国際秩序の大変動期に中国、韓国、米国と駆け引きを始めた北朝鮮! どうなる、東アジアの安全保障 日米中韓豪5カ国研究報告シンポジウム 2018.3.31

記事公開日:2018.4.4取材地: テキスト動画
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(取材:北野ゆり 文:奥松由利子)

※2018年4月16日、テキストを追加しました。

 平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックに北朝鮮の参加が決定した2018年1月以降、朝鮮半島をめぐる動きは、中国や米国も絡みながら新たな局面に向かっている。

 2月の平昌五輪で南北融和ムードが高まったあと、3月6日に韓国の閣僚級の特使が北朝鮮を訪れ、金正恩(きむ・じょんうん)朝鮮労働党委員長と会談。特使は直後に米政府への結果報告のためホワイトハウスを訪問し、3月8日、「トランプ大統領と金正恩委員長の米朝首脳会談が5月に行われる」と発表して内外に衝撃を与えた。

 そして、金正恩委員長は3月25日から3月28日にかけて極秘に中国を訪れ、習近平(しゅう・きんぺい)国家首席と会談。4月末に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との南北首脳会談、5月に予定されているトランプ大統領との米朝首脳会談を控えて、自らが中国への根回しに動いたと見られている。なお、東アジアの安全保障の構図が一変する可能性が見えたこの時、日本は完全にカヤの外に置かれていた。

 3月29日に板門店(パンムンジョム)で行われた南北閣僚級協議では、南北首脳会談の日程が4月27日と発表された。この会談で韓国側は、朝鮮半島の非核化、軍事的な緊張緩和なども提案したと伝えられている。

 このような情勢を踏まえて、2018年3月31日、東京都内で新外交イニシアティブ(ND)が主催する日米中韓豪5カ国研究報告シンポジウム「どうなる、東アジアの安全保障~北朝鮮問題や米中覇権争いをめぐって~」が開催された。東アジアの安全保障問題について、日本、米国、中国、韓国、オーストラリアの研究者たちがそれぞれの視点から解説を行い、今後の方向性や日本の果たすべき役割を探った。

▲ND評議員、元内閣官房副長官補・柳澤協二氏

 北京大学国際関係学院院長の賈慶国(か・けいこく)氏は、中国の説得にもかかわらず核実験を実施するなど挑発的だった北朝鮮が変化したのは、中国による非常に厳しい経済制裁が効果を上げたからだと分析し、さらに、「米韓の合同軍事演習が、より戦争に近い想定で行われることになり、金正恩委員長は韓国、アメリカ、中国との対話の必要性を感じたのではないか。中国の習近平氏と金正恩委員長の会談が実現したのは、両国にその必要性があったからだ」と語った。

 進行役の柳澤協二氏(ND評議員、元内閣官房副長官補)は、北朝鮮の非核化と日米関係について、「アメリカと中国の力関係が変わってきている今、親米をアイデンティティにしてきた日本の立場が揺らいでいる」と指摘する。米国は、北朝鮮が日本に届くミサイルを持っていても自国に届かなければいいと妥協してしまうかもしれないと懸念し、「日本が、あると思っていたアメリカの核抑止力は本当にあるのか。これまで考えずに済んでいたことを、自分の頭で考えなくてはいけない」と説いた。

記事目次

■全編動画

  • 出席者
    • 中国
      賈慶国氏(か・けいこく 北京大学国際関係学院院長)
      呉寄南氏(こ・きなん 上海国際問題研究院学術委員会副主任)
      呉従勇氏(こ・じゅうゆう 中国国際友人研究会副会長)
      朱建栄氏(しゅ・けんえい 東洋学園大学教授)
    • 米国
      グレゴリー・カラッキー (Gregory Kulacki) 氏(憂慮する科学者同盟〔UCS〕)
    • オーストラリア
      リチャード・マクレガー (Richard McGregor) 氏(ローウィー研究所、元ウィルソン・センター)
    • 韓国
      李起豪(イ・キホ)氏(韓信大学校平和と公共性センター長)
    • 日本
      柳澤協二氏(ND評議員、元内閣官房副長官補)
      津上俊哉氏(元在中国日本大使館経済部参事官)
      岡田充氏(共同通信客員論説委員)
  • タイトル 日米中韓4カ国研究報告シンポジウム どうなる、東アジアの安全保障〜北朝鮮問題や米中覇権争いをめぐって〜
  • 日時 2018年3月31日(土)14:30〜17:00
  • 場所 主婦会館プラザエフ(東京都千代田区)
  • 主催 新外交イニシアティブ (ND)詳細

