立憲民主党の沖縄県連代表の有田芳生参議院議員は2月2日、市民連合主催の新宿街宣で「私たちはデマ、ウソばかりのフェイク政権を何としてでも今年の前半に打倒しようではありませんか」と呼びかけた後、こう続けた。
▲立憲民主党・有田芳生参議院議員(写真当時は民進党所属、IWJ撮影、2017年6月9日)
「1月6日のNHK『日曜討論』、安倍さんは辺野古の土砂投入のあの地域の絶滅危惧種は他に移したと言ったが、全くウソ、デタラメそのものです。辺野古の埋立地には約7万4千群体のサンゴがあるが、安倍政権が移したのはたった9群体です。しかも土砂を投入した地域では全くない。それを平然とNHKで語ったのが安倍総理であり、安倍政権です(※注1)」
(※注1)日曜討論での安倍首相発言(普天間基地の危険性除去に関する部分):
1月6日の日曜討論のタイトルは「2019年 政治はどう動く」で、与野党議員が一堂に介して議論をする通常の形式ではなく、9党党首への単独インタビューを合体する形で、放送時間も1時間42分と長めになっていた。安倍首相インタビューは冒頭の30分弱で、そのうち辺野古問題については約2分半にわたって、身振り手振りを交えながら話し続けた。
「まず、誤解を解かないといけないのですが、日本国民のみなさんもですね、まったく新しく辺野古に基地をつくることを進めているというふうに思っておられる方も多いと思いますが、まず市街地の真ん中にある世界でも危険な基地と言われている普天間を返還するためにどうしたらいいかということをずっと考えてきて、その中で普天間の返還をおこなうためには、代替の基地である辺野古に基地をつくりますよ、しかしその代わり世界で最も危険と言われている普天間基地は返還されるということでありまして、この計画をいま進めています」
世界一危険な「普天間基地の危険性除去」を旗印にした「辺野古移設論」を語っていく間には、スタジオのスクリーンには関連する映像「住宅地に隣接する普天間基地の空撮」、「住宅の上を飛ぶオスプレイ」、「辺野古新基地予定地への土砂投入」が流れた。
次にマイクを握った笠井あきら衆議院議員(共産党)も「統計偽装と賃金偽装と『辺野古のあそこのサンゴは移植した』というウソ発言の下で始まった通常国会」と続いた。通常国会で野党は、統計不正問題を「アベノミクス偽装」と命名、NHK「日曜討論」での「サンゴ移植発言」と重ねあわせて「安倍フェイク政権」と批判を強めている。
▲自民党大会で演説する安倍晋三総理(横田一氏提供)
しかし、安倍総理はサンゴ移植発言について1月30日の衆院本会議での代表質問に対して、「南側の埋め立て海域に生息している保護対象のサンゴは移植したと聞いている」と述べたものの、事実誤認を認めて訂正することはしなかった。
また、「報道は事実をまげないですること」を定めた放送法に明らかに違反する「大本営発表」(政治的宣伝=プロパガンダ)をタレ流れしたNHKも1月23日、木田幸紀放送総局長が定例会見で、「番組の性格上、今回の場合は発言をそのまま放送した」「(発言内容の事実確認については)その後の取材の役割になる」という説明をしただけで、訂正放送を流さず、検証番組のオンエアにも至っていない。安倍総理の発言から25日以上も経過しても、事実をまげた政治的宣伝(プロパガンダ)が公共の電波を使って全国に発信されたままという異常事態が続いている。
政治権力と巨大メディアが結託して、嘘をたれ流すのが当たり前の時代となれば、次に何が起こるかは目に見えている。「連戦連敗」なのに「連戦連勝」と書き立てた「大本営発表」の時代の繰り返しである。
安倍総理のサンゴ移植発言は「国民に誤った事実認識を意図的に刷り込むのが目的」!? フェイクニュース検証で陣頭指揮を撮る琉球新報の普久原均編集局長が「民主主義国家の総理としてはあるまじき行為」と批判!
「沖縄県知事選に関する情報のファクトチェック報道」で2018年度の「新聞労連ジャーナリズム大賞」を受賞した琉球新報の普久原均編集局長は、首を傾げていた。
「安倍総理が事実誤認のフェイク発言をしたのは、国民に誤った事実認識を意図的に刷り込むのが目的だったのではないか。『確信犯』だったのではないか。
民主主義社会は民意にもとづいて動く。その民意を事実誤認で誘導しようとするのはあるまじきことだと思う。国民にありのままの事実を伝えて、事実にもとづいた判断を仰ぐべきであって、意図的かどうかは断定できないが、明らかに事実と異なることを国民の意識に刷り込んだ上で、判断を仰ごうとするのは、民主主義の手法としても完全に間違っている。
事実とは異なるプロガンダ(政治的意図を持つ宣伝)で世論を誘導する独裁国家や戦前の日本ならばいざ知らず、民主主義国家の総理としてはあるまじき行為だ」
フェイクニュース検証で陣頭指揮を取る普久原局長は、琉球新報社編集局編著『これだけは知っておきたい 沖縄フェイク(偽)の見破り方』の前書きで、「われわれは、愚直に根気強く、虚構を一つひとつ覆したいと考えている」と宣言していたが、こうした取組みが新年早々の安倍総理サンゴ移植発言でも活かされた。
「日曜討論」放送の2日後の8日、琉球新報は「辺野古埋め立て 首相が『あそこのサンゴは移植』と発言したが…実際は土砂投入海域の移植はゼロ」という見出しの記事で、「事実を誤認して発言」と次のように指摘したのだ。
▲大浦湾の貴重なサンゴ群落(横田一氏提供)
