「人類がやっとの思いで、武力の行使の言い訳を『自衛権』の行使と国連の『集団安全保障』だけに封じ込めてきた開戦法規(現在の国連憲章51条)に対するダメージは計り知れない」――
国際政治学が専門の伊勢崎賢治・東京外語大教授は 4月13日、自身のツイッターで米・英・仏によるシリア攻撃は武力行使の正当化を規制してきた「開戦法規」を台無しにするものだと指摘し、IWJの取材に「人類の努力に唾を吐くものだ」とさらに強い表現で批判した。
▲伊勢崎賢治教授の連投ツイート(2018年4月13日)
米・英・仏はアサド政権が化学兵器を使ったと断定しているが、確たる証拠は出さず、真偽のほどはいまだはっきりしていない。シリアは化学兵器禁止機関(OPCW)調査チームの査察受け入れを表明しており、4月14日から現地調査が始まるはずだった。しかし、同じ14日未明、欧米3ヶ国がシリアをトマホークなど105発ものミサイルで攻撃を行った(シリア側は103発と発表)。「アサド政権が化学兵器を使用した」という欧米側の嘘がばれないように、OPCWの調査開始前に攻撃をしかけたのではないかとシリア側は主張している。これは、上記の伊勢崎氏の連投ツイートが示す通り、国連安保理決議も経ず、自衛権の発動でもない、国連憲章に定める開戦法規に違反する、「侵略」と批判されても仕方のない違法な武力行使である。
- 「アメリカは国際法を破った」シリアが非難(NHK NEWS WEB、2018年4月14日 ※該当記事は削除)
IWJはミサイル攻撃が行われた日、化学兵器が使用された可能性とトランプ大統領の真の狙いについて元外務省国際情報局長の孫崎享氏と東京大学・板垣雄三名誉教授に話を聞いた。あわせてこちらの記事もご一読いただきたい。
シリア攻撃は「人道的措置」なのか? それとも「国際法違反」なのか?
化学兵器の使用「疑惑」が晴れないままに強行されたミサイル攻撃だが、昨年4月6日の米軍による突然のシリア攻撃と同様、今回も専門家や世論の見方は二分している。無差別殺戮からシリア市民を守るための「人道的措置」として正当化するのか、国連決議を経ていない国際法違反の攻撃だと批判するのか。
伊勢崎教授は次のように解説する。
「私も国際人権主義、そして人道主義の信奉者ですが、同時にそれがいかに脆いかも知っています。
国連PKOの世界から『保護する責任』という、人権主義的、人道主義的に否定できない概念が生まれました。それ以来『人道介入』が何よりも勝る、という傾向が加速し、『保護する責任』という概念が生まれた時に懸念されていたとおり、『レジューム・チェンジ(体制転覆)』に利用されることが現実になりました。2011年のリビアです」
2011年、「アラブの春」と呼ばれた民主化運動の波の煽りを受け、独裁体制を42年に渡って維持してきたリビアにおいてもカダフィ政権が崩壊しつつあった。しかし、抵抗するカダフィ政権は、民主化運動を空爆などで強制鎮圧しようと試みた。この際、国連安全保障理事会は国際社会がリビア市民を「保護する責任」を果たすことを表明し、米・英・仏・伊などの空軍がリビアに対し大規模な攻撃をおこなった。
「保護する責任」とは、「国家主権には人々を保護する責任が伴い、それが機能しない場合には、人々を保護する責任は国際社会にもある」とする概念で、安保理が動かなかったために50万から100万人といわれる犠牲者を出した94年のルワンダ大虐殺を教訓に、当時のアナン国連事務総長の呼びかけによって人道的な軍事介入が行われるべきタイミングを明確化するための検討が行われた。
そして2011年のリビアで初めて「保護する責任」が履行され、同年3月17日、当時の潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は「安保理は歴史的決定を行った」とする表明で「その政府によって犯された暴力から市民を保護する責任を果たすとの国際社会の決意を明々白々に確認した」と発表し、米・英・仏などによる大規模空爆がリビアに対して、実施された。
しかし、「保護する責任」を実行した2011年のリビアへの空爆と今回の人道的措置を理由に行われたシリア攻撃が大きく異なるのは、国連決議を経ていないことだ。伊勢崎教授はこう続ける。