機能不全に陥った資本主義 「フロンティア」なき時代、私達はどのような社会を作るべきか ~岩上安身によるインタビュー 第511回 ゲスト 日本大学国際関係学部教授 水野和夫氏 2015.1.28

記事公開日:2015.1.29取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根、IWJ・箕島望、IWJ・平山茂樹)

特集 消費税増税
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 ソ連の崩壊による冷戦終結以後、民主国家が資本主義体制を採用するということは、自明の前提となっている。その資本主義が、終焉を迎えつつある――。そう主張するのが、『資本主義の終焉と歴史の危機』(2014年3月、集英社新書)が昨年、ベストセラーとなった、元三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフエコノミストで、現在は日本大学国際関係学部教授を務める、水野和夫氏だ。

 水野氏は、先進資本主義諸国における利子率の異様な低下に、資本主義の終焉を読み取る。資本を投下し、利潤を得て資本を自己増殖させることが資本主義の基本的な性質である以上、利潤率が極端に低いということ、すなわち、資本が自己増殖しないということは、資本主義が資本主義として機能していないことを意味する、というわけである。

 では、なぜ資本主義は自己増殖の運動をやめ、その役割を終えようとしているのだろうか。その理由として水野氏は、「地理的・物的空間」においてフロンティアが消滅し、その代わりとして米国の投資家が作り上げた「電子・金融空間」も、リーマン・ショックをきっかけに縮小に転じたことをあげる。

 フロンティアが消滅した今、それでもなお、安倍総理が言うように「成長」の旗を振って資本の自己増殖運動を駆動させようとすれば、資本は、大多数の中産階級や一般の労働者から無理やり富を搾取する方向に動くだろう。あるいは、武器輸出三原則の事実上の緩和などに見られるように、「戦争」を新たなフロンティアとして創出しようとするかもしれない。

 この先、資本主義はどうなるのか。そして、資本主義が終焉するならば、私達はどのような経済モデルを構築すべきなのか。世界史レベルで展開した資本主義の来歴を振り返りつつ、1月28日(水)、岩上安身が話を聞いた。

記事目次

■ハイライト

  • 日時 2015年1月28日(水) 16:00〜

利子率の低下、それは資本主義終焉のサインだ

岩上安身(以下、岩上)「元エコノミスト、と謙遜される水野先生は長い間、経済の現場で短期、中期、長期的な経済予測をされてきた。著作には歴史的な奥行きがあり、経済だけでなく、それを成立させてきた制度、政治、文明までを網羅しています。若い頃から研究していたのですか?」

水野和夫氏(以下、水野・敬称略)「証券会社の経済調査部で景気予想、金利予想をやってきました。30数年間、金利の動きを見てきたのですが、1997年頃、金利が2%を割ったあたりから、どうしてだろうと調べ始めたのです」

岩上「今、おいくつですか」

水野「61歳になります」

岩上「水野先生の『資本主義の終焉と歴史の危機』は、去年(2014年)、大変よく読まれました。25万部突破だとか。このタイトルにある、資本主義の終焉とはどういう意味なのですか? 利子率と関係があるそうですが」

水野「資本主義とは、資本を自己増殖させるプロセスで、到達点は決まっていない。今日より明日、明日より明後日と資本を増やしていく。その尺度になるのが利子率です。日本は0.2%、ドイツは0.3~0.4%、アメリカは2%以下など、主要先進国の利子率はゼロに近い。

 海外生産比率や輸出比率が高いところはそうではなく、投資はアジアやブリックスに向かうが、アジアやBRICsも日本やドイツ、アメリカが辿った同じ道を歩んでいるので、いつかは利子率がゼロになる。世界的にゼロインフレ、ゼロ金利、ゼロ成長となります。すでに、先進国には資本主義終焉のサインが出ています」