「(番組で)安倍総理は『土砂投入に当たって、あそこのサンゴは移植している』と述べたが、現在土砂が投入されている辺野古側の海域『埋め立て区域2―1』からサンゴは移植していない。埋め立て海域全体では約7万4千群体の移植が必要だが、7日までに移植が終わっているのは別海域のオキナワハマサンゴ9群体のみにとどまっている」
「総理は『砂浜の絶滅危惧種は砂をさらって別の浜に移す』とも発言した。沖縄防衛局の事業で、貝類や甲殻類を手で採捕して移した事例はあるものの、『砂をさらって』別の浜に移す事業は実施していない」
6日放送の「日曜討論」での安倍総理発言はフェイクニュース(発言)であることを浮彫りにした記事だが、ここで大嘘だった安倍総理発言を引用しておくことにしよう。
「(スタジオのスクリーンに『辺野古新基地予定地への土砂投入』の映像が流れた後)いま、土砂が投入されている映像が先ほどございましたが、土砂を投入していくにあたってですね、あそこのサンゴについては移しております。また、絶滅危惧種が砂浜に存在していたのですが、これは砂をさらって、これもしっかりと別の浜に移していくという環境への負担をなるべく抑える努力もしながら、(埋立てを)行っているということであります。
もちろん、沖縄の皆様の気持ちに寄り添っていくことも大切ですし、理解を得るようにさらに努力をしていきたいと思っております」
要するに、安倍総理が環境保全姿勢(環境負荷抑制)を訴える事例として挙げた「土砂投入区域でのサンゴ移植」も「絶滅危惧種の『砂ごと』移植」も、事実誤認の大嘘であったのだ。
東京新聞の望月衣塑子記者の質問にまともに答えない菅義偉官房長官! 「報道機関に問い合わせを」と説明責任を放棄!
この琉球新報の記事が出た同日(8日)、菅義偉官房長官に安倍総理サンゴ移植発言について質問をしたのが、東京新聞社会部の望月衣塑子記者だ。
望月氏「総理は6日のテレビ番組で土砂投入に当たって、あそこのサンゴは移植していると述べましたが、土砂投入されている辺野古側の海域、埋め立て区域2の1からはサンゴは移植していないとして、一部報道は総理は事実を誤認して発言したと報じました。政府の現在のサンゴ移植の現状認識を改めてお聞かせください」
▲東京新聞・望月衣塑子記者(IWJ撮影、2017年6月16日)
菅官房長官「環境監視等委員会の指導や助言を受けながら適切に対応しているということでありますから、まったく問題はありません」
望月氏「報道では、埋め立て海域全体では7万4千群体の移植が必要だが、移植が終わったのは別海域の9群体のみにとどまるとしております。玉城デニー知事は昨日、ツイッタ―上で『総理、それは誰からのレクチャーですか。現実はそうなっていません。だから私たちは問題を提起している』と反論されました。事実の誤認ないし説明不足である場合は、改めて政府として見解を出すつもりはないのでしょうか」
菅官房長官「『報道によれば』に答えることは政府としては致しません。どうぞ、報道に問い合わせをして欲しいと思います」
報道機関への「丸投げ」による説明責任放棄といえる。琉球新報が「事実誤認」と指摘した安倍総理発言に対する見解を求められたのに、事実誤認か否かさえ答えず、「総理フェイク発言」を訂正もせずに流したNHKに責任転嫁したに等しい。
安倍総理のフェイク発言を垂れ流したNHK! NHKはフェイクを指摘されても「番組内での政治家の発言について、NHKとしてお答えする立場にない」と驚きの回答!
もちろん、A級戦犯だった岸信介元総理が孫に憑依したかのような安倍総理が発した「大本営発表」を垂れ流したNHKの罪(放送法違反)も重い。琉球新報は翌1月9日付の社説で、「首相サンゴ移植発言 フェイク発信許されない」と銘打ってNHK側の対応も批判した。
「今回、もう一つ問題があった。事前収録インタビューであるにもかかわらず、間違いとの指摘も批判もないまま公共の電波でそのまま流されたことだ。いったん放映されると訂正や取り消しをしても影響は残る。放送前に事実を確認し適切に対応すべきだったのではないか。放置すれば、放送局が政府の印象操作に加担する形になるからだ」
琉球新報の記事と社説を受けて、NHKに聞いてみた。「8日付の琉球新報が事実誤認と指摘しているが、NHKの認識はどうなのか」「事実誤認と認識した場合、訂正文の発表や訂正放送をする予定はあるのか」「事実誤認の総理発言を放送した経過、検証の予定について」という質問に対して、広報局は「番組内での政治家の発言について、NHKとしてお答えする立場にない。また、他社の報道についてはコメントしない」と答えた。
驚くべき回答ではないか。「報道は事実をまげないですること」を定めた放送法を無視、「事実をまげた政治家のフェイク発言(政治的宣伝)を放送してもNHKは関知しない」と宣言しているに等しいからだ。「みなさまのNHK」から「官邸のNHK」に改名し、視聴者から集めた受信料を返上する代わりに、官邸の広報宣伝予算から番組制作しないとおかしいだろう。もちろん官邸の広報宣伝費とて、国民の血税から支出されているのだから、国民を欺くためのプロパガンダは許されない。
「『現代版大本営発表』の復活だ」といった批判も招いて受信料不払い運動が活発化すると同時に、「NHK発の安倍政権プロパガンダ(政治的宣伝)番組がネット空間に溢れ返る」という懸念も高まって、放送と通信の融合を認めるNHK関連法案(通常国会に提出予定)への反対論急増を招くのも確実だろう。NHKは、受信料で取材した蓄積を番組制作に反映させず、安倍政権の政治的宣伝の片棒を担ぐという二重の意味での背信行為を犯していることになる。