「IPPNW(核戦争防止国際医師会議)は『原発事故は収束からほど遠い』と声明を発し、細川護熙元首相は『汚染水の垂れ流しは犯罪だ。オリンピックどころではない』と発言した」──。
2013年9月21日、札幌市中央区のアスティホールで「反核医師のつどい2013 in 北海道『平和憲法なまらいいんでないかい 核兵器と原発ダメだべさ みんなでやればできるっしょ』」が行われ、元スイス大使の村田光平氏が「世界に学ぶ脱原発―地球の未来のために」と題して記念講演を行った。
村田氏は、アメリカ連邦議会のビデオメッセージでの原発批判や、自身の提唱で実現した「ユネスコ国際倫理の日」制定などについて、国際的な立場から得た貴重な情報を交えながら、核廃絶へ向けた熱い思いを語った。
- 主催あいさつ 福地保馬氏(主催現地実行委員長、北海道大学名誉教授)
- 記念講演 村田光平氏(元スイス大使)「世界に学ぶ脱原発―地球の未来のために」
- 教育講演 黒澤満氏(大阪女学院大学教授)/中村桂子氏(長崎大学核兵器廃絶研究センター)ほか(録画には含まれません)
- 日時 2013年9月21日(土)
- 場所 アスティホール(北海道札幌市)
- 主催 第24回反核医師のつどい現地実行委員会/核戦争に反対する医師の会(告知)
冒頭、主催者の北海道大学名誉教授 福地保馬氏が、原発再稼働の反対を表明し、開会の挨拶をした。次に、逸見由紀医師が、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)から寄せられた祝辞を読み上げたのち、元スイス大使 村田光平氏が記念講演を行った。
福島第一原発事故は収束からほど遠い
村田氏は「広島、長崎、福島と経験した日本は、これからは、核兵器だけでなく民生利用の原発も含め、核廃絶を訴えていくリーダーにならなければならない。そのために、キャロライン・ケネディ新駐日大使に期待している」と語った。
「IPPNW(核戦争防止国際医師会議)は、2013年6月、『福島の原発事故は収束からほど遠い。核兵器だけでなく、核の平和利用にも反対する』と表明した。自分は、それをマスコミに伝えたが、まったく報道されなかった」。続けて、IOC総会のオリンピック招致プレゼンテーションにおける、安倍首相の「福島第一原発は安全」宣言の無責任さを批判。「私は、国連事務総長の潘 基文(パン・ギムン)氏に直接、汚染水漏えいの危険性を訴えた」と述べた。
「2020年の東京オリンピックがなかったら、福島第一原発の汚染水漏えいも復旧作業も放っておきかねない勢いだ。旧ソ連ですら、チェルノブイリ原発事故の際には、作業員30万人と軍隊3万人を動員して石棺作業で原子炉を封じ込めた。しかし、日本では事故収束に最大限の努力をしていない。それを世界に発信したら、BBC、エコノミスト、UPI、韓国のテレビ局などから取材を受けた」。
細川護熙元首相の「汚染水は犯罪」発言
村田氏は、2013年9月19日の毎日新聞朝刊に掲載された、細川護熙元首相と岸井成格特別編集委員との『新・幸福論』対談という記事を取り上げた。細川元首相の「今、政治は国民の方を向いていない。脱原発を明確にすべき。汚染水の垂れ流しは(対策を、国が)前面に出てやると言うが、何を今さらという感じですね。これはもう犯罪です。とてもオリンピックどころではない」という発言部分を読み上げた。
その上で、村田氏は「東京オリンピック招致は、福島の危機感を広めるためにはなるが、(福島第一原発の周辺で)震度6強の地震が発生すれば、翌日から東京には人が住めなくなる。なぜなら、4号機は震度6強には耐えられないという評価だからだ。使用済み燃料は、冷却できなくなるとジルコニウム火災を起こすが、消火法はない。その時は、チェルノブイリ原発事故の10倍以上の放射能が拡散する」とした。
実は600億ベクレルあった汚染
