「戦後70年を検証せずに、日本の未来は語れない」――柳澤協二氏らが国際地政学研究所ワークショップで討議、「戦後世代の日本人は近現代史に疎いのが弱点」との指摘も 2015.6.17

記事公開日:2015.7.2取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田)

 国際地政学研究所は、2015年の通年テーマに「戦後70年」を掲げている。7月には、同研究所としてのメッセージを発表する予定だ。

 国際地政学研究所理事長の柳澤協二氏は、2015年6月17日、東京都内で開かれた同研究所のワークショップで、安倍晋三首相が今夏に戦後70年談話を出そうとしている件について、「謝罪を繰り返すのではなく未来志向にする、としているが、戦後の70年で日本に起きた変化を、どう検証するかという課題もあり、それをやらずに日本の未来を語ることは不可能だろう」と語った。

 今回のワークショップでは、「戦後70年メッセージ」の発表を前に、同研究所の一般会員ら約10人を交えて、車座での討議が行われた。テーマは「戦後70年を検証する意義」。会員からは、それぞれの立場から自由な意見が出されたが、「今の日本人にとって、第二次世界大戦での『敗戦』は興味の対象にはなり得ない」との指摘もあった。今の暮らしが、敗戦の影響を引きずった酷いものであるならともかく、決してそうではない以上、過去を反省して何かを得ようという気分には、とてもなれないとの主張である。

 これには柳澤氏もうなずくのだが、討議全体を通して支配的だったのは、近現代史に疎い、戦後世代の日本人の弱点を問題視する議論で、日本の歴史教育の不備を指弾する声が異口同音に聞かれた。出版関係者の会員からは、著者の主義主張に調査・研究が負けてしまっている恣意的な近現代史本が読まれることを、懸念する発言もあった。

記事目次

■ハイライト

  • テーマ 戦後70年―戦争と犠牲を回避した日本の在り方の継承か・戦後レジームの『くびき』からの解放か・自衛隊は軍隊へと変貌か・他

「がんばれば報われる」が実感できた世代

 柳澤氏は、「70年前に起きたアジア太平洋戦争について『国民的な検証』が行われないまま、今日にまで時間が流れたことを無視するわけにはいかない。だが、今になって急にそれをやろうとしても難しい」と切り出し、「安倍首相が今夏、戦後70年の総理談話を出すにあたって、『謝罪を繰り返すのではなく未来志向にする』としていたが、戦後の70年で日本に起きた変化を、どう検証するかという課題がある。それをやらずに日本の未来を語ることは不可能だろう」と語る。

 その上で、「私は今、69歳。つまり、私のこれまでの人生が、ほぼ戦後70年に重なることに気づいた」と続けた柳澤氏は、自身がこれまで何を考えて生きてきたかを振り返ることに意義あると思った、と述べた。

 そして、参加者に向けて、「みなさんも、人生のかなりの部分が日本の戦後史と重なるはず。その重なる期間での立場が、官僚だったか、あるいは民間の企業人だったかで、検証の視点はだいぶ違ってくるはずだが、みなさんが自分の人生の歩みに照らしつつ、戦後日本をどう見ているかを表明し合うことには、かなり意義があると思う」と語りかけた。

 柳澤氏は、東海道新幹線が開通して東京五輪があった1964年当時は高校生で、日本の近代化を肌で感じながら大人になった、という。

 「防衛庁に入庁した際、まず実感したのは、先輩がみな非常に前向きだったこと。『自分たちが、これからの日本をつくる』という気概が強く感じられた」

 柳澤氏の入庁は、日本の高度成長期の真っ只中の1970年のこと。

 「給与は毎年、着実にベースアップされていった。つまり、『がんばって働けば報われる』という価値観が自然に刷り込まれたのだ。『先輩の背中を追いかけていれば、間違いない』とも固く信じていた」

国民の時代認識の視点は、国際情勢より経済情勢

 柳澤氏は、1980年代のバブル崩壊後の日本の長期低迷については、「官僚として脂が乗っていたことが逆にアダになり、世の中の雰囲気を感じ取るだけの余裕がなかった」と振り返る。1990年代以降の恒常的不況の中で青少年期を送った世代に顕著な自信のなさや、社会情勢への無関心ぶりが、「今ひとつ理解できない」と明かした。

 そして、同じ高校で同期だった菅直人衆院議員が総理大臣だった時に日本が滅茶苦茶になったことを象徴的に取り上げ、「(福島第一原発事故という)クライシスに上手く対応できなかった私たちの世代にも、かなり問題があるように思える」とも発言した。

 柳澤氏は、戦後の日本に平和が続いてきたことを強調し、普通の国民の時代認識は、その時々の国際情勢などではなく、「経済情勢によって彩られている」との認識を示した。

 そして、元防衛官僚の立場からは、日本の安全保障政策の流れについて、「過去のトラウマ(=新たな対応を迫る要因)が転機になってきた」と指摘した。

日本の安全保障を変えた、数々のトラウマ

 そのうちのひとつ、1950年代に起きた朝鮮戦争について、これがあったから警察予備隊(のちの自衛隊)が作られたとしながらも、「朝鮮戦争によるトラウマよりも、その前の第二次世界大戦によるトラウマの方がはるかに大きかったから、日本国憲法はそのままにし、軍隊もどきの自衛隊が作られる運びになった」と語った。

(…会員ページにつづく)

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「「戦後70年を検証せずに、日本の未来は語れない」――柳澤協二氏らが国際地政学研究所ワークショップで討議、「戦後世代の日本人は近現代史に疎いのが弱点」との指摘も」への4件のフィードバック

  1. あのねあのね より:

     柳澤氏が入庁された1970年は昭和で云えば45年、戦後25年たっており日本の高度成長期の真っ只中で石油ショックが起きる数年前のまさに経済のピークだった。戦後は何もかもが新しくなり、都会は焼け跡だったが戦前よりも何もかもすばらしく成っていった。そんな昭和45年でも、東京の国電飯田橋駅の西側出口の交番のそばにある石垣の中には、人が住んでいた。戦後が残っていたのだ。

  2. 西遠寺 透 より:

    国際地政学研究所の見ごたえのあるお話を視聴しました。
    第二次世界大戦のトラウマは戦後確かにあったものの、経済復興でのりこえよう「戦争は忘れよう」としてきたのが戦後70年の特長の一つであろうと思います。海外で事実を問われることがあったら、きっと応えに給するのは安倍首相の「ポツダム宣言を承知していない」発言です。これについて海外メディアはほとんど報道していません。多分あまりにもリスクの高い発言だからです。各国民に、それこそ戦争トラウマの再体験、かつての敵国日本の記憶を呼び覚ましかねません。安倍首相は「戦勝国」にわざわざ長期使用可能な切り札を与えたと思います。とくに「抗日」の記憶も学習もある隣国にです。
    経済のお話は説得力があります。高度経済成長期に「経営の神様」と呼ばれる人たちが起業の模範として尊敬されたのを記憶しています。その後、バブル期に土地神話のもと、いわゆる「経済戦士」がアメリカ、欧州の名だたる建物を買収して、経済戦争と恐れられました。その後日本の景気は低迷し、ビジネスマンは「ボーダーレス」の国際経済のなかに、中国、韓国のビジネスマンと競い合うようになったのが現状でしょう。一貫しているのは優良な日本企業における「内部留保」の確かさと思います。バブル期と同じく、政治や宗教についての話題をタブー視して、ひたすら昔「ハイソ」今「セレブ」を目指し、ほんとうに長期的な展望はあるのでしょうか。つきまとうリスクをくみ出すのに精一杯で忙しくて、戦後70年という大切な節目で考える余地すらないのでしょうか。英米の公人のように「引退してから回顧録でふれる」ことでは無い情勢であると思います。
    今年、天皇皇后陛下は、ご高齢にもかかわらずパラオはじめ激戦の地をご訪問されました。戦没者の慰霊、鎮魂はまだまだ必要というご判断です。両陛下の、皇太子時代からアジア訪問は歓迎されていました。たしかにビジネスマンの開拓精神とその継続は努力の賜物で「お疲れ様」ではありますが、アジアの外交経済において、ビジネスマンたちは両陛下の御尽力による対日感情の変化の背景をさほど知らずいまだ甘えているようにもみえます。

  3. @hiroezkさん(ツイッターのご意見) より:

    「戦後70年を検証せずに、日本の未来は語れない」――柳澤協二氏らが国際地政学研究所ワークショップで討議 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/249574 … @iwakamiyasumiさんから

    戦時中の日本の不条理さに関する理解の深さが世代によってかなり違うことが判る。
    https://twitter.com/hiroezk/status/617192067379261440

  4. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    「戦後70年を検証せずに、日本の未来は語れない」柳澤協二氏らが国際地政学研究所ワークショップで討議、「戦後世代の日本人は近現代史に疎いのが弱点」との指摘も http://iwj.co.jp/wj/open/archives/249574 … @iwakamiyasumi
    近現代史に触れない歴史教育は現実逃避にすぎない。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/617603123826196480

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