千代田化工建設の株価は一時、大幅安に見舞われた」という。
これで中東情勢が悪化し、イランとイスラエルの軍事衝突に発展してホルムズ海峡が閉鎖される事態になろうものなら、「原油高騰が止まらなくなる恐れがあります。原料高に直面する業界(化学や自動車、運輸など)で業績の下方修正ラッシュが起き、日経平均は2万円を割り込むかもしれません(株式アナリストの黒岩泰氏)」とのこと。
すでに禁輸要請の翌日には、原油先物市場で原油価格は急騰。ガソリン価格も高止まりだといい、記事は結びに「トランプ大統領の言いなりになっていたら、日本経済は崩壊する」と警告しつつ、次のような市場関係者の言葉を読者に伝える。
「今後は、輸入品の値上がりも顕著になるし、家計への影響は計り知れません。今年3月にドバイ原油が60ドル台へ上昇したとき、2人以上世帯の家計負担が年間で1.7万円増えるという試算がありました。現在は、それより15ドル近くも高い水準です。家計負担は2万円以上でしょう。」
(※8)スタグフレーション:
景気停滞を意味する「スタグネーション stagnation」と、「インフレーション inflation」を組み合わせた合成語で、経済活動の停滞と物価の持続的な上昇が同時進行する現象のことである。
戦争や災害といった何らかの外的要因によって、原油などの原料および関連価格が高騰、これが販売価格に反映されることで物価が上昇するにもかかわらず、景気後退によって雇用・賃金が減少、貨幣や預貯金の実質価値まで低下して、人々は極めて厳しい経済状況に直面させられる。
日本では、1973〜74年の第一次石油危機の際に、こうしたスタグフレーションに陥ったことが知られる。
参照:
・Wikipedia「スタグフレーション」【URL】https://bit.ly/2t3Qzo9
・SMBC日興証券「初めてでもわかりやすい用語集>スタグフレーション」【URL】https://bit.ly/2MOhNrT
岩上「ということで、脇道に逸れましたが、『自然利子率』とは何かという話に戻りたいと思います」

▲自然利子率とは https://bit.ly/2HVvhQG
田代「『自然利子率』は、経済学の中では非常に古い概念です。19世紀末の世界的な経済学者、スウェーデンのクヌート・ヴィクセルという人が提唱したもの(※9)で、これもコバートな概念です。つまり、普通の利子率じゃないんですね。頭の中でいろいろ推論しないと出て来ない。
利子率は貯蓄と投資とのバランスで決まります。でもそれが実際にバランスすることはありません。だから、それを調整しようとして、金利は上がったり下がったりするわけですね
では、仮に貯蓄と投資のバランスが取れている時があるとして、その時の利子率というものを想定してみようと。それが『自然利子率』。つまり、金利の調整がいらなくなる、均衡状態の時の利子率、というわけですね。実はそれだけではなく、それにさらに予想物価上昇率を組み込んだ、2段構えの実質概念なんですけどね。
ともかく、この『自然利子率』という概念を用いることでいろんなことが考えられるので、プロ筋ではよく使われるんですが、これは別に、日経新聞なんかに「今日の自然利子率~」みたいにして書いてあるわけではありません。
一方、銀行などに普段書いてあるのが、先にも話題になった『名目利子率』ですが、これが『自然利子率』よりも低い時、投資する方が有利になるわけです。本当ならば、もっと高い金利水準が均衡水準なのに、それよりも低い金利を銀行が提示しているんですから、人々は『今のうちに借りちゃえ』『借りて商売やった方がいい』となるでしょう?
逆に、『名目利子率』が『自然利子率』よりも高い時は、均衡水準より高い利子率を銀行が提示しているのだから、『これは借りたら損するぞ』ということになり、人々は投資を手控える。そうすると景気が悪くなって、デフレーションが発生するというわけですね」
岩上「なるほど。僕からすれば、『自然利子率』の『自然』という言葉が、何かナイーブな響きがあるんですけども」
田代「そうかもしれませんが、経済学で『自然』という時には、大体『長期の安定的均衡状態』という意味なんです。
最近のアメリカの経済学者の教科書では、『自然利子率』を『インフレーションもデフレーションも起こさないような利子率』と定義してあります。ちょうど、巡航速度になっている利子率が『自然利子率』とすると、それよりも私たちが実際に見ている『名目利子率』が低ければ、企業は『あ、これはお得だ』と思ってお金を借りるでしょう」
岩上「『いずれここに均衡するわけだから』ってわけですよね」
田代「今のうちにバーッと借りてビジネスをやれば儲かるというので、景気がよくなる。それでインフレーションが起きる。ということは、黒田総裁があの講演(2018年5月10日の講演)でおっしゃりたいのはつまり、『今の金利水準は、実は自然利子率よりも低いと考えられるから、ちゃんと日銀の意図した通り、景気は着実に良くなってデフレ脱却に向かってるはずだ』ということなんです。
日経新聞も、日銀が『自然利子率』なんてものを言い出したのは、これの値を『実際の実質金利水準と比べたときのズレによって今の金融政策の効果を推し量れるため』と分析しています(※10)。要するに、今実際に見ている金利と自然利子率、そして実質金利。この3つの金利を考えて、金融政策が効いているか効いていないかを議論しましょうよと。話が急にハイブローになったわけです」
岩上「それで『自然利子率の上昇頼みの金融緩和政策』というわけですか」

▲自然利子率の上昇頼みの金融緩和政策 https://bit.ly/2MaaJt6
田代「はい。簡単に言うなら、今日本では、例えば10年国債の長期金利は大体1%近傍で固定されていますが、自然利子率を測定してみたらどんどん上昇している。ということは、なんと、その名目の金利が動いてなくてもちゃんと効果出ているじゃないですか、と。
自然利子率と名目金利のギャップが開けば開くほど、企業は『これはお得だ』、人々は『住宅ローンを今組もう』となるだろう。そうすれば企業は『今事業計画を進めよう』となるから、それで景気がよくなって、インフレになって、デフレ脱却万歳!というわけです。
ということは、逆に言えば、日銀がなにも金融緩和政策をもう追加的に発動しなくても、自然利子率が上がっているんだったら『効果が出ていることになるじゃないか』と。要するに、心配なんですよもう、黒田バズーカ」
岩上「撃たなくてもいいと」
田代「『撃たなくても、ちゃんと効き目は出てるんです』という風に、説得なさりたいんじゃないかと思います。
日経新聞もこう分析しています。『政府の成長戦略や企業の生産性向上に向けた努力で潜在的成長率(日本経済の実力)が上がっていけば、自然利子率も上昇する。その間、日銀が「粘り強く」緩和を続け今の超低金利を維持すれば、経済・物価を刺激できる可能性があるという理屈だ』と(※11)。
でも、『潜在成長率』なんてものにしても、我々が実際に見ているGDPの成長率ではなく、長期的な均衡水準にあるとした場合のその成長率(※12)。『自然成長率』と言ってもいい。理想的状態になった時の日本経済を考えてみて、それが成長軌道に入っているのであれば、自然利子率=長期の安定的な利子率も上昇しているはずだと。
その時に、たとえ名目利子率が一定であっても、『ほら、自然利子率とのギャップが大きくなっているから、これは景気ドライブがかかっていると言えるでしょ』という理屈だろうと、日経新聞は説明しているんです」
岩上「そもそも、この『自然利子率』なり、『潜在成長率』とか『実力』とか言われているものなり、そういうものはどう計測してどこにあるんですか? あると言っているだけじゃないんですか」
田代「それは、日銀はちゃんと、きちんとした計量経済モデルを組んで、そこで観測されるデータを入れて算出していますよ。一応発表もしています」
岩上「そうなんですか」
田代「日銀と内閣府統計局で、全然違う系統のものも出していますよ。そんなに違いはありませんけどね、一応公表しているわけ。ただ、もうこんな話になってくると、そもそも経済学を学んだことのない人は、言葉すら知らないから検索もできず、なかなかヒットしないんですけどね」
(※9)クヌート・ヴィクセルと「自然利子率」:
クヌート・ヴィクセル(1851-1926)はスウェーデンの経済学者。ウプサラ大学で数学と物理学を修めたのち、ウィーン留学を機に社会学・経済学の研究へ。ウプサラ大学准教授、ルンド大学正教授を経て、1916年からは政府の金融問題顧問として活躍した。
多種多様な財の市場全体における価格と需給量の同時決定を数学的手法を用いて定式化した、レオン・ワルラスの「一般均衡理論」、消費財の価格決定を「効用」という観点から説明するオイゲン・フォン・ベーム=バヴェルクらの「効用価値論」、そして、貿易理論において最も基本的な概念となったデイヴィッド・リカードの「比較優位論」の、三つの経済学的観点の統合を試み、「経済学者の中の経済学者」と呼ばれ名声を博した経済学者である。
とりわけ、リカードの「所得再分配」説の研究・発展を通じ、市場自由放任主義者らの楽観性を批判。富は市場に何らかの制約が作用しない限り、富をもともと有する者に還流されるにすぎないとして、国民福祉を向上する観点から政府の介入を主張し、ケインズにいたる道筋をつけた。
だが、ヴィクセルの最大の貢献は、著書『利子と物価』Geldzins und Güterpreise(1898年)で展開された彼の利子理論である。すなわち、貨幣量と物価と利子率という、三つの経済的変数の相互関係について、貨幣量と物価水準とを直接的に結びつける伝統的観点(貨幣の保有は一般に取引の必要によって決定されるため、貨幣保有量と取引額との間には一定の安定的な比率関係が存在する。よって貨幣量と物価との間には利子率の直接的な作用は介在しないとする、「貨幣数量説」)に代わり、「貨幣量の変化は、二つの利子率、即ち、実物的な資本利子率と貨幣利子率との相対的関係を媒介として物価に影響する」というヴィジョンを提唱したのである。
ヴィクセルによれば、「利子を支払って貨幣を借り入れる人は、原則としてそれを保有しようと考えているのではなく、最初の適当な機会に貨幣と財及び用役とを交換し、その生産的使用によって、その価値にひとしい価値だけでなく、また少なくとも彼自身が支払わねばならぬ貸付利子に対応する実物利子率を構成する余剰価値をも獲得することができることをのぞんでいる」。
つまり、貨幣の貸借が行われる「貨幣市場」と商品の売買が行われる「実物的な商品市場」という、二つの市場が明確に区別されるべきである。この観点からすれば、各々の市場で需給を反映しながら形成される二つの利子率も区別されるべきであり、物価はそれらが互いに影響を及ぼし合いながら互いを決定する、その帰結として説明される。
そして、貨幣市場における利子率(「貨幣利子率」)は貨幣資金の需要と供給で決まるが、商品市場のそれについては、ヴィクセルは「実物資本が貨幣の介入なくして実物で貸付られた場合」、つまり貨幣的世界から分離され、「企業者は消費財を物で借入れ、賃銀と地代の形で物で支払う」という世界を想定。その架空世界において、資本に対する需要と供給が均衡する時の利子率(「自然利子率」)というものを考えた。
つまり、「様々な価格が需給を反映して瞬時に調整されるという仮の世界で成立している実質の利子率」(渡辺努氏)であり、ヴィクセルはこれと「貨幣利子率」との相互関係を明らかにすることで、理想的・効率的な資源配分というものを考えようとしたのである。
参照:
・Wikipedia「クヌート・ヴィクセル 」【URL】https://bit.ly/2S3pU59
・Wikipedia(fr.) “ Knut Wicksell” 【URL】https://bit.ly/2GKzzeE
・児玉元平「二つの利子率と物価――ウィクセル貨幣理論研究序説――」『経営と経済』48(2)、長崎大学、1968年【URL】https://bit.ly/2X4rHuf
・独立行政法人経済産業研究所「やさしい経済学 ゼロ金利の解除 第1回 自然利子率(渡辺努)」【URL】https://bit.ly/2GGHxFM
・西淳「〔研究ノート〕自然利子率と貨幣的不均衡――柴田敬のケインズ批判――」『阪南論集 社会科学編』2017年3月、阪南大学【URL】https://bit.ly/2to752A
(※10)日経新聞「(日銀が自然利子率に言及し始めたのは、これが)実際の実質金利水準と比べたときのズレによって今の金融政策の効果を推し量れるため」:
ここで言及されているのは、日本経済新聞2018年5月24日付記事「『自然利子率1%』の日銀論文 金融正常化の布石か」(【URL】https://s.nikkei.com/2DS0401)。本インタビューでもほどなく話題になる、2018年3月14日に英語版のみが発表された日銀のワーキングペーパーNo.18-E-6(岡崎陽介・須藤直『わが国の自然利子率ーDSGEモデルにもとづく水準の計測と決定要因の識別ー』)について、これが日銀が密かに「金融政策の正常化に向けた理論的な準備」を始めていることの証左ではないかとの推測を述べた記事である。
記事は、同ワーキングペーパーが「自然利子率」という「景気や物価に対して中立的な金利水準」について論じており、それが「小幅なマイナスの水準にあった13年を底に上昇し、直近では約1%に達している」との推計を提出していると報告。黒田総裁も5月10日の講演で「自然利子率が上昇すれば金融緩和の効果は増す」と述べていることにも言及したうえで、このように「自然利子率」なるものがおもむろに日銀幹部の口に上り始めたのは、「実際の実質金利水準と比べたときのズレによって今の金融政策の効果を推し量れるため」と指摘している。
すなわち、「名目金利から予想物価上昇率を引いた実質の金利水準が自然利子率よりも高ければ、現在の金融政策は景気に対して引き締め的で、逆に下回っていれば緩和的といえる。実際の実質金利が自然利子率を下回る度合いが大きいほど緩和効果は強まる。(中略)自然利子率が高まっていけば、日銀が追加緩和しなくとも緩和効果を強められる。もっと言えばたとえ日銀が政策金利を多少引き上げても緩和効果を維持できる」からだ、と。
記事は、自然利子率のこうしたロジックが「金融政策の正常化論の根拠にもなり得る」としたうえで、日銀OBの次のような見解を紹介する。「〔日銀が〕水面下で正常化の理論的な準備を進めていたことは明らかだ」(岡三証券の愛宕伸康チーフエコノミスト)。
(※11)日経新聞「政府の成長戦略や企業の生産性向上に向けた努力で潜在的成長率(日本経済の実力)が上がっていけば、自然利子率も上昇する。その間、日銀が「粘り強く」緩和を続け今の超低金利を維持すれば、経済・物価を刺激できる可能性があるという理屈だ」:
先にも引かれた、日銀・黒田東彦総裁の2018年5月10日の講演に関する日本経済新聞の分析記事「『実質金利と自然利子率が重要』黒田総裁発言の真意(編集委員 清水功哉)」(2018年5月14日【URL】https://s.nikkei.com/2UjCI8O )からの引用。
最近の日銀が、2%物価目標の達成時期に関する記述を『展望リポート』から削除するなど「追加緩和と距離を置く」一方で、「現行緩和策を『粘り強く』続ける考えを従来以上に強調するようになっている」。そんな中、黒田総裁が講演で口にした「この先、実質金利と名目金利の違いについて意識しておくことが大事」や「先行き、予想物価上昇率の高まりに応じて実質金利が低下していけば、経済・物価を刺激する効果は一段と強まることになる」という言葉の意図するものについて、記事は次のような解釈を提示する。
「〔自然利子率とは〕経済や物価に対して引き締め的にも緩和的にも作用しない中立的な実質金利を意味する。一般的に、実際の実質金利が自然利子率を下回る度合いが大きいほど緩和効果が強まる。逆にいえば、日銀が一段の政策発動をしなくても、自然利子率が上がっていけば緩和効果が期待できる。総裁が講演で指摘した通り、政府の成長戦略や企業の生産性向上に向けた努力で潜在成長率(日本経済の実力)が上がっていけば、自然利子率も上昇する。その間、日銀が「粘り強く」緩和を続け今の超低金利を維持すれば、経済・物価を刺激できる可能性があるという理屈だ」
(※12)潜在成長率:
「潜在成長率」とは景気循環の影響を除いた経済成長率のこと。企業の設備などの「資本」、労働人口と労働時間から求められる「労働力」、企業の技術進歩や効率化によって伸びる「生産性」という、生産活動に必要な三要素の伸び率を合算して求められる、仮想上の成長率である。
これら生産活動の三要素をフルに利用した場合に、中期的に持続可能なGDP(国内総生産)を年率にしてどのぐらい伸ばすことができるか、その経済全体の供給能力を示す指標として用いられ、成長の「巡航速度」とも呼ばれる。あくまで推計で算出されるため、調査・研究機関によってその値にはバラツキがある。
1980年代に3~4%であった日本の潜在成長率は、バブル崩壊で急降下。2000年代には1%前後となり、近年はさらに0%近くまで落ち込んでいる。
参照:
・コトバンク ASCII.jpデジタル用語辞典の解説「潜在成長率」【URL】https://bit.ly/2GpFVQI
・金融情報サイトiFinance「経済指標用語集>潜在成長率」【URL】https://bit.ly/2GckO4K
・nikkei4946.com「日々進化する経済用語集 経済ナレッジバンク>潜在成長率」【URL】https://bit.ly/2HPSXct
岩上「では、そうやって物価上昇がいつ達成されるのかといえば、もはや期限はないというわけですか? というのも、例の5月10日の講演で、(黒田総裁が)こうおっしゃっています。『デフレマインドは非常に手強く、その転換には時間がかかることも明らかになってきた』。こうした中で、現実の物価上昇が予想物価を押し上げるには、『相応の時間がかかる可能性を念頭に置いておく必要がある』と(※13)。『自然利子率』という長期の均衡、理想的な状態を想定するわけでしょうが、そうなるには相当な時間かかる、というわけですか?」

▲物価上昇達成の期限はない!? https://bit.ly/2VXJ2U8
田代「これはですね、『2年で片付ける』とおっしゃっていたのが、5年経っても片付いてないじゃないですか。人々のデフレマインドが思ったよりも手強くて、『その転換には時間がかかることも明らかになってきた』と。何だか、急に弱気になりましたよね。
で、『こうした中、現実の物価上昇が予想物価を押し上げるには』、つまり、現実の物価上昇が、予想物価=人々が予想している今後の物価上昇を押し上げるには、『相当時間がかかる』。要するに、予想物価上昇率がなかなか上がらない、と。現実の物価上昇が起きてから予想がそれについて行くかといえば、ついて行かない。人々は『物価はあまり上がらないだろう』と考えているんじゃないか、というわけです。
繰り返しますとおり、名目の金利から予想物価上昇率を差し引いた値が実質金利。ということは、予想物価上昇率が大きければ大きいほど、実質金利は下がる。それが下がらないんだ、だからなかなか思ったようにデフレ脱却できないんだ、ということをおっしゃりたいわけです。
日銀は、4月の金融政策決定会合で、それまで2019年度頃としていた目標達成時期を完全に消してしまいましたよね。今までは、これをどんどん先延ばしにしてきましたが、この次も先延ばすとなると、2020年になってしまいます」
岩上「オリンピックだ」
田代「そう、東京オリンピックになってしまうから。あとは、期限が迫ると、マーケットから追加緩和を迫られるわけです。だから、講演でも『期限を念頭に置いて金融政策を行っているわけではない』と。『じゃあ、一体何を念頭に置かれて金融政策をおやりになっているんですか』と、私これ、記者の方々に聞いて欲しかったですね。ともかく、『期限は考えない』ということは、金融政策の終わりがなくなったというに等しい」
岩上「終わりがなくなったけれども、打つ手もないという状態。掲げた結果を出すために、さあ締め切りは先延ばししたぞ、でも手は打てない。なんてことは、国としては生殺しみたいな感じじゃないですか」
田代「さっきも話題になりましたように、庶民が感じている物価上昇率は、すでに十分上昇しているわけですよね。なのに、さらに物価上昇を求めて動くと、大変なことになると思うんですが。
この件に関して、実は、先ほどの岩田先生に替わって副総裁に就任された若田部先生も、国会で『金融政策に制限はない』とおっしゃったんです(※14)。面白いことに、これは中国のメディアが一斉に報じました。タイトルも本文も、「日本の中央銀行の副行長、副総裁若田部昌澄氏、金融政策に制限なし」、と、それだけの不思議な記事。

▲日銀・若田部昌澄副総裁(日銀ホームページより) https://bit.ly/2SrDa7P
要するに、中国のメディアは、若田部副総裁に関してはとにかくこの発言だけに関心があるんです。若田部先生は何者かっていうのも関心ないし、専門分野も関心がない。ただ『金融政策に制限なし』、つまりどこまでもガンガンやると、このことが関心を集めている」
岩上「ガンガンできるっていうのは、ガンガン緩和するってことですか?」
田代「でしょうね。若田部先生がおっしゃっているのは」
岩上「えー!? 何だかもうよくわからないぞ!」
田代「若田部先生も本当は金融が専門ではないんですよね。若田部先生のご専門は経済学説史。スコットランドの何とかレイっていう、普通経済学説史の教科書にも出て来ない、若田部先生以外誰も関心持ってないような、非常にマニアックな経済学者のことを若い時に研究なさって、博士号取ってらっしゃるんですよね。
そこからどうして今の若田部先生に至ったのか、詳しい経緯は知りませんが、そこは岩田先生とそっくりなんですよね。プロパーの研究とは違う仕事をなさっているうちに、日本銀行の副総裁になった」
岩上「これまでそんなことはなかったんでしょうか?日銀副総裁には、本来は専門もやっぱりど真ん中、金融政策について研究してきた人がなるものでしょうか」
田代「そうですね。日銀の決定会合の人事として、学者が入るというのはあります。通常は金融論の大家ですね(※15)。最高裁判事でも、学者枠に入っているのは刑事訴訟法の大家とか、そういう人ですよね(※16)。誰もがその人の教科書を持っているような。若田部先生はそういう方ではありませんが、この度の国会答弁のように、少なくとも政策の援護射撃にはなっていますよね」
岩上「なるほど。でも、ここまでの慢性化した金融緩和のせいで、すでにこんな状況なんですが…」

▲マネタリーベースGDP比で日米比較してみる https://bit.ly/2Wu0BiJ
岩上「これはマネタリーベースGDP比で日米比較したものですが、日銀の異次元金融緩和の規模は、すでにアメリカを遙かに上回る、全く比較にならない超異次元の緩和であることが示されているんですけれども(※17)」
田代「マネタリーベース、これは日銀が完全にコントロールできるマネーの範囲ですが、これがGDPの何%に当たるかを表しています。
アメリカと日本では経済規模が違いますので、マネタリーベースだけ見ても金融緩和の規模がどちらが大きいとか小さいとか言えませんから、GDPの何%に当たるかっていうのを比較してみるわけです。1994年に今使っている統計が始まったのですが、1994年から溯ってみると、日本の方がずーっと、マネタリーベースのGDPに対する割合が高いことがわかりますね。
いわゆる「異次元金融緩和」が始まる前、浜田宏一先生なんかは、『比率じゃなくて、絶対額で見ろ』『そうするとアメリカの方が多いじゃないか』と(※18)。いやいや、先生、それは暴論じゃありませんか、経済学者としてそれはちょっとおかしいんじゃないですかと言いたかったですけどね。ともかく、このように比率で見ても、民主党政権の最後の年度には27%ぐらいだったものが、今80%に達しているわけです」
岩上「これも明石さんの表ですが、見てください。先にも話題になりましたが、アベノミクスによって実質賃金も下がっています。実質賃金が下がったのは非正規雇用が増えたからという意見がありますけれど、これを見ると、それは嘘。名目賃金は微妙に上がっている。物価が上がったから、実質賃金が下降しているんだということがよくわかるんですが」

▲下がったのは実質金利ではなく実質賃金! https://bit.ly/2wk28cw
田代「『実質賃金上昇率』とは、賃金の上昇率を、実際に起きた物価上昇率で割り引いて出した値。それがこう、どんどん下がっているわけですね。それも当然で、その分母の方の消費者物価が上昇しているからです。たしかに名目賃金は少しは増えているのだけど、それよりも速いペースで物価が上昇していますからね。しかもこれは、公式の消費者物価水準で測ってうるわけでしょう? 先程も話題になったように、人々の生活実感としてはもっと上がってるわけだから」
岩上「4.5%とかね」
田代「庶民が考えている実質賃金は、当然、もっと下がっているわけです。そりゃみんな、財布の紐がますます固くなりますよ。非正規雇用がどうのという話ではありません。正規雇用だろうと非正規雇用だろうと、同じ物価に直面しているわけですからね。実質賃金の低下を雇用形態に結びつける人は、『実質』という言葉をすごくナイーブにとらえたんでしょうね」
岩上「なるほど…。こうやっていろんなことを言いながら、黒田総裁はやっぱり、コッソリ金融緩和の出口を探しているのではないでしょうか」
田代「それはもう、黒田総裁は2013年4月4日に『2年で』とキッパリおっしゃったじゃないですか。『逐次投入はしない』『日本軍の二の舞は踏まない』と。しかも、GDPの200%に当たる政府債務なんていうものは『持続不能だ』とも(※19)。ということは、黒田総裁は当然、この異次元金融緩和からどうやって抜け出すかを考えているはずです。でも、それを言ってしまえば政治的な大問題になってしまうから、何もおっしゃらずにやるんでしょうね。
その時に日銀が金利の微調整をするかどうかはわかりませんが、いずれ金利の引き上げを行う際、マーケットが萎縮して株価が下がるとか、そういうことが起こらないようにするために、実質金利とか自然利子率とかなんてものを持ち出したんだと思いますよ。実質金利はこうだから、あるいは、自然利子率はこうだから大丈夫だと」

▲コッソリ金融緩和の出口をさがす黒田総裁 https://bit.ly/2WmlvjV
岩上「訳のわかんないもので、みんなを煙に巻くという話なんだ。やっぱり」
田代「そうですね。普通知られていない、日経新聞の記事にも出て来ないような概念を突然持ち出してきたというのは、やっぱり、金融緩和が上手くいってないということを…。でも、それを公然と認めてしまうことは政治的にできないから、『よく考えるとそうだ』と思わせるように。それから、この話題については国会で質問されないです」
岩上「難しいし、わけわかんないし」
田代「国会でこういうことを質問できる人も非常に限られていますし、そういう点でも上手い手だなと思いますね。結局、あいまいというか、よく理解できない目標を持ってきて、とにかく2%の物価上昇は達成してないけれど『実質的に達成しました』ということにして、出口に向かうつもりかもしれません。いずれにせよ、何か違うモードに入ったのは明らかなんですね」
(※13)黒田総裁「『デフレマインドは非常に手強く、その転換には時間がかかることも明らかになってきた」「現実の物価上昇が予想物価を押し上げるには、相応の時間がかかる可能性を念頭に置いておく必要がある」:
インタビュー中にこれまでもたびたび話題になってきた、2018年5月10日の講演(「最近の金融経済情勢と金融政策運営」【URL】https://bit.ly/2sWc2zb)で、日銀・黒田東彦総裁が語った言葉である。
黒田総裁は物価の動向について、「なお弱めの動きを続けている」ものの「この1年余りの間、消費者物価の前年比は、緩やかながら着実に上昇しており、2%の『物価安定の目標』に向けたモメンタムはしっかりと維持されてい」るとアピール。先行きについても、「マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、消費者物価の前年比は、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくとみてい」るとした。
一方で、リスクについて「どちらかといえば下振れリスクの方が大きいと評価してい」るとしながら、次のように述べた。
「15年に及ぶデフレの経験が人々の意識や行動に深く根付いてしまっていることも考え合わせれば、先行き、現実の物価上昇が予想物価上昇率に波及するまでに、相応の時間がかかる可能性は念頭に置いておく必要があります」
黒田総裁は、講演の結びにも次のように同じことを繰り返し、「2%の物価上昇」の目標期限のことはもはや追及するなと、念を押した。
「本日は、わが国の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営について、お話ししてきました。この5年間でわが国の経済・物価情勢は大きく改善し、現在も、2%の『物価安定の目標』に向けた道筋を着実に歩んでいます。その意味で、『量的・質的金融緩和』政策は、確実に成果をあげています。一方で、人々の間に根付いたデフレマインドは予想以上に手強く、その転換には、時間がかかることも明らかになってきました。人々のマインドが転換するためには、企業収益や雇用・賃金の増加を伴いながら、物価上昇率が緩やかに高まっていくという、現在みられている経済の好循環を持続させる必要があります。日本銀行としては、2%の『物価安定の目標』の実現に向けた総仕上げを果たすべく、今後とも、強力な金融緩和を粘り強く進め、こうした前向きの動きを全力でサポートしていきたいと考えています」
(※14)若田部日銀副総裁、国会で「金融政策に制限はない」:
2018年2月16日、任期満了に伴い日銀副総裁を退任する岩田規久男氏の後任として、若田部昌澄・早稲田大学政治経済学術院教授が政府に指名された。若田部氏は岩田氏とともに、リフレ派の論客として知られる経済学者。年率1~2%という低い物価上昇率を政府・中央銀行が設定し、大規模な金融緩和政策を行うことを唱導してきた人物である。
3月5日に衆議院、翌6日には参議院で所信聴取が行われ、3月16日に賛成多数で承認。3月20日、雨宮正佳氏とともに、日銀副総裁として内閣から任命された。ここで話題になっているのは、3月5日の衆議院議院運営委員会において、所信聴取に臨んだ若田部氏が、議員たちの質問に答えるかたちで述べたことである。
その前週、次期総裁候補に指名されていた黒田東彦・日銀総裁が所信表明を行い、「物価上昇率2%の2019年度ごろの達成」という日銀見通しに関して「当然のことながら、出口というものをそのころ検討し議論しているということは間違いない」と発言していた。
若田部氏に対する質問もこの点に集中したが、若田部氏は、「出口には2%目標の安定的な達成が必要。目標達成以前の出口戦略発動はありえない。達成直後の出口もありえない」「時期尚早な政策変更で、デフレに後戻りするリスクを避けなければいけない」などと述べつつ、早期の緩和縮小観測を強く否定。「現状で日銀は約4割程度を保有しているが、考えようによっては、まだ6割残っているとも言える」「緩和政策として日銀が買える資産は多様」などと発言しつつ、むしろ金融緩和の強化を示唆するとともに、金融緩和の持続について質問した議員に対して「金融政策には限界がない」と言い切ったのである。
長引く大規模金融緩和政策がもたらした、金融市場や民間金融機関などへの深刻な影響については、緩和の副作用は「まだ顕在化していない」と切り捨てた。
参照:
・Wikipedia「若田部昌澄」【URL】https://bit.ly/2HTieCE
・衆議院「会議録>議院運営委員会>第196回国会 議院運営委員会 第10号(平成30年3月5日(月曜日)」【URL】https://bit.ly/2WGdByZ
・ブルームバーグ「黒田日銀総裁:19年度ごろに出口を検討していること間違いない」2018年3月2日【URL】https://bit.ly/2GmiR5g
・ロイター「金融政策に限界ない、時期尚早な調整ならデフレ逆戻り=若田部・日銀副総裁候補」2018年3月5日【URL】https://bit.ly/2GcK0bk
・朝日新聞DIGITAL「若田部・副総裁候補が所信 緩和早期縮小「あり得ない」 日銀、黒田氏の見解と差」2018年3月6日【URL】https://bit.ly/2MShdJD
(※15)日銀副総裁人事の「学者枠」:
日銀副総裁は、総裁の補佐役として日銀の業務を掌理、総裁不在時にはその職務を代行するほか、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会のメンバーとして、金融政策の決定にも参画する重要な役職である。
衆議院および参議院の同意を得て内閣が任命する2名(日本銀行法第23条)で構成されるが、その人選にあたっては、近年、1人は財務省もしくは日銀の出身者が、もう1人は経済学者が選ばれることが定着している。
福井俊彦総裁時代(2003~08年)は財務事務次官の武藤敏郎氏と東大教授の岩田一政氏、白川方明総裁時代(2008~13年)は日銀出身の山口広秀氏と東大教授の西村清彦氏、黒田東彦総裁時代(2013~18年)は日銀出身者の中曽宏氏と学習院大学教授の岩田規久男氏が選ばれた。そして、続投となる現在の黒田東彦総裁のもとで新しく副総裁に就いたのも、日銀理事を務めた雨宮正佳氏と早稲田大学教授の若田部昌澄氏であった。
とはいえ、黒田総裁になってからの「学者枠」の副総裁2人は、それまでとはいささか毛色が違う印象があることは否めない。というのも、福井総裁時代の岩田一政副総裁は、経済企画庁経済研究所主任研究官時代の1981年に「金融政策と銀行行動」でエコノミスト賞を受賞、『現代金融論』(1992年)などの著書もある金融政策に通じた人物。
白川総裁時の西村清彦副総裁は、マクロ経済学とミクロ経済学の接点に関する理論モデルを構築したことで世界的な業績を有する、理論経済学の大家である。
一方、インタビュー中も話題になったように、岩田規久男・前副総裁はもともと都市経済学を専門とした学者。若田部昌澄・現副総裁にいたっては経済学史の専門家である。
参照:
・日本銀行「政策委員会とは何ですか?」【URL】https://bit.ly/2Cx8NCI
・日本銀行「総裁・副総裁・理事の担当」【URL】https://bit.ly/2Gya6Gj
・毎日新聞「日銀 副総裁人事が焦点に 1人は「リフレ派」の方向」2018年2月11日【URL】https://bit.ly/2X6BTCp
・Wikipedia「岩田一政」【URL】https://bit.ly/2EelCnG
・Wikipedia「西村清彦」【URL】https://bit.ly/2BHlVFT
(※16)最高裁判事人事と「学者枠」:
最高裁判所裁判官は、内閣の指名にもとづき天皇が任命する長官1人および内閣が任命して天皇が認証する判事14人の、合計15人で構成される。
「見識が高く法律の素養がある40歳以上の者から任命される」(裁判所法第41条)とされるが、下級裁判所の判事経験者だけでなく検察官や弁護士、行政官、法学者からも任命。1970年代以降はおおむね「裁判官出身6、弁護士出身4、検察官出身2、行政官出身2、法学者1」という構成が定着している。
人選にあたっては、裁判官・弁護士・検察官については最高裁長官から受けた複数候補者から、その他の学識経験者(行政官、法学者など)については内閣官房が選考した候補者から、各々内閣総理大臣の判断を仰いだうえで閣議決定されるとされる。「法学者」枠には、次のように、東大・京大を中心とする国立大学の法学部教授が就任したケースが多い。
1947~1963年 河村又介(九大教授/憲法)
1949~1951年 穂積重遠(東大教授/家族法)
1950~1960年 田中耕太郎(東京帝国大学教授、文部大臣、参議院議員/商法)
1960~1966年 横田喜三郎(東大教授/国際法)
1964~1973年 田中二郎(東大教授/行政法)
1966~1974年 大隅健一郎(京大教授/商法)
1974~1983年 團藤重光(東大教授/刑法)
1980~1989年 伊藤正己(東大教授/英米法、憲法)
1989~1999年 園部逸夫(裁判官、筑波大学教授、成蹊大教授)
1999~2002年 奥田昌道(京大教授/民法)
2002~2010年 藤田宙靖(東北大教授/行政法)
参照:
・Wikipedia「最高裁判所裁判官」【URL】https://bit.ly/2TY27W5
・裁判所HP「最高裁判所判事一覧表」【URL】https://bit.ly/2GMRWzU
(※17)マネタリーベースGDP比で日米比較:
ここで提示されるのは、アベノミクスの嘘を世に告発する著作、『アベノミクスによろしく』(集英社インターナショナル新書、2017年)の中で明石順平氏が示した(図1-3)、また、同氏へのインタビューでIWJも用いた、マネタリーベースの対GDP比の日米比較グラフである。
「マネタリーベース」とは、日銀が発行する紙幣の額と民間銀行が日銀に有する当座預金残高との合計。「異次元金融緩和」政策は、大量の国債を民間銀行から買上げることを通じて「日銀当座預金」を増加させ、企業や個人への貸出しを促進して物価上昇と景気促進を狙う。
かくして日銀は、2013年4月4日にマネタリーベースを年間60兆~70兆円のペースで増加させることを決定。さらに2014年10月31日にはこの増加ペースをさらに加速させ、年間80兆円のペースでこれを増加させることを決定した。
これにより、異次元金融緩和開始前の2013年3月時点で約138兆円だったマネタリーベースは、それから4年後の2017年3月には約445兆円に膨れ上がった。
これが世界的に見てもいかに異常なことかを示すため、明石弁護士は、これが日本のGDPに占める割合を、日本と同様に大規模な金融緩和政策を実施したアメリカのそれと比較する。
アメリカのマネタリーベースは、2008年8月の約8800億ドルから2015年4月の約4兆1700億ドルへと大きく増加した。だが、グラフによれば、2016年におけるそのGDP比率は19%。ピーク時の2014年でも20%台前半である。
ところが、日本のそれは80%。つまり、名目DGPの額を超える勢いにもかかわらず、政府・日銀はまだ「異次元金融緩和」を続けようというのである。
マネタリーベースをいくら増やしても、それが貸出しに回らなければ景気は回復しない。明石氏は、世の中に実際に出回っているお金の総計、すなわち、個人や企業、地方公共団体が保有している現金・預金の総額である「マネーストック」が、「異次元金融緩和」政策下でまったく増えていないことをあわせて示しつつ、アベノミクスの失敗を突きつける。
参照:
・明石順平『アベノミクスによろしく』、第1章「アベノミクスとは何か」・第2章「マネーストックは増えたか」、集英社インターナショナル新書、2017年10月
・IWJ「『アベノミクスの成果』に隠された驚くべき『かさ上げ』トリックを暴く! このままいくと日本経済は破綻!? ~岩上安身による弁護士『アベノミクスによろしく』著者・明石順平氏インタビュー 2017.12.14」【URL】https://bit.ly/2E8xg3k
(※18)浜田宏一先生「マネタリーベースは比率じゃなくて絶対額で見ろ」:
2012年12月から内閣官房参与に就任し、安倍総理の経済政策上のブレーンと目されてきた経済学者の浜田宏一氏は、白川日銀総裁の辞任表明(2013年2月5日)と同時期に行われたインタビューの中で、「日銀は、日本はマネタリーベースのGDP比が他国よりも高く、すでに十分に金融緩和を進めていると強調していますが」との記者の質問に対し、「経済学がわからないのか、国民をだますために言っているのかわからないが、対GDP比での議論はまったく意味がない。そもそも、為替には貨幣量の変化が効く。リーマンショック後、日本が金融緩和で十分な量のおカネを出さず、米国は量を出したので、円が高くなった」と発言した。
さらに、「白川総裁は『欧米でもマネーの「量」に着目した議論はほとんど行われていない』と言っているが」、と水を向けられると、「日銀は自分たちに責任がないようにするために理屈をこねる」「今の状況で量に注目した議論がない、というのは世界の笑いものだと思う」とも述べた。
なお、田代氏は触れていないが、それから3年半余り後の日本経済新聞2016年11月15日掲載のインタビュー以降、浜田氏は、これほど自信満々に述べた理論を撤回し、量的金融緩和に加え財政政策を行うことが必要と唱えはじめ、その「転向」「変節」に多くの評者が驚きを表明している。
参照:
・東洋経済ONLINE 「白川総裁は誠実だったが、国民を苦しめた」浜田宏一 イェール大学名誉教授独占インタビュー(2013/02/08)【URL】https://bit.ly/2DLtWts
・週刊読書人ウェブ「アベノミクス 実に明るい将来へ 浜田内閣参与の”転向”」面一也(立教大学・早稲田大学非常勤講師・政治思想)2017年3月3日【URL】https://bit.ly/2BEZQaU
(※19)黒田総裁「2年で2%」「逐次投入はしない」。そもそも「GDPの200%に当たる政府債務など持続不能」:
2013年3月20日に第31代日銀総裁に就任した黒田東彦氏は、同28日に初めて参議院財政金融委員会に臨み、経済の動向と日銀の今後の金融政策運営(異例の大規模金融緩和政策)について報告を行った。その際、民主党の大塚耕平議員が、財政赤字の対GDP比を表すグラフを示しつつ「日本の財政状況は財政健全化や債務圧縮の必要な局面だという認識が総裁にはあるのか」と質問。黒田総裁は次のように答えつつ、渋々大規模金融緩和の危険性を認めている。
「私も、現在の政府債務残高の名目GDP比が200%を超えるという極めて高いというか異常な状況は持続不能であるというふうに考えております。ただ、これまでのところ国債市場は安定していて、財政運営に対する市場の信認は何とか維持されているように思いますけれども、しかし、財政に対する、あるいは国債に対する市場の信認をしっかり確保していくということが極めて重要でありまして、政府におかれて中長期的な財政健全化の道筋を明確にして、その実現に向けた財政構造改革を着実に進めていくということを強く期待するだけでなくて、まさにそれがないと財政あるいは国債に対する信認が失われて、国債市場が不安定になり、あるいは国債金利が高騰するということになりますと、経済政策全体として、金融政策も含めて非常に良くない影響を受けるということになると思いますので、この点は委員御指摘のとおりでございます」
この国会答弁の1週間後の4月4日、日銀は金融政策決定会合を開き、「消費者物価の前年比上昇率2%の『物価安定の目標』を、2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現するため、『量的・質的金融緩和』を導入する」ことを決定。会合後の記者会見で日銀決定の概要を報告した黒田総裁は、これが「これまでとは次元の違う金融緩和」であること、そして、「戦力の逐次投入をせずに、現時点で必要な政策を全て講じた」と述べ、短期決戦の構えを示したのである。
参照:
・国会会議録検索システム「第183回国会 財政金融委員会 第5号 平成二十五年三月二十八日(木曜日)午前十時開会」【URL】https://bit.ly/2DMP0zV
・ロイター「戦力の逐次投入はしない、現時点で必要な政策は全て講じた=黒田日銀総裁」2013年4月4日【URL】https://bit.ly/2X488lO
・日本銀行「総裁記者会見要旨」――2013年4月4日(木)午後3時半から約60分」2013年4月5日【URL】https://bit.ly/2SQNGFX
岩上「そこへ、なぜか英文のみで発表された日銀のワーキングペーパーシリーズの論文、『No.18-E-6』(※20)。タイトルが『日本の自然利子率』。英文アップされたのが3月14日。『DSGEモデルにもとづく自然利子率の推計』云々という副題もついています。冒頭は『自然利子率は、経済活動と価格が加速的でも減速的でもないときの実質利子率である』、と。先ほどご説明いただいた『自然利子率』の定義ですね。長期にわたって均衡していった状態、理想的な均衡状態の利子率、と(※21)。
続いて、『自然利子率の展開の綿密な観測は金融政策の実行にとって緊要であって、金融緩和は、実質利子率を自然利子率よりも低くすることで達成される、というのはほぼ例外がない』(※22)。う~ん、難しい」