トリクルダウン理論は、近代社会では一度も実現したことがない

岩上「しかし、(資本主義は)死んでたまるかと必死の努力をすると思うのですが、そのあたりを説明していただけますか?」

水野「まず、利子率ゼロの世界とは、実物投資の空間で利子率がゼロになります。実物投資空間では、より遠く、より速く、より多くが求められる。市場の拡大、販売数の増加と粗利益率の掛け算です。また、粗利益率は交易条件と正比例します。

 経済の合理性は、最小のインプットで最大のアウトプットを、いかに獲得するか。これらが近代の行動原理となり、資本の自己増殖を図ってきたが、これ以上は増えなくなりました。

 イスラム革命で原油価格が上がって資源ナショナリズムが台頭、交易条件が悪くなった。そこで、アフリカのグローバリゼーションに向かうのですが、アフリカの先はない。一方、1973年の金融自由化で、電子・金融空間(バブル空間)というものが出てきました。当時、アメリカには貯蓄がないので金融自由化をし、ウォール街の電子・金融空間で日本やドイツの貯蓄を狙った。1995年、強いドル政策が成功。ルービン財務長官が、世界中のお金はウォール街に通ずる、と誇りました」

岩上「日本は橋本内閣で金融ビックバン。1995年はネット元年でもある」

水野「電子・金融空間はPCで情報共有したがナノ秒(10億分の1秒)取引では個人投資家は太刀打ちできない。投資銀行が60倍のレバレッジで投資していたが、リーマンショックで自壊しました」

岩上「実体経済は行き詰まった。不景気で量的緩和をしても、ナノ秒取引に流れる。資本主義の終焉を否定する安倍首相や黒田日銀総裁など、アベノミクスを信じる人たちは、実体経済と電子空間で資本が増えると期待しているが、難しいのですね」

水野「電子・金融空間は、ほぼGDPに近い。その比率はキリストが生まれて以来、ずっと5%だと言います。しかし、トマ・ピケティは資本の分布を上位1%に集中し、その資本は1950年以降、相続とスーパーCEOの存在で増えている、と証明しました」

岩上「相続税の緩和やタックスヘイブンによる租税回避も大きい。利子の問題とともに、税の捕捉率という問題もからんでくる」

水野「フランスの例がわかりやすい。1700年代のフランス革命で身分ではなく実力に応じた職業選択や所得の獲得が認められたはずでした。しかし、1830年代のバルザックの小説では、勉学に励んで上を目指す若者に、老人が『勉強したってダメだ。お金持ちの嫁さんをもらった方がいい』と諭している。

 つまり、フランス革命の前と変わっていない。バルザックは真実を述べていました。結局、近代社会になって、政治的には実力社会は実現したかもしれないが、経済的には実現していない。戦争が起きて資産は減ってしまったが、その後のニューディール政策などで、理念は少し実現したところもあります。

 戦争とロシア革命という外的ショックで富の再分配があったが、1980年からは富の分配は上位に集中する。小泉政権の頃、トリクルダウン理論が流行ったが、そもそも近代金融社会では、一度も実現したことがない」

「近代社会は、資本の分配をしていないことを隠していた」

岩上「自動的な富の再分配はない、と。それがあったのは、国家によって社会保障などで行なわれたから。冷戦時代、ソ連などの社会主義体制があった頃は、資本主義も抑制されていたが、それも崩壊してタガがはずれた。これは、先祖帰りなんですね」

水野「旧体制に戻り、第一身分、第二身分、第三身分の社会になる。世襲制は否定されているが、資産を受け継いだ人だけが高所得を保障される。高学歴も金次第。有名小学校から有名大学へ、親の資産で決まります」

岩上「それに拍車をかけているのが教育費の高騰です。教育ローンを組めればいいが、優秀な子でも家が貧しければ門前払いとなる。それはまた、資産家の子弟たちのライバル減らしにもつながります。貧しい子にはハードルが高く設定される」

水野「今の成長戦略では、生前贈与で教育費は1500万円まで、住宅も3000万円まで無税にという計画もあります。合計4500万円を無税で資産譲渡ができるように後押ししている。新しい形の身分制です。近代社会の理想は、経済的には幻想だったのです。

