食の安全から「予防原則」は排除され、ISDでは「仲裁ムラ」が暗躍する―政府がひた隠すTPPの真実!岩上安身による緊急インタビュー 第681回 ゲスト 国会参考人に選ばれた岩月浩二弁護士・三雲崇正弁護士 2016.10.27

記事公開日:2016.10.31取材地: テキスト動画独自
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(文:佐々木隼也)

特集 TPP問題
特集 種子法廃止の衝撃「食料主権」を売り渡す安倍政権
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 「TPPって結局誰のためのルールなのか?」―この当然の疑問にさえ答えようとしないまま、政府・与党は世界に先駆けてTPP協定を批准しようとしている。

 TPP承認案の10月28日「強行採決」は、野党の抵抗により回避された。しかし、国会会期末までの自然成立を目指す政府・与党は、11月1日もしくは11月4日の「強行採決」を虎視眈々と狙っている。

 岩上安身は10月27日、「TPPテキスト分析チーム」の一員で、「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」弁護団共同代表の岩月浩二弁護士と、同じく同会弁護士の三雲崇正氏に、緊急インタビューを行った。インタビューの直前、岩月氏に野党関係者より電話があり、週明け31日の参考人質疑の参考人として招かれることが決まった。

 政府・与党は拙速に成立を急ぐが、そもそも、国民はTPPについてほとんど何も知らされていない。

 インタビューでは、まず三雲弁護士が、国民の誰もが湧くであろうTPPに関する「素朴な疑問」の数々に、分かりやすく答えていった。

 「TPPって結局誰のためのルールなの?」「自由貿易は良いことではないの?」「ISDの何が問題なのか?」「日本のような先進国はISDで訴えられないのでは?」「農産物は例外があるから守られたのでは?」「食の安全基準は守られたの?」「医療制度は変わらないんでしょ?」「国民皆保険は守られたのでは?」

 こうした当然の疑問に、政府・与党はまともに答えようとしない。なぜなら、三雲弁護士が説明するように、TPP協定には、上記質問のすべてに悲観的な答えが用意されているからだ。

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■イントロ

■全編動画

  • 日時 2016年10月27日(木) 18:30~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

TPPでは食の安全から「予防原則」が排除!遺伝子組み換え作物の流入が止められない!

 続いて岩月弁護士が、人々の「暮らし」と「民主主義」を破壊するTPPの本質に迫っていった。

人々の生活に最も密接に関わる「食の安全」は、TPP以前から壊されつつある、と岩月弁護士は解説する。食の安全基準を守るべきWHO(世界保健機関)は、すでに多国籍資本に乗っ取られているという。

 1989年、健康への影響が懸念される牛成長ホルモンを投与された牛の、米国からの輸入を禁止したEUは、「予防原則こそが国際基準だ」と主張した。しかし1998年、WHOの下に設置されたコーデックス委員会で、「多数決」によりこのEUの主張は退けられてしまった。

「世界的に予防原則が否定された」この出来事は、その後の国際基準として受け継がれ、TPPでは「人体に有害であることが科学的に立証」できない限り、健康への影響が懸念される作物でも、輸入し続けなければならないことが明記されている。

「仲裁ムラ」の目的は「仲裁ビジネス」の永続だけ!ISDで公共の利益は無視される!?

 そして岩月弁護士と三雲弁護士は、TPP最大の毒素条項「ISD条項」の「暗部」に迫った。

 ISD条項とは、「その国の生活や文化、富を守るための規制や措置によって、外国企業が『本来得るはずだった利益を得られない』と判断した時に、膨大な賠償金を請求することができる」というものだ。

 例えば、重篤な副反応が報告されている子宮頸がんワクチンについて、厚労省は現在、「積極的勧奨」を「控えて」いる。この措置もTPPの下では、「ワクチンの健康被害が科学的立証されたわけではない」のに、「予防原則に則って」勧奨を控えるというのは、「不当だ」と外国の製薬企業がISDで訴える可能性がある。

 このISDでの訴えを「仲裁」するのは、当事国の裁判所ではなく、米ワシントンの世界銀行内にある「仲裁センター」であり、3人の「仲裁人」だ。この「仲裁人」は、「投資仲裁ムラ」とも言うべきごく少数の弁護士から選出される。

 三雲弁護士によれば、この「投資仲裁ムラ」の最大の関心事は、「公共の利益」ではなく、自分たちの食い扶持である「仲裁ビジネス」の繁栄と継続にあるという。

 つまり、彼らにとってはISD条項の「利用者」である大企業に勝たせ続けることが重要であり、また例えば、「ここで米国を負けさせると米国民の世論が沸騰して、反ISDの動きにつながりかねない」という局面では、過去の判例などは全く無視して米国に勝たせることが重要となる。

 ISDは、こうした「恣意的」で「その場限り」の判断ができる仕組みとなっており、その判断のいかなる結果に対しても、責任を負わなくて済むようになっているという。

 日本を含め、各国の独立した司法主権は空洞化され、司法を通じた公正や正義や弱者の救済の実現が危うくなる。グローバルな資本力を持つ強者の言い分だけが通るように、司法が捻じ曲げられてゆくのだ。こうなってしまったら、民主主義だけでなく、法治主義も終りを迎えてしまう。

 インタビューでは他にも、国民の生活の根幹である医療や雇用への、TPPの影響についても話を聞いた。

 私たちの、食の安全が守られますように、自分と自分の家族が、健康で暮らせますように、病に倒れても、国民がお互いに助け合う相互扶助の仕組みによって適切な医療を受けられますように、という、国民の大多数のささやかな願いが踏みにじられ、一部の者の利益のために健康や医療すら収奪のビジネスと化してゆく地獄。

 そんな地獄は見たくもないし、踏み込みたくもない、という人はぜひ、TPPに関心を持っていただきたいと思う。

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