そして、東電の事故後の対応を批判し、「国際的にも、事故はなかったことにして進んでいる。フランスのオランド大統領来日の際も、原子力エネルギー推進への共同声明を発した。しかし、汚染水問題は隠しきれない。ドイツのキール海洋研究所では、今回の新たな汚染水漏えいを反映した、太平洋の放射能汚染拡散シミュレーションマップを製作中、とのことだ」。
さらに、「東電は、汚染水漏えい阻止のためか、増資を図る計画を英文で外電に流して批判を受けている。IAEAの科学フォーラム(9月18日)では、気象庁気象研究所の青山道夫主任研究員が『600億ベクレルのセシウム、ストロンチウムを排出している』と明言した」などと述べ、隠し通せない放射能汚染の深刻さを指摘した。
村田氏は、昨年9月20日、アメリカ連邦議会の院内集会の要請で、ビデオメッセージにて激しい原発批判を行なった。それに対し、カーター元大統領から応援メッセージが送られたことなど、海外へ発信成果を語り、「新潟県の泉田知事は(柏崎刈羽原発の再稼働に)一生懸命に抵抗している。政府は常套手段として、審議会などの『やらせ会議』で正当性をねつ造する。しかし、知事と住民が抵抗すれば原発は動かせない。『驕れる者は久しからず』というように、古来より独裁者は必ず終焉を迎えるのが運命だ」と述べた。
福島の事故処理はグローバルな課題。オバマ大統領への嘆願も視野に
その後、フランスのラ・アーグ再処理工場での火災事故(1980年、核燃料再処理工場が火災により電源喪失)に話が及んだ。「最悪の場合は、工場の1万キロ範囲の住民が全員死ぬところだった。そんな危険な再処理工場が、青森県の六ヶ所村にもある。これは核開発の道を残すための最後の砦だ。だが、六ヶ所再処理工場でも、3.11の時には電力喪失が起きている」。
また、村田氏は「福島第一原発事故の国会事故調査委員であった田中三彦氏は、『福島第一原発1号機の爆発は、地震が原因だ』と明言している。東電は、地震が原因となれば、耐震設計などの問題で他の原発も動かせなくなるから、それを認めようとはしない。田中氏は、資料請求や現地調査を行う際、東電からいろいろな嫌がらせや隠ぺい工作を受けた」と、その具体的事例を挙げた。
「はっきり認識しなくてはいけないことは、福島第一原発の事故処理は、グローバルな問題だということだ。海洋汚染も子どもの健康被害も、これからますます顕在化する」と懸念する村田氏は、アメリカ西海岸で始まった1億人署名運動に言及。「日本では解決できないから、その署名を持って、オバマ大統領に福島第一原発の事故収束を嘆願する」と語った。また、他の西海岸の米住民が、これからアメリカに到達する福島の放射能汚染を「最大の地球の危機」として、連邦議会上院議員へ訴える署名運動を行なっていることなどを報告した。
人類が直面しているのは、文明の危機
そして、村田氏は「今の東電と政府では、事故の収束は達成できない。今、人類が直面しているのは、金融危機でも経済危機でもなく、文明の危機だ。それは、倫理の欠如からおこる。自分が4年前に提唱した『地球倫理国際日』(地球倫理の日)が、2014年3月11日に、世界ユネスコクラブ連盟で制定される予定で、私はワシントンの記念式典でスピーチをする」と報告した。
さらに、「マスコミが、その職務を果たしていないことは大きな問題だ。しかし、これから数々の真実が新たになり、今のままでは済まなくなる。その時に反省してもらえばいい。マスコミの記者も同じ人間だから、いつまでも真実を無視しているわけにはいかなくなる。同様に、経済界にも反省してもらいたい。個人的利益追求ばかりで、社会的使命を忘れている」と断じた。
最後に、「文明の定義は、倫理と連帯に基づき、環境と未来の世代の利益を尊重すること。民生軍事を問わない核廃絶を、発信する日本にならなくてはいけない。そのために、地球倫理を確立させる。国連地球倫理サミットを立ち上げ、助成機関を作り、核廃絶を達成させる、三位一体の体制を作る」と抱負を語り、講演を終えた。質疑応答では、日本におけるNGOとの連携の展望、核廃絶運動へのTPPの影響についてなどの質問が寄せられた。