国民無視の「強行採決」 秘密保護法の先にある「米国の軍事属国化」(岩上安身のニュースのトリセツ) 2013.12.3

記事公開日:2013.12.3 テキスト
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「戦争が 廊下の奥に 立っていた」。

 これは11月28日にインタビューした山田正彦元農水相が、私に紹介してくれた渡辺白泉という俳人の句です。幽霊のように、戦争が音もなく忍び寄ってくる、日本の政治状況を詠んでいる。ホラー映画のような怖さ、薄気味悪さが漂いますが、しかし現在の日本は、もはやこんなひっそりとした状況ではないかもしれません。もっとあわただしく戦争準備へと駆け込もうとしているかのように思われます。

「戦争が 廊下の奥から 駆けてくる」。

 私が、現状はこんな感じではないか、と言うと、山田氏はすかさずこう応じました。

「戦争は 茶の間の中に 入ってる」。

 冗談ではなく、もう炬燵の中に入ってくる直前かもしれません。私たちはもうすぐ「戦争」に密着され、抱きつかれようとしています。「戦争」と一体化するとは、社会が戦時体制下になるということ。稀代の悪法・特定秘密保護法の制定は、その始まりです。

強行採決 無視された福島の声

 11月26日午前11時15分、衆議院の特別委員会で「特定秘密保護法案」が強行採決され、自民・公明・みんなの党の賛成起立多数で可決。そして同日、午後20時過ぎ、衆議院本会議においても、自民・公明・みんなの党の賛成起立多数で可決され、翌日、参議院で審議入りしました。

 12月6日の今国会の会期末までにこの法案を成立させることが、与党・政府のもくろみです。

 26日は国会周辺に朝早くから大勢の市民が駆けつけ、法案に反対する抗議行動を行い、衆議院本会議で可決された後も、「採決撤回!」のシュプレヒコールがあがり続けました。IWJは朝8時から夜9時40分まで、断続的に続いたこの抗議行動の模様を中継し続けました。

 衆院可決の前日、11月25日には福島県福島市で「特定秘密保護法案」に関する地方公聴会が行われました。県内の首長、学者、弁護士ら7人の意見陳述者の全員が反対を表明しました。公聴会では、「全国で地方公聴会を開催し、被災地を含めた地方の意見、もっと多くの国民の声を拾ってほしい」などの強い要望があがりました。

 この模様もIWJは中継と録画配信を行い、連続して100以上の連投ツイートで実況し、即日、詳細な記事をアップして報じました。

 この公聴会は、議論の始まりに過ぎない。ここを起点に特定秘密保護法の危険性や問題点が広く周知され、本格的な議論が展開されなくてはならない。そのためにこそ、もともとはメディアに対してクローズドだったこの公聴会に中継記者を送り込み、当初は予定になかった中継もねじ込むようにして行い、連投で実況を行う記者も配置してIWJとして、全力をあげて伝えたのです。

 しかしその翌日の26日、政府・自民党はたった2時間の質疑のみで、採決を強行してしまいました。

 本会議では、生活の党・玉城デニー議員が福島の公聴会について触れ、「国民の意見を聴取する機会をできる限り持つことが、必要かつ重要な民主的議論のための手続きである。国会日程を優先させるがために、慎重な審議を求める国民の願いを振り払うということは、政府与党のまさにおごり・高ぶり・横暴ぶりが国権の最高機関の権威をも汚すものだ」と反対の演説を行ったのですが、その直後に、あざ笑うかのように採決が強行されたのでした。

 いったい、福島で行われた公聴会は何だったのか。単なるアリバイ作りに過ぎなかったのではないか。公聴会であがった声を完全に無視して、翌日十分な議論もせずに採決を強行するというのは、あまりにも国民を愚弄した話ではないか。そう言わざるをえません。

形式だけの修正協議

 強行採決に至ったこの法案は、政府与党の出した原案に対し、みんなの党、日本維新の会の出した修正案を盛り込んだ「4党修正案」として26日午前に緊急上程されたものです。つまり福島の公聴会での意見を踏まえていないどころか、この修正案の審議もほとんど行われないままの採決だったのです。通常、採決前に行う討論も行われませんでした。