 それを、1700年代から誰が資産を持っているかを調べ上げたピケティの業績は賞讃に値します。近代社会は、資本の分配をしていないことを隠していた。近代国家を名乗るのはおこがましい」

岩上「ソ連崩壊で、ロシア人は『共産主義の良いところは、西側国家に社会主義の悲惨さを伝え、資本主義国に社会保障などを充実させたことだった』と皮肉っていました。資本主義は、産業革命よりすでに前から始まっていたのですか」

近代社会の400年の優劣を分けた理由

水野「1215年、ローマ法王が利子率を解禁した。時間は神様の所有物。利子は時間の私有を意味し、それまでは時間に値段をつけることは禁止していた。そしてギリシャ文化を知り、ヨーロッパ人が自信を持ちはじめ、利子率を認めることにつながりました。ヨーロッパでは貴重なゴマや胡椒を入手するため、イスラム世界との商売を始め、ペルシャへ向かった。そのための資金調達の際、投資家がリスクヘッジで利子を要求するようになった。1500年頃のイタリアのジェノバでは利率1%でした。

 当時、ワイン産業がメインだったが儲からなくなり、投資先をイスラム交易業者に変えた。1600年頃までイスラム交易は高リスク。合資会社では1回限りの交易で清算していたのです」

岩上「オランダが力をもった理由はなんでしょうか?」

水野「スペインやイタリアより造船技術が高かった。またカルバン派の宗教改革者たちが逃げてきていた。彼らには『海を見て祈れ』という教えがあり、海へ乗り出す。それで、7つの海を支配できた。スペイン、ポルトガルの旧支配者達が陸志向だったこともあります。オランダとイギリスは海と港を求めた。どの空間を支配するかという読みが当たった。それが、近代社会の400年の優劣を分けました」

岩上「陸を求めた地中海国家が、海を制したイギリスとオランダに屈したが、戦争が一番の決め手ではないのでしょうか? もうひとつ、ヨーロッパ中心主義の影に隠れているが、明の永楽帝は大船団でアフリカまで行き、交易をしていた。

 つまり海のルールを制定したイギリス、オランダなどのプロテスタントの優越性、ヘゲモニーと資本主義の優劣だけで決められないのではないでしょうか? 中国は、なぜ、台頭しなかったのでしょうか?」

水野「金銀、奴隷に固執していたスペインが、織物など軽工業に投資していたイギリスの技術力と資本力に勝てなかった。中国は、自国の豊かさがムダな覇権争いを避ける理由になったと思います。

 さらに、羅針盤、紙、火薬の三大発明をしたにもかかわらず、より発展しなかったのは、中国皇帝の絶対的な支配のもと、人民に自由度がなかったからと推察します。ヨーロッパは、王の権力はそれほど強くなく、隣国との覇権争いも多かった」

ユーロは閉じた帝国を作る経済実験

岩上「ヨーロッパは強欲が許された。合資会社についてはどうですか?」

水野「キリスト教の6000年の終末論を信じていたキリスト教的宇宙観は、閉じた世界だった。それをコペルニクス、ガリレオ、ニュートン、ケプラーの科学革命が有限な世界観を覆した。つまり、会社にも永遠の命を与えなければならなくなった。1601年、オランダは株式会社を作り、労働者より資本家の立場はより強固になりました」

岩上「初期資本の蓄積はいかがわしい。イギリスは海賊資本主義ですね」

水野「イギリスの海賊はカソリック(カトリック)の船しか襲わなかった。スペインは南米で山賊をやって金銀とともに帰国する途中、イギリスはそれを強奪した。しかし、スペイン王室が滅ばないように加減しました。

 それが19世紀になり、7大メジャーが資源の略奪に変わる。現在は資源も空間もなくなった。日本は労働搾取、アメリカはサブプライムローンなど移民の資産、ユーロではギリシャなど周辺国からの略奪です。ユーロは周辺から集めた富で金融と財政を、ひとつにまとめてドイツ第四帝国になる。その後、ギリシャに還元させる。ユーロはひとつの経済実験で、閉じた帝国建設です。東側の国境を明確にすれば、それが完成します」

