「こんな状況で、本当に原発再稼働は必要なのか」桜井勝延・南相馬市長が現在進行形の災害関連死の実態を報告 2014.9.2

記事公開日:2014.9.10取材地: テキスト動画
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(IWJ・平川啓子)

特集 3.11

 本来亡くなるはずではなかった命が、災害関連死で失われる。この無念な事態を減らすために、どのような取り組みが求められるのか。9月2日13時より、弁護士会館において、シンポジウム「災害関連死を考える」が開催され、福島県南相馬市長の桜井勝延氏が、同市の復興の現状と課題について基調講演を行った。

 桜井市長は、福島第1原発第1号機が水素爆発した際の避難指示について言及。「原発が爆発をするという情報を東京電力は当然知っていたはずだし、大熊町や双葉町に関しては爆発前に国がバスを調達して避難をさせた。国がそれほど異常な事態を察知していたということである」と述べ、国の責任を追及した。

 南相馬市は10km圏外だったので協定を結んでおらず、事故当時、東電から避難指示などの連絡が来なかった。東電が初めて挨拶に来たのは、東電は21日と主張しているが、桜井市長の記憶では10日後の22日だったという。杜撰な対応は、10km圏外に限った話ではない。原発から10km圏内の浪江町は協定を結んでいたにも関わらず、事故当時に連絡が来なかった。

 「3月14日には福島第1原発第3号機が爆発。3月17日から私の判断で住民を新潟方面へバスで避難をさせた。ほぼ全ての住民に避難を呼びかけた後になって、東電はノコノコとやってきた。20km圏の避難区域内に1万4千人が住んでいる南相馬市に対して、避難指示の文書がないこともわかった」と、桜井市長は当時の政府や東電の対応について批判した。

■ハイライト

  • 基調講演 「南相馬市の現況と復興に向けて」 桜井勝延氏(南相馬市長)
  • 基調報告1 「南相馬市の仮設住宅における福祉・医療と災害関連死」 原澤慶太郎氏(元南相馬市立総合病院医師)
  • 基調報告2 「南相馬市における障がい者支援と災害関連死」 青田由幸氏(NPO法人さぽーとセンターぴあ代表理事)
  • パネルディスカッション 「教訓を活かすために 災害関連死を考える」
    パネリスト 原澤慶太郎氏、青田由幸氏、小口幸人氏(弁護士、元宮古ひまわり基金法律事務所、前山田町災害弔慰金支給審査委員会副委員長)
    コーディネーター 岡本正氏(弁護士、日本弁護士連合会災害復興支援委員会幹事)

南相馬市における災害関連死

 人口が多く面積も広い南相馬市は、災害関連死も多く発生した。平成26年6月18日現在の南相馬市の震災による死亡者数は、1094人。そのうち津波等による直接死が636人。原発事故によって避難させられたのち亡くなった、災害関連死が458人である。そのうち1年以内で亡くなった方は407人。以後、認定される数は極端に減ってきている。

 年代は70〜90代が多い。桜井市長は震災後の医療機関の稼働状況を紹介。「精神病棟含め1300床あった南相馬市の入院ベッド数が、原発から30km圏内ということで、ゼロにされた。33kmの地点にあった病院も30kmとみなされ、入院患者を置いてはならないことになり、入院患者が死に至った」

 「介護施設も同様で、入居者全員が退避させられた。特老自らが避難先を見つけなければならない状況に追い込まれたことで、高齢者が短い時間の中で命を落とすことにつながった」

 桜井市長は、原発から30km圏内という線引きによって、医療機関や介護施設が機能しなくなったことが、南相馬市における災害関連死の原因であると指摘した。

復興を妨げる、若い世代の人口流出

 現在、政府が再稼働を急いでいる川内原発は、避難計画を国が支援する方向で動いている。「全国の原発から30km圏内の地域は、すべて自治体が避難計画を作ることになっている。なぜ川内原発周辺だけ、国が支援する話が突然出てくるのか。川内原発を再稼働させたいからということが一目瞭然である」と桜井市長は断じる。

 再稼働の問題とは別に、福島の状況について続けた。「15歳〜65歳の生産人口が流出してしまい、復興の妨げになっている。高齢者は南相馬市に戻る人が増えているが、子どもを持つ若い世代が放射能に対する不安により戻ってこられない。交通も東京方面の導線に関して、不自由な状況に追い込まれている」と、南相馬市の現況と問題点ついて挙げた。