米中関係の悪化は北朝鮮にはチャンス!? 「どちらにしても、金正恩委員長は中国を訪問しなければならなかった」

 シンポジウムは2部構成で、第1部では「北朝鮮の核開発をめぐる各国の課題」について登壇者が順にスピーチを行った。

 柳澤氏は冒頭で、「基本的に、核をどうとらえるか」と切り出し、今も多くの国が核を安全保障の最後の拠り所としているが 核は最終的に使えない兵器であり、核兵器依存をなくすという発想の切り替えが求められる、と述べた。

 その上で、「非核化に向かうプロセスの中で、北朝鮮だけ核をなくせばいいのだろうか。朝鮮半島だけでなく、東アジア全体の非核化を視野に入れた議論もありうる。アメリカ、中国、ロシアなど、たくさんの核兵器を持つ国や、日本の核の再配備の問題も全部合わせて、この地域の非核化のチャンスととらえるべきではないか。日本の北朝鮮に対する政策は圧力一辺倒だが、日本こそが、唯一の被爆国として平和的解決に向けたイニシアティブを取れなかったのか」と語った。

 続いて、賈慶国(か・けいこく)氏がマイクを握った。

 北朝鮮に対する中国のポリシーには「非核化」「安定」「対話による問題解決」の3つがあるとし、「従来は『安定(戦争しないこと)』が一番の優先事項だった。北朝鮮が核兵器を持つのは、ずっと先の話だと思われていたからだ。しかし、ここ数年、北朝鮮は核実験を繰り返しており、中国にとっては『非核化』の方がより重要になった」と述べ、このように続けた。

▲北京大学国際関係学院院長・賈慶国氏

 「中国の考えは、『北朝鮮をどの程度支援すべきか』から『北朝鮮にどのくらい圧力を加えて核兵器を放棄させるか』に変化している。なぜならば、中国が放棄を求めたにもかかわらず、北朝鮮は核開発を続けた。中国は『アメリカや他の国々と合意し、国交を正常化し、安全保障と経済的繁栄を確保すべきだ』と説得したのに、最近の北朝鮮は中国で重要な国際的イベントがあるたび、直前に核実験を実施するなど非常に挑発的で、中国はこれを自国への挑戦だと受け止めた。だからこそ、北朝鮮への非常に厳しい国連の制裁を責任を持って実行したのだ」

 中国の制裁強化により、中国から北朝鮮への石油輸出は大幅に削減され、中国における北朝鮮の事業も閉鎖されていった。これに北朝鮮の指導部はかなりの痛みを感じていただろうと、賈慶国氏は言う。

 「加えて、米韓の合同軍事演習が、今まで以上に戦争に近い想定で行われることになった。金正恩委員長は、まず韓国と、次にアメリカ、最後に中国との対話の必要性を感じたのではないか。習近平国家主席と金正恩委員長の会談が実現したのは、両国にその必要性があったからだ」

 そして、今回の北朝鮮の動きについて、2つの考え方があると語る。

 「ひとつは、金正恩委員長が、ついに核兵器を放棄しなければならないと思っている場合。彼はトランプ大統領との対話準備の中で、この大国との交渉の切り札は中国の支援だと考えた。中国の支援があれば、より良い成果を引きだせる。その成果とは、軍事的な安全保障(現在の体制の保障)、国交の正常化、経済支援などだが、最終的には市場へのアクセスも望んでいるかもしれない。そのために中国に働きかけた。

 もうひとつは、金正恩委員長が核開発計画を継続したいと思っている場合だ。今、アメリカは貿易措置や台湾の問題などで、中国に挑発的な行動をとっている。米中関係が悪化しているなら、それは北朝鮮にとってチャンス。中国を説得して、北朝鮮への制裁レベルを引き下げてもらうことができれば、核開発のための時間をかせぐことができるのだ」

