「愚かな国民には、愚かな政府。安倍政権の暴走は自民党に投票する者がいるからだ」 〜小出裕章氏講演会 2014.6.18

記事公開日:2014.6.18取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「今の日本では、オリンピックに反対する人間は非国民のように言われる。しかし、福島の事故をなかったことにして、被災者を見捨てるような、こんな国なら、私は喜んで非国民になろう。そうやって抵抗しなければ、戦後が戦前になる日も近い」──。

 2014年6月18日、沖縄県那覇市の沖縄大学で、沖縄大学創立56周年記念事業の一環として、京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏が「原子力と核 〜戦後世界が戦前に変わる日」と題した講演を行った。3時間近くにわたった講演は2部に分かれ、広島と長崎の原爆、原子力発電の仕組み、福島原発事故での放射能汚染とその危険性、日本政府の核開発の実態などが語られた。さらに小出氏は、原発と同じように、基地を押し付けられた沖縄についても言及した。

 「沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落した時、ストロンチウム90を搭載していたので、米軍は現場を封鎖した。大学関係者も閉め出され、日本の警察は、日本人ではなく米軍を守るために警備をした。日本に主権はない」。

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  • 講演 小出裕章氏(京都大学原子炉実験所助教)

信じた原発の未来「電気代が2000分の1、都会の地下室で発電」

 まず、沖縄大学学長の仲地博氏が、「沖縄大学の理念は、地域の共創。今、原発を押しつけられた福島と、基地を押しつけられた沖縄の共通点が浮かび上がっている」と述べ、原発問題と基地問題のつながりを示唆した。

 小出裕章氏が登壇し、ポツダム会議と同日の1945年7月16日、アメリカが成功させた人類最初の原爆「トリニティ」の話から、講演の口火を切った。

 そして、「2つ目の原爆は、広島に落とされた」と述べて、原子力発電について解説した毎日新聞の記事(1954年7月2日付)を紹介した。「そこには『原子力発電は、石炭に比べて莫大なエネルギーを持ち、電気料金は2000分の1になる。都会のビルディングの地下室が発電所になる』と書いていた。それを自分も信じた。しかし、まったくのウソだった」。

原子力発電は効率の悪い蒸気機関だ

 小出氏は「原子力発電は、効率の悪い蒸気機関」と言明し、その仕組みを説明。広島原爆ではウラン800グラムが使われたこと、100万キロワット規模の原発1基を1年間稼働させるためにはウラン燃料1トンが必要で、同量の核分裂生成物が発生することなどを語った。そして、「原発施設は過疎地に押しつけられた」と地図を示し、福島第一原発事故の話に移った。

 Mark1型格納容器の断面図のスライドを見せ、「炉内には、広島原爆1000発分の放射性物質が溜まり、発熱は続いている。そのため、常に冷却し続けなければならない」と解説し、次のように続けた。「民主党政権時、当時の野田首相が『事故収束宣言』を出したが、まったく収束していない。1~3号機の炉心は溶け落ちているが、どこにあるかは、わからない。ひたすら水を注入し続けるが、汚染水があふれている」。

 「毎日400トンの冷却水を流し続けて、40万トンの汚染水が溜まってしまった。いずれ、海に流すことになるだろう。また、敷地の地下にはトンネルが縦横に走っていて、地震でひび割れ、至るところに汚染水が漏れ出ているだろう」と推測した。

事故で放出した放射能物質は4.7キログラム

 小出氏は「国が、IAEAへ提出した報告書では、セシウム137は広島原爆の168発分を大気中に放出した、と言っている。海洋への放出は未報告。放射性物質は偏西風に乗って太平洋へ流れた。そして、政府は半径20キロ範囲内の住民だけを避難させた。同心円上で避難範囲を検討していたが、風向きで、まったく汚染が変わったのだ」と話す。

 「福島の中通りもプルームが流れて汚染された。そして、群馬県の西半分、埼玉県西部、東京の奥多摩などを汚染していった。この地域一帯は、1平方メートルあたり4万ベクレル相当で、通常は研究者しか出入りできない放射線管理区域に匹敵する」。

 「国の報告書では、大気中に放出されたセシウム137は、1.5 x10の16乗ベクレル。星稜女子短期大学の沢野伸浩氏は、陸地に降下したセシウム137は、2.4×1.5 x10の15乗ベクレルと試算。重量に換算すると、放出した放射能物質は4.7キログラム。陸地に降り注いだのは750gだ」とデータを示しながら、放射能汚染の状況を解説した。

法律を守るのは国家の最低限の義務

 小出氏は「日本は法治国家だと思ってきた。国民が法律を破ると処罰する。ならば、法律を守るのは、国家の最低限の義務だろう。福島原発事故を引き起こした、最大の犯罪者は政府だ。国が安全の根拠にしているICRPの2007年勧告では、約100ミリシーベルト以下でも、がん発症や遺伝的影響の原因になるなど、低線量被曝の因果関係を認めている。『100ミリシーベルト以下の被曝なら安全』と言う学者は、刑務所にいれるべきだ」と強い口調で指摘した。

