「親愛なる襲撃者へ」~自分を襲った男に「一緒に働こう」と呼びかけた山内斉氏~岩上安身によるインタビュー 第456回 ゲスト 山内斉氏 2014.9.15

記事公開日:2014.9.23取材地: | | テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根)

 約1年前、ベルリン在住の日本人男性が、深夜のバス停で白人男性から「中国人、韓国人は嫌いだ」と絡まれ、暴行を受けた。それから2ヵ月後、ベルリンの地下鉄駅に変わった広告が登場した。「親愛なる襲撃者へ。あなたに仕事を提供したい」。広告を出したのは、暴行事件の被害者だった──。

 2014年9月15日、ドイツのベルリン市内で、山内斉(ひとし)氏に岩上安身がインタビューを行った。山内氏は、自分を襲った男に向けて、「一緒に働こう」と呼びかける広告を出した人物だ。

 山内氏は事件の概要を語る中で、「浮浪者や酔っぱらいなどが外国人を罵倒することはよくあるが、不気味だと思ったのは、その男が冷静で、普通の人だったこと」と話し、広告を出した理由を「問題を明確にするために、彼と会って話したいと思ったから」と述べた。

 「差別を許すことは、結局、自分に返ってくる。人を排除し、誰かの可能性を消すことは、回り回って自分の可能性も消してしまう」と語る山内氏は、日本で問題になっているヘイトスピーチについて、「日本の国力が弱まっている。その苛立ちの矛先が、差別に向かうのではないか」と話した。

■イントロ

  • 日時 2014年9月15日(月) 現地時間 20:00~/日本時間 27:00~
  • 場所 ドイツ・ベルリン

襲撃者は「普通の人」だった

 ドイツで暮らして14年になる山内氏は、コンピュータ会社に勤務するプログラマーである。2013年9月4日の夜、帰宅途中に遭遇した事件について、このように説明した。

 「深夜12時を過ぎた頃、ベルリン中央のクーフェルシュタンダムのバス停でひとりバスを待っていると、やせ形で背の高い、中年の白人男性が近づいてきて、ドイツ語で『中国人、韓国人は嫌いだ』と暴言を吐いた。ベルリンでは、たまにそういうことがあるので無視していると、『お前に言っているんだ』と英語でさらに罵倒され、突然、右目を殴られた」。

 身長160センチで、大人になってからはケンカをしたこともないという山内氏だが、眼鏡を飛ばされ、カッとなって男を追いかけて掴みかかったという。「その時は、不思議と痛さも怖さも感じなかった。通行人らが仲裁に入っている間に、男はどこかに行ってしまった」。目の周囲から激しく出血していた山内氏は、救急車で病院へ運ばれた。

 「あとから不気味だと思ったのは、その男が冷静だったこと。彼は酔っぱらいでもドラッグ常用者でもなく、身なりも普通だった。浮浪者などが外国人を罵倒することは多い。それでも、住みやすい街だったのだが」と山内氏は語り、怪我をした当時の自分の写真を見せた。

犯人へのメッセージを発信

 事件に釈然としなかったという山内氏は、「警察へ被害届を出して、傷害事件となった。警察は協力的だったが、犯人をはっきり見ていなかったので特定はできなかった。友人たちには『忘れろ』とアドバイスされたが、殴られて終わりというのでは納得できなかった」と話す。

 数日後、山内氏は犯人へのメッセージを書いたプラカードを作り、デモに参加した。そのデモは、ドイツ政府がインターネット規制を含むドイツ版NSAを作ることへの反対運動で、「恐れでなく自由を」という主張を掲げるものだった。

 山内氏は「ドイツでも、防犯カメラなどで監視を強めることに異論は多い。規制する側は、治安のためにと言うが、実際に私の事件でも監視カメラは役に立っていない」と語る。

 岩上安身が「ベルリンでは年間2500回、いろいろなデモが行われると聞いた」と言うと、山内氏は「自分も(ここで暮らして)意見をアピールできる性格になった」と話す。

 そして、ドイツ警察の市民デモに対する態度について、「警察はデモは人々の権利だと認め、参加する市民を助けてくれさえもする。それは、デモ隊がルールの範囲を超えたら容赦しないよ、という警察の自信の現れでもあるのだが」と述べて、日本の警察との違いを指摘した。

東日本大震災でボランティアを志す

 山内氏の作ったプラカードは求人広告の形をとり、怪我をした自分の写真を載せた上で、「外国人が嫌いだと言う、親愛なる襲撃者へ」と呼びかけ、「憎むことをやめて、子どもの教材を翻訳する仕事を一緒にやらないか」と誘う内容だ。それを背中に貼付けて、山内氏はデモに参加。また、その姿で毎日通勤し、ついには駅のスポット広告として出稿するに至る。

 岩上安身が、一連の行動の真意を尋ねると、山内氏は東日本大震災に言及した。「私は東北大学工学部で学び、仙台に10年住んでいたため、東北の大震災は他人事ではない。被災した友人もいる。自分にできるボランティアをしたいと思った」。

 教師の経験もある山内氏は、当初、スカイプを使って震災孤児の勉強を支援することを考えたという。「いろいろ模索したが、すぐには難しかった。そこで、ベルリンでできることをやろうと思い、こちらで勉強の遅れている子どもたちのために、教材の翻訳ボランティアを始めた」と語る。