 なぜここまで拙速かつ強行に採決が行われたのか。それは、みんなの党、維新の会の両党以外の野党(共産党、生活の党、社民党)や数多くの法律家、ジャーナリスト、海外メディアなどが、再三指摘してきた同法案の根本的な問題点が、全く修正されていなかったためであり、審議が進めば進むほど、その問題点が浮き彫りになってしまい、ぼんやりとしていた世間にも、この法案の危険性の認識が、拡散してゆくからです。

 中身が知れ渡れば、こんなとんでもない法案に賛成するものは誰もいなくなる。そんな事態を避けるために、なんとしてでも12月6日の国会会期末までに法案を成立させようと、政府・与党は大あわてで、採決を強行したというわけです。政府・与党には、明らかに焦りがみられます。隠しきれないやましさがにじみ出ています。

 この法案は、重要な政府の情報を、「誰が」「いつ」「何を」「どのような判断基準で」「いつまで」特定秘密に指定するのか、すべてが「秘密」にされ、国民に開示されません。秘密とされた文書の保全の規定もなし。違反の容疑がかかった人物への公正な捜査や裁判の手続きについても不明点だらけ。公益通報者の保護もなく、良心にもとづくジャーナリストの告発への免責もない。

 百歩譲って(譲る必要はまったくありませんが)、仮に安全保障上の秘密保持の必要性を認めるとしても、政府の恣意的な情報隠蔽や、不正・不当な取り締まり、権力の乱用を防ぐために、その妥当性をチェックする「第三者機関」の設置は絶対に必要になります。

 修正協議を行った日本維新の会は「第三者機関の設置で合意した」と強調しましたが、安倍総理は26日の衆議院の質疑で「設置すべく努力する」「私は設置すべきだと考えている」という回答にとどまりました。

 さらにその「第三者機関」に法的権限を与えるかについて、安倍総理は同じく26日の衆議院の答弁で、「法案成立後、必要な検討を開始する」と述べたのです。「第三者機関の設置はするけれど、そこに法的権限を持たせるかどうかは、法案が成立してから『検討』する」ということです。

 つまり、現時点できちんとした第三者によるチェック体制は保証も確約もされていない、単なる空手形なのです。約束はしないが、法案は成立させよ、ということは、その約束は守られない、ということに他なりません。いいオトナならば誰にでもわかることです。

「総理=チェック機関」という矛盾

 25日に外国特派員協会で記者会見を行った、みんなの党の渡辺喜美代表はこの第三者機関について、「国民の代表である総理大臣が、特定秘密指定の監督・検証を行うこと」を自民党が修正案に盛り込んだことをもって、「政府与党の対応を高く評価する」などと、手放しで礼賛しました(この模様もIWJは中継・実況をしています 。

 この25日の時点での渡辺代表の会見は、翌日の国会での強行採決の露払いとして、タイミングを見計らい、周到にセットされていたものなのでしょう。

 実際、26日の衆議院では安倍総理自身が「首相が特定秘密の指定、解除等について、チェック機関としての役割を果たす」と答弁しました。渡辺代表の発言と、ぴったり息をあわせています。

 しかし、「総理大臣を第三者機関とする」など、こんなトンチンカンな話はありません。この法案において、特定秘密に指定する権限を持つ「行政機関の長」の中には、「内閣総理大臣」も含まれているのです。つまり秘密指定をする権力の当事者が、チェックを行う第三者機関も兼ねるということになる。一人二役。それでは「第三者機関」としての独立性を保持することはできません。

 そしてこれは、前号でも紹介した国際的な指針である「ツワネ原則」にも反しています。「ツワネ原則」には、政府から独立した「第三者機関」の設置と、その機関に法的権限を与える必要性が記載されています。

 しかし、この「ツワネ原則」について26日の衆議院で質問された安倍総理は、「ツワネ原則は私的機関が発表したもので、国際原則としてオーソライズ(公認)されたものではない。現時点でその意義について評価することは適切ではない」と言い放ちました。「私的機関だから、その理念も無視してよい」というのは、国際社会における知的議論の集積を侮っているか、無知なのか。そのいずれか、もしくは両方なのかもしれません。

 前号の「ニュースのトリセツ」でも詳しく論じましたが、「ツワネ原則」は世界70カ国以上、国連関係者をはじめ、500人を超える専門家が2年以上にわたり協議して作成した、国際社会の情報公開と安全保障のバランスを考える叡智の結晶です。