▲なぜか英文のみで発表された日銀のワーキングペーパーシリーズの論文No.18-E-6「自然利子率」論文 https://bit.ly/2HD2Fga
田代「『自然利子率』はインフレーションもデフレーションも起こさない実質利子率ですが、これがどのように推移しているかは生のデータでは出てこないんです。日銀といえども、何か仕掛けを使って、綿密に観測していかなくてはならない。そして、これが金融政策の実行にとって緊要だ、と。『え、そんなこと初めて聞いたけど!?』って感じですよね。
そして、『金融緩和は、実質金利を自然利子率よりも低くすることで達成される』云々のところですが、簡単に言えば、『実質金利が自然利子率よりも低くなっていれば、金融緩和が達成されたことになるんだ』『名目の物価上昇率が2%に達しようと達しまいと、もはやそういうことは関係なくて、実質金利が自然利子率を下回ればそれでいいじゃないか』、というようなことをおっしゃってるんだろうと思いますね。
ゴールはまだ向こうにあるのに、『ゴールはもう通り過ぎてますよ、みなさん、わからないんですか?』『見えないかもしれないけど、わかっている人には見えてる実質金利が、これまたわかっている人には見えている実質利子率である自然利子率を下回っているんだから、実は金融緩和の効果はすでに十分出ているんですよ』『だからもうこれ以上の金融緩和は必要ないんです』、つまり『やめましょう』。と、まあ、こういうことなんでしょう」
岩上「何か騙されてるような気がするんだけどな…。で、英語で書いてあるわけじゃないですか。普通の人は読めないわけです。それを『重要なもの』だと」
田代「繰り返しますように、『自然利子率』は生で見られない。見るためには仕掛けが必要なんです。計量経済モデルを組んで、そこにワーッといろんなデータを入れて、大型計算機をフル稼働して回してみて、ようやく出て来るという」
岩上「しかしですね、ここまで人口動態の話もしてきましたが、『自然利子率』が長期のことがらに関係するとなれば、外部の何をどこまで、変数としてインプットするものだろうかと思うんです。さっき話題になった、地政学的なリスクまで入れていったら、もうきりのないことになっていくかもしれませんが。
平時における経済成長が自然成長率だとして、今の日本でそれが上がるかといえば、僕らにはやっぱり、『いやいや、これ、縮小していくしかないだろう』というふうにしか思えないわけです。しかも、今の財政のことを考えると、とてもじゃないけれどあまりいい未来は描けない。
また、人口動態の長期予測は、ある程度普通の言葉がわかる人にはわかりますから、人々が『ま、先々は見通し暗いよな』とか、若い人たちであれば『俺達年金貰えないよな』とか思って、暗い気持ちになりますよね? そういうマインドみたいなものが、その計量経済モデルの中になぜ組み込めないのか、僕には謎なんですけれども」
田代「端的に言えば、モデルというものはなるべく単純な方がいいんです。計算しやすいですから。人々のマインドとかを反映するような、リアルなものにしていくと、モデルはどんどん複雑になっていく。複雑になっていくと、結局、よくわからない結果が出てきます。
本当ならば、経済の状態と人口の動態とは密接な関係があります。でも、これを組み込む経済モデルはまだ未完成なんですよ。今のところ、人口動態は基本的には外側にあるもので、一方的に経済に影響するものとして扱われています。そうしなければ、人口動態に影響を受けた経済が今度は人口動態に作用して、また人口動態が変わっていって…。
こうしたことまで入れていくと、経済モデルは巨大かつ複雑になる。複雑になればなるほど、結論はものすごい幅を持って出てくるから、あまり使い途がないんです。とりあえず、この論文では『DSGEモデル』を使った、それも、一応その最新鋭のモデル構成にした、というわけです。
『DSGEモデル(ダイナミック・スタキャスティック・ジェネラル・イクォリブリアム・モデル)』、日本語にすると『動学的確率的一般均衡モデル』(※23)となりますが、これは、経済学の世界では今のところ主流派の計量経済のモデル。そこに実際に起きてるデータを入れて、自然利子率を推計してみたというわけです。
もちろん、それは仮定にすごく影響されます。本来ならば、仮定に応じて出てくる違った結論を全部出すべきなんですが、そんなことをすれば膨大な表になってしまうんですよ。だから、いちおうこうこうこういう仮定を置きました、だからこうなります、という書き方をするわけです。この論文は、それが出たという話。
繰り返しますが、これは仮定を変えれば値も変わります。あとは、仮定の妥当性を議論しなければならないということになりますが、重要なのはこの論文の著者。日銀ウオッチャーの人に聞くと、調査部ではなく、企画局の人だというんです(※24)」
岩上「ヨウスケ・オカザキ、ナオ・スドウとありますね」

▲「ヨウスケ・オカザキ、ナオ・スドウ」 https://bit.ly/2HEvWHt
田代「企画局ということは、日銀が組織として書いたということです。会社でもそうじゃないですか。会社でも、調査部が書いたものは調査部の仕事として見られるけれど、企画部が出したレポートは、その会社の意思ですよね。この論文も、日銀が組織として出してきたってことなんです。だから日本語版も同時に出してほしいと思ったんですよ。英語で読むのは大変ですからね」
(※20)日銀ワーキングペーパー「No.18-E-6」:
日銀は政策や業務の企画・運営のかたわら、内外の金融経済情勢等に関する学術的な研究も行い、その成果を各種論文・レポートの形でホームページ上に随時公表している。「日本銀行ワーキングペーパーシリーズ」はそのひとつ、「日本銀行職員および外部研究者の研究成果をとりまとめ」、「内外の研究機関、研究者等有識者の方々から幅広くコメントを頂戴することを意図し」て発表される論文シリーズである。
これから話題になるのは、「No.18-E-6」の識別番号で示される、2018年3月14日公表の英語論文 “Natural Rate Interest in Japan —Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model—“ (2018年6月13日に日本語版「No.18-J-3」『わが国の自然利子率ーDSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別 (岡崎陽介・須藤直)』として公表)。1990年代前半にゼロ近傍まで急落、リーマンショック時にゼロを下回り、2013年に底値となった日本の自然利子率は、その後「上昇基調」となり、現在約1%ほどまで上昇しているという推計を提出する。一般に、金融緩和は、実質金利を自然利子率よりも低位にすることにより達成されることから、日銀は「2%のインフレ率」目標未達成の、また追加緩和を行わないことの、さらには政策金利を引き上げることの言い訳に代えようというのではないか――当時の実質金利はマイナス0.5%前後であった――との憶測を呼んだ。
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan —Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model—“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率ーーDSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別ーー」岡崎陽介・須藤直、2018年6月【URL】https://bit.ly/2MPASu1
・日本経済新聞「『自然利子率1%』の日銀論文 金融正常化の布石か」2018年5月24日【URL】https://s.nikkei.com/2DS0401)
・日本銀行「日本銀行ではどのような論文・レポート類を公表していますか?」【URL】https://bit.ly/2EecMoX
(※21)自然利子率:
需要と供給が均衡した状況というものを想定したとき、そこに成立すると考えられる「景気を加速も減速もさせない中立的な実質金利」のこと。スウェーデンの経済学者クヌート・ビクセルが著書『利子と物価』(1898年)で提唱した概念で、「均衡実質金利」「均衡利子率」などとも呼ばれる。
需要と供給は刻々と変化するため直接的には観察できず、1997年の「ホードリック=プレスコットフィルター」や2003年の「ローバック=ウィリアムズモデル」、動学的確率一般均衡(DSGE)モデル(後註※4参照)などの手法を用いて計測される。これが実際に観察できる「実質金利」水準を上回っているなら、金融政策は景気や物価に対して引き締め的(抑制的)に、下回っているなら緩和的(刺激的)に作用しているとされ、中央銀行が金融政策を運営する上での重要なベンチマークとなっている。
参照:
・ウォール・ストリート・ジャーナル日本版「【WSJで学ぶ経済英語】第238回 自然利子率(竹内猛)」2016年7月19日【URL】https://on.wsj.com/2OdSYGs
・新谷元嗣・宮尾龍蔵「均衡利子率の推計手法および推定結果について」(NIRAオピニオンペーパーno.38「金融政策はジレンマを乗り越えられるかーー均衡利子率の推計から示唆されること」バックグランド・ペーパー)NIRA総合研究開発機構、2018年5月30日【URL】https://bit.ly/2Ctk1sK
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.15-J-4「均衡イールドカーブの概念と計測(今久保圭・小島治樹・中島上智)」2015年6月【URL】https://bit.ly/2CjJxRl
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.03-J-5「自然利子率について:理論整理と計測(小田信之・村永淳)」2003年10月【URL】https://bit.ly/2XUOBnq
・Federal Reserve Bank of San Francisco “Economic Letter : The Natural Rate of Interest (John C. Williams) “ October 31, 2003【URL】https://bit.ly/2J5C9gK
(※22)英語版の原文(および6月13日発表の日本語版)における該当箇所は次の通り:
“The natural rate of interest (hereafter the natural rate) is the real interest rate at which economic activity and prices neither accelerate nor decelerate. Close monitoring of developments in the natural rate is essential for monetary policy implementation, since, with almost no exceptions, monetary easing is attained by driving the real interest rate below the natural rate.” (p.1)
(「自然利子率とは、経済・物価に対して引締め的にも緩和的にも作用しない実質金利のことである。一般に、金融緩和は、実質金利を自然利子率よりも低位にすることにより達成されることから、自然利子率の動向を把握することは、金融政策を運営するうえで重要であると考えられる」(p.1))
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan —Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model—“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率ーーDSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別(岡崎陽介・須藤直)」2018年6月【URL】https://bit.ly/2MPASu1
(※23)DSGEモデル(ダイナミック・スタキャスティック・ジェネラル・イクォリブリアム・モデル、動学的確率的一般均衡モデル):
経済モデルとは、マクロ経済学において、様々な家計と企業、そして政府が複雑に関係しながら経済活動を行っている現実の経済の構造を単純化し、一連の数式で表したもの。GDPや物価水準といった、重要な経済変数が決定されるメカニズムを明らかにし、経済予測や経済計画に役立てるために作られる。
1970年代までケインズ型の計量経済モデル(経済の動きを理論的に説明する方程式体系に実際の経済データを当てはめ、その係数値を統計学的に推定するモデル)が一般的だったが、アメリカの経済学者ロバート・ルーカスによる1976年の批判を機に、(1)資源および予算の制約 (2)人々は今日の消費と将来の消費のどちらを優先するかという家計の選好および企業の目的関数 (3)家計も企業も将来に関する利用可能な情報を基に最善の行動を取るという「合理的期待」 (4)経済的ショック (5)経済全体を記述 の諸要素を取り入れた、新たな経済モデルの研究が進行。その結果出来上がったモデルが「DSGEモデル」――Dynamic=「動学的」すなわち家計や企業の「合理的期待」の導入、Stochastic=「確率的」すなわちショックの導入、General=「一般的」すなわち経済全体を記述、Equilibrium=「均衡」すなわち家計と企業への制約および目的関数の導入――であり、現在ではこれの使用が主流となっている。
参照:
・ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説「経済モデル」【URL】https://bit.ly/2GXn6Vg
・二神孝一・堀敬一『マクロ経済学 第2版』「第1章 マクロ経済学の考え方」有斐閣、2017年
・日本経済新聞デジタルメディア『NEEDS日本経済モデル 40周年記念冊子』「第3章 マクロ経済モデルの現状(渡部肇)」【URL】https://bit.ly/2TbwtXD
(※24)日銀・企画局:
「企画局」は、日本銀行組織規定第12条に規定される15の本店局室研究所のひとつ。通貨及び金融の調節に関する基本的事項の企画及び立案、および、通貨及び金融の調節に密接な関連を有する基本的事項の企画及び立案を司る(同規定第15条)。
政策決定を行う「政策委員会」とも密接な関係を有し、「総裁や副総裁のブレーン的役割」を担う「日銀の中でも中枢といえる存在」である。
この「企画局」への配属は日銀の中でもエリートコースであるといい、実際、現副総裁の雨宮正佳・前日銀理事も現日銀理事の内田真一・前名古屋支店長も、ともに企画課の出身者。
「No.18-E-6」論文も、かくなる「企画課」所属の人物が執筆したペーパーとあれば、(「本稿に示されている内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行および企画局の公式見解を示すものではない」との断りはあるものの)日銀執行部の意志そのものとして、市場関係者の注目を集めるのは当然のことと言える。
参照:
・日本銀行「日本銀行組織機規定」【URL】https://bit.ly/2NkhCVJ
・日本銀行「本店局室研究所体制表」【URL】https://bit.ly/2XgTIik
岩上「IWJとしてはですね、6月7日に日銀にお尋ねしたんです。この論文の日本語版がなぜ出ていないんですか? と。電話に出た担当者は、ウェブサイトが複雑な作りになっていることは認めた。でも、これを取材した記者によれば、英語の報告書が先に出た論文は、日本語版がいつ出るのか告知すらされていなくても当然、と考えているかのようだったというんですよ。『なんかそれ、問題あるんですか?』みたいな感じで。

▲欠番ではなく実は日銀の英語版サイトにのみ存在 https://bit.ly/2K7jEZE
さらにはその担当者から、『英語で出された報告書を日本語でお読みになりたいのですか?』と聞かれまして。すごくバカにされた感があってですね、『英語で出されてるんですけど、お気付きになってますでしょ。あれ、日本語で読みたいんですか、おたく?』みたいな。たしかに英文サイトでは簡単にたどり着けるんですよね。

▲「英語で出された報告書を日本語でお読みになりたいのですか?」 https://bit.ly/2WuW67q
でも、日本語論文サイトにはまともな告知もなく、複数のクリックによってようやくたどり着くという仕様になっている。つまり、一般の日本人閲覧者を想定していないような作りなんです」
田代「普段からやってないと、たどり着くのは難しいでしょうね」
岩上「これってどういうことなんでしょうか。僕はエコノミストの人たちにも聞いたんですよ、でも、みんな『ちょっとわからない』って。担当者は担当者で、『ウェブサイトの仕様なので仕方ありません』とにべもない。それどころか、『え、読みたいんですか?』なんて…。これって一体どういうこと? もしかしてごまかしたいの? って、やっぱり僕らは疑うじゃないですか。
そのウェブサイトがどれだけ奇妙な仕様になっているかといいますと、日本語版に『ワーキングペーパー・日銀レビュー・日銀リサーチ』という検索コーナーがあって、そこにある『English』ボタンをクリックすると英語画面に移る。
そこでは、日本語版に掲載されていた報告書の英語版のみが出てくるんですが、日本語版のない論文は、画面下の『List of Bank of Japan Working Paper Series』と書いてあるリンクから行けと。そこから入ってようやく、英語版しかない『No.18-E-6』とか『E-8』とかに到達できるという。

▲奇妙なウェブサイトの仕様 https://bit.ly/2VXSzdS
ちなみに『E-8』論文も問題なんですがね、これによれば、2%の物価上昇は出ていないが、石油価格が上がれば達成できる、という内容みたいですよ(※25)。つまり、さっきのイランの話(※26)が本格化したら、それはもう極端な上がり方するでしょうけど、ここまでの議論が全部吹っ飛んじゃうと。『狂乱物価だ、やったー!』って、この人たち、喜ぶんでしょうよ。で、これも英語版しかないという。
それはともかく、『No.18-E-6』にはそうやってものすごく苦労させられたわけですが、ちょっと先回りして申し上げておきますと、IWJが6月7日に日銀に直撃取材した後、日銀は英語論文の日本語版を慌てて発表しています。
うちだけのせいじゃないかもしれないけれど、『No.18-E-6』のナンバーを持つこの『自然利子率』論文と、それから『No.18-E-1』という『実質金利』に関する論文の、この二つの論文について、これらに日本語版がないのは透明性の観点からおかしいじゃないかとIWJは日銀に問いただしたわけです。そうしたら、一週間後の6月13日、その二論文の日本語版が共に日銀のサイトに出た。いやはや、電突してみるもんだなあと。

▲IWJによる直接取材のあと、日銀は英語論文の日本語版を慌てて発表!だが…. https://bit.ly/2Wm0oOE
二つの論文は、両方とも『スドウ・ナオ』さんがお書きになっています。論文のリストを『ふーん、どれも面白そうだね』と言いながらバーッと見ていて、『No.18-E-6』と同じ著者の『No.18-E-1』に目が留まったんです。タイトルは『過去50年と今後50年の高齢化と実質金利 世代重複モデルによる語り』(※27)。ちょっと待てよ、これ、すっごく大事なんじゃないの、と。
経済モデルをできるだけ簡潔なものにするために、我々が生きている現実の色々な要因を省くというお話が先ほどありましたが、僕らとしては、そんなものを実験室の中で作ったところで、現実に意味のないものになるんじゃないかと思うわけです。でもこの『No.18-E-1』論文は、タイトルからして『これまでの50年とこれからの50年の高齢化についての実質金利』なんていうわけですから、それこそ、外部から作用するものとしてモデルから排除されてきた重要な現実の要素を、ちゃんと取り込んだ話になっているんじゃないかと思いまして」
田代「これはですね、たしかに同じ「須藤直」さんという方がお書きになられていますが、二つの論文では使っているモデルが違うんです。自然利子率を推計した方の『No.18-E-6』論文は、使ったモデルはDSGEモデル。つまり動学的確率的一般均衡モデルです。
これに対し、実質金利を論じる『No.18-E-1』論文の方は、オーバー・ラッピング・ジェネレーションズ・モデル、つまり世代重複モデル(※28)。これはどういうものかといいますと、さっきも申し上げたとおり、実際の経済を考えてみると、人口と一口に言っても同じ年齢じゃないわけです。若い人もいれば、中年の人もいる、高齢者もいると。それは、寿命が違うから少しずつずれているわけすが、ある断面で見ると、各世代はみんな揃ってますよね。世代が重複=オーバーラップしている。そのことに注目したモデルです。
若い世代は働いて貯蓄する。年取った世代は既に貯蓄したものを取り崩していく。こういうふうに、年齢に応じて行動が違いますよね。それが同時に起きていることで、今の金利、実質金利というものが決まってくる、という考え方です。
DSGEモデルで測定した『自然利子率』と、この世代重複モデルで測定した『実質金利』を見比べて、どっちが上か下かを議論することに、果たしてどういう意味があるのかと問われればそうかもしれません。同じモデルを用いたときですら、その前提によって結果が違う。ましてやこれは、そもそもモデルが違うんだから、同じ前提を置いたとしても結果が違うかもしれない。
でも、これは結局、今できることをやったわけです。DSGEを使わないと自然利子率は出てこないし、実質金利を推計するには世代重複モデルを使わざるを得ない。で、とりあえず出してみたというわけですね」
岩上「ともかく、二つの論文は両方とも、日本語版を出していなかったんですよ。『隠していた』という言い方が正しいかどうかわかりません。でも、我々が言うまでアップしてなかったんです。『え?読みたいんですか?』とか、そんな言い方までされて。じゃ、読みたい人のためにアップしましょうか、ということなんでしょう、一週間後に出してきた」
田代「たしかに不思議ですよね。英語版の発表は『No.18-E-1』が1月31日、『No.18-E-6』が3月14日。発表日はこんなにずれてるのに、日本語版がアップロードされた日はいっしょなんて。おかしいですね」
岩上「いちゃもんつけた日が同じだからじゃないか、という気がするんですがね」
田代「素朴な推論をすると、同じ日に尋ねられて、そこで会議をやって、『じゃあ日本語版をアップしましょうか』となった、という感じはしますね」
岩上「そう思わざるを得ませんよ」
(※25)「No.18-E-8」論文:
2018年4月6日に公開された「日本銀行ワーキングペーパーシリーズ」の英語論文、識別番号No.18-E-8の、“The Anchoring of Inflation Expectations in Japan: A Learning-Approach Perspective (Yoshihiko Hogen, Ryoichi Okuma)”(日本語版はNo.18-J-1「日本におけるインフレ予想のアンカー:ラーニング・アプローチ(法眼吉彦・大熊亮一)」)のこと。
「過去半世紀の日本における長期インフレ予想とその2%へのアンカー(=定着)度合いを同時推計」したうえで、「2%へのアンカーを阻む要因を検証」するという内容になっている。
論文によれば、2013年4月の「異次元金融緩和」導入以降、日本のインフレ予想の動きは「2013年4月から2014年夏までの『上昇フェーズ』、2014年夏から2015年夏までの『横ばいフェーズ』、2015年夏以降の『弱含みフェーズ』」の三つの局面が観察される。そして、その第三のフェーズが今なお続いており、2013年1月に導入された2%の「物価安定の目標」は「途半ば」にあるが、これは「2014 年夏から2016年夏にかけての原油価格の下落や海外経済の景気減速」が、2013年4月開始の「異次元金融緩和」による長期インフレ予想の押し上げ効果を減殺したためであるという。
だが、この観点からすれば、イラン潰しで手を結ぶイスラエルとトランプ大統領による中東情勢の不安定化――1973年のオイルショックとそれに続くスタグフレーションの悪夢を予感させる――は、歓迎されるべきものということになろう。
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-8 “The Anchoring of Inflation Expectations in Japan: A Learning-Approach Perspective”, Yoshihiko Hogen and Ryoichi Okuma, April 2018 【URL】https://bit.ly/2IyzZHM
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-1「日本におけるインフレ予想のアンカー:ラーニング・アプローチ(法眼吉彦・大熊亮一)」2018年4月【URL】https://bit.ly/2H1kJ3t
(※26)先ほどのイランの話:
2018年5月~6月のアメリカによる一方的な「イラン核合意」からの離脱およびイラン産原油の輸入禁止要求によって懸念される、中東情勢の悪化と原油価格高騰のこと。これが日本経済に及ぼすであろう深刻な影響について、先に『日刊ゲンダイ』2018年6月29日公開記事「家計負担は2万円とも イラン産原油禁輸トランプ強要の波紋」(【URL】https://bit.ly/2RyuWpI)を紹介しつつ話題になった。その概要をここに再掲する。
「(日本の原油輸入量の5.5%を占めるイラン産原油が)輸入停止となったら、5%分をどこからか調達しなければなりません。原油は長期契約が主流ですが、急きょ必要になった場合は割高のスポット(現物)取引になりかねません。日本には余計なコストアップ要因となり、さらなる原油高の懸念が出てきます。(第一生命経済研究所主席エコノミストの西濱徹氏)」
実際、早くも「原油高騰を見越し、27日の日経平均は下落。プラスチックなどの原料高が避けられない100円ショップのセリアや、イラン南部の製油所新設に絡む千代田化工建設の株価は一時、大幅安に見舞われた」という。
これで中東情勢が悪化し、イランとイスラエルの軍事衝突に発展してホルムズ海峡が閉鎖される事態になろうものなら、「原油高騰が止まらなくなる恐れがあります。原料高に直面する業界(化学や自動車、運輸など)で業績の下方修正ラッシュが起き、日経平均は2万円を割り込むかもしれません(株式アナリストの黒岩泰氏)」とのこと。
すでに禁輸要請の翌日には、原油先物市場で原油価格は急騰。ガソリン価格も高止まりだといい、記事は結びに「トランプ大統領の言いなりになっていたら、日本経済は崩壊する」と警告しつつ、次のような市場関係者の言葉を読者に伝える。
「今後は、輸入品の値上がりも顕著になるし、家計への影響は計り知れません。今年3月にドバイ原油が60ドル台へ上昇したとき、2人以上世帯の家計負担が年間で1.7万円増えるという試算がありました。現在は、それより15ドル近くも高い水準です。家計負担は2万円以上でしょう。」
(※27)「No.18-E-1」論文:
「日本銀行ワーキングペーパーシリーズ」No.18-E-1 “Population Aging and the Real Interest Rate in the Last and Next 50 Years — A tale told by an Overlapping Generations Model —(Nao Sudo and Yasutaka Takizuka)” (2018年1月13日公開。日本語版は2018年6月13日公開No.18-J-4「人口動態の変化と実質金利の趨勢的な関係――世代重複モデルに基づく分析――(須藤直・瀧塚寧孝)」)のこと。
「80世代からなる家計部門、社会保障制度部門、政府部門などを詳細にモデルに組み込んだ世代重複モデル」(後註※9参照)を用いてシミュレーションを行い、少子高齢化が日本の実質金利に及ぼす影響を計測。「TFP成長率など他の外的環境が足許の水準から大きく逸脱しないとの想定のもとでは、人口動態要因そのものが基点となって、実質金利を、足許の水準から大幅に低下させたり、上昇させたりすることはないと考えられる」との分析結果を提出する。
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-1 “Population Aging and the Real Interest Rate in the Last and Next 50 Years — A tale told by an Overlapping Generations Model —“, Nao Sudo and Yasutaka Takizuka, January 2018【URL】 https://bit.ly/2Xe9Ukm
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-4「人口動態の変化と実質金利の趨勢的jな関係ーー世代重複モデルに基づく分析ーー」須藤直・瀧塚寧孝、2018年6月【URL(pdf)】https://bit.ly/2T8BMaz
(※28)オーバー・ラッピング・ジェネレーションズ・モデル(世代重複モデル):
均質で単一の「家計」を想定する経済モデルに対し、ライフサイクルステージが異なる複数の家計を組み込んで作る経済モデル。
最も単純なものは、各時点において労働力の提供を通じて賃金を得る「若年期」と若年期の貯蓄をもとに消費活動を行う「老年期」という二世代が同時に存在すると想定する。社会構成員の経済行動をある程度現実的に描写する必要性から、Allais(1947)、Samuelson(1958) らがまず静学的モデルとして開発。成長モデルを組み入れたDiamond(1965)の動学的モデルを経て、80年代のAuerbach and Kotlikoff以来、遺産や不確実性、人的資本、所得階層、投資関数、政府の予算制約、社会保障制度、海外部門といった様々な要素を導入した、何十世代にもわたる大規模なモデルが構築されるようになった。
均衡がユニークに決定されず、税率変更などの分析では大きな問題が生じるといった問題点はあるものの、いっそう現実に近い状況を再現した経済モデルとして、人口構成の変化と資源配分、政府の財政の将来計画などの分析に重用されている。
参照:
・国立社会保障・人口問題研究所編『社会保障の計量モデル分析ーーこれからの年金・医療・介護』「第I部 社会保障分野における計量モデル分析の歴史と今日的役割」「第2章 OJGモデルによる社会保障の分析(佐藤格)」東京大学出版会、2010年.
・阿部修人「2015年度上級マクロ経済学講義ノート:世代重複モデル」一橋大学経済研究所、平成27年6月13日【URL】https://bit.ly/2JfmTyp
・川﨑研一・島澤諭「一般均衡型世代重複シミュレーションモデルの開発ーこれまでの研究事例と今後の発展課題ー」ESRI Discussion Paper Series No.73、内閣府経済社会総合研究所2003年10月【URL】https://bit.ly/2VUS0p3
岩上「それでは、この『自然利子率』論文の内容へと話を進めたいと思います。これを読み解くのに、本当に苦労したんですよ。日本語版は出してくれないだろうと思っていましたからね、うちのスタッフや外注さんとか、英語ができる人にわざわざ頼んで、英語版から訳出したんです。コストをかけて、ひいひい言いながら」
田代「ご苦労様でした。だから日本語版出すのは重要なんですよ。読者の圧倒的多数は日本人なんだから」
岩上「論文には次のように書かれていました」

▲「自然利子率」論文の内容 https://bit.ly/2YPxHao
「『自然利子率は計測できないので、推計する必要がある。自然利子率は時期によってさまざまであるが、企業や家計の貯蓄・投資の決定に影響を与える経済環境の変化を反映している』『本稿は以下のような研究上の貢献がある。(中略)我々が知る限り、本稿は、財政摩擦とともに中規模DSGEモデルを用いて日本の自然利子率を推計した唯一の最近のペーパーである。』(※29)」
田代「著者のおっしゃる通り、自然利子率は直接的には計測できない。オーバートではなくコバートだから、推計しなければならないわけです。そうやって計測された自然利子率と、実際に銀行が提示している今の金利を比べて、企業は新しく工場を作るか、新しい店舗をするか、あるいは逆に工場を畳むか、店舗を減らすかと考えるし、家計の方は、新しく住宅ローンを組むか、やっぱり止めて賃貸でやっていくかということを考えるでしょう、というわけです。
で、『このペーパーは研究上の貢献がある』と。まず『本稿は、財政摩擦と共に中規模DSGEモデルを用いて日本の自然利子率を推計した唯一の~』とありますが、本当に唯一ですね。
もう一点、非常に謙虚に『中規模』と言っていますよね。経済モデルをそんなに大きく取ってないんです。これは過去の計量経済学の失敗を念頭に置いての言葉です。超巨大モデルを作ってやっても、実はあまり予測が的中しなかったんです。複雑になってしまえばしまうほど、微細な間違いが増幅していきましてね」
岩上「バタフライ効果(※30)のように」
田代「そもそもモデルを作る時、つまりものすごくたくさんの方程式を作ってプログラミングする時に、その方程式の一個一個が妥当なのか、さらにはバグが入ってないかという問題があるわけです。実は、どんなに人工知能が発達しても、バグ取りというのは人間にしかできないんですよ。これはもうコンピュータ界の常識でして」
岩上「『すべてはAIに取って代わられる』みたいに言う人がいますが」
田代「最近Yahooの研究所の人が財務省に講義か何かで行ってそんな話をした(※31)らしいですけれど、この業界でそんなことを言う人はいないでしょうね。
実は、人工知能は今が第4次ブーム。バブル期が第3次ブームだったんです(※32)。だいたいが過剰な期待がかけられて、実際にはそう上手くはいかないということの繰り返しです。面白い話だけど、極めて難しいわけですよ。そうなると結局、こんなにお金かけてやる人がいるのか、という話になるんです。
それはさておき、問題はここの『DSGEモデル』。日本語では『動学的確率的一般均衡モデル』といって、(広瀬康生氏の定義によれば)『「フォワードルッキング」な経済主体の最適化行動から導かれる行動方程式と市場均衡を組み合わせたマクロ経済学モデル』、というわけですが、ちょっと待ってくださいと。
『フォワードルッキング』、つまり『前を見る』ということですから、将来を見据えて今の行動を決める経済主体を考えると。将来のことは、当然確率的なことがらですから、これしかないと考えるのは、よほど子どもっぽいか、日本人っぽいというか。

▲用語:「なんかすごそう?」なDSGEモデル https://bit.ly/2VRn8BV
そんなふうに確率と触れ合っている未来というものを『動学的』に、つまり時間の流れの中に置いて、さらにいろんな要素が関連し合っている『一般均衡』を計測すると。まあ、これは確かに日本だけではなく、世界中の主要銀行も国際機関も使っている標準的なマクロ経済分析のツールで、使うことそれ自体は特に目新しいことではないんですが、問題はその後にあるわけで」
岩上「その『DSGEモデル』には、いろいろ難があるという声が聞かれます。『最適化』というが、その前提となる計算量(※33)が無視されているんじゃないかとか、『フォワードルッキング』という、将来を見据えた最適化というけども、最適化を計算するための情報が将来の話で、まだ出揃ってないのに最適化するとはどういうことか、とか。
そもそも、こういうモデルには基本的に人間の感情とか年齢とかは考慮されないということでしたが、今の僕のように、20年先の未来とかあまり考えたくない年齢の人が増えた日本に、『フォワードルッキング』なんてそぐわないのではないかなんて、僕なんかは思うんですが」
田代「これは結局、物理学から出てきた最適制御理論(※34)の経済学的解釈なんですよ。ロケットを飛ばす時のことを考えるのが一番わかりやすいんですが、ロケットを飛ばすことは難しい。風の影響もあるし、地球の自転の影響もある。それでもきちんとした軌道で飛ばしたい。その時に、ロケットが経路から外れた際の制御の仕方、という考え方をするんです。
物理学のそういう理論を、経済学的に解釈していったという経緯がある。だから、『最適化』というのは、ありとあらゆる可能性を見通した上での『最適化』というよりは、最初は決められたパスに乗っていこうというか、そういう意味での『最適化』なわけです」
岩上「限定的なものというわけですね?」
田代「何かで限定しなければ、ただの議論になっちゃうでしょう? モデルを動かすことまで行かないわけです。『最適化』というと、何かかなり強い意味に聞こえるけれど、そんな立派なものではなく、妥協の産物と言ってもいい。でもそれは仕方ない。そうせざるをえないんです。
このことは、私がまさに大学院生のころに考えたことでした。たとえば、時間の問題を考えなくても、ナッシュ均衡(※35)というものが無限個存在するんですが、私は数理経済学の論文の中で、計算速度が無限大で、無限大の大きさの目盛りを持ってるコンピュータですら、それらのどれ一つとしてまったく計算できないということを、実例とともに示してみせたことがあります。
要するに、今の経済学は計算量=コンプレキシティのことを全く度外視して計算しているわけですよ。逆に言えば、計算量を無視した計算ができるのは、モデルをものすごくプリミティブにしているから。
おっしゃる通り、実情に即したいろんな要素を入れるのが理想的ですが、選択肢を増やしていけばいくほど、場合分けの数も膨大になりますから、全部しらみつぶしに調べていくとわけがわからなくなる。だから、どこかで計算に限定を加えなければならないんです。こういうことは、僕が大学院生のときもほとんど研究されていなかったし、今でもほとんど研究されていない」
岩上「人間は選択の自由を持っているといいますが、あらゆることを知った上で最適な選択をしてるなんてことは実際ありえないし、情報だって全部得られるわけではありませんしね」
田代「情報が増えれば増えるほど、計算の手間が増える。どんどん増えていく場合分けを、比較しなければならないからです。この道しかないとふうに飛び付きたがるのは、そういうことですよ。人間、ラクしたいから。だから、計算量がゼロになる話があると、すぐに飛び付く。
ともあれ、この『DSGEモデル』については、物理学の最適制御理論を上手く経済学的に解釈したという意味合いがあるというふうに押さえておいてください」
(※29)英語版の原文(および6月13日発表の日本語版)における該当箇所は次の通り:
“There are, however, some difficulties associated with monitoring the natural rate in practice. The natural rate is not observable and needs to be estimated, while the rate is considered to vary over time, reflecting changes in the economic environment that affect the savings and investment decisions of firms and households. “ (p.1)
(「もっとも、自然利子率の動向を正確に把握することは実務的には容易ではない。すなわち、自然利子率は、企業や家計の貯蓄・投資行動の意思決定の裏側で不断に変化する経済構造の性質を映じて、時間とともに変化すると考えられる一方、その動向については直接に観察することはできず、何らかの手法を用いて推計しなければならないからである。」(p.1))
“The contribution of our paper is as follows. (…)To the best of our knowledge, this paper is currently the only paper that estimates the natural rate in Japan using a medium-scale DSGE model with a financial friction.” (p.3-4)
(「本稿の貢献は、以下の通りである。(…)筆者らが知る限り、本稿は、金融部門における摩擦を組み込んだ中規模 DSGEモデルを用いて日本の自然利子率を推計した初めての試みである。」(p.3))
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan —Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model—“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率ーーDSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別ーー」岡崎陽介・須藤直、2018年6月【URL】https://bit.ly/2MPASu1
(※30)バタフライ効果:
些細な変化が他の様々な変化を呼び起こし、その蓄積が大きな変化を生じせしめることを表す表現。気象学者のマサチューセッツ工科大学教授・エドワード・ローレンツ(1917-2008年)が1972年にアメリカ科学振興協会で行った講演のタイトル ”Predictability: Does the Flap of a Butterfly’s Wings in Brazil Set Off a Tornado in Texas? “(予測可能性:ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか)に由来する。
物体や現象の変化の現在における法則性を抽出すれば、その法則性に基づいて未来の状態も予測できるとするニュートン力学の考え方(決定論)は気象予測の分野でも応用されていたが、ローレンツは1960年、簡単な微分方程式から作られる天気予報の気象モデルの数値計算結果がカオス的な振る舞いをすることに気づいた。
すなわち、コンピューターシミュレーションによる計算結果を検証するために初期値を再入力するさい、あまりに微細で結果に与える影響も大きくなかろうと考え、小数のある桁以降を省いた値を入れたところ、最初の計算結果とは著しく異なる結果が出たというのである(ローレンツは1963年、これをテント写像により引き起こされるカオスとして発表、のちに「ローレンツカオス」と呼ばれるようになる)。
このように結果が初期状態に存在する微細な差異に依存して大きく変わることを、カオス理論では「初期値鋭敏性を有する」というが、ローレンツの上記講演タイトルに想を得てその寓意的表現である「バタフライ効果」が広まり、さらには他の様々な領域でも同様の現象を指す言葉として用いられるようになった。
参照:
・Wikipedia「バタフライ効果」【URL】http://bit.ly/1TtYh36
・Wikipedia「エドワード・ローレンツ」【URL】http://bit.ly/2vzitIw
・Wikipedia「カオス理論」【URL】http://bit.ly/2glaoir
(※31)Yahoo研究所の人「すべてAIに取って代わられる」:
財務総合政策研究所主催の研究会「イノベーションを通じた生産性向上に関する研究会」(平成29年9月~平成30年1月)の第4回研究会(平成29年12月21日)において、安宅和人氏(ヤフー株式会社チーフストラテジーオフィサー)が行った、特別講演「“シン・ニホン” AI×データ時代における日本の再生と人材育成」のこと。
技術革新が急速に進むいま、人は「AI とデータを使う戦い」に直面している。「今の日本は、この新しいゲームの視点で見ると、ペリーの黒船来航の時代の日本と同様」であり、「スキルを新たに変えないと生き延びることができないにも関わらず考えてもいない」。いまや必要とされる人材は、「データサイエンス力、データエンジニアリング力、ビジネス力といった3つのスキルセット」を具えた者。
飢饉や疫病で大量の人口を喪失した人類史をふまえれば、「我々が現在直面している人口減は誤差の範囲であり、後ろ向きになる必要はない」。この「ジャングルを切り開きサバイバルすることが重要であり、非常にワイルドな時代」にあって、「富を生み出すのは夢を描いて形にする力」だと、このような浅薄な論が威勢良く展開される。
参照:
・財務省・財務総合政策研究所「研究会報告書>イノベーションを通じた生産性向上に関する研究会」【URL】https://bit.ly/2GJLREZ
・財務省・財務総合政策研究所「第10章(講演録)“シン・ニホン” AI×データ時代における日本の再生と人材育成」【URL】https://bit.ly/2tDbkYb
(※32)人工知能ブーム:
人工知能(Artifical Intelligence)とは「知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」(人工知能学会) のこと。その研究と開発は第二次世界大戦後の1950年代に始まり、過去3回のブームを経て現在にいたる(田代氏は「4回」としているが、言い間違えあるいは記憶違いと思われる)。
初の人工知能ブームは、コンピュータによる「推論」や「探索」(ゲームやパズルを解く、迷路のゴールへの道順を調べるなどの技術)が可能となり、特定の問題に対して解を提示できるようになったことを背景に、1950年代後半から1960年代にかけて起こった。「人工知能」という言葉が出現したのもこの時期、1956年7~8月に、米ニューハンプシャー州のダートマス大学で開かれた会議で研究者たちが提唱したのが始まりと言われる。
神経細胞のネットワークによって構成される人間の脳の機能をモデル化、今なお広く用いられている機械学習アルゴリズムの基礎となるニューラルネットワークのパーセプトロン(1958年)や、人口対話システムELIZA(1964年)が開発された。
二度目のブームは1980年代から90年代前半にかけて。コンピュータに「知識」=各種専門分野のデータを与え、その分野のエキスパートが行うように推論・判断できるシステムが開発された。日本では通産省の主導で「第五世代コンピュータ」と名付けられたプロジェクトが進行。医学上の正確な診断や高度な言語処理が可能な人工知能の開発が目指されたが、情報の収集・蓄積能力を具えるに至らず、AIブームは1995年頃から下火となる。
その後、2000年代に入って三度目のブームが訪れる。今回は「ビッグデータ」と呼ばれる大量の入力データに基づき、自ら知識を獲得しそれらの定義を学習(「機械学習」)する機能を備えた、複雑なタスクを実行できるコンピュータ が登場。実用化および社会環境の整備に向けた取り組みが、いまも続けられている。
参照:
・総務省「情報通信白書平成28年度版 (AI)研究の歴史 第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値 第2節 人工知能(AI)の現状と未来 (2)人工知能(AI)研究の歴史」【URL】https://bit.ly/2ZTA2m8
・SMATU.net「人工知能ブーム、実は今のブームは3回目って知っていましたか?」2017年6月4日【URL】https://bit.ly/2Lku4aI
(※33)計算量:
「計算量」computational complexity とは、コンピュータによって特定の問題を解くさいに、解に至るまでに要する操作・処理手順(ステップ)の多さやメモリ容量のこと。いわば解を得るための「コスト」であり、これが少ないほど効率的ということになる。前者を特に「時間計算量」といい、コンピュータに定義・プログラムされるアルゴリズム(計算や操作、比較、分岐、繰り返し等、一連の計算処理の組み合わせ)の効率評価の基準となる。
参照:
・技術評論社HP「はじめMath ! Javaでコンピュータ数学 第74回 計算量の数学 計算量とは(2010年1月7日平田敦)」【URL】https://bit.ly/2TOK8Ve
・IT用語辞典 e-Words「時間計算量【time complexity】」2018年12月24日更新【URL】https://bit.ly/2UsUpU4
・Hatena Blog あざらしとペンギンの問題「計算量とは オーダー記法」【URL】2014年1月18日【URL】https://bit.ly/2VT8oCO
・プログラミング講座 cClip「用語集 >計算量(オーダ)」【URL】https://bit.ly/2HuzDjk
(※34)最適制御理論:
物理学における「制御」とは、あるシステムが所定の目的に適合した結果(=出力)を生み出すよう、外部から何らかの働きを行う(=入力)操作のこと。
「最適制御理論」は、そのシステムが最も高評価の結果を生み出すような操作の仕組み=制御系を、設計・構築するための理論である(システムそのものを変更するような操作はここでは問題とならない)。入力/出力というシステムの動的特性を時間の関数=微分方程式で表すとともに、「システムヘの入力の時間的な変化と、それによって生じる内部状態の時間的な変化の組合せの中で、システムにとって許容される(admissible)もののうち両者の汎関数(目的関数)を最小にするものを求める」作業となる。
最短経路問題(道順の場合の数を求める問題)を原形とし、制御工学、数理計画法、オペレーション・リサーチ、システム工学等の理論として体系化。衛星、ロボット、ヘリコプターの編成制御、飛行機や自動車の経路生成など、物体をある状態から他の状態へ最短時間で/最小のエネルギーで移動させることが問題となる幅広い領域に応用されている。経済学への応用も進んでおり、(工学では考慮されない)「誰がどの入力の制御を行うか」という意思決定主体および制御の目的に関する枠組を導入しつつ、投資決定モデルや経済成長理論の構築と経済政策の最適化、最適消費の問題、利潤の極大化、最適資源配分問題の分析などに用いられている。
参照:
・内閣府 経済社会総合研究所「経済分析第115号 最適制御理論の応用-マクロ経済政策の協調問題-」1989年9月「はじめに」【URL】https://bit.ly/2GXx0a2
・同「2章 最適制御の理論」【URL】https://bit.ly/2VBRTuR
・同「3章 最適制御の経済分析への応用」【URL】https://bit.ly/2SHSSrs
・京都大学 大学院情報学研究科 システム科学専攻 大塚敏之「最適制御の考え方と最近の展開」京都大学宇宙総合学研究ユニット「宇宙学セミナー」京都大学吉田キャンパス、2016年7月4日【URL】https://bit.ly/2SBC4Cx
・南正義「最適制御理論の現状と課題」『山口經濟學雜誌』第24巻4-5号、山口大学、1975年【URL】http://bit.ly/2Wn9gU1
(※35)ナッシュ均衡:
アメリカの数学者ジョン・ナッシュ(1928-2015年)によって1950年に提唱された、ゲーム理論(複数の主体が関係する場において、各人の意思決定や行動がどのように決定されるかを、数学的モデルを用い分析する理論)の基本概念。場に参加する人々が各々自分の利益を最大化する戦略(「最適反応」)を採り合う時、互いに戦略を変更するインセンティブを持たない安定的な状態に達することがあるが、そうした「均衡状態」およびその際の戦略同士の組み合わせのことである。
これは一つに決まるとは限らず、多くの場合は複数(場の規模が大きければ大きいほど多数)存在するうえ、その均衡状態が必ずしも場全体の利益になるわけではないという点で特徴的。共同で犯罪を行い逮捕された2人の囚人が黙秘するか自白するかを選択する際に、自己の利益を優先しようとするあまり、結局両者にとって不利な選択をしてしまうという「囚人のジレンマ」は、その端的な例である。
経済学における寡占や企業間の商品の値下げ競争、戦略論における核抑止力の問題、環境問題、資源獲得競争など、この「ナッシュ均衡」を通じて説明・分析される社会問題は多岐にわたる。
参照:
・コトバンク「ナッシュ均衡」【URL】https://bit.ly/2Th0TrI
・経済学道場「7-1. ナッシュ均衡」【URL】https://bit.ly/2EyKfeV
岩上「そうやって『DSGEモデル』を使って自然利子率を推計してみた結果が、次のようなグラフ(※36)だというんですが…」

