福島での鼻血は、放射線被曝によるものなのか。漫画「美味しんぼ」でその描写がされたとき、「根拠がない」「風評被害の原因となる」との批判が巻き起こったことは記憶に新しい。
しかし、そう言い切ってはいけない、と東神戸診療所所長・郷地秀夫氏は声をあげる。「放射線の影響がまったく関係ないと否定できないかぎりは、可能性があることを前提する必要がある」。7月12日には、福島においても、放射線被曝による影響で鼻血が出る可能性があることを示唆する論文を発表。注目を集めた。
郷地氏は、広島・長崎の被爆者の治療を35年間続け、また、原爆症認定集団訴訟の支援にも関わってきた。3.11後は、福島からの避難者に対する健康相談にも積極的に応じている。
7月25日、郷地氏は岩上安身のインタビューに応じ、鼻血の原因である可能性がある内部被曝のメカニズムを詳細に解説。明確に放射線と無関係と証明されない症状に関しては、放射線障害の可能性を検証するべきだ、という自身の立場を語った。
どちらが「風評」を生み出しているのか
福島原発事故に関して鼻血と放射線被曝との間に因果関係がない、と説明があるときに、一度の大量被曝による骨髄障害が例示されることが多い。骨髄細胞が一度に500mSv以上の被曝を受けると、血小板が減少し出血が止まりにくくなる。 一方で、調査されている福島県での被災者の被爆線量は、20mSv以下。骨髄障害の原因となるような被爆線量ではない。したがって、福島では鼻血の原因にとなるような放射線被曝はなかった、とするものだ。
しかし、これはあくまで、一度の大量被曝だけを鼻血の原因とした場合にのみ当てはまる説明だといえないだろうか。ある「しきい値」を越えた大量被曝によって急性放射線障害が起きない限り、鼻血は出ないのだと受取られやすい説明だともいえる。
一方、7月12日に行われた郷地氏と橘真矢氏(東神戸病院・放射線科)との共同発表では、「リスク評価には、あくまで個人被曝線量が使用されるべきで、個人被曝線量は、個々によって異なるため、被曝状況、形態などを個別に考慮する必要がある」という立場を取る。
発表では、鼻血の原因となりうる被曝の形態として、「放射性粒子による接触内部被曝」を挙げている。これは、飛散する放射性粒子が鼻粘膜に付着し、接触状態が維持されて被曝するというもの。筑波の気象研究所の調査では、福島第一原発の事故直後に、鉄、亜鉛およびマンガンを含む放射性セシウム粒子が放出されたことが明らかとなっている。
郷地氏は、この粒子が鼻粘膜に一日付着したケースを想定し、被爆線量の計算をおこなった。その結果、血管に対する100mSv以上の被曝が予想され、鼻血を引き起こした説明がつくという。
郷地氏らの発表では、この数字を低線量とみなすことはできないとし、「福島原発事故による放射線は相当量の鼻粘膜の被曝を起こした可能性があり、鼻血の原因になっているかもしれない」と結論づけている。
被曝医療に取り組む動機
郷地先生が何度も繰り返し指摘されているので、私も復唱します。
『緊急被ばく医療ポケットブック』には、原発事故時には緊急マニュアルに粒子被曝を含めた検査として鼻腔スメア、スワプ法があるのですが、そのデーターが存在ていないそうです。
検査をしていないのか、データーを開示していないだけなのか・・。