 さらに、放射線がん死の年齢依存性から、子どもへの被曝の影響は非常に大きいことを指摘した。「政府基準での、がん死の発生率は、一般人の限度である年間1ミリシーベルトでは2500人に1人。放射線業務従事者(年間20ミリシーベルト)は125人に1人。福島原発事故の収束作業にあたる労働者(1回の作業の上限が250ミリシーベルト)では、10人に1人のがん発生率となる。そして、国が定めた避難指示区域では、放射線業務従事者と同じ、年間20ミリシーベルトを子どもにも適用する。そこで暮らす0歳児のがん発生率は31人に1人。とても、許すことはできない」。

 「しかし、国は、この事故を忘れさせようと策謀を進めている。自民党は、まったく責任をとらない。それどころか、安全だと言い続け、再稼働を進め、輸出を企む。福島原発事故が起きた今、私たちは、未来の子どもたちからきっと問われる。では、どうやって生きるべきか。自分は被曝をしても、子どもたちは守ろう」。

自衛のための核兵器は持てる、というのが政府見解

 休憩後、長崎原爆のスライドから講演は再開した。小出氏は、アメリカのマンハッタン計画を解説。「広島原爆はウラン鉱脈に0.7%しかないウラン235で作り、長崎原爆の爆薬はプルトニウム。99.3%あるウラン238に中性子を当てるとプルトニウムができる。その原爆製造の3つの中心技術は、ウラン濃縮、原子炉、再処理だ」。

 そして、NHKの『核を求めた日本 ~被爆国の知られざる真実~』という番組で、元外交官の故村田良平氏が、有事での核武装の可能性を示唆したことを紹介。「1969年の外交政策大綱でも、『常に核兵器の技術は保持しておく。また、それが、国益になると国民に周知させておく』と言及している。自衛のためには核兵器は持てるというのが、政府の公式見解だ」と話した。

軍事用語と平和利用で使い分ける「Nuclear」

 さらに、「2012年6月20日には、原子力基本法改定で、第2条に『我が国の安全保障に資することを目的とし』という一文をこっそり入れ込んだ」と指摘し、「Nuclearという言葉は、核とも原子力とも訳し、核は軍事用語に、原子力は平和利用の意味に使い分け、別ものと思い込まされてきた。Nuclear Developmentは、北朝鮮、イランが言うと核開発で、日本では、原子力開発となる」と続けた。

 「国連常任理事国の米、仏、英、ロシア、中国の5ヵ国は、戦勝国で核兵器保有国でもある。NPT(核拡散防止条約)を作って核の独占に努めるが、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮も核兵器を保有した。ただし、ウラン濃縮、再処理工場、原子炉、核兵器技術を持っているのは、世界中で日本だけだ」とも言う。

戦後世代のはずが、もはや「戦前世代」に

 小出氏は話題を変えて、沖縄について話した。「沖縄に、戦後はあったのか」と問いかけ、「地上戦で壊滅され、敗戦で見捨てられた。それは、昭和天皇が防共の目的で、米軍に沖縄を差し出したから。国土の0.6%(沖縄)に、在日米軍基地の74%が集中。本土が戦争特需で沸く時も、沖縄は出陣基地に使われた。非核三原則もウソだった」と語った。

 沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故(2004年)の写真を見せた小出氏は、「米軍はヘリコプターのブレード(翼)の亀裂チェック用にストロンチウム90を搭載していたので、現場を封鎖。ヘリの残骸も、墜落現場の土も、はぎ取って持ち去った。日本の警察は、その米軍の作業を守った。日本には主権はない。属国だ」と嘆いた。

 「自分は戦後世代だが、もはや『戦前世代』になりつつある。愚かな国民には、愚かな政府。安倍首相は、特定秘密保護法、武器輸出三原則の撤廃、集団的自衛権行使の容認、憲法改悪と、戦争への道を一気に突き進んでいる。それは、自民党に投票する国民がいるからだ」と述べて、講演を終えた。その後の質疑応答では、食の安全、米軍跡地に計画している放射線医療施設の危険性、北朝鮮の核保有の実態など、多くの質問が寄せられた。

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「「愚かな国民には、愚かな政府。安倍政権の暴走は自民党に投票する者がいるからだ」 〜小出裕章氏講演会」への3件のフィードバック

  1. @maccrosskeさん(ツイッターのご意見より) より:

    小出裕章氏講演会~小出氏の原子力に対する思いを判りやすく講演!

  2. @yokoblueplanet1さん(ツイッターのご意見より) より:

    「今の日本では、オリンピックに反対する人間は非国民のように言われる。

  3. 春日順哉 より:

    マスコミでは決して報道されない真実
    経済至上主義のもとに画策されたものは、日本国民を貶める目に見えない恐怖政治です
    国民を愚弄する自民党政治、しかしこの国を憂いているばかりでは未来がありません
    私たちは真実を知り、どう行動するべきかの判断を持ちません

    IWJの取材には国民の知る権利は勿論、誠実かつ丁寧な報道姿勢に共感します
    広く国民が適切な判断を行なうことが出来るよう、今後のIWJの報道に期待します

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