 26日、強行採決後に記者会見した海渡雄一弁護士(日弁連前事務総長)は、「民主主義国家にはあるまじき暴挙。ツワネ原則無視で、安倍総理は世界の笑いものになる」と痛烈に批判しました。(11月13日、私の取材に応じて、海渡弁護士が「ツワネ原則」について解説したインタビューは、必見・必聴です。

 このインタビューの全テキストは、「IWJ特報!」で掲載します。メルマガ登録はこちら。

海外からも厳しい批判の声

 実際、この「世界の笑いもの」である法案に対し、海外からも次々に批判の声が高まっています。

 11月21日、国連の人権理事会の特別報告者2名が、この法案に懸念を表明し、日本政府に透明性を確保するよう要請したのです。

 表現の自由に関する特別報告者であるフランク・ラ・ルー氏は、「法案は極めて広範囲で曖昧」としたうえで、「内部告発者やジャーナリストに重大な脅威をはらんでいる」と法案を批判。「公共に関わる情報を秘密にするのは、公開するより公益性が上回る場合だけであり、その場合でも独立機関による審査が不可欠だ」と主張しました。

 また、「ジャーナリストや個人が、公益のためと信じて情報を公にした時、他の個人を差し迫った危険にさらさない限り、いかなる処罰も受けてはならない」と、勇気をもって内部告発を行った者、公益のために真実を公にしたジャーナリストは守らなくてはならないと訴えたのです。傾聴すべき卓見です。

 また、11月23日には、米国防総省やNSC(国家安全保障会議)の高官を務めた安全保障の専門家、モートン・ハルペリン氏は安倍政権のこの法案をめぐる姿勢について共同通信のインタビューに応え、「日本はなぜ国際基準(ツワネ原則)から逸脱するのか、政府は国会採決の前に説明しなければならない。民主主義社会の義務だ」と批判しました。

福島原発事故ではすでに住民の命に関わる情報が「秘密」に

 民主主義の基本である「国民の声を聞く」「国民にきちんと説明する」という対話や応答の過程をすっとばして、ひたすらあわただしく急ぐ安倍政権の暴挙に、前述した25日の福島の公聴会でも批判の声があがりました。

 意見陳述者である馬場有(ばばたもつ)浪江町長は、「われわれは、民主主義の根幹の憲法13条の幸福追求権、生存権、財産権、すべて侵害されている。基本的人権を守って、国民に情報公開をしてほしい。慎重に対応して、十分に国民のために議論するべきだ」と訴えました。

 そして馬場氏は、政府の情報公開のあり方そのものにも、疑問を呈しました。

 「2011年3月12日の夜中、タイベック(防護服)を着た警察官がいた。私たちはそれを見て『なんだあの宇宙人は』と思った。我々には何の情報も来なかった」

 この指摘は重要です。森雅子担当大臣は、原発に関する情報は特定秘密の対象とならないが、「原発の警備情報は特定秘密になりうる」と矛盾する発言を繰り返しています。馬場氏が語ったエピソードは、「原発の警備」を理由に、住民の命に関わる情報が既に隠蔽されており、今後さらに悪化する危険性を指摘しています。

原発情報を米軍には提供していた日本政府

 さらにこの福島の公聴会では、秘密保護法の「本質」とも言うべき内容が明らかにされました。

 いわき市議会議員の佐藤和良氏は、「事故後、女川沖にいた米軍の第7艦隊が避難した。米国は4号機燃料の破損によるジルコニウム火災を想定していたといいます。しかし私たちには何の情報もきませんでした。私たちは『棄民』なのか」と証言しました。

 日本政府は、米軍には情報を提供していたが、福島県民には情報を開示しなかったのです。そして、こうした主権者たる国民の生命よりも米軍を最優先する政府の姿勢は、そのまま秘密保護法にも盛り込まれているのです。

すでに米国に「秘密保護法成立」を約束していた安倍政権

 私がこれまで何度も指摘してきた通り、秘密保護法の第9条には、「必要とあらば、外国の政府には特定秘密を提供できる」という文言が盛り込まれています。この第9条は今回の修正協議でも、全く修正が加えられませんでした。まさにこの法案の「肝」であり「本丸」なのです。

 つまりこの法案は、日本国民に目隠しをし、耳をふさいだ上で、米国に重要な情報を「合法的」に献上する仕組みを作るために、米国の要請によって進められているものなのです。言うまでもなく、米国の身勝手な侵略戦争に日本を加担させるためです。