▲青太字が日銀「自然利子率」論文のグラフ https://bit.ly/2WXepn4
田代「まずグラフの読み方ですが、太い青線がベースライン・モデルでの推計。過去の統計データから推計したものです。赤い線は、ローバックとウィリアムズという、有名な学者なんですけど、この人たちの2003年の論文(※37)にもとづいた方法での推計結果。緑色の点線は、今久保ほかの2015年論文(※38)の方法で計算したものですね。そして、この黒の点線、これがポテンシャル・グロウス・レイト、つまり潜在成長率(※39)。
1990年代前半から2000年代初頭にかけて、自然利子率が急落しているでしょう? グラフにも『バンキング・クライシス』と書いてある通り、銀行危機の時代(※40)ですね。こういう時、潜在成長率が下がるわけですが、それに伴って自然成長率も当然下がったわけですね。
そして、ベースライン・モデルでの推計値にはシャドウがついていますね? このシャドウの範囲内でそうなるというわけで、その中央値をたどったものが青い太線というわけです。『スタキャスティック』=確率的モデルとはこういうことなんです」
岩上「僕らが気になるのは、2013年から青太線がググッと上がっていること。まるで、『アベノミクスによって右肩上がりの自然利子率』、とでも言いたげに見えるんですが」

▲安倍総理、黒田総裁が望む結果が出た!? 彼らはもうこの「自然利子率」論文にすがるしかない!? https://bit.ly/2KtBozj
田代「そうですね。2008年あたりにガクンと下がっていますが、ここは世界金融危機(※41)ですね。そのまま民主党政権時代になって、2013年から第二次安倍政権へ。その時を境に自然利子率はグッと上がっています、と言っているわけですね。しかもそれが1%を超えていると。そのようにはっきり言っているわけではないんですが、グラフをよく見れば1%前後で振れていることがわかるでしょ、というわけです。
自然利子率だけでなく、潜在成長率も、上がり始めたのは民主党政権の時ですが、2013年から上昇率がぐんと上がった、これこそが異次元金融緩和の成果ではないだろうか、と言いたいんでしょう。金利が0%近傍にある中で、自然利子率はこうやって上昇し、二つのギャップ幅はどんどん広がっている。これで自ずとデフレ脱却できるはずだと」
岩上「日銀が追加緩和しなくても自然利子率が上がっていけば、緩和効果が期待できる。ということで、『もう必要ない』と」
田代「というか、『ということで、もうそろそろ…』と言わんばかりですよね。そこまでは明言してはいないけれど、そういうふうに読み込んでほしいのかな、と考えざるを得ませんね」
岩上「一方、日銀ワーキングペーパーのもう一つの論文、実質金利を推計した『No.18-E-1』の中には、次のようなグラフが示されています(※42)。青の実線が実質金利の推移ということで…」

▲青太線が日銀推計の実質金利 https://bit.ly/2IuEd0P
田代「この論文も『須藤』さんという方が関わってらっしゃいますが、使った経済モデルは、若い世代と年取った世代が重複して同時進行していることに注目した『オーバー・ラッピング・ジェネレーションズ・モデル』。このモデルを元に作った『お話 a tale』とサブタイトルにありますが、『今後50年Next 50 years』の推計を行うということで、さすがに断定できないんですね。でもまあ一応やってみました、と。
グラフの黒の点線が自然利子率、青い実線がリアル・インタレスト・レイト、すなわち実質金利の過去50年の推移です。実質金利がずーっと下がってきています、というのがポイントです」
岩上「こうやって金利がどんどんなくなっちゃうってことは、資本主義の終わりじゃないですか」
田代「金利は資本に対する報酬。それがゼロとかマイナスになったということは、資本家が収奪されているわけですから、おっしゃる通り『資本主義は大丈夫か?』ということになりますね(※43)。
これはもう緊急事態ですよ。映画なんかであるじゃないですか、会社が傾いた時、株式の配当をゼロにして『我慢してもらいましょう』とか。日経新聞にも、自慢話コーナーじゃなくて、『私の履歴書』なんかに書いてあるような話ですが、だからといって、これを何年もやっていいんですかと。解任動議出ますよ、『ふざけるな!』って。
いずれにしても、この論文は大研究ですよ。ぜひ、日本語版だけでなく解説版も作ってほしいぐらいですね。過去50年間に続いて、2060年までの実質金利のフォアキャスト、つまり予測も提示されています(※44)。

▲実質金利の推移と資本収益率の推移を表したグラフ https://bit.ly/31Pe2tE
赤の点線と青の実線の二つの線で示されているのは、どこが出した人口動態予測にもとづいて計算するかで違いが出てくるからですが、赤の点線が国連が出している人口予測(※45)にもとづく計算結果、青の実線がIPSS、すなわち日本の国立社会保障・人口問題研究所(※46)の将来予測にもとづいた計算結果というわけです。結果的に両者にあまり変わりはないですが。
グラフの上の方の青赤の線は、資本収益率の推移です。実質金利に関連して議論されるもので、重要なんですが、両者はだいたい並行して動きますから、ここでは下の方の赤青の線=実質金利の推移だけを見てください。
要するに、実質金利はずーっと傾向的に下がっていって、2040年代に底を打って上昇に転じます、と。グラフの線にシャドウがついているのは、先ほどの自然利子率論文の時と同様、これぐらいの幅で上下がありますよ、という意味です」
岩上「実質金利がちょこっと上がっているここ、2010年の目盛りの所ですよね。ここで一度上がったのが下がって、今また上がっていますが」
田代「日銀はこのグラフを通じて、つまりはこう言いたいわけです。民主党政権期の2010年の時に実質金利がパンッと上がって、人々は経済行動を萎縮させた。その後、異次元金融緩和の成果によって実質金利がガクッと下がった。ところが、2014年の消費増税でまた実質金利が上昇してしまいました、と。副総裁が『消費増税しなければ、リフレレジームは成功してた』と言い切っているくらいですから(※47)。
でも、計測結果では、実質金利はその後ゆるやかに、なんと2040年ぐらいまでは下がり続ける。一方で、自然利子率は上昇している、ということでしたよね?『素晴らしいじゃないですか』と。自然利子率と実質金利という二つの金利を組み合わせて考えたら、『これはもう、デフレマインドから脱却してインフレマインドに向かわないはずはないじゃないですか』と言わんばかりですよね」
岩上「『組み合わせると』って、なんだか煙に巻かれてるような気もするんだけど…」
田代「そうですよね。コバートな〔=実際に観察できない〕ものだけを二つあわせて、『ほら、こうでしょ』って言われても、そのコバートなものっていうのは、そもそもきちんと勉強しなければわからないじゃないですか」
岩上「あなただって概念理解してないでしょ、計算できないでしょ、と言われたら、ぐうの音も出ないみたいな話ですよね」
田代「例えば、政治の話でも『政権の求心力』とかいわれるじゃないですか。これは物理学的比喩(※48)ですが、ではその『求心力』とは正確にいえば何かといえば、わからないでしょう? 確かに、そういった言葉を用いれば話は早く進むでしょう。でもそれは慎重に使うべきもので、『じゃ、それ、どうやって測るんですか』と。
誰の目にも明らかなものだというなら、それこそ総裁が自民党内で演説する時に、聴衆からの拍手のデシベル数がどれぐらいだったとか、そういうことを真面目に考えなければいけなくなっちゃいます。でも、そういうことをするわけでもなく、『求心力』云々というのは、政治評論家なんかによく見られるような、さも『お前たちは知らないだろうが、俺は知っている』と言わんばかりの話になってしまいます。
経済学も科学である限り、そういう点に関しては慎重であるべきです。コバートな実質金利を測定すると下がってきている。一方、これまたコバートな自然利子率は上昇している。だから素晴らしいんだ、なんて言われてもですね…。
そもそも、日銀論文が推計したあの自然利子率の水準は、米国の自然利子率のそれを上回っています。サンフランシスコ連邦準備銀行の推計(※49)では、米国の自然利子率は0.45%ぐらいですよ。これはちゃんと公開されている数値です。3ヶ月ごとの期間を区切って、しかも、前提条件を変えれば自然利子率がこんなふうに推計できる、ということも、ちゃんと公開しています。日本銀行は数値を公開しません。ああやってグラフだけ見せておくだけ。で、それを見ると1%ぐらいだと。
つまり日本の方が自然利子率が高いんですよ。『え、ちょっと待てよ、じゃ円高?』ってなっちゃうじゃないですか。日銀としては、人々にそう思われるのは困るという意識も働いているのではないかと」
岩上「そうやってごまかしごまかし、やっているんですね」
(※36)グラフ 自然利子率の推計結果:
ここで掲げられるのは、日銀ワーキングペーパーNo.18-E-6にFigure3(日本語版No.18-J-3では図3)として示されている、DSGEモデルによって推計された日本の自然利子率の1980年第2四半期から2017年第2四半期までの時系列推移(青太線)。
比較のため、ローバックとウィリアムズによる2003年の手法(後註※37参照)を用いた推計結果(赤線)および今久保ほかの2015年の手法(後註※38参照)によるそれ(緑点線)が併記されている。
また、日銀調査統計局が試算した潜在成長率(黒点線)も参考として示されている。「自然利子率は、250ベーシスポイント〔金利の単位の呼称で記号はbp。1bp=0.01%〕から500 ベーシスポイント超までと手法によって差はあるものの、1990年代初頭には明確にプラスの領域にあったものが、1990年代前半にはゼロ近傍まで急速に低下し、その後も概ねその水準で推移している」ことや、「幾つかの推計値では、自然利子率は銀行危機時やグローバル金融危機時においてゼロを下回っている」こと、さらには、「2010年頃以降をみてみると、今久保ほか(2015)の推計値を除けば、全ての推計値が上昇基調にあり、直近値は概ね100ベーシスポイント程度の水準となっている」ことが示される。
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan ?Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model?“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018, p.16-17【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率――DSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別――」岡崎陽介・須藤直、2018年6月、p.15【URL】https://bit.ly/2MPASu1
(※37)ローバックとウィリアムズの2003年の論文:
トーマス・ローバック(Thomas Laubach, 1955-)はドイツの経済学者。研究分野は、マクロ経済モデルおよび金融モデルにおける不完備情報とラーニング、財政政策と金利の期間構造、マクロモデルによる金融・財政政策分析等。
ボン大学次いでプリンストン大学で学んだのち、米国カンザスシティ連邦準備銀行エコノミスト(1997-2000年)、連邦準備制度理事会調査統計部エコノミスト(2000-2005年)、同上級エコノミスト(2005-2008年)、ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学フランクフルト・アム・マイン教授(マクロ経済学部、2008-2012年)、ドイツ連邦銀行特任教授(2008年8月~)、連邦準備制度理事会金融部門上級顧問(2012年)、同アソシエート・ディレクター(2012-2015年)等を歴任。2015年から連邦準備制度理事会金融部門ディレクターを務めている。
ジョン・C. ウィリアムズ(John C. Williams, 1962-)は米国の経済学者。研究は不確実性の下での金融政策、景気循環、イノベーション等。
カリフォルニア大学バークレー校、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、スタンフォード大学(博士)で学び、1994年に連邦準備制度理事会のエコノミストとなる。その後、大統領経済諮問委員会シニアエコノミスト、スタンフォード大学経営大学院講師等を経て、2011年3月にサンフランシスコ連邦準備銀行総裁に就任。2018年6月にはニューヨーク連邦準備銀行総裁に指名され、同時に連邦公開市場委員会(FOMC)委員長に就任した。
ここで言及されているのは、この二人の経済学者が自然利子率の推計モデルを提示した論文”Measuring the Natural Rate of Interest”(The Review of Economics and Statistics 85(4), 2003年11月)。経済の総需要については財市場の需給均衡を表すIS曲線を、経済の総供給に関しては賃金上昇率と失業率との負の相関関係を表すフィリップス曲線を想定し、自然利子率と実質金利、インフレ率、需給ギャップ(=実質GDP?潜在GDP)との関係性を記述する。彼らの推計モデルは、潜在成長率に起因するトレンドや需給ショックによる変動も考慮した一般的なアプローチとして、評価の声も高い。
参照:
・Thomas Laubach and John C. Williams “Measuring the Natural Rate of Interest,” Review of Economics and Statistics, MIT Press, vol. 85, no. 4, 2003, pp. 1063?70.
・新谷元嗣・宮尾龍蔵「均衡利子率の推計手法および推定結果について」(NIRAオピニオンペーパーno.38「金融政策はジレンマを乗り越えられるかーー均衡利子率の推計から示唆されること」バックグランド・ペーパー)NIRA総合研究開発機構、2018年5月30日【URL】https://bit.ly/2Ctk1sK
・Board of Governors of the Federal Reserve System “Meet the Economists>Thomas Laubach”【URL】https://bit.ly/2TXbV5Q
・Macro/Finance Group, NIPFP ”Curriculum Vitae THOMAS LAUBACH”【URL】https://bit.ly/2HCRnsE
・Wikipedia(de.)”Thomas Laubach (?konom)”【URL】https://bit.ly/2TIIHIB
・Federal Reserve Bank of New York ”John C. Williams”【URL】https://nyfed.org/2FkIvpY
・Wikipedia(en.)”John C. Williams (economist)”【URL】https://bit.ly/2Hu26Gy
(※38)今久保ほかの2015年の論文:
日銀企画局の今久保圭・小島治樹・中島上智の三氏による、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.15-J-4「均衡イールドカーブの概念と計測(2015年6月)」(【URL】https://bit.ly/2CjJxRl)のこと。
各国が「ゼロ金利制約に直面し、名目短期金利の低下余地が失われ」た昨今、「金融環境の緩和度合いを正しく評価するためには、単一の年限だけでなく、イールドカーブ全体の動きに注目することが必要」との問題意識にもとづき、従来の均衡実質金利=自然利子率をすべての年限に拡張した「均衡イールドカーブ」とその計測モデルを提示する。
すなわち、イールドカーブを水準・傾き・曲率の三要因に分解した上で、各要因の均衡値からのギャップと需給ギャップとの関係を定式化・記述したIS曲線を作成。そこから「イールドカーブ・ギャップの形状に応じた景気感応度の違いや、均衡イールドカーブと実際の実質イールドカーブとの期間構造の違いを識別しながら、均衡イールドカーブを計測」するというものである。
論文は、そうして提示した計測モデルを日本のデータに適用し、1990年代以降の均衡イールドカーブとイールドカーブ・ギャップについての動向を報告する。
(※39)潜在成長率:
「潜在成長率」とは景気循環の影響を除いた経済成長率のこと。
企業の設備などの「資本」、労働人口と労働時間から求められる「労働力」、企業の技術進歩や効率化によって伸びる「生産性」という、生産活動に必要な三要素の伸び率を合算して求められる、仮想上の成長率である。
これら生産活動の三要素をフルに利用した場合に、中期的に持続可能なGDP(国内総生産)を年率にしてどのぐらい伸ばすことができるか、その経済全体の供給能力を示す指標として用いられ、成長の「巡航速度」とも呼ばれる。
あくまで推計で算出されるため、調査・研究機関によってその値にはバラツキがある。1980年代に3~4%であった日本の潜在成長率は、バブル崩壊で急降下。2000年代には1%前後となり、近年はさらに0%近くまで落ち込んでいる。
参照:
・コトバンク ASCII.jpデジタル用語辞典の解説「潜在成長率」【URL】https://bit.ly/2GpFVQI
・金融情報サイトiFinance「経済指標用語集>潜在成長率」【URL】https://bit.ly/2GckO4K
・nikkei4946.com「日々進化する経済用語集 経済ナレッジバンク>潜在成長率」【URL】https://bit.ly/2HPSXct
(※40)「バンキング・クライシス(銀行危機)」:
1990年代初頭のバブル経済崩壊を機に生じた日本の銀行の一連の危機的状況のこと。
C-M.ラインハルトとK-S.ロゴッフによる「銀行危機」の定義(「取り付け騒ぎ」と預金の一斉引出し、経営破綻あるいは焦げ付き融資の増大をしばしば先触れとする、銀行の倒産、他行との合併、買収、公的資金の大規模投入による救済等の出来事を指標とする状況(“From Financial Crash to Debt Crisis” American Economic Review, August 2011, p.1680))にもとづき、日銀「自然利子率」論文の著者は、「銀行や企業部門のバランスシートが毀損する中で、信用コスト率はピーク時で3.7%で上昇し、1997年以降には金融機関が相次いで破綻」した1992年から2001年の期間がこれに該当するとしている。
その期間、自然利子率の推移グラフは急激な右下がりの線形(「継続的に100ベーシスポイント程度の押し下げ」)を描き、そこから自然利子率に対する「金融要因の寄与は中立技術要因に次いで大きく、人口動態要因、投資特殊技術要因、需要要因の寄与を上回」ると結論される。
参照:
・Carmen M. Reinhart and Kenneth S. Rogoff “From Financial Crash to Debt Crisis” American Economic Review 101, August 2011, pp.1676-1706【URL】https://bit.ly/2TsEpVG
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan ?Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model?“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018, p.6, 23【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率ーーDSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別ーー」岡崎陽介・須藤直、2018年6月、p.5, 21【URL】https://bit.ly/2MPASu1
(※41)世界金融危機:
2008年9月に起こった「リーマンショック」のこと。2008年9月、米国の大手証券会社・投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したことをきっかけに、世界規模で金融危機が巻き起こった。
米国では2004年ごろからの住宅ブームに乗って、低所得者に向けた高金利の住宅ローン(サブプライムローン)が広まるとともに、このローン債権を担保に組み入れた証券化商品が国内外の金融市場に出回っていた。
住宅バブルのはじけた2007年を境に返済不能に陥る者が続出し、証券化商品の価格も急落、このいわゆるサブプライム問題により多くの金融機関が経営危機に陥ったが、その中でも巨額の損失を被ったリーマン社が、政府による救済も得られず破綻に追い込まれたのである。
全米第4位の証券会社の破綻は金融界に衝撃を与え、世界中の株式相場が暴落、金融市場はマヒ状態となる。この危機に対処すべく講じられたのが、バーナンキFRB議長による大がかりな量的緩和政策であった。
参照:コトバンク「リーマンショック」【URL】https://bit.ly/2hBkOuL
(※42)グラフ 実質金利の推移:
ここで掲げられるのは、日銀ワーキングペーパーNo.18-E-1(「実質金利」論文)にFigure8(日本語版No.18-J-4では図8)として示されている、グラフ「In-sample Simulation of the Real Interest Rate ?Real interest rate and measures of the natural rate of interest(実質金利のシミュレーション値 実質金利と自然利子率との比較)」。
世代重複モデルから計算された1960年から2015年までの(1)実質金利(青太線)と(2)資本収益率(1980年代前半から。黒破線)に、(3)潜在成長率(赤点線)、(4)ローバックとウィリアムズの2003年の手法による自然利子率(1985年から、黒点線)、(5)今久保ほかの2015年の手法による均衡実質金利(1995年から、赤破線)を併記する。
それによれば、実質金利は過去55年間で「640ベーシスポイント〔金利の単位の呼称で記号はbp。1bp=0.01%〕」低下。その主因として、著者は、この間に「生じた人口動態の変化――出生率の低下と平均寿命の上昇」を挙げるとともに、「出生率の低下は、直接的に生産年齢人口を減少させ、長寿化は、家計貯蓄を増加させる。この結果、労働投入量は低下し、資本ストック投入量は増加することから、実質金利は低下する」との説明を加えている。
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan ?Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model?“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018, p.4【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率ーーDSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別ーー」岡崎陽介・須藤直、2018年6月、p.2-3【URL】https://bit.ly/2MPASu1
(※43)超低金利と資本主義の終焉:
これについては、元三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストで現法政大学法学部教授の水野和夫氏が、著書『資本主義の終焉と歴史の危機』(2014年)の中で明快に論じている。
氏によれば、資本主義とは「中心」が富やマネーを「蒐集」すべき「周辺」=フロンティアを広げながら投資活動を行い、そこから得られる利潤を増大させることで資本を自己増殖させていくシステム。
利子率は長期的には投資に対する資本収益率(実物投資の利潤率)を表し、これが2%を割れば投資家が回収できる利益はほぼゼロ、そうした超低金利が10年以上にわたって続けば(17世紀のジェノヴァがまさにそうだったように)既存の資本主義システムは維持できなくなる。
そして、日本を筆頭に先進各国で政策金利はおおむねゼロとなり、10年国債利回りも超低金利となって久しい今、我々は「成長」の夢にしがみつくことをやめて、資本主義の終焉をいかにソフトランディングで迎えるかを模索せねばならない。
もはや利潤をあげる空間がないところで無理やり利潤を追求すれば、そのしわ寄せは、格差や貧困という形をとって弱者に集中するからである。
事実、ベトナム戦争終結およびオイルショック後、「地理的・物的空間(実物投資空間)」で資本の自己増殖に必要な利潤をあげられなくなった先進各国は、資本主義の延命を図るために別の「空間」(「電子・金融空間」)を生み出すとともに、富を「蒐集」すべき「周辺」を各々の国内に作り出してきた。
すなわち、それまで資本と共存関係にあった雇用者から収奪するようになったのであり、そうして資本の手先となった国家は民主主義さえ脅かしている。
水野氏はIWJ代表・岩上安身によるインタビューにも登場いただき話をうかがっている。そちらもぜひ参照いただきたい。
参照:
・水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』集英社新書、2014年
・「『資本主義の終焉と歴史の危機』(水野和夫)を読むーー新自由主義の暴走は止められるか(グローバル総研所長 小林良暢)」『現代の理論[第3号]「特集」次の時代 次の思考III』、2014年12月7日【URL】https://bit.ly/2CL11pL
・「超低金利は資本主義終焉の兆しーー生産年齢人口を延ばし働きやすい社会を 日本大学教授 水野和夫さんに聞く」『現代の理論[第4号]「特集」戦後70年が問うものI 』、2015年3月15日【URL】https://bit.ly/2CKDIwz
・BLOGOS「大転換がやってくる!金利・株式会社・資本主義の終焉ーー水野和夫(法政大学教授)」文藝春秋SPECIAL 2017年春、2017年3月17日【URL】https://bit.ly/2UmnL9I
・IWJ「機能不全に陥った資本主義 「フロンティア」なき時代、私達はどのような社会を作るべきか ~岩上安身による日本大学国際関係学部教授・水野和夫氏インタビュー 2015.1.28」【URL】https://bit.ly/2EYCoJb
(※44)グラフ 実質金利の予測:
ここで掲げられるのは、日銀ワーキングペーパーNo.18-E-1のFigure 9: Out-of-sample Simulation of the Real Interest Rate (1) Real interest rate and return on capital(日本語版No.18-J-4では図9「実質金利の先行きに関するシミュレーション(1)実質金利と資本収益率」)。
2060年までの実質金利および資本収益率について、各々国連による将来人口推計値にもとづくシミュレーション値(赤破線)と人口問題研究所ベースのそれ(青実線)の2種類を示してある。
「長い目でみれば、実質金利rtBの先行きの水準は、足許の水準〔2015年の1%前後〕から大きく乖離することはない」が、「2040年代半ば頃までにかけて僅かではあるが徐々に低下」。
すなわち、「IPSS〔人口問題研究所〕の中位推計をベースにした場合、2040年代半ばにおいて実質金利は約20ベーシスポイント〔金利の単位の呼称で記号はbp。1bp=0.01%〕、資本収益率は450ベーシスポイントにまで低下し、その後、反転して上昇する」だろうとの予測が示される。
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan ?Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model?“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018, p.21-22【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率ーーDSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別ーー」岡崎陽介・須藤直、2018年6月、p.20【URL】https://bit.ly/2MPASu1
(※45)国連による人口予測:
国連はほぼ2年間隔で世界人口に関する調査・推計を行っており、その成果を「人口統計年鑑」Demographic Yearbook、「人口センサスデータセット」Population Censuses’ Datasets、「人口・人口動態報告」Population and Vital Statistics Report(以上、経済社会局(DESA)統計部)や「世界推計人口」World Population Prospects(同局人口部)といった資料の刊行を通じ、国際社会に広く公開している。
そこでは、推計人口総数および将来推計人口(総数、男女別、中・高・低位推計)をはじめ、人口増加率、年齢5歳階級別人口、従属人口および比率、合計特殊出生率、平均寿命など様々なデータが提供され、種々の研究や各国の社会・経済政策策定に役立てられている。
参照:
・UN Statistics Division “Demographic Yearbook System”【URL】https://bit.ly/2HyhajX
・UN Population Division “World Poplulation Prospects 2017”【URL】https://bit.ly/2DJ8Ttg
(※46)国立社会保障・人口問題研究所(IPSS):
日本の社会保障および人口問題に関する調査・研究を行う厚生労働省の政策研究機関(本部:東京都千代田区内幸町)。1939(昭和14)年設立の人口問題研究所と1965(昭和40)年設立の特殊法人社会保障研究所を統合して1996(平成8)年12月に設立。
人口・世帯の調査と将来推計および社会保障・医療制度に関する調査・研究を通じて、少子高齢化、貧困、雇用、ジェンダー等人口問題の解明や、人口・経済・社会保障の相互関連に関する研究に取り組む。
社会保障制度の中長期計画ならびに各種施策立案の基礎資料として、「日本の将来推計人口」、「日本の地域別将来推計人口」、「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」、「日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)」を公表するかたわら、紀要や各種出版物の刊行を通じ、研究成果を内外に発信する活動も行っている。
参照:
・コトバンク「国立社会保障・人口問題研究所」【URL】https://bit.ly/2LzEwr8
・国立社会保障・人口問題研究所HP【URL】https://bit.ly/1hRtcRC
(※47)岩田規久男・元日銀副総裁「消費増税しなければ、リフレレジームは成功していた」:
2018年3月19日に日本銀行副総裁を任期満了で退任した岩田規久男氏が、『週刊エコノミスト』2018年6月12日記事「『リフレ理論も政策も正しい、だが逆風で時間がかかる』=岩田規久男[出口の迷路]金融政策を問う(34)」(【URL】https://bit.ly/2CCMMmj)の中で述べたこと。
「2年でインフレ率2%」を掲げ、日銀にとって非伝統的な大規模金融緩和策(「異次元金融緩和」)を黒田総裁とともに推し進めてきた岩田氏であるが、5年を経てなおそれが達成されるどころか、いまだ達成時期すら見通せていないことについて問われ、次のように答えた。
「一番の問題は、日銀の金融政策は完全にリフレのレジーム(枠組み)に転換したのに、財政政策は2014年4月の消費税率引き上げで緊縮的になってしまい、リフレレジームが壊れたことだ。(中略)
最初の1年目は想定通りの展開だった。まず、『リフレレジーム』に転換した日銀による大量の長期国債を中心とする資産買い入れが、株高を引き起こし、為替市場では円安をもたらした。株や外貨建て資産を持っている人に対して、資産効果が働き、消費が大きく伸びたのが1年目の特色だ。我々が重視していた予想インフレ率も順調に上がり、消費者物価(除く生鮮食品)前年比は、13年3月のマイナス0・5%から、14年4月には1・5%まで2ポイントも上がった。遅くとも14年8月には2%に達するスピードで、2年以内に目標を達成できると思った。消費増税について、安倍晋三首相は自民党総裁選に出る前に、『デフレから脱却しない限りやらない』と述べていたので、私はそのつもりでいた。ところが結局実施され、財政政策が需要を圧縮したため、とたんに物価が上がりにくくなってしまった」
要するに、せっかくうまく運びかけていた自分の政策を、消費税増税が台無しにしてしまった、というわけであり、そうした自己正当化の姿勢は次の言葉にもよく表れている。
「理論も、それに基づいた金融政策も正しかったと思っており、我々が採用した金融政策以外のデフレ脱却の金融政策はないと考えている。理論とそれに基づく政策の妥当性は、代替案との比較で評価されるべきもので、代替案のない批判は無意味だ。我々の金融政策は理論通りには進んでいるが、既に述べたさまざまな逆風が吹いて、2%の達成に時間がかかっている。」
(※48)求心力:
本来は力学における「向心力」の異称で、円運動をしている物体が受ける、円の中心方向へ働く力のこと。「物体の質量×円の半径×角速度の二乗」もしくは「(物体の質量×運動速度の二乗)÷半径」で求められる。
これが物体の運動の方向を絶えず変化させ、直線運動から引き離して固定点=中心の周りを回転させるのであり、たとえばひもの先端に物体を付けて回転させる場合はひもの張力が、また、惑星の周りを衛星が回るときは衛星と惑星間の重力が、各々その源である。
参照:
・Wikipedia「向心力」【URL】https://bit.ly/2TOqb1w
・コトバンク「向心力」【URL】https://bit.ly/2ugIJIl
(※49)サンフランシスコ連邦準備銀行と自然利子率の公表:
サンフランシスコ連邦準備銀行 Federal Reserve Bank of San Franciscoは、米国の中央銀行である「連邦準備銀行」(「連邦準備制度」という米国独特の中央銀行制度を構成し、全国に12行設置。加盟銀行の法定支払準備金の保有や連邦準備券の発行、手形割引、貸付、公開市場操作、国庫代理店などの業務を行う銀行)のひとつ。
2011年3月から2018年6月まで同連銀総裁を務めたジョン・C.ウィリアムズは長年自然利子率の研究に取り組んできた経済学者であり、彼がトーマス・ローバックと2003年に提唱した計測モデル(「ローバック=ウィリアムズモデル」前註※37参照)による自然利子率の最新の推計値は、同連銀のウェブページ(https://www.frbsf.org/economic-research/economists/john-williams/ リンク切れ)に公表されてきた。
ウィリアムズがニューヨーク連銀総裁に就任してからは、ニューヨーク連銀のウェブページ上で発表されている。
参照:
・Wikipedia「連邦準備制度」【URL】https://bit.ly/2W8Rpxi
・新谷元嗣・宮尾龍蔵「均衡利子率の推計手法および推定結果について」(NIRAオピニオンペーパーno.38「金融政策はジレンマを乗り越えられるかーー均衡利子率の推計から示唆されること」バックグランド・ペーパー)NIRA総合研究開発機構、2018年5月30日【URL】https://bit.ly/2Ctk1sK
・The Wall Street Journal日本版「【WSJで学ぶ経済英語】第238回 自然利子率(竹内猛)」2016年7月19日【URL】https://on.wsj.com/2OdSYGs
・Federal Reserve Bank of New York “economic research > Mesuring the Natural Rate of Interest”【URL】https://nyfed.org/2G0BNI7
岩上「『自然利子率』論文は、先進各国で2008年以降のグローバル金融危機を契機にして自然利子率の低下傾向がある、と報告しています。
で、その要因として、中立的技術(neutral technology)、投資特化技術(investment-specific technology)、金融仲介活動の機能度(financial factors)、人口動態(demographic factors)、需要要因(demand factors)を挙げている(※50)わけですが、『決定要因については「自然利子率」の低下のうち半分以上を中立技術の変化に起因していることが確認された』と言っています。
さらに、『投資特化技術、需要要因の変化も趨勢的に下押し方向で作用していたものの、定量的な観点からはその寄与は限定的であった』とも(※51)。僕らが気になったのはこの辺です。『需要要因』って消費のことですよね、その影響は『限定的であった』なんて、つまり少子高齢化やIT化に伴う消費冷え込みのことを、矮小化する言い草じゃないですか」

▲「自然利子率」論文は日本の自然利子率の低下の本質的な原因である人口動態を隠蔽! https://bit.ly/2xaxenq
田代「これは自然利子率の低下要因の標準的な考え方に即してモデル回して、一応推計してみました、というだけのことなんです。その結果、『中立的技術』と『金融仲介活動』が大きく寄与していて、投資特化技術や人口動態、需要要因はそれほどでもないということは言えそうです、という結論になっているわけです。
一番大きな要因は『中立的技術』=ニュートラル・テクノロジーだと(※52)。これは何かといいますと、経済成長する時、技術進歩が起きますよね。その技術進歩が所得の分配を変えるかどうかということを考えた概念です。
経済的利益には、経営者側に分配されるものと労働者側に分配されるものがありますが、簡単にいえば、その分配の比率を変えないような技術のことをいいます。中立的技術を考えると、モデルがすごく簡単になるんです。
というのも、利益の分配比率を変えるような技術進歩、つまり労働のシェアを高めるような技術進歩とか、あるいは逆に資本のシェアを高めるような技術進歩を考えると、これはものすごく難しいんです。レベルの高い設定や計算が必要になりますからね。
そこで考え出されたのが『中立的技術』という概念なんですが、これの変化が自然利子率の低下に寄与していることが確認された、と。岩上さんがご指摘されたように、人口動態の変化の影響というものはないことはないけれど、その作用は限定的で、あくまでメインの要因は中立的技術の変化なんです、というわけです。
要はテクノロジーの進歩〔のあり方の変化〕によって自然利子率は低下しているといいたいわけですね。
例えば、通信技術、インターネット、それからスマートフォンが普及するとか、そういうことによって、宅配業者には大きな変化が起きたはずですよね? 携帯電話のない時代は、それは大変だったでしょう。伝票で一日行動するわけですから。
今は運転手が自分の携帯電話を持っていて、いろいろ便利になった。でも、そうやって技術進歩がもたらす経済的利益が、資本側と労働側との間にどのように分配されるかについて、その分配比率は変えないという前提を置いて考えるのが『中立的技術』なんです。
そういう極めて限定したモデルだけれど、これを使って分析した結果が、自然利子率が下がったのは技術進歩の〔状況が変わった〕せいです、とおっしゃるわけです。決して日銀のせいじゃありません、技術進歩です、少子高齢化とかIT化とか、そういうことはあまり重要ではありません、と」
岩上「なんだか納得いきません。というのも、先にも話題になりましたが、自然利子率が低下傾向にあるはずの米国も欧州も利上げへ踏み出していますよね? FRBは6月13日に、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を25 ベーシスポイント(bp)引き上げ、1.75-2.00%とすることを全会一致で決定(※53)。今年はあと2回の利上げを予測していますし、欧州中銀は6月14日に、量的緩和の年内終了を決定しています(※54)。

