2018年7月24日、西日本豪雨被災地の取材を続けているIWJは7月16日に取材をおこなった広島県呉市安浦町を再び訪れた。
以下に現地で取材にあたっている上杉記者からの報告を掲載する(この記事は2018年7月24日のツイートを編集したものです)。
※全編映像は会員登録するとご覧いただけます。 サポート会員の方は無期限で、一般会員の方は記事公開後の1ヶ月間、全編コンテンツがご覧いただけます。
→ ご登録はこちらから
2018年7月24日、西日本豪雨被災地の取材を続けているIWJは7月16日に取材をおこなった広島県呉市安浦町を再び訪れた。
以下に現地で取材にあたっている上杉記者からの報告を掲載する(この記事は2018年7月24日のツイートを編集したものです)。
■ハイライト
広島県内で大量発生した山崩れの爪痕は、車窓から見るだけでもショッキングだ。爪痕にも見えるし、山肌をウジが這い回ってるようにも見える。本当に不気味だ。
これは今後も災害を起こし続けるだろうし、単純にコンクリートで固めて済むレベルとも思えず、深刻な問題だと思う。真砂土(花崗岩が風化した土)に覆われているのは、何も広島だけではないはずだ。この現象が、いつ、どこで起きても不思議ではないと感じる。
取材を続けていてわかってきたのは、呉市のように行政が頼りないところもあれば、岡山の総社市のように「災害時には自治体の動きと横のつながりこそ重要」というスタンスを条例と予算で体現している自治体もある、ということだ。自民党が改憲によって実現しようとしている「緊急事態条項」のナンセンスさにも直結する話である。
東広島市から呉市安浦町に向かう、国道375号線より、野呂山(のろさん)の手前の前平山に見える巨大な山崩れの筋を撮影。帰路に、広島国際大学前の巨大崖崩れであると判明。
東広島市から安浦への途上、国道375号線から県道334号線に入ったところで、巨大山崩れを撮影。地元の宅配会社従業員に、7月豪雨によるものであることを確認。爪で引っ掻いたような山崩れの筋は、すべて、今回の豪雨によるもの。
県道334号線で、呉市安浦に向かう途中、東広島市と呉市の市境に発生した山崩れ。棚田を飲み込んだ濁流跡に、一本の木が踏みとどまるように立っていた。
安浦のコンビニ駐車場で休憩していた電気工事業者の方は「出張で出かけた熊野(広島市と呉市に隣接する広島県安芸(あき)郡熊野町)で崖崩れで帰れなくなった。二日後に三原(広島県東部の三原市)の家に帰ったら断水真っ只中でした。シャワーもできんし、この半月はきつかった。段取りが半月以上遅れてる。『こんな時に仕事の話か』と言われることもあるけど、自分の足で回るしかない。電話一本で仕事できる状況じゃないですね、今は。
TVで報道されるのは被害の大きい所ばっかりじゃないですか。そういう所の近くには小さい被害も多発してると思うんですよ。自衛隊が来とっても、そこから見えにくい所には誰も来てくれないとか」
野呂山に刻まれた無数の、山崩れの爪痕。文字通り、爪痕だ。今回の豪雨災害では、広島県内にこのような爪痕が5000筋も発生した。
安浦のボランティアセンターを8日ぶりに再訪した。これまでは山間部まで人を出す余裕がなかったが、ようやく、(呉市安浦町)中畑と下垣内(しもがうち)に土砂かき出しのボランティアを送ることができるようになったとのこと。
地元の方の話では、安倍総理が安浦に来る2日ほど前から、内閣府の職員が下見に来たり、パトカーと白バイが急に増えたという。「被災者の方には励みになったんかね。声かけとっちゃったけんね」
安倍総理の安浦来訪について、地元の方はこうも語った。「みんなそれぞれ復興作業に携わってますけんね。首相に会ってどうこう、って言う想いはあんまりないんじゃないですか」
安倍総理の安浦来訪を見たボランティアAさんは、こう語る。
