【IWJブログ・特別寄稿】秘密保護法、ピレイ国連高等弁務官「修正案を含めたさらなる協議を望む」(藤田早苗 英エセックス大学人権センター講師) 2014.3.29

記事公開日:2014.3.29 テキスト動画
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(藤田早苗)

 秘密保護法案への反対が日に日に強まる昨年の11月、国連など国際社会からも法案への懸念が示された。

 これは私が秘密保護法案を友人と英訳し、ロンドンに本部を置く表現の自由に関する著名な国際NGOのアーティクル19と、表現の自由に関する国連独立専門家のフランク・ラ・ルー特別報告者に紹介したことに端を発する。彼らは国際人権法の定める「情報にアクセスする権利」の基準に照らして法案の問題を指摘し、次々に声明を発表した。(※注1)

■インタビューのイントロ動画

 この特別報告者による声明により、日本の秘密保護法案の問題は国連人権機関の関係者に広く知られることとなった。そして、12月2日に行われたナビ・ピレイ国連人権高等弁務官への記者会見でもこの問題について質問があがった。

 彼女はその質問に答えて「何が秘密を構成するかなど、いくつかの懸念が十分明確になっていない」「国内外で懸念があるなかで、成立を急ぐべきではない」などと秘密保護法案への懸念を述べた。(2013年12月3日ハフィントンポスト記事「秘密保護法案、ピレイ国連弁務官が懸念『急ぐべきでない』」【URL】http://www.huffingtonpost.jp/2013/12/02/navanethem-pillay_n_4375129.html

 これらの国連の人権専門家による声明や発言は日本のマスコミも報道し、国会の答弁でも取り上げられたが、特別報告者の声明に関する質問に対して安倍首相は「誤解しているようだ。人権理事会の意見ではない」と答えた。

 またピレイ高等弁務官の発言に関しては12月4日の国会で「外務省によると、修正が施され国会がチェックアンドバランスの役割を果たしていることを評価すると、事実上修正をしたということについての評価も頂いている」という返答をしたのである。

 後者の答弁に関しては、当然ながら「本当にピレイ氏がそのように評価したのか」、という疑問が寄せられた。私が出演させていただいた昨年12月18日のIWJでのインタビューでもこの件が問題になった。

【記事本編はこちら】「秘密保護法は日本自ら批准した『国際人権条約』にも違反している」 ~岩上安身による藤田早苗氏(英エセックス大学人権センター講師)インタビュー 2013.12.18

 この時の岩上安身さんからの問いを持ち帰り、私は英訳した安倍首相の答弁をジュネーブ国連本部の担当官に送付して確認した。その返事が後日返ってきた。ピレイ氏が記者会見を行った翌日、ジュネーブの外務省日本代表部がピレイ氏に電話をかけてきたという。外務省は国会で法案に修正が行われていることを説明し、ピレイ氏もそれは認めたが、彼女の趣旨はその修正案を含めた法律をもとにこれからも日本政府と議論を続けたい、ということだったという。

 つまり、人権高等弁務官としては、まだまだ秘密保護法には問題を感じており、今後も修正部分を含んだ最終版を基に日本政府と対話を続けるつもりだということである。

 安倍首相の国会答弁では「修正が施されたことは評価するが、今後も対話を続けたい・・・」というピレイ氏の回答の前半だけ、「修正が施されたことは評価する」だけが都合よく切り取られ、独り歩きさせられたわけである。このような、都合のいいところだけピックアップするということはよくあることらしいが、ここではピレイ氏が何を言った、首相が何を言わなかった、という点よりも、ピレイ氏はじめ国連は、いまだ日本政府と「対話の途中」であるという点を強調しておきたい。

 12月4日の国会答弁では国連とのやり取りは終わったかのように語られていたが、実際には終わったわけではない。私はその対話が進むように、最終修正部分を含んだ秘密保護法の英訳を国連に提供した。現在国連はその英訳にもとづき、最終版の秘密保護法を考察中で、さらに日本政府からの公式英訳を待って対話を始めたいという。