岩上「ギリシャは債務を棒引きしろと。それを突き放すとデフォルトになり、不良債務化し金融危機になるのでは?」

水野「ギリシャは債務の元本のままで繰り延べし、棚上げするしかない。財政同盟ができた時、その黒字分でまかなうしかありません」

資本主義が暴走、近代システムの崩壊

岩上「近代システムの崩壊についておうかがいしたいと思います」

水野「まず、テロとの戦いで、秩序を維持できない例外的状況になってしまった。日本でも1995年、オウムのサリン事件や秋葉原無差別殺人など、生命の安全が保障されなくなりました。そして1971年のニクソン・ショックでは、8月15日に一方的に金本位廃止を通達。解散総選挙も自公民の3党合意は守られていない。政府の信義も守られていない。それで、資産を持っていない人たちが1993年は1割。2014年には3割になりました。

 社会科学では実験できないが、秩序が維持されなければ、実験できるようになる。ドルに影響しないよう分離させたユーロは、ひとつの実験。ドイツがギリシャを守るため、ユーロから離脱するとは思いません。

 秩序の崩壊は、イラクのフセインを見ればわかるように、悪化する。7世紀にかけて西ローマ帝国が崩壊。フランス革命から世界大戦。それで今、4回目の危機になっています」

岩上「近代システムは、主権国家システム(民主主義)と資本主義でうまくいっていたが、資本主義が暴走して、自己増殖に限界がみえてきてしまいました」

水野「16世紀海賊資本主義を例にとると、もともと資本家が国家を作った。それが市民革命を経て、暴走を止めるため憲法を作り、立憲主義を作った。それでもブレーキがなくなり、外側で民主主義や社会主義がブレーキになっていた。今や日本では投票率も下がり、民主主義もブレーキになりません」

岩上「社会主義があった時は民主主義の存在価値もありました。今は民主主義の危機。もう野党もなく、総理は改憲、消費税増税し、まだ国内に周辺(市場)を作ろうとしている。一方で、異次元金融緩和でバブルマネーはアメリカに流れ、国内では家計を疲弊させる。リーマン・ショックで、電子・金融空間も終わったと言うが、日米では空前の株高で、どう考えればいいのでしょうか?」

水野「それは9.15(リーマンショック)で終わったはずだが、政府が救済。社会学者ウルリッヒ・ベックは、『それは二重基準』だと言う。富める人は国家資本主義で救済。中間以下には新自由主義で、自己責任を適用する』と言いました」

岩上「国民も、それがわかりはじめてきたので、国が教育とメディアを管理しようとしている。けれども、資本の帝国も資本の自己増殖が行き詰まっています」

水野「金融空間もなくなり、政府の異次元緩和による自己増殖になっています」

岩上「外資が株高を支えていたが、それも逃げ始めている。国家公務員は無傷にして、今、年金基金を注入しはじめた。1万7000円台の乱高下が続くが、この帰結はどうなるのでしょうか?」

水野「円安でドル建ての日経平均だと頭打ちで外資は引き上げです。株価と政府支持率は連動するので、年金基金を投入して維持。将来的には株価が下がって年金支給率を下げてしまい、支持率に直結。なので、その損失分は国債で日銀が買うが長続きしません」

岩上「株価暴落になったら、どれくらいの損失が出るか、民主党の長妻昭氏が質問主意書を出した。政府は、中位で21兆円、リーマンショックレベルで26兆円の損失になる、と回答しました。これを国債で埋めたらどうなるのでしょうか?」

水野「通常なら国債26兆円発行し、日銀が買う。利回りが上がればすぐ売れて利率は下がってしまう。債券市場は機能しなくなり、財政破綻になる。国家はリスクがあることをやってはいけないのです」

岩上「正常ではない。株高だけ維持すれば支持率は安泰だというのでしょうか」

テロとの戦いは、原因と作ったヨーロッパが解決するべき

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