 どちらにしても金正恩委員長は訪中しなければならなかった、とした賈慶国氏は、次に中国側の考え方を示した。

 「確かに米中関係は急速に悪化している。台湾旅行法(*)の問題やトランプ政権の人事などを見ると、この後、米中が対立関係に入る可能性もある。その場合、中国は核を持った北朝鮮を味方につけることができるかもしれない、と考えている」

*台湾旅行法
2018年3月16日、トランプ大統領の署名により成立した法律。米国と台湾の高級官僚の相互訪問を促進するもので、あらゆるレベルの米国当局者が台湾へ渡航し会談すること、また、台湾の高官が米国に入国し、国務省および国防総省の職員を含む米国当局者と会うことを認めるとしている。台湾を自国の一部とみなしている中国は激しく反発している。

 また、トランプ大統領と金正恩委員長の米朝首脳会談の予定が電撃発表された時、「中国はカヤの外に置かれた」という報道があった。中国はこれを快く思っていないので、金正恩委員長の訪中により、再び中国が北朝鮮の核開発問題の表舞台に戻ってくると国際社会にアピールできる思惑もあるという。

 賈慶国氏は、「もちろん中国は、北朝鮮が核兵器を放棄し、米中が対立せず、誰もが満足できる状況を望んでいるが、現実は非常に複雑だ」とスピーチを締めくくった。

金正恩委員長の訪米はトランプ大統領のツルのひと声で決まったわけではない。中国の努力の成果でもある

 上海国際問題研究院学術委員会副主任の呉寄南(ご・きなん)氏は、中国は北朝鮮を世界平和のテーブルに着かせるために最大限の努力をしてきた、と強調する。

 「中国と北朝鮮の国境は1400キロある。北朝鮮の隣国の中で、もっとも長い国境線を持った最大の貿易相手が中国だ。北朝鮮の対外貿易は年間130億ドルで、その9割が中国向け。今回の経済制裁で、北朝鮮から中国への石炭、鉄鉱石、海産物などがストップし、北朝鮮は貴重な外貨を失った。

 中国からは石油関連のものが入らなくなり、新聞の用紙すら調達が難しくなっていた。あと数ヵ月もすれば、労働新聞の通常発行も危ぶまれていたくらいだ。そこでやっと北朝鮮は対話のテーブルに着いた。米朝会談は、決してトランプ大統領のひと声だけで決まったわけではない、その背景に、北朝鮮をそこに向かわせた中国の努力もあったことを理解してほしい」

▲上海国際問題研究院学術委員会副主任・呉寄南氏

 米朝会談で北朝鮮の非核化について進展はあるだろうか。呉寄南氏は、今回の交渉は以前に比べて厳しいものになるだろうと予測する。

 「今の北朝鮮は6回ほどの核実験で得た実戦力(核兵器)というカードを持っている。それを使って、現政権の安全保障、経済援助を求めるだろう。また、交渉相手のトランプ大統領が、どう出るかわからない。なぜなら、彼はアメリカの外交政策を知らないからだ。

 とにかく、今回の交渉は、これまでの長い交渉の歴史を踏まえた上での『非核化の出口』となるだろう。中国としては6者協議(*)の主催国として、目的を実現する最大の努力を払っていく」

*6者協議
2003年8月に始まった北朝鮮の核問題を解決するための多国間協議。中国が議長国で、北朝鮮、韓国、米国、日本、ロシアが参加する。2005年9月に北朝鮮の核放棄を盛り込んだ共同声明を採択したが、北朝鮮は翌年10月に初の核実験を実施。6者協議は2008年12月を最後に開かれていない。

「2030年・平壌オリンピック」を共通の目標に! 楽しい非核化のプロセスを提示しよう

 次に、韓国の韓信大学校平和と公共性センター長である李起豪(イ・キホ)氏が、朝鮮半島の核問題の歴史を振り返った。

 最初の南北首脳会談は2000年6月。当時の金大中(キム・デジュン)大統領と北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記によるもので、韓国側の太陽政策の原則はこの時に形成された。「6.15南北共同宣言」を出し、南北で分断された道路や鉄道の復興事業や民間交流の推進など、雪解けムードが作られたものの、1997年から韓国ではIMF危機があり、金大中大統領は任期中に南北問題に集中できなかった。また、2001年9月11日の米国同時多発テロで、ブッシュ大統領の悪の枢軸(*)発言があって以降、南北関係は冷え込んでしまう。