▲FRBも欧州中銀も利上げ! https://bit.ly/2WZfDye
ということは、日銀論文で挙げられている自然利子率低下の5つの要因の中で、欧米と日本が異なるのは人口動態だけじゃないかと」
田代「大きく違う点といえば、おっしゃる通り、人口動態でしょうね。米国は人口が増えていますし」

▲諸外国の合計特殊出生率の動き(欧米)内閣府HPより https://bit.ly/2Rsmryl
岩上「このグラフ(※55)にも示されている通り、人口置換状態にほぼ近い出生率2.0状態というのは、先進国と言われる国々の中では米国だけ。
それは移民の活力とかいろんな要素があるとは思いますけれども、いずれにしても、子どもを産み育てようという気持ちが結果に表れているわけです。欧州は2.0を割り込んでいて、だからものすごく努力してますよ、社会政策をたくさん打ち出して(※56)」
田代「米国の場合はヒスパニック系が非常に多産ですね。一方、白人女性はそれほど子どもを産まない。だけど、トータルで考えると人口は増加してるんですよ。
問題は、トッドさんなんかが指摘しているとおり、人口増加しているのは結構だけれども、社会が分断されている。しかも教育水準が低すぎること。この問題があるから、米国の将来は暗いかもしれないと言われていますけれども。
でも、米国も欧州も日本より出生率が高く、人口成長率も高いのは確かです。日本は人口減少の軌道に入っていますから、おっしゃる通り、人口動態という要素の違いは大きいはずですね」
岩上「しかもですね、欧州と日本はもともとはかなり近寄っていたかもしれない。しかし欧州は、米国はもともと移民の国家ですけれども、欧州も移民を受け入れてきた。
例えば「戦前の」ドイツは日本と同じような(レイシズムの横行する)状態にありましたが、戦後、あれだけのレイシストの国であった国がですよ、トルコの移民を受け入れて、宗教も違う、言語も違う、肌の色も違う、そうした人種概念とかそういうものに囚われていたナチの時代を克服しながら、軋轢も克服しながら、トルコの移民を受け入れ続けてきた(※57)。
もちろん、入れる必要性があって入れたんですが、トルコ移民を受け入れた後、彼らの人権とか定着、家族の受け入れ、社会保障、こういったことを、侃々諤々議論しながら政策を打ってきたわけじゃないですか。そうした上で、彼らも同じドイツ人だ、というわけですよ。
僕、2年前にドイツに行ったんですが、ちょうどその時、移民排斥の問題で暴力が横行しているという話があったんです。すると、ベルリンのブランデンブルク門の前の広場で、まるでロックスターの野外コンサートをやるような特設ステージと、一般の市民のデモとがセットされて、そこに大統領とメルケル首相と、ユダヤ人の協会の会長さんだとか、各国の代表とかが来るわけです。

▲メルケル首相(Wikimedia Commonsより)https://bit.ly/2IzMj8u
つまり、市民のデモでもあったんですが、そこに総理が来るわけですよ。(日本に例えると)天皇陛下がいるような状態(の集会)で、そこで『ドイツはすべての人々の家である』と。ユダヤ人だけではなく、有色人種その他も、宗教も言語も肌の色も異なるすべての人間の、ドイツは家なんだと。みなさんのお家であると。こういうふうに呼びかけたわけです。
こうやって、少しでもレイシスト的な動きがあると、こういう努力をたくさん積み重ねて、社会政策を徹底的に打って、そこに予算を付けてやってきた。
ドイツが典型的ですけど、欧州各国は、この少子化傾向に対して、ただ単に育児給付を行うとか、カネだけではなくて、女性が社会進出して子育てしながら働けるようにするとか、あらゆる手だてを打つと。そういうことにプラスアルファして、外国人と外国移民を受け入れる。
ワールドカップを見ていればわかる通り、欧州各国の代表は今や、みんな違う人種の集まりになっているわけです。真っ白い欧州のチームなんてないわけで。でも、日本はそういうことを一切やっていない。人口動態プラス社会政策ゼロ。これほど異なる大事な要因をスコンと抜かしているのはおかしいんじゃないの、と思うんです」
田代「一応日銀もその要因は考慮して推計したけれど、そこにそれほど大きな影響力は見いだせなかった、ということにしてるわけですね(※58)」
(※50)英語版の原文(および日本語版)における該当箇所は次の通り:
“Most studies on the natural rate in developed countries agree that the rate has fallen over the years, particularly in the wake of the recent global financial crisis. By contrast, there is less agreement as to what has been the dominant driver of the natural rate over the course of history. We have therefore been careful in our choice of analytical framework so that our analysis not only pins down the level of the natural rate but also serves as a horse racing of potential drivers. That is to say, we focus on selected drivers that have already been proposed and have so far attracted considerable attention in the literature. They are neutral technology, investment-specific technology, financial factors, demographic factors, and demand factors. We design the settings of our DSGE model and our estimation strategy so that the quantitative impacts of these drivers are explicitly addressed in the model…” (p.2)
(「これまで先進各国で行われた先行研究を振り返ると、自然利子率が低下傾向にあること、こうした傾向が、特に2008年以降のグローバル金融危機を契機として顕在化していることが共通して報告されている。もっとも、こうした自然利子率の低下の裏側でどのような要因が作用していたのかという点については、必ずしもコンセンサスが得られていない。このため、本稿では、自然利子率の推移を推計するだけではなく、既存研究において、自然利子率の決定要因であると考えられている5つの要因に着目し、それぞれの自然利子率に対する寄与について定量評価・比較を行っている。5つの変動要因とは、具体的には、中立技術、投資特化技術、金融仲介活動の機能度、人口動態、需要要因であり、本稿のDSGEモデルの構成はこれらの要因を描写し得る形で定式化されている」(p.1-2))
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan ?Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model?“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率――DSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別――」岡崎陽介・須藤直、2018年6月【URL】https://bit.ly/2MPASu1
(※51)英語版の原文(および日本語版)における該当箇所は次の通り:
“We find that the natural rate in Japan shows a decline from about 400 basis points in the 1980s, to 30 basis points in the last five years. (…) In our estimate, more than half of the decline is attributed to changes in neutral technology. Changes in the working-age population, investment-specific technology, and demand factors have also contributed to the decline, but their quantitative impacts have been limited. (…) Similar to the natural rate, the expected natural rate also exhibits a decline over the sample period, suggesting that the natural rate decline over time has been perceived as persistent rather than as temporal changes by agents in the economy. This in part reflects the fact that the bulk of variations in the natural rate have been driven by changes in neutral technology whose effects on the natural rate are long-lived.” (P.2-3)
(「本稿での分析の結果、日本の自然利子率は、1980年代には約400ベーシス・ポイントであったものの、直近5年間の平均でみると30ベーシスポイントまで低下していることが示された。(中略)決定要因については、自然利子率の低下のうち半分以上は中立技術の変化に起因していることが確認された。人口動態や投資特化技術、需要要因の変化も趨勢的に下押し方向で作用していたものの、定量的な観点からはその寄与は限定的であった。(中略)自然利子率と同様に、予想自然利子率も低下傾向を辿っていた。この推計結果は、分析期間中の経済主体が、各期の自然利子率の低下は一時的なものではなく、相応に持続的なものとしてとらえていたことを示唆している。この一つの理由として、自然利子率の主たる変動要因が中立技術の変化であり、中立技術の変化は自然利子率に対して持続的な影響を与えることが挙げられる。」(p.2-3))
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan ?Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model?“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率――DSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別――」岡崎陽介・須藤直、2018年6月【URL】https://bit.ly/2MPASu1
(※52)中立的技術:
経済学における「技術進歩」とは、「生産関数の上方シフト」=生産方法の改善や新しい生産方法の導入によって、資本や労働力の投入量を変えずに産出を増やすこと、あるいは、より少ない投入量で同じだけの産出を確保できることとしてとらえられる。そして、これが経済成長に及ぼす影響を考察する際は、(1)労働のシェアを高め資本を節約する、(2)資本のシェアを高め労働を節約する、(3)労働と資本の所得配分率(総所得における賃金所得と利潤所得の割合)を一定に保つ、という3パターンを考える。
ここで言及されている「中立(的)技術進歩」とは、その(3)のパターンを想定した技術進歩のことであり、「ヒックス型」(資本・労働比率が一定の成長経路において、要素価格比率が不変になるときの技術進歩。生産関数が産出量増大的となることが特徴)、「ハロッド型」(産出・資本比率が一定の成長経路において、利子率が不変になるときの技術進歩。生産関数が労働増大的=労働の生産性が上昇することによって労働力が増大したかのような効果を持つことで特徴的)、「ソロウ型」(労働生産性が一定の成長経路において、賃金率が不変になるときの技術進歩。生産関数が資本増大的=資本の生産性が上昇することで資本ストックが増大したかのような効果を持つことで特徴的)の3つの型が知られる。
日銀「自然利子率」論文は、この「中立(的)技術」の変化が「実質金利を含む経済変数の最も重要な変動要因」とされていること、具体的には、「中立技術それ自体は直接観察することはできないが、近年、先進国においては、中立技術の伸び率が鈍化している可能性」が指摘されており、これが「資本収益率を低下させ、投資の採算性を悪化させることを通じて、投資行動を抑制し、実質金利を押し下げる」と考えられている、とした上で、日本経済においてもこれが「自然利子率」の押し下げ要因として作用してきたかを検証した。
その結果、「中立技術進歩率 gZa ,t の鈍化は、自然利子率 Rt* と実質金利 Rt を押し下げる」こと、とりわけ「自然利子率の趨勢的な低下傾向をもたらした最大の要因は、中立技術進歩率へのショック εZa,t 及び同技術水準へのショック εAa,t の寄与の合計である「中立技術要因」(Za,tAa,t) である」ことが明らかになったと結論づけている。
参照:
・慶應義塾大学経済学部サーバ「講義ノート 伊藤幹夫 平成12年7月4日 第6章 技術進歩と成長」【URL】https://bit.ly/2TnPhz4
・日本大百科全書(ニッポニカ)の解説「技術進歩」【URL】https://bit.ly/2ukZZwo
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan ?Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model?“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018, p.4-5, 19, 22-23【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率――DSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別――」岡崎陽介・須藤直、2018年6月、p.4-5, 17-18, 21【URL】https://bit.ly/2MPASu1
(※53)FRB、利上げ決定:
FRB(連邦準備制度理事会)は、2014年10月の量的金融緩和政策(「QE3」)の終了に続き、2015年12月には2008年の金融危機から7年間にわたって続けてきたゼロ金利政策の解除を決定。政策金利の誘導幅を0.25%の引き上げとなる0.25%~0.50%とし、今後「緩やかなペースで」利上げを続けるとした。
実際、2016年の利上げは12月の1回(0.25%の引き上げ、政策金利誘導幅0.50%~0.75%)にとどまったが、2017年は、3月(0.75%~1.00%)、6月(1.00%~1.25%)、12月(1.25%~1.50%)、と利上げペースを加速。2018年にはこれをさらに加速させ、3月(1.50%~1.75%)、6月(1.75%~2.00%)、9月(2.00%~2.25%)、12月(2.25%~2.50%)の計4回となった。
3月の利上げの際、FRBは2018年の利上げはこれを含めて年3回とするシナリオを維持するとしていたが、その後、失業率が低下しインフレ率が従来の見通しよりも速いペースで上昇しているという理由で、年4回に上方修正したのである。
参照:
・みんかぶFX「アメリカ・FRB政策金利(FOMC)」【URL】https://bit.ly/2VL4n3W
・BBC MEWS JAPAN「米FRB、利上げを決定 9年半ぶり」2015年12月17日【URL】https://bbc.in/2RjXEj0
・三井住友アセットマネジメント「マーケットレポート:2015年を振り返るキーワード 米国の「利上げ」(米国)【キーワード】」2015年12月21日【URL】https://bit.ly/2AHFmhs
・三井住友アセットマネジメント「マーケットレポート:米国の金融政策(2016年12月)1年振りの利上げ、政策金利見通しを上方修正【デイリー】」2016年12月15日【URL】https://bit.ly/2RMrImG
・三井住友アセットマネジメント「マーケットレポート:米国の金融政策(2017年3月)緩やかなペースでの利上げ継続を示唆【デイリー】」2017年3月16日【URL】https://bit.ly/2VGv9KW
・三井住友アセットマネジメント「マーケットレポート:米国の金融政策(2017年6月)緩やかな利上げを継続、FRB保有資産の縮小にも言及【デイリー】」2017年6月15日【URL】https://bit.ly/2H7FnRr
・三井住友アセットマネジメント「マーケットレポート:米国の金融政策(2017年12月)政策金利を0.25%引き上げ、緩やかな利上げを継続へ【デイリー】」2017年12月14日【URL】https://bit.ly/2Fo785G
・日本経済新聞「米、3カ月ぶり利上げ 0.25% 「年3回」維持」2018年3月22日【URL】https://s.nikkei.com/2SL2VwE
・ブルームバーグ「FOMC:今年2度目の利上げ決定、年内あと2回に予測上方修正」2018年6月14日【URL】https://bit.ly/2HjoMu7
・大和投資信託「Market Letter 米国金融政策(2018年9月)――半期に一度のペースでの利上げを継続する見込み――」2018年9月27日【URL】https://bit.ly/2M2QPfJ
・大和投資信託「Market Letter 米国金融政策(2018年12月)――市場期待よりも金融引き締め的な姿勢を示すも、データ次第で柔軟な政策対応を示唆――」2018年12月20日【URL】https://bit.ly/2D2N9b3
(※54)欧州中銀、量的緩和の年内終了を決定:
2009年10月にギリシャ国家財政の粉飾決済が発覚したのをきっかけに、ユーロの信用低下および崩壊の危機に直面した欧州では、2011年11月就任のマリオ・ドラギ総裁のもとで欧州中央銀行(ECB)が大規模な金融緩和政策を実施してきた。
金融機関に長期かつ低金利(1%)の資金供給を行うLong Term Refinance Operation(通称LTRO、2011年12月および2012年2月)、南欧諸国の国債を直接買い入れる、それも残存期間1~3年という償還期間の短い債券を量的上限を設けず買い入れることを骨子とする金融緩和プログラムOutright Monetary Transactions(通称OMT、2012年9月開始)、金利の市場最低水準(0.15%)への引き下げおよび0.1%のマイナス金利導入(2014年6月)、月額600億ユーロを投入しユーロ圏19カ国の国債や社債を購入する量的緩和政策(2015年3月)、マイナス金利の拡大(0.4%)と国債買入れ額の増加(月額600億ユーロ→800億ユーロ、2016年3月)など。
そのECBも、2018年6月14日、金融緩和を年内で終了する方針であると発表。12月13日の定例理事会でその終了を決定している。金利引き上げも視野に入れていくといい、米連邦準備理事会(FRB)に続きECBも非常時の金融緩和政策を解除する方向へ梶を切った。
参照:
・日本大百科全書(ニッポニカ)「ドラギ」【URL】https://bit.ly/2FofyLc
・三井住友信託銀行「調査月報 2012年5月号『経済の動き~欧州中央銀行による資金供給の功罪』」【URL】https://bit.ly/2QHQQXk
・投資用語集「アウトライト・マネタリー・トランザクション」【URL】https://bit.ly/2H435hg
・現代ビジネス「欧州中央銀行がつけた金利マイナス0.10%の影響(真壁昭夫)」2014年6月8日【URL】https://bit.ly/2SPPJ9Y
・日本経済新聞「欧州中銀が追加緩和 マイナス金利幅0.3%から0.4%に」2016年3月10日【URL】https://s.nikkei.com/2H7998T
・東洋経済ONLINE「(ロイター)ECB、量的緩和策の2018年内終了を決定――金利は2019年夏まで現在の水準に据え置き」2018年6月14日【URL】https://bit.ly/2M60qCF
・ロイター「焦点:欧州も米国に続き金融緩和終了、世界経済に逆風か」2018年6月15日【URL】https://bit.ly/2LWNmy1
・東京新聞「欧州中銀、量的緩和終了 日銀と欧米の政策に差」2018年12月14日【URL】https://bit.ly/2RkjJhv
・時事ドットコムニュース「欧州中銀が量的緩和終了=利上げ視野、日銀置き去り」2018年12月14日【URL】https://bit.ly/2FpFyFg
(※55)グラフ「諸外国の合計特殊出生率の動き(欧米)」:
内閣府「平成29年度版 少子化社会対策白書 概要版(PDF版)」第1部第1章「少子化をめぐる現状」(【URL】https://bit.ly/2HAaXGD)の第5節「国際比較」に、「第1-1-16図」(p.16)として掲げられているグラフ。欧米6カ国および日本の1950年から2015年までの合計特殊出生率(15~49歳までの女子の年齢別出生率を合計した値で、1人の女性が一生の間に産む子どもの数を表す)の推移を、国連のDemographic Yearbook (人口統計年鑑)や経済協力開発機構(OECD)のFamily database、厚生労働省「人口動態統計」を基に内閣府が作成したものである。
グラフからは、1960年代まで全ての国で2.0以上の水準であった合計特殊出生率が1970年に入り急落したこと、1990年ごろからいくつかの国で回復傾向が見られるようになったことが見て取れる。
また、2015年における各国の合計特殊出生率の一覧も示されており、それによれば高い順にフランス(1.92)、スウェーデン(1.85)、米国(1.84)、英国(1.84)、ドイツ(1.50)、日本(1.45)、イタリア(1.35)となっている。
(※56)欧州、出生率を上げるための努力:
例えばフランスは、国内総生産(GDP)の約4%にも相当する予算を家族政策に充てながら、子どもをつくり育てる世帯を手厚く支援してきたことが知られる。
給付金の管理運営を行うのが「全国家族手当公庫」Caisse Nationale d’Allocation Familiale=CNAF。事業主、被保険者(労働組合代表)、自由業者の代表からなる理事会を意思決定機関とする公的機関であり、事業主が賃金の5.4%にあたる額を負担する「社会保障拠出金」と個人の所得に課せられる社会保障目的税である「一般社会拠出金」を主な財源としながら、いまや30種以上の家族手当を擁する家族給付制度の維持に寄与してきた。
2019年3月現在の主な家族手当と支給額を挙げるなら、次のようなものがある。
・出産をひかえて:「出生一時金」Prime ? la naissance(子ども1人につき941.66ユーロ。年収制限あり)
・子どもが3歳を迎えるまで:「基礎手当」Allocation de base(世帯年収や子どもの数に応じ、月額170.71ユーロの全額給付あるいは85.36ユーロの部分給付)
・3歳未満の子どもを持つ世帯で、育児のために職業活動を全面的あるいは部分的に停止する世帯に:「職業自由選択補足手当」Compl?ment de libre choix d’activit?=CLCA(職業活動の休止時間に応じ、月額396.01ユーロ/256.01ユーロ/147.67ユーロ。最大6ヶ月支給。年収制限あり)
・職業活動のために認定チャイルドシッターを雇用する世帯に:「保育方法自由選択補足手当」Compl?ment de libre choix du mode de garde=CMG(子どもの数や年齢、世帯年収などに応じ、月額88.41ユーロから854.69ユーロまで、細かくカテゴリーが設定)
・子どもが就学年齢に達したとき:「新学期手当」Allocation de rentr?e scolaire=ARS(6~10歳は367ユーロ、11~14歳は388ユーロ、15~18歳は401ユーロ。毎年、新学年度開始直前(8月末)に支給。年収制限あり)
・第2子から:「家族手当」Allocations familiales=AF(子どもの数と世帯年収に応じ、月額32.79ユーロから467.25ユーロまでの「基本額」を20歳になるまで支給。子どもが14歳に達すると1人あたり月額16.58~65.58ユーロの「加算金」が加わる)
その他、3人以上の子を持つ一定所得以下の世帯を対象とした「家族補足手当」Compl?ment familial=CF(世帯年収と子どもの数に応じて、月額170.71ユーロあるいは256.09ユーロ)、母子/父子家庭を対象とした「ひとり親支援手当」Allocation de soutien familial : parent s?par?=ASF(月額115,30ユーロ)、障害を持つ子どもを育てる世帯に支給される「障害児育成手当」allocation d’?ducation de l’enfant handicap?=AEEH(障害の程度に応じ、障害有する子ども1人につき月額230,68ユーロから1691,14ユーロまで11のカテゴリーがある)、子どもの看護のために休暇を取得するときの所得保障である「親看護日当」Allocation journali?re de pr?sence parentale=AJPP(日額43,57ユーロ。ひとり親世帯は51,77ユーロ)など、個々の家庭の事情に寄り添うかたちで多種多様な家族手当が整備されている。
2008年に安定した人口を長期的に保つことのできる水準である合計特殊出生率を2以上に回復、以後も先進国としては高水準の出生率を維持している背景に、子育て世帯に対するこうした手厚い公的支援があることは疑いを容れない。
参照:
・内閣府「平成27年度『諸外国における子供の貧困対策に関する調査研究』報告書 フランス 第3 貧困実体下にある子供とその家族に対する具体的な支援 1. フランスにおける社会保障制度の概要」【URL】https://bit.ly/2TXnpXQ
・縄田康光「少子化を克服したフランス~フランスの人口動態と家族政策~」『立法と調査』No.297、2009年10月【URL】https://bit.ly/2Tuj7SD
・CAF(家族手当公庫)HP ? La prestation d’accueil du jeune enfant (PAJE) ?(乳幼児受入手当)【URL】https://bit.ly/2Oqp5mq
・フランス政府HP ? Allocations destin?es aux familles ?(家族に対する諸手当)【URL】https://bit.ly/2xpiu5J
・同? Allocation de rentr?e scolaire(ARS) ?(新学期手当)【URL】https://bit.ly/28YUIyZ
・同 ? allocation d’?ducation de l’enfant handicap? ?(障害児育成手当)【URL】https://bit.ly/2HRO6Wp
(※57)ドイツの移民政策:
ドイツの人口は約8000万人。その中に「移民の背景を持つ人々」という統計上のカテゴリーが設けられており、その数約1600万人。つまり、移民とその子孫たちが、ドイツの人口の5分の1を占めているのである。中でもトルコ共和国の出身者は約300万人と突出して多い。だが、彼らは初めから国民としてドイツ社会に受け入れられたわけではなかった。
ドイツが大量の外国人労働者を受け入れるようになったのは、戦後の経済復興期にあたる50年代半ばから60年代にかけて。イタリア、スペイン、ギリシャ、トルコ等々と、次々と外国人労働者募集協定を締結し、国内の労働力不足に対処しようとしたのである。
そうしてドイツにやってきた外国人労働者は「ガストアルバイター」と呼ばれ、当初は数年働けば本国に帰国させ、また新たな労働者を受け入れるという「ローテーション原則」が適用された。
しかし、経済界の要請もあり滞在期間は次第に長期化。その過程で、(一度帰国すれば二度とドイツで働けないために)彼らは家族を呼び寄せ、子どもを産み、数を増しながらドイツに定住するようになったのである。
そして、1980~90年代の保守系政権(ヘルムート・コール首相)はドイツが移民国家であることを認めようとしなかったために、外国人労働者たちは「事実上そこにいるのに、やがて帰る人たちということで、あたかも彼らが存在しないかのような、中途半端な状況」に長く置かれることになった。
特に、ドイツ生まれの移民2世、3世の移民の若者たちは、教育も就職面でも差別的扱いを受けたがゆえに貧困化が進んだ。
ドイツ人社会と隔絶された彼らは、移民コミュニティをドイツ国内に形成――「平行社会」と呼ばれた――したために、将来に社会の安定を損なうような事態に発展するのではないかという不安をドイツ人の間に強く掻き立てた。
このような状況を背景に、また、少子高齢化の進行も後押しして、90年代には移民の政治的・社会的「統合」の重要性が次第に意識されるようになる。
人権にもとづくシティズンシップも議論されるようになり、1990年の外国人法改正では、従来の「血統主義」的国籍法に加え「権利帰化」概念(一定の条件を満たせば国籍が取得できるというもの)が導入された。
2000年には国籍法が改正され、「出生主義」へと方向転換。実質的に移民化した人たちについては社会に取り込んでいく方針が定められた。
そして2005年1月、移民法が制定され、「移民の統合」へ向けた具体的な取り組みが始まった。ドイツにやってきた移民や難民に対する、ドイツ語やドイツの法令、文化、歴史に関する授業受講の義務化、移民の若者たちに対する学習支援や職業教育、大学進学の機会の拡大など。
「我々は労働力を呼んだつもりだったが、やって来たのは人間だった」とは、スイス人作家マックス・フリックの有名な言葉だが、ドイツは根強い差別やネオナチなどの勢力とも戦いつつ、このように移民を「人」として受け入れる努力を始めたのである。
参照:
・内閣府経済社会総合研究所「ドイツ移民法における統合コースの現状及び課題(丸尾眞)」2007年8月【URL】https://bit.ly/2WdljmR
・石川真作「ドイツ在住トルコ系移民の社会的統合にむけて――ドイツ社会とトルコ系移民の関係変化――」『立命館言語文化研究29巻1号』立命館大学国際言語文化研究所、2017年9月【URL】https://bit.ly/2EgNerU
(※58)自然利子率の推計には人口動態の変化という要因を一応考慮したが、そこにそれほど大きな影響力は見出せなかった、ということにしている:
実際、「自然利子率」論文(No.18-E-6、日本語版No.18-J-3)の著者らは次のように述べながら、推計にあたっては人口動態の変化に対する目配りを怠っていないこと、また、まさにこのことが先行諸研究と一線を画す特長であるとアピールしている。
“Existing estimates using a DSGE model do not address demographic factors, in part because these factors are considered as primarily affecting the low-frequency components of macroeconomic variables, and in part because some demographic changes are predictable. In the analysis below, we incorporate one element of demographic factors into the model, following Burriel et al. (2010), and study its effect on the natural rate. Namely, we assume that the working-age population evolves stochastically by incorporating shocks to the growth rate of the working-age population, allowing macroeconomic variables, including the natural rate, to react to these shocks. In estimating the model, we use the actual working-age population growth rates to extract the demographic shocks.” (p.7)
(「DSGE モデルを用いて自然利子率を推計した先行研究では、一般的に、人口動態要因は考慮されていない。この理由として、人口動態は主として経済変数の超長期成分を規定する要因とみなされていること、人口動態の変化のうちある程度は事前に予測することができるため、人口動態の変動のタイミングとそれが自然利子率に織り込まれるタイミングが一致しないと考えられていることが挙げられる。こうした先行研究とは異なり、本稿では Burriel et al.(2010)に倣って、生産年齢人口成長率に対するショックを組み込み、同成長率が確率的に推移することを仮定することで、自然利子率を含む実体経済変数と生産年齢人口成長率との関係性を考察できるようにしている。また、モデルの推計に際しては、このショックを抽出するため、実際の生産年齢人口成長率のデータを観察変数として使用している。」(p.7))
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan ?Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model?“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率――DSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別――」岡崎陽介・須藤直、2018年6月【URL】https://bit.ly/2MPASu1
岩上「日本の出生率といえば、この低さ〔1.45〕! フランスだって、一生懸命努力して人工的に上げてるのに〔1.92〕。英国〔1.80〕も高いですよね。スウェーデンだって、落ち込んだ時期もあるけど、また上げてきている〔1.85〕。
とにかくイタリア〔1.35〕と並ぶくらい低い状態なんですね。それでも欧州諸国ということであれば、EUの中で助けてもらうということはあり得るわけですが、日本は孤立していますから、自分たちだけでなんとかしなくちゃいけないわけじゃないですか。そこが非常に気になるわけですよ。
にもかかわらず、『自然利子率』論文では、人口動態については1980年以降の変化のみを分析対象にしている(※59)。僕らとしては、『え、なんで!?』と。『もしかすると、人口動態変化の寄与度を低く見積もろうとしたんじゃないの?』と疑いを持つわけです。

▲「自然利子率」論文の人口動態操作 https://bit.ly/2FnpYcs
というのも、『自然利子率』論文より先に出された『実質金利』論文では、日銀は『1960年代から2015年までの人口動態変化を分析して、実質金利低下幅も640ベーシスポイントのうち、270ベーシスポイントが人口動態変化で生じた』と報告しているわけですね(※60)。『あれ?』と思うわけですよ」
田代「それは繰り返しますように、二つの論文では使用モデルが違うからです。実質金利を推計したほうの論文では『世代重複モデル』。若い人と年寄りとが一緒に暮らしているという、そういうモデルで考えている。このモデルには人口動態の変化が入れやすいんですよ。
一方、『自然利子率』論文で用いられたのは『動学的確率的一般均衡モデル』。こちらの方は、人口動態の変化をモデルの中に入れにくいんです」
岩上「それはそうかもしれませんが、そもそも分析対象が1980年以降では、正確なことが結果として出てこないんじゃないかという気がしてならないんですよね」
田代「確かに、80年代以降は、すでに十分に少子化も高齢化も進んでいる時代ですからね。ここから区切ると、今の状況がさほど衝撃的に感じられなくて済むというのはあるでしょうね。
あと、考えられることとしては、おそらくそれ以前については統計が揃わなかったんだろうと思う。年次データしかない場合もあれば、ちゃんと四半期のレベルまであるものもあるし、月レベルであるものもあるんですが、そういう統計のタームがうまく揃わないと計算しにくいわけです。たぶん、そういったテクニカルな制約もあったと思います。
でも、おっしゃる通り、日本の人口変化は実は長い時間をかけて進行してきましたから、そういう観点からすれば、80年代で切り出すというのはちょっと冒険ですね」
岩上「人口置換水準はだいたい2.07ぐらい(※61)。つまり、生まれた子どもが成人に至らない確率を、0.7~0.8ぐらいと設定するわけですね。2人の夫婦から2人産まれれば人口は置き換えられる、すなわち人口ピラミッドが円筒形になる状態ですが、それを割り込んだのは1974年(※62)ですから、少なくとも1974年か1974年以前、子どもが多く人口が増加していった時代まで含めて分析しろよ、と思うんですが」
田代「それはテクニカルに極めて難しいし、やったとしても結果がものすごい幅を持って出てきて曖昧になってしまいますから、その場合は『何とも言えません』という結論しか出てこない。どこかで区切るというのは、こういったモデル分析の宿命なんですよね」
岩上「つまりは、モデル分析の結果は絶対じゃないんですね?」
田代「もちろん。ただ、それを踏まえて議論はなされるべきでしょう」
岩上「『これは限定がありますよ』とした上で、『これこれの観点が足りませんよね』と、議論する必要がありますよね、各方面からの知を集めて。にもかかわらず、『自然利子率』論文は脚注でこんなことを言っているんです。
『本稿では生産年齢人口の自然利子率への寄与度のみを分析しているため、人口動態の変化による影響の一部が需要要因などの他の要因として識別されている可能性がある(中略)仮に需要ショックの全てが人口動態の変化に起因していたと仮定したとしても、自然利子率の変動に対する寄与の大きさという点では、高々2番目に止まる』(※63)

▲人口動態変化の影響は「高々2番目」!? https://bit.ly/2N2HNnj
人口動態要因を小さく表現しているというか、『高々2番目にとどまる』というけれど、2番目なら重大な要因だろうに、と思うんですが。英語の原文でも、ここは『only second」となっていて…。十分大きな要因なのに、なせ『オンリー』なんて言葉を使うんだろう、と。
色々ベストを尽くした上で、『この件に関してはこれ以上やりようがない』というならわかりますよ? でも、何もやってないのに、『高々2番目に過ぎない』と切って捨てるなんて、おかしいじゃないかと思うわけです」
田代「そうですね、原文は『at most』じゃなく『only second』ですからね。『高々』なんて強い訳語を使うべきではなかったでしょうね。ここは低く見せようという…」
岩上「意図を感じますよね」
田代「本来ならば、2番目の要因というなら1番目とどのぐらい違うのか説明するべきでしょうが、その点はあまりはっきりとは述べていませんね。『需要ショックはすべてが人口動態の変化に起因するものではない、人々の嗜好の変化の要因もあるだろうから、それを考えればもっと低くなるだろう』、と言いたいのでしょう。
いずれにしても、おっしゃる通り、人口動態の変化というのを小さくとらえていることは確かですね。80年代以降を対象に分析するということは、今の少子高齢化というパスにすでに入ってからの状況ですからね」
岩上「そこに至るまでの道程、つまり人口が増えていったいわゆる『人口ボーナス』(※64)の時代や、さらに言えば、若年人口が多すぎて苦労した時代も戦前にはあるわけだから、本来ならそれも考慮して考えるべきなんじゃないでしょうか」
田代「本来ならば、もちろんそうあるべきです。でも、統計が不十分なこともありますからね…。でも、確かに60年安保や70年安保とか、映像や写真を見ても、よくこんなに若い人がいるなと感嘆するぐらいたくさんいますよね。高度経済成長はユースバリューでもあったんです(※65)。彼らの不満や抗議のはけ口がそこに向かったわけですから。でも、推計ではそういう側面をバサッと切ってしまったわけですね」
岩上「あの熱気は確かに抗議のエネルギーだったかもしれないけど、国産の車を買いたくて買いたくてしょうがないとか、そういう欲望の固まりでもあったわけでしょ? 需要そのものじゃないですか。カローラが売れて…」
田代「彼らがパブリカだとかブルーバードだとかを買ってくれてね。だからこそ、日産、トヨタ、ホンダの今があるわけですからね。
でも、そうやって測定期間を長くすればするほど、モデルも複雑になって出てくる結果も曖昧になる。だからこそ、どこでランディングする=丸め込むかということが重要になるのだけれど、そういう経済モデルの制約というものをきちんと押さえた上で、結果をどう活用するかが大事になるわけです」
(※59)人口動態については1980年以降の変化のみが分析対象:
日銀「自然利子率」論文(No.18-E-6、日本語版No.18-J-3)本文に次のようにある通り。
“We use the time series of 23 variables from 1980:2Q to 2017:2Q, and show the data series used for the estimation in Figure 2. The data includes 9 aggregate variables, two net worth series taken from balance sheet data of the FIs and goods-producing sectors, and 12 variables about the expected future policy rate “ (p.15)
(「本稿の推計においては、1980年第2四半期から2017年第2四半期までの23系列の時系列データを観察変数として使用している。使用するデータは、マクロ経済変数が9系列、銀行部門及び企業部門の純資産の2系列、将来の政策金利の期待値12系列から構成されている」(p.14))
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan ?Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model?“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率――DSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別――」岡崎陽介・須藤直、2018年6月【URL】https://bit.ly/2MPASu1
(※60)「実質金利」論文では、日銀自身が「1960年代から2015年までの人口動態変化を分析した結果、実質金利低下幅640ベーシスポイントのうち、270ベーシスポイントが人口動態変化で生じた」と報告しているのに…:
日銀「実質金利」論文(No.18-E-1、日本語版No.18-J-4)本文に次のようにある通り。
“we find that changes in demographic landscape over the last 50 years, both the decline in the fertility rate and the increase in longevity, have lowered the real interest rate in Japan massively. A decline in the fertility rate directly reduces the working age population and an increase in longevity encourages households’ saving, leading to lower labor inputs and higher capital accumulation, which in turn reduces real interest rates. Based on our baseline simulation, 270 out of the 640 basis points decline in the real interest rate from 1960 to 2015 was caused by the changes in the demographic structure.” (p.4)
(「過去50年に生じた人口動態の変化――出生率の低下と平均寿命の上昇――については、日本の実質金利を大きく押し下げたことが確認された。出生率の低下は、直接的に生産年齢人口を減少させ、長寿化は、家計貯蓄を増加させる。この結果、労働投入量は低下し、資本ストック投入量は増加することから、実質金利は低下する。定量的には、1960年から2015年までの実質金利の低下幅640ベーシスポイントのうち、270ベーシスポイント程度が、人口動態要因に起因したことが確認された。」(p.2-3))
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-1 “Population Aging and the Real Interest Rate in the Last and Next 50 Years ? A tale told by an Overlapping Generations Model ?“, Nao Sudo and Yasutaka Takizuka, January 2018【URL】 https://bit.ly/2Xe9Ukm
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-4「人口動態の変化と実質金利の趨勢的な関係――世代重複モデルに基づく分析――」須藤直・瀧塚寧孝、2018年6月【URL】https://bit.ly/2T8BMaz
(※61)人口置換水準:
人口が長期的に増えもせず減りもせずに一定となる出生の水準のこと。具体的には、女児の出生率である「総再生産率」(母親の年齢別女児出生数÷年齢別女子人口の合計。
たとえば2015年は0.71、すなわち、女子1人当たり0.71人の女児を出産したということを意味する)に、女児の生存率を乗じて算出される「純再生産率」(2015年は0.7。2015年の母世代人口に対し、次世代の母世代人口は0.7倍の人口規模になるということを意味する)が「1.00」になることである。
この「人口置換水準」を、よく用いられる「合計特殊出生率」(母親の年齢別出生数(男女児)÷年齢別女子人口の合計。女性が一生に産む子どもの平均人数を表し、2015年は1.45)に換算するには、比例式により「合計特殊出生率(男女児)」を「純再生産率」で割ればよく、日本では近年、おおむね2.07となっている(2015年でいえば、x : 1.00 = 1,45 : 0.7。x= 2.0714…)。
参照:
・ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「合計特殊出生率」【URL】https://bit.ly/2Ut6JGS
・THE PAGE「少子化を解消するのに必要な出生率は日本のどこでも2.07なのか」2018年2月6日【URL】https://bit.ly/2FG24Iq
・財務省広報誌「ファイナンス」平成30年5月号「シリーズ日本経済を考える77 出生率と結婚の動向――少子化と未婚化はどこまで続くか―― 慶應義塾大学経済学部教授 津谷典子」【URL】https://bit.ly/2ZZdcsx
(※62)人口置換水準を割り込んだのが74年:
日本における出生数は、1947~49年に合計特殊出生率4.30超となる約270万人を記録(第一次ベビーブーム期)。1950年代前半に150万人台まで落ち込むものの、60年台から再び増加に転じ、2.10前後の安定した合計特殊出生率を維持しながら1971~74年には約200万人を回復した(第二次ベビーブーム期。なお、1966年は出生数約136万人、出生率1.58と極端に減少しているが、これはその年に生まれた女児は将来夫に仇なすという「ひのえうま(丙午)」の迷信の影響)。
だが、1973年の209.2万人、出生率2.14をピークに、翌1974年には出生率が人口置換水準以下の2.05へ。さらに翌1975年には出生数も200万人台を割り込み、以後30年以上にわたって低下の一途をたどることとなった。2005年には統計史最低となる合計特殊出生率1.26を記録。その後出生率はわずかに回復傾向が見られたが、2016年には出生数もとうとう100万人を切ってしまった。
今後も出生数減少の流れは止まるどころかますます加速すると見られ、国立社会保障・人口問題研究所の2017年の推計によれば、2065年には55万7000人、2115年には31万8000人まで落ち込むとのこと。
参照:
・国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口――平成18年12月推計の解説および参考推計(条件付推計)2. 推計結果の解説」【URL】https://bit.ly/2HHX3n3
・内閣府「『平成30年版 少子化社会対策白書』第1部少子化対策の現状、第1章 少子化をめぐる現状、2 出生数、出生率の推移」【URL】https://bit.ly/2OPPcU3
・河合雅司『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』講談社現代新書、2017年
(※63)自然利子率の変動に対する人口動態要因の寄与の大きさは「高々二番目」:
「自然利子率」論文(No.18-E-6、日本語版No.18-J-3)脚注49において述べられていることがらである。英語版の原文(および6月13日発表の日本語版)における該当箇所は次の通り。
“Based on an OG model calibrated to Japan?s economy, Sudo and Takizuka (2018) show that about 270 out of the 640 basis point decline in the real interest rate from the 1960s to 2015 in Japan was brought about by changes in demographic landscape. Our result is not necessarily inconsistent with their finding. There are three reasons. First, the number reported in their paper also captures the effects of demographic changes that took place before the 1980s that are outside the scope of this paper. Second, some portion of demographic effects may be attributed to demand factors in our model. Related to this, it is notable that, based on Table 3, the contribution of demand shocks ranks only second in the variations of the natural rate, even when all of the demand shocks are considered to be driven by demographic factors. Because of the predictability of demographic changes, however, it is possible that those changes that actually occurred during the 1980s and beyond had already impacted households’ economic decisions before the 1980s. In this case, some portions of demographic effects do not show up as demand shocks taking place in 1980 and beyond.“ (p.30-31)
(「本稿で得られた結果に対して、須藤・瀧塚(2018)〔「実質金利」論文 (No.18-E-1、日本語版No.18-J-4) のこと〕は、日本の実際のデータと整合的になるようにパラメータをカリブレートした世代重複モデルを用いて、1960年代から2015年までの実質金利の低下幅640ベーシスポイントのうち、270ベーシスポイント程度が人口動態の変化によってもたらされたと報告している。もっとも、本稿の結果と彼らの結果は、以下の3点を踏まえると、必ずしも不整合であるとは言えない。1点目は、須藤・瀧塚(2018)の計数は、1980年代以前に生じた人口動態の変化の影響を含んでいるが、本稿では1980年以降の変化のみを分析対象としているという点である。2点目は、本稿ではあくまでも生産年齢人口の寄与のみを分析しているため、人口動態の変化による影響の一部が需要要因などの他の要因として識別されている可能性があるという点である。もっとも、この点に注意しつつ改めて表3をみると、仮に需要ショックの全てが人口動態の変化に起因していたと仮定したとしても、自然利子率の変動に対する寄与の大きさという点では、高々2番目に止まる。3点目は、人口動態の変化はある程度予見可能であるため、1980年代以降に生じた変化が、1980年以前に、既に家計行動の意思決定に織り込まれていた可能性がある点である。この場合、こうした人口動態の変化は、1980年以降の価格や産出量の変動に影響を与えることはないた め、需要ショックの一部として現れることもないと考えられる」(p.29))
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan ?Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model?“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率――DSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別――」岡崎陽介・須藤直、2018年6月【URL】https://bit.ly/2MPASu1
(※64)人口ボーナス:
総人口に占める働く世代の人口(生産年齢人口、15~64歳)の比率が増大する、もしくは子どもと高齢者のそれ(従属人口、0~14歳・65歳以上)をはるかに上回る(具体的には2倍以上)状況のこと。
1990年代後半にハーバード大学の人口学者デービッド・ブルームが提唱し広く認知されるようになった概念で、安価で豊富な労働力があり税収が増大、若い世代ならではの活発な消費活動で内需も拡大し、なおかつ教育や医療、年金等の社会保障費の負担も少なく、高い経済成長を実現できる。日本では1960~80年代がこれにあたり、急速な工業化と高度経済成長を成し遂げた。なお、人口ボーナス期は一度訪れたらその国には二度と来ないといわれる。
参照:
・金融情報サイトiFinance「世界経済用語集 人口ボーナス」【URL】https://bit.ly/2HYm5NX
・日本大百科全書(ニッポニカ)の解説「人口ボーナス」【URL】https://bit.ly/2SkSP5o
・経済産業省「産業構造審議会総会(第14回)平成26年4月2日 議事概要 (3)自由討論 小室委員((株)ワーク・ライフバランス代表取締役社長)」【URL】https://bit.ly/2IedW7f
・大泉啓一郎「人口動態と経済成長の関係――人口ボーナスを中心に――」『開発途上国における少子高齢化社会との共存』調査研究報告書、アジア経済研究所、2012年【URL】https://bit.ly/2FRI3ig
(※65)高度経済成長はユースバリュー:
270万人に迫る年間出生数、合計800万人以上の人口ボリュームを形成した1947年~1949年生まれの世代=「団塊世代」が若者となって、1960~70年代の高度経済成長を支えたことはよく知られている。
彼らの多くが、中学・高校卒業と同時に地方を離れ、大挙して大都市へ移動。そこで中小企業などに集団就職し、若い労働力を豊富に提供しながら第二次産業の基盤を支えた(彼らは「金の卵」と呼ばれ重宝された)ほか、大学進学した者たちは、大学改革を求める学生運動や安保闘争、ベトナム戦争反対などの社会運動の担い手となった。
彼らはまた、活発な消費活動を通じて内需を拡大させた世代でもあった。豊かさの象徴として彼らが憧れていたのは、進駐軍の暮らしや映画、テレビ、雑誌広告等を通じて幼少時から見聞きしていた、「物」のあふれる米国の生活様式。彼らがやがて配偶者を得て世帯を持った時、この豊かさのイメージを現実のものにしようとしたことが、焼け野原の日本を世界第2位の経済大国に押し上げるほどの原動力となったのである。
すなわち、大量に存在した「若くて貧しい独身の労働者」が「結婚し、子供を産み、2DKの団地を求め、さらに郊外にマイホームを求める。その過程で、家電を買いそろえ、家具を買い、マイカーを買う。それによって企業は売り上げを伸ばし、社員の給料が上がり、社員はまた新しい物を買う。これこそが高度成長の魔法のような好循環のからくりだった」(三浦展)のである。
参照:
・Wikipedia「団塊の世代」【URL】https://bit.ly/2YqprNG
・三浦展『団塊世代を総括する』牧野出版、2005年
・毎日新聞「特集ワイド 社会保障費急増、2025年問題 「団塊の世代」老後はお荷物?」2018年4月8日【URL】https://bit.ly/2Hq9NuW
岩上「僕が日銀論文の『80年代以降』という切り方に拘るのは、これがあたかも少子高齢化は変えようのない大前提とでも言いたげな態度だから、つまり、少子高齢化はある一時期に生じた現象であるという、歴史の中で相対化して見る視点を欠いているように思えるからです。
たとえば、江戸時代の人口はほぼ三千万人くらいで一定だったわけですよ(※66)。その後(明治維新以降)爆発的に人が増えた。戦後は優生保護法(※67)とか、そういう法律によってバサッと子どもが産まれなくなったり、諦める手段ができてしまった。その後しばらくは、ある程度は問題なくやり過ごしてきたかもしれませんが、医療の発達などによって高齢者も増え、子どもも産まれにくくなった。子育てしづらくなった状況の中、ここは政策的に財源を振り向けて対処するべきなのに、そういうことは何もしてこなかったという点こそ、考慮するべきじゃないかと思うんです」
田代「それはそうですね。だからこそこの論文も、労働年齢人口つまり15歳から64歳までの生産年齢人口は『おそらく自然利子率の決定要因のカギではない』と言いつつ、『少なくとも我々がサンプルに用いた1980年以降の時期においては』と留保をつけているわけです。要するに、生産年齢人口が減っていくという、そのパスに入ってからの話であって、折り返し点が入ってないから、その効果は計測結果に反映されないことはわかるんですね」
岩上「しかも、『我々の基本的仮説としては、労働年齢人口の成長は確率的傾向であり、変動全体は予見不可能であるが、世帯数によってある程度先行き数年間の人口統計の情勢の見通しを把握できる』なんて書いてあるんですよ(※68)。
これにはものすごく反発をおぼえるんです。というのは、明日どう動くかさえ全く予想できない金利や為替なんかに比べ、今年生まれた子どもが20年後に成人になっている時の人口は、はるかに予想可能性があるわけじゃないですか。あらゆる指標の中で、こんなに確実なものはないのに、『もうぜんぜん見通せません』なんて!
『世帯数によって見通せる』というのも、絶対おかしい。世帯のほうがむしろ、例えば一世帯のなかに5人も6人も住んでる場合もあれば、1人で住んでる場合もある。僕の家族だって、長女は結婚して別の世帯を構えているけれど、次女は結婚していない。といっても、30過ぎの娘が50幾つの父親と暮らしたいわけじゃないから、これも別世帯として、結局3世帯とカウントされる。
こうやって、世帯というものは、その時の情勢によって大きく変わるものですよね。逆に、人口それ自体はものすごく確実なものですよ。だから、日銀のこの言い分を、僕はもう全く理解できない」