 もちろん、この法案を担当する内閣情報調査室など、警察官僚の権限拡大や情報統制の狙いもあるでしょう。異常な監視国家、秘密警察国家となる懸念は払拭できません。特定秘密保護法が招来するものは「ファシズム」であることは明らかです。しかし、それは「主権」なき「属国」の「ファシズム」なのです。

 10月3日、ケリー米国務長官とヘーゲル米国防長官が来日し、日米両政府が外務・防衛担当閣僚協議会(2プラス2)を開催しました。そこで発表された「より力強い同盟とより大きな責任の共有に向けて」と題する共同文書のなかには、「情報保全を一層確実なものとするための法的枠組みの構築における日本の真剣な取組を歓迎」と明記されています。

 11月21日に私がインタビューした孫崎享・元外務省国際情報局局長は、この文書でわざわざ「日本の真剣な取組」と明記されていることからも、「国会が議論する前に、日本側は米国に対し『秘密保護法を作る』ということを約束してしまっている」と解説しました。

「対中国・北朝鮮のスパイ防止法」という誤った認識

 こうした、米国の言いなりになっている日本政府に対する批判に対し、「日本は中国や北朝鮮のスパイ天国」であり、秘密保護法は「対中国・北朝鮮のスパイ防止法だ」と、推進派からは反論があがります。

 しかし、元外務省国際情報局局長という日本のインテリジェンスのトップを歩んできた孫崎氏は私のインタビューで、自らの経験もふまえて、そうした推進派の認識は「全くの誤りだ」と喝破しました。

 孫崎氏によれば、「日本の中国や北朝鮮に対する防諜は、世界的にみても非常に高い水準」だと言うのです。そして、「日本が唯一防諜できない国が米国だ」と証言しました。

 日本が「スパイ天国」だとすれば、それは米国にとっての「スパイ天国」という意味です。つまり秘密保護法は、そうした米国のスパイ活動を合法化し、日本政府自らが積極的に情報提供することを法制度化する「米国スパイ合法化法案」と言うべきものなのです。

目的は「自衛隊の米軍下請け化」

 では、「米国発」であるこの法案の本当の目的とは何なのでしょうか。孫崎氏によれば、前述の「2プラス2」が、米国の戦略を知るうえで非常に参考になるといいます。

 「2プラス2」の共同文書では、「秘密保護法を歓迎する」という文言の他に、「集団的自衛権を歓迎する」「日米の軍事的な相互運用性を高める」と書かれています。そこから読み取れることは、「自衛隊が米国の指揮下に入り、共同オペレーションをする。つまり米国の下請けとなって他国へ侵攻する。その時に、米軍と同等の軍事機密が必要になる。そのために必要不可欠なのが『日本版NSC』と『秘密保護法』だ」ということなのです。

 25日に会見したみんなの党の渡辺代表は、安倍政権の姿勢を「高く評価」すると同時に、集団的自衛権の行使は認められていないとする内閣法制局の見解を声高に批判しました。そして、憲法改正によらず、憲法解釈の変更によって安全を守ることができるよう、集団的自衛権についての提案を今国会中にまとめる方針に意欲を示しました。

 「自衛隊の米軍下請け化」のために、みんなの党や維新の会が自民党と共同歩調で、「日本を米国の侵略戦争に追随する都合のよい属国にする」ことを目的に、国会で茶番をうって修正協議に臨んだ姿が、ありありと見て取れます。(渡辺氏の内閣法制局批判、集団的自衛権行使容認の議論がどれほど的を外したものかは、阪田雅裕元内閣法制局長官のインタビューをご覧いただければよく理解できます)

 12月7日からは、シンガポールでTPP交渉の閣僚会合が開かれます。知的財産権の問題を始め、関税の問題など、各国の利害が対立しているにもかかわらず、米国は年内妥結を目指してゴリ押しを続けています。12月6日までに米国のリクエストに応じて特定秘密保護法を成立させ、手土産を携えて日本政府はTPP交渉に臨もうとしているのだと思われます。

 TPPもまた、秘密だらけの交渉です。秘密の暗闇の中で、TPPと日米並行協議による「経済植民地化」と特定秘密保護法や集団的自衛権行使容認による「軍事属国化」が進んでいってしまう。この2つは同じコインの裏表です。(岩上安身)

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