(4)訪米3日目:「私たちも怒っている」――従軍慰安婦問題、TPP;米軍基地問題に潜む共通点~サンフランシスコ市記者会見 2016.1.5

記事公開日:2016.1.5取材地: | | テキスト動画独自
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(山本愛穂)

 ――1951年、かつて吉田茂がサンフランシスコ講和条約に調印した歴史的場所で、島ぐるみ会議訪米団の記者会見が行われました。

 参加した現地市民、日本人記者関係者などおよそ20名を前に、記者会見会場ウォー・メモリアル・ヴェテランズ・ビルデング(War Memorial Veterans Building)において、島ぐるみ会議訪米団全26名が一列に並んで着席しました。

 訪米団の背後に掲げられた横断幕には、大浦湾の美しい海に、辺野古基地建設反対と英語で書かれています。

 現地時間2015年11月17日、定刻11時ちょうど、司会を務めるWGS(真の安全を求める女たちの会)リーダーのグウェン・カーク氏は、会場と同じ敷地内、隣の建物であるウォー・メモリアル・オペラハウス(War Memorial Opera House)が、1951年にサンフランシスコ講和条約が締結された場所であることに触れました。

▲記者会見会場、War Memorial Veterans Building の前で。

 「報道陣の皆さんに改めて強調しておきたいことは、1951年、この建物(※正しくは隣接したWar Memorial Opera House)で、日本が同盟国と条約を結んだ時、沖縄の人々の人権は含まれていなかったということです。今日、沖縄からお越しの皆さんがここへ来て、国際的な支援を訴えているという事実は、歴史に照らし合わせると、大変、理にかなったことなのです」

 連載第4回目の今日は、サンフランシスコ市記者会見の模様をお送りします。現地市民からTPP、従軍慰安婦問題に関して鋭い質問が飛び出しました。これらの問題が辺野古の新基地問題にどのような関連性をもつのか、考えてみたいと思います。

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記事目次

■ハイライト動画

  • 日時 2015年11月17日(火) 19:00~
  • 場所 サンフランシスコ市(米カリフォルニア州)

呉屋守将氏~「日本政府も、一部の保守系の人たちも、思考停止に陥っている」

▲呉屋守将氏

 初めにスピーチを行った呉屋氏は、まず、2014年11月16日の沖縄県知事選に触れました。党派を超え「辺野古新基地建設反対」の一点に結集、基地容認派に転じた前仲井真知事に対し、10万票差をつけての翁長知事誕生は、「沖縄がこれまで70年間に渡り、押し付けられてきた不当な苦労や犠牲に対して『NO』と示した、明確なメッセージ」と述べました。

 呉屋氏は、辺野古問題は沖縄の置かれている状況を象徴的に表しているのだと話を続けます。「1月の名護市長選挙、11月の那覇市長選挙と県知事選、12月には衆院選があった。その全てで、基地建設反対派が勝利しています。『普天間移設は辺野古だけが唯一の解決策』というが、これが証明されたことはありません」と述べ、「日本政府も、一部の保守系の人たちも、思考停止に陥っている」と、圧倒的な沖縄県民の民意を無視し、建設工事を強行する日本政府を痛烈に批判しました。

 「そもそも、本当に普天間基地が必要か。われわれ沖縄県民も、日本国憲法のもと、他の都道府県の皆さんと同じように、政治的主張ができるのかどうか。これが問われているのが辺野古の問題です」

「単に利益を積み重ねるだけが経済人の努めではない。ウチナンチューとしてのプライドや誇りを大事にしたい」

 呉屋氏は、「金秀グループ」の会長。同グループは、1947年沖縄県西原町において創業し、建設業やスーパーなどの小売業、リゾート施設などを経営する、県内屈指の企業グループとして知られています。しかし、沖縄県においても、経済関係者の多くが保守層であり、基地建設を容認する自民党の支持基盤を形成しているなかで、呉屋氏は新基地建設反対を表明し、前述2014年11月の沖縄県知事選では、翁長陣営の選対本部長も努めています。呉屋氏をつき動かすのは、どのような想いなのでしょうか。

 金秀グループは、創業65周年の節目に「県民に寄り添う100年企業」を掲げています。呉屋氏は、自分は経済人である、と述べながら、「単に利益を積み重ねるだけが経済人の努めではありません。私は、よりウチナンチューとしてのプライドや誇りを大事にしたい」と、自らの沖縄県民としてのアイデンティティへの想いを述べました。さらに、米軍基地が沖縄にもたらす経済効果を根拠に、「基地は必要」とする主張に対して、呉屋氏は経済人としての立場から、脱基地依存の必要性と効果について主張します。

 「復帰直後15.5%だった基地依存度は現在たったの5%です。基地返還後の跡地を民間開発した方がより多くの雇用が生まれ、経済効果があります。これは、証明済みなのです」