 さらに桜井市長は学校の再開、除染について語った。

 「学校に関しては、4月22日時点では30km圏外でしか再開できなかったが、南相馬市が単独で除染をして9月以降に緊急時避難区域の指定が解除され、戻れる状況を作った。政権がどこであれ、原発政策は国が主導してきたのだから、避難指示を出した以上は国が面倒見るべきなのではないか」

 国が、当然負うべき責任を放棄していることを指摘した桜井市長は、他方で支援を申し出た泉田新潟県知事について触れ、当時を振り返った。

 「住民の避難を決断したのは私の独断もあるが、一方で、福島県知事から連絡も来ていない3月16日に、新潟県の泉田知事が、南相馬市の住民全員の避難受け入れを申し出てくれたから決断できた」

災害関連死を増やさないためには、避難者を元の生活に戻してあげる努力が必要

 「原発事故が起こると、あらゆる機能が停止し、コミュニティーも崩壊する。復興にどれだけのエネルギーを要するのか。金の賠償も必要だが、人を賠償してほしい。『人をよこせ』と東電にも言った」

 事故時の必要な対応についてこう語る桜井市長は、現場の感覚に基づいたケアが行われているかが重要であることを強調した。

 「自治体に全ての金と権限をよこしてもらえれば、私たちは最大のことをやりきることができる。霞ヶ関の職員も一生懸命やっているが、人事異動が頻繁に行われ、そのたびに現場の説明をしている。今赴任してきた人が、震災から今までの状況を理解することはできないと思う。高齢者に希望を持たせ、自分の生活していたところに戻してあげる努力が必要。そうしないと、亡くなる人はもっと増える」

 一度の事故で、多岐にわたる問題が長年にわたり多くの人を苦しめることを訴えた桜井市長は、そのうえで、本当に原発再稼働は必要なのか? と問いかける。

 「こうした状況の中、原発再稼働は必要なのか。事故が起きてもいいのか。こんなに危ないエネルギーに頼っていてもいいのか。この原発事故から、人の暮らし方の問題、人のいのちの問題、日本のあり方をみんなが議論して、安心できる国にしていくべきではないか」

ACP(Advance Care Planning)で対話を

 次に登壇した元南相馬市立総合病院医師の原澤慶太郎氏は、「災害関連死はゼロにはならないが、減らすことはできるかもしれない」という観点から基調報告を行った。

 野村周平氏の論文「福島原子力発電所事故後の高齢者の避難による死亡リスクに関する研究」より、避難後の死亡率が避難前に比べて2.7倍増加したことを紹介。死亡率は避難プロセスや施設のケア状況に影響される。避難距離と死亡リスクの関連は低いが、初回の避難による死亡リスクは2回目以降の避難より高かったという。

 災害弱者は高齢者だけではない。広い意味での災害関連死をイメージしていくツールとして、原澤医師はACP(Advance Care Planning)を提案した。

 ACPは欧米で「終末期における意思決定のプロセス」を意味する言葉だ。原澤医師は、「私たちはそれを防災や震災の避難に絡め、有事における行動指標を考えていくことを指す。災害や病気といったライフイベントについて、平時のときから対話をしていくことを当たり前の文化にしたい」と述べた。

要介護者を救った、非常時における個人情報開示

 次に基調報告を行ったNPO法人さぽーとセンターぴあ代表理事の青田由幸氏は、障害者の支援に携わった立場から語った。

 「南相馬市では震災から半年間、市内に残った約1万人の要介護者・障害者とその家族からは、病死以外の原因(餓死や薬が切れたこと)で亡くなった人が出なかった。市長が要介護者・障害者の自立支援の情報を開示し、支援する人たちとつなげたことが要因である。その仕組みができれば、災害関連死は抑えられる」

 外部から人間や食料が入ってこない孤立状態において、避難が難しい人間が1万人出る。青田氏が障害者の自宅をローラー作戦で1件1件たずねたところ、障害者手帳保持者の3割が自宅に残っており、あとの3〜4割は避難していたという。そして、「残りの3割は避難と帰宅を繰り返す過程で居場所がわからなくなったが、この人たちの情報を掴まないと、孤立してしまうため、5回6回と訪問し、いざというときの連絡先を伝えた」と振り返った。

 福祉サービスを利用していない人たちが、支援からもれてしまう問題もある。「大規模災害で地域のコミュニティーが崩壊し、安否確認が困難な場合、災害関連死につながる恐れがある。災害関連死を1件でも減らす仕組みが必要である」と青田氏は述べた。

求められる申請のサポート、審査方法の見直し

 パネルディスカッション「教訓を活かすために災害関連死を考える」では、パネリストとして原澤医師、青田氏に加え、小口幸人弁護士が参加。コーディネーターの岡本正弁護士の進行で議論が行われた。

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