▲「自然利子率」論文の「5 有効性チェックと敏感性分析」の抄訳 https://bit.ly/2La7DTX
田代「それはそうかもしれませんが、ただ、論文は将来50年の見通しでしょう? 仮定次第では、途中で反転増加するかもしれない。なにか劇的に日本で多産化傾向が発生するとか、あるかもしれない。レンジを長く取れば、予見は確かに難しいと思いますよ。
ただ、おっしゃる通り、世帯数のほうがもっと難しいはずです。家族形態がどう変わるかはもちろん、税制ですよね。税制によって、集まって住んだほうが税負担が軽くなるというのであれば、みんなそうしますよね。まあ、論文自身も、世帯数によって把握できるのは『先行き数年間の見通し』と留保をつけていますけどね」
岩上「そもそも『予見不可能』なんて決めつけちゃってますけれど、仮に、ここずーっと何十年も続く少子化傾向に劇的な変化がおとずれ、出生率が上がったとしましょう。でも、すでに存在している人間の数は決まってますから、例えば100万人のある世代が3人ずつ子どもを生むようになったとして、次の世代を構成する人口の山はこのぐらい、というふうに、見通しがつくはずですよね? それを、全部『予見不可能』で切り落としちゃっていいのか、知的怠慢じゃないのか、と僕は思うわけです。
たとえ、何か変化が起こってすごい多産傾向になったとしても、300万人いる女性から5人の子どもが生まれるのと、その世代が100万人を切ってしまっていて50万人の女性から5人が生まれるのとでは、人口の山の大きさが全然違いますよね。こうやって、なだらかに、どんどん縮小していくということが予想できるはずじゃないですか」
田代「ま、僕は日銀に好意的であるわけでも何でもないけれど、あえて彼らの考えを推し量るとすれば、移民受け入れが起きたときのことを考えてのことかもしれないですね。
本格的な移民受け入れをやれば、生産年齢人口が劇的に変化しますよね。万一、1千万、2千万という規模で移民を受け入れる状況にでもなれば、それはもう全く違う状況が生まれますから、彼らとしてはそこに触れたくなかったかもしれない。
彼らはおそらく、移民受け入れをしないケースとするケースという、二つのケースを周到に想定してモデルを組んでみたと思いますよ。でも、そこまでやってしまうと、政治的に極めてセンシティブな問題に触れてしまうから、『予見不可能です』と一言添えるだけにとどめた可能性が考えられます。
岩上「そうか、ぜんぜん気付かなかった」
田代「もし日銀が、『3千万の移民受け入れをやれば?』なんてことを言ってしまったら、もう大変なことになりますよ。総選挙の争点がぜんぶ変わってしまいます。おそらくそういうこともあって、そこには触れまいとしているんだ、と僕は解釈しますね。
あの優秀な人たちが、色々なことを考えていないはずはないですよ。あれは、いわば政治的な『お守り』ですね。生産年齢人口について、そこのところは全部政治にお任せします、と」
岩上「ということは、この『変動自体は』予見不可能って、つまるところ『政治の変動が』予見不可能だと言っているにすぎない、ということになりませんか」
田代「そういうことにもなりますね。年寄りを優遇するのはもうやめて、出産適齢期の女性に最大限に優遇するよう日本の福祉政策を大転換するとか、彼らはいろいろケース分けしてシミュレーションしているかもしれません。でも、それを言ってしまうと、政治的にはかなりややこしいことになる」
(※66)江戸時代の人口は約3000万人でほぼ一定:
江戸時代の日本の人口規模を知るには、諸大名による戸口調査(「人畜改」「棟付改」「人別改」等と呼ばれた)の記録や、キリスト教信仰を取り締まるため世帯ごとに各家族や奉公人が所属する宗派・寺院を記した「宗門人別改帳」、そして、1721年に初めて実施され、1726年から6年に一度行われることが制度化された、江戸幕府による全国人口調査「子午改」の記録などが、重要な手がかりとなる。
これらの資料に基づく推計によれば、江戸幕府成立直前の1600(慶長5)年に1227,3万人だった人口は(平安時代末期以来の荘園制の解体および隷属農民の小農としての自立に伴う婚姻構造の変化によって)、1721(享保6)年には3127.8万人と、120年ほどで実に2倍半へと急増。その後人口増は止まり、以後150年にわたって概ね3000万人程度で推移していた(その背景として、18世紀に世界規模で起こった寒冷期と飢饉、生活水準を維持するための産児制限(堕胎や間引きを含む)などが指摘されている)。
明治時代に入っても、しばらくは江戸時代の人口規模を維持していた(近代的戸籍制度がスタートした1872(明治5)年の人口は3481万人)が、その後、1890(明治23)年は4385万人、第一回国勢調査の1920(大正9)年には5596万人と、日本は再び急速な人口増加期に入っていく。
参照:
・鬼頭宏『人口から読む日本の歴史』講談社学術文庫、2000年
・縄田康光「歴史的に見た日本の人口と家族」『立法と調査』No. 260、2006年10月【URL】https://bit.ly/1n3WYWJ
(※67)優生保護法:
1948年から1996年まで施行されていた、不妊手術および人工妊娠中絶に関する事項を定めた法律。
第1条に「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする」とうたわれているとおり、(1)戦前来の優生学的見地(人類の遺伝的素質の向上を図るため、結婚制限や断種等を通じて望ましくない遺伝因子を排除すべしとする考え方)から「遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患若しくは遺伝性奇形を有」する者に優生手術(不妊手術)や人工妊娠中絶を施すことを認める、(2)引揚・復員に伴い急増する人口を抑制するため、また、強姦等を通じて望まぬ妊娠をした母体を、違法で危険な堕胎から保護する目的で、妊娠中絶を合法化する、という二つの側面を有していた。
1949年の改正で経済的理由による中絶が認められ、さらに1952年には審査手続きも簡略化されて妊娠中絶が急増氏、人口急増に歯止めをかけた。1949年には10万件だった中絶数は1953年に100万件を突破し、以後1961年まで年間約104万件から117万件、対出生比52.2%から71.6%という高い水準で中絶が行われた。
同時に、障害を抱える人々に対する強制不妊手術が横行し、その数は1万6500件にも上るとされる。人権団体や障害者団体の運動により、1996年に同法から優生に関する条文は削除され、「母体保護法」に改定されたが、強制不妊手術の被害者たちに対する謝罪や賠償はいまだなされておらず、各地で運動や訴訟が続いている。
参照:
・Wikipedia「母体保護法」【URL】
・縄田康光「歴史的に見た日本の人口と家族」『立法と調査』No. 260、2006年10月【URL】https://bit.ly/1n3WYWJ
・東洋経済ONLINE「強制不妊手術の問題が今なぜ注目されるのか 『優生保護法』子供を産めなくする国策の愚」2018年4月26日【URL】https://bit.ly/2TU2ZtD
・NHKハートネット 福祉情報総合サイト「旧優生保護法ってなに?」2018年5月30日【URL】https://bit.ly/2FNf7b6
(※68)英語版の原文(および6月13日発表の日本語版)における該当箇所は次の通り:
“Our baseline setting assumes that the growth rate of the working-age population follows a stochastic trend, and its entire variations are unanticipated. In practice, however, households are to some extent knowledgeable about the prospects for the demographic landscape in the years ahead. We therefore relax the baseline assumption, and study how changes in the predictability of population dynamics alter the estimates of the natural rate and its drivers.” (p.30)
(「ベースライン・モデルでは、生産年齢人口成長率が確率的トレンドに従っている ため、その変動の全てが予測できないとの仮定を置いている。しかし、実際には、 家計は先行きの人口動態をある程度は見通すことができる。そこで、ベースライン・ モデルの仮定を緩め、人口動態の予見性の度合いに応じて、自然利子率の推移や決 定要因の推計値がどの程度変化するのか検証する」(p.28))
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-6 “Natural Rate Interest in Japan ?Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model?“ Yosuke Okazaki and Nao Sudo, March 2018【URL】https://bit.ly/2TzKCea
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-3「わが国の自然利子率ーーDSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別ーー」岡崎陽介・須藤直、2018年6月【URL】https://bit.ly/2MPASu1
岩上「僕らがあの日銀の言い草を到底受け入れられないと思ったのはですね、他ならぬ日銀自身が15年前に出していた、次のような論文を見つけたからなんです。2003年9月発表の、日銀ワーキングペーパー『我が国の人口動態がマクロ経済に及ぼす影響について』です(※69)」

▲「わが国の人口動態がマクロ経済に及ぼす影響について」 https://bit.ly/2L6K7XG
田代「これ、非常に有名な研究論文なんですよ。今の人口動態が将来も続いた場合、現行の社会保障制度は維持できないこと、さらに就業者数も減少し、家計貯蓄率も低下することを、2003年の時点で明らかにしたものです。オーバーラッピング・ジェネレーション問題ですね。要するに、年寄りは貯蓄を取り崩していく一方だから、若い人がどんなに貯蓄しても、経済全体では貯蓄率は下がっていくということが、この時点で確認されているわけです」
岩上「そうなんですよ。先輩がこうやってすでに言ったことを確認しておきながら、『なんだ、今の日銀のあの言い草は』と、僕らは思ったんです」
田代「ある意味、非常に単純なモデルを使用しているんですが、少子高齢化で労働投入は減りますよね。貯蓄率が下がるということは資本蓄積も減るわけです。その結果、経済成長率が低下するということが見通せる、と。結論として、人口減少はマクロ経済の成長率を低下させる、というものです」
岩上「すでに見通していたんですね」
田代「はい、ちゃんと2003年に。だからこそ、社会保障制度をどうやって維持するのかということが、長いこと大問題になってきたわけじゃないですか」
岩上「それならば、早い話、少子化対策を即急に打つべきだという結論に至るはずなのに」
田代「なのに、日本の政治は、その後もこれをずっと放り投げたままなんです」
岩上「そうなんです。この論文が発表されたこの時期、私もちょうど(少子高齢化・人口減少と経済の長期停滞についての)原稿を書いたりしていたんですが、その少し前に現れてきた民主党が、初めは小さなグループで、特段に期待していなかったんですがね、少子化問題に取り組むと、わりと早くから言っていたんです。
そして、政権交代できるところまで大きくなった時も、その問題意識は残していた。にもかかわらず、与党になって、今度は自分たちが政府というものをコントールする段になると、野党となった自民党からの攻撃もあって… 僕、当時の政府の人たち(民主党政権のメンバー)とも話したんです。そしたら、モデルをそれこそ延々説明した挙げ句、『だから生産性を上げるしか手はないんです』って。
『ちょっと待った!「生産性」云々の前に、その大前提の、子どもを増やすっていう話はどうなるんだ!』って噛み付きましたらね、『いやいや、それは無理なんです』って話をするんですね。『ああ、これはもう腹を決めてるな』と。生産性の上昇なんて言っても、実際はできないじゃないですか。そうやって、極めて政治的に、可能性を潰されてきた」
田代「この日銀論文も明言していますよね。人口動態の変化に伴う就業者数=働く人の数の減少を打ち消そうとして、高齢者や女性を動員してさらに移民を受け入れる、出生率も劇的に改善する、という極端な条件を設定しても、経済成長率へのマイナスの影響を『中立化する』=なくすことは難しい、と(※70)。それほどに、少子高齢化のインパクトは大きいということなんです。
結局のところ、少子化を食い止めて、外国人を受け入れて、なんて言っても、今みたいにただ単身赴任みたいにして日本にやってきて、しばらくしたら帰ってください、なんてやり方じゃダメなんです。家族ぐるみで受け入れるということをしない限り、少子化は食い止められないとなれば、問題の根幹は変わらないと、この有名な論文はそう言っているわけですよね」

▲(続)「わが国の人口動態がマクロ経済に及ぼす影響について」https://bit.ly/2Xlb14M
岩上「だけど、それをどこかで諦めてしまった。議論らしい議論もせず、むしろ民主党が言ってきたのは、『子ども手当』(※71)をなんとかするんだと。結局、『いや、そんなこと話にならない』ということになって、大企業偏重の政策を採るという。お金をどこに使ったかといえば、日本の民族再生産のためでなく、気が付けば輸出大企業の内部留保として溜め込まれた(※72)。
この日銀論文が発表されて15年、もし民族再生産のためにお金が使われていたら。大企業が溜め込んでいる内部留保全部とは言いません、せめてその一部だけでも使われていたら、若年人口は増えてたと思うんですがね」
田代「この論文で、問題の本質はすでに突かれていた。なのに、『生産性』を上昇させればいいんだとは、まさに戦前と同じです。とりわけ、テクノロジーに依存するという発想」
岩上「戦艦大和を造ればいいんだ、みたいな」
田代「もっと救いようがなかったのは、エンジン『誉(ほまれ)』ですよ(※73)。『中島飛行機』が開発した航空エンジンなんですが、これが世界最高レベルの性能でしてね、『スピットファイア』(※74)や『メッサーシュミット』(※75)ですら相手にならないような、超強力エンジンなんですね。
たしかにそれは、実験室ではすごかった。問題は、日本の工業水準がそれほど高くなくて、そんな精密なエンジンを大量生産できなかったこと。でも、試作段階でそのデータを見た日本海軍や日本陸軍がすっかり舞い上がってしまって、なんと陸軍も海軍も、その『誉』エンジンだけで通しちゃったんです。まだ実用化されていない段階でですよ?日本陸軍は『大東亜決戦エンジン』、日本海軍は『太平洋決戦エンジン』と、各々名前をつけて。
結局のところ、それはものすごく複雑な機構だったんですよね。だから、いざ大量生産という段になっても、その時はすでに工員も次々と徴兵されていなくなっていましたから、動員された学生や主婦が作る。もう、精度が滅茶苦茶に悪いものしかできなくて。しまいには、エンジン『誉』の稼働率は40分の1ぐらいまで落ちてしまったんです。40機出撃したら39機は落っこちる。エンジンが止まって。あるいはそもそも飛び立てずに。
要するに、それは当時の日本の工業水準を超えていたわけです。実際、アメリカが鹵獲(ろかく)した『誉』エンジンを自国の最新鋭の部品に替えて、設計通りちゃんとハイオクタンガソリン(※76)を使ったら、日本はハイオクタンガソリンがなくなってしまいましたから、普通のガソリンを使ってたんですが、なんとあの『マスタング』(※77)よりも高速で飛べたんですよ。
確かに、設計した技術者は天才だった。しかし、残念なことに、それを実現する工業的基盤が日本にはなかった。なのに、軍がそのエンジンに賭けて、日本は大敗北したんですね。『零戦』の後継機が出なかったことには、そういう背景があります」
岩上「『零戦』には『誉』を載せていたんですか?」
田代「『零戦』に搭載されていたのは『栄(さかえ)』(※78)です。『誉』は『栄』の次のエンジンとして開発されたんです。いずれにしても、しかるべき工業的基盤もないまま、陸海軍は試作段階の『誉』に飛びついた。テクノロジーに飛びついたんですよ、『設計図通りに大量生産できれば』って。
これ、今もそっくりですよね、『生産性が向上すれば』と。『?すれば』、『?すれば』。『たられば』で行動する風潮は今の政治家も同じです。そのくせ、『仮定の話には答えられません』ってすぐ言いますよね」
(※69)日銀ワーキングペーパー「我が国の人口動態がマクロ経済に及ぼす影響について」:
2003年9月に発表された「日本銀行ワーキングペーパーシリーズ」No.03-J-1「わが国の人口動態がマクロ経済に及ぼす影響について(神津多可思・佐藤嘉子・稲田将一)」(【URL】https://bit.ly/2LCc0sx)のこと。
「少子化・高齢化が経済活動に及ぼす影響が実生活においてより現実的なものとして感じられるようになっ」た今、「人口動態がマクロ経済に及ぼす影響について、非常にラフなものであっても何らかの目途を付けておくことには意味がある」との問題意識のもと、「人口動態の影響が最も顕著に現れるとみられる、社会保障制度、労働市場、家計の消費・貯蓄バランスの3つの分野を対象」に、「人口動態の一次的影響だけに焦点を絞り、多くの重要な変数については変動を考えない」とした簡単なモデルを用いて、「今後の人口動態が、いつ、どの程度の影響をマクロ経済に与えるかをごく大づかみに」提示。
そのうえで「労働投入の減少、資本蓄積の減少から、マクロの経済成長も低下する可能性がある」こと、さらには「バランスのとれた人口構成を前提とする社会保障制度は、今後の人口動態に伴って、現行のまま制度を維持することが著しく困難化する」ことを明らかにし、人口減少問題の再考を世に促す。
(※70)日銀2003年論文「労働人口減少の経済成長率へのマイナスの影響を中立化することは困難」:
社会保障制度、労働市場、家計の消費・貯蓄バランスの3つの分野を対象に、人口動態の変化が今後の日本経済にいかなる影響を与えるか、単純化したモデルを用いて分析した「日本銀行ワーキングペーパーシリーズ」No.03-J-1「わが国の人口動態がマクロ経済に及ぼす影響について(神津多可思・佐藤嘉子・稲田将一)」(【URL】https://bit.ly/2LCc0sx)。
今後の人口動態により「マクロの経済成長が下押しされる」という推計結果とともに、これを「食い止めるための仮想的ショック」を加えてのシミュレーションも行ったうえで、「高齢者・女性の就業率、移民受け入れ、出生率について、極端な条件を設定しても、成長率へのマイナスの影響を完全に中立化させることは難しいことも分かった」と報告している。
すなわち、(a)就業率は、男性就業可能年齢層において失業がなくなり、女性就業可能年 齢層において米国並みに上昇し、高齢層において就労意欲のある者が全て就労するところまで上昇する、(b)移民受け入れの規模は、EU15か国の平均(毎年人口の 0.22%)まで、2005 年以降の10年間をかけて拡大する、(c)出生率は、人口の減少がほぼ止まる女性1人が2人の子供を持つという水準まで2005年以降の20年間をかけて回復する、という3つの仮想条件を加えたうえで、人口動態の変化が日本経済に与える負の影響を中立化できるか検証。かくも「極端な条件を設定してもなお、人口動態に伴う成長率の低下はフルには回避できない」という結果が導き出されたというのである(p.21-24)。
(※71)「子ども手当」:
12歳以下の子どもを対象とし所得制限を設けていた従来の「児童手当」を改め、15歳以下の子どもを扶養するすべての保護者に養育のための手当を支給するとした民主党政権の政策。
第45回衆院総選挙(2009年8月18日公示、8月30日実施)においてマニフェストの柱のひとつに掲げ、政権交代を果たした鳩山由紀夫内閣が2010年4月1日から実施した。2010年度および2011年度前半は月額1万3000円が、2011年度後半は年齢や出生順位によって月額1万円~1万5000円が支給されたが、財源の問題や制度の不備、そして、2011年3月11日に起こった東日本大震災の復興財源確保のために、野田佳彦内閣のもとで廃止。2012年4月1日から従来の「児童手当」に戻された。
参照:コトバンク「子ども手当」【URL】https://bit.ly/2W047Bo
(※72)富は少子化対策に使われず、企業の内部留保として溜め込まれた:
「内部留保」とは、企業が事業を通じて得た利益のうち、配当や設備投資などに使われず蓄えとして企業内部に蓄積された部分のこと。
1960年から増加を続けたのち、90年代前半のバブル経済崩壊以降は横ばい傾向となっていたが、2006年度に急上昇して再び増加トレンドに。
アベノミクスが始まった2012年からは増加ペースがさらに加速し、毎年過去最高を更新し続けながら、2016年度末にとうとう400兆円を超えた。翌2017年度はそのさらに10%近くも増えて446兆4844億円へ。金融・保険業を加えると企業の内部留保は500兆円超となり、日本のGDP(国民総生産)1年分に匹敵する額となった。
だが、法人税減税など、アベノミクスの大企業優遇政策によって企業利益は拡大し続けているにもかかわらず、労働分配率はアベノミクス前の70%前半から低下の一途をたどり、17年度の賃金は前年度に比べて5万円以上の減額。つまり、大企業は増大する利益を人件費に回さず溜め込む一方なのであり、批判の声も大きい。
このことの背景には、人口減少による経済成長の鈍化と、アベノミクスによる円高・原油安がいつまで続くかわからないことに対する、企業の危機感があると指摘されている。
参照:
・日経ビジネス「企業の「内部留保」が4年で100兆円増加(磯山友幸)」2017年9月8日【URL】https://bit.ly/2ZoRWgk
・プレジデントオンライン「なぜ日本企業は内部留保を増加させるのか 企業にお金を使わせるには(竹中明洋)」PRESIDENT 2018年1月15日号【URL】https://bit.ly/2KSj83N
・しんぶん赤旗「大企業内部留保 425兆円超 前年度から22兆円増 従業員賃金は減」2018年9月4日【URL】https://bit.ly/2pxbyxP
・現代ビジネス「企業の「内部留保」史上最高の500兆円突破で起きること(磯山友幸)」2018年9月6日【URL】https://bit.ly/2VZZtjA
・BIZTIPS「BIZトピックス「企業の内部留保」をウォッチ!」2018年9月17日【URL】https://bit.ly/2vcIZZD
(※73)エンジン「誉(ほまれ)」:
「誉(ほまれ)」は航空機・航空機エンジンメーカーの「中島飛行機」(富士重工業(のちのSUBARU)、富士精密工業(のちのプリンス自動車工業、1966年に日産自動車と合併)の前身)が太平洋戦争中に開発、海軍の偵察機「彩雲」、戦闘機「紫電」および「紫電改」、爆撃機「銀河」、陸軍の四式戦闘機「疾風」等に 搭載された、空冷式レシプロエンジン(燃料の燃焼エネルギー=膨張力をピストンの往復運動に変換し、さらにそれを回転運動のエネルギーとして取り出す仕組みの原動機)。
設計者は、当時は20代半ばの新進気鋭の技師で、戦後はプリンス自動車技術者を経て日産自動車専務となった中川良一(1913-1998年)。ボア×ストローク130×150mmの気筒18本を星形2列に配置、外径1.2m、長さ1.8mの円筒形をしたエンジンで、重量850kgという軽量と総排気量35,800cc、2000馬力(3000回転)という強力さを実現。これを搭載した偵察機「彩雲」が、アメリカの「グラマンF6F」戦闘機の追跡を振り切ったエピソード(「われに追いつくグラマンなし」)は有名である。
試作段階でその高性能に惚れ込んだ陸海軍が、対米決戦の切り札として実戦投入を急がせたが、そもそもが当時の最高水準を目指して「熟練工が細心の注意を払い、至れり尽くせりの芸術品のようにしてつくった」エンジン。「高負荷、高温、高圧、高回転ですべての面できわめてデリケート」さを要求するにもかかわらず、敗戦色が日に日に濃くなる中で生産のための物資も熟練工も不足してゆき、本来の性能を発揮できぬまま終わった「悲劇のエンジン」である。
参照:
・Wikipedia「誉(エンジン)」【URL】https://bit.ly/2VKXCDa
・Wikipedia「中島飛行機」【URL】https://bit.ly/2FjgH52
・北山敏和の鉄道いまむかし「紫雲改 日本海軍、最強の戦闘機(碇義郎著)>5 二〇〇〇馬力エンジンの戦い」【URL】https://bit.ly/2WTi0hN
・前間孝則『悲劇の発動機「誉」ーー天才設計者・中川良一の苦闘』草思社、2007年
(※74)スピットファイア:
1930年代に英国の航空機メーカー「スーパーマリン」社が開発、第二次世界大戦中に英空軍を始めとする連合軍の主力戦闘機として用いられた単発レシプロ単座戦闘機。
英国のエンジン・自動車メーカー「ロールス・ロイス」社が開発した液冷式V型12気筒ガソリンエンジン「マーリン」(最終的には1700馬力超を達成し、軍用の航空用エンジンとしては最も大きな成功を収めた)を搭載するとともに、楕円形・薄型の特徴的な主翼で高速を実現。操縦性にも優れ、1940年7~10月の「英国空中戦」を始め、数々の戦闘で活躍した戦闘機である。
参照:
・Wikipedia「スーパーマリン スピットファイア」【URL】https://bit.ly/2IqNBUu
・Wikipedia「ロールス・ロイス マーリン」【URL】https://bit.ly/2GieHty
(※75)メッサーシュミット:
ナチス・ドイツのもとで「バイエルン航空機」(のちに「メッサーシュミット」社と改称)が開発・製造、第二次世界大戦でドイツ空軍の主力戦闘機となった、単発レシプロ単座戦闘機「メッサーシュミットBf109」シリーズのこと。
低位置・単葉の翼、全金属製セミモノコック構造、引き込み式主脚、密閉式風防など、「近代的な戦闘機の標準スタイルを確立した機体」として知られる。
エンジンとしては、ドイツの自動車メーカー「ダイムラーベンツ」社の液冷式V型12気筒レシプロエンジン「ダイムラーベンツDB605」を標準装備。最大出力約1800馬力というその強力エンジンと機体の軽さ(約3000kg)とで、時速630キロの最大速力と高い上昇力・急降下性能を実現し、ダイブ&ズーム(一撃離脱)戦法で連合国軍のパイロットたちを恐れさせた。
参照:
・時事ドットコム「メッサーシュミット Bf109 写真特集」【URL】https://bit.ly/2PfqA7A
・Wikipsdia「メッサーシュミット Bf109」【URL】https://bit.ly/2Gm9TDi
・Wikipsdia「ダイムラーベンツ DB 605」【URL】https://bit.ly/2KKswq8
(※76)ハイオクタン(高オクタン価)ガソリン:
飛行機や自動車などに原動機として搭載されているガソリンエンジンは、シリンダー内に取り込んだ混合気(燃料を含んだ空気)を燃焼させ、爆発のエネルギーをピストンの往復運動に変換、そのエネルギーをクランクシャフトにより回転力に変える。
燃焼は点火プラグによる火花点火を通じてなされるが、その際、プラグから離れた部分の混合気は未燃焼のままシリンダー壁面やピストンに押し付けられて高温高圧になり、限界点を超えると一気に自己着火し、「ノッキング」と呼ばれる異音や振動を引き起こしてしまう。この時生じる衝撃波は、エンジン内部品の破損の原因となる。
ハイオクタンガソリン(高オクタン価ガソリン)は、これを防ぐために自己着火のしにくさ=アンチノック性が高まるよう改質したガソリンであり、その度合いはアンチノック性が高いことが知られる石油成分「イソオクタン」(石油中に含まれる炭素8個の飽和炭化水素のひとつ「オクタン」の異性体)を「100」とした値=オクタン価で測られる。
参照:
・MOBY「レシプロとは?レシプロエンジンの意味と構造・仕組みまで徹底解説!」2016年8月5日【URL】https://bit.ly/2VewaMK
・自動車メディアEX「エンジントラブル「ノッキング」とは?もしおきたら…?」2016年1月15日【URL】https://bit.ly/2Use99o
・Wikipedia「ノッキング」【URL】https://bit.ly/2Gv2Zx1
・Wikipedia「高オクタン価ガソリン」【URL】https://bit.ly/2DiLTAw
・コトバンク「オクタン価」【URL】https://bit.ly/2KOPLzr
・コトバンク「イソオクタン」【URL】https://bit.ly/2UH5C7w
(※77)マスタング:
1940年にアメリカの航空機メーカー「ノースアメリカン」社が開発、アメリカ陸軍航空軍などが運用し、第二次世界大戦の様々な戦闘で活躍した、レシプロ単発単座戦闘機「P-51マスタング」のこと。
空気抵抗を最小にした翼形に、途中から導入した英国「ロールス・ロイス」社製のV型12気筒ガソリンエンジン「マーリン」のパワーが加わり、7600mの高度で速度700km/h超、航続距離2000km以上を実現。戦略爆撃機の護衛や対地攻撃で目覚ましい活躍をみせ、第二次大戦で最も優れた戦闘機と評される。
機体の生産・整備も比較的低コストであり、戦後も量産されて様々な国で採用された。
参照:Wikipedia「P-51(航空機)」【URL】https://bit.ly/2Grh1hX
(※78)エンジン「栄」:
「栄(さかえ)」は1930年代半ばに日本の航空機・航空エンジンメーカー「中島飛行機」(1917-1945)が開発に着手、1939年に完成・量産に入った空冷複列星型14気筒レシプロエンジン。
1925年にライセンス生産契約を取得した英国ブリストル社の星型9気筒エンジン「ジュピター」の技術を基に1932年に完成した、空冷式単列星型9気筒レシプロエンジン「寿」を改良して生まれたエンジンである。
コンパクトなボア・ストローク(130×150mm)に500kg代という軽量さ、吸排気弁や燃焼室、冷却フィンなど無理のない設計で生産性も高く、さらには軸受の材質や潤滑などの研究成果もあって最高回転数2.700rpm・離昇馬力1000hp(改良型は1300hp)を実現。
1939年に海軍で採用され、以後、零式戦闘機や一式戦闘機(隼)などの多くの機体に採用された。先に話題となったエンジン「誉」は、この「栄」にさらなる改良を加えたものである。
参照:
・Wilkipedia「栄(エンジン)」【URL】https://bit.ly/2GBOmbh
・古典航空機電脳博物館「中島物語>中島の発動機について・・・東京工場(荻窪)の活躍」【URL】https://bit.ly/2IRmt0u
田代「話を戻して、生産年齢人口の推移については、日銀の『実質金利』論文が次のようなグラフを提示していますね(※79)。

▲青太線は生産年齢人口成長率(日銀)https://bit.ly/2XlxUoN
1970年あたりに『エントリー・オブ・ベビー・ブーマーズ』とあって、生産年齢人口の成長率が高くなっている部分がありますが、つまり団塊世代が18歳を超えて社会に入った時期。70年安保は彼らが担ったわけです。
岩上「68年から70年の全共闘ですね」
田代「で、その団塊ジュニアが大人になったのが、90年代半ば。グラフでは『エントリー・オブ・セカンド・ベビー・ブーマーズ』とあるところ。でも、このときはすでにバブルが崩壊した後で、彼らは子どもを熱心に作らなかった。その後、生産年齢人口成長率はどんどん落ちていって、2010年半ばの『イグジット・オブ・ベビー・ブーマーズ』、つまり団塊世代が定年を迎えていった時期にさらにガクンと下がる。
さらに、そこから先が『プロジェクション』=予想値というわけですが、少し持ち直すものの2020年代前半からまた下がり続けていって、2040年に底を打つ。『イグジット・オブ・セカンド・ベビー・ブーマーズ』とありますね、つまり団塊ジュニア世代が定年退職を迎える時です。これを過ぎれば生産年齢人口も持ち直し、実質金利の低下も落ち着くだろうというわけです」
岩上「ベビーブームの世代もあれば、僕なんかのようにその谷間の世代もあるわけですよね。そういう谷間の世代も全部平均して出生率が2.0なら、定常人口として十分ですから、『労働人口はじわじわ上がっていきます』という未来を描いてもいいですよ。でも、出生率、(どの世代を通じても)全部低いじゃないですか。ということは、生産年齢人口も実質金利も下がるしかないわけですよね? なのに、なんでこれが『上がる』なんて予想が出せるのか、全く意味がわかりません」
田代「まあこれ、ここまで我慢すれば年金問題とかもクリアされて、日本は大復活だ! みたいなことが、よく言われますよね。書店なんかにもそういう謳い文句の書籍が並んでいますし」
岩上「そんなこと言ったって、人口ピラミッドの三角形がちっちゃくなるだけですよ?」
田代「予測も長期になると、本来ならいろんなパスを考えるべきですよね。途中でどんな現象が起こるかで、もたらされる効果も違ってきますから。色々なケースでの予測を出して欲しいところなんですけどね」
岩上「そうですよ。先にも話題になったように、空家も増えて、もう一度バブル崩壊も起きるでしょうし。
実際、田代さんもお書きになっておられるように、海外投資家が株価に連動するETFを空売りしているそうですね。『仮に改竄問題で安倍政権が倒れようが、日本経済が回復基調を保てていれば株価は持ちこたえられます。それなのに、今株価が下げ止まらないのは、日本株売買の最大プレーヤーである海外投資家がそう考えていないから』『これまで安倍政権は日本経済の実態を誇張して見せてきましたが、今回の公文書改竄問題で政権のトリックの化けの皮が剥がれ落ち、もうごまかしが効かなくなると考え出した』、と(※80)。
やっぱり影響出ているじゃないですか」

▲海外投資家が株価に連動するETFを空売り https://bit.ly/2ZvV2hI
田代「外国の機関投資家たちが、『ええっ、公文改竄!? じゃ、他のやつはどうなの!?』と考えるのは当然ですよね」
岩上「そうですよ。『こいつ信用できねぇな』って話になりますよね。『中国とか北朝鮮と変わんないの』って話になっちゃう」
田代「『いやいや、改竄は森友学園に関することだけですよ』なんて弁解しても、『それ、証明できますか?』と尋ねられます、必ず」
岩上「『しかも、処分もされないじゃないか』って話になる。『あれはイレギュラーな出来事だった。悪いのはあの数人だけだ』というわけにいかない」
田代「海外の多くの機関投資家たちが、日本経済のリアルな状態にみんなが気付く前に、賢く『先回りして売り抜けてしまおう』と考えれば、それはもう株価はズルズル下がっていきますよ。というのも、日本株を保有しているのは圧倒的に日本人ですが、積極的にこれを売買しているのは、ほとんどがこの外国人投資家たちなんですから。彼らからすれば、公文書改竄なんて、びっくりですよ。『日本の経済統計、あれは本当か?』となりますよ(※81)」
岩上「だから、こうやって外からの目があっての話なのに、内々の論理だけでやっててどうするのって話ですよね。日本の経済や社会の見通しについて、外国の知識人はみんな、日本の人口問題に言及してますよね。トッドさんなんかにも、『でも日本は聞く耳を持たない。将来どうなろうと、それは日本が自分で選んだ道だからな』なんて言われてます(※82)。
これは田代さんが見つけてこられた資料ですが、そもそも国立国会図書館が、5月24日の『調査と情報 目で見る異次元金融緩和の成果と課題』で、日銀に対する市場の信頼が失われていると報告しているとのことですね。
『異次元金融緩和の下では、長期国債やETFが大規模に買い入れられ、マネタリーベースが大幅に拡大した』が、『2%の物価目標は実現されていない』。『アベノミクスの下での長期にわたる景気回復については、株価の上昇等は見られるものの、好景気の実感に乏しいとの声があり、賃金の引き上げ等を通じた消費の拡大や生産性の向上が必要であると指摘される』。『異次元金融緩和は、我が国の財政や金融市場に様々な副作用をもたらしていることが指摘される。今後、金融緩和の出口に向けて、日本銀行の政策運営に対する市場からの信頼を高めていく必要があると考えられる』、と(※83)」