「皆が現場から帰ってくる時間だったんで『どいてください』って道を空けてもらって。やっぱりボランティアの人たちが主なんで。私たちからすれば」
下垣内の住民M氏の話−−。「6日の深夜から家の前の側溝の流れが泥っぽくなって。焦げ臭いような変な匂いもして。川の音も、あらぬ方向から聞こえ出して、こりゃちょっと尋常じゃないな、と思いました。多くの犠牲者が出た市原(いちばら)では、巨大な砂防ダムを作らにゃいけんて、国の人がテレビで言うとりました。けど、地盤ごと滑っとるんじゃけ。何をしても…」
IWJ「行政からハザードマップとかは?」
下河内住民N氏「配られたんじゃけど、指定された避難所の小学校が水没したんじゃから。ここから4キロぐらいあって、途中何か所も土砂が流れてるし。市に指定された小学校に行こうとした人もおったんですよ。けど『ちょっと待って、落ち着いて』言うて。みんなで相談して、区長の判断で上の円照寺に避難したんです。野呂山からガッーっと(山崩れの)爪痕が広がっとるんですよ」。
IWJ「これ、この先も心配ですよね」
M氏「県内で5000か所ですよ。こういう爪痕が」
棚田が広がり、ウグイスも鳴くという、のどかな農村風景が広がっていた呉市安浦町の下垣内と中畑地区。山からの幾筋もの土石流が、集落の背後から襲いかかり、風景も暮らしも激変した。
土石流の直撃を受けた下垣内の住民宅で。
下垣内の住民Aさん「こっから泥が入ってきたんよ。ここ、壁だったんじゃけえ」
IWJ「あ、これ壁だったんですか。壁ぶち破って入ってきたんですか、土砂が」
Aさん「ここまで泥が来たんじゃけん。ここら一面そうじゃった。360度、泥じゃった。庭の泥もだいぶ落としたが、まだ縁の下も泥で埋まっとるんよ」
IWJ「崩れる瞬間、見ておられたんですね」
Aさん「水の塊が来るの見たから。もう、おしまいか思いました。まっすぐ来たから。それが上の小屋にぶつかって曲がったんです。運が良かった思います」
Aさん「小屋とか納屋がなかったら、家もダメになった思います」
IWJ「音もすごかったんですか」
Aさん「戦闘機が来るような音でした。その後、ガガガーっと何とも言えん音がして」
下垣内住民のBさん「『車はもう使いもんになりません』言われた」
IWJ「いま、岡山と広島はレンタカーが全部…」
Bさん「ないじゃろ? これも山口ナンバーじゃけん。一ヶ月借りとる」
Aさん「大きい雨じゃとは思いましたが、まさかここまでとは。この上で一人亡くなったけんね。その時は呆然として、一筋も涙は出ませんでした。今ごろになって涙が出ます」
Aさん「だけど、もう一回雨が降ったらどうなるかね。みんなで『今度は早う避難しようね』て言いよるんじゃけどね。避難するところがないです、ここらは」
IWJ「呉市とか行政は、よくやってますか?」
Aさん「どっちか言うたら、村が立ち上がりましたね。重機を2台借り入れて。ひどい所を、ぜんぶ回ってくれちゃったんです。村全体でやってます」
IWJ「家の中まではまだ手がつけられてないんですね?」
Aさん「大事なもんいっぱいあるけど、惜しいとか思わないです、もう。早く元の暮らしに戻りたいが、1年や2年じゃ無理じゃろ、思います」
復旧の目処が立たない、JR呉線の安浦駅。作業しておられた方に取材しようとしたが、「私も疲れがたまってて、いっぱいいっぱいで…」と断られた。
【西日本豪雨取材報告】「この上で一人亡くなったけんね。その時は呆然として、一筋も涙は出ませんでした。今ごろになって涙が出ます」広島県呉市安浦町の山間部で土石流の直撃を受けた集落をIWJが取材! https://iwj.co.jp/wj/open/archives/428165 … @iwakamiyasumi
生の声を拾い集める。こういう取材こそ「防災」だ。
https://twitter.com/55kurosuke/status/1023683489202225152