7月中旬、国連ジュネーブ本部で開かれる自由権規約委員会で、昨年12月に成立した日本の「特定秘密保護法」が審査にかけられる。これまで、国連人権機関のトップであるナビ・ピレイ高等弁務官ほか、国連人権理事会特別報告者のフランク・ラ・ルー氏らがそれぞれ、「何が秘密を構成するかが曖昧」「機密に関して報道するジャーナリストにとっても深刻な脅威を含んでいる」と、同法をめぐる懸念を表明してきた。外務省には条約の公式英訳の提出と対話の場を求めてきたが、日本政府はこの要求に対し、いまだにきちんと対応していない。英訳の作成も引き伸ばしたままだという。
「日本政府が批准し、拘束の元にある『自由権規約』に反しているという、委員会の勧告を勝ちとりたい」
これまで、特定秘密保護法の問題点を指摘してきた、英エセックス大人権センター研究員の藤田早苗氏がイギリスから一時帰国しているタイミングで、6月17日、日弁連主催で緊急報告会が開かれた。日弁連の海渡雄一弁護士は報告会の場で、「自由権規約に反しているという勧告を7月の委員会の場で勝ち取ることができれば、日本政府は勧告に対し、回答する義務を負う」と話し、公布から1年以内に施行される同法の問題点を浮き彫りにし、大きな議論を展開できると期待する。
日弁連を始め、ヒューマンライツ・ナウやアムネスティ・インターナショナル日本など、国内のNGO団体は、秘密保護法にまつわるカウンターレポートを委員会に提出するため準備を進めている。
- 発言 藤田早苗氏(英国エセックス大学人権センター研究員)、海渡雄一氏(弁護士)ほか、議員、メディアなど
- 国連・表現の自由特別報告者のラ・ルー氏によるビデオメッセージ(2014年3月収録)上映
自由権規約は国内法より上位にくる
「自由権規約」とは、「市民的、政治的権利に関する国際規約」のことであり、表現の自由、生命に対する権利、拷問や残虐な刑の禁止、外国人の追放の制限など、最も基本的な国際人権条約のひとつで、日本は1979年に批准している。
秘密保護法が違反しているのは、同規約の19条2項。ここでは、「すべての者は、表現の自由についての権利を有する」、「あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む」と規定され、ツワネ原則でも提唱されている、情報は「まずは公開を前提とすべし」が大原則である。
国際条約である「自由権規約」は、国内法より上位にくるとされている。日本国憲法98条2項では、「日本が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」とされ、条約に反する国内法は、改定または廃止する必要があると藤田氏は指摘する。
「日本政府はそれを知っているが、平気で国連の勧告を無視する」——
藤田氏は、情報公開請求で黒塗りの資料を平気で提出してくる日本は、秘密保護法に限らず、情報公開制度そのものに問題があると指摘。日本の民主主義の危うさを懸念する声が海外では多くなっていると藤田氏は話し、「日本は世界から孤立してきているように感じる」と語った。
理由と必要性証明の原則
情報公開を大前提に考える「自由権規約」だが、他方、19条の3項では、情報へのアクセスに制限を課すことも許している。公開することによって重大な損害が生じる場合があるからだ。しかし、制限するには、制限する理由を明確にし、必要性を証明することを3項は求めており、情報を制限する「利益」が「損害」を上回ることを証明しなければならない。
また、何が利益で何が損害か、それを判断するのは、独立した機関が行うべきとされている。秘密保護法は、秘密にする対象はもちろんのこと、なぜ秘密にするか、秘密にする必要性も納得がいく説明を何1つしていない政府は、2項および、3項も遵守してないと藤田氏は説明した。
憲法で国際条約は誠実に遵守する必要があるとされているが、安倍政権はそもそも憲法を軽視している。7月の自由権規約委員会で、国際社会が日本の秘密保護法をどう審査するのか注目が集まる。
ラ・ルー氏からビデオメッセージ「秘密保護法は遺物にすべき」