▲「調査と情報 目で見る異次元金融緩和の成果と課題」 https://bit.ly/2KuY0zGhttps://bit.ly/2ZztLec
田代「非常におとなしい表現ですが、要するに、異次元金融緩和は上手くいかなかったですね、ってことです」
岩上「真っ当な指摘だと思いますね。こういうグラフも載せられています(※84)」

▲「マネーストックの伸びは緩やかなものにとどまり、量的緩和の効果は、必ずしも明確でない」https://bit.ly/2N1iIcf
田代「下の白黒の部分がマネタリーベースの推移。異次元金融緩和が開始された2013年4月4日を境に、キューッと上がっているでしょう? 一方、マネーストック、マネーサプライとも言われますけど、これの増え方はほとんど変わっていませんよね。これは民間銀行が貸出しているお金の量ですが、つまり借りてもらえてないということ。そりゃ、借りる側の企業だって二の足踏みますよ」
岩上「貸し手と借り手が、お互いにこれはいけるなと思って合意に至るわけですもんね」
田代「日銀がまずバーっと通貨供給量を増やしましたよね、でも、グラフのように、日銀の当座預金残高だけが、ぐんぐん増えているということは、結局のところ、日銀がカネを配っても銀行は日銀にまた積み直しているわけですよ。これはまあ、厳しい表現を使うなら、『ブタ積みしている』と言うんですが」
岩上「『ブタ積み』?」
田代「花札用語で、ただ札が溜まっていく状態のことをいうんですけどね(※85)。要するに、量的緩和の効果は、悲しいことに見られないということですね。国会図書館もこうやって『副作用をもたらしている』とはっきり言っていますでしょ? 財政規律は失われ、地方銀行は存続の危機に陥り、メガバンクも… こんな状態で、では出口に向けて『市場から信頼されてますか?』と。
出口は難しいですよ。ほんとうに『行きはよいよい、帰りは恐い』です。その『帰りは怖い』方は、日本銀行はよっぽど政策運営に対して信頼されていなければ、みんなついて来れないわけですよ。『信頼を高めていく必要がある』という言い方で、国会図書館は、『現状ではその信頼は失われている』と言いたいわけですね」
(※79)グラフ「生産年齢人口成長率の推移」:
日銀「実質金利」論文(No.18-E-1、日本語版はNo.18-J-4)に図5(2)として掲げられている、1960年から2060年までの生産年齢人口成長率の推移を示したグラフ。生産年齢人口成長率は、2000年代以降、団塊の世代や団塊ジュニア世代など、人口規模が大きい世代の労働市場への参入や退出に大きく影響を受けながら、2040年ごろまで趨勢的に低下。その後ゆるやかに回復してゆくとの予測が示される。
参照:
・Bank of Japan Working Paper series No.18-E-1 “Population Aging and the Real Interest Rate in the Last and Next 50 Years ? A tale told by an Overlapping Generations Model ?“, Nao Sudo and Yasutaka Takizuka, January 2018【URL】 https://bit.ly/2Xe9Ukm
・日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.18-J-4「人口動態の変化と実質金利の趨勢的jな関係ーー世代重複モデルに基づく分析ーー」須藤直・瀧塚寧孝、2018年6月【URL】https://bit.ly/2T8BMaz
(※80)田代氏「公文書改竄問題で政権のトリックの化けの皮が剥がれ落ち、もうごまかしが効かなくなると考え出した」:
2018年4月3日ネット配信の『週刊現代』記事「海外投資家の『アベ売り』で、あっと言う間に株安デフレの危機到来」(【URL】https://bit.ly/2W0DZGn)に紹介された、田代氏のコメント。
記事は、2018年3月に学校法人「森友学園」の小学校新設にまつわる財務省の決済文書改竄が発覚して以来、JPモルガン証券、メリルリンチ・インターナショナル、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券といった「世界に名だたる巨大機関投資家たちが、日経平均株価指数や東証株価指数(TOPIX)の動きに連動するETF(上場投資信託)の空売り」を始めたことを報告。
「黒田東彦総裁率いる日本銀行が巨額の日本株買いに走り、株価下支えに必死になっている」にもかかわらず、投資家たちの日本株売りは沈静化する気配がないことについて、田代氏の次のような分析が紹介される。
「仮に改ざん問題で安倍政権が倒れようが、日本経済が回復基調を保てていれば株価は持ちこたえられます。それなのに今株価が下げ止まらないのは、日本株売買の最大プレーヤーである海外投資家がそう考えていないから。これまで安倍政権は日本経済の実態を誇張して見せてきましたが、今回の公文書改ざん問題で政権のトリックの化けの皮が剥がれ落ち、もうごまかしが利かなくなると考え出した。多くの人が日本経済のリアルな状態に気が付く前に、先回りして売り抜けてしまおうとしているわけです。(シグマ・キャピタルでチーフエコノミストを務める田代秀敏氏)」
(※81)このままでは日本の信用はガタ落ち、海外投資家たちが逃げ始める:
実際、インタビュー後の2019年1月、2018年の1年間に海外投資家が日本株を大量に売り越し(=買った株より売った株の方が多いこと)ていたことが、日本取引所グループの発表を通じて明るみに出た。売り越し額は5兆7000億円以上にものぼり、アベノミクスが始まって以来最大。
海外投資家たちがこのように大量の資金を日本の株式市場から引き揚げるようになった背景には、米中貿易摩擦の激化や英国のEU離脱問題といった世界経済への不安にもまして、昨年から立て続けに起きている「世界の投資家が眉をひそめる問題」(カルロス・ゴーン日産自動車会長の突然の逮捕と長期拘留、産業革新投資機構(JIC)の役員報酬をめぐる騒動、そして厚労省の不正統計といった、日本という国家の信用性を著しく損なう諸問題)があることは疑いを容れない。
参照:
・現代ビジネス「6兆円近い売り越し…!海外投資家はもう日本株を見限ったのかーー「日本の特殊性」への懸念?(磯山友幸)」2019年1月17日【URL】https://bit.ly/2Hn3JmR
・日本経済新聞「海外勢、日本株31年ぶり売り越し額に 18年度ーー日銀が同額相殺、売り買い拮抗」2019年4月4日【URL】https://bit.ly/2LE952u
・しんぶん赤旗「海外投資家の日本株売り 日銀 同額買い支え 通貨信用揺るがす 株価つり上げ政策下」2019年4月12日【URL】https://bit.ly/2Jh0yR9
(※82)トッド「日本は聞く耳を持たない。将来どうなろうと、それはもう、日本が自分で選んだ道だ」:
その著作のほとんどが邦訳されるとともに、たびたび来日し講演やインタビューに応じているフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド(1951-)は、さまざまな機会に、少子化による将来の人口減こそが日本の抱える最大の問題であり、これを放置すれば日本社会は存続できないと発言してきた。
しかし近年のインタビュー(2017年11月、パリ)では、20年前から日本人と人口動態に関する議論を重ねたきたにもかかわらず、日本はいっこうに動こうとしない、「日本人という自分たちだけで生きていくこと」と「移民を受け入れて国力を維持すること」という二つの選択肢のうち、日本は明らかに前者を選択したのだ、との失望を語っている。
参照:エマニュエル・トッドほか『世界の未来 ギャンブル化する民主主義、帝国化する資本主義』、朝日選書、2018年.
(※83)国会図書館による「異次元金融緩和」に対する警鐘:
ここで話題になっているのは、国会図書館・調査及び立法考査局が刊行する「時々の国政上の課題に関する簡潔な解説シリーズ」、『調査と情報』No.1007(2018年5月24日)「目で見る異次元金融緩和の成果と課題(大森健吾)」(【URL】https://bit.ly/2Badjr4)。
日本銀行による「量的・質的金融緩和」(「異次元金融緩和」)がスタートして5年、さまざまな経済指標の動きに照らしてその成果と問題点を確認する。その結果、「異次元金融緩和の下では、長期国債や ETF が大規模に買い入れられ、マネタリーベースが大幅に拡大したが、2%の物価目標は実現されていない」こと、「アベノミクスの下での長期にわたる景気回復については、株価の上昇等は見られるものの、好景気の実感に乏しいとの声があり、賃金の引上げ等を通じた消費の 拡大や生産性の向上などが必要である」こと、そして、「異次元金融緩和は、我が国の財政や金融市場に様々な副作用をもたらしている(中略)今後、金融緩和の出口に向けて、日本銀行の政策運営に対する市場からの信頼を高めていく必要がある」ことが指摘されるとする(冒頭サマリー)。
(※84)グラフ「マネタリーベース及びマネーストックの推移」:
国会図書館『調査と情報』No.1007(2018年5月24日)「目で見る異次元金融緩和の成果と課題」(【URL】https://bit.ly/2Badjr4 前註※82参照)の第1章「異次元金融緩和の成果の検証」第1節「マネタリーベースの拡大」に「図2」として掲げられている、1998年から2018年までの「マネタリーベース」と「マネーストック」の推移を示したグラフである。
「マネタリーベース」とは、中央銀行(日本では日本銀行)が供給する通貨のこと。市中に出回っている流通現金である「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と「日銀当座預金」の合計値で、金融機関による一般企業や個人への貸し出しの原資となるものである。
「マネーストック」とは「金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量」のことで、個人や一般法人、地方自治体などが保有する通貨(現金や預金など)の残高を集計したもの。預金と貸出が繰り返される過程で生じる「信用創造」機能によって、原資はその何倍もの預金額となるため、「マネタリーベース」よりもはるかに大きい額となる。
黒田日銀の「異次元金融緩和」は、日銀が国債などを民間銀行から大量に買い上げることを通じ、まさにこの「お金の素」(明石順平)である「マネタリーベース」を増やして人々の物価観に働きかけ、予想物価上昇率を押し上げるという経済効果を狙った政策であった。
実際、当該グラフには、それまで緩やかな上昇を続けていたマネタリーベースが、「異次元金融緩和」が導入された2013年を境に急激に上昇(2013年の146兆409億円→2018年476兆7185億円。増加率226.40%)した様子がよく表れている。
一方、マネーストックは2013年の金融緩和前後でもさほど変わっていない(2013年の833兆8735億円→2018年991兆7075億円。増加率18.90%)。要するに、マネタリーベースをどんどん増やしても貸出に回らず=需要がなく死蔵されている状況が明確に示されているわけである。
参照:
・日本大百科全書(ニッポニカ)の解説「マネタリーベース」【URL】https://bit.ly/2XUUb9v
・野村證券「証券用語解説集>マネーストック統計」【URL】https://bit.ly/2J0b2U8
・Wikpedia「信用創造」【URL】https://bit.ly/2Pwq8lB
・明石順平『アベノミクスによろしく』第1章「アベノミクスとは何か」、第2章「マネーストックは増えたか」、集英社インターナショナル、2017年.
(※85)ブタ積み:
「ブタ」とは、京阪地方の伝統的カードゲーム賭博「おいちょかぶ」における、数字「0」の呼名。「株札(かぶふだ)」40枚(「花札」を用いてもよいが、その場合は11月の「柳」と12月の「桐」の計8枚を抜く)を用い、めくり札と手札の数を合計した数の末尾の数の大小を「親(胴元)」と「子(張子)」との間で競う。最高は「9=カブ」で、「8=オイチョ」「7=シチケン」「6=ロッポウ」…. 「0=ブタ」という具合に勝利する確率は低下していく。
「ブタ積み」とは、この「おいちょかぶ」において無価値な「0=ブタ」ばかりが積み重なる様子になぞらえ、日銀が量的金融緩和を通じて民間に大量の通貨を投入してもほとんど活用されず、日銀の当座預金に無為に積み上がる一方の状態を表現した隠語である。
参照:
・コトバンク「おいちょかぶ」【URL】https://bit.ly/2ZtAZkT
・Wikipedia「おいちょかぶ」【URL】https://bit.ly/2W2I9Kv
・投資用語集「ブタ積み」【URL】https://bit.ly/2KTIXAt
岩上「この問題は、日銀の政策だけを頼みにするとか、金融緩和一本で何とかなるとか、そういう話ではないと思うんです。実際、僕はこれまでも、政策を総合的にやらなければ根本的な解決にならないと言ってきました。
人口動態と経済は、因と果のようにお互いが因になり、次に果になり、その結果がまた因になると。子供が減っていくことに何も対処せずにいれば、経済は縮小する。そうやって縮小した経済の下で、さらに何の手も打たなければ、それに合わせて子供の数もますます減っていく。こうやって二重のデフレスパイラルに陥るということに、僕は90年代の終わりから気づき始めて書いてきたんです。
最初はルポでした。『少子化とSEXと資本主義』という題の(※86)。僕、賞を取っちゃったもんですから、契約で書かなきゃいけなくなったんです」
田代「それはすごい!」

▲岩上安身の連載 https://bit.ly/2JQIpbV
岩上「不本意といえば不本意でした。フリータイトルで好きなように書かせてもらえるわけじゃありませんでしたから。『性』というお題を与えられちゃったので、ごまかしごまかし少子化の話に無理矢理持っていった。それから『日本人が消滅する日』という記事も書きましたよ。皮肉なことに、『正論』で(※87)」
田代「この時期は『正論』も立派だったんですね(笑)」
岩上「僕はその頃、フジテレビの『とくダネ』のコメンテーターをしていたもんですから、正面から論じるにはかなり制約があったんですが、そういうときにですね、『正論』の編集者に話して書かせてもらったんです。ルポを書いてくれという依頼でしたけど、ルポじゃなくて論じさせてくれと話して。これは僕も喜んで書かせてもらった。向こうも喜んでた。
ところが、読者からは、ぜんぜん反応なかったんですよ。それが僕にはすごくこたえましてね。今はネットなんかもありますから、一定の反応がありますけれど、当時はとにかく(少子化問題に対して)反応がない。『そんなの、団塊の世代がみんな他界すれば、解決する話じゃないの』みたいな感じで。『何言ってんの』『次の世代が全部、縮小再生産になってしまうじゃないか』っていろんな人に力説しても、なかなか通じなかったんですね。
専門の学者やエコノミストの人たちがこういう人口動態について考慮に入れないのはなぜか、田代さんがおっしゃってくださったおかげで、今やよくわかりましたよ。モデルを作るためなんだと。そして、これが経済学の欠陥なんだと。本当は人口動態と経済とはフィードバックの関係にあって、現状は人口減少と需要の冷え込みいう二重のデフレスパイラルに陥っているというのに。

▲20年余りにわたる問題意識 https://bit.ly/2LCGAS5
経済学の数理モデルは、労災とか環境汚染とか、何よりも人口減少という重要な問題を、外生的なものとして処理してしまう。そうした上で、『経済を活性化させるのは生産性向上しかない』とか、『金利を操作することでデフレを脱却するしかない』とか、まったくもって、根本的な問題には何も手を着けない。
モデルに合わない現実から目を背けるのではなく、人口を増やせないと社会保障システムが維持できないという現実を直視すべきじゃないか、経済学はその要請に応えてないじゃないか、と、僕としてはこういうことを申し上げたかったんです。
なのに、官庁はムチャクチャなことを言ってきました。例えば、道路の新規建設とか債務返済可能の判断は、今後の需要予測に左右されるわけですよね。その予測の基礎となる人口動態データは、国立社会保障・人口問題研究所によるんですが、それによれば日本の人口は2006年にピークに達し、その後減少に転じる、と(※88)。ほぼその通りになってるわけです。

▲日本の総人口は2006年以降、減少に転じる。しかし、国交省は交通量が増えると杜撰な予測 https://bit.ly/2ygqtkh
ところが、国土交通省は2030年まで右肩上がりで交通量が伸びる、なんて言ってたんです。なぜそんなことになったかと言えば、なんと、総人口のピークと出生数のピークを取り違えて、2006年の18年後が免許取得のピークになるだろう、と(※89)。大笑いものでしょ?
20年くらい前の話ですけれども、国交省はそんなことを言いながら、(不必要な)道路を作るとかデタラメなことをやって。要するに、自分たちの予算獲得のためだったわけです。こういう予算を、子供を増やすほうに、厚生労働省などの予算になるのかもしれませんが、振り向けていたら、状況は全然違ったはずなのに。
人口減少というものは、つまりは需要不足になるということ。ということは、それなりの人口密度を維持できていればともかく、そうではない地域は過疎化していきますよね。つまり、どれもこれも、非現実的な需要予測にもとづいて公共事業をやっているわけです。

▲人口減少=需要不足で、公共料金値上げへ https://bit.ly/2Y4Qxy8
例えば和歌山の紀伊丹生川(きいにゅうがわ)ダム(※90)。大阪・和歌山の水需要不足で建設中止になったわけですが、水需要の低下によって水道料金収入が減少するわけです。そうすると、水道料金を値上げするしかないと。さらにはこれを民営化するみたいなことまで言いだしている(※91)わけですが、ダム推進派は利水でなく治水に看板を掛け替えるとか、ごまかしばっかり(※92)。
既存のインフラはどんどん老朽化していて、ゆくゆくは全部取り替えなきゃいけない。しかし人口減少はそのまんま。インフラを取り替えるためにかかる費用は、これもう、全部税金か公共料金に跳ね返ってくる(※93)。そんなことになれば、国民は一体どうやって暮らしていけるんだ、っていう話ですよね。
黄金の60年代が出現したのも、また、その後に起こった二度のオイルショックや80年代の円高不況を乗り切れたのも、みんな人口ボーナス、従属人口が少ない状態のおかげだったわけでしょう? 前近代社会のきれいな三角形をした人口ピラミッドから、近代化の進行とともに子供の数が減っていく。その時の一時期だけ、おじいちゃん・おばあちゃんと子供の、両方少ない時期が出現する」

▲「黄金の60年代」も二度のオイルショックも80年代の円高不況も「人口ボーナス」で乗り切った https://bit.ly/2MenPEb
田代「働く世代が異様に多いっていうね。真ん中がグーッと膨らんだ」
岩上「ちょうちん型の人口ピラミッドですね」
田代「この状況は一度だけ生まれるんです。けれど、二度はないですね」
岩上「ワンチャンスなんですよ」
田代「その上に高度経済成長があったわけですね」
岩上「だから、それを『ラッキーだった』と考えなくてはならないのに、そうじゃない。『あれは人口ボーナスのおかげだった。だから今、その次に備えよう』とは考えもしない。人口ボーナスの後には『人口オーナス』(※94)の時期がくると言われます。『オーナス』とは『重荷』という意味。今、まさにその『人口オーナス』期にすでに入っているんだから、これについて真剣に考えるってことをやらなきゃダメじゃないか、と僕はもう20年くらい前に書いていたんですけどね」
(※86)「少子化とSEXと資本主義」:
講談社の月刊誌『現代』1999年3月号から14回にわたって掲載された、岩上安身の連載記事「滅びゆく国の“性と生”の現場からーー少子化とSEXと資本主義」のこと。
長期にわたって持続的に進行中の少子化(ベビーバースト)と、戦後最悪のデフレ不況とが手を携えて、日本経済は縮小再生産のスパイラルに陥り始めた。「人口減少で国民生活にゆとりができる」「年金など制度を部分的に改革すれば済む話」などといった、呑気で無責任な当時の風潮に釘を刺すとともに、人の誕生の第一のステップたる「性」の現場に密着取材。セクシュアリティの変容や生殖医療技術、性の倫理の揺らぎと市場化の現状を通して、子供を作ることの意味を読者とともに考える。
連載14回の詳細は次の通り。
(序)「「産めよ、殖やせよ」」1999年3月号、p.190~205.
(1)「「わが子、誰の子?」」1999年4月号、p.230~246.
(2)「「不倫」で急増するDNA鑑定」1999年5月号、p.196~212.
(3)「開き直る覚悟で不倫する女」1999年6月号、p.308~324.
(4)「携帯電話世代の「性の暴走」」1999年7月号、p.286~296.
(5)「電子共同体に蔓延する「孤独」」1999年8月号、p.228~244.
(6)「サイバースペースの「結晶作用」」1999年9月号、p.282~298.
(7)「「あなたの妻は風俗嬢」という日常」1999年10月号、p.276~292.
(8)「脱力系夫と風俗妻の無邪気な家庭」1999年11月号、p.230~246.
(9)「非婚の母の「偉大なる抵抗」」1999年12月号、p.276~292.
(10)「養育費不払い男を野放しにするな」2000年1月号、p.292~308.
(11)「「不妊カップル」苦悩の闘い」2000年3月号、p.298~314.
(12)「体外受精で「ここまでできる」」2000年4月号、p.266~282.
(13)「国家崩壊へのカウントダウン」2000年5月号、p.284~300.
(※87)「日本人が消滅する日」:
産経新聞社の月刊誌『正論』2002年10月号から6回にわたって連載された、岩上安身のレポート「日本人が消滅する日ーー“戦火なき有事”を前に、われわれはどうすべきか」のこと。
少子高齢化の到来が予測されてきたにもかかわらず、目先の利益を追求するあまり、人口ボーナス期に作った年金制度や公共事業のあり方を見直すことを先送りしてきた日本。「ヒトづくり」を怠ってきたそのツケが、近い未来にどれほど「戦争にも等しい破壊力を持って日本の経済と社会を打ち砕く」か、多角的かつ具体的に読者に提示し、危機意識を喚起する。
連載各回の詳細は次の通り。
[第1回]「「団塊の世代」という人口構造のゆがみが引き起こす財政破綻と社会保障制度の崩壊」2002年10月号、p.62-75.
[第2回]「高度成長をもたらした「人口ボーナス」を使い切った日本。二度と同じ時代はやってこない」2002年11月号、p.226-238.
[第3回]「少子高齢化で税と社会保障はどうなる ー2025年、国民負担率は五割を超える」2002年12月号、p.250-263.
[第4回]「財政を押しつぶす老人医療・介護費用の増加。見えない年金改革の行方。果たして長寿は幸福か」2003年1月号、p.228-241.
[第5回]「総人口・若年人口が減少する一方で高齢者人口は急増していく。“老老介護”の時代は社会をどう変える」2003年2月号、p.234-247.
[最終回]「増え続けるDINKSにセックスレス・カップルーー多様化する生き方に世代間の公平は確保できるのか。未来を真摯に予測する」2003年3月号、p.238-251.
(※88)人口問題研究所「日本の人口は2006年にピーク」:
たとえば、国立社会保障・人口問題研究所はすでに2002(平成14)年1月の『日本の将来推計人口』 (【URL】https://bit.ly/2WjTiqD)において、次のような予測を提示している。
「平成12(2000)年の日本の総人口は同年の国勢調査によれば1億2,693万人であった。中位推計の結果に基づけば、この総人口は今後も緩やかに増加し、平成18(2006)年に1億2,774万人でピークに達した後、以後長期の人口減少過程に入る。平成25(2013)年にはほぼ現在の人口規模に戻り、平成62(2050)年にはおよそ1億60万人になるものと予測される。
高位推計によれば、総人口は、中位推計よりやや遅れて、平成21(2009)年に1億2,815万人でピークに達する。そして、それ以降は減少に転じ平成62(2050)年には1億825万人に達するものと見込まれる。
一方、低位推計では平成16(2004)年に1億2,748万人でピークに達し、以後減少して平成62(2050)年には9,203万人に達する。
このように日本の人口はまもなく人口減少時代に突入し、右肩上がりの人口増加の趨勢は終焉する。日本の出生率が1970年代半ばから人口を一定の規模で保持する水準(人口置換水準、合計特殊出生率で2.08前後の水準)を大きく割り込んでいるため、このような過去四半世紀続いた低出生率水準と今後の見通しは今世紀初頭から始まる人口減少をほぼ避けることの出来ない現象としている」(p.1)
(※89)国土交通省、総人口のピークと出生数のピークを取り違え、「2006年の18年後が免許取得のピークになる」:
産経新聞社の月刊誌『正論』の連載記事「日本人が消滅する日」(2002年10月号~2003年3月号)において、岩上安身が報告しているエピソードである。
道路関係四公団民営化の議論が進められていた2002年6月、国土交通省は、人口は2006年にピークを迎えるものの交通量は2030年まで伸びてゆき、そこをピークに減り始めるという自動車交通量の需要予測を提示した(「交通需要推計について」)。理由は「2020年には、60代前半の女性の7割、60代後半の女性の6割、70歳以上の女性の4割が免許を保有する」、つまり、高齢者や女性の免許保有率が高まる見込みだからというものだった。
現実には、2001年の公安委員会が指定する教習所の卒業者数はピークだった1990年の4分の3にまで落ち込んでおり、少子高齢化の現実を無視した過大な見積もりであることは明白であった。
ところが、民営化推進委員をつとめていた中村英夫・武蔵工大教授は、2002年7月17日の第5回会合において、次のように発言しながら国交省の予測を擁護しようとしたのである。その素朴な足し算からは、「人口のピーク」である「2006年」を出生数のピークと勘違いしている様子がうかがえる。
「この予測について御意見があったので、私ももう一回見直しました。その結果から言いますと、例えば1つの話は人口が2006年で頭打ちになる。にもかかわらず20、30年前後まで交通需要が増加していくのは非常におかしいのではないか、恣意的にシフトさせているのではないかといった疑問が出されたのでございます。
これは次のようなことでございます。2006年に人口がピークに達するというのは、今の予測ではそういうようなことであるとしますと、我々免許証を取るのは18歳になってからでございますので、少なくとも18年は後ろへシフトする。これは間違いないわけです。したがって、そのままの状態であったとしても、18年ですから、2024年までですか、人口とほぼ平行にシフトしていく。
さらに今の趨勢でいきますと、あのデータにも出ていましたが、免許証の保有率というのはまだ上がっているんですね。特に女性の免許証保有率は上がっている。そういうふうなことから類推しますと、2024年で伸びが終わるとも思えないというわけでございます。
その辺を細かく数字を入れて計算しますと、ああいうふうなことになる。ただ、2030年前後とあれにも書いていますが、伸びようが、減ろうが、あのあたりは山がなだらかになった頂点に近いところの話でございますから、後ろへ2~3年行こうが、前に2~3年早まろうが、絶対量としては余り大差がないということでございます。
ただし、これはあそこに仮定した条件のもとでありまして、30年という長期予測というのは、これは何が起こるかよくわかりません。例えば、この前、私言いましたように、日本の人口が2006年以降減るかどうかというのも実はわからない。増えれば交通量はもちろん増えるわけでありますし、あるいはどこかで、例えば石油の高騰といったことが起こればがくっと下がるわけでありますので、確実に実現するかどうかということは誰もわからない。だけど、現在は、あの想定をベースに、この委員会が議論して、まず間違いないのではないかと私は思っております。」
国交省はこのような「没論理的な主張」を振りかざす御用学者を利用しつつ、需要もない1万キロ以上もの高速道路建設を計画し、巨額の予算を獲得していったのである。
参照:
・岩上安身「日本人が消滅する日ーー“戦火なき有事”を前に、われわれはどうすべきか [第1回]「団塊の世代」という人口構造のゆがみが引き起こす財政破綻と社会保障制度の崩壊」『正論』2002年10月号、p.62-75.
・国土交通省「第8回 基本政策部会 交通需要推計について 平成14年6月24日 国土交通省」【URL】https://bit.ly/2ZWsjn7
・首相官邸HP「道路関係四公団民営化推進委員会 第5回会合(平成14年7月17日)議事録」【URL】https://bit.ly/2DTjgtT
(※90)紀伊丹生川ダム:
紀伊丹生川(にゅうがわ)は、和歌山県伊都郡高野町(旧冨貴村)を源流とし、九度山町で紀ノ川に合流する紀ノ川水系の一級河川。一部区間は鮎・アマゴ釣りや「玉川四十八石」と呼ばれる奇岩怪岩が織りなす絶景で知られる「高野山町石道玉川峡県立自然公園」を構成する。
この丹生川の上流(九度山町北又地先)に、国土交通省は1979(昭和54)年、大阪府と和歌山市への利水および治水を掲げて、総工費1560億円、堰堤の高さ145メートル、総貯水容量6040万トンという巨大な重力式コンクリートダムの建設を策定。予備調査、実施調査を経て、1997(平成9)年には学識経験者らでつくる「紀伊丹生川ダム建設事業審議委員会」が設置され、1999年9月に「建設妥当」の結論を出した。
その後、地元住民らによる反対運動や公共事業の見直しによるダム事業の再評価の動きもあり、国は2001年5月、利水者となるべき和歌山市および大阪府に水需要計画を再確認。和歌山市は「必要なし」、大阪府は以前必要としていた1日あたりの給水量25万トンの約半分の「13万トンで十分」ということになった。翌月から計画縮小が検討され始めたが、ダムの規模を半分にしても建設費はさほど圧縮されず、国交省は事業として成り立たないと結論。2002年5月16日、建設中止が発表された。
こうして紀伊丹生川ダムは、水需要の減少を理由に建設中止となったダムとして、世の注目を浴びることとなった。
参照:
・Wikipedia「丹生川(和歌山県北部)」【URL】https://bit.ly/2GGgZmc
・Wikipedia「紀ノ川」【URL】https://bit.ly/2J877ED
・国土交通省 近畿地方整備局 和歌山河川国道事務所「紀ノ川流域委員会 第9回紀ノ川流域委員会 平成14年6月12日(水)紀伊丹生川ダム建設計画について<報告>」【URL】https://bit.ly/2ZLvwpz
・日本財団 図書館「2002年6月11日 毎日新聞朝刊 オピニオン「論」 ダム中止の論理 坪香伸・国交省近畿地方整備局河川部長」【URL】https://bit.ly/2GW7LE2
・高野山麓 橋本新聞「ダム建設阻止…「玉川峡を守る会・全記録」発行」2012年6月5日【URL】https://bit.ly/2J5Hx3l
(※91)水道「民営化」の動き:
水需要の低下による料金収入の減少、施設の老朽化、事業を担う人材の不足といった、日本の水道事業が抱える問題に、早急かつ抜本的な対策が求められることは言を俟たない。たとえば、水道事業の広域化や経営体質の改善といった施策がそれにあたる。
しかし、いわゆる水道「民営化」にかぎっては、およそこうした問題への処方箋とはなりえないことは、多くの識者が指摘するところである。1980年代以降、各地で進められた水道民営化は失敗であったというのが世界の潮流であり、水道事業を民営化した自治体が、水道料金の高騰、水質の劣化等の弊害ゆえに再公営化に踏み切った例は、2000年から2016年にかけて270近くにのぼるという。
ところが日本政府はこうした流れに逆行し、施設は自治体が保有しつつ運営を民間企業に委ねる「コンセッション方式」という形で、一種の民営化を実現すべく、数次にわたる法改正を行ってきた(2018年12月6日衆参両院で可決した改正水道法は、その総仕上げといえるものである)。
政府のこの施策が、「成長戦略」の柱のひとつとして1999年以来推進されてきたPFI(官民連携)政策の一環であることを見逃してはならない。すなわち、公共インフラの整備および維持という本来の使命とはまったく別のところで、政府(内閣府)・コンサルタント企業・水企業(仏ヴェオリア社など)の三者が利益相反を図りながら各々の利権を拡大するためのスキームにほかならないのである。
今後、この「コンセッション方式」を導入するかどうかは各自治体の選択次第だが、改正水道法成立後、浜松市(すでに下水道でコンセッション方式を導入ずみ)、宮城県、それに大阪市等が導入に前向きであると報じられている。
参照:
・ハーバー・ビジネス・オンライン「水道事業に民間参入を促そうとしているのは誰なのか。内閣府PFI推進室を巡る利権の構造(内田聖子・NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表)」2018年12月5日【URL】https://bit.ly/2BROD7y
・Yahoo! JAPANニュース「水道民営化 賛成する自治体、反対する自治体(橋本淳司・水ジャーナリスト、アクアスフィア・水教育研究所代表)」2018年12月11日【URL】https://bit.ly/2C2Mru4
・IWJ「食い物にされる水道民営化・ダム・治水ーー国富を売り渡す安倍政権の水政策の裏を暴く!岩上安身による関良基氏インタビュー 2017.4.25」【URL】https://bit.ly/2QpC9t5
・IWJ「民営化で水道料金が暴騰!? 安全管理と監督強化にも限界がーー岩上安身による立命館大学特任教授・仲上健一氏インタビュー 2017.3.17」【URL】https://bit.ly/2PLmpkb
(※92)ダム推進派、利水から治水へ看板をつけかえて…:
たとえば、関西圏の人口増加に伴う水不足の解消と洪水調節を掲げて昭和50~60年代に計画、その後の水需要の変化から2005(平成17)年に事業中止・凍結となった淀川水系の5ダム事業(丹生ダム(滋賀県長浜市余呉町)・大戸川ダム(滋賀県大津市上田上牧町)・天ヶ瀬ダム再開発(京都府宇治市槙島町)・川上ダム(三重県伊賀市川上)・余野川ダム(大阪府箕面市下止々呂美))は、推進派やすでに補償金とともに立ち退きした元住民らの激しい反発を受けて、国交省が2007(平成19)に事業凍結を解除した。
その後、余野川ダムと丹生ダムの2事業は中止されたものの、他の3ダムについては、従来の多目的ダム事業から治水へと掲げる目的を移し、事業再開が次々と決定された。「宇治川・淀川に対する洪水調節効果は小さく、治水単独目的の事業となることで治水分の事業費が増加し経済的にも不利になる」という事業凍結時の確認事項を翻し、「河川整備計画で示しているとおり、段階的な目標として、戦後最大の洪水に対する安全性を確保するためには必要」(大戸川ダム工事事務所)としながら。あるいは、水需要の減少や財政難を理由に撤退を望む地方自治体に「治水事業」という形で事業に参画させる、はたまた水利権を盾に参画を強制する(川上ダム)などしながら。
そこには大手ゼネコンや国交省OBの天下り機関(「水資源機構」など)の利権が働いていることは疑う余地がない。
参照:
・Wikipedia「中止したダム事業」【URL】https://bit.ly/2PJMj82
・Wikipedia「大戸川ダム」【URL】https://bit.ly/2LiOnVW
・Wikipedia「余野川ダム」【URL】https://bit.ly/2XTGvLQ
・Wikipedia「川上ダム(三重県)」【URL】https://bit.ly/2V8PRXo
・Wikipedia「天ヶ瀬ダム」【URL】https://bit.ly/2vzFWuu
・Wikipedia「丹生ダム」【URL】https://bit.ly/2ZOAgLc
・淀川水系流域委員会「第42回委員会(H17.7.21)審議資料1-2 『国土交通省近畿地方整備局 淀川水系ダムについての方針 平成17年7月1日』」【URL】https://bit.ly/2PG65kC
・大戸川ダム工事事務所「大戸川ダム対策協議会等流域地元団体への淀川水系河川整備計画策定説明会<概要報告> 平成21年4月2日」【URL】https://bit.ly/2J9t8Dd
・八ッ場あしたの会「丹生ダム事業中止、国交省が正式決定」2016年7月23日【URL】https://bit.ly/2Y1MDBP
・水源連「淀川水系の天ヶ瀬ダム再開発事業の虚構」2017年11月14日【URL】https://bit.ly/2WjvzGS
・八ッ場あしたの会「淀川水系・大戸川ダム、建設再開へ向けた三日月滋賀県知事の動き」2018年2月23日【URL】https://bit.ly/2IUnh5w
・八ッ場あしたの会「淀川水系・川上ダム、建設目的空洞化のまま本体着工」2018年9月3日【URL】https://bit.ly/2J9Zf5C
(※93)人口減、インフラ老朽化、国民負担激増…:
このことについて、ジャーナリストの河合雅司氏も、ベストセラー『未来の年表』(講談社、2017年)の中で次のように述べながら警鐘を鳴らしている。
「年齢を重ねるのは人間だけではない。われわれの生活を支える道路や上下水道、市民ホールなどの社会インフラも急速に老朽化が進んでいる。多くは1960年代の高度経済成長期に集中的に整備されたものだ。国土交通省によれば、2033年には、水門など河川管理施設の約64%、道路橋(長さ2メートル以上)の約67%が、建設後50年以上になるという。建設から50年以上も経てば、維持管理や更新の費用もバカにならない。試算によれば、必要となる維持管理・更新費は2013年度の約3兆6000億円が、10年後の2023年には20~40%増となる(4兆3000億円から5兆1000億円程度へ)。さらに10年後の2033年には4兆6000億~5兆5000億円程度に膨らむという。その費用は勤労世代が減って「老いた日本」に重くのしかかるということだ」
河合氏はさらに、すでに苦境に立たされている水道事業を例に、人口減少や少子高齢化がいかに人々の健康で社会的な暮らしを脅かすことにつながるか、具体的な数字とともに読者に訴える。
「日本政策投資銀行の水道事業の将来予測と経営改革」(2017年)によれば、管路の年間更新率は2014年時点で0.76%に過ぎず、すべてを更新するのに約130年もかかる。耐震化も含めれば、今後の維持・更新のための投資額は膨大になるという。ところが、給水人口は2010年をピークに減少に転じており、節水型家電機器の普及も手伝って1人あたりの水使用量も減っている。このため、ほとんどの水道事業者が水道料金の値上げをしない限り、毎年収入が減っていく構造となっている。しかも全国の水道事業者の有利子負債は2014年度末で7兆9000億円と料金収入の約3倍にまで膨らんでいる。経常利益を確保しようと思えば、2021年度から毎年1.7~2.1%の料金値上げをしていかなければならない。この結果、2046年度には2014年度比でなんと64.4%もの値上げになると試算しているのだ。地域によっては極端に値上げせざるをえない事業者も出てくるだろう。(中略)社会保障費などが伸び続けており、インフラの維持管理や更新に潤沢な予算を割く状況にはないのである。だからといって耐用年数を超えたインフラを使用し続ければ、思わぬ大惨事に発展しかねない」(「第1部 人口減少カレンダー:2019年 IT技術者が不足し始め、技術大国の地位揺らぐ」より)
(※94)人口オーナス:
働く世代の人口(生産年齢人口、15~64歳)が総人口の中で高い比率を占め、安価で豊富な労働力を提供、税収を増大させるとともに、若い世代ならではの活発な消費活動によって高い経済成長を実現(人口ボーナス期)したのち、その世代の高齢化に伴って必然的に訪れる、人口が「オーナス=重荷」となる時期のこと。
高齢者は貯蓄を切り崩して生活するため、労働人口比率の低下と相まって国家全体の金融資産が減少、これが長期的な成長力の低下や経常収支赤字の圧力を増加させる。また、人口ボリュームが大きい分、医療費や年金等の社会保障費が重い負担となり、社会保障制度の破綻をはじめ、消費や投資活動の停滞を引き起こす。
日本は、先進国では最も早い1990年代にこの「人口オーナス期」に突入しており、即急の対応の必要性が叫ばれ続けているにもかかわらず、現実の政治・行政に反映されず、問題の先送りが続いている。
参照:
・大和ネクスト銀行「人口ボーナス期と人口オーナス期 労働人口増加で成長する新興国とは」2017年6月6日【URL】https://bit.ly/2W2V1na
・コトバンク「人口オーナス」【URL】https://bit.ly/30g2AGo
岩上「このことは、すでにケインズが言っていることです(※1937年発表の講演論文「人口減退の若干の経済的帰結」)。『人口の増加は投資需要の増加と楽観的な将来期待の好循環を招く』けれども、『人口減少は反対に投資需要の減退と将来への悲観的見通しの悪循環を招き寄せる』と(※95)。

