11月2日(土)9時30分過ぎより、福岡市・天神にある都久志(つくし)会館で「第25回反核医師のつどい in 福岡」が2日間おこなわれた。「反核医師のつどい」は、反核医師の会が中心となって毎年各地で開催されているもので、今年も全国から200名を超える医師と医学生が参加した。
IWJ福岡では、2日目第2分科会、吉岡斉氏(九州大学大学院教授)「原発問題の現状と今後」と、岡本良治氏(九州工業大学名誉教授)「脱原発と代替エネルギー」の講演を中継。講演後には、核兵器廃絶や安倍政権の原子力推進政策を非難する「福岡アピール2014」が採択され閉幕した。
左:岡本良治氏(九州工業大学名誉教授) 右:吉岡斉氏(九州大学大学院教授)
≪反核医師のつどい in 福岡「福岡アピール2014」 採択内容≫
- 2015年NPT再検討会議に向けて、核兵器の非人道性を訴え核兵器禁止条約の交渉開始を呼びかけよう。
- 韓国を始めアジアの人々と連帯し、北東アジアの非核化を実現しょう。
- 核兵器開発と原子力(核)発電の根はひとつ。原発を全廃棄し、原発に依存しない社会を目指そう。
- 広島・長崎・福島の被ばく者の医療と生活保障を求め、広範な国民とともに反核反原発の声を挙げよう。
- 日米軍事(核)同盟を推進し、平和憲法を破壊し、「核抑止力」依存と原子力発電を推進する安倍反動政権を打倒し、核のない平和な日本を実現するために力を合わせよう。
- 第2分科会「原発と代替エネルギーの問題」
吉岡斉氏(九州大学教授、原子力市民委員会座長、科学技術史・科学技術政策)「原発問題の現状と今後」
岡本良治氏(九州工業大学名誉教授、原子核物理)「脱原発と代替エネルギー」
- 全体会
第1・第2分科会報告/まとめ 原和人氏(全国反核医師の会共同代表)
アピール 提案・採択/次回主催あいさつ 中川武夫氏(反核医師の会・愛知事務局長)/閉会あいさつ 岡本茂樹氏(福岡県反核医師の会代表世話人)
- タイトル****
- 日時 2014年11月2日(日)9:30~
- 場所 都久志(つくし)会館(福岡県福岡市)
吉岡斉氏(九州大学大学院教授)「原発問題の現状と今後」
吉岡氏は、経済産業省の「総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会」のメンバーであり、同会で脱原発派を掲げる数少ない人間の一人だ。
吉岡氏は、「市民運動では多様性は生まれない」とし、あくまで自身の立場としては、「抗議活動ではなく、研究者としてのセカンドオピニオン」という形で、脱原発を提唱していきたいという姿勢を示した。
原子力事業の現在と将来
吉岡氏は、原子力事業の現在と将来について、以下の10個の論点と見解を示した。
- 原子力政策の原状復帰:「安倍政権は原子力政策を福島事故以前の状態へ戻そうとしているが、その歩みは難航している。また原子力政策を元に戻しても、原子力事業が復活する保障は何もない」
- 原子力安全規制体制の原状復帰:「原子力事業の原状復帰を実現するための鍵となるのが、安全規制体制の再構築である。新しい安全確保システムを構築できず、旧態依の安全確保システムを『再稼働』させているが、その前途は多難である」
- 新規制基準による安全審査:「原子力規制委員会の新規制基準は、既設の全ての原子炉施設が合格できるような規制基準となっており、現在の技術を駆使してベストを尽くしたものとは程遠い。規制委員会は、安全が保障されていない状態であることを熟知しつつ、多くの技法を総動員して安全審査に合格させた。これは認めるわけには行かない」
- 原発再稼働:「原子力規制委員会が安倍政権・経済産業省・電力業界に最大限に配慮して進めているが、国民・住民の批判が強いために、遅々たる歩みを強いられている。また多くの原発は再稼働できない可能性が高い。原子力事業の原状復帰は絶望的である」
- 原発新増設:「さすがに経済産業省も、露骨な優遇政策を講じてもなお、新増設の実現可能性に関しては自信を持っていない。また電力業界は経営リスクを考慮して慎重である。これが無理ならば日本の原発フェイドアウトは不可避である」
- 原発輸出:「2010年に菅直人政権のもとで強い政策が出されたが、福島事故により屋台骨が揺らいでいる。それでも安倍政権は強い推進姿勢をみせている。だが現実的には厳しい見通しと言わざるを得ない」
- 核燃料再処理:「民主党政権の方針を受け継いで推進を掲げたものの、余剰プルトニウム問題との関連で難航が予想される。日米原子力協定の改定問題とも深く関わる。無期凍結が妥当である」
- 核廃棄物の隔離管理:「福島県等の汚染地域の除梁は、効果が限られているので、真に社会・経済活動の再建が可能な場所に限った方がよい。政府や業界は世代間倫理風の表現を用いて、現世代で解決すべきと言っているが、被ばくの最小化、汚染の最小化、コストの最小化の観点から、合理的とは言い難い」
- 脱原発の経済的影響:「マクロ経済への影響は限定的(せいぜい年間1兆円)であるが、電力会社の経営や立地市町村の財政には大きな影響が及ぶので、その政府(国民負担)による補償・救済策が必要となる。なお、石炭産業崩壊のときの政策はほとんど反面教師である」
- 原子力発電に代わるエネルギー:「2000年代半ばのピーク時と比べて1割減というのが、現在のエネルギー消費の相場である。今後の中長期的な趨勢として、人口とくに労働力人口の減少、人口の都市密集化、産業構造の脱工業化の進行、エネルギー高価格時代に対応した省エネルギーの進展、無駄や浪費の少ない生活様式の定着などにより、さらなる大幅減少も見込まれる。原発ゼロの穴埋めは、エネルギー消費の自然減を含む省エネだけで十分カバーできる」
九州内の送電設備容量は、まだまだ十分に余裕がある
九州電力が、再生可能エネルギー発電設備(太陽光等)の送電網接続に対する回答保留(事実上の接続拒否)を行っている問題に関し、筆者は、「2016年に、法的な発送電分離が検討されている状況では、九州電力は積極的な送電設備に対する設備投資を行わないのではないか?」と吉岡氏に質問した。
すると吉岡氏は、「送電容量は、現状ではそもそも2016年まで不要で、まだまだ十分に余裕がある。」「九州電力は原発の再稼働を見据えて、送電容量に余裕を持たせようとしている可能性がある。」と回答した。
岡本良治氏(九州工業大学名誉教授)「脱原発と代替エネルギー」
吉岡氏に続けて登壇した岡本氏は、「原発の即時全面ゼロ政策は無責任という批判にどう応えるのか?」という、観点から講演をはじめた。
「原発ゼロ=再生可能エネルギーによる代替」という思考では不十分
岡本氏は、「社会運動において、批判だけでは不十分で、説得力のある対案が必要不可欠である」とした上で、「『原発ゼロ=再生可能エネルギーによる代替』という思考回路はやや狭隘で、柔軟性が少ない。なぜならば、『再生可能エネルギーによる代替だけでは不十分=原発再稼働は止むを得ない』という結論になってしまう。」と説明。脱原発を実現可能とするには、「節電(省エネ)と火力発電の効率化=ガスコンバインド・サイクルの推進が欠かせない」とした。
産業界と電力会社が原発の再稼働を望む理由