 「本当に何かを解決するには、時間はかかるが、教育をしていくことが大切ではないか」という山内氏は、そのボランティアに参加しないかと、殴った相手に呼びかけたのだ。

人種差別が向こうからやってきた

 岩上安身が「山内さんの考えはわかったが、これはクセ球だ。犯人は、自分を捕まえるための罠だと思うのではないか」と言うと、山内氏はそれを認めつつも、「捕まえて報復しても意味がない」と応じ、こう続けた。

 「それまで人種差別については、あまり問題意識を持っていなかった。それが、否応なく向こうからやってきた。プログラマーは問題の解読に生き甲斐を感じるタイプが多いのだが、この問題の解決は難しい」。

 岩上安身が「この犯行には社会的背景があるのか、それとも個人的なものなのだろうか」と訊くと、山内氏は「人種差別かもしれないし、ほかの要因があるのかもしれない。彼の真意を知りたい。だから、まず会って、問題を明確化し、解決のために話をしたかった」と言う。

 また、「友人には『泥棒に追い銭だ』と揶揄されたが、もしかすると、ボランティアで人を助けたいという自分の考えと、彼の抱えているものが、どこかでリンクする部分があるかもしれない」と、今回の行動を自己分析した。

差別は、自分の首も絞める

 「自分が襲われたバス停に広告を出したかったが、経済的な理由で、地下鉄のクーフェルシュタンダム駅に11月から12月の2ヵ月間、床面スポット広告を出した」という山内氏。

 岩上安身から反響を尋ねられると、「最初は反応がなく、もう1ヵ月延長した時、地元メディアの取材を受けて、それがきっかけで東京中日新聞にも掲載された」と話し、「市民からは『もっとまともな人に仕事を提供すべきだ』と批判もされたが、メディアの反響は9割方は好意的だった。私が数学や教育の話もしたので、その記者は『レイシズムと数学』というタイトルで、面白い視点の記事を書いてくれた」と続けた。

 差別を許すことは、結局、自分に返ってくると山内氏は言う。「差別で人を排除し、誰かの可能性を消すことは、回り回って自分の可能性も消してしまう。私もこの国で、外国人でありながらチャンスをもらっているのだから、差別は見過ごせない」。

 岩上安身が「ドイツはネオナチが跋扈する国だと思ったが、外国人に対しても無償の教育プログラムがあるなど、機会が開かれている」と述べると、山内氏も「実力があればまったく問題ない。違法滞在でなければ社会保障も受けられる」と応じた。

 その一方で、どんなに社会制度がしっかりしていても、こぼれおちてしまう人たちもいると話し、「ベルリンのストリート・チルドレンに算数を教えることもやってみたい」と抱負を明かした。

「ベルーフ=仕事」は神から呼ばれるという意味

 話題は求人広告に戻り、山内氏は「問い合わせは数多くあったが、犯人は現れなかった。キリスト教会からの講演依頼もあったが、それは断った。今回の自分の行動に、宗教との接点はない。ただ、犯行の動機を知りたい。解決策を見つけて、自分と同じ目に遭う人を減らしたい」と述べた。

 岩上安身が「異文化の理解は、レイシズムの克服にも意味がある」と言うと、山内氏も同意し、「外国に出たことで、日本がよく見えるようになった。人間には表面的な違いがあるとしても、根底にあるものは同じ。日本語の『命』という文字には、天から与えられたもの、天職という意味がある。ドイツ語では『仕事』をベルーフというが、これも『神から呼ばれる、使命』という意味合いだ」と続けた。

 岩上安身は「では、この子ども向け教材の仕事は、山内さんにとって、まさにベルーフではないか」と水を向けると、山内氏は「まだ稼げないが、それを願う」と笑顔を見せた。

国力衰退、その時、苛立ちはヘイトスピーチに向かう

 日本で問題になっている民族差別的なヘイトデモ、ヘイトスピーチについて、岩上安身が感想を求めると、山内氏は「日本の国力は弱まっている。うまくいかない苛立ちの矛先が、そこに向かうのではないか」と述べて、次のような寓意的な話をした。

 「もし、プログラミングができる優秀な犬がいて、私の仕事を奪った時、実力で負けていても、私は『犬のくせに…』と言ってしまうかもしれない」。

 また、「同僚にとても優秀な女性エンジニアがいて、私は初めて敗北感を味わった。その時、無意識に女性を見下していた自分にも気づいた。今は意識も変わって、職場で協力し合っている。くだらないプライドは邪魔になることを知った」と語った。

「謝ること」で経済効果を上げるしたたかなドイツ

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「「親愛なる襲撃者へ」~自分を襲った男に「一緒に働こう」と呼びかけた山内斉氏~岩上安身によるインタビュー 第456回 ゲスト 山内斉氏」への2件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    岩上安身による、自分を襲った男に「一緒に働こう」と呼び掛ける広告を出稿した山内斉氏インタビュー(動画) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/170633 … @iwakamiyasumi 人種差別という闇をかき消す光がここにある。本当に強い男は優しい男ということなのだろう。見習います。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/515091890987749376

  2. @mkshigaさん(ツイッターのご意見) より:

    岩上安身による自分を襲った男に「一緒に働こう」と呼び掛ける広告を出稿した山内斉氏インタビュー http://iwj.co.jp/wj/open/archives/170633 … @iwakamiyasumi ドイツと日本の違いがよくわかるインタビュー 安倍政権の歴史認識を日本がこれからも続ければ衰退し続けるだろう
    https://twitter.com/mkshiga/status/515101830305443840

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