▲ケインズの30年代とは、人口動態が正反対 https://bit.ly/2Yri24u
これを探し当てて、『ほれ見たことか』と思ったわけです。僕はどっちかといえば高度成長期を過ごしてきた世代ですから、やっぱり、公共投資をして、子供も育てられ、あまりに過剰なかたちではなく、経済が順調に拡大・再生産していくのが望ましいと考えてきました。急拡大ではなく、バランス良く拡大再生産、もしくは、均衡したかたちでの生産を。縮小過程にガーッと入ってきてしまうというのは、やっぱり危険じゃないかな、と思います。
そして、ケインズのような、まさに有効需要の創出に関する理論の大家が、財政出動して公共投資を行い、これがベースとなって経済の拡大につながるのも、バックに人口増があっての話だとやっぱり言っていた。なのに、ケインズの後の経済学者たちは、なぜこの問題を真剣に考えなかったんだろうかと思うわけです。そりゃ僕なんかの頭じゃ、理論モデルがどうのこうのできませんよ? できませんけれども、彼らにこうしたことがどうしてできなかったんだろうか、と。
むしろ、ケインズを破るかたちで、フリードマンやらのマネタリズム、新自由主義経済学者たちが現れていまや主流になってしまい、こんな格差と混乱の経済状態をつくり出している(※96)と思うんですが、この点についてどのようにお考えでしょうか」
田代「『雇用・利子および貨幣の一般理論』は、経済学史上最も有名な本のひとつです。タイトルにもある通り、『general theory』、つまり一般理論というわけですが、内容を見れば短期理論です。1929年に世界大恐慌が起きて、世界経済は空前の不況期に入った。これをなんとかしようというのが、イギリスのエリートの中のエリートであるケインズの、ノブレス・オブリージュ(※97)にもとづく動機だったわけです」
岩上「処方箋のようなものだ」
田代「とはいえ、彼はさすが天才にふさわしく、長期についても考えを怠らない。
彼自身も述べているように、それは読み物ふうのことしか書けないけれども、少なくとも人口が増加しているのであれば、『楽観的な将来期待』が生まれて投資需要を膨らませていくと。そして、そのまた逆も起きると。つまり、人口減少が起きれば状況は反転するだろう、と言っているわけですね。ただ、それはとても長期の話だから、ここでは触れないと述べているのであって、今後の経済学の課題として当然残ったはずなんですよね。
ところが、ケインズは1945年に亡くなってしまいますが、実際は、日本で団塊の世代が出現したように、その後も人口増加は続いたわけです。しかも、そこに戦後復興の特需も発生しちゃったものだから、世界経済が非常に高度成長をみることになった。
それで、米国なんかでは、ケインズの本当は短期の理論をそのまま長期に当てはめる、なんてことに。つまり、人口成長率は一定である、増え続けるという前提で、経済モデルを作ってしまったわけです。
こうやって、ケインズがせっかくこういうふうにヒントを与えてくれたのに、これを真面目にやった人があまりいないという状況が生まれた。
たしかにこれは、難問中の難問です。こういう問題に取りかかると論文はそうそう量産できない。となると、競争の厳しい米国の大学では、ポストを失うかもしれない」
岩上「しかも、米国にとっては、移民について(のコンセンサス)はすでにできあがっていますから、『人が足りなかったら人を入れよう』『様々な人間を入れて別にいいんじゃないの』と。で、出生率も2.0はあるわけだから、彼らにとって、人口問題はとりたてて切実な課題じゃないですね。問題はむしろそれ以外にある。
ところが、大前提となるべき人口の問題が安定していない日本では、まさにそこに取り組まねばならないのに、やらない。この国の社会は、もう十分清潔だから、これ以上清潔にしようとかそんな話はどうでもいいじゃないですか。それよりも人口を、それこそエマニュエル・トッドの言い方じゃないけど、もっとルーズでいいから産んじまえよ、産まれた子供をちゃんと育てろよ、という話ですよね(※98)。

▲エマニュエル・トッド氏(Wikimedia Commonsより) https://bit.ly/2OgYZGg
乱暴でもルーズでもいい、人口増へと向かわせなきゃいけないじゃないか、と思うんです。僕なんかはもう、『有効需要』といえばイコール『人』というふうに見えるんですが、ケインズなんて、穴を掘って埋めるだけでもいいから…」
田代「そうそう、政治家がよほど無能であって何も思い付かないのなら、いっそのことピラミッドでも造るか、あるいはただの大きな穴を掘って、またそれをみんなで埋めるということをやってもいい、いま需要がないなら、とりあえず需要を作りなさい、と。そうでもしない限り、この未曾有の大不況は突破できないという、極めて短期のことを言ったんですよね(※99)。
でも、長期のことを考えるなら、人口という大事なことがあるでしょ、と示唆したわけです。でもそこは、皆さん読み飛ばしてしまった」
岩上「今、日本はこんな状態なんだから、とりあえずとにかく人作りをしましょうよ、子供を産まれるようにしましょうよ、と。そして、これは保育園を整備するだけの問題ではなく、教育投資というものはものすごくお金のかかることだから、これをできるだけ無料に近いようにするとか。
多子家庭を望んでいる、でも、人それぞれいろんな事情があって、みんなが子供を2人作るのは無理です。だから、健康的に産める人を、そういう形で支援するというのはありだと思うんです。
僕の中学生の時の同級生に双子がいるんです。二人とも男で親友なんですけれどね、面白いんですよ、双子って。同じ時期に同じような仕事を選び、しかも、結婚した相手と6人ずつ子供作ったんです。
で、この二人の家族合わせるとですね、子供が12人いるんですね。つまり、十分サッカーチームができるわけです。彼らは非常に体力があって、奥さんも体力あったんだと思うんですが、何より彼らは、6人の子供を扶養できるだけの経済力がある。整体とかやっている人なんですが、腕一本で、たくさんの子供を養うことができる、そういう腕を持ってたんだと思うんですね。
でも、こういう家が、経済的にもうちょっと苦しかったら大変じゃないですか。そこに支給してあげることだって、できるじゃないか、それこそ有効需要の創出じゃないかと思うんですよ。ただの穴掘って埋めるぐらいだったら」
田代「それはまあ、ケインズはかなり皮肉めいて言ったこととは思いますけれどね」
岩上「もちろんです。よほど政治家が無能なら、政治家も官僚も無能だったら、と。でも、少子化対策は必要であると、少なくともはっきりしているのだから、それをやるべきなんじゃないかな、というふうに思うんですよね」
田代「人口は長期の問題だから、ケインズはあの本の枠組みの中では扱えなかった。ケインズのアイデアを長期に適用しようとしたのが、先にも話題になった『オーバーラッピング・ジェネレーション・モデル』だったわけです。
それでも人口動態の変化というものは経済モデルにうまく取り入れられない。それだけこの問題は難問中の難問なんです。だから、制度化された大学の中では、そういう問題に首を突っ込むと、おそらくポストがなくなる。むしろ、すぐ解ける問題に取り組んだ方がいいと、経済学者たちは考えたわけですね」
(※95)ケインズ「人口の増加は投資需要の増加と楽観的な将来期待の好循環を招くが、人口減少は反対に投資需要の減退と将来への悲観的見通しの悪循環を招き寄せる」:
国家による経済への積極的介入を通じて資本主義経済の弊害たる所得配分の不平等を是正し、失業や恐慌を克服できるとする「修正資本主義」理論を提唱、今日の経済政策に多大な影響を及ぼしたイギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946)。ここで話題になっているのは、1930年代半ばから表明されるようになった彼の人口論である。
マルサスの『人口論』に則り、物資・雇用不足を生み出す元凶として過剰人口を危惧する論陣を張ってきたケインズだが、第一次大戦後、西欧諸国の人口成長率の減退に対する人々の懸念と「豊富のなかの貧困」(原料も設備も、そして現行賃金率のもとで進んで労働力を提供する意思を持った労働者をも豊富に保有していながら、機械の運転は止まり、大量の失業者で溢れかえった状況)を目の当たりにし、大不況の根源は(やはりマルサスが指摘していた)「有効需要」(商品に対する単なる欲望ではなく、貨幣的支出に裏づけられた需要)の不足であるとの認識に至る。
そして1936年、著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』の中で、完全雇用を実現するものとして投資の重要性を説きつつ、「有効需要」の構成要素としての「消費需要」と「投資需要」の区別、および、それらの決定要因としての「限界消費性向」「資本の限界効率」「流動性選好」等の概念を打ち立てたのだった。そこで人口増加は、控えめなかたちではあるが、企業者の期待を高め資本の需要や限界効率を押し上げるものとして要請された(第15章4節および第21章7節)。
これが明示的に表明されたのは、翌1937年2月16日にイギリス優生学会で行われた講演「人口減退の若干の経済的帰結」(1937年4月発行『優生評論』第29号掲載)においてである。そこでケインズは、「私たちが数十年ものあいだ経験してきた実に激しい人口の増加に取って代わり、私たちはきわめて短いうちに人口の静止または減少に直面することになる」としながら、次のように述べている。
「人口の増加は資本財への需要に極めて重大な影響を与えます。資本財への需要…ここでは技術の変化や生活水準の改善については脇に置くこととします…の人口に対する割合が多かれ少なかれ増えるというだけではありません。景気の予想は見込み需要に基づいてよりも現状に基づいてなされることがはるかに多く、人口が増加する時代には楽観的な見方が強まりやすいのです。というのも需要は一般的に見通しを上回ることが、見通しに達しないことよりも多くなりやすいからです。さらにある不一致、これは特定の種類の資本財のある時点における過大供給の結果としてもたらされるものなのですが、こうした状態は素早く是正されます。しかし、人口が減少する時代において、これが正反対になることもまた真実と言えるのです。需要は予想されていたよりも低くなりやすく、そして過大供給の状態を是正するのは容易ではなくなってくる。この結果として悲観的な雰囲気が覆うことでしょう。そして、悲観的な見方が供給能力に影響を及ぼし続けた挙句の果てにとうとうこの悲観的な見方そのものを改め始めるようになるという事態へ至ったとしても、人口が増加から減少へ転じてもたらされる繁栄の道へ向けた最初の結果はとても悲惨なものとなるでしょう」(macron氏による和訳)
参照:
・日本大百科全書(ニッポニカ)の解説「ケインズ」【URL】https://bit.ly/2bCjlp1
・安川正彬「ケインズの人口観」『三田学会雑誌』vol.76, No.4 (1983.10)慶應義塾経済学会、p.552-574【URL】https://bit.ly/2ZWI6SP
・藤田菜々子「1930年代人口問題におけるケインズとミュルダール」経済学史学会第72回全国大会、2008年5月24日【URL】https://bit.ly/2J1iAqz
・ブログ「徒然なる数学な日々」エントリー「『人口減少の経済的帰結』BY JOHN MAYNARD KEINES」2012年12月18日【URL】https://bit.ly/2GZeY4M
(※96)フリードマンらのマネタリズム・新自由主義経済学者たちの台頭とケインズ経済学の凋落:
財政政策による有効需要の創出を骨子とするケインズの経済学は、世界恐慌下の資本主義の危機への処方箋を提供し、第二次大戦後は経済成長を遂げる西側諸国の経済・社会政策を支える理論となる。こうしてマクロ経済学すなわちケインズ経済学という時代が続いたが、1970年代はじめの第一次石油危機を境に、ミルトン・フリードマンらが提唱する、市場原理主義にもとづくマネタリズム(貨幣供給量が景気や物価を決定するという経済理論)が台頭し、学界においても各国の経済政策においても主導的地位を奪うにいたる。その背景には、国際金融資本や多国籍企業による、財団やシンクタンクを介した強力な支援があった。
1973年の変動相場制への移行によって貨幣が金融商品となったが、貨幣流通量の安定を志向するマネタリズムは、貨幣の商品としての中立性を担保する理論であり、マネタリストたちが鼓吹した新自由主義のイデオロギーは、金融取引のグローバル化と連動して世界を覆ったのだった。
参照:白石喜治・大野英士(編)『ネオリベ現代生活批判序説』新評論、2005年
(※97)ノブレス・オブリージュ:
「貴族(の身分)は(相応の貢献を)課す」という意味のフランス語の格言(原語は「Noblesse oblige.」)。高い社会的地位にある者はその地位にふさわしい振る舞いを求められる、という意味で、英語圏においても広く用いられる。ケインズは、貴族の出身でこそないが、父はケンブリッジ大学教授の経済学者、母もケンブリッジ大学を出、市長もつとめた人物であり、英国社会にあってまぎれもないエリート階層に属していた。
参照:ケインズ『雇用、利子および貨幣の一般理論』(下)、岩波文庫、「解題」(宇沢弘文)
(※98)トッド「日本はもっとルーズに」:
トッドによれば、出生率をあげるためには日本人の美質である完璧さへの志向を放棄して「不完全さや無秩序も受け入れる」必要があるという。「子供をもつこと、移民を受け入れること、移民の子供を受け入れることは無秩序をもたらしますが、そういう最低限の無秩序を日本も受け入れるべきではないでしょうか」(2016年1月、東京での講演)。
「命とか命を生み出すものは、無秩序、だらしなさ、ルーズさなのです。それが必要です」「今、日本に必要なのは生産する自動車の完成度を高めるようなことではありません。問題は、テクノロジーの向上でも、経済的なパフォーマンスの向上でもありません。(中略)もっと社会の秩序を緩くして、子供をつくる。お行儀が悪くなることをよしとしなければなりません」(2017年11月、パリでのインタビュー)。
それとともに、女性の社会的地位を高め、また、国家が介入して家庭を支援する必要性をも、フランスの成功事例を引きながらトッドは説く。
参照:
・エマニュエル・トッド『問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論』堀茂樹訳、文春新書、2016年
・エマニュエル・トッドほか『世界の未来 ギャンブル化する民主主義、帝国化する資本主義』、朝日選書、2018年。
(※99)ケインズ「穴掘って埋めるだけでも…」:
ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)第10章6節にある有名なフレーズ。
ケインズはそこで、商品の価格や需要と供給、雇用など、経済活動にまつわる種々の不均衡は、市場参加者が自己利益を追求する過程で自動的に調整されるとした古典派経済学(その理論の限界は、1929年に始まる世界恐慌によって露呈した)に対し、生産水準を決定するものは「有効需要」であること、この不足を解消し不況を脱するためには財政政策による投資の増加が必要であることを説いたが、その極端な例として、皮肉まじりに挙げたものである。人口に膾炙する中で一人歩きしていった感があるが、ケインズ自身の表現は次の通り。
「深刻な不況時には、たとえ効用の疑わしい公共事業であっても、失業が増大すると所得中の貯蓄割合が小さくなると想定できるなら、引き合わないものはないといっていい。〔失業〕救済のための出費を軽減するだけでも儲けものである。(中略)いま、大蔵省が古瓶に紙幣をいっぱい詰めて廃坑の適当な深さのところに埋め、その穴を町のごみ屑で地表まで塞いでおくとする。そして百戦錬磨の自由放任の原理にのっとる民間企業に紙幣をふたたび掘り起こさせるものとしよう(もちろん採掘権は紙幣産出区域の賃借権を入札に掛けることによって獲得される)。そうすればこれ以上の失業は起こらなくてすむし、またそのおかげで、社会の実質所得と、そしてまたその資本という富は、おそらくいまよりかなり大きくなっているだろう。なるほど、住宅等を建設するほうがもっと理にかなっている。しかしこのような手段に政治的、現実的な困難があるならば、上述したことは何もしないよりはまだましである」(間宮陽介訳)
参照:
・ケインズ著/間宮陽介訳『雇用・利子および貨幣の一般理論』(上・下)岩波文庫、2008年
・Wikipedia「雇用・利子および貨幣の一般理論」【URL】https://bit.ly/2PU9vR7
・日本大百科全書(ニッポニカ)の解説「一般理論」【URL】https://bit.ly/2ZVnvOT
・安川正彬「ケインズの人口観」『三田学会雑誌』vol.76, No.4 (1983.10)慶應義塾経済学会、p.552-574【URL】https://bit.ly/2ZWI6SP
・プレジデントオンライン「「穴を掘って埋める」ような公共事業でも効果ある?(小島寛之)」2009年4月26日【URL】https://bit.ly/2JlxVSh

▲「厚労省『日本の将来推計人口(平成29年推計)の概要』」https://bit.ly/2yfLyvv
岩上「伊東光晴さんも指摘されているように、『生産年齢人口のピークは1995年で、2010年までに7%減っている』。これからもっと減るわけですね。こういう人口減少下では『長期で見ると不況期のほうが多い状態に置かれる』と(※100)。
たしかに、短期的には海外事情によって輸出額が増加したり、赤字財政で公共投資が推進された際に好況となることはあるでしょう。けれども、人口減少によって需要が長期的に縮小していく中では、いくら生産性を向上させても供給過剰となるばかり。特に生活必需品の需要の場合、生産性が向上しても若干価格が下がっただけで、劇的に増えるものではありません。恵方巻(※101)がいい例です」
田代「必需品でもなんでもないものを出してきて、そんなもの売れないから、結局大量に廃棄されちゃうわけですね」
岩上「バカみたいな話ですよね。今6~7人に1人は貧困ですよ(※102)。一方で、こんな状況が」
田代「別に食べても食べなくてもいいものを持ってこられてもね」
岩上「こんな状況で、しかも高齢化率が4割となっていった時に、果たして社会が成り立つんだろうかと」
田代「0歳から14歳の年少人口のピークが1955年。これ、まさに自由民主党結党の年ですよ。つまり、自民党の人たちは、ずーっとそういう風景を見ているわけです」
岩上「55年体制のまんまなんですよね(※103)」
田代「55年体制とは、要するに、日本の少子高齢化の人口減少を放任する、あるいは黙認していくという体制だってことが言えますよね」
岩上「ここから人口ボーナス期が始まるんですけど、結局、人口ボーナスと日米安保体制という中で、経済だけに特化していて、高度成長があって、おいしかった。その成功体験のまま、何にもしないでいる」
田代「しかも、1ドル360円の固定為替レートの時期でもありましたよね(※104)。そんな信じられないような3点セットが重なって高度成長が起きた。それが、ひとつまたひとつとこの条件が外れていって。1990年代に生産人口のピークアウトが起きるわけですね」
岩上「で、残った日米安保で、『今度は戦争にも一緒に行こうぜ』って言われているわけですね」
田代「よくわからない米国の兵器を『いっぱい買ってください』ってね(※105)」
岩上「『非核化も朝鮮半島での戦費も、日本が韓国と共に請け負ってください』ってね」
田代「『福祉元年』を掲げて年金に物価スライド制を導入、厚生年金支給額を2.5倍にして、財政悪化の遠因を作ったのも1973年でしたね(※106)」
岩上「この時、僕の祖母がまだ存命で、すごく喜んでいたのを覚えています」
田代「田中首相が『今太閤』と言われてね。でも、この年がまた、出生率が2.14でピークの年でもあった」

▲田中角栄(ウィキペディアよりhttps://bit.ly/2YlTSo5
岩上「そこからはもう、どんどん右肩下がりに減少。政府は小手先の手直しに終始するだけで、抜本的な改革を先送りしてきたわけですが、ここへきてインフレ目標達成のことばかり。金融緩和でインフレを引き起こし、国債や地方債の債務を整理しようと企んでいるのではないかと勘ぐりたくなります。
こうやっていろんな問題を放置した挙げ句、最後はハイパーインフレで『あ、不作為でした、すいません』なんて言いながら済まそうというわけじゃないかな、と。消費増税にしても、これは家庭から政府へ強制的に財産を移転するものですけども、増税後の税金の使途はどうなんだ、って話ですよ。インフレで債務整理することは、政府や自治体の説明責任をうやむやにすることになりかねませんから」
田代「インフレというものは、実はこれ、税金の一種なんです。先ほども申し上げたように、要するに金を借りている人が得するわけですね。そして、一番借りているのは日本政府。貸している方はとんでもないことになってしまいます」
岩上「国民はね」
田代「そう。それを『インフレ』というかたちで自動的にできちゃう」
岩上「戦後直後世代であれば、インフレがどんなものか、実際に経験したと思うんです。これが偶然、高度成長と重なったから、皆さん結果的に『よかったよかった』となっている。でも、(第一次大戦後の)ドイツの有名なハイパーインフレ(※107)の時のように、賃金も年金も上がらず物価だけ上がる、そんなことが起きたら恐いな、と思っていたんですが、僕はそれをロシアで見ることになってしまったんですね。
凄いんですよ。建前は1ドル=1ルーブルでしたが、闇値ではそれが10とか20とかだったりする。ところが、ソ連崩壊後、(両替えの窓口で)とてつもないルーブルの山を出されるんですよ。それが滞在期間中、どんどん増えていくんですね。もうメチャクチャですよ。そういう事態を目の当たりにして、ハイパーインフレになりでもしたら、これは大変だと思ったんです。
僕はドルと円を持っていきましたから大丈夫でしたけども、ロシア国民は…。年金も医療制度も崩壊、アル中や犯罪が増加して社会的荒廃が進んで。男性の平均寿命は、平時であるにもかかわらず、平均寿命が7年も縮まった。2000年時点で58.9歳。多くの男たちが、年金受給生活に達する前にこの世を去っていくんですよ。曲りなりにも近代化した国家で、こんなこと、他に例はありませんでした(※108)」
田代「社会保障制度の比較研究をしている人から話は聞いています。ソ連が崩壊した時、何が起きたかといえば、透析患者が1年間で全員死んだと。こういうややこしい医療を受けている人が一番の被害者になりますね」
岩上「そうなってしまうんですよね。ラーメン1杯5000万円とかになってしまってからでは、もうどうしようもない。物価スライド制をやっても間に合いません」

▲田代秀敏氏(IWJ撮影)
(※108)伊東光晴さん「生産年齢人口のピークは1995年で、2010年までに7%減少』。かくなる人口減少下では「長期で見ると不況期のほうが多い状態に置かれる」:
伊東光晴(いとう みつはる)氏は1927年東京生まれの経済学者。法政大学教授、千葉大学教授、京都大学教授などを歴任したのち、現在、京都大学名誉教授、福井県立大学名誉教授。ケインズ、マルクス研究で知られ、日本経済に関わる諸問題を分析、研究成果を数多くの著作や政府への提言を通じて世に還元してきた、わが国を代表する経済学者である。
2014年には、アベノミクスの欺瞞と危険性を明らかにする著書『アベノミクス批判』を岩波書店から上梓。アベノミクスの「三本の矢」(大胆な金融緩和・財政出動・成長戦略)ひとつひとつについて、理論とデータにもとづきながら分析と批判を加えつつ、安倍政権の主眼が日本経済の活性化ではなくむしろ日本の政治・社会の改変にあることを世に知らしめた。
ここで言及されているのは、その『アベノミクス批判』の第4章「人口減少下の経済――第三の矢は音だけの鏑矢(かぶらや)」における一節。生産年齢人口の減少という「20世紀の経済と異なる大きな与件の変化」の必然的帰結としての、21世紀の日本経済とはどのようなものか、イギリスの代表的経済学者 R.F.ハロッドの理論に依って示しつつ、岩田規久男・日銀副総裁らリフレ派と彼らに「入れ知恵され」た安倍政権の主張が、いかに目先の利益だけにとらわれたものであるか浮き彫りにする。
「1990年代から21世紀へと日本の労働人口の増加率は大きく変化した。プラスからマイナスへ、である。藻谷〔浩介〕氏が指摘したとおりである。日本の生産年齢人口のピークは1995年であって、2010年までの15年間に7%減っている。(中略)労働人口減少下の自然成長率は長期的には現実成長率を制約する。ハロッドは自然成長率が低い社会は現実成長率が適正成長率を上回る期間は短くなり、長期的には不況期が多くあらわれる社会になると考えた。自然成長率ゼロの社会。それは長期的には停滞社会である。もちろん、その中にあって景気の上昇局面はあらわれる。海外市場との関連で輸出事情が牽引する好景気もあろう。公共投資が赤字財政によって行われ、それによる建設景気もあるかもしれない。固定資本の更新に基づく上昇要因、建設循環もあるかもしれない。しかし、それらは長期間はつづかない」(p.58-59)
参照:
・伊東光晴『アベノミクス批判――四本の矢を折る』岩波書店、2014年【URL】https://bit.ly/2WFrxJe
・デジタル版 日本人名大辞典+Plusの解説「伊東光晴」【URL】https://bit.ly/2VuGH7v
(※109)恵方巻き:
「節分の日に恵方に向かって無言で巻き寿司を食べると福を呼ぶ」という風習の起源については諸説あるが、戦後まず関西で広まり、1989年にコンビニ大手セブンイレブンの広島県内の個人オーナーが商品化、他店舗・他チェーンもこれに追随したことから全国に拡大し、2005年にはセブンイレブンだけで300万本を超える売り上げに達している。
近年は売れ残った恵方巻きの大量廃棄がSNS等で話題となり、宮本勝浩・関西大学名誉教授の試算によれば、節分を過ぎて廃棄される恵方巻きの金額は全国で10億2800万円にのぼるという。2019年1月には、農水省が業界団体に対し、消費者の需要に見合った販売を行ない食品の廃棄を減らすよう求める文書を発出したことが報じられた。
参照:
・沓沢博行「現代人における年中行事と見出される意味:恵方巻を事例として」『比較民俗研究』23(2009.3)、p.131-151【URL(ダウンロード)】https://bit.ly/2JdFgmL
・YAHOO!JAPANニュース「大学名誉教授「恵方巻き廃棄試算は10億2800万円」おそらく経済的損失はこれを上回るであろう理由とは」(井出留美・食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学))2019年2月1日【URL】https://bit.ly/2DJYhd2
・流通ニュース「農水省/恵方巻の廃棄ロス削減を小売業団体に呼びかけ」2019年01月16日【URL】https://bit.ly/2Vd4nNz
(※110)今6~7人に1人が貧困:
低所得者の割合を示す指標として、先進国については、収入などから税金や社会保障費などを引いた「等価可処分所得」(世帯全体の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した数値)の中央値の半分を「貧困ライン」とし、これに達しない世帯員の割合を算出した「相対的貧困率」が用いられる。
日本では、近年では可処分所得年間122万円未満の世帯がそれにあたるとされ、経済協力開発機構(OECD)が2008年10月に日本の貧困率はメキシコ(約18.5%)、トルコ(約17.5%)、米国(約17%)に次ぐワースト4位(約15%)であると発表、国内に大きな衝撃を与えた。その後も2009年の16.0%、2014年の16.1%と、次々と過去最悪を更新し、いまや日本人の約6人に1人が相対的な貧困層に分類される事態となっている。
経済大国と呼ばれた日本で、かくも短期間に貧困率が増大したことの背景として、バブル崩壊以来の経済低迷の中でリストラや非正規雇用が増加し経済格差が拡大したことや、高齢者や母子家庭の増加が指摘されており、現代日本の深刻な問題のひとつとして対策が声高に叫ばれている。
参照:
・独立行政法人 労働政策研究・研修機構「過去20年で高齢者の貧困率が低下、子供や若年層で上昇――OECD格差報告書」2008年11月【URL】https://bit.ly/2VB557J
・東洋経済ONLINE「普通の日本人が知らない「貧困」の深刻な実態 親→子→孫へと連鎖し、高齢者にも広がる(岩崎博充)」2018年5月30日【URL】https://bit.ly/2LxebfS
・nippon.com「悪化する日本の「貧困率」」2014年8月29日【URL】https://bit.ly/2HiqlXa
(※111)「55年体制」のままの自民党:
自由民主党にとって1955年は、自由党と日本民主党の保守2大政党の合併による結党の年であるとともに、以後野党第一党の社会党を抑えて常に国会で過半数を確保するようになるという、自民一党支配の出発点となった記念すべき年である。この年はまた、翌年の「経済白書」が「もはや戦後ではない」と高らかに宣言したように、技術革新と労使が一体となって進められる高度経済成長の起点、すなわち、完全雇用と社会保障を実現しながら経済成長を続けていこうという、「経済自立五カ年計画」発表(1955年12月)の年でもあった。
増加の一途をたどる労働人口は、復興と成長を合言葉に活発な経済活動を始めた。豊かさの象徴たる米国の「家庭の電化」が生活の目標となり、1953年にはテレビが登場、1955年には電気炊飯器とトランジスタラジオの発売。通産省による「国民車構想」発表およびトヨタの「自家用車」としてのクラウン発売、そして、日本住宅公団設立もこの年。家電を備えた2DKの団地が、次いでマイカー+郊外の一戸建てが人々の憧れとなって、これを現実のものにするための人々の営みが、日本経済全体を大きく活性化させたのである。
戦争を通じて突きつけられたところの、物的欠乏による惨めさの記憶を有した大量の若い労働力があってこそ実現した、この経済的繁栄の記憶を、自民党は手放せずにいる。
参照:
・Wikipedia「55年体制」【URL】https://bit.ly/2X21mwm
・三浦展『団塊世代を総括する』牧野出版、2005年.
(※112)1ドル360円の固定為替レート:
GHQが日本経済の安定・自立を目的に打ち出した経済9原則(「ドッジ・ライン」)に即して設定、1949年4月25日から実施され、1971年12月まで維持された、対ドル360円の固定為替レートのこと。
円安は輸出の際に商品価格を安く抑えるため、この為替レートによって国際市場における日本製品の競争力は上昇。加えて当時は(石油メジャー寡占による)原油価格の低さと安定供給によって原料コストを安く抑えられたために、日本の輸出産業は大きく躍進した。
この状態が22年間も続いたことが日本の高度経済成長を実現したのだが、1971年8月15日の「ニクソン・ショック」により変動相場制へ移行。その後は一貫して円高が進行し、日本経済は大きな転換を迫られることになる。
参照:
・Wikipedia「円相場」【URL】https://bit.ly/2LOeggw
・週刊エコノミスト「特集:戦後70年 日本経済の歴史と未来 Part 1 これまでの70年」2015年8月11・18日合併号【URL】https://bit.ly/2WbJDFJ
・奥井脩二「360円レートと経済成長」【URL pdf】https://bit.ly/2Hp7mtX
(※113)米国の怪しげな兵器をたくさん買わされて…:
実際、米国防総省が実施している対外軍事援助プログラムで、兵器製造メーカーではなく合衆国政府が窓口となって米国製兵器の取得や軍事訓練等の提供を行う「対外有償軍事援助制度(FMS)」を通じた米国製兵器の輸入調達金額は、第二次安倍政権が発足してから急増(2011年の600億円→2015年度の約4500億円)した。
5年間の武器買い入れ計画で、2018年12月18日に閣議決定された新「中期防衛力整備計画(2019~23年度)」では、前年度から2900億円増の7013億円で過去最高となった。内容は、単価116億円のステルス戦闘機F35Aを27機(2024年度以降も含め、中期的には105機を追加購入予定)、249億円のKC46A空中給油機4機、262億円のE2D早期警戒機9機、173億円の無人偵察機グローバルホーク1機、1基1224億円の弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」2基など、超高額兵器ばかり。
トランプ大統領は安倍総理と会談するたびに、自国製武器の購入を強く要求してきたが、安倍総理は「アメリカ側の歓心を買うことで日米同盟が強化されるもの、と思い違いをしている」(北村淳)かのごとく、日本国民の血税を気前よく差し出してアメリカの軍事産業を潤している。
これらの「超高額兵器」の性能を疑問視する声も大きい。「イージス・アショア」は日本に飛来する弾道ミサイルを迎撃ミサイル「SM3」で撃ち落とすためのシステムだが、超高速で大気圏に突入するミサイルを撃ち落とすことなど「拳銃の弾を拳銃の弾で撃ち落とす」ごとき技。つまり「太平洋戦争末期に『竹槍で爆撃機B29を落とす』と言っていたのと変わらない」(白井聡氏)のであり、そもそもミサイルが同時多発的に大量に発射された場合は、それらすべてを探知することも迎撃することも不可能である。
米国の熱心な売り込みに応じて「爆買い」を決めた最新鋭ステルス戦闘機「F35」に至っては、ほかならぬ米国で「動けない・運べない・丸見え(ステルスが機能しない)」の三拍子揃った「駄作」の悪評高く、出火(2014年6月、フロリダ州空軍基地にて)や、呼吸調節装置の頻繁な故障によるパイロットの酸素欠乏(2017年に6回)など事故も多発。墜落の危険性が高いとして、何度も飛行停止になった上、2018年1月には合衆国政府監査院が「未解決の欠陥966件」を報告していた。実際、航空自衛隊三沢基地に配備されたばかり「F35」4機が、2019年4月9日、訓練中の太平洋上で墜落。パイロットたちの生存は絶望視されている。
このような「欠陥品」を、米国の言いなりに「爆買い」する安倍政権に、自衛隊関係者からも批判の声が高まっている。
参照:
・現代ビジネス「アメリカの「ぼったくり兵器」の押し売りに、ノーと言えない防衛省 価格が突然2倍に釣り上げられ…(半田滋)」2017年5月20日【URL】https://bit.ly/2WpvpRG
・朝日新聞GLOBE+「米国から高額兵器を買いまくることを同盟強化と勘違いする愚(北村淳)」2018年6月27日【URL】https://bit.ly/2K4MqKy
・ロイター「新大綱・中期防が決定、総額27兆4700億円、F35追加購入105機」2018年12月18日【URL】https://bit.ly/2Qmvlgc
・東京新聞「兵器ローン残高5兆3600億円 軍事一体化へ 米製品大量購入」2018年12月22日【URL】https://bit.ly/2VOpfWT
・しんぶん赤旗「米製兵器“爆買い” 異常な言いなり、浪費をやめよ」2019年1月15日【URL】https://bit.ly/2EuThZY
・朝日新聞DIGITAL「ミサイル防衛、二段構えでも困難 「際限ない」指摘も」2017年8月30日【URL】https://bit.ly/2uESm6R
・Yahoo ! ニュース「白井聡 頭を抱えればミサイルから身を守れるのか?」2017年8月23日【URL】 https://bit.ly/2wrOk0C
・GIZMODO「F-16設計者、F-35が駄作な理由を語る」2014年6月19日【URL】
・現代ビジネス「「ポンコツ戦闘機」F35、こんなに買っちゃって本当に大丈夫? やっぱり日本はアメリカの金ヅルか(半田滋)」2017年11月11日【URL】https://bit.ly/2X5pluO
・しんぶん赤旗「安倍政権の“浪費的爆買い” F35戦闘機 欠陥把握せず 衆院予算委 宮本徹議員に防衛省答弁」2019年2月16日【URL】https://bit.ly/2UqP6IL
・時事ドットコム「F35戦闘機が墜落」【URL】https://bit.ly/2HTgMNc
(※114)「福祉元年」と物価スライド制:
田中角栄内閣のもとで年金・健康保険制度の一大改革が行われた1973(昭和48)年は、「福祉元年」と呼ばれている。
敗戦後の日本は焼け跡からの再出発を強いられたが、朝鮮戦争特需を経た1960年代の高度経済成長により、国民はある程度の豊かさを実感するにいたっていた。この間、1961年に国民皆年金・国民皆保険が実現していたが、1973年2月に政府が策定した「経済社会基本計画」は、副題に「活力ある福祉社会のために」を掲げ、経済成長の果実としての本格的な国民福祉の充実を謳ったのである。
この年の改革では、厚生年金および国民年金が月2万円から5万円(国民年金は夫婦あたり)に引き上げられるとともに、物価スライド、すなわち、物価上昇と連動させ、5年ごとに支給額を調整することで、実質的な給付水準を維持する制度が導入された。健康保険では、家族給付率を5割から7割に引き上げ、高額療養費制度(月3万円を超える自己負担分が支給される)も導入。この他、70歳以上の老人医療無料化が改革の目玉であった。
これらの改革により、日本も西欧の福祉国家の水準に近づくことが期待されたが、同年秋に起こった第一次オイルショックによる不況とインフレを境に、日本経済は低成長時代に入る。こうして、「福祉元年」に設計された社会保障諸制度は、以後手直しされ、いっそうの充実に向かうよりはむしろ段階的にその中身を削られながら今日にいたっている。
なお、「福祉元年」という用語は、1973年1月の予算編成に前後して使われ始め、その後徐々に広まったらしい。用語の発案者が誰であるかについては、福田赳夫(1973年11月より蔵相)説、その前任者の愛知揆一(1973年11月、在職中に急逝)説があるが、いずれも確証を欠くとされ、目下のところ不詳である。
参照:
・厚生労働省 平成23年版厚生労働白書 第1部第2章 時代のニーズに対応した社会保障制度の発展を振り返る【URL pdf】https://bit.ly/2SpVQp8
・内閣府ホームページ 日本の経済計画一覧【URL】https://bit.ly/2tiQey0
・菅沼隆・土田武史・岩永理恵・田中聡一郎[編]『戦後社会保障の証言??厚生官僚120時間オーラルヒストリー』有斐閣、2018年.
(※115)ドイツのハイパーインフレ:
ハイパーインフレーションとは、物価(通貨の価値)が短期間のうちに数倍(数分の1)、数十倍(数十分の1)…、と累乗的に上昇(下落)する経済現象のこと。
第一次大戦後のドイツが、まさにそうした空前のハイパーインフレーションに見舞われたことは、よく知られた事実である。1918年から1923年までの5年間に、ドイツ・マルクは1兆分の1まで下落、物価は最終的に384億倍にまで上昇し、パン1個が1兆マルク、「1杯5000マルクのコーヒーが、飲み終わったときには8000マルクになっている」ような、また、紙屑同然となった紙幣の山を、大人は箒と塵取りで集め、子どもは遊びに使う、そんな常軌を逸したインフレーションだった。
きっかけは、ヴェルサイユ条約で戦勝国がドイツに1320億マルク(ドイツの当時の国家歳入は68億マルク)という巨額の賠償金を課したこと、そして、これに対応するために、ドイツ中央銀行(ライヒスバンク)が大量の紙幣を新規発行したことであった。この事件の経緯については、スコットランドの歴史家アダム・ファーガソンが1975年に上梓した ”When Money Dies ? The nightmare of the Weimar Hyper-Inflation”1975年(邦訳『ハイパーインフレの悪夢――ドイツ「国家破綻の歴史」は警告する』新潮社、2011年)が詳しい。
この著作はまた、当時のドイツ国民の日記・手記なども含めた豊富な歴史的証言に依りつつ、ハイパーインフレーションがいかに国民を「飢えや、病気や、貧困や、ときには死と向き合わせることになったか、さらには、これがいかに「差別意識を駆り立てる性質」を有するかを浮き彫りにした点においても、「必読書」(世界的投資家ウォーレン・バフェット)の評に値する。邦訳の「解説」を書いた池上彰氏の要約は、まさに今、日本で進行している状況を彷彿させ、読者に戦慄をおぼえさせる。
「インフレの扱いのむずかしい点のひとつは、穏やかなレベルであれば、経済が活性化することです。その甘い香りに誘われると、いつしか後戻りできなくなるからです。
(中略)インフレが昂進する中で、一見華やかな繁栄が訪れます。貨幣価値が日を追って下がっていくため、価値があるうちに使ってしまおうという衝動から、高価な買い物をしたり、豪華な食事にお金を使う人たちの姿が見受けられたからです。うたたかの偽りの繁栄でした。
(中略)一方で、マルク相場の下落を見たフランス人たちは、ドイツにやって来て、商品を買いあさり、飽食を楽しみました。これを見たドイツ人たちのフランス人への敵意が高まります。
(中略)やがて、深刻な物価高騰が庶民の生活を襲います。高級住宅街では、子どもを思う母親たちが私邸内に勝手に入り込み、残飯目当てにゴミ箱をあさっていたといいます。人々のモラルが失われていきます。
深刻なインフレに直面した人々は、手っ取り早く“犯人”を探しました。
『おおかたの人間は、物価が高騰したのは外国為替相場の上昇のせいであり、外国為替相場が上昇したのは株式市場の投機のせいであり、それらはすべてユダヤ人のせいだと考えていた』
金融界で大きな影響力を持っていたユダヤ人に対する根拠なき反感も育っていくのです。
生活が苦しくなった庶民は、英雄の出現を期待するようになります。やがて、雄弁家のヒットラーが台頭する社会基盤が生まれていくのです」(p.5-8)
参照:
・Wikipedia「ハイパーインフレーション」【URL】
・ShareWis PARESS「事例で見るドイツのハイパーインフレーション」2017年12月3日【URL】https://bit.ly/2YNk1fV
・The Capital Tribune Japan「インフレから身を守る方法」2013年1月19日【URL】https://bit.ly/2M9c8Ab
・アダム・ファガーソン著、黒輪篤嗣・桐谷知未訳『ハイパーインフレの悪夢――ドイツ「国家破綻の歴史」は警告する』新潮社、2011年.
(※116)ロシアのハイパーインフレと、これがもたらした悲劇:
1991年12月にソ連が崩壊、それまでの計画経済体制から資本主義体制へ移行したロシアは、ソ連から莫大な債務を引き継いだことによるロシア・ルーブルの信用低下、生産設備を払い下げられた一部の民間人(オリガルヒ=新興財閥)による価格の吊り上げ、物資不足などによって、激しいインフレーションと「破局」とも評されるほどに深刻な生産水準、GDP、実質賃金の低下に見舞われた。
すなわち、GDPデフレーターは各々前年度比で1992年に16倍、1993年10倍、1994年4倍、1995年3倍、1996年に1.5倍となり、物価水準は数年で3000倍にも上昇。政府や財界には不正が横行し、人々の生活はみるみる悪化していったのである。
こうした社会不安は人心を荒ませ、アルコール依存による疾患と死亡、自殺、殺人が急増。財政難を背景に年金や医療といった各種社会保障制度も崩壊したため、年金暮らしの高齢者や病気を抱える国民が大量に死に、平均寿命が瞬く間に短くなった。特に男性の平均寿命の短縮化が顕著で、ゴルバチョフ時代に65歳近くだったそれは、体制移行2年目の1993年に58.91歳、翌94年には57.59歳へと急落。一時期60歳以上に回復したものの、1998年8月の金融危機をきっかけに起こったインフレ高進と所得格差の拡大によって、再び60歳以下へ低下したのである。
参照:
・佐藤芳行「ロシアにおけるインフレーション――「改革」後の価格調整は何をもたらしたか――」『経済論集』第90号、新潟大学、2010年【URL pdf】https://bit.ly/2K1FEVP
・久保庭眞彰・田畑伸一郎「ロシアにおける1990年代の人口・年金危機――移行経済の世代間利害調整に関する予備的考察――」『経済研究』第53号、一橋大学、2002年【URL pdf】https://bit.ly/2JCPM84
・みんなの介護「お金のはなし 第11話財政破綻した旧ソ連はインフレで社会保障が崩壊… 日本も同じ末路をたどる?」2017年11月16日【URL】https://bit.ly/30JOnlx
岩上「なぜかどうしても少子化対策をしたくない政府は、このたび、使い捨てられる外国人労働者を入れるような手に出ました。

