「2015年前半にTPP交渉妥結を描く米国」──世界の庶民が踏み台になる「自由貿易」ならぬ「強制貿易」の実態 ~内田聖子氏、岩月浩二弁護士らが警鐘 2014.12.7

記事公開日:2015.2.13取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田)

特集 TPP問題
※ 2月13日テキスト追加しました!

 「米国の財界は『TPP交渉は妥結するもの』と考えており、妥結を前提に具体的なグローバル戦略を練っている。彼らにとって交渉の頓挫はあり得ない」──。

 日本が参加する以前から、TPP交渉のリアルな現場を見てきた、アジア太平洋資料センター(PARC)事務局長の内田聖子氏は、2014年12月7日、三重県津市で行われたシンポジウム「暮らしがかわる!? TPPの真実」の講演でこのように語り、米国は2015年前半での交渉妥結を念頭に置いており、交渉が停滞していても決して楽観視はできないことを示唆した。

 貿易や投資の自由化を目指すTPP交渉は、日米間の協議難航を主因に、依然としてまとまっていない。輸入農作物の関税面での、米国の要求水準があまりにも高いからだ。

 内田氏は、米国が今後、日本の譲歩をどこまで受け入れるかが焦点としつつ、妥結に至った場合、TPPのメリットを直接的に享受するのはグローバル企業であり、庶民はむしろデメリットを受ける公算が大きいと力説した。

 パネラーを務めた弁護士の岩月浩二氏は、TPP交渉に妥結の可能性が残されている中で、大阪市営水道事業の民営化が本格化しつつあることに懸念を表明した。同市の水道事業の質が、外資運営の下で劣化する恐れがある点や、再公営化をしようとする際にISD条項で訴えられる懸念があると指摘し、「そうなれば、最大の被害者は大阪市民だ」と訴えた。

記事目次

■ハイライト

  • 主催あいさつ 北村行史氏(三重県生活協同組合連合会)
  • 講演 内田聖子氏(アジア太平洋資料センター〔PARC〕事務局長)
  • パネルディスカッション 内田聖子氏/岩月浩二氏(弁護士)/桜谷勝美氏(三重大学名誉教授)/コーディネーター 石原洋介氏(三重短期大学教授)

国民の多くがTPPに不安を抱いている

 内田氏の講演に先立ち、主催者を代表して三重県生活協同組合連合会の北村行史氏が登壇した。「安倍晋三首相は、昨年(2014年)3月にTPP交渉への参加を宣言した。以来、日本は米国と協議を重ねてきたが、その中身は依然としてベールに包まれている」と述べ、TPP交渉の秘密主義を問題視。「自動車や農産物は、協議内容がメディアによって報じられることもあるが、医療や保険といった非関税部門は、内容が一切示されない」と不安感を口にした。

 そして、「すでに日本の社会には、TPPが国民生活に打撃を与えるのではないかという、漠然とした不安が広がっている」と指摘し、「この集会でTPP参加に反対する意思を固めてほしい」と呼びかけた。

 北村氏との入れ替わりで演壇に立った内田氏は、「私はパルク(PARC)という通称のNGOで活動しており、TPP問題に取り組むようになって早4年だ」と自己紹介したのち、まず、TPPの概要を説明して、基本的な問題を整理していった。

背景にあるWTO交渉の失敗体験

 「今しがた説明があった通り、日本のTPP交渉への参加表明は2013年3月。正式に参加したのは7月のことだったから、すでに1年4ヵ月という交渉期間を経ている」と語った内田氏は、「TPP交渉は貿易交渉であり、アジア・太平洋地域の、日本を含む12ヵ国が交渉に参加中だ。韓国や中国、さらには台湾、タイなども交渉参加を検討中とされている」と述べた。

 そして、TPPは、24分野を対象にした非常に広範な自由貿易のルールであり、関税分野(工業、繊維、医薬品、農業)は全体の一部に過ぎず、物品の輸出入ではない「サービス貿易(労働力、投資、知的財産権といった非関税分野)」にまで、網がかかっていることが大きな特徴だとした。

 「TPP交渉が妥結されれば、われわれ日本人の生活全般に、その影響が及ぶことになる」と言い重ねた内田氏は、日本人の暮らしはすでに、輸入品とは無縁ではいられないグローバリゼーションの中にあると指摘。「その現実に、サービス分野へのグローバリゼーションの波及を含めて、拍車をかけるのがTPPだ」と口調を強めた。

 米国がTPP交渉に力を注ぐ背景には、世界貿易機関(WTO)交渉の行き詰まりがあると、内田氏は言う。「(WTO交渉には)日米を含む約150ヵ国が交渉に参加してきたが、特に21世紀に入ってからは交渉に難航が目立った。米国の、農業分野で自国本位に交渉を進めようとする姿勢に対し、西アフリカ、ブラジル、インドといった後進勢がスクラムを組んで反発したのが大きい」

 また、内田氏は「WTO交渉を進展させることは難しそうだと判断した米国は、90年代の終盤に、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)という、相手国を絞り込んだ小規模な自由貿易交渉へと方針を転換した」と語った。

TPPは、実質的には「日米FTA」である

 米国は、TPP交渉に当初からは参加していない。米国が正式に交渉会合に参加したのは2010年のことで、これについて内田氏は、「米国は、アジア・太平洋地域でも自国の優位性を高めたいのだ。特に、対中国で。米国は、TPPが対中国戦略の柱の1つになると考えているに違いない」と解説。「米国が参加してからは、TPP交渉が(米国色が強いものへと)一気に変質した」と指摘した。

 「WTO交渉で、おためごかし的主張を繰り返してきた米国は、今やTPP交渉でも完全に主導権を握っている」と内田氏は強調する。そして、「交渉内容を絶対に秘密にする、という方針を打ち立てたのも米国だ」と述べた後、自身が考える「TPPの素顔」へと議論を進めていった。

 「12ヵ国が参加する交渉とはいえ、GDPの大きさで見ると、米国と日本が全体のほぼ9割を占める」と切り出した内田氏は、「TPPは、実質的には日米のFTAにほかならない」とし、「日本政府は『TPPへの参加を通じて、日本の農業を強くする』としているが、それは『日本の農作物も、米国が買ってくれれば』の話であって、豪州やシンガポールといった米国以外の参加国に売ったところで、日本の農業全体では大きな儲けにはならない」と話した。

関税撤廃で米国の外食チェーンは大喜び

 「これまでTPP交渉を観察してきて、つくづく思ったのは、交渉の背後には、米国系のグローバル企業の姿がはっきり見えること」と内田氏は言う。

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