 スピーチの終わりで呉屋氏は、サンフランシスコ市民に対し、「カリフォルニア州は民権運動で大変優れた、世界のフロントランナー。皆さんのご理解、ご協力をいただき、ワシントンD.C.に直接我々の声を届けたい」と、今後に期待を込めながら謝辞を述べました。

(注1)名護市長選(1月)、那覇市長選・沖縄県知事選(11月)、衆院選(12月)の全ての選挙でも反対派が勝利した。
(注2)例えば、2015年12月14日付琉球新報によれば、県経済団体が島尻安伊子沖縄相の就任祝いパーティを主催。そのなかで、県商工会議所連合会長は国場幸一氏が「アイデンティティの行き過ぎが『イスラム国』や米共和党大統領候補のトランプ氏」と発言、辺野古移設を推進する下尻沖縄相を激励したとのこと。これは、同席した翁長知事の選挙時の合言葉「イデオロギーより、アイデンティティ」を意識したものと見られ、知事への公然の批判と考えられる。

渡久地修氏~「沖縄で、人民の、人民による、人民のための政治を実現するために」

▲渡久地修氏

 「今日はこのような歴史的な場所で開催できることに感慨深い思いをしています」

 呉屋氏に続いてスピーチした渡久地修氏(県議)は、冒頭で、サンフランシスコ条約が調印された建物の一角という歴史的な場所で記者会見を行うことへの感慨を述べました。

 1952年に発効されたサンフランシスコ講和条約は、1951年、記者会見会場の隣にある現オペラハウスWar Opera Memorial Operaにおいて、当時の吉田茂首相によって調印されました。この条約により、日本の本土は主権を回復することになりますが、他方、沖縄にとっては日本より切り離され、米国の統治下に置かれることが決定した「屈辱の日」です。

▲サンフランシスコ講和条約にサインする吉田茂。

 1950年代には米軍基地の建設が本格化し、米軍による軍用地の強制接収が始まります。現在の辺野古新基地を含め、米軍基地をめぐる沖縄県の苦難の歴史は、このサンフランシスコ講和条約の調印から始まったと言っても過言ではありません。

 「サンフランシスコ講和条約で沖縄は、日本から切り離され、27年間、アメリカの植民地支配に置かれました。それから70年間、今なお、米軍基地が置かれていますが、今日はそのような講和条約が結ばれたところでこのような会見が開催できたことは、ある意味、これからの新しいアメリカと沖縄、日本の歴史を切り開くものと思っています」

 そう述べた渡久地氏は、今回の訪米の目的について、「辺野古新基地建設をめぐっては、日本政府に大きな責任がありますが、同時に、アメリカ政府も当事者として大きな責任を負っています。そこに造られようとしているのは米軍基地です」と、米国も辺野古新基地建設の当事者であることを明確にし、直接訴えるために訪米したのだと述べました。

 また渡久地氏は、訪米2日目までの成果として、66万人の組合員を有しているアジア太平洋系アメリカ人労働組合、APALA(注3)による沖縄連帯決議の採択と、サンフランシスコ・バークレー両市議会との交流を挙げました。

 こうした草の根の交流について、渡久地氏は、「私たちはこのアメリカで、沖縄の新基地建設に反対する友人や仲間たちとの出会い、これに勇気を持って、これからも大変困難で苦しい闘いをずっと続けていけるという確信を持つことができました。この、アメリカの本国で、正義と民主主義のために闘っている多くの皆さんとの出会いが、アメリカの新しい未来を切り開くものになると思います」と、理解ある市民への感謝の意を述べました。

 スピーチの終わりに、渡久地氏は米国の初代大統領、エイブラハム・リンカーンの、名高いゲティスバーグ演説の一説を引用しながら、沖縄県民の強い意志を印象づけました。

 「私たち沖縄県民は、アメリカ国民との友好を望んでいます。しかし、服従は望んでいない。沖縄で、人民の、人民による、人民のための政治を実現するために、さらなるお力をお貸しいただきますよう心からお願いして、感謝を申し上げます」

(注3)APALAによる沖縄への連帯決議案採択は、「後編:ワシントン編」で取り上げます。

比嘉京子氏~「基地問題は人権問題であり、環境問題であり、平和問題である」

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「(4)訪米3日目:「私たちも怒っている」――従軍慰安婦問題、TPP;米軍基地問題に潜む共通点~サンフランシスコ市記者会見」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    (4)訪米3日目:「私たちも怒っている」――従軍慰安婦問題、TPP;米軍基地問題に潜む共通点~サンフランシスコ市記者会見 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/280921 … @iwakamiyasumi
    「正しい」怒りは世界共通。それが世界を平和にする。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/684307423381729280

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