▲どうしても少子化対策をしたくない政府 使い捨てられる外国人労働者 https://bit.ly/2YnVNs7
岩上「政府は6月5日、経済財政諮問会議で外国人労働者の受け入れ拡大を表明。来年4月、建設業や農業、介護などを対象に新たな在留資格を創設し、2025年までに新たに50万人以上の就業を目指す(※117)というんですが、これだけでは到底足りませんよ。実際に必要な(労働人口の)数は何千万人という規模。2025年までに50万人どころか、毎年70万人、80万人入れないと間に合わない。
受け入れにはその外国人が『技能実習制度(最長5年)を修了するか、新設される試験に合格する必要がある』というんですが、もうそんなこと言っていられない、とにかく『建設業や農業などでは、ある程度の日常会話ができるとされる日本語レベルN4以下の人でも受け入れる』と(※118)。そのかたわら、外国人労働者への人権侵害が大きな問題になっているわけです。
僕らが取材した、氷山の一角ですけれど、カンボジア人の元実習生が話してくれたことなんですが、実習先の建設会社で『死ね』等と暴言を吐かれた上、ヘルメットが割れるほどの暴行を受け、鬱病での休職を余儀なくされた。なのに『金は返せ』と言われて追いかけられている。弁護士のところになんとか辿り着くことができて…。こんな人権のない状態で、外国人移民の受け入れなんてできるのかという話ですよ(※119)。
さらに、移民を受け入れて現役世代の人口減少に一定の歯止めをかけても、移民もまたいずれ年を取って引退して扶養される側に回る。出生率の低下に対してなんら策を打たないなら、生産年齢人口の減少を相殺するほどの大量の移民受け入れを進めるとでもいうんですかね。その人たちが子どもを作って、次世代を産み育てて安らかに老後を過ごせる社会にしなければならないわけですが、日本人でも今そうなってないのに、そんなことできるのかと」
田代「おっしゃる通りです。最終的に移民たちも少子化になったら、事態はもっと複雑になるわけです。高齢者をもっと増やすことになっちゃいますからね」

▲生産年齢人口の減少を相殺するほどの規模で移民を受け入れることは不可能https://bit.ly/2K25lUo
岩上「移民たちはたくさん子どもを産むって言うけれど、現実問題として、経済が同じ条件だったらやっぱりそんなにたくさん産めないですよ。経済企画庁が1997年9月に公表した『高齢化の経済分析』というものがあるんですが、それによれば、年金受給開始年齢を65歳、0~5歳人口の保育所在所率が横ばいである場合、2025年までに年間40万人ずつ、2050年までは年間60万人ずつ生産年齢人口が減少すると(※120)。
60万人というのは、在日の韓国人、朝鮮人、台湾人の総数53万8246人に匹敵する数字。この人数がどんどん毎年いなくなっちゃうんですよ? 安倍政権の言う『2025年までに50万人』だとか、そんなもの、ぜんぜん日本の生産年齢人口の減少を埋められないですし、そもそもこの(毎年60万人という)規模で毎年のように外国人を受け入れることは非現実的です。
だから僕は、現実的には『多子家庭の支援を』と。一部の富裕層を除き、子ども手当てを0歳から高校を卒業するまで支給するとか、一人親家庭への支援と貧困の解消も。離婚リスクを目の当たりにしているから、なかなか産まなくなってしまっているわけです。だから、離婚しても生きていける社会なんだっていう状態を作らないと。というのも、養育費の支払いをしない男性が多いんです」
田代「多いですね」
岩上「フランスでは、いったん国が立て替えて差し押さえをするんです。そういう公的な機関がフランスにあるわけですから、それを真似て、義務の履行と離婚後のDV防止のために、国がまず間に入って女性側に支給して、その後当の本人の給与から取っていくとか、そういうことをやるべきじゃないか(※121)。
また、いくら保育施設があっても、病児保育の施設がないと共働きでは支えられないから、これを整備するとか、予備校や大学にかかる費用負担を軽減するための無利子奨学金の拡充をするべきじゃないか、とか。さらに、教育費は所得税の控除対象にしたらいいじゃないかとか、多子家庭の子育てを応援する公営住宅制度を設ければいいんじゃないか、とか。
こういうことは、今みたいに教育ローン漬けになるはるか前に、僕が書いてきたことなんですけどね。理想論でしかないと言われるかもしれないけれど、この程度のことぐらいは真剣にやったって、そんなにお金はかからないんじゃないかなと」
田代「『国土強靱化』(※122)なんかより、はるかに安く上がります」
岩上「そうですよね、なのに、なぜやらないのかなぁ…」
田代「簡単に言えば、利益団体がないからですよ。業界がないのにお金を突っ込んでも、役人にとっては天下り先がない」
岩上「そんなシステムのままでいくと、日本は滅びちゃうんですけど、いいんですかね」
田代「抗議者の悲劇といいますか、ここままではまずいとわかっていても、行動を起こせば自分は損する、ということになっているわけですね。政治というものは本来、そういうものを突破するためにあるはずでしょうに」
岩上「そうですよね。ミクロのこと、私益のことではなく、まずマクロのことを考えて、何をすべきかということを示さなければいけないはずですよね」
(※117)外国人労働者の受け入れ拡大。新たな在留資格を創設し、2025年までに新たに50万人以上の就業を目指す:
政府は2018年6月5日、経済財政諮問会議(議長:安倍晋三総理)において、少子高齢化および人口減に伴い「中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化」、そのことが「我が国の経済・社会 基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきている」と懸念を表明した上で、「従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある」と力説。その対策として、「移民政策とは異なるものとして、外国人材の受入れを拡大」し、そのための「新たな在留資格を創設する」方針であることを宣言した。
つまり、これまでの方針を転換し、いわゆる「単純労働」をも含めた外国人労働者の受け入れを行うというのである。これは事実上の移民制度にほかならない。報道によれば、政府は「人手不足が深刻な介護、農業、建設、造船、宿泊など5業種を対象に2019年4月に新たな在留資格を設け」、「2025年までに50万人超の就業を目指している」とのことであった。
この方針は、同年6月15日に閣議決定された「骨太の方針2018」の中に盛り込まれた上で、秋の臨時国会(第197回国会)に入国管理法改正案として提出。12月8日に成立し、翌2019年4月1日に施行されている。
これにより、新たな在留資格である「特定技能」(1号と2号の二種があり、1号は在留期間が通算5年まで、より高い技能が求められる2号のそれは無制限、かつ家族の帯同を許可される。これらの資格を取得するためには、日本語試験や業種ごとの技能試験に合格する必要がある。なお、3年間の技能実習を修了すれば、試験なしで1号に移行できる)が設けられ、外国人の単純労働に門戸が開かれることになった。受入れ分野は農業、介護、建設、宿泊、造船等14業種、5年間で約34万人の外国人労働者を受け入れる見込みという。
受入れ後の福祉や悪質な紹介業者の取締り、雇用者や日本国民による人権侵害問題など、これまでも整備や改善が声高に叫ばれ続けてきた諸問題を解決せぬままの見切り発車。労働力補填云々の前に、日本の社会と国際的地位を揺るがすような大きな禍根を残すことになるのではないかと、懸念する声が各方面から上がっている。
参照:
・日経ビジネス「外国人の「単純労働者」を受け入れへ 人手不足に直面し、政府が政策を「大転換」(磯山友幸)」2018年6月1日【URL】https://bit.ly/2Qrq1In
・内閣府「平成30年第8回経済財政諮問会議 議事要旨」【URL pdf】https://bit.ly/2VMkRI9
・日本経済新聞「外国人就労拡大、首相が表明 建設・農業・介護など」2018年6月5日【URL】https://s.nikkei.com/2M3wjLM
・サンケイビズ「外国人労働者50万人超必要 25年までに 人手不足深刻化で転換」2018年6月6日【URL】https://bit.ly/2HCbxT4
・内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2018について 平成30年6月15日閣議決定」【URL pdf】https://bit.ly/2Q5sgUM
・日経ビジネス「入管法改正「なし崩し移民」の期待と不安 外国人「定住政策」の整備急げ(磯山友幸)」2018年10月26日【URL】https://bit.ly/2VLE3Wk
・入国管理局「入管法及び法務省設置法改正について」【URL】https://bit.ly/2Tpq8Vp
・ニューズウィーク日本版「外国人労働者受け入れ5年間で34万5千人へ拡大 「技能実習制度の問題置き去り」の声も」2019年3月19日【URL】https://bit.ly/2X2fQMS
・時事ドットコム「改正入管法が施行=外国人就労拡大へ」2019年4月1日【URL】https://bit.ly/2YMiZAT
(※118)「日本語レベルN4以下の者でも受け入れる」:
少子高齢化および人口減による労働力不足に対処するとして、安倍政権は2018年6月、外国人材の受入れを拡大するための「新たな在留資格を創設」する方針を表明。2018年12月8日に成立、翌2019年4月1日に施行された改正入国管理法により、従来禁止してきた「単純労働」を含む14業種への就労を外国人に認める「特定技能」という在留資格がスタートした(前註※117参照)。
そして、「特定技能」の資格を取得するには、3年間の技能実習を修了すること、もしくは、国が求める基準をもとに各職種ごとの業界団体が「技能水準」と「日本語能力水準」の試験を作成し実施される「特定技能評価試験」に合格することが要件となった。
その「日本語能力水準」の判定によく用いられるのが、公益財団法人「日本国際教育支援協会」と独立行政法人「国際交流基金」が主催する「日本語能力試験」(Japanese Language Proficiency Test、略称はJLPT)。最上級の「N1」から最下級の「N5」までの5段階のレベルがある。
「特定技能」資格の取得は、原則的に下から2番目の日本語運用レベルである「N4」を基準とするというが、業種によっては「N4」まで求めない、つまり、「会話がなんとか成立する」レベルに達していなくとも受け入れるという声が上がっているという。
日本語の理解能力の乏しさゆえに、労働者たちが職務に支障をきたし、事故やトラブルを引き起こすことは当然考えられる。また、ドイツ語でコミュニケーションができない大量のトルコ移民がドイツ社会で孤立し、社会問題化したように、外国人労働者への差別や人権侵害がいっそう進む危険性は十分考えられる。政府や企業は、外国「人」を単なる「労働力」としてしかみなしていない、その傲慢な態度を改めるべきであろう。
参照:
・日本経済新聞「外国人就労拡大、首相が表明 建設・農業・介護など」2018年6月5日【URL】https://s.nikkei.com/2M3wjLM
・外国人雇用の教科書「特定技能評価試験とは」2019年5月8日【URL】https://bit.ly/2QmABjS
・Wikipedia「日本語能力試験」【URL】https://bit.ly/2MbNBdP
(※119)外国人労働者に対する人権侵害問題:
近年日本で社会問題化している、「技能実習制度」および「外国人研修制度」によって受け入れられた外国人労働者に対する深刻な人権侵害のこと。
国際貢献の一環として1993(平成5)年に導入、途上国からの外国人を、まずは1年間の「研修」の在留資格で、次いで、技能検定に合格すればさらに2年間の「技能研修生」として日本滞在を許可し、企業や団体のもとで有給で労働に従事させながら、農業、漁業、建設、機械・金属製造などの先進技術を学ばせるという制度である。
実習生たちは事実上、日本人労働者の確保が困難な単純労働・非熟練労働に従事させられている上、本国への強制送還で脅されつつ、違法な長時間・低賃金労働や不当な暴力、性行為の強制、身柄の拘束といった、あらゆる非人道的扱いに耐え忍ばざるを得ない状況に置かれている。また、実習生の送り出し・受け入れに介在する民間団体による、悪質な中間搾取も横行しており、実習生たちは多額の借金を抱えて奴隷さながらの労働を強いられている。
こうした状況を受けて、国際社会からは「技能実習制度」に対する批判や制度廃止の勧告が次々と噴出(米国務省の人身売買年次報告書(2007年~)、国連自由権規約委員会勧告(2008年)、国連女性差別撤廃委員会総括所見(2009年)、国連女性と子どもの人身売買特別報告者勧告(2010年)、移住者の人権に関する国連の特別報告者勧告(2011年)、国連自由権規約委員会総括所見・勧告(2014年)など)、日本国内でも日弁連や日本労働弁護団などが改善を求めてきたが、実習生に対する人権侵害は止むことなく、2015~17年の3年間に実習生69人が死亡、2017年には7000人もの実習生が失踪するという事態となっている。
IWJもこの問題を取り上げ、実習生のひとりに直接取材をした。日本の産業界が自分たちの利益を確保するためにいかに労働者の人権を無視し、死にまで追いやるものか、その実態を証言してもらった。そちらもぜひご参照いただきたい。
参照:
・Wikipedia「技能実習制度」【URL】https://bit.ly/2VGdAtm
・朝日新聞「トピックス>技能実習制度」【URL】https://bit.ly/30GdANM
・毎日新聞「外国人実習生、3年で69人死亡、6人は自殺、法務省資料で判明」2018年12月6日【URL】https://bit.ly/2QeMxY1
・YAHOO ! ニュース「広がる実習生支援と終わらない権利侵害(2)「途上国への国際貢献を“偽装”した労働者受け入れ制度」(巣内尚子)」2018年7月18日【URL】https://bit.ly/2QhfHCN
・日本労働弁護団「新たな外国人労働者受入れ制度創設に対する声明」2018年10月31日【URL pdf】https://bit.ly/2JWmKj6
・IWJ「「死ね」「帰れ」――「国際貢献」の美談のもと行われている外国人技能実習生への醜悪な差別と搾取の実態! 指を失い、都内建設会社から命からがら逃げ出したカンボジア人実習生が奴隷的労働の現実を明かす! 2017.1.25」【URL】https://bit.ly/2Qkfv5v
(※120)経済企画庁「2025年までに年間40万人ずつ、2050年までは年間60万人ずつ生産年齢人口が減少」:
経済企画庁(現・内閣府経済社会総合研究所)発行の、学術誌『経済分析』第151号(1997年9月)に掲載された、論文「高齢化の経済分析」(八代尚宏、小塩隆士、井伊雅子ほか著)において示されていることがら。
「高齢化の真のピーク時である2050年までの期間を対象」とし、「マクロ経済、労働力供給、公的年金を中心とした財政等の各部門を別々ではなく、それらの相互依存関係を組み込んだマクロモデル」の構築および分析結果の提示を通じて、「国民に多様な選択肢を示す」とともに「制度改革の議論の具体化に貢献」することを目指した論文である。
論文は3つの研究から構成されるが、ここで話題になっているのは、「(研究1)高齢化のマクロ的分析」と題される第1論文の第4章、「労働力供給の長期展望」において提示されている、「図4-9 労働力人口の見通し」およびその具体的データを示した「表4-5 労働力人口の比較表」から読み取れることである。
それによれば、1995年にピークを迎えた「15~64歳人口」(=生産年齢人口)および「労働力人口」(人口と労働市場への参加率 (労働力率) を組み合わせることで求められる人口)は、その後、平行線を描くようにして急激に減少。2000年以降も人々の老々市場への参加の程度に変化がないと想定した場合、2000年に6609万人と予測される労働力人口は、2025年には年率0.55%減となる5449人、それ以降はさらに減少スピードが加速し、年率1.14%減の4250万人にまで減少する見込みという。
労働力のこうした減少傾向は、たとえ公的年金制度の改革や保育所の大幅な充実を想定して分析しても同じであったといい、少子高齢化問題の深刻さを読者に強く印象づける。
参照:
・内閣府経済社会総合研究所「『経済分析』第151号(1997年9月)高齢化の経済分析」【URL】https://bit.ly/2YDLBfJ
・コトバンク「経済企画庁」【URL】https://bit.ly/2X1fWEG
(※121)日本における離婚男性の養育費不払いの多さと諸外国の対策:
岩上安身は、講談社の月刊誌『現代』1999年3月号から14回にわたって掲載された連載記事「滅びゆく国の“性と生”の現場から――少子化とSEXと資本主義」の第10回「養育費不払い男を野放しにするな」(2000年1月号)において、すでにこの問題を取り上げている。
それによれば、「離婚した男性が、継続して養育費を送金しているのは、わずか14.9%にすぎない。言いかえると、離婚した男性の実に85.1%が、養育費を支払わず、父親としての扶養義務を果たさずにいる」。そして、日本において子どもの養育義務を履行する父親の数がかくも低水準にとどまっていることの背景には、養育費の支払いに関する契約文書を作成しないままの協議離婚の多さと、たとえ公文書があっても、裁判所による取立てのためには、毎月毎月、長期間にわたって弁護士を雇わねばならないという、「養育費の履行確保には不適当」な現行の民事執行法上の強制執行制度、そして、家庭裁判所の履行命令に従わない場合も10万円以下というわずかな過料で済むということがある。
これに対し、欧米では、ともすれば責任を放棄しがちな父親に養育費を支払わせるための制度が整えられているという。
たとえば米国では、父親の賃金から養育費を源泉徴収するシステムが存在し、1984年の連邦社会保険法が改正以後は、これが各州レベルで義務付けられた。履行命令に従わない時の罰則も厳しく、懲役刑である。フランスでは、子どものための養育費が支払われない場合、「家族給付支給機関」がその未払い分を立て替える形で母子に「家族扶養手当」を支給すると同時に、父親に対する取立ても代行する。女性は男性と直接交渉をせずにすむので、精神的にも負担が軽減される。
スウェーデンにおいても扶養料立替制度が導入されており、扶養料支払義務者が弁済期の到来している扶養料を支払わない場合、18歳未満の子は基礎額の41%を受け取ることができるという。少子化による経済の縮小再生産に直面する日本は、これら諸外国に学ぶところのものは多かろう。
(※122)「国土強靱化」:
アベノミクスの「三本の矢」の、「第二の矢」を構成する政策。近い未来に日本を襲うと予測されている「南海トラフ地震」と「首都直下型地震」に備え、10年間に200兆円の対策費を投じてこれに耐える強靭な国土をつくる、というものである。つまり、1年間に平均20兆円という巨額の資金を公共事業に投入するというわけである。
しかし、経済学者の伊東光晴・京都大学名誉教授は、そんなことは「不可能」であり、安倍政権は――1990年6月に閣議決定され、2000年までの10年間に430兆円の公共投資を行うとした「公共投資基本計画」がそうであったように――公約を「無視することは確実」と断言する。
伊東教授によれば、2014年度の公共事業関係予算は5兆9685円。その他、地方の事業や国の事業への地方分担金も含めた国土交通省所管の8分野(道路、港湾、空港、公共賃貸住宅、下水道、都市公園、治水、海岸)の予算は、2010年以後8兆円の水準にあり、「国の財政収入および状況を考えても、国債累積の状態からも、年20兆円の対策費は入りうる余地はまったくない」。
その上、既存インフラの老朽化が進み、公共投資のうちに占める維持管理・更新費の割合が予算の50%にものぼる今、「新たな投資の余地は――予算制約上からも――なく、ますます縮小せざるを得ない」と。かつては「地方の人に働く場を提供し、中央と地方との所得格差を縮小させようという(中略)日本的福祉政策のひとつ」であった、「内実を持った公共投資」が、「たんなる土木建設業への発注」に成り下がった今、真の「国土強靭化」政策とはいかなるものか、再考すべきであるだろう。
参照:伊東光晴『アベノミクス批判――四本の矢を折る』岩波書店、2014年【URL】https://bit.ly/2WFrxJe
田代「ずいぶん昔、森嶋通夫先生がおっしゃったことを思い出します。日本がデッドロック=座礁してしまうのはなぜかというと、政治によるイノベーションというものが日本では決定的になくなってしまったからだ、と(※123)。

▲森嶋通夫(ウィキペディアより)https://bit.ly/2GwTjBI
政治家たちは、昨日の日本を今日もやりたい、というふうになってるでしょ。2012年12月の衆議院選挙のときに、自由民主党が掲げたスローガンが『日本を取り戻す』でしたが、なるほどなと思いましたね」
岩上「でも、そんなもの完全に夢ですよ。あのときの条件、人口動態の条件がないんだもの」
田代「どっちにしても、一回きりしか起こらないことをいくら言ってもね。それって、失われた青春を取り戻したいという、浜先生が言うところの『ファウスト症候群』ですよ(※124)。メフィストフェレスの誘惑にかかるファウストみたいな人たちですよね」
岩上「本当にたわごとというか、完全に妄想のなかに入っているというか…。そういう妄想を言っている人にどんどん人が集まって、権力が生まれて、渦を巻いているような状況になってしまいました。最終的には戦争かハイパーインフレでチャラにしよう、なんて目論んでいるんじゃないかと思うんですけど」
田代「ただ、もうこんな人口減少社会だと、そんなことができるほどのパワーもあるだろうかって感じですよ。戦争を起こすパワーもないし、ハイパーインフレだって、活発な経済活動があるからこそ起きるわけですから、ゾンビ化してしまっている今は…」
岩上「そうなんですか。先ほどのお話では、国債の信任が失われたとき、金利がボーン!と上がっていって大変危険だと。そうやって国債が暴落していくということは、いろんなところに大きな影響を及ぼして、インフレにつながっていくんじゃないかなと思うんですが」
田代「おっしゃる通り、ハイパーインフレでチャラになることを待望する人もいるでしょう。でも、その傍らで甘い夢を見ている人たちがいるんです。
日本の国会議員は、そのほとんどが地方の選挙区から選出されてるわけですよね。そして、地方の有力者はだいたい大きな地主で、彼らからすれば、別にハイパーインフレでもなんでも、破綻してしまえば…。その時何が起きるか。
戦後の焼け野原が再現するわけですよ。そうすると、大都会に住んでる人たちが食料を求めて資産を投げ売りしてくれる。彼らはみんな土地持ってるから、そこで野菜作ったり米作ったりすれば生き延びられる――そんなことを考えている。
残念ながら、これは夢にすぎません。今の日本の経済は昔とは違います。だって、今の農業、オイルが要るわけですからね、円が暴落すれば石油価格が暴騰して、耕耘機も動かせない」
岩上「種子法廃止も通しちゃいましたしね(※125)。つまり、自前の種子がない。買わなきゃいけないんです」
田代「モンサントが『日本には信用がないから売れません』なんて言い出したらどうするつもりなんですかね」
岩上「自給自足はもはやできなくなっていると考えた方がいい」
田代「そうです。あれも一回きりしかない夢なんです。都市化がまだあまり進んでおらず、農村人口がじゅうぶんにあった頃だったからこそできた。いまはもう、農村人口、スカスカじゃないですか。実際、長野県のレタス生産農場でも、あぜ道のところに年老いた日本人の農家の夫婦がいて、畑で外国人の人たちが働いてるのを指導しているような状態です。日本が破綻してしまえば、当然、みんないなくなりますよ」
岩上「お金払えないですからね」
田代「日本円なんかもらっても、どうしようもないじゃないじゃないですか。それこそ中国の通貨かアメリカの通貨か、あるいはユーロで金をくれ、という話になりますよ。戦争直後の成功体験は、もう夢でしかありません。だから、みんなもっと真面目に考えるべきです。
ここまで来たら、選択肢はもはや二つ。少子化をとにかく止めて人口増加を起こすか、人口が減少するかたちにしてもなお持続可能な社会に作り替えるか。どちらかを選択しなければならないのに、どちらも選択しない」
岩上「すると、劇的なデフォルトしかない」
田代「でも、それでもう一度戦後の焼け野原に戻って一から出直すこともできない。前は若い人がたくさんいるからこそできたんです。還暦なんか祝うぐらい、お年寄りが少なかった。いまはそうじゃないんだから、そりゃ無理ですよね。そういうことを真面目に考えなきゃいけないですね」
岩上「そもそも戦争やるということは戦費がものすごくかかるわけで」
田代「黒田総裁もすでに2013年に『財政が持続不能』とおっしゃいました(※126)が、その頃よりもさらに悪化してるのに、ここで再軍備なんてやったら一発で財政破綻ですよ。これを避けるために、年金も、医療も、介護も、何もかも無しにする、なんてことになっていいのかという話ですよね」
岩上「にもかかわらず、自民党を支えてる人たちは、憲法改正してとにかく戦争できる国にするんだ、核武装するんだ、というようなことを言ってるわけですよ。トッドの言っていることを一部つまみ食いして。
櫻井〔よしこ〕さんがやってる『国家基本問題研究所』でしたっけ、そこでの講演で、『日本は核武装しろ』ということをトッドが言っていると。今月号の『文藝春秋』が報じています(※127)。目玉企画ですよ、『そうか、日本は核武装すれば問題は解決するんだ』って。人口問題なんかぜんぜん考えもせずに、そんなことを! こうやって現実逃避に大事な時間をロスしていくうちに、この国がなんとか持続していくチャンスをつかむ余力をなくしてしまうかもしれない。
そもそも『文藝春秋』の報じ方は正確ではありません。国家基本問題研究所での講演では、トッドは『アメリカから独立するために日本は核武装しろ』と言っているわけです」

▲櫻井よしこ氏(IWJ撮影) https://bit.ly/2KaMsit
田代「言いたいのは『独立しなさい』ということですよね」
岩上「『現在の日本はアメリカの保護領だ』とも発言していますよね。ところが、『文春』にはこれが入ってない。トッドがカットするように言ったのか編集部がカットしたのか知りませんけれども、入ってないんですよ」
田代「一番大事なところがね」
岩上「『この国は保護領であって、自立した国家じゃないから、核武装して自立しなさい』って。そうでなければ話にならないよ、ってことを言ってるのに、そこを抜かして、単に『核を持て』という話になってしまっている。中国とか北朝鮮とかとドンパチやるときのために用意しとくんだ、とか。ひいては『アメリカは常に頼りになるんだな』って話になっちゃうわけですね」
田代「彼は国家基本問題研究所のシンポジウムのときに、はっきりと『アメリカの核の傘は幻想である』と言っていますよね。『なぜアメリカが自国が壊滅することを覚悟して外国を守らなきゃいけないのか』、『そういうことを信じられることがわからない』と」
岩上「すごくはっきり言っていますよね」
田代「フランス的明晰性ですよね。デカルト的明晰性で語ってるわけです」

▲エマニュエル・トッド氏(Wikimedia Commonsより) https://bit.ly/2OgYZGg
岩上「田代さんはシンポジウムに参加なさって、講演を直接お聞きになったんですよね?」
田代「はい。フランスの左翼ってのはなかなかすごいな、と思いましたね。右翼もすごいですが。日本の場合、左翼も右翼も一番本質的なところに触れずに、時間を空費している」
岩上「ごまかしながらね。安保のことも、人口のことも。自国民族の存続に関わることで、右翼団体なんて一番言いそうなものなのに、そこには全くタッチしない。僕には理解不可能です。
トッド自身、日本の人口減少についてコミットしてますが、『日本はどうやら移民も選ばないし、そういう道を選択したわけだね』と。たしかに、日本が今後どうなるかなんて、知ったこっちゃない話ですよね。『ただ、このまま日本が縮小してってダメになるのは困る。なぜなら、私が一番書けるマーケットはここだから』とも。なくなってもらっては困ると言ってました」
田代「こういう本質的な問題を取り上げるメディアっていうのは本当に少なくて。IWJはその数少ないなかの一つなんですから、存続してくださいね。そして、多くの日本人に気づいてもらいたいものです」
岩上「ありがとうごいます。本当に長時間お付き合いいただきました。これからもどうかよろしくお願いします」
田代「視聴者の皆さまも、本当にご苦労様です」
(※123)森嶋通夫先生「日本が座礁してしまうのは、政治のイノベーションが消滅してしまったため」:
森嶋通夫(もりしま みちお、1923年-2004年)は大阪市生まれの経済学者。京都大学経済学部で学んだのち、京都大学助教授、大阪大学社会経済研究所教授、エセックス大学客員教授、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授等を歴任。ジョン・ヒックスの経済モデルを数学的手法を駆使して再解釈した『動学的経済理論』(1950年)を20代で発表し、一躍注目を浴びたほか、新古典派の均衡理論モデルを成長理論に発展させ、1965年には日本人初の国際計量経済学会会長に就任。日本の経済学を世界的水準に引き上げた草分け的存在として知られる。マルクスやワルラスといった19世紀の大経済学者の理論研究においても多くの業績を残し、長く日本人初のノーベル経済学賞の有力候補と目された。経済学研究にとどまらず、世界各国の政治・社会に関する活発な論評活動でも有名である。
ここで言及されているのは、その森嶋通夫が1999年に上梓、人口減、国民精神の荒廃、金融・産業・教育における倫理性の欠如といった、現代日本の諸問題を挙げながら日本の未来に対する危機感を表明した、『なぜ日本は没落するか』における主張である。経済を活性化させるには、「有効需要を増すために金融的に支出意欲を刺激することに重点を置」くだけではなく、「それに対して支出したくなるような新項目を発見するという有効需要の背景拡大の考察」、すなわち、アメリカのニューディール政策や田中角栄元首相の「日本列島改造計画」のような、「新しい政治的発想」=政治的イノベーションが必要である。だが、現代日本はこれをすっかり無くしてしまった。政府主導による政・財・官の「鉄の三角形」は、たしかに高度経済成長を実現したが、同時に「互いをあまりにも馴々しくさせ、結託することを当然と彼らに思わせた」ために「内部に談合や贈収賄や結託への罪悪感がなくなるような土壌が育成」されて「職業倫理の荒廃」を生じせしめ、「政・財・官の三者が協議して、ありうるイノベーションを探し求めるという態度を喪失」させたのである。そして、このような政・財・官のあり方からしても、また、日本の大学における政治学教育からしても、「新しい政治的発想は――ここ十数年に皆無であったと同様に――来る50年間にも殆どあるとは思えない」としつつ、森嶋は次のような未来予想図を提示し警鐘を鳴らす。
「長期にわたる大量失業に耐えかねて、日本人は誰もが考える――したがって新機軸などとはいい得ない――政治的イノベーション、すなわち再軍備に手をつけて、来る50年に軍産複合体をふくらませるかもしれない。アメリカは恐らくその時までに、政治的着想に乏しい日本に愛想を尽かしているかもしれず、他のアジア諸国の方を高評価しているかも知れない。そういう事態が起これば、日本は迷走し始め、遂にはアジアで孤立するだろう。」
参照:
・日本大百科全書(ニッポニカ)の解説「森嶋通夫」【URL】https://bit.ly/2JpCQlG
・森嶋通夫『なぜ日本は没落するか』岩波書店、1999年.
(※124)「ファウスト症候群」:
「アホノミクス」「ドアホノミクス」の命名者でありIWJでもおなじみのエコノミスト、浜矩子・同志社大学大学院教授は、2011年から12年にかけて、すなわち「アホノミクス」登場以前に、日本経済の低迷のよってきたるゆえんをゲーテらが作品化したファウスト伝説になぞらえ、「ファウスト症候群」と名づけた。
ファウストは、悪魔メフィストフェレスから永遠の若さを与えられるのとひきかえに、魂を売り渡してしまう。日本経済もまた、失われた若さの夢よふたたびとばかりに、かつてのハングリー精神やモノづくりのパワーを取り戻し、再びナンバーワンになりたいとあがくことで、まっとうな方向転換の機会を逸してしまっている。成熟大国である日本は、いかに上手に老いるかをこそ探るべきであって、ライバルとして意識すべきは中国やインドやベトナムといった伸び盛りの国々ではなく、イギリスやイタリアなのだ。
さらに浜氏によれば、この「ファウスト症候群」の始まりは、1985年のプラザ合意時に見出されるという。円高進行とそれに伴う構造変化に身を任せるかわりに、何がなんでも円高不況を回避し、何がなんでも輸出立国の看板を下ろさないことを選択し、総力を上げて金融大緩和に乗り出したことで、バブル経済とバブル崩壊後の「失われた十年」を招きよせ、そのツケがいまや重くのしかかっているのだ、と。
参照:
・浜矩子「時代の風:ファウスト化する日本」『毎日新聞』2011年8月7日.
・浜矩子「プラザ合意の時「大人」になるべきだった??1985年」『文藝春秋』2012年1月号・特集「日本はどこで間違えたか」.
(※125)種子法(主要農作物種子法):
種子法(1952年5月制定)とは、コメや麦、大豆といった主要農作物について、「栽培中の主要農作物の出穂、穂ぞろい、成熟状況」および「種子の発芽の良否、不良な種子及び異物の混入状況」等を都道府県が審査し、以て「優良な種子の生産及び普及を促進」することを定めた法律。
国はこの目的に則して農業試験場の運営などに公的資金のサポートを行い、日本の食の安全とクオリティー、そして多様性の維持向上に寄与してきた。この種子法を廃止する案が2016年秋に突如として持ち上がり、翌2017年2月には早くも閣議決定。同年4月の可決・成立を経て、あっという間に今年4月1日の廃止の日を迎えた。
政府や農水省は「国が管理するしくみが民間の品種開発意欲を阻害している」「国際競争力を持つために民間との連携が必要」等と説明しているが、種子法廃止を提案したのは、TPP協定と日米2国間合意に伴い設置された「規制改革推進会議」の農業ワーキンググループ。同法を「企業の利益追求活動を阻害する障壁」とみなす多国籍企業の要求に、日本政府が唯々諾々と従った結果であることは明白である。
まさにモンサントのようなグローバル企業が乗り込んできて、巨大資本にものを言わせて「公共の資産」たる種子を囲い込み、品種改良部分のみならず種子全体に特許料をかけるだろう。また、農家に毎年種子を買わせるために、一世代に限って作物ができる品種(F1種)を、それも農薬と化学肥料もセットで販売するため、種子の値段はこれまでの4~10倍となり、作物の流通価格も跳ね上がる。コストの観点から小規模生産の品種は切り捨てられて、日本の食風景は単一なものと化し、なによりもTPPが促進するとしている遺伝子組み換え作物の横溢により、食の安全は脅かされる。メディアもほとんど報じぬまま強行された種子法廃止は、安倍政権が日本固有の富をグローバル資本の利益の具に差し出すものにほかならない。
参照:
・Wikipedia「主要農作物種子法」【URL】https://bit.ly/2OehV3T
・生協パルシステム KOKOCARA「タネは誰のもの?「種子法」廃止で、日本の食はどう変わるのか――種子の専門家に聞く」2017年5月29日【URL】https://bit.ly/2nj4YJN
・ハーバー・ビジネス・オンライン「5分でわかる種子法廃止の問題点。日本人の食を揺るがしかねない事態って知ってた?」2018年7月7日【URL】https://bit.ly/2xbTOeL
・IWJ「【特集】種子法廃止で日本が「遺伝子組換え作物」の氾濫国へ!「食料主権」を売り渡す安倍政権の売国政策を検証!」【URL】
(※126)黒田総裁、すでに2013年に「財政が持続不能」と発言:
2013年3月20日に第31代日銀総裁に就任した黒田東彦氏は、同28日に初めて参議院財政金融委員会に臨み、経済の動向と日銀の今後の金融政策運営――異例の大規模金融緩和政策――について報告を行った。そのさい、民主党の大塚耕平議員が、財政赤字の対GDP比を表すグラフを示しつつ「日本の財政状況は財政健全化や債務圧縮の必要な局面だという認識が総裁にはあるのか」と質問。黒田総裁は次のように答えつつ、渋々大規模金融緩和の危険性を認めている。
「私も、現在の政府債務残高の名目GDP比が二〇〇%を超えるという極めて高いというか異常な状況は持続不能であるというふうに考えております。ただ、これまでのところ国債市場は安定していて、財政運営に対する市場の信認は何とか維持されているように思いますけれども、しかし、財政に対する、あるいは国債に対する市場の信認をしっかり確保していくということが極めて重要でありまして、政府におかれて中長期的な財政健全化の道筋を明確にして、その実現に向けた財政構造改革を着実に進めていくということを強く期待するだけでなくて、まさにそれがないと財政あるいは国債に対する信認が失われて、国債市場が不安定になり、あるいは国債金利が高騰するということになりますと、経済政策全体として、金融政策も含めて非常に良くない影響を受けるということになると思いますので、この点は委員御指摘のとおりでございます」。
この国会答弁の1週間後の4月4日、日銀は金融政策決定会合を開き、「消費者物価の前年比上昇率2%の『物価安定の目標』を、2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現するため、『量的・質的金融緩和』を導入する」ことを決定。会合後の記者会見で日銀決定の概要を報告した黒田総裁は、これが「これまでとは次元の違う金融緩和」であること、そして、「戦力の逐次投入をせずに、現時点で必要な政策を全て講じた」と述べ、短期決戦の構えを示したのである。
参照:
・国会会議録検索システム「第183回国会 財政金融委員会 第5号 平成二十五年三月二十八日(木曜日)午前十時開会」【URL】https://bit.ly/2DMP0zV
・ロイター「戦力の逐次投入はしない、現時点で必要な政策は全て講じた=黒田日銀総裁」2013年4月4日【URL】https://bit.ly/2X488lO
・日本銀行「総裁記者会見要旨」――2013年4月4日(木)午後3時半から約60分」2013年4月5日【URL pdf】https://bit.ly/2SQNGFX
(※127)トッド「日本は核武装せよ」?!:
E・トッドは、2018年5月、櫻井よしこ氏が理事長を務めるシンクタンク、国家基本問題研究所でのシンポジウムに招かれて行った講演で、表明されたばかりのアメリカのイラン核合意からの離脱を受けて国際情勢を分析する中で、日本も核武装すべきであるという年来の主張(実際、トッドは2006年の朝日新聞のインタビューでも日本は核武装を考えるべきだと提言している)を展開した。
トッドの立場は、核保有は戦争抑止のためであり、過去何度も戦火を交えたフランスとドイツが現在信頼関係を築いているのも、フランスが核を持っているがゆえである、というもの。この観点から、中国と北朝鮮に加えて日本も核を持つことが、東アジアに勢力均衡をもたらし、この地域の平和を担保する、と論じるのである。
トッドによれば、核兵器はそもそも自分のためだけに使えるものなのだから、アメリカの「核の傘」などというのは「ジョーク」にすぎない。日本が軍を持つことをアメリカが阻んできたことこそが問題なのであり、そうした文脈で、「極端な言い方ですが」と断りつつ、「日本はアメリカの同盟国ではなく、保護領のようなものだ」とも発言している。
この講演の少し後に『文藝春秋』に掲載されたインタビュー記事(通訳・翻訳は堀茂樹氏)でも、ほぼ同趣旨の議論がいっそう筋道立てて展開されているが、トッドが暗にうながしている〈アメリカからの独立〉について明示的に言及されないため、性急な読者の頭の中で「日本は核を持つべきだ」という扇情的なタイトルが一人歩きしてしまうのではないかと懸念される。
参照:
・国基研創立10周年シンポジウム「世界の近未来を予測する――日本は生き残れるのか」(2018年5月17日 東京・内幸町 イイノホール)第1部基調講演 エマニュエル・トッド「不確実性が高まる世界――アングロサクソン世界の危機について」全文【URL pdf】https://bit.ly/2KavMdv
・エマニュエル・トッド「日本は核を持つべきだ」『文藝春秋』2018年7月号.