 私は今年3月の人権理事会の際にジュネーブでラ・ルー特別報告者や、日本の秘密保護法の問題に関与した国連職員数人から話を聴く機会があった。またツワネ原則の作成を呼び掛け、中心的な役割を話したオープン・ソサエティ財団の上級顧問であり、アメリカ政府において安全保障に関する3つの要職を務めるモートン・ハルペリン氏とも会合を持つことができた。彼らはみな引き続き秘密保護法のその後の動きと日本政府の対応に強い関心を示していた。(※注2)

 5月に来日が決まったハルペリン氏は、昨年12月には日本の秘密保護法案について「この法は、21世紀に民主的な政府によって検討された秘密保護法の中で最悪なものだ。同様に懸念すべきは、市民社会や国際的な専門家との協議をもたず法案を作成したその急ぎ方である」と厳しいコメントをした。その後、成立した秘密保護法について、私とのやり取りでは次のように語った。

 「最終版の秘密保護法は重要な修正を含むが、この法はまだ国際的な基準とベストプラクティス(最良の事例)に比べて極めて水準が低い。特に、この法は効果的な内部審査と法廷での審査を提供していない。情報公開に関する刑罰は政府役人にのみ課されるべきで、一般人や報道機関の者には適用されてはならず、内部告発者は守られなければならない。法案はあまりにも急いで、そして十分な公開討論を行わず成立した。日本政府は日本の市民社会と国際的な専門家との十分な話し合いを経たうえで、この法律の改定に専心するべきである」

 また、ラ・ルー特別報告者は次のように強調した。

 「秘密法は民主主義を弱める。過去には秘密が権力者を守り、人々は疑問を尋ねることを許されなかった。しかし、秘密主義は過去のものである。公の情報はすべての人のものであり、誰かの所有物ではない。秘密主義は民主主義に反し、人々の利益に反する」

 国連の人権理事会ではNGOが声明を読み上げる機会があり、私も日本のNGOであるヒューマンライツ・ナウによる秘密保護法に関する声明の原稿作成に協力した。そして、ラ・ルー特別報告者の声明やピレイ発言にもかかわらず、日本政府が秘密保護法を強行採決した問題と、今後一日も早く公式訳を作成し、高等弁務官事務所との対話を始めるべきことを強調した声明が、外務省の代表者も在席する会場で読み上げられた。

 秘密保護法の強行採決から、すでに3か月以上経過している。この法律は決して長いものではない。日本政府は迅速に公式英訳を準備し、一日も早く高等弁務官との対話を行うべきである。私は英訳作業が少しでも早く進むようにと思い、少々おせっかいではあるが、我々の準備した最終版の法律文の英訳を外務省の職員にも渡しておいた。今後、この点に関して外務省をフォローしウォッチすることが必要であろう。

 今年の7月には「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」の日本の報告書審査が行われる。この規約は19条に「情報にアクセスする権利」を規定しており、秘密保護法の問題も取り上げられるであろう。日本の「情報にアクセスする権利」を含む人権問題は、国際的な関心事である。日本政府は国連からの勧告など、国際社会からの懸念を軽視することなく、真摯に対応し、国際人権規約の締約国としての実施義務を遂行するべきである。

【参考資料・文献】

藤田早苗 「国際人権規約から見た秘密保護法の問題性」『秘密保護法:何が問題か―― 検証と批判 ―― 』(岩波書店、2014年3月28日発売)
ラ・ルー特別報告者とアーティクル19の声明の和訳は http://freedexjapan.wordpress.com/ に掲載

※注1:2013/12/18 「秘密保護法は日本自ら批准した『国際人権条約』にも違反している」 ~岩上安身による藤田早苗氏(英エセックス大学人権センター講師)インタビュー(【URL】http://iwj.co.jp/wj/open/archives/116997)で、安倍総理の一連の答弁の「矛盾点」や「明らかな間違い」を解説した。

※注2:モートン・ハルペリン氏は安全保障の専門家。特定秘密保護法について、 「この法律は21世紀における文明国の法律で最悪だ」と述べた。(「2013/12/09 『バーナムの森は動いた』秘密保護法強行採決は安倍政権の終わりの始まり ~岩上安身による海渡雄一弁護士緊急インタビュー(【大義なき総選挙9】「バーナムの森は動いた」秘密保護法強行採決は安倍政権の終わりの始まり ~岩上安身による海渡雄一弁護士緊急インタビュー 2013.12.9で、海渡氏がこの件について言及している。)

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