*悪の枢軸
9.11の米国同時多発テロを受けて、ジョージ・W・ブッシュ大統領が翌年の一般教書演説で使った言葉。テロ支援国家、ならずもの国家として、イラン、イラク、北朝鮮の3カ国を名指しで批判した。

 2回目の南北首脳会談は2007年10月。盧武鉉大統領と金正日総書記とで行われ、韓国、北朝鮮、中国、米国の4カ国で朝鮮戦争の終戦宣言と平和協定を目指す内容が盛り込まれた「10.4宣言」を出すに至る。

▲韓信大学校平和と公共性センター長・李起豪氏

 「10.4宣言には、具体的なプロジェクトの形で協力リストもあった。しかし、それを実現するには盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の任期が足りず、その後、国民は朴槿恵(パク・クネ)大統領に期待したが、彼女は何もできなかった。そして今年、4月27日に板門店で文在寅大統領と金正恩委員長が会うことが決まった。

 文在寅大統領はタイミングを重視するので、物事の展開が従来より早い。また、今回はトップダウン、首脳レベルで動いていることが特徴だ。韓国のCIAが一番機能したはずで、米CIAとのやりとりもしているだろう。私は南北首脳会談はうまくいくと思うが、米朝首脳会談がどうなるかは不明だ」

 李起豪氏は、現在は第2回目の冷戦時代だとし、「1989年、アメリカのブッシュ(父)大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が宣言して第1の冷戦時代は終わり、ヨーロッパが新しくなった。第2回目の冷戦時代が終わる時は、アジアを巡って激しい競争があるだろう。アジアの新しい秩序を、誰がどう作るかが重要になってくる。中国の一帯一路(いったいいちろ)、安倍首相のインド太平洋構想やオバマ大統領のTPPなどもあった。そういう流れを見るべきだ」と主張した。

 そして、2回目の冷戦時代を終えるために必要なのは、敵を友だちに変えることだと強調し、「分析より夢を持ってほしい。日本では、今年は明治から150年、1968年の学生運動から50年目の節目だ。明治が始まる時は国家の夢があったし、学生運動では若者や社会が夢を持った。今、何に夢を持てばいいか。私は2018年の平昌オリンピックを入り口として、楽しく非核化を考えてほしい」と述べ、このようなビジョンを示した。

 「非核化のプロセスと並行して、オリンピックなどで平和を作るプロセスも進行する。1988年のソウルオリンピックは、韓国の民主化を求めた光州(クアンジュ)事件の8年後に開催された。1964年の東京オリンピックは、広島と長崎で原爆を受けた日本の復興の象徴で奇跡と言われた。

 われわれは2030年に平壌(ピョンヤン)でオリンピックをやろう。そのためにお互い協力し、日本のイニシアティブを発揮してもらいたい。この地域で奇跡を一緒に作っていくこと、楽しい非核化のプロセスを進めましょう。

 今回の南北首脳会談は、金正恩委員長も最後のチャンスだと思っているだろう。これを失うと次はない。彼もいろいろなことを同意する心づもりがあると思う」

中国にとって「核兵器を持った友好的な北朝鮮」の方が「核兵器を持った敵対的な北朝鮮」よりマシ

 共同通信客員論説委員の岡田充氏は、「21世紀になり、アメリカの支配構造が音を立てて崩れ始めている。東アジアは、中国、ロシア、韓国、北朝鮮と相談しないと何も決められない多極化の時代に入った。このようにパワーゲームが目まぐるしく進行している中で、南北コリアが初めて朝鮮半島の主役として躍り出たのが今だ」と話す。

 その上で、2002年の小泉純一郎総理の訪朝と平壌宣言から16年経った現在、安倍政権は朝鮮半島問題の当事者としての自覚すらない、と苦言を呈した。

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