「ピケティ提言は実現不可能」の風潮を牽制──和光大学教授・竹信三恵子氏「税制は世論がつくる」「是正策に最も有効なのは資本への累進課税の導入」 2015.2.17

記事公開日:2015.3.9取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田)

※3月9日テキスト追加しました!

 「政府が何らかの手を打たないと、日本の格差拡大は危ない水準に達する」──。2015年2月17日、東京・千代田区の参議院議員会館で行われた「女性の政治スクール」のゲスト講師、竹信三恵子氏の講演は、トマ・ピケティ支持の高まりを、彼の来日に乗じた一過性のブームに終わらせまいとする意志に満ちたものになった。

 福島みずほ参議院議員が主催する「女性の政治スクール」第1回目のスピーカーは、和光大学教授で『ピケティ入門』(2014年12月、金曜日)の著者でもある竹信三恵子氏。「ピケティから考える格差社会ニッポン」のタイトルで演壇に立った。

 経済学者トマ・ピケティ氏が自著『21世紀の資本』(2014年12月、みすず書房)で提言する、弱者重視の税制改革をめぐっては、「国際規模での資産課税など無理」「しょせんは学者の机上論」などの否定的な見方が少なくないが、竹信氏は、提言の具体化は決して不可能ではないことを、米富裕層の意識変化や資産隠しへの取り締まりの動き、さらには、日本で所得税の最高税率が民意によって引き上げられた事例を示しつつ、丁寧に訴えた。

 講演では、ピケティ学説の平易な解説も行われた。資本主義には「格差拡大」という負の側面がある以上、先進諸国は主に税制という知恵でもって、資本主義をうまく使いこなしていくことが肝要という、ピケティ氏の信念が伝わってくる内容に、客席からは多くの拍手が集まった。

 竹信氏は、「税制は、世論がつくるもの」だと訴え、富裕層で政治的にも影響力を持つパワーエリートらが、自分たちの価値観で政治を動かしていく可能性があることに警鐘を鳴らした。

記事目次

■ハイライト

  • テーマ 「ピケティから考える格差社会ニッポン」
  • 講師 竹信三恵子氏(和光大学教授)

3月、国会では労働市場の「改悪」が始まる

 冒頭で福島氏が、この勉強会の今後の予定などについて話した。

 「現時点では、このスクールを4回開くことが決まっている。次回は、全日本おばちゃん党代表の谷口真由美氏を招き、憲法をテーマに議論する。3回目は私がスピーカーを務め、車座的な集会にする。4回目は、あの辛淑玉氏に諸問題をばっさり斬ってもらう予定だ」

 福島氏は、今年2015年の3月上旬以降、国会では労働市場改革法案の議論が本格化することにも言及。「改悪」という表現を使う福島氏は、「まず、派遣法の改悪があるが、正社員になる道をスタートの段階から壊している点が問題だ」とし、「直近の統計では、高校新卒女子の場合、3割程度しか正社員になれない」ことなどを指摘した。

 さらに福島氏は、ホワイトカラー・エグゼンプションの法案を「労働時間野放し法案」と呼び、「これについては、3月9日に『子育て』の立場から反対する集会を開く予定だ。樋口恵子氏(東京家政大学名誉教授)や、過労死防止法の施行に尽力した中原のり子氏(東京過労死を考える家族の会代表)らに登壇してもらうことを考えている」と語った。

ピケティ理論は難関にあらず

 今年2015年1月のピケティ氏の来日に話題がおよぶと、福島氏は「彼の講演を聞いた。やはり、先進諸国の『格差拡大』を非常に問題視しており、最大の対処法は税制の中にある、と提言していた」と報告。「今日は竹信氏に、『彼の提言を、日本社会で実現させていくにはどうしたらいいか』という視点を交えながら、講演してもらおうと思う」とした。

 福島氏の紹介を受けてマイクを握った竹信氏は、自身がかつて経済部の新聞記者であったことを伝え、「私の強みは、日本社会の格差拡大を現場取材を通じて把握していること。その経験が、ピケティ氏が掲げる学説にどうマッチするかを意識しながら、この本を書いた」と、自著『ピケティ入門』を語った。

 世界的ベストセラーとなったピケティ氏の著書『21世紀の資本』の英語版を読破している竹信氏は、「700ページを超える本だが、それは図やエピソードが多数盛り込まれているからで、彼の主張は至って簡素で明快だ」と力説。同書の柱である、3世紀にわたる各国の税務データからあぶり出した「r>g」の解説へと移った。

 「r」は資本ストック収益率を、「g」は経済成長率を、それぞれ意味する。竹信氏は、「ピケティ氏はrを『富』と呼んでいるが、要するに、土地や株といった資産の運用収益率の歴史的推移を眺めてみると、経済成長率のそれを常に上回っていることを示すのが『r>g』で、それまでの『経済成長で格差は縮まる』との学説を覆すものだ」と話す。

 これは、株式や不動産などの富をたくさん持っている富裕層が、常に優位に立つ傾向を物語っている。仮に、「r=3%」で「g=1%」の時期では、資産を持たない労働者が懸命に働いて得ることができる所得の増分に比べ、ミクロレベルでの運用の大失敗を別とすれば、富をたくさん持っている超金持ちは、労働者の3倍の所得増になる。

 「だから、資産を多く持っている大金持ちはどんどん豊かになり、低い賃金の伸びしか得られない一般労働者は、必死に働いてみたところで、富裕層との格差は広がる一方なのだ。近年の日本のようなゼロ成長期では、特に一般労働者は立場が不利になる」と竹信氏は言う。

大手経営者らに目立つ「超高額報酬」の強欲

 「政府が、こうした現実に何らかの是正策を打たねば、格差拡大の流れは固定化してしまう」と、竹信氏はピケティ氏の訴えを代弁する。さらにまた、「是正策に最も有効なのは、資本への累進課税の導入だ」とも語った。

 竹信氏は、米国では労働所得の格差の広がりが、歴史的に見て高水準にあることにも目を向け、ピケティ氏が指摘する、1980年代以降の所得税の累進緩和の影響について、上位0.1%の所得シェアの高まりを示すグラフを示しつつ、こう述べた。

 「戦後は7~8割という水準だった所得税の最高税率が引き下げられたことを受け、米英のビジネスシーンでは、『がんばって成果を上げた経営者らは、巨額な報酬を手にして当然』という風潮が強まるのだが、『その成果は、当人の努力だけによるものとは言い切れない』とピケティ氏は本に書いている。自身の経営者時代が、景気が良い時期にたまたまぶつかった可能性は十分にある、というのが彼の言い分である」

 企業トップが超高額の報酬を得る傾向は、日本の産業界にも目立ち始めている、とする竹信氏は、日本の大手メーカーの外国人最高経営責任者(CEO)の報酬を紹介。「数年前、年間9億円もらっているCEOがいたが、その時期、そのメーカーの業績は下がっている」と指摘し、次のように続けた。

 「しかも、そのCEOは、その年に派遣労働者のクビを大量に切っており、裁判を起こされている。それなのに、株主総会ではそのことは一切話題にならず、株主からは『配当はどうなる』という質問が出た。これに対して、そのCEOは、『自分の報酬を上げてくれれば、みなさんにも配当で報いる』と応答したというから驚く。派遣のクビ切りで利益を押し上げ、そこで上がった利益を強欲なCEOと株主で分けた、という見方が当てはまってしまうではないか」

富裕層が自分たちの価値観で「政治」を動かす

 竹信氏は、日本に顕著な少子化も、遺産相続がひとりっ子らに集中してしまう点で、格差拡大要因だと強調。「パワーエリートは、パワーエリートと結婚するケースが多いことも見落とせない。(少子化対策を含めて)政府が何らかの手を打たないと、日本の格差拡大は危ない水準に達する」と警